ウマ娘、トミノブッピガン!! 作:左舷砲手、弾幕薄いぞ、何やってる!?
「ん……」
霧が晴れ渡っていくような清々しさと共に、私は目を覚ました。
なんの種類かわからない鳥の囀りが、いやにしずかな部屋に響いて、私の両耳をつつく。
いつもの天井、いつものタンス、いつもと変わらない風景。それを見回し、薄い掛け布団を跳ね除ける。
フローリングに敷かれたマットレスに足をつけ、ぼやつく脳みそが次の行動に悩んでしまう。朝はこれだから苦手だ。同室のやつの温もりは、もう部屋から消えていて、多分自主練にでもいったのか。
ようやく地に足をつけ、大きく背伸び。そった背筋からポキポキ音が鳴って、ある程度は行動できる余力ができた。
水道水で喉を潤して、最低限の身だしなみ。顔を洗って跳ねまくった髪の毛に尻尾の毛、これをすいて整える。後はメンコを耳につければ準備完了。
寮内の食堂へ向かって朝飯だ。
私が利用する時間には、大体のウマ娘が自主練に出かけているため、キンキンと騒がしい感じは無い。校舎のそれと同じくバイキング形式で、好きなものを取って定位置の端っこの席に着く。トーストに目玉焼きにウィンナーにサラダ、ヨーグルトに蜂蜜を入れたもの、オレンジジュース。朝はたくさん食べれないから、こんなものだろう。
さあ食べ始めよう。そんな時。
「あーっ!やっぱりいた!隣しつれーするね!」
うるさいのが絡んできた。考えられる上で最悪だ、マヤノトップガンなのだから。自主練後なのか知らないが、馴れ馴れしく隣に腰掛けてきた栗毛の小娘の体温は高いように感じる。
「こんなふうにずけずけと、一体なんの用だよ」
「友達なんだから!一緒にいる理由なんていちいち求めない!“トミノ”ちゃん!」
「知性のかけらもない……大人じゃないな」
「なにい〜!?」
しかし、飯時じゃなければ、彼女は“いいやつ”なんだろう。飯時でなければ。私は人付き合いが苦手だから、これぐらいぐいぐいこられた方がいいのかも、と最近は考えるようになった。単に、マヤノトップガンのかまってちゃんぶりに付き合ってきたからだろうか。
「……そういえば、“選抜レース”。また手抜いてたでしょ」
まるで、私を咎めるような声色。珍しい。思わず彼女の方を見ると、彼女もまた、私の方を見ていた。全てを見透かしていそうな目だ。
「この前も、そのまたこの前も。もう3回目なのに」
「……」
「まるで、何かに反逆してるみたい」
「意固地になってるだけだ。私はそんなにできた人間じゃない」
そう言うと、彼女は首を傾げる。まだわかっていないんだろう。それでいい。こんなちっぽけでくだらない意地の張り合いなんて、掘り下げてほしいもんじゃないから。
「……よくわかんないけどさー、私はあなたと走ってみたいな、レースでさ」
「“名前が似てる”からでしょ、くだらない」
「姿も!身長もなんもかんも同じだもん!運命感じちゃうでしょ!!」
彼女の言う通り、この私“トミノブッピガン”、そして“マヤノトップガン”は、なんとなく語感だったりが似たものだし、姿も、まるでゲームの2Pカラーのように似ている。違いは、私はメンコをつけ、ポニーテールにしていて、髪の色が白なぐらい。
こんな理由で、最初は絡んできた。でも、最近はそういう不愉快な好奇心からではなくなっているらしい。
「それに“強い”もん!トミノちゃんと競り合えば、また一つ大人のオンナに近づける気がする!」
うざったいのが面倒だが、こういうのはどうも嫌いになれない。私がウマ娘だからなのだろうか。
綿菓子みたいな雲が青空を泳いでいる。太陽はちょうど真上を陣取っていて、燦々と日差しが降り注いで、私の白い肌をつつく。
お昼休み。昼はいつも購買のもので腹を満たして、午後の授業まで、練習用のコースが覗ける土手の草原の上に寝転んでいる。ただでさえ2000人も抱えているんだから、校舎の中は騒がしくっていけない。
こうして穏やかに空を眺めているのが、さぁっと吹き抜け、草花を揺らすそよかぜを身に受けるのが、なんのしがらみも無い時間に感じられる。
「……?」
そんな時だ。不意に私のスマートフォンが鳴り出して、振動で主張してきた。電話だ。
おやすみモードにしていなかった自分を呪いつつ、スカートのポケットを弄って、主張の激しいスマホを取り出して、相手を確認し__
「……」
今日はなにかと心が揺れる日な気がする。今は最悪な方向に。
「……」
『選抜レース、また負けたみたいですね』
電話に出てみれば、開口一番これだ。
『仕事の合間をぬってわざわざ電話をした理由、あなたならわかるでしょう。……あなたは強い。幼い頃から練習も積んで、そんじょそこらのウマ娘では相手にならないはずなのに、何故手を抜くのです』
「あなたがその態度を止めれば、真面目に走るかもしれませんね、母さん」
『あなたのためを思って言っているのですよ。次のレース、必ず勝つように』
「そうやって一方的にっ……!!」
言い切るより、電話が切られる方が早かった。いつもそうだ。自分の意見だけ押し通してきて、私のことを考えない。自分が正しいと思っている。
だから私は負け続けるんだ、失望させてやる。思い通りになんてなってやるものかよ。
「……」
ああ不愉快だ、不愉快極まりない。空は晴天だっていうのに、私の心はどん曇り、雨どころか雷鳴。
「……っ!!」
そよかぜでは到底冷めることのない不愉快さだ。
いつのまにか夕方になっていた。夕景色に染まる、相変わらず綿菓子のような雲は、午後の授業をサボってしまったことを、決定的に私に突きつけてくるようだ。
下の方は、体操着を汗と泥で汚した同級生、先輩達が、必死そうな顔でコースを駆けているのがみえる。
必死で練習を積んで、レースに臨む。そしてライバルと競う。そんなふうにしている自分を、否応なしに想像してしまう。
しかし、母の思惑通りにことが進むのは癪なんだ。だから私はこうして……
なら、なんで私はここにいる。結局、わたしはあの人の掌の上ってことか。
不愉快だ。