最後の贈り物は幸せなBADENDとしよう   作:勝てなくても努力して勝つのが好き

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感想、評価、ここすき、誤字報告ありがとうございます!

今回はツバキさん視点なんですが、会話文多めになってますが、というか榊が喋りすぎなんですけどご了承ください。
必要なので、ね。


4-9

 加納ニーナに対する特異性を知らされたのは、私がまだ第1部隊の隊長だったころに、私の部隊に配属された時だった。

 部下の能力や性格、家族構成を始めとした作戦にあたっての懸念事項となりうるモノを把握するのは部隊を預かる者の務めであるから当然のことだ。

 

 飴となりうる存在は愚弟のリンドウに任せ、鞭となるべく厳しく接したこともある。だが、ニーナは私の信条を理解しているかのようにへこたれず、指導を飲み込み、よく懐いてくれた。私とリンドウ、ソーマの3人編成だった第1部隊はニーナのおかげで幾分か明るくなったと思う。

 

 リンドウには幼馴染のサクヤがいるから、義理のではなく、本当に私に妹がいれば、私のまじめな要素と、リンドウの根明な要素を足して合わせたような。誰からでも愛される振る舞いをする奴だ。

 

 たった1年しか私の下にはおらず、翌年には第4部隊の隊長として異例の大抜擢を受けていたが、少なくとも私の前では隊長になったからと言って、ニーナの人間性が変わることもなかった。

 

 よく食べ、よく飲み、よく喋り、よく笑う。その上でアラガミに対する学習能力は誰より高く、誰よりも傷を負わず、誰よりもアラガミを喰らい続けた模範的な神機使い。

 ニーナは私の全盛期と比べてなお強い。リンドウをもってしても、おそらくニーナのが強い。

 ソーマでさえ、勝負の方法を選べば辛うじて勝ちの目が見えるくらいか。総括すれば加納ニーナは妹思いが強すぎるところがあるが、それ以外は完璧な善い神機使い。それが重大な傷病なく引退した、数少ない【見る目がある】神機使いである私、雨宮ツバキからみた加納ニーナの評価だった。

 だからこそ、今、榊博士とエリックから報告されたことが信用できない。

 

『加納ニーナは雨宮リンドウ暗殺に関与している疑いがある』

 

「すまない、榊博士とエリックが言うんだ。根拠があるのだろうことは分かる。だが、どうしてもそんなことはありえないと思ってしまう。

 

 何故その結論に至ったのか、聞かせてくれ」

 

 榊博士の執務室たるラボラトリに鍵をかけ、誰も入れない状態にされてから告げられたソレに、思わず、部屋の隅に置かれたソファに座り込む。

 頭痛さえしそうな衝撃に堪えながら、そう尋ねれば、榊博士は納得したように頷き、回線を抜いた端末をモニターへと繋ぐ。

 

「ツバキ君の言うことはもっともだ。私としてもこれは、一番あり得てほしくない可能性の一つであり、ただの仮説にすぎない、つまり、杞憂の可能性が高いことを明言しておく」

 

「続きは僕が話そう。リンドウさんがKIA認定を受ける原因となったミッション【蒼穹の月】だけれど、おかしな点がいくつかあったんだ。

 これはツバキ教官も知っての通りだと思うけどね」

 

「同一ミッションの二重発注、コクーンメイデンと思われるジャミング妨害、新種のヴァジュラの大量発生、それらが、救助成功率90%を超える、いや、既に死亡、あるいはアラガミ化さえしてなければ100%のニーナの不在時に起きたこと、あらゆる意味で出来すぎていた」

 

 私があげた事項を聞いたエリックは大きく頷き、榊博士はモニターに報告書を提示する。

 メディカルチェック……じゃないなニーナがアナグラに骨を折って帰って来た時の医療報告か。

 

「これはニーナ君を回収した時、僕が編成した応急処置が得意な班員が書いてくれた応急処置及び、その後の手術の報告書だ。

 

 ニーナ君の報告ではディアウス・ピターとアラガミ化したリンドウさんの挟撃にあった結果、無茶な体勢で避けた結果、壁にたたきつけられた際に腕が折れた。とのことだったがおかしな点がある」

 

 ズームで表示されたのはニーナが折れたと言っていた患部でその骨折痕。そのレントゲン写真だ。

 壁にたたきつけられた骨折の場合、多くの場合は一方向から骨が砕ける等の破損がある。

 だが、ニーナの骨折痕はどう見ても……

 

「なにかで挟んで骨折しているのか……?」

 

「ご明察。少なくともニーナ君はなにか細いもの、あるいは手で掴める瓦礫相当のなにかで骨折している」

 

「……神機のグリップと壁で腕を挟んだとか、そういう可能性もあるだろう」

 

「そうだね。僕もそう思っていたんだが、神機整備の担当者曰く、刀身こそいつも以上に摩耗があったが、グリップは依然綺麗なままだったそうだよ」

 

 だんだんとエリックの言いたいことが分かってきた。妹のアリアが心配するからと、いつも怪我を負わないように効率的に立ち回る──少なくとも本人にとってはそういう認識らしい──ニーナが目に見えて重傷とわかる怪我を負うと、戦った敵は強敵だったのだという印象が強くなる。実際、ソーマから聞いた話でもプリティヴィ・マータのほうですら足手まといは絶対に守れないほどの強さがあったと聞く。それを率いていたディアウス・ピターもまた、この極東の中でも一等に強いんだろう。だが、【不死身】にほど近いニーナが、私やリンドウよりも強いニーナが怪我を負わされるほどなのか……? 

 

「つまり、ニーナは腕を後付けで骨折する必要があった……そう言いたいんだな?」

 

「その通りだ。ここまでは事実から導き出された確度の高い僕の推測。そして、ここからが最悪なパターンと、最高なパターンの予想になる、らしい。

 僕もここまでしかまだ榊博士からきいてないからね、榊博士、お願いするよ」

 

 エリックから再度端末を受け取った榊博士がモニターを切り替えながら話を始める。

 

「話を始める前にだ、ツバキ君、【終末捕喰】については知っているかな?」

 

「たしか、数年前、いやもう十年近く前になるか? カルト組織の終末思想。たしか、地球を喰らうほどの巨大アラガミ、ノヴァに地球が捕喰されるとかいう戯言だったと記憶している」

 

「実に結構。カルトの終末思想の終末捕喰はまさにソレだ。

 そして、私は10年ほど前にこの終末捕喰が現実に起こりうるという科学的根拠をもってヨハンに論文を提出している。

 簡単に言うとノヴァとされる終末捕喰の身体と、何を喰らい、何を残し、どう星を再生させるかの情報集積体の特異点。この2要素で終末捕喰は起きるんだ」

 

 頭がおかしくなりそうだ。この男、10年以上前に【滅び】を観測していたのか。いや、情報量で頭蓋をぶん殴ってくるのはいつものことだ。受け入れるしかない。今、考える必要があるのは、それとニーナがどう繋がるかだ。

 

「……続けてくれ」

 

「そして、ニーナ君は私と同じ事実におそらく1年前、あるいはもっと前に独力で情報を収集し、たどり着いているんだ。正確な時期は分からないけれど、これはニーナ君と私、ヨハンで終末捕喰の話を最近してるから間違いない。

 

 その時にニーナ君にこう尋ねた。エイジス計画で乗り切れる公算が低い終末捕喰の存在を知っていて、あまり悲観してないんだねと。

 そしたら彼女、『特異点が出てきても、アリアが天寿を全うするまで殺し続ければいいだけ』って言ってたよ。あの時は流石世界最強のゴッドイーターの一角だと頼もしさを感じたものだけど、ミッション【蒼穹の月】が起きる前にニーナ君が第4部隊案件として、単身飛び出していっただろう? 

 

 まるで、元から誰かに言われた秘密の任務があったみたいじゃないかい?」

 

「たしかに、ニーナはリンドウのKIA報告書に別件の特務の為出ていたとあるが、まさか、その特務が終末捕喰を起こす特異点の捜索なのか?」

 

「理解が速いね。

 おそらくヨハンは元からユーバーセンスを保持するニーナ君に特異点を探し出させるために第4部隊を設立した。

 そして、ニーナ君はずっと特異点捜索の密命、特務を受けていたんだ。ここ数年でアラガミの目撃、討伐報告のフォーマットが変わっただろう、あれもアラガミの消出記録から特異点の場所を割り出すために使うのが真の目的だよ」

 

「待て榊博士、仮に、仮にそうだとしてだ、何故その特異点探しとやらがリンドウ暗殺につながる。ニーナは特異点の捜索に出ていた。救出が得意なニーナがいないタイミングで、大車がコトを起こした。それがすべての筈だ」

 

「長くなってすまないね、ここからが最高と最悪のパターンに分かれる仮説だ。

 

 1つ、最悪なパターンとして、ニーナ君はもともと計画を聞いていたか、あるいは途中で秘匿通信で指令を受けて、蒼穹の月に合流。リンドウ君暗殺を見届けた。あるいはディアウス・ピターにリンドウ君が殺されるのを確認した。

 この場合は勿論、主犯は大車ダイゴではなく、ヨハン、あるいは本部の人間ということになるし、ニーナ君は大車ダイゴに全ての罪を着せる稀代の悪女にして、その上の存在からすれば最高の実行役だろうね。

 

 2つ、最高のパターンとして、ニーナ君は本当に偶々現場に居合わせたか、計画を聞かされていたがヨハンあるいは本部を裏切り、現場に居たテイにした。

 目的は、リンドウ君を生きたまま逃がすことだと予想できる。

 この希望的観測染みた予想の根拠は2つ。神機の反応も腕輪の反応もないから神機と腕輪、あるいは右腕ごとなくなってるかもしれないけど、彼自身の死体を見たと証言してるのは彼女だけ。そして、エリック君が彼女を回収したポイントには、リンドウ君の血液反応は検出されたが、致死量の血液痕が観測されていない。

 

 本部の暗躍からリンドウ君を守るには、一度死んでしまったことにする方がイイからね。可能性としては、少ないが無くはない話だ」

 

「ハハ、榊博士、それは、いくらなんでもそれは流石に馬鹿げている」

 

「いかにも、確かに馬鹿げている。最悪なパターンの方は可能性がありそうだが、最高なパターンのほうなんて現実味がない。だけどだツバキ君、君にはこれ以上にニーナ君がわざわざ自分の骨を折ってまで目を逸らさせようとする真実に、なにか心当たりがあるかい?」

 

 理路整然としていても迂遠な説明しかしないのは榊博士の欠点だが、確かに、少なくとも聞いた限り、ニーナの自傷という確度の高い推測を裏付ける動機を考えれば、榊博士が説明したものになるのは確かだ。

 そして話を聞いてなお、私はニーナがリンドウ暗殺に加担するようなクズだとどうしても思えない。

 

「わかった。イイだろう。その二つの可能性の内、片方、リンドウを助けてくれたんじゃないかという可能性を、私は信じることにしよう。たしかもう1時間もすればソーマがニーナを連れ帰る筈だな。早速問いただそうじゃないか」

 

「ああ、そのことなんだけどね、一旦我々の心の中に留めておいてほしい」

 

 意を決し、目に浮かびかけた涙をぬぐい、立ち上がって意気揚々とドアを出ようとした矢先に待ったがかけられた。

 余りのはしご外しに思わず古典的な転び方をしそうになったが何とか堪える。

 

「何故だ! 仮にリンドウが生きているのなら早急に偏食因子を含めて持って救助する必要がある!」

 

「その通りだ。だが、同じように、彼女が敵だった場合にこのことが知られるのはいささか不味い。それこそリンドウ君の二の舞になる可能性もある。そのため、まずはエリック君と他第1部隊にはアラガミの討伐がてら、人型アラガミを捜索してもらう任務を私が発行する。いわゆる特異点探しとしてね。この時リンドウ君が見つかれば最高だ。

 並行して、私とエリック君でヨハンや本部の人間に対する探りを入れる。真犯人がいればそれを見つけるためにね。この時にニーナ君の黒い情報が出なければ最高だ。

 

 このいずれか、あるいは両面が達成できた場合のみ、リンドウ君を保護できるわけだよ。リンドウ君は適合率が非常に高い人物だったから今も生きてるならまだアラガミ化が致命的なところまで進行していない可能性もある

 あと、リンドウ君を見つけてもしばらくは隠し通さねばならないだろうから、それ用の改修工事をアナグラに施す。最低でもそれまでは我慢してほしい」

 

 ……正しい。私もよくやる立場だ。文句はない。榊博士の言っていることはおおよそ正しい。感情を度外視すればまったくもって、従わない理由がない。

 だから、これは肉親の無事を願うあまり出す、愚かな反抗だ。

 

「榊博士、それは命令か?」

 

「……そう、フェンリル極東支部技術開発局統括 ペイラー・榊の名においた命令だよツバキ君」

 

「……承知した。だが、私の気はそう長くない。急いでくれ」

 

「勿論だとも」

 

 奥歯を噛みしめ、掌に食い込んだ爪が肉を割き血を流す。まったく、愚弟のためにくだらん真似をしてしまった。

 ラボラトリから退出した私は、わずかな希望に踊らされるため、最近滞っていた仕事を消化しに向かった。




そして、皆してソーマには肝心なことは伝えてないのである
(人の心とかないんか?)

一人称小説なのであくまで目立たないキャラが多く居ますが、こいつの視点みたいかも!とかありますか?気が向けばそのキャラ視点で一話進行させます

  • 藤木コウタ
  • 雨宮ツバキ
  • 橘サクヤ
  • アリサ・イリーニチナ・アミエーラ
  • 楠リッカ
  • 竹田ヒバリ
  • 大森タツミ
  • 台場カノン
  • 加納アリア
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