なお、こちらは以前privatterにて投稿した作品のリメイクとなります。盗用などではございません。
その瞳が私以外に向いているだけで、心の中は大きく乱れてしまう。そんな邪な感情を抱いてしまうのは褒められたことではない。それが例え私じゃなくても。
分かっていても、どうしても考えるのを止められない。
きっかけはなんだったか。スペちゃんのお昼ご飯の話から?みんなで減量に付き合うことになったと、世間話の一環として話したような気がする。正直なところ、私はそれを自主練習のひとつとしてトレーナーさんの許可を貰いたいだけだったが。
「グラスって本当細いよねえ、ちゃんと私の言う通りにご飯食べてる?」
「食べていますよ。それに、私とてウマ娘ですので、トレーナーさんの倍は摂取するんですよ〜?」
「うーん、頭では分かってるんだけどね。太りにくいのかな、グラスは。可愛いねえ」
「……私からすれば、よっぽどトレーナーさんの方が折れてしまいそうで少し怖いくらいです」
「へ?」
「いえ、何でも。それより、会議があったのでは?」
「あっ、もうこんな時間!!ごめんグラス、トレーニングは……」
「いつものですよね。大丈夫です、お気をつけて」
再度ごめんねと謝ってから、トレーナーさんは資料を手に慌ただしく部屋を出ていく。
さて、トレーナーさんが戻るまで何をしようか。宣言した通りいつものメニューをこなすか、それとも今日は黙って休んでしまおうか。そうしたらきっと、心配そうに顔を覗き込んでくれるだろう。
スペちゃんの話をしていたトレーナーさんの表情が、頭からずっと離れない。ライバルを観察するあの表情に、私のことは1ミリでもあっただろうか。
彼女に触れられた手首がまだ、じんわりと熱を持っているような気がする。お返しとばかりに掴んだトレーナーさんの手首だって大差無い細さだった。
もういっそ、その足でも折ってしまおうか。
トレーナーさんが私しか見れなくなるように、トレーナーさんが私だけに笑いかけてくれるように。
我ながら子供みたいだ。大好きな人に見ていて欲しいなんて、エルやみんなを窘めておいて、私だって欲には抗えない。彼女といると強欲になっていく、そんな自分が少しだけ嫌いだった。
私が本当にトレーナーさんを折ってしまったら、トレーナーさんは、いの一番に私を頼ってくれるだろうか。それとも申し訳なさそうに笑って、私の元から離れてしまうだろうか。
考えるのは止めよう。あるかもしれない"もしも"より、あるはずの今の方が断然幸せだと分かっている。だから早く、戻ってきて下さいね。私はあなたの担当ウマ娘で、あなたは私の、大好きなトレーナーさんなのだから。