最後の贈り物は幸せなBADENDとしよう 作:勝てなくても努力して勝つのが好き
この話にはアラガミ、オラクル細胞、結合崩壊等々の独自設定があります。
ハルオミさんとMIAとなった神機使いの遺体、もしくは腕輪と神機を捜索しだして15分が経過した。鉄塔の森の外周部をぐるりとみて回っている最中に、
私のユーバーセンスにも今のところ反応は無いし、比較的順調な任務になりそうだ。
「にしても今更だけど隊長は気楽そうだよな、捜索対象がアラガミ化してるかもしれねぇってのに」
「まあ、アラガミ化してたら討伐は大変ですけどね、人間だった頃の動きとかが微妙に残っててやりづらいし。
でも、その人にも居たであろう大切な人をその人が傷つける前に、止めてあげたいし、私はまだ神機使い歴浅い方ですから、その人と仲が良かった人に任せるのは酷だなぁとか。
そんな考えだから躊躇とかないんですよね、対象が妹なら、また変わってくるかもしれませんけど」
「隊長はマセてるなぁ」
「ハルオミさんはまだ実際に見たことがないですよね、アラガミ化してたら相手は私がしますから、無理に戦わなくていいですよ?」
これでも隊長なので。
そう言いながらドヤ顔を決めてみる。
実際問題としてアラガミ化した神機使い、もしくはアラガミ化寸前の神機使いを処分──殺害──する事に思う所がない訳では無い。
その瞬間の神機は重いし、断末魔みたいなものは耳に残る。
けれども、どうせ
なので本気でハルオミさんには無理して欲しくないし、近い将来──あるかは分からないが──ケイトさんを処理することになるかもしれないのだ。無駄に血に染ることは無いだろうと思っているんだが。
ハルオミさんはハルオミさんで対象がそうなっていれば、処理を戸惑うつもりはないらしい。
大人の余裕なのか、それとも
「あ、居た」
「ッどこだ!」
鉄塔の森に乱立している鉄塔の1本。
その上部に周囲から見つからないように、身体の上にそこらで拾ったであろうゴミを乗せて、微かに震えている神機使い。今回の捜索対象だろう。
ショートブレードの刀身がこちら側から僅かに覗いている。アラガミ化はまだして居ないらしい。
ハルオミさんに指をさして場所を教えた後、ハルオミさんに周囲の警戒を頼み、私が鉄塔を昇っていく。その音で存在を感知したのか、私が登りきれば薄らとその目を開けた。
「柊木さんですね、遅くなりました。今からアナグラへと貴方を送ります」
優しく、刺激しないように衰弱した神機使い、今回の捜索対象の柊木さんに声をかけ、オペレーターに発見の報告をしようと、インカムに手を伸ばす。
柊木さんは何か言おうとしているのか、唇を懸命に動かしているが、聞き取れないので耳を近づける。
「……に、げ、ろ」
「東から雷撃だ隊長!」
2人の声はほぼ同時だった。
反射的に柊木さんを抱えて鉄塔から飛び降りるが、少し遅かったらしい。
柊木さんは何とか庇ったものの、神機を持つ右腕を、ヴァジュラ特有の球状電撃が掠めた。後少し遅かったら死んでた可能性もある。
鉄塔の柱部分を蹴り、三角跳びの要領で緩やかに着地すると同時に柊木さんをハルオミさんに投げ渡す。
「ハルオミさんは帰投要請と、交戦を出来るだけ控えつつ撤退してください。……ヴァジュラと、オウガテイルの群れが来ます」
今になってようやくユーバーセンスの感知範囲に入ってきた。どうやらヴァジュラがオウガテイルを統率する形──正確にはオウガテイル達がヴァジュラに随行している──で行動しているようだ。
そこらの雑魚とは違い、アラガミの生存年齢というか活動期間が長くなると顕れる特徴の一つ、知能の上昇。
この手のアラガミはなまじ頭がいい為か、原作で出来た動きは既に出来るし、今回の様に
「コイツを帰投地点に置いたらすぐ戻る! 死ぬなよ隊長!」
足手まとい、というより回収対象を守りながら戦うのは無理とハルオミさんもすぐに判断してくれたようで、柊木さんと自分自身に偽装フェロモンを打つ。
それを見て私も挑発フェロモンを打ち込んだ。
ハルオミさん達へのアラガミの目は消え、そして私にこの場のアラガミの目が全て向けられる。
微かに腕の痺れは残っているが、まぁなんとかなる範囲。ダメ押しとばかりにあまりオススメされてない強制解放剤も飲み下す。
アラガミ達の位置は勿論、どれからどのように動き出すか。そんなことすら手に取る様に分かる、そう思える程に思考が冴え渡る。
神機がギチギチと、自発的に捕食形態になろうとするのを無理やり止める。
頭の中に声が響く。が、それを一旦宥める。
『喰事、喰事』
「足止めメインだからな。喰事の時間は殺しきってからゆっくりだ」
神機を撫でながら、俺達に迫るアラガミを見遣る。
「先ずは喰事の前に料理の時間だ。下拵えに切れ込みを入れまくってやろう」
身に沸き立つ高揚感に身を任せ、口角を上げながら俺はオウガテイルに突貫する。
大口を開けながら突進してくるオウガテイルの口内に
神機にアラガミの血を付着される度に捕食形態に移行しようとするのを、グリップを強く握って抑止する。そんな無駄な工程を挟みつつ、オウガテイルの口内から神機を引き抜けば、ヴァジュラは球状電撃を2体のオウガテイルが尾針を飛ばす
尾針を
すれ違う様に左前方へ踏み込みヴァジュラの後脚を切りつけつつ、奥のオウガテイルを目掛けて進む。そうすればヴァジュラがこちらにまた振り返り、飛びかかってくるのを避ける。そんな事を繰り返し撹乱を数分続けていれば、ハルオミさん達は戦闘圏外に離脱したことをユーバーセンスで察知。
足止めは終わった所でオペレーターへと通信を繋ぐ。
「此方ニーナよりオペレーターへ、応答願う」
『此方オペレーターよりニーナ、既にハルオミより回収ヘリの要請を受け向かわせています。ハルオミの援護予想は3分後です』
「援護とか要らないから。ハルオミさんには回収対象の柊さんしっかり守るようにって言っといて」
『……かしこまりました。ご武運を』
「ありがと」
通信を切った所で神機もようやく喰事の時間だとばかりにギチギチ音を立てる。
切れ込みが既に入っているオウガテイルが4体。左後脚を傷によってか動き辛そうにしているヴァジュラが1体。はっきり言ってイージーゲームだな。
「さあて、行くぜ
ヴァジュラは電撃を放つ為のチャージをしてる中、1体のオウガテイルの飛びかかりのモーションを見て2歩下がって
一撃で的確にオウガテイルのコアを奪い、その身体をヴァジュラの球状電撃目掛けて放り身代わりに。
そうすれば、エネルギー切れになりそうだった
勢いのまま走りだし、オウガテイル達をすれ違いざまに斬り続ける。ヴァジュラを倒すのは流石に最後にしないと事故につながりかねない。
オウガテイルの尾針を避け、牙を避け、飛びかかりを避けながらすれ違いざまに一太刀づつ丁寧に加えていく。ヴァジュラの攻撃は距離をとることを意識しながら努めて無視していけば、1分と経たないうちに残りはヴァジュラだけになる。
さて、アラガミというのは大型であればあるほど、攻撃を加えることで結合崩壊という事象を引き起こす部位が増える。
眼前のヴァジュラであれば左右の前脚、頭部、尻尾の4箇所だ。
アラガミとは全てがオラクル細胞の塊であり、基本的にオラクル細胞以外の体組織を持たないとされている。
ではなぜアラガミはスライムのような塊ではなく巨大な獣の形状を取れるのか、それは原子構造が変われば元素が変わるのと同じように、細胞同士の密度と構造が違うからである。
結合崩壊とはこれまたオラクル細胞の塊である神機を用いて攻撃を加えることで、アラガミのオラクル細胞の結合を切断、破砕、貫通の刺激を持って崩壊させることでその構造に脆弱性を付与し、状態異常に侵されやすくする上、アラガミにコア以外からのダメージが与えやすくなる状態になることを言う。
ゲームでは全体の体力と部位ごとの体力があって、部位を壊す(体力を削る)と怯みやスタンなどが入っていたが現実では違うらしい。
まあ、何を言いたいかと言えば、
「前脚切って、獣剣・陽 新で
まあ今後アラガミのレベルが進化していけばここまでホールドの通りは良くないと思うが、今のヴァジュラ1匹なら
勢いのまま、一心不乱に結合崩壊した部位を切り続けていれば数分でコアが体表に露出してきた。アラガミは大型であればあるほど、弱る度にコアという心臓と脳を兼ね備えた弱点を守る事以上に身体機能を守ろうとするせいでコアが外から透けて見えるようになる。
それが見えてくれば終盤も終盤で、コアを捕喰してしまえば現状のアラガミは絶命する。
「そら大物だ。しっかり味わえよ」
最後の抵抗とばかり振り下ろしてきたヴァジュラの左前脚を横に跳んで交わし、コアを捕喰させれば戦闘終了だ。
グボロ・グボロにヴァジュラ、あとはオウガテイルを数体喰ったからか神機も満足したようですっかり大人しくなった。
これなら今日の配給はジャイアントトウモロコシじゃなくてカレーライスチケットで済むかもしれない。少し得をした気分だな。
『オペレーターよりニーナへ、聞こえますか?』
「ニーナよりオペレーター、感度良好、戦闘終了、帰投準備に入ろうと思うけど何かあったか?」
『ご無事で何よりです。ハルオミさんと回収対象の柊さんの回収ポイントにヘリがまもなく到着します。よろしければそちらで帰投準備をお願いします』
「オーライ。じゃあ俺もそっちに向かうわ、あーっと、ハルオミさん達は無事ですか?」
話してる途中で神機解放モードが自然解除されたのか、昂っていた感情が落ち着いてきた。
このオペレーターさんも慣れたもので私の口調や態度の変化に一々反応しないでくれる。まあアナグラに帰ると「単独行動……」って感じにボソッと小言を言っては来るけど。
『ええ、ハルオミさんの方にもヘリを待つ間ザイゴートが1体出現しましたが、手早く撃破していたのでほかのアラガミも呼ばれることなく無傷です。ただ、度重なるニーナさんの単独戦闘に少し怒っていましたよ』
「うへぇ、わかりました。じゃあとりあえずさっさと帰投ポイントに向かいますね、ありがとうございました」
『お疲れ様でした、オーバー』