最後の贈り物は幸せなBADENDとしよう 作:勝てなくても努力して勝つのが好き
サクヤさん視点回にしてちょっとだけアリア回でもある。
オマエもアリア最高と叫びなさい!(アリアの悪魔)
「天才」そう呼ばれる存在はアナグラには多くいる。
ソーマは戦いの天才だし、ツバキさんは指揮の天才で、榊博士はアラガミ防壁や偏食因子を始めとした研究の天才、リッカちゃんは神機整備開発の天才だと、アナグラではたまに揶揄されることがある。大体はその人の考えについていけなくなった人たちが出す言葉だけど、今までの天才って言葉が霞むほどの光景を、ニーナの部屋の食卓で見る事になるとは思わなかったわね。
「今日はテストだったんだけど満点でね、この調子ならまた1学年分飛び級出来るかもなんだって!」
「おお! 次飛び級したらエリナちゃんと同学年だねぇ! アリアってば本当に天才じゃん! 凄いねぇ」
隣同士の席でツバキさんの作った手料理──意外に思うかもしれないけれど美味しい──の鍋を食べながら自分の成績を保護者に報告する子供と、その成績を聞いて喜ぶ保護者。なんてある意味よくある図だ。外部居住区ですら一応学校はあるし、その中でも一定以上の成績があれば狼谷学園に奨学金制度で通える。
だけど飛び級となると話は別だ、私もかつては狼谷学園に通っていたけど飛び級した人なんて聞いたことがない。しかもニーナがまたっていうし、たしかエリックの妹のエリナちゃんとアリアは3歳差だから、前回の飛び級は2学年分か、1学年分を2回飛び級してるってわけだ。
たしか10歳だからその2コ上の12歳の範囲ってなると小等部から中等部への飛び級になるわけね。狼谷学園での授業はこの世界においてはトップクラスに高い。大人だから私はすいすい解けるでしょうけど、それでもかなりの快挙というのが分かる。
つきっきりでニーナが教えてるわけじゃないでしょうに、どういう教育をしてるのやら。ツバキさんも私と同じ気持ちなのか視線が合った。あ、でもこれアレだわ。すごいのか? っていう顔してる。そういえばツバキさんは神機使いの適合が早かったから狼谷学園に来てなかったわね……。
「そうだ、ねぇね! アーティフィシャルCNSの出してる駆動波形の法則がわかったかもだよ!」
「「ゴホッ!!」」
「うわ、2人とも大丈夫ですか? タオルで拭っといてください。
にしてもアリア、アーティフィシャルCNS……神機のコア部分のとこまで手を付けてるなんてスゴイじゃん。流石は私の妹だぞ~!」
「ま、待てニーナ! アリアもだ、アーティフィシャルCNS……神機の制御機構の事だったと記憶してるが、なぜアリアがそんな事の研究をしている?!」
「ええ? 私のアリアが天才だから、ですかね……!」
「ですかね!」
思わず吹き出してしまったが、そこからいち早く復帰したツバキさんが、ツッコんでくれた。ツバキさんが行ってなければ私が言う所だった。
たしか小等部はまだ四則演算と基本的な地理、後は共用語とマナーとかが主だった授業内容で、神機については触りはやっても深掘りが始まるのは中等部の後半からのはずよね!?
それをあろうことか渾身のドヤ顔で自慢してる……! ニーナに自慢されて嬉しいアリアまでドヤ顔で自慢してる! 絶対に天才の重みが私たちとこの2人の間で決定的な違いがある!
最近忙殺されがちなニーナのメンタルチェックも兼ねて来てたはずなのに、逆に情報のインパクトでこっちの頭が痛くなってきたわ……。
たしかによく神機の整備師が常駐してる保管庫の方にアリアを託児所代わりに預けてるなんて話は聞いてたけど、だからと言ってそんな専門性の高いことをやってるとは思わないじゃない?
いや、そもそもまだ分かったかも。ってぐらいだしアリアの勘違いの可能性もあるわね。そもそも私が詳しくない分野だから、車輪の再発明かもしれないしね。
ニーナの研究発表については時々現場の人間の目にとまることが多い。4年前は【アラガミ大量発生の原因の推察と論拠】、去年は【アラガミの共食いから推測されるオラクル細胞の主体的隷属性】だったかしら。
最初から答えが分かっているみたいに研究を進めるているから、異様に研究結果が出るのが速いなんて榊博士は言ってたかしら。
「ねぇアリア? なんでアリアはそんな難しいことをお勉強してるの?」
「ちがうよサクヤちゃん、お勉強なんて習えば出来るもん! 私がしてるのはケンキュー者! ねぇねがいっぱい人を助けてるから、私がねぇねを助けるの!」
「アリアくらいの子供は、まだまだ友達と遊んでたりしててもいい年ごろなんだけどねぇ。ああ、お二人とも勘違いしてるかもですが、アリアがこの手のことをやりだしたのはここ1年くらいで、結果が出たのはさっきのが初めてですよ?
整備班に通い詰めた甲斐がありましたね」
「まぁ本人が自主的に進んでやってるなら止めないけど、無理せずにね?」
「にしても驚いたがな……年齢で研究発表が滞ることがあれば言え。内容がしっかりしているか確認させてもらうが、私の名前についてる中尉階級も使っていい」
「やった! ツバキさんありがとーございます!」
直毛のニーナと違って、軽い外はねのある赤髪を揺らしながらツバキさんにお礼を言うアリアに、このご時世でここまでできた子が居るのかと思わず拍手したくなる。
……私もこういういい子が欲しかったわね。
「そういえば苦手な歴史のお勉強はどうやって突破することにしたの?」
「替え歌! 登場人物とその人たちが事件の中でやったことを歌にしちゃうの。するする~だよ!」
「こりゃ古典的! けどお姉ちゃんそういうの苦手だったから出来るのがスゴイや!」
仲のいい姉妹の会話に時折ツバキさんと反応しつつ、料理に舌鼓を打つ。
1人でいるとどうしてもいろいろ考えちゃうからニーナのことも心配してたけど、この分なら大丈夫そうね。私も年上らしくしっかりしてあげなきゃ。
楽しい食事会をして、洗い物を私とニーナでやっていれば、アリアは遊び疲れていたのか、シャワーを浴びた後すぐに寝てしまった。
「2人ともありがとうございました。アリアも楽しかったと思います」
「こちらこそ楽しかったわ」
「ああ、まあアリアがあそこまで頭が良くなっているとは思わなかったがな。正直なところ、ニーナの姉バカだと思っていた」
「あ、ヒドいですねぇ。アリア関連では嘘なんて一個もついたことないですよ?」
クスクスと小さい声でアリアを起こさないように話す私たち。そんな中でニーナはアリアの髪を撫でつけて、立ち上がった。
「じゃあ、行きましょうか。アリアの前じゃ話しにくいこともあったと思うので」
楽しそうな顔に少しだけ悲哀が混じる。それにつられて、私も少しだけそういうことを思い出してしまう。
ニーナの先導に従ってついていけば、分かり切っていたけど彼女に割り当てられていた執務室。少しだけアルコールの匂いが染みついてるから、きっと普段からこの部屋で吞んでるのね。
ソファに促されたので座れば、静かなジャズミュージックを部屋に置かれたターミナルで流して、慣れた手つきでグラスとウイスキー瓶と小皿に盛られたドライフルーツを用意してくれる。……意外とイイものあるのね。質より量派だと思ってたけどTPOに合わせてってやつかしらね。
「さてじゃあ……何に乾杯しましょうね?」
「ふっ、湿っぽく話すつもりはない。ここはアリアの成長にでいいだろう」
「たしかに、保管庫とかであいさつとかはしてたけど、あんなに賢くなってるなんて思わなかったわ」
「じゃあ、僭越ながら。私の最愛のアリアの成長に」
「「乾杯」」
グラスを合わせて、心地の良い音が部屋に響く。
ニーナが用意するお酒はいつも度数が高いから唇湿らせるくらいに口をつける。
美味しいお酒だから、なおさら味わって飲まなきゃね。
まぁ対面のニーナも隣のツバキさんもお酒に強いからか、一口がそこそこ大きいから私がゆっくり飲んでもあっという間になくなるでしょうけど。
「うーん、最近ヨハンさんとか榊博士とかを始めとしたお歴々と話しすぎて、頭政治脳なので、単刀直入に聞きたいんですけど何から聞きたいですか?」
ふざけてるような、真剣なような、ヤケにもなってるような雰囲気で切り出して来るニーナに、ツバキさんが切り込んだ。
「最近コウタを連れまわしていたな。鍛え上げてくれるのはありがたいが、お前もそこまで暇じゃなかったはずだ、目的の真意はなんだ」
「あ~、あれはなんていうか、コウタ君の実力じゃ、ディアウス・ピター討伐作戦編成時にアサインできない程度だったじゃないですか。
基本4人編成なので、メンタル不安定なアリサちゃんは新型だけど抜けるかもしれない。そうなるとソーマ、サクヤさん、ユウ君に古巣が第1部隊とはいえ外様の私が席を奪うんじゃ、可哀相じゃないです?」
「待って、ニーナ。その言い方だと」
「ええ、皆なら多分勝てると思いますよ。
リンドウさんだって、多分連戦や戦闘場所が制限されてなければ生きて帰って来たでしょうし。サクヤさんのメンタルが持ち直すまで時間が空くのは分かってたので、まぁ伸びしろある神機使いを強くしておくことは未来への投資にもなりますから。
本当は最初私を隊長に据えたソーマ、ユウ君、エリック君の4人小隊で討伐に出ようかとも思って、第1部隊の隊長権限を支部長に強請ったら本部からの先約があったので、討伐はみんなに託すことになりましたけど」
おそらくアナグラでディアウス・ピターの説明をした翌日の話だろう。
エリック君がアリアを使って上手く休ませてたし。とはいえ、落ち込んでばかりの私と違ってスグに討伐隊を編成しようとしてたのは流石だ。
「ねぇ、ニーナ。情けないことを言うようだけど、本当にリンドウは死んだの? 正直アラガミ化の進行には個人差があるとはいえ、リンドウがすぐにアラガミ化するなんて、にわかには信じられないわ」
「オラクル細胞の特性は詳細が未だに判明していません。確かに意志力や精神力が強い人ほど、アラガミ化の進行が遅れる傾向にあるという研究報告があるのは事実です。
……すいません、これ以上の話は尉官以上でないと話せない決まりです」
尉官、今のアナグラに居た尉官はリンドウと、ニーナ、あとはゲンさんとツバキさんの4人だけ。
……つまり、私が知れることは無い。
ツバキさんを見ても、何も言わない。
まって、ツバキさんが何も言わない? 口では厳しいけど、なんだかんだでリンドウを大事にしていた彼女が?
「ツバキさん、なんで何も言わないんですか」
「……サクヤ、すまない。今は前を見てくれとしか言えないんだ」
「……ツバキさん?」
ツバキさんとニーナの反応がおかしい。2人は少なくとも尉官以上なんだから同じ情報を得ているはずなのに、なんでかみ合ってないの。
けど、少なくともツバキさんの言い方は、どこか明るさが混じってる。希望があるということなの……?
「ツバキさん、あんまりそういうのは良くないと思いますよ」
呆れの色が多分に混じったニーナの声に、ツバキさんが腕を組んで鼻で笑う。どこか自信がありげな姿に見覚えがある。私がリンドウと仲良くなり始めた時に、私にあってスグに応援してくれた時の分かってるぞと言いたげな雰囲気だ。
「ふん、お前に言われたくはないさ。それよりヨハンさんと最初言っていたな、いまいちピンとこなかったが支部長のことだろう。いつからそんなに親しくなったんだ?」
「……言いましたっけ?」
「あれ支部長のことなの? 確かに榊博士が支部長のことをヨハンと呼ぶのは知ってたけど……」
「……」
ニーナの眼が泳ぎまくっているのをみるに本当に無意識だったのね。
「いやぁ……ほら、その、まあなんですか。
ソーマと良い感じなので、生きてるなら家族は大事にして欲しいじゃないですか。こう、足掛かり的な? 橋渡しみたいな? ことが出来たらいいなぁって」
長い髪をカーテンにして顔を隠しながら、ドライフルーツをつまみながら、言い訳するみたいにモゴモゴと話す姿が面白い。いつもあんだけハキハキ話してるのに、前ソーマとの事を聞いた時は付き合ってないなんて言ってたけど、この前の浜デートしてた時にソーマはしっかり仕事したみたいね。
リンドウがどうにかなるかもしれなくて、私が聞かされてないのは納得いかないけど、まあ、この2人がしっかりしてくれるなら何とかなるのかもしれない。前だけ見ろってことはゼロじゃないんだろうし、良くはないけど、今はいい。ってことにしよう。
「……ホントにろくでもないな」
「なんかいった?」
「アハハ……なんでもないですよ。はぁ」
ニーナがやけに疲れてそうなのが印象的な夜の晩酌会は、ニーナとツバキさんがウイスキー瓶を呑みきったことで幕を閉じた。
ワケ知り顔ツバキさんに胃を痛めるニーナ。
募るヘイト、やられたベイト、やけ食いしちゃうよカロリーメイト。
一人称小説なのであくまで目立たないキャラが多く居ますが、こいつの視点みたいかも!とかありますか?気が向けばそのキャラ視点で一話進行させます
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藤木コウタ
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雨宮ツバキ
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橘サクヤ
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アリサ・イリーニチナ・アミエーラ
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楠リッカ
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竹田ヒバリ
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大森タツミ
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台場カノン
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加納アリア