ウマ娘、トミノブッピガン!!   作:左舷砲手、弾幕薄いぞ、何やってる!?

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 後半に楽しい日常が描かれています


ライバル出現?

 目が覚める。まどろんだまま隣のベッドを覗き見ると、分厚い布団がわずかに上下しているのがわかる。薄暗い光を取り込む窓の前にある棚の上の目覚まし時計は四時を指し示している。なんとも珍しいことに早起きしてしまった。

 トレーナーと契約を結んで二ヶ月、生活習慣が変わりつつあるのだろうか。ともあれ、これだけ早起きをしたのならちょうどいい。

 温かな羽毛布団に後ろ髪を引かれながら、肌を刺すような冷たい空気に震えつつ、ベッドから脱出。ぐいっと背伸びをすれば、軽い筋肉痛の身体中が気持ちよく音を鳴らす。

 

 「ふぅ」

 

 隣で夢の世界を旅している同居人を起こさないように準備を行なって、上下に赤いジャージを着た私は部屋を出た。静まり返っていっそ不気味な廊下の窓から覗ける街並みは、やはり人の気が削がれているように見える。

 寒さに急かされるように足早に移動して、眠そうに目を擦っていた寮の管理人に一言言い、外へ出てみると、枯葉と一緒に風切音が押し寄せてくる。

 

 「うぅ……」

 

 思わずその場で小走りしてしまう寒さ。空は雲一つなくて、朝焼けか鮮やかに彩っている。まさに冬空。

 耐えられなくなる前に、私は弾かれたように走り出した。

 

 「はっ、はっ、はっ」

 

 こうして自主練をする様になったのは、トレーナーと契約してからのこと。全部が全部、彼の言うこと通りになっているのはどうしても癪だったからだ。

 しかし、最近は癪だとかどうとか、これに関してはあまり気にしないようになっている。誰もいない住宅街を朝イチ走るのは気持ちいいのだ。軽く汗を流すシャワーも良い。食欲も湧くから、朝走るのはもはや私の生活リズムに於いて欠かせない。

 いつもは学園の近くを流れている河川沿いの一本道を走ったり、適当に住宅街のウマ娘専用レーンを回ったりしているが、今日は時間の余裕がある。少し遠出してみるのも面白いだろう。

 

 「はっ、はっ……?」

 

 そんなとりとめもないことを考えている時、不意に、足音が一人分多いことに気づいた。曲がり角かなんかで合流したのだろうか。

 

 「トミノブッピガンともあろう者が、朝からご苦労なものだな」

 

 思わず振り向くと、朝日に照る、短く切った栗毛の髪を靡かせ、子供っぽい笑顔を浮かべた大柄な奴が、私を見下ろしていた。

 

 「あなたこそ、わざわざ悪態付きにきたって言うんですか」

 「宣戦布告さ。お前が出るメイクデビュー戦、この“ビタークレス”も出場するのだから」

 「丁寧ですね、他の人にもそうしてるんですか」

 「理由がないな、お前以外には」

 

 交差点の赤信号に差し掛かって、休憩がてら足を止めると、ビタークレスとやらも私の隣につく。相変わらず、見下した視線をこちらに向けながら。

 

 「お前がそうやって走ったりしていようと、このオレには勝てないぜ?」

 「勝手に言っていてください。これは趣味みたいなものですから」

 

 信号が切り替わる。すると、ビタークレスが先んじた。

 

 「レースでわかる!オレとお前の差がな!」

 

 それきり、奴はこちらを向くことは無かった。

 

 「……なんだ、アイツ」

 

 無論、このつぶやきに返答は無い。

 さっきまで青だった信号は、また赤に切り替わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ビタークレスか、君の世代の中でも、屈指の実力を持っていると目されているウマ娘だよ」

 

 授業が終わり、放課後。トレーナー室を訪ね、パソコンと睨めっこしていたトレーナーに事の顛末を伝えてみると、彼はさも当然のように答えた。

 ビタークレス。名家の出だとかそういうのではなく、両親が人間であるという、出自が中々特殊なウマ娘で、向上心と野心が強く、それに見合ったある程度の実力も兼ね備えている、金髪に近い栗毛のウマ娘。出身地では負けなしらしい。つまりエリートってことだ。

 

 「ふーん、傲慢な奴!マヤは苦手だな!」

 「負けを知らない者の中には、ああなるのも少なくない。若い証拠さ」

 

 トレーナー室のふかふかなソファに腰掛け、いかにも怒ってますと言わんばかりに、ストローでジュースを啜るマヤノに、トレーナーは相変わらず達観したような態度で言い、スッと立ち上がる。

 

 「良いライバルになるんじゃないかな、彼女は」

 「えぇー!?初対面であんな態度で!?」

 「ああいう手合いは、自分に絶対の自信を持っている。その分、一度折れた時の跳ね返りは凄まじいからな」

 

 そう言って、トレーナーは私に視線を移した。嫌な目だ。

 

 「勝てってことでしょ」

 

 トレーナーは満足したように笑みを深める。

 

 「レースまであと2週間と少し、首尾は順調だ。このままいけば、後は当日の君次第、といったところか」

 「やってみなけりゃわかりません」

 「やれるさ。でなければ、私の立場がないよ」

 

 一言余計だ、というのは飲み込んだ。この人はそういうのをユーモアだと思ってるタイプの人だ。感性がどこかずれているタイプの人なんだから、言っても無駄なんだろう。

 

 「はいはーい!マヤのデビュー戦は!?」

 「君は来シーズンからのデビューになる。今は焦らなくて良い」

 

 それにしても、疑問だ。なんでマヤノはトレーナーとあそこまで打ち解けているんだろうか。あれを大人の指標にしているのか?私は、あんな態度の大人になんてなりたく無いが。

 それにトレーナーもだ。どこかマヤノとは、なんというか、父と娘、でも無いが……

 

 「なんだ、トミノ君」

 「……いえ。コーヒーでも淹れましょうか」

 「ありがたい、頼むよ」

 

 考えてみれば、私はマヤノと同じような体格だ。少女体型とでも言えばいいか。すると、トレーナーは両手に少女がいる状況を容認していると。

 

 「……」

 「言いたいことが有れば言ってほしい物だが」

 「なんでも無いったら、ほらコーヒー」

 

 まぁ、この男に限ってそれは無いだろう。

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