最後の贈り物は幸せなBADENDとしよう 作:勝てなくても努力して勝つのが好き
アリサ視点の恋バナ回
ニーナ隊長はロシア方面では”英雄”と称されています。
私自身彼女がそうだと認識したのはつい最近ですし、実際に彼女の戦い──ほとんど蹂躙──をこの目で見るまでその伝説は話が盛られていると考えていたのですが、あの大型アラガミの解体劇をみるに本当のことらしいです。
私自身、彼女には感謝している面が大きくあります。
まだ神機使いとしての検査を受けていただけで訓練もまだだったころ、モスクワ支部が壊滅した場合のテスカトリポカの予測進路はロシア支部に向いていたようですので、ニーナ隊長が私たちの故郷を文字通りに救ってくれたわけですから。
にもかかわらず、私は極東に配属当初全方面に失礼な態度をとっていたわけで、ニーナ隊長と初めて顔を合わせたのは蒼穹の月のミッションの日でしたが、あの日は既に錯乱していたので記憶があまりないです。
これらのことからニーナ隊長の中で私に対する印象は、地の底まで落ちていることが予測できます。
ユウやサクヤさんにこれからは気持ちを新たに頑張ると約束したので、まずは人柄がよさそうな人から正面からコミュニケーションをとる! という気持ちでご飯に誘ったのはイイんですが……。
「んで? どうしたの改まって。アリサちゃんとユウ君との仲の進展させ方でも聞きに来た?」
「んな! ち、ちがいます!」
半個室状態の食卓につくなり、人差し指と親指で簡易的なハートの形を作ってニコニコしながらそんなことを言ってくるニーナ隊長に出鼻をくじかれてしまいました。
だいたい、私は別にそういう浮ついた気持ちで神機使いをやってく自信が無いですし、ユウにだって、私みたいなのがずっと隣に居たら困るでしょうしって! そういう話をしに来たわけではないんでした!
危ない危ない。初手から会話のイニシアティブを持っていかれてしまうところです。
「そ、そういうワケではなく! その、改めて謝罪と感謝を伝えたくてですね」
「謝罪と感謝? 私なんかアリサちゃんにしたりされたりしたっけ?」
「蒼穹の月で私たちが助かったのはニーナ隊長のおかげと聞きましたから、それに、大車先……大車のことも。ご迷惑おかけし申し訳ありませんでした」
正直、未だに大車のことをつい先生と呼んでしまいそうになる。
あの人は確かに風貌はよろしくなかったけれど、両親が亡くなった幼いころから、私に良くしてくれた恩人なんだ。だから、正直あまり実感はわいてない。
けれど、破損した部分が多くあったとはいえ、ニーナ隊長の激昂と、大車の嘲りの自供が入った音声データは確かにあの人の声だった。認めたくはないけれど、証拠として挙がっている以上ソレが真実なんだろう。
「ああ、その件ね。いいんだよ。アリサちゃんは利用された被害者的立ち位置なんだし、ツバキさんやサクヤさんにはもう話して仲直り……はちょっと違うか、関係の再構築? はしてるんでしょ? その二人がなにも言わない以上私から言うことなんてあるわけないしね。
それに、別隊とはいえ隊長だし、先輩だし、アナグラの仲間だからね。助けてあげるのは当たり前だよ。もし何か気に病んでるなら私が困ったときに,今度はアリサちゃんが私を助けてね?」
「……はい! 必ず助力に伺います!」
ニーナ隊長の優しい言葉に頭を下げる。
何てできた人なんだろう。強くて、賢くて、優しい。”施しの英雄”の名にふさわしいというのが肌で分かる。
私もこういう人になりたい、そうすればきっと彼の隣に立っても恥ずかしくない筈だから。
「じゃあ謝罪は受け取ったとして、感謝されるようなことってなんかあったっけ?」
「あ、それはその、ニーナ隊長はかつてモスクワにてテスカトリポカの単騎討伐をなさったと聞いたので、故郷を、守ってくれてありがとうございます。という、そういう話です。おかげで家族の墓を手放さずに済みました」
「あ~、アレね。懐かしい。
正確に言うとカノンちゃんにも手伝ってもらってたけど、アレに関しては極東としても新しいバレットの実証試験にもなったからWin-Winってことで気にしなくていいのに。
でもまぁ、どういたしましてだね」
話が一区切りついたからか、受付から受け取った食事──私の凡そ4倍量。健啖家なのは本当らしい──に箸を付けた。
それを見て私も自分のシチューに手を付ける。
「で、アリサちゃんはユウ君のどこが好きなの?」
「ング⁉ ッゲホ! ゴホッ! き、急になんですか?」
ニーナ隊長の不意な話題に気管に食べ物が詰まりかけた。
やけに耳が熱い気がするが、きっと死にかけたからに違いない。神機使いの死因が食べ物の喉詰まりの窒息では情けなさ過ぎて笑えない。
「アハハ! ごめんごめん。でもこの前のユウ君の隊長辞令が出た時に、ユウ君と私の距離がちょーっと近くなっただけで破廉恥です。なんて慌ててたくらいだし? 好きなのかなって」
「ちょ、ちょっと⁉ユウの頭を抱きしめた距離はちょっとじゃないです! ドン引きです!」
お、思い出しただけで見てられなくなる。握手したかと思えばユウのことを抱き寄せてたのはニーナ隊長なのに。それをちょっと!? この人の感性はどれだけ奔放なんでしょうか!
「ちょっとちょっと声大きいって、落ち着いて。私はソーマしか興味ないんだからさ。ユウ君のことは取らないって。後サクヤさんとツバキさんとアリサちゃん格好の方がよっぽど破廉恥だからね? 私は最近低露出で行かせてもらってますからね~?」
ほれ、見てみ? と自身の長袖のブルゾンの袖をフルフルと見せつけてくる。
その後自身の身体に目を向ければ、太ももとお腹が出ているスタイルだ。……視覚情報的にはたしかにニーナ隊長の言に一理あるかもしれない。
だが、それでも!
「それでも私はあんな風にベタベタ触ったりしません! 神機使いとしての規律がですね」
「アリサちゃんさ、私がなんでこんな話してるかわかんない? 私だったらユウ君の好みとか、好きな食べ物とか、欲しいものとか、そういうのを聞いてきて共有する機会が隊長同士だからあるワケ。
ユウ君は新型神機使いで第1部隊隊長で、コミュニケーション能力お化けで、人たらしだよ? きっと私以外のいろんな人にモテるんだろうなぁ」
「な、いや、だからなんなんですか?」
「私はさ、アリユウ派なんだよね。リッカちゃんとかカノンちゃんとかこの世界には彼のヒロイン候補のネームドがいっぱいいる。そんな中でも正ヒロインの座はアリサちゃんについてもらいたいってワケよ。
いわば私はキミの恋の応援団長ってコト。
だけど応援するにはどういうところが嫌なのかとか、どういうところが好きなのかとかは把握しないと間違った応援しちゃうかもしれないでしょ?」
懇々と、そう丁寧に説明してくるニーナ隊長に、少しだけ頭に上がった血が下がってくる。
いつの間にか立ち上がっていた席にもう一度腰を下ろして、深呼吸。
「に、ニーナ隊長は大体なんで私がその、彼のコトが気になってるって分かったんですか」
「多分知らないのユウ君だけだよ。普通に顔に書いてあるし。アリサちゃんユウ君のこと目で追いすぎだからね」
「そ、そんな馬鹿な……」
ニーナ隊長から告げられた事実に愕然とした。
いやいや、いくら私がユウに感謝や特別な感情を抱いているとはいえ、そんなに分かりやすい筈がない。
私が一人思考の沼にハマっていれば、彼女からさらなる爆弾が投下された。
「まぁユウ君はユウ君で分かりやすいところあるけどね」
「ユウに好きな人がいるんですか⁉」
思わず食らいつけば、二ヤリとあくどい笑みを浮かべてくる。
まるで罠にかかった獲物を見る猟師みたいだ。まぁ実際に猟師を見たことは無いので想像の例えですけど……。
「こっから先は恋バナ会員限定情報だね。あ、でも自分の口で言うのが恥ずかしいなら、今ならなんと私と握手するだけで教えてあげるよ?」
「握手、ですか? それくらいなら……まぁいいですけど」
ニーナ隊長が差し出した手をおずおずと握る。
私の手を彼女が握り返した途端に、周囲の景色が移り変った。この感覚には覚えがある。ユウと私の間に起きた感応現象だ。
場所はヘリの中、恐らく鉄塔の森からアナグラへ帰るまでの帰投ルートだ。目に映る情報から視点はニーナ隊長で、周りにはエリックとソーマ、それからユウが居た。
ユウの神機パーツがまだ今より弱いから配属当初……だろうか?
ニーナ隊長とソーマがじゃれ合っていて、ニーナ隊長がソーマを諦めさせて格付けが済んだところで話が始まった。
「さて、誰が誰より強いって? 神薙ユウ新兵」
「はい! ニーナ少尉が最強であります!」
「うんうん。分かればいいのだよっと、冗談は置いといて、これからはユウ君って呼んでもいい? 私のことは公式の場以外だったら呼び捨てでもなんでも好きに呼んでいいよ」
「大丈夫です! じゃあニーナ先輩でお願いします!」
「おお! 靡く相手が分かってる優秀な子だね。先輩……良い響きだね。聞きたいことがあったら何でもこの先輩に聞くと良いよ! 自分で言うのもなんだけど、かーなーり! 物知りだからね!」
「はい! じゃあなんでそんなに距離が近いんでしょう! 無駄にドキドキします!」
「私が息しやすい距離感だからだよ~。勝手にドキドキしてな~」
「いよっ! 魔性の女! ファム・ファタール! 傾国の美女! じゃあそんなツヨツヨなニーナ先輩は『ニーナ先輩より強い人』以外で、好きなタイプはなんですか?」
どうやらユウとニーナ隊長が初めてだった時の会話の記憶らしい。ニーナ隊長がこの時何を思ってたのか、欠片も伝わってこないのが不思議な程鮮明な映像記憶だ。
「ん~。あんまり考えたことなかったけど『主人公』みたいな人は好きだよ」
「主人公ですか? こう、バガラリーみたいな?」
「そう、主人公は誰にも負けないし、道半ばで何度か負けても最後には勝ちそうじゃない? ヒロインに私が据えられるなら私も死なずに済みそうだしね。 でもバガラリーみたいな普段はダメダメな主人公じゃなくて、孤独でも、孤高でもいいけど天才で、強靭で、強烈に痛烈なそんな主人公みたいな人は、きっとすごくかっこいい。そういう人に、私もなりたいと思ってるし、そういう人となら素直に好きって思うんじゃない? 後は、まぁイケメンだよね! 結局顔かも!」
「なるほど……だってソーマ! 応援してる!」
「そこで俺に振ってくるな……!」
なるほど、付き合ったのはごく最近と聞きましたが、本当にこの頃は関係性は独特でも仲のいい男女だったんですね。
「アハハ! 私的にはソーマ君大分アリなんだけどね、ソーマ君は私のことは人間的に好きでも女として好きじゃないみたいでさぁ。悲しいことに何度か振られてるんだよねぇ」
「えぇ!? こんな可愛いニーナ先輩を!? もったいないなぁ。フリーだったら絶対受け入れちゃうのに」
「ユウ君……君は本当にできた後輩だねぇ! エリック君もソーマ君もこの可愛い後輩を見習いったほうがいいよ? いつもさらっと流すんだから! 偶にはホラ! こういう風にわかりやすいヨイショして!」
「「……」」
「無視しないでくれる!? 私がスベった恥ずかしい人みたいじゃん!」
……正直私もムッとしてしまいました。私は何を見せられてるんでしょう。自慢でしょうか? というか感応現象は新型同士でしか起こらないはずなのに何故ニーナ隊長と私で感応現象が起きるのでしょう?
「……ていうか色々聞いてくるユウ君はどうなワケ? 彼女とかいないの?」
「彼女ですか? 今は居ないです。けど……」
おそらく、コレだ。ニーナ隊長が見せてくれようとしてるのは。ユウのタイプ、ですか。聞きたいような聞きたくないような……心臓が早鐘を打つのを感じます。しかし私の気持ちの準備なんて待たないうちにユウは口を開く。
「オレ、銀髪の美人と付き合うのが夢なんで! すいません! 死にたくないです!」
「フッ、振られたな」
「ああ、振られたね」
「え、いま私が振られたの? 告白した訳でもないのに?」
そこまで見せられれば、意識が急速に引き戻される感覚がある。
「やっほ、私は見たいものが見れたけど、アリサちゃんはどうだったかな?」
目の前の景色が元の食堂に戻った時、ニーナ隊長がニヤニヤとして私の顔の前で手を振っていた。
その言葉で、おそらく私の心情を情報として見られたんだろうと察し、また顔が急に熱くなる。というか、いきなり感応現象で等価交換は卑怯だと思うのですが!
「ニーナ隊長は、ズルいです!」
「アハハ!よく言われまーす。じゃあ頑張ってね、両片思い」
その言葉を最後に、いつの間にかあの大量な食事をお腹に収めていたニーナ隊長は、私の肩を叩きながら食堂を後にしていきました。残されたのは、少し冷めたシチューと反比例するように熱くなった私だけ。なんだか、全てニーナ隊長の手のひらの上で踊らされている気がします……。きっと黒幕というのは彼女のようなことを言うんでしょうね。
こうして見ると結構良い先輩に見えるんじゃない?
みんなはハッピーエンド好きですか?
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ハピエン厨ですけど
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どっちでも美味しく食べれます
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いや、バッドエンドの曇り顔が輝くね