最後の贈り物は幸せなBADENDとしよう 作:勝てなくても努力して勝つのが好き
前回はニーナが支部長の持っていた偏食因子で人間性の保持に成功し、榊博士と面談したところでしたね。
今回はソーマ視点です
今日の任務を終えた足でそのまま支部長室に来た。
未だにアイツとは折り合いが悪いから少しばかり足が重い気がするが、ニーナに礼を伝えるように言われたし、俺自身ニーナの状態を聞きてぇところがあるからな。
アイツの根城でもある支部長室をノックすれば、一瞬の間の後入室を促されたので部屋に踏み入る。
相変わらず堅苦しそうな調度品と資料が壁際に納められた部屋だ。最近は比較的忙しいのかチラホラ埃がある棚もあるが、カルネアデスの木の絵だけはよく手入れされてるのか埃一つ付いてねぇ。支部長として助けない存在の選別をする戒めか?
威厳やらの為に飾ってんだか、本当にこういう趣味なのか……。いや、今はそんな事はどうでもいいか。
「ソーマか。特務の連絡も入れてないにも関わらず訪ねてくるとは珍しい。何の用だ?」
相変わらずの上からのモノ言いだ。俺が来たっていうのに仕事の手を止めるそぶりも見せやしねぇ。文字通り片手間に相手をしてるつもりなんだろう。
ニーナはコイツと親子として仲良くしろ……みたいなことを言ってきていたが、少なくともコイツに俺と仲良くしようって気が欠片も見えねぇんだから土台な無理な話だと思うがな。
「ニーナからの伝言と、聞きたいことがあってきた」
「ニーナ君から? 聞こうか」
ニーナの名前を出した途端、キーボードを打つ手を止めてこっちに向き直った。
俺に命令を出すときは顔を向けることもほとんどねぇ癖にな。久々に目が合った気さえする。……あるいは俺が目を逸らしてたのかもしれねえが。
「伝言ってのは大したことじゃねぇ。症状を抑えたオマエが打った注射。アレで大分助かったらしいからな、ありがとうございますだとよ」
「そうか律儀なことだな。
私としてもニーナ君は失うに惜しい人材だ。症状は治まっていると報告は受けたから安心した。
……それで? お前の聞きたいことというのは? 答えれる範囲内ならば答えよう」
「ニーナの身体のことだ。昨日のアイツの状況はどう見てもおかしかった。
……俺も実際には1回しか見たことは無いがアラガミ化が急激に進行する瞬間と、酷く似てただろう。言葉と動きの不一致や錯乱、激痛といったアラガミ化時の症状とあの時のアイツはそっくりだった。アイツの身体は今どうなってる? 医療班から報告は上がってきてるんだろ? それに、ニーナを普段から駒みたいに便利使いしてるお前なら医療班から上がってない事柄でもなんでも、心当たりがあるんじゃないのか?」
一拍以上の重い沈黙がこの部屋に流れる。ヨハネスの眉間に皺が寄り、個人ではなく支部長としての顔になった。いや、端から俺はコイツの支部長としての顔以外知らないんだ。今更だな。
「……ニーナ君の体調は快方に向かったと聞いている。予定通りに動いているなら数十分前にペイラーと面談を行っているはずだ。ソーマ強襲軍曹にはこれ以上開示できる情報は存在しない。神機使いのメディカルチェックデータは関係者外秘の機密事項だ」
「関係ないだと⁉俺やアイツの妹にすら話す気はねぇ癖に何言ってやがる! じゃあテメェの理屈の中での関係者ってのは誰が居るんだ!」
アイツのことに関係がないと言われたことに頭に血が上るのを自覚した。どうせ実の家族だろうアリアにも言わない筈だ。フェンリル外部の人間には伝えられないとかそんな適当を吹かすことが目に見えてやがる。
「ソーマ、そう興奮するな。もしそんなに知りたいのであればお前から彼女に問いただせばいい。ペイラーからニーナ君へ今の情報は共有されているはずなのだから。
お前が真に彼女の関係者足りうると思っているなら、情ではなく理をもって彼女自身を説き伏せてみればいい話だ」
淡々と、感情を感じさせない声音で一方的に突き放すように言ってくる。そもそもニーナが素直に話さずはぐらかして来るのが目に見えてるからお前に聞いてるんだろうが……!
俺が口を開こうとすれば視線が俺からコイツの使ってる端末へ移り、俺の言葉を遮るように喋る。
「もし今すぐ聞きたいというのなら、そこにいるニーナ君に聞いたらどうだ? ニーナ君、入りたまえ」
支部長室のドアが開かれ、入って来たのはさっきの話が本当なら榊のおっさんと面談をしてきたはずのニーナ。
尋常ならざる様子でぶっ倒れたはずなのにケロっと立ってやがるし、髪艶や顔色、手先の震えの無さから少なくとも今は元気らしい。
「失礼しまーす? お取込み中なら後でもいいですけど……なんか喧嘩してる感じですか? ソーマにはお礼を言っておいてって言ったはずなんですけど」
じっとりとした雰囲気で重々しく俺を見つめてくるニーナに思わず目を逸らす。まぁ、コイツからすれば仲良くしろって言ったのに言い合いしてんだからなんも言えねぇ。
「確かにソーマから最初にその話は受けたとも。私としても”偶然”備えていたものが使える状況だったので、キミが無事に復帰できてよかったと考えている。
それに、キミのこれまでの働きから勘案すれば妥当な症状だ。……無理に働かせてしまって申し訳ない」
「偶然ですか~……まあいいんですよ。私が望んで働いていたところでもありますし、私を救ってくれた恩人ですから。改めて、ありがとうございました。
それで診断結果は"過労によるオラクル細胞制御不順"でしたけど、先ほど技術顧問の榊博士と面談してきたところなので、詳細は榊博士からまた上がってくると思いますが、数週間は神機使いとしては休んだ方がいいだろうということですので、取り急ぎそれらの報告としては有休をとって事技職の溜まった仕事を0800~1700をコアタイムとして片付けようかなって思ってます」
「……まぁキミがそれでいいなら止めはしないが、有休取得期間は別に事技職の仕事も休んでくれて構わないよ」
「休み明けが苦しくなるだけですし、それなら戦闘や移動とかの邪魔が入らないうちにパパっとやっちゃいますよ。給与のほうだけ調整お願いしてもよろしいですか? この働き方なら一日8時間以上ぐっすり眠ることで睡眠負債も解消できるでしょうから安心してください」
「わかった。給与のあたりは二重支払い分を有休の前後に特別手当として調整しておく。しばらくはニーナ君は自分の執務室とペイラーのラボの往復になりそうかな?」
「ええ、スタンスは合わないですけど、榊博士のが私より優秀なのは間違いないので、直にあって話したほうが成果も出せそうですから」
「何かあればいつでも連絡してくれ。優先的に対応しよう」
「ありがとうございます! じゃあご子息と仲直りはまだ無理そうですのでソーマは私が貰っていきますね?
……ほら、ソーマ行くよ」
おそらく俺がいたから、あらゆる思惑を圧縮して傍から真意がわからないようにされたであろう会話。『過労によるオラクル細胞制御不順』は本当か?
働きすぎでオラクル細胞が暴走するなんて聞いたことがねぇ。まぁコイツは類を見ないほど働いてるから史上初の例となったと言われたらなんも言えねぇが……。
ニーナに手を引かれるがままついて支部長室を出ようとしたとき、珍しくアイツが口を開いてニーナを止めた。
「ニーナ君」
「なんですか?」
「”我々”は人が人たらんと足掻くその姿こそが人なのだと、そう思っている」
「ええ、私もソーマも人間ですよ。あの日のお願い、しっかりお願いしますね」
アイツと言葉を交わしたニーナに引かれ支部長室を今度こそ出る。”我々”ってのは誰のことを指してんだ、榊のおっさんか? いや、榊のおっさんの最近の特異点の隠匿の仕方からヨハネスにどうせ報告はしてねぇだろうな。
それに、人が人たらんと足掻く……そんな言葉ニーナに言うんだ。やっぱりコイツの身体はただの過労によるオラクル細胞制御不順じゃないのか。
前を歩く俺より頭1つ分小さい位置に揺れる赤髪が、コイツの機嫌の悪さを教えてくれる。コイツからすりゃお礼を伝えるだけだったのにそれも出来なかったガキってところか。……情けないったらねぇが、今はそんなことはどうでもいい
「ソーマさぁ、ヨハンさんのどこがそんな嫌なの? 榊博士よりかは話しやすくない?」
「そんなことを言うのはこのアナグラ全体でもお前だけだ。それに俺とアイツの仲の話はいまはどうでもいいだろ」
俺の場合は個人的確執があって他の奴らにそれがないとしても支部長だぞ。話しやすい訳ねぇだろ。
「どうでも良くないよ。
それにソーマのは雑談するんだったらの話で、業務上必要な接触だけ考えたら榊博士のが意味わかんないことばっかやってるしさ。ヨハンさんのがサクッと話してサクッと終わってサクッと解散できるじゃん。余談雑談が1分以内に終わるから優良だと思うけどねぇ」
「確かに榊のおっさんは無駄話、本人からすりゃ意味があるんだろうが要点をまとめて話してくれねぇからな」
「でしょ~?
……この前の”拾い物”もさ、普通に考えたらあんな化け物、処分のが早いに決まってるのに。本当に夢見すぎなんだよねぇ。そう思わない?」
「……まぁな。仲良くなんて出来るわけもねぇ」
雑談交じりに振られた特異点、シオの話題。
見るからにガキで、無害を装ったアラガミの化け物。アレと仲良くするのなんて、少なくとも俺には到底無理だ。人とも大して仲良くできねえ俺が化け物とは仲良くなれるなんてある筈もねぇ。
「お前が躾けるって話だったな」
「まあ他の皆は意外と接しているうちに愛着が湧きそうだからね。出来るだけ皆に危険が行かないように調教するつもりだよ。知能だけは高いみたいだし。上手く育てれば人権の無い永久労働力ゲットかも? みたいな」
「オイ」
「……も~冗談だよ。冗談。そんな怖い声出さないでよ」
首だけ振りかえってべぇっと舌を見せたニーナ。にしても意外だ。お優しいコイツのことだから、てっきりシオを教育するに当たって人と同じ扱いをするのかと思っていたんだが、流石にアラガミ相手には別らしい。
「お前はてっきりアイツのことも人と同じ扱いをするのかと思ってた」
そう、思ったことを口にしたとき、ニーナの歩みが止まって振り返る。
俺と向き合うと、両手で俺の頬を包んで額がぶつかるほどの至近距離で目を合わせて来た。
「ソーマ、頭がいいから人扱いするってことは、バカは人じゃなくなるわけ? そんなわけないでしょ。
始まりが人であること。それこそが人である証明になるの。だから私とソーマは如何に化け物みたいに強くて、どれだけ人から外れても人間でだと言い聞かせれば人間以外の何者でもないし、逆に”アレ”はどれだけ人らしい振る舞いをできるようになっても化け物なの。
他の人たちがどう考えてなんて言ってきても、それだけは”私たちの絶対”だよ。わかった?」
俺の頬を包むコイツの手を握る。
暖かく柔らかい。そんな手を掴む。
耳朶に沁みるコイツの声を食む。
固く冷たい。そんな声を咀嚼する。
コイツは何を勘違いしているのか、俺に言い聞かせるように特異点が化け物だと告げてきているが、俺からすれば特異点なんざどうでもいいんだ。ニーナ自身が無事平穏にこれまで通り過ごせるかのが百倍重要だ。
「ニーナ。榊のおっさんの拾いものの話はもういい。どうでもいいことだ。
で、結局おまえ自身の体調はどうなってる。『不死身』のニーナが安静の為に休みます。なんてのはおかしいって俺でも分かる。ワケがあるんだろ。そっちを話せよ」
俺の頬から手を下ろさせて逃がさないようにしっかりと握る。
そうすれば悪戯がばれたガキみてぇな顔でニーナが渋面を作った。
「うげ、今日はデート中でもないのに意志が強い日?」
「茶化すな。お前は”私たちの”とか他人を落とす愚痴とかは滅多に言わねぇ。なのに人通りがすくねぇとはいえこんな公で言ったってことは自分のことから目を逸らさせてぇからだろ。俺もいい加減学習したぜ」
「生意気だなぁ。そんなつもりは無かったけど、よくもまぁ私のことをそんな見てるもんだね」
「他に見る相手が居ねぇだけだ。で、場所を変えるか?」
「……はぁ。まあ別に大したことじゃないからいいけど。私の執務室いこっか」
掴んだ手を上に吊り上げ目を合わせれば、ニーナが盛大な溜息をついて観念したところで手を放す。
「まったくもう。病み上がりのレディに対する扱いじゃないんですけど」
手首を振りながら小声で言われた文句を努めて無視して、俺たちはニーナの執務室へ向かった。
ソーマ、お前には怒る権利があるぞ。
みんなはハッピーエンド好きですか?
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ハピエン厨ですけど
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どっちでも美味しく食べれます
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いや、バッドエンドの曇り顔が輝くね