ウマ娘、トミノブッピガン!! 作:左舷砲手、弾幕薄いぞ、何やってる!?
煌めく宝石をばら撒いたみたいに、夜空の星々が輝いていて、その中でも一際大きく、強い輝きを放つ月光が、冷たく私を照らしている。
結局、やり場のない怒りを晴らすには、食うか寝るかが一番だ。私は寝た。結果、スマホが指し示す時間は7時を超えている。寮の門限をとっくに過ぎていた。
怒られるのは嫌いだ。
「……」
この
しかし、ちっぽけなのは心もそうだ。ちっぽけだから苛つくし、恨むし、こだわってしまう。結局、私は自分から母への感情を変えることはできないんだろう。
「……帰ろう」
日が昇っているころは汗ばむぐらいだったそよかぜが、今は少し肌寒く感じる。雨でも降るのかもしれない。
上半身を起こして、反射で背筋がぞわぞわ震えて、思わずため息が出る。立ち上がって、スカートやブレザーについた草を払いながら、チラホラと光が見える校舎の方を一瞥。
その時だった。足音だ。一人分の足音。
「……」
音の方を見れば、懐中電灯の丸い光が私に向いているのがわかる。シルエットからして男か。
そして、そいつはスタスタとの淀みない足取りで、私を見下ろすようにして、
「私はトレーナーだよ」
そいつの着るベストには、トレーナーのバッチが煌めいているのがわかった。
「今日は日番でね、損な役回りを担ってしまったものだと思っていたが……君と出会えたとあらば、話は変わる」
そう話す男の顔は、影になっていてよくわからないが、多分笑っているだろう。しかし、恐ろしいほどに冷たい気がする。
「前々から君と会って、話をしてみたいと思っていた。トミノブッピガン君」
「……門限を過ぎてしまってるんでしょ。帰りますよ」
足早に、私は男の隣を過ぎて、この場を離れる。
何か嫌な感覚がある。ただの直感で、この男には失礼極まりないが、どこか気分が悪くなる感じがする。
しかし。
「ならひとつだけ教えてもらいたいな」
男の言葉には、有無を言わさない圧力がある。証拠に、私は足を止めてしまった。
「私は
「……」
「君のお母上も、誰よりも勝利を望んでおられるだろうに」
「その呪縛から逃れるためですよ」
背中を向けたまま、私は本心を吐露する。
「ほう……私には、君が自ら呪縛に囚われにいっているようにしか見えないが」
その本心に、一気に亀裂が入った気がした。
「何……!?」
「さて、今日は門限のこともある。帰ってゆっくり考えを巡らしてみるといい」
振り返ってみれば、シルエットから覗ける顔、自信に満ち溢れる顔があった。
ああ、そうか。
不愉快なのは、これか。
呪縛に自ら囚われに行っている。
あのトレーナーが言ったことだ。
私があのトレーナーと会ったのは初めてだ。なのに、彼はまるで、私の全てを見抜いているかのようにそう宣った。
意味が、わからない。
「あーっ!トーミノー!!!!!」
「うるさい!こっちは考えてんだよ!!」
「ぴえっ」
不服極まりないが、早急にこの疑問は晴らさなければならない。現に、私はいつもより1時間早く起きたし、朝食を摂る気にもなっていない。身体が興奮しているんだろう。
腹が立つ。昨日わざわざ濁したのは、私から動かさせるつもりか。
「……」
「なんなんだよもぉ〜、久しぶりに声をかけたらこれってぇ〜」
不服だ。不愉快だ。だが行くしかない。
あの男の元へだ。
だが、私は彼の名前がわからないし、顔も朧げにしか憶えていない。手当たり次第に行くしかないか。
とにかく、あのトレーナーが居そうな場所を考える……
「……」
「待っていたよ。君なら、必ず私を訪ねてくると思っていた」
「あんなことを言って、心を掻き回してくればそうなりますよ」
「嫌いかな、そういうのは」
「当たり前でしょ」
一発目で当たってしまって、非常に不愉快だ。まるでこちらの行動を全て読まれているかのように、男はいつも私が陣取っている草原に腰掛け、朱色のコースを見下ろしていた。
私は、その隣に立った。
「……呪縛に囚われに行っているって、なんなんです」
「ふむ……考えた末、わからなかったのであれば、やはり君は真っ直ぐで純粋だ。しかし折れやすい」
「そうやって煙に巻くようなことを言って!私の母は私を道具だと思って、やりたくもない練習をやらせて、ここに入れさせたんです!!それに抗うのが、なぜ__」
「そこだよ」
私の言葉を遮って、男は言う。
「母に抵抗するために敢えて本気を出さない。それは君の“本心”に逆行した行いなのだよ。それを、“呪縛に自ら囚われに行っている”と言わずに、何という」
「……本心……って、あなたが私の何を知ってるっていうんです」
「いつも君は不服そうに走っている。一目瞭然さ」
男の自信に満ちた視線が、私のことを貫いて離さない。
腹が立つ。何が腹立つって、私にだ。
少し、穏やかになりつつある心にだ。
「なら、走れっていうんですか」
反射的に飛び出した言葉に、男の笑みが深まった気がした。
「そうだ。そして考え方を改めるといい。君は母の掌の上で転がされているのではない。自分の足で、しっかり大地に立っているとすれば、走ることに抵抗なんてないだろう」
「……見方を、変えただけじゃないですか」
「そうしなければ先に進めないよ。母の思惑すら利用して、君は君でありなさい」
腹が立つ。何が腹立つって、私にだ。
母と同じ目をしているやつに、少し安心感を覚えてしまったなんて。