ウマ娘、トミノブッピガン!!   作:左舷砲手、弾幕薄いぞ、何やってる!?

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空虚な愛

 寮の目の前、トレセン学園の正門に整列するように植えられている木々が、生気のない赤色に染まっている。長袖長ズボンの寝巻きに変えたのに、ベッドの温もりの誘惑は日々強まっている。

 それでも、少しの早起きをして、私は外に出る。無論走るために。

 ビタークレスとは、あれから一緒に走る機会があったが、最近は互いに避けるようになった。アイツが競り合いかけてくるのだ。体温と調子を整える程度で走っているつもりなのに、アイツと一緒だと途端に模擬レースに変わる。タ分、それに向こうも懲りたんだろう。

 

 「ふー……」

 

 周辺を40分程走って、正門前まで帰って来る。程よく脚に熱がこもって、それが朝の冷たい空気で冷却されていく感覚が気持ちいい。

 そして、冷え切らない内に熱いシャワーを浴び、朝食を摂って身支度を終え、校舎に入る。

 基本的に授業は退屈だ。楽しくない。ただ、ひとつだけ好きな科目がある。世界史と日本史、歴史科目だ。

 人と同じ姿ながら、トラックですら持ち上げられる筋力に、付随した食欲、“走ること”を本能レベル好いているウマ娘が、先史時代より人とどう共存してきたのかを知るのは面白いし、考えを巡らせてみるのも面白い。

 例えば、何故“国家間での戦争が発生しないのか”。物事において些細な争いは付き物だが、今まで私たちが歩んできた歴史の中で、それが国レベルまで拡大したことは、文献上では無い。他にも、ウマ娘と人間の関係性が、今日に至るまで“対等”であり続けているのは何故なのか、とか。

 明確な答えなんて私には分からない。いや、答えを求めるんじゃなくて、こういったことを考えているのが好きなんだろう。

 午前中の授業が終わって、昼ご飯を済ませれば、一時間だけ授業を受け、放課後となる。以前までならあの土手で寝転がっているだけだったが、最近はもっぱら、トレーナー室に行くことが多くなっていた。

 どうせ練習だから、というのもある。ただ、明確では無いが、それだけでは無い気はしている。

 別に、あそこが特別落ち着く場所なのかと言われればそうではない。なら、トレーナーなのだろうか。

 レースを通じて、私は人の心に触った。いや、繋がったのか。とにかく、あの時の感覚は心地よかった。

 だからなのか。

 よくわからないが、私は今日も、トレーナー室に足を運ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「次のレース、君には“朝日杯FS(フューチュリティステークス)”に出場してもらいたい」

 「いきなり、G1レースですか」

 「G1レース!!」

 

 ソファに腰掛け、ただのインスタントコーヒーの酸っぱい味を楽しんでいた私に舞い込んできたのは、さほど驚きの内容でも無かった。なんせ、ビタークレスがホープフルSに出ると宣っていたのだから。

 しかし、逆光で隠されたトレーナーの表情に、いつもの勢いが無いようにみえる。

 マヤノが抱きつこうとしてくるのを押し退けようとしている合間に、トレーナーはさらに、

 

 「ビタークレスがホープフルSに出場するのだから、君もそうだろうと思っていたかも__」

 「思って、いませんよ。仮に私が、ホープフルSに出るなんて言い出した、ら、向こうが朝日杯に変える……なんてのは、分かりきってます」

 「わかってくれているならいい」

 

 何故ホープフルSでは無いのか、そんなのは、この前のデビュー戦を思い返せば想像がつく。真偽は置いておいて、担当ウマ娘が領域(ゾーン)に追い込まれるほどに全力を出してしまうようなレースを立て続けに行うのは、どんなトレーナーでも避けたい筈だ。

 しかし、トレーナーは一瞬顔を緩めるだけであった。

 

 「G1レースに出場するということは、君に“勝負服”贈呈されるということなのだが……」

 「勝負服……そういうことですか。あなたが妙によそよそしいのは」

 

 合点がいった。そうか、G1か。

 

 「勝負服の制作が依頼されたのは、君の母の会社だ」

 

 トレーナーの口から放たれた言葉が、もしも“前”の私の耳に入ったならば、その時点で、意地でもレースに出ようとなんてしなかっただろう。

 トレーナー室に静寂が満ちた。マヤノも、持ち前の感性の良さで悟ったんだろう。

 

 「出ますよ」

 「無理はしなくても良い。ただ、ほかのレースに出場してもらうことにはなるが」

 「心配ですか?」

 「知らず知らずのうちに負荷を貯めて、レースに支障をきたされては困るからな」

 

 トレーナーはきっと、私が走れなくなること自体を心配しているんだろうが、

 心配してくれるのか、この人が。

 

 「母親の贈り物でしょ、さぞ着心地いいんでしょうね」




 子供がこだわることって、一見しょうもないように見えて、とても重要なんです
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