ウマ娘、トミノブッピガン!!   作:左舷砲手、弾幕薄いぞ、何やってる!?

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大人になること

 「トォミィノォォ……」

 

 あの男と別れて、午後の授業に間に合うよう足早に移動していると、道中に引っ付いてくる奴がいた。マヤノと同じく、私に執拗に構ってくるクソガキ。

 

 「よせよテイオー、授業に遅れる」

 「朝の!ボクに対する態度!!あまりにもぞんざい過ぎないかな!?」

 「悪かったよ、気が立ってたんだ」

 

 トウカイテイオー。三日月のような一房の前髪が特徴的で、あの“皇帝”と評される“シンボリルドルフ”に心酔し、なおかつ超えようとしている、自他共に認める天才。マヤノと私が良く話す仲だからか、いつのまにかコイツも私に構ってくるようになってしまった。

 悪いやつじゃないが、天才特有というか、親に愛されたのか知らないが、とにかく自分を全面に押し出してくる。悪いやつじゃないが、苦手だ。

 それに、コイツもマヤノと同じ面がある。

 

 「まぁ良いけどさ。テイオー様は寛大なんだから、スッキリした君の顔を見れただけで許してあげるよ」

 「……」

 

 嫌に勘が鋭い、どいつもこいつも。

 テイオーを振り払って、私はようやく教室にたどり着いた。私の席は一番端っこ、教室の四隅の内、左端にある。輪に入るのは好まないから、この辺が一番良い。

 錆びた鉄パイプの椅子を引いて、心労からどっかり座り込んだ私の頭には、先程の彼の言葉が反芻されていた。

 

 “母すら利用して自分のしたいことをしろ”

 

 いかにも“大人”な解決方法、反吐がでそうだ。

 結局、母に対して利益になってしまうんだ、私の“したいこと”は。利用しているようでされているのは私だ。

 わかっている。このままレースに負け続けて、退学やらなんやらの運びになっていくのが、どれだけ意味のない行為なのかは。

 

 「……」

 

 いつもだったら眠気と格闘しなければならないこの時間でも、私の頭は、水をかけられたように冷静だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 授業が終わり、教室にいる奴らは思い思いに行動を始める。蜘蛛の子を散らすように教室から飛び出していく。その中に、私もいた。

 目的地はひとつだ。

 

 「……」

 

 私のお気に入りの場所。土手沿いの草原。

 雲が速くたなびいている空の下で、あの男は、やはり私を“待っていた”。

 下の練習用コースに退屈そうに向けられていた視線は、やはり不愉快だ。

 

 「暇なんですか、トレーナーでしょ」

 「担当がいなければこうもなる。トレーナーとはウマ娘あっての職業さ」

 「2回の選抜レースで、あなたなら強いウマ娘の一人や二人、スカウトできたはずです」

 「あぁ。だからここで待っていた」

 

 そう言い、私にその瞳が向けられる。何もかもお見通しだ、とでも言いたそうな、傲慢なまでの自信に溢れた瞳。

 強いやつはみんなそうなのか。

 

 「だが、君は良いのかね。こんな得体もしれない男を、増して、私にはまだ実績という実績もない」

 「皆まで言わせないと気が済まないんですか、不快です」

 「フフ……随分信用してくれるじゃないか、この短期間で」

 

 歯軋りして睨んでやったら、男はくすくすと笑いながら立ち上がった。

 そして、私に手を差し出して、

 

 「わかった。君がそう望むなら、私は君がレースに勝つための手助けをしよう」

 

 私は、絶対に手を差し出すことはしなかった。

 わかってるんだ。結局コイツも、母と同じタイプの人間だってことぐらい。なら、私も利用させてもらう。

 純粋に、レースで勝つために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マヤには沢山の友達がいるけど、その中でも、一番と言って良いほど仲のいい子がいる。

 トミノブッピガン。マヤみたいな見た目なのに、斜に構えたような態度をとっていて、いつもぶすっとしてる白毛の子。

 はじめは、まるで“オトナ”みたいな態度だったから、“オトナ”であるための秘訣はなんなんだろうって思って、声をかけてみた。あの子ったら普通に無視してくるから、負けじと私も構いまくった。

 そうしていて、マヤはトミノちゃんが“オトナを気取っているだけ”ってことに気づいた。

 何故、オトナを気取るようなことをしているのか。マヤの興味はそっちに移った。

 そして、最近になって、トミノちゃんはまた変わった。

 なんというか、取り繕ったオトナじゃなくて、本当に“大人”の階段を一歩登ったみたいな、そんな感覚。

 劇的な変化、一体トミノちゃんに何があったのか。あったことといえば、トミノちゃんにトレーナーがついたことぐらい。

 つまり、そのトレーナーになにかあるのかもしれない。

 トミノちゃんが大人に近づいた理由なのなら__

 

 「だから、マヤもトレーナーちゃんと契約したの!!」

 「……ここまで織り込み済みってわけですか」

 「私は全能ではないよ」

 

 マヤは今、トレーナー室に居る。

 トミノちゃんのトレーナー、いや、“トレーナーちゃん”は、まさしく大人の男性って感じ。でも、なんだか冷たい感じがする。熱が無い、というか。

 トミノちゃんとトレーナーちゃんは、どこか、信頼してるみたいで、していないような雰囲気だ。契約を結んだばかりで全幅の信頼を置くなんてことはなかなか無いだろうけど、この二人は違う。

 トミノちゃんは刺々しいし、その感覚に、トレーナーは気づいているような、いないような、よくわからない。

 

 「ともあれ、君のような才気ある者が来てくれるとは、指導者として光栄だ。これからよろしく頼むよ、マヤノ君」

 

 差し出された手。窓をバックに、逆光でトレーナーちゃんの表情は伺いしれない。

 マヤは、トレーナーちゃんの手を取った。

 多分、ここが一番いい。私が目指す大人の女性は、トミノちゃんとトレーナーちゃんをみて学ぶ。それが一番良い。

 

 「これからよろしくね!トミノちゃん!!」




 マヤちんとトミノのトレーナーとなった男、果たしてどんなやつなんだろうか。

 どんなやつなんでしょうね。
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