ウマ娘、トミノブッピガン!!   作:左舷砲手、弾幕薄いぞ、何やってる!?

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悪魔の目覚め

 『ワァァァァ!!!!』

 

 澄み渡った晴天の下、冷たい空気が押し流されて、湿気と熱気のこもった歓声が私を迎える。今までは観客側からの感覚が異様にすら感じる。これが、これから競争しようというウマ娘が感じる、はじめての感覚なのだろうか。

 芝を踏んだ感覚が、練習の時と違う。浮き足立っているような気分だ、この私が。

 

 「……ふー」

 

 東京レース場での2000mの発走場所は日陰になっていて、肌寒いかと思えば、ここもまた熱気に満ちている。いや、闘気と言った方がいいか。柔軟体操をしたり、精神統一のためか、目を閉じてじっとしている競争相手が12人揃って、一番最後の私を出迎える。

 なにかと私に突っかかってくる奴、ビタークレスは、意外にも、芝の上に座り込んで、静かに柔軟体操に勤しんでいた。

 ふと、アイツと目があった。

 

 「余裕そうじゃないか、トミノブッピガン」

 

 落ち着き払っていたのは何処へやら、私を見つけた途端に、アイツはいつもの笑顔を浮かべる。

 私はビタークレスの隣に腰を下ろした。挑発じゃない。

 顔を向けずに言葉を選んでいると、先に言葉を発したのは相手の方だった。

 

 「はっ、それぐらいの方が勝ちがいがあるってもんさ」

 「……なんでそんなに、勝ちにこだわっているんだよ」

 「上でのさばっている強者ども、そいつらを沈めるためさ……お前だって、同じようなものだろうに」

 「私はお前より野蛮じゃない……!」

 「同じさ、知ってるんだぜ?お前のことは」

 

 思わず顔を上げ、不愉快に微笑むビタークレスの顔面が視界に映る。掴み掛からなかっただけ、まだ理性に余裕はある。

 

 「母が新規参入した“レース関連”の複合企業の社長とあらば、お前を突き動かすものなんて、想像など簡単にできる」

 「……!」

 

 ゆっくりと立ち上がったビタークレスにつられて、私も立ち上がる。奥の方を覗くと、コースに鈍く光るゲートが配置されていた。

 私よりも前に出るビタークレスは、私に見せつけているかのように、いやに足取りが勇ましかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……」

 「……!貴方は」

 「ちぃ……」

 

 耳をつく実況のアナウンス、溢れそうな人混みを掻き分けて、担当の活躍を一番前でみようと奮闘している時、あまりみたくなかったふさふさ頭を見つけ、避けようと思ったら聞きたくなかった声に気づかれた。不覚だ。

 観客席とコースを隔てる柵にもたれかかって、横目にしてみれば、少し離れたところにあの男がいる。

 

 「流石に慧眼ですね、ビタークレスをスカウトとは」

 

 ざわつく場内でも透き通って聞こえる声で、口火を切ったのは奴から。開口一番これだ。

 

 「お前こそ、不真面目さがウリだったトミノブッピガンとはな。人の心がわからないお前が」

 「彼女はまだ子供です。きっかけさえあれば、扉を開くぐらいのことはできます」

 「その割に、レース前に声のひとつもかけないのか?」

 「身体の出来は上々、作戦も密に詰めてあるし、メンタルに問題はありませんよ」

 

 そう言い切った奴の目には、あいも変わらず自信しか無い。それ以外何もない。

 はじめてこいつを見かけた時となんら変わらない、嫌いな瞳だ。

 

 「ジー……」

 「……」

 

 そして、下に目を向ければ熱視線を向けてくるマヤノトップガン。何故?

 ともかく顔をコースに戻して、目の前の巨大パネルに映し出されるスタート位置の方を注視してみると、ウマ娘達が続々とゲート入りしているのがよく分かる。

 

 『最後に外枠12番、______がゲート入り、各ウマ娘、体勢完了……』

 

 あれだけ熱気のこもっていた会場が、一瞬のうちに凍てつく。

 そして。

 

 『今、スタートしました!!』

 

 今まで以上の情念に押されて、12人のウマ娘がゲートから飛び出す。

 そして、先頭を行くのは勿論____

 

 『ハナを切るは3枠6番ビタークレス!!後続を突き放していく!快速です!』

 

 「逃げですか、かなり飛ばしているようですが」

 「ビタークレスのスタミナを舐めすぎだ。想定の範囲内さ」

 

 走っても走っても尽きないスタミナ、これを活かすなら逃げ戦法しか無い。

 逃げの中でも、あのサイレンススズカに近しい部類の逃げだ。既に目測で3〜4バ身は離しているか。ここまで前に進出できていれば、このメンツならば余程なことがない限り勝てる筈。

 だが、隣の男の表情に、一点の揺らぎも無い。

 

 「トミノブッピガンは3番手か、先行策だな。だが__」

 「問題無いでしょう」

 

 そう言い切った男の顔を覗きみれば、無味乾燥とした表情だ。

 焦りの色ひとつ見せないのは、この男を買いかぶっていたのか、いや。

 

 「敢えて言うならば、彼女の末脚を舐めるな、と言ったところでしょうか」

 

 『ウマ娘集団は向正面へ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 始まってしまえば不思議なことに、感覚は練習と同じようだ。トレーナーと私の読み通り、ビタークレスは逃げの戦法をとって、現在進行形でハナを突っ走っている。向正面は中盤に差し掛かっているが減速の雰囲気は無い。流石に勝算あっての行動か。

 私は3番手に陣取って、2番手には風よけになってもらっている。そこから人一人分開けて4番手、あとは固まっている感じだと思われる。あまり気にかける必要は無いだろう。

 やはり、注視すべきはアイツだ。

 

 「ふっ、ふっ、ふっ」

 

 呼吸の調子は良い、脚もまだまだ余裕がある。秋の涼しさを感じられるぐらいには。

 

 「ゼエッ、ハァ、ハァ」

 

 前の方から呼吸の乱れた吐息が聞こえる、バテかけているのか。もう第三コーナーも迫っているし、アイツはまだまだ先の方に居る。

 これもやはり読み通りだ。全てが定石通りに進んでいる。

 行ける。

 

 「……!!!」

 

 ググッと体が沈み込んで、一瞬、全てがリラックス状態になる。

 こうすれば。

 

 「ッ!!!」

 

 視界が歪む。バテかけていた前の奴をすり抜けて、誰もいないカーブに差し掛かる。

 アイツは既にコーナーを三分の二は消化しているか。

 

 「……ぎっ!!!」

 

 まだ、まだだ。歯を食いしばれ、前へ、前へ、

 

 追いつけ、追いつくんだ。何も気にするな、歓声なんて雑音なんだから。

 

 行け、動け。

 

 「……ッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 邪魔だ!!消えてろ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「っ!?何!?」

 

 スピードが落ちた、今!!

 

 「ッ……!!!!!!」

 「きっ……!!!負けるものかよ!!」

 

 何も聞こえない。聞かない。今のありったけを搾り出すんだ。

 あと、少し。コーナーは終わった。アイツはまだ前にいる。

 こんなものじゃ無いはずだ、私は。

 

 「……!!と、ミノ……!!!」

 

 もっと出せるだろ、私!!!

 

 「……っあァッ!!!」

 

 届け!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『強烈なデッドヒートを制するのは___』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『トミノ、ブッピガン!!トミノブッピガン一着!!半バ身遅れてビタークレス二着です!』




 なんで酷いレース描写なんだ、小説の性能をまるで活かしておらん……
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