リコリス・リコイルというアニメを摂取したことで見た
 
明るく落ち着きのない長女。
真面目な次女。
物静かな長男(反抗期)。
怠け者の末っ子三女。
それを見守る父親。
 
という強めの幻覚からの産物。衝動的に書いたので色々と温かい目で見てください。作者のメンタルは絹ごしです。


『ヨルムンガンド』を知らない人は至急アニメを視聴するように!
メッチャ人死んでメッチャ流血描写多いけどメッチャ面白いから! 
ガンアクション好きでまだ見てないなら必見。ミリタリー好きにもお勧め!


面白いと思って下さったら評価と感想お願いします!
 
 
 
 
え?誰か忘れてるって?知らんな。



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ヨルムンガンド・リコイル~ガンアクション百合アニメに少年兵を挟み込んでみた~

 

 父さん、母さんを殺したのは『銃』と呼ばれる武器。人を殺す為だけに進化し続ける道具――。

 

 武器を考える奴。

 造る奴。

 売りさばく奴。

 使う奴――――……僕は、永遠に憎む。

 

 

 そんな気持ち、神は知ってか知らずか――

 

 

 

「よろしく新人くん! 千束(ちさと)で~す! キミ可愛いねぇ! ねえねえ、年齢(トシ)はいくつ? うわちっちゃーい! 私の方が年上だけど千束(ちさと)でいいよ! 何ならお姉ちゃんでも可!」

千束(ちさと)、あまり初対面で馴れ馴れしくすると、彼も困りますよ。どうも、私は井ノ上(いのうえ)たきなです」

 

 

 錦木(にしきぎ)千束(ちさと)と井ノ上たきなと名乗った、まだ幼さの残る二人の少女。

 日本の極秘治安維持組織『Direct(D) Attack(A)』の女性暗殺者――通称『リコリス』。

 

 

 

「これからよろしくね――『ヨナ』!」

「………………よろしく」

 

 

 

 

 僕は、 銃で武装し人を撃つ。そんな少女達と――――喫茶店で働いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本の首都『東京』。

 天を閉ざすように高く伸びるビルに囲まれ、道路には溢れんばかりの車や人々が流れを作る。

 そんな流れに取り残される様にして、道路の脇に立つ一人の少年が高層ビルの合間から覗く建築物の残骸、半ばからヘシ折れた東京タワーを眺めていた。

 一国の首都と言う事もあって、老若男女どころか、国籍も違う人々の中に在って、少年の風貌は目立っていた。

 何の変哲もない――要所に特徴的な意匠を施されているが――黒い学生服の上にあるのは、整ってはいるが幼さの抜けきらない顔立ち。もう少し年を重ねれば精悍(せいかん)さを見せるだろうが、今はまだ愛嬌の方が強い印象を受ける。

 

 しかし、それ以上に目を引くのは、黒人のような褐色の肌に、色素の薄い銀髪と光が差さない程深く沈んだ赤い瞳。

 一目でわかる人種の違いから道行く人々の目線に晒されながらも、しかし少年はそれを意にも介さず立ち続けている。 

 そんな少年の前で、一台のタクシーが停まる。

 

 

「待たせた。さあ乗ってくれ」

 

 

 タクシーの助手席の窓が下ろされ、そこから顔を出した黒人の男性が少年に声を掛けると、後部座席の扉が運転手の操作で開かれた。

 少年が車に乗り込んで扉を閉めると直ぐに、タクシーはゆっくりと発進を始める。

 

 

「君がこれから働く先では私を除いて四人の従業員がいるんだが、全員こちら側の()()を知る者ばかりだ。まあ、四人共個性的だが怖がることはない」

 

 

 車が移動する中、男性は後ろに座る少年に語り掛けた。

 バックミラー越しに見える少年はしかし、男性に声を返すことなく窓の先の流れる景色を見つめ続ける。

 

 

「特に、四人の内の一人。こいつが一番個性的ではあるんだが……その子は君と『同じ』だ。仲良くしてやってくれ」

「……」

 

 

 男性の言葉に、少年は窓から男性の背中へ顔を向けた。バックミラー越しに男性の目と少年の柘榴石(ガーネット)の様な目が合った。

 

 

「……気が向かない、か?」

「……、…………別に」

 

 

 男性が向けた問いに、ポツリと返された少年の初めての返答。

 ()れた少年の様子に男性は苦笑する。

 

 

「私と話すのは嫌かい?」

「……喋るのが嫌いなんだ」

「気持ちは分かるが、これから君が働くのは私の経営する喫茶店だ。当然色々な客が来るし、君はそれに対応しなければならない。まあ、何が言いたいのかと言えば、だ」

 

 

 それまで静かに道を進んでいた車は速度を落とし、やがて停車する。

 

 

「君はこれから日の下に顔を出す事になる。……ゆっくりとでいい、馴染んでくれ」

 

 

 男性は運転手に代金を渡し、降車する。少年もそれに続いて車を降りた。

 少年の目の前には、一件の喫茶店。

 

 

「ようこそ、和風喫茶『リコリコ』へ。歓迎するよ」

 

 

 

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 

 

 車から降りた男性は、脚が悪いのか杖を突きながら店の前までの短い距離をゆっくり進み、少年もその背に続く。扉に掛けられた『CLOSED』の看板を気にすることなく男性は扉を開けて中に入っていく。

 少年も男性のすぐ後に扉の中へと足を踏み入れる。扉が閉まり、ドア上に据えられた小さなベルがカランコロンと音を立てて揺れた。

 少年が店内に目を通せば、和風喫茶と名のつく通り、木や畳が温かみを感じさせる、落ち着いた雰囲気のある店の様だった。

 

 

「お前達、一旦手を止めてこっちを見てくれ。この前にも言ったが、今日から新入りがここで働く事になる。仲良くしてやってくれ」

 

 

 少年が店の中に入ったことを確認した男性がパンパンと手を叩き、店内の掃除や飲食物の準備をしていた従業員たちの注目を集めると同時に少年を紹介する。

 

 

「えっ、店長が言ってた新入りって、男の子だったの!?」

 

 

 男性の言葉と少年を見て、麻木色の和服を着こんだ眼鏡をかけた妙齢の女性が驚きを露わに大きな声を出す。

 

 

「その人がこの店で働くって、いいんですか? 私はてっきり、その、私の『前の職場』の方だと思っていたんですが」

 

 

 青い和服の黒髪の少女は男性の横に立つ少年に目を向けた後、男性に疑問の言葉をかけた。

 その顔と声には戸惑いの色が強く見え、少年を歓迎できている様子には見えない。

 

 

「それについては安心してくれ。所属は違うが彼もお前達と同じだよ。事情については確りと理解している」

「はあ……それならいいのですが」

 

 

 男性の言葉に黒髪の少女は納得したようだったが、理解がまだ追いついていないのか目をぱちぱちと瞬かせながら少年を窺っている。

 少女の様子に男性は苦笑を漏らし、そこで、何かが足りないと思い至ったのか麻木色の和服の女性に尋ねる。

 

 

「チサトはどうした。こういった話題にはまっさきに食いついてきそうなのに」

「アイツは今は奥に引っ込んでるクルミを引っ張りに行ってます……ってぇ、噂をすれば」

「もぉ~クルミもちゃんと手伝っててばぁ。今日は新しい子も来るみたいだし」

「わかった。わかったから引っ張るなって」

 

 

 店の奥から顔を出したのは、赤い和服を着た黄色がかった白髪の少女と、黄色い和服の金髪の少女達。

 金髪の少女の襟首から手を離した白髪の少女がこちらを向くと、少女の赤い眼と少年の深紅の眼が合った。

 白髪の少女は少年の姿を目に入れると同時に、パッと花が開くような喜色満面の笑顔を浮かべ、一瞬の間に店の奥から少年の元へと飛び込んでくる。

 

 

「わぁっ! もう来てたの!? キミが先生の言ってた新人のコ?」

「まあ、待てチサト。今から彼の紹介をするところだったんだ。お前がはしゃいでいると話を始められんだろう。……すまんな、さあ」

 

 

 興味津々と言った様子を隠すことなく、少年の周りをくるくると回りだした少女を、男性はその大きな手で頭を押さえつけて動きを止めて、沈黙を保ち続ける少年を促した。

 ぽんと、男性に腰を柔らかく押された少年は、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「……徐納(じょな) (まる)だ」

 

 

 そして少年は口を閉じた。

 店内を沈黙が包む。

 

 

「……」

「……」

「……え、それだけ?」

「ハァ……」

 

 

 年かさの女性が拍子抜けしたように(こぼ)し、男性が目頭を揉みながらため息をついた。

 

 

「……彼も戸惑っているんだろう。しばらくの間は色々と不慣れだろうから助けてやってくれ。特に千束(ちさと)とたきな。彼は君達と似た境遇の者だから、共感できることも多いだろう。色々と教えてあげなさい」

「はーい先生! それじゃあよろしく新人くん! 千束(ちさと)で~す!」

「……」

「キミ可愛いねぇ! ねえねえ、年齢(トシ)はいくつ?」

「……13だ」

「うわっちっちゃーい! 私の方が年上だけど千束(ちさと)でいいよ! 何ならお姉ちゃんでも可!」

千束(ちさと)、あまり初対面で馴れ馴れしくすると、彼も困りますよ。どうも、私は井ノ上(いのうえ)たきなです。事情を知っているようなので言いますが、私も千束(ちさと)もリコリスです。貴方もそうなんですか?」

「僕はリコリスじゃない。リリベルの方だ」

「ああ、なるほど。以前に聞いた事があります。そうですか、貴方が……」

「まあまあまあ、いいじゃんそっち系の話は今は! ねえねえキミの事なんて呼べばいいかな? 徐納(じょな)くん? (まる)くん?」

「どっちでもいい。好きに呼べ」

「うーん、でもどっちも言いにくいんだよねぇ……徐納(じょな)くん、(まる)くん……ジョナマルクン、ジョマル?」

「失礼ですよ千束(ちさと)。普通に(じょ)にゃさんでいいじゃない、です……か……」

「ぷっふぅー、たきな噛んでるぅー!」

「うっ、うるさいですよ千束(ちさと)! じゃあ千束(ちさと)が言ってみてくださいよ!」

「私は言えるもんねー、徐納(じょな)さんじょなさんジョナサン! はいっ次たきな!」

「じ、徐納(じょな)さん、徐納(じょな)しゃん、じょにゃさん……くっ!」

「あはは、ってうわー! 掴みかかって来るなぁ!」

 

 

 少年の名前を使って同僚をイジリ始めた白髪の少女、千束(ちさと)に黒髪の少女、たきなが顔を赤くしながら襲い掛かった。

 じゃれつき合う少女たちから距離を取る少年に、二人の女性が近づいてくる。

 

 

「いやーびっくりびっくり。まさか新入りが男の子で、しかもリリベルだなんて。アタシ初めて見たわ。あ、私は中原 ミズキ。ミズキでいいわよ。そんでこっちが」

「クルミだ。よろしくな新入り」

「ああ」

 

 

 メガネをかけた女性がミズキと名のり、その後ろから小柄な金髪の少女が顔を出し、少年に自己紹介する。

 クルミは少年を遠慮することなくジロジロと見遣り、ふふん、と鼻で笑った後少年の事を見上げた。

 まるで小生意気な幼女の仕草のソレに、気を緩ませかけた少年は次に少女から飛び出した言葉に眉を寄せた。

 

 

「しっかしお前小さいなー、千束(ちさと)よりもまんま子供だな」

「ちょっとクルミー、どういう意味それぇ?」

「……僕はお前よりチビじゃない」

「はぁ!? ボクはお前と違って女だからいいんだよ! てかチビっていうな!」

「……あっちの二人もうるさかったけど、お前もうるさいな」

「……おいミカ! こいつ生意気だぞ! ボクがどれだけすごい存在なのかちゃんと教えておけよな!」

「まあまあ、お互いとも初対面で喧嘩をするな。(まる)、お前もこれからこの店で働くんだ。周りに歩み寄る姿勢を見せなさい」

「……望んでここに来たわけじゃない」

 

 

  クルミにミカと呼ばれた男性が苦笑を浮かべながら少年を窘めるが、少年は不服そうに小声を漏らしミカから顔を逸らした。

 

 

「お? 徐納(じょな)くんもここに来たばっかのたきなとおんなじ感じ?」

 

 

 たきなに押し倒されながら、両手を掴んで止めていた千束(ちさと)が少年の発言に反応してそう言った。

 

 

「どういう意味だ」

「たきなはねー、本部のミスを隠すためにここに送られてきたんだよ。まあ本人の命令無視も原因の一つだけど」

「ちょっと千束(ちさと)!」

「んで、その本部のミスの原因がそこにいるクルミ」

「フフン。ボクは凄腕のハッカーなんだ。DAの『ラジアータ』をハッキングすることだって出来るんだぞ」

「それはすごいな」

「そーだろ! 分かればいいんだ、分かれば」

 

 クルミが自慢げに言った過去の犯行に少年は素直に感心した。

 DA本部に設置されたAIの『ラジアータ』は最高峰の性能を持ち、並み居るハッカーには手出しできない堅牢さを誇っているのは、少年も良く知る事だった。

 それをハッキング出来るとはとてもではないが信じがたく、しかし店内の者全員の様子から見るに少女の話が嘘でもないからして、少年は目の前の小さい少女の事を見直した。

 

 

「それで? お前はどうしてこんな店で働く羽目になったんだ? たきなと同じなのか?」

「こんな店とはなんだクルミ。彼の事情については、そうだな……(おおむ)ねはたきなと似たようなものだ。彼も本部の判断によって元いたリリベルの部隊からここに派遣――という形になっている」

「私って、というかたきなもリリベルの事よく知らないんですけど、先生は知ってたんですか?」

「まぁ、お前達よりかはな。以前リコリスの教導役を務めていた頃何度か関係を持った事がある。さあ、(まる)の紹介も終わった頃だし、そろそろ時間だ。急いで開店の準備に移ろうか。(まる)は私の手伝いをしてくれ」

 

 

 ミカの言葉を皮切りに従業員たちは作業に戻り、少年もミカの後ろをついていく。

 そして入り口前の扉にかかった看板が裏返され――『OPEN』の文字が晒される。

 軒先で笑顔を浮かべる看板娘の明るい声と共に、今日も喫茶店は開かれ辺りに珈琲と和菓子の甘い匂いが漂い始めた。

 

 

「いらっしゃいませ! 『リコリコ』へようこそ~!」

 

 

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 

 

 バン、バンバンバンッと、銃声が響く。

 黒髪の少女が構える拳銃の銃口から吐き出された硝煙が空間を白く濁らせ、やがて換気扇に吸い込まれて消えていく。

 撃ち出された弾丸は人型のパネルにいくつも穴を開け、それらは頭、心臓といった人体の急所に集中している。

 

 

「いやー相変わらず正確だねぇ。ホント機械並~」

「このくらいできて当然です」

「もう、褒めてるのにつれないんだからぁー、それじゃあ次は、新人君の腕前はいけーん!」

「……ん」

 

 

 少年と二人の少女がいるのは喫茶店の地下にある射撃場。

 喫茶店の業務を終えた後、三人はお互いの腕を見る為に地下に降りて来ていた。

 手本として銃を撃ったたきなの横のスペースに少年は入ると、自前の拳銃を構える。

 拳銃を構え、照準を合わせる少年の眼には光がなく、何処までも深く沈んでいく。

 息を吸って、止める。引き金にかかった人差し指が引かれ、弾丸が撃ち出される。

 

 連続して銃声が鳴り、マガジンに入っていた弾を全弾撃ち尽くした後、少年は構えを解き、少女達は息を飲んだ。

 

 

「……すっご」

「え、穴が?」

 

 

 少年の足元に転がる空の薬莢は数発分。しかしパネルに空いた穴は一つ分だけ。

 

 

「ワンホールショット? 漫画じゃん」

「すごいですね……なぜこれほどの腕がありながらウチに送られるんでしょうか」

 

 

 全弾を全く同じ箇所に射撃する。言うのは簡単だが実行するとなると話は別だ。

 余りにも難易度の高い離れ業を、こともなげにやって見せた少年に、少女達は驚きを隠せない。

 

 

「もういいか」

「ちょいちょーい、私の番がまだでしょ? さっきのは確かにすごかったけれど私にも見せ場を頂戴ってば」

「……なら早くしてくれ」

 

 

 自分の腕を認められ、褒められたというのに妙に不機嫌そうにする少年を気にすることなく、千束(ちさと)は射撃スペースに入り――銃を撃つ。

 マガジン一つ分を全て撃ち終わった後、パネルに空いた穴は少年と同じく一つだけだった。

 

 

「ま、ざっとこんなもんかな」

「偉そうにしてますけど一発以外全部外しているじゃないですか」

「一発当たったじゃ~ん!」

 

 

 千束(ちさと)の撃った弾がパネルに命中したのは一発のみ。他はパネルから外れ、奥の壁に当たって砕けていた。勿論、成績的には三人中最下位だ。

 しかし、それは千束(ちさと)の射撃が特別下手なのではなく。

 

 

「……今のは何だ。何を使ったんだ」

「知りたい? さっき私が撃ったのはコレ。テッテレテッテッテ~非殺傷弾~(裏声)。コレ、当たると死ぬほど痛いんだ。死なないけど」

「何でそんなものを使うんだ。弾道がブレてロクに当たらないんじゃないか?」

「当たらないよ? だから相手に近づいてから撃つの」

千束(ちさと)の使う非殺傷弾は実弾と比べてかなり高額なので、あまり撃ってもらいたくないんですが。徐納(じょな)、さんの腕ならこの弾も使えるのではないですか?」

「……試してみる」

 

 

 そう言ってたきなから渡された千束(ちさと)用の予備のマガジン。

 少年は受け取ったそれを空になったマガジンと交換しながら射撃場に入り、弾丸を撃ち出した。

 初めの数発は大きく外れたものの、その後は全弾命中。しかし精度は悪く、着弾箇所はバラバラだった。

 

 

「わー、やっぱすごいねぇ。あの弾をここまで当てれるとは」

「ですね。私ももっと腕を上げないといけません」

「……」

 

 

 感嘆の声を上げる少女たちの声にも耳を傾けず、少年は射撃場に転がる赤い破片を、標的に当たって砕けたゴムの欠片をじっと眺め続けた。

 

 

 

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 

 

「今回のお仕事は~、じゃじゃん! 運送です!」

「正確には機密書類の受け渡しの依頼、だな」

 

 

 閉店後の喫茶リコリコに、従業員全員が集まり机の上に置かれた数枚の書類を囲んで座っていた。

 自慢げにテーブルに広げられた紙の前で両手を開いた千束(ちさと)を横に、隣に座るクルミが机の上から一枚、手に取った紙をヒラヒラと振りながら千束(ちさと)の言葉に補足し、詳細を語り始める。

 

 

「とある大企業に勤める依頼主がなんとか掴んだ情報――企業が反社会組織に資金を横流ししていた証拠を、(しか)るべき場所まで送り届けるのが今回の依頼だ」

「そういうのは私達でなく警察の仕事なんじゃないですか?」

「それがだな、その大企業は政界にも顔が効くほどの力を持っていて厄介なんだ。警察に言っても上の方で握りつぶされる。だから私達に頼んだんだ。そして送り届けるのは依頼主がいた所とは別の大企業――問題の所と同じくらい力の強い所の力を借りて潰して貰おうってことだ」

「やぁねー汚職ばっか。政治家はみんな腐っているー! みたいな?」

「止めなよミズキ。政治家の人だって皆が皆悪い人じゃないでしょ」

「明日、この地図の地点で依頼人から渡される書類を、指定の場所で待機している企業関係者の人物に渡せば今回の依頼は達成だ。何か質問はあるか? 特にそこの新入り! さっきから銃をイジッてばっかだがボクの話をちゃんと聞いてるのか?」

「聞いてるよ。僕達がその依頼を受けるのは分かったけど、紙を運ぶくらい誰でもできる。なのに僕達に依頼したのは、何か危険が想定されるからか?」

「まあそうだな。その疑問はもっともだ。さっきも言ったが。ボク達が運ぶ書類は反社会的組織への資金の流れが記されている。それが他所に渡るとソイツ等も困るわけだ。情報は既に漏れている。十中八九、妨害してくるだろう」

「ふーん」

「今回の報酬は前金有りでかなりの額だ。結構な距離を移動するからお前等の本部から車を借りている。ボク達も補佐するし必ず成功させるんだぞ」

「当然です」

「まっかせてー、私、失敗しないので!」

 

 

 クルミの説明が終わり、千束(ちさと)達が意気を上げるを聞きながら、少年は地下射撃場で使用した自前の拳銃の整備を終えた。

 最後にスライドを引いて動作を確認した後、安全装置(セーフティ)をかけてから腰後ろのベルトに差し込んで少年は立ち上がる。

 

 

「ミカ、僕の寝床に案内してくれ」

「ん、分かった。それじゃあついて来てくれ。……歯はもう磨いたのか?」

「話の前に磨いたよ」

 

 

 ミカと少年が店の奥に姿を消し、その場には少女達(うち一人はアラ(ピー)ー)だけが残される。

 

 

「……で、どうなんだあの新入りは」

徐納(じょな)、さんですね。地下の射撃場で見せて貰いましたけど、射撃の腕はかなりのものでした。それと初対面の時からずっと、気配の鋭さは尋常じゃないですね。今日は裏方に専念して貰いましたが、あれでは表に出た時お客さんが怖がってしまいます。彼も私達と同じDAの組織に居たなら殺気の消し方くらい知っていて当然だと思うんですが……」

「それはちょっと間違った認識かもねー」

「ミズキはなんか知ってるの?」

「いや、私も本部に居た時ちょっと耳にしたくらいで詳しくは知らないんだけど、あんた達カワイコちゃんばっかのリコリスと違って、(いか)つい野郎ばかりのリリベルは警戒されやすいから、暗殺よりも破壊工作要員の側面が大きいのよ。だから、潜入とか一般人に溶け込むための技術はあまり教えて貰ってないのかもね」

「なるほど、道理で……」

「んー、まあでも、心配する必要はあんまりないんじゃない?」

千束(ちさと)?」

「あの子は今は周りの環境が変わってギューッて固くなってるだけで、その内ここにいる間にホワーって(ほぐ)れて、柔らかくなるよ、きっと」

「お、早くも彼女面かぁ~? 男が来たからって色気ついちゃって、まあ」

「うるさいなー、そんなんじゃないっての」

「アタシもなー、あの子がもうちょっと成長してたら、オトナのオンナの魅力を教えて上げれたのになー、13歳はなー」

「ミズキ、犯罪は駄目だよ。年齢差を考えろ年齢差を」

「うるっさいわぁ! 冗談に決まってんでしょうが! 後、トシの話はするんじゃない!」

 

 

 その後も続いた世間話は、少年と依頼に関する話題が流れた後も、少女達は和気あいあいと別の話題を次々と持ち上げお喋りに盛り上がっていった。

 こうして、男性陣をのけ者にした女子たちの依頼前夜は更けていく。

 

 

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 

 

「それでは、この書類をどうか頼みます」

「確かに受け取りました。貴方はこれからどうされるんですか?」

「こちらの方で別の護衛を雇っております。ヤツ等の目を(くら)ます為にもこちらはこちらで行動を起こします。貴方方はそれを無事に届ける事のみに専念して下さい」

「分かりました。そちらもどうかご無事で」

 

 

 夜が明けて早朝。千束(ちさと)、たきな、少年の三人が受け取った書類の入った茶封筒と共に車に乗り込み依頼を開始する。

 運転席には偽造免許証を持つたきなが座り、助手席には千束(ちさと)、後部座席にはエナメルバッグを膝上に乗せた少年が座っている。バッグの中には少年の仕事道具である大小様々な銃器や装備が詰め込まれていた。勿論、千束(ちさと)やたきなの持つ学生鞄にも、同じように武器が入っている。

 物々しく武装した未成年の少年少女が乗り込み運転する車内ではあるが、その雰囲気は明るく、そして軽いものだった。

 口数の少ない少年はともかく、少女たちの方は(かしま)しくお喋りを続けている。

 そんな穏やかな時間が流れる中、少年が少女たちの声を聞きながら開けた窓から外の風景を眺めていると、不意に思いついたのか千束(ちさと)が声を掛けてきた。

 

 

「そう言えば新人君はさー、見た目からして日本人ぽくないけどハーフか何か?」

「ちょっと千束(ちさと)

「別にいい。僕は日本と中東のハーフだ。母さんが日本人、NGOで医師をやってて向こうで知り合った父さんと結婚した。母さんは父さんと一緒に日本に帰って僕を産んで、僕が五歳くらいの時に二人一緒にNGOとして向かった外国で殺された」

「あー、なんかゴメン……」

「別にいいって言ったろ。気にしてない。父さん、母さんが死んだ時、僕も一緒に外国にいたけど、国籍が日本にあったからこっちに戻ってきてリリベルに拾われたんだ」

「おぉう、波乱万丈(はらんばんじょう)……」

「だから止めたのに。これに懲りたら人の事情に無暗に顔を突っ込まない様に」

「はぁい……」

 

 

 しばらく車内に気まずい空気が流れ、エンジン音だけが三人を包む。

 声が途切れ、静かになった車内の中で、最初にソレに気付いたのは少年だった。

 

 

「……ねえ」

「おっ、何々? 何でも聞いて!」 

「ココでの尾行者の扱いは?」

「そりゃもう、先手必勝!」

「敵勢力の即時無効化を第一に、振り切るのが無理なら誘い込んで撃退します」

 

 

 少年が投げかけた疑問に千束(ちさと)が殴りつける素振り(ジェスチャー)を、たきなが定石(セオリー)通りの返答を返す。

 千束(ちさと)の先手必勝、の「()」の辺りから少年はエナメルバッグから突撃小銃(アサルトライフル)を取り出すと、開けていた窓から身を乗り出し、後方に向けて発砲した。

 

 

「ちょぉ!?」

 

 

 ダダダダッ! ダダダダッ! と全自動(フルオート)の射撃が後ろを走っていた車両に向かって撃ち出され、弾丸に晒され制動力を失った車は、大きく蛇行した後ガードレールに衝突し、雷鳴のような轟音を立てて動きを止める。

 

 

「いきなり何! キレる十代!?」

「尾行者ですか!? と言うか撃つ前くらい何か言ってください!」

「そんな暇ないよ。今のは斥候(せっこう)だ、次からのが本番」

 

 

 少年の突然の暴挙に慌てふためく二人に、少年は呆れを露わしながらカーチェイスの始まりを告げる。

 

 

「事前に目標を告知されている事が多いお前達(リコリス)と違って、僕達(リリベル)は不意の遭遇戦(そうぐうせん)が多いんだ。追跡者の察知なんかは必修技能」

「それでも『報・連・相』は大事でしょ! え、ていうか()っちゃったの!?」

()ってない。タイヤをパンクさせただけだ。そんなに速度も出てなかったし、死ぬことはないと思う」

『――新入りの言う通りだ。さっきの車は反社会組織のもので、怪我はしているようだが一人も死んじゃいなかったぞ』

「クルミ!」

 

 

 三人が耳に付けている無線機から少女の声が聞こえてくる。喫茶店からドローンを操作して三人の動向を見守っていたクルミの声だ。

 

 

「ちょっとちょっとー! なんで私達の事こんな早くばれてんのっ!?」

『ボクの責任じゃないぞ。どうやら依頼人の護衛に裏切り者がいたみたいでな、さっき連絡があった。今確認したけど、前方から一台、後方から三台の車両が向かって来てるぞ。新入りの言った通りこいつらは新手だな』

「たきな!」

「はい!」

 

 

 千束(ちさと)の呼びかけにたきなが返事を返し、ハンドルを大きく切った。

 十字路の交差点をほぼ直角に曲がり、進路を変える。

 それまで守っていた法定速度を大きく超え、なおもたきなはアクセルを踏み込んだ。

 

 

『そのまま真っすぐ走れたきな。ボクが奴等の動きを見ながらナビをする』

「分かりました!」

 

 

 それからたきなはクルミの指示通りに従い車を進め、追跡者たちから度々(たびたび)撃ち出される銃撃を、千束(ちさと)と少年が撃ち返すことで牽制しつつ、鳴り響く銃声に動揺する他の車両を追い越しながら三人は少しずつ目的地へ近づいていく。

 少しでも周囲の被害を抑える為に、クルミのドローンで渋滞する道を避け、信号はクルミのハッキングによって強制的に青に変えられていく。

 三人の乗る車両を追跡する四台の車は、道中で千束(ちさと)と少年の射撃によって二台へと数を減らしていたが、残った二台は諦める様子もなく追従を続ける。

 追跡者に動きが起こったのは、三人の乗る車が河川にかかった長い橋の上に入った時。上空からドローンで俯瞰(ふかん)していたクルミがそれを見て声を上げた。

 

 

『おいやばいぞ! 向こうが何か取り出してきた! えっ何だミズキ……ハァッ!? 対戦車ミサイル!?』

「対戦車ミサイル!?」

「なんでそんなモンをあいつらが持ってんの!? ていうか、こんな市街地でミサイルぶっ放すつもりっ!?」

 

 

 無線機から飛び出したクルミの叫びに、千束(ちさと)達は目を剥かんばかりに驚く。バックミラーから後方の様子を見れば、確かに助手席から身を乗り出す人物が筒状の物をこちらに向けて構えている。

 

 

「どうしようたきな!?」

「どうすると聞かれても……いっそ撃たれる前に車ごと川に飛び込むしか」

「僕がなんとかする。二人は頭を伏せて。たきなは何があってもまっすぐ走り続けてくれ」

「え、新人君!?」

 

 

 エナメルバッグから取り出した拳大の黒いボールをポケットに入れた少年は突撃小銃(アサルトライフル)をその場で構える。

 バガガガッと車内で発砲し、接合部を破壊されたドアを少年が蹴破った。

 車両と切り離され、地面に落ちたドアが盛大に火花を散らしながら道路上を滑っていく。

 後方から追跡する車を運転していた者は、突如現れた障害物を躱す為に咄嗟にハンドルを大きく切った。助手席から身を乗り出しミサイルを構えていた者がそれによって体勢を崩し、ミサイルを撃つことが出来ない。

 そうして生まれた僅かな猶予。少年はドアのあった場所から天井の()()を掴むと、逆上がりする様に車の天井に飛び乗った。

 

 外に出た少年はこちらに対戦車ミサイルを構え直した男を見た。そして少年が送り付けた嫌がらせ(ドア)のお返しとばかりに発射されるミサイル。同時に少年はポケットから取り出した()()()のピンを引き抜き投げつけた。

 

 炸裂する手榴弾。

 

 発射されたミサイルのちょうど真下で爆発した手榴弾。爆風に煽られたミサイルは制御を失いその進路を斜めにズラす。ミサイルはフラフラと怪しげな軌道を描いて三人の車を追い越すと、そのまま橋から河川へと落ちていき――着弾した。

 

 閃光と轟音。そして巨大な水柱が立ち昇った。

 

 

「「きゃあぁぁぁっっっ!?」」

「――……ッッ!」

 

 

 ミサイルが爆発した衝撃が橋を大きく揺らし、吹き飛んだ川の水が豪雨の様に降り落ちる。

 バケツをひっくり返した様な降水の中、衝撃に震える橋ごと少年たちの乗る車もガタガタと揺れる。

 しかし、車は無事に走行を続け、少年の言葉通りたきなは真っ直ぐに車を走らせ続けた。

 

 

『よくやった新入り! だがもう一台の方もミサイルを取り出してるぞ!』

「大丈夫。次は撃たせない」

 

 

 天井の()()にしがみついて衝撃をやり過ごした少年がズブ濡れになりながら、クルミの声に応えて体を起こし、再び銃を構えた。

 

 

 障害物(ドア)を避ける為に大きく横に反れた事。

 着弾したミサイルの衝撃と大量の降水に後ろの車両も巻き込まれた事。

 大威力の兵器で少年たちを始末するため、不要と判断したのかそれまで撃ち続けられていた銃撃が無くなったこと。

 

 そして、ミサイルの射線を開ける為にそれまでずっと立て並びに三人を追ってきていた、二台の車が横並びになった事。

 速度、視界、環境、そして位置関係――それらが合わさった状況下。

 少年の血の様に紅い柘榴石(ガーネット)の瞳が、獲物を射抜くように細められた。

 

 

 スゥ、と息を吸って、止める。引き金にかかった人差し指が引かれ――、

 銃声――破裂音――が二つ、三つ、四つ。

 

 

 銃弾に撃ち抜かれ、二台の前輪が全てパンクする。破裂したタイヤが車の制御を奪い、走行の安定性はすっかり失われ、頭を振る様に蛇行する。

 揃ってギャリギャリと地面とホイールを擦り合わせて火花を上げる二台の車は、そして惹かれあう様にして互いにぶつり合った。

 

 たきなの運転する車が動きを止めた二台を置き去りにして、やがてそれらは小さく、見えなくなっていく。

 

 

「…………フゥ」

 

 

 それらを見届けた少年が詰めていた息を吐き出して、天井上から車内に戻ると、歓声が少年を向かい入れた。

 

 

「助かりました、本当にありがとうございます」

『ああ、さっきのは見事だったな新入り! お前の事を見直したぞ!』

「ホンット凄かったねぇ! アニメみたいだったよ、ヨナ!」

 

 

 三人の少女達の称賛の言葉に、いや、千束(ちさと)の声に少年は反応を見せた。

 

 

「……その、ヨナって言うのは僕の事か」

「うん、そうだよ! 昨日からずっと君の事なんて呼ぼうか考えててさ、今さっきピーンとね!」

「……そうか」

「あれ、アダ名は嫌だった?」

「いや、好きに呼べって言った」

「じゃあ今度からヨナって呼ぶね! たきなとクルミもそう呼びなよ! ヨナには悪いけど徐納(じょな)さんって呼び辛いでしょ?」

『んじゃ、ボクとミズキもこれから新入りの事はヨナって呼ばせてもらうなー』

「……、……そう、ですね。私もヨナさんと呼んでもいいですか?」

「ヨナでいい。僕もたきなって呼ぶ」

「あ、そーだ。さっきさぁヨナ、たきなの事名前で呼んでたでしょ? 聞き逃さないんだから。あれイイなー、私まだ名前で呼ばれてないしぃ」

「……」

「って、呼ばないんかいっ! 呼ぶでしょフツウ! ここはさぁ!」

「……さっきまでたくさん喋ってたから疲れたんだ。服が濡れてキモチ悪いし」

 

 

 それきり肌に張り付く衣服を不快そうにしながら黙り込んでしまった少年――ヨナに、千束(ちさと)はもー、もーと牛の様に唸り始め、それにたきなとクルミが笑い声を漏らす。

 危機的状況から逃れた為か、目的地へと進み続ける車内は一転して緩やかな雰囲気に包まれた。

 

 

 

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 

 

 

『そっちにも見えてきたんじゃないか? 目の前の廃工場が受け渡しの場所だ』

「ええ、見えてます」

 

 

 追手を撃退してから、妨害らしいものもなく順調に進むことが出来た三人は、だんだんと大きくなっていく目的地へと目を向けた。

 

 そこは海沿いにある、とある工場の跡地。

 トタン板が所々剥がれ落ち、海風に晒され錆の浮いた鉄骨がむき出しになった建物は、周囲に目立って高い建物もなく狙撃の心配も少ない。

 潰れた工場と言う事もあって、遠目に小さく港が見える程度で周囲に人気もない。秘密の取引には最適な場所と言えた。

 

 

「ふぃー、到着! 一時はどうなるかと思ったけどー!」

「そうですね、ヨナが仲間に入ってくれて本当に良かったです」

「まだ依頼は終わってないだろ。早く約束の場所に行こう」

「んもう、硬いんだからぁ」

「いえ、ヨナの言う通りです。すみません、油断してしまいました」

「あーん、たきなも硬いー」

 

 

 近くに車を停めた三人は工場内へと入っていく。ちなみに、ずぶ濡れだったヨナの服は、廃工場に到着するまでの間に生乾き程度まで水気を切っていた。

 それでも不快な事には変わりないらしく、追跡者を撃退してからずっと不機嫌そうに顔をしかめている。

 そんなヨナの様子に少女たちは苦笑しながら開けっ放しの扉を潜り抜け、工場の中に足を踏み入れると同時。一発の銃声と共に床の鉄板に穴が開く。

 

 

「動くな」

 

 

 工場内に居たのはこちらに硝煙を立ち昇らせた拳銃を向ける、頭髪を金に染めたサングラスの大柄な男と、その取り巻きの様に立つ二人の男達。全員手には拳銃が握られ、その足元には縄で縛られ地面に転がっている二人の男女。

 捕まっている二人の内、男性の方は顔見知りだった。千束(ちさと)達に書類の運送を依頼した依頼主だ。

 

 

「驚いたな。追手が全員やられたなんて聞いたからどんなゴツイ奴かと思えば、こんなガキ共だったとは」

「えーと、これは一体どういった状況で?」

「とぼけるなよ。見て分かるだろう? お前等の負けだ。依頼主(コイツ)達を殺されたくなければ、大人しく書類を渡せ」

 

 

 千束(ちさと)が冷めた目で男達を見ながらそう言えば、取り巻きの男の一人が、千束(ちさと)達に見せつける様に、縛られた男女に拳銃を向けた。

 

 

「コレを渡せば、その人達を無事にこっちに渡してくれるの?」

「それはお前達の態度しだいさ。さあ、分かったら武器を捨ててさっさとソイツを寄越せ」

「はいはい。……たきな、ヨナ」

「……仕方ありませんね」

「ん」

 

 

 ドサドサとたきなとヨナが持っていた学生鞄とエナメルバッグを地面に落とし、両手を上げる。

 

 

「はーい、じゃあ今から書類を取り出すけど、怪しいからって撃たないでねー。この場で武器を取り出すほど馬鹿じゃないよ」

「賢明だ。だが念のためゆっくりと動いてくれよ? ビビッて引き金を引いちまうかもしれねぇからな」

「心配しなくても変な真似しないってば。……はい、これで満足?」

 

 

 千束(ちさと)が男の言葉通りにゆっくりと鞄から書類の入った茶封筒を取り出した後、先程の二人と同じように鞄を地面に落とす。

 千束(ちさと)は茶封筒を持ったまま、それを掲げる様に両手を上げた。

 

 

「おい」

 

 

 千束(ちさと)達に銃を向けるリーダー格の男が、人質に拳銃を向けている者とは別の男に指示を出し、声をかけられた男はそれに従い千束(ちさと)の下へ近づいて茶封筒をその手の中から抜き取った。男は金髪の男の元へと戻ると、金髪の男にも見える様にして中身を確認する。

 

 

「本物です」

「良し。……それじゃあ嬢ちゃん達、悪いがソレの存在を知ってる奴が生きてちゃコッチは困るんだよ。だから――死んでくれ」

 

 

 金髪の男が両手を上げたままの千束(ちさと)へ、躊躇(ちゅうちょ)することなく拳銃の引き金を引いた。廃工場内にパン。と乾いた銃声が響く。

 

 放たれた銃弾は真っ直ぐに千束(ちさと)の髪の中を貫き、黄色みがかった白い髪の毛が数本、剥がれ落ちた外壁から差し込む日光に反射してキラキラと宙を舞う。

 頭を僅かに横にずらした千束(ちさと)には、僅かな負傷も見られない。

 

 

「ハァッ? 避け――ありえねぇ!?」

「うわぁ、もう絵に描いた様な悪役だね、アンタ達。分かりやすすぎ」

「クソがっ! 死ねぇ!!」

 

 

 呆れた声を出す千束(ちさと)激昂(げきこう)した金髪の男が、即座に連続して発砲するも、千束(ちさと)は僅かに体や頭を動かすだけで放たれた銃弾を全て避けきった。

 これには男達も想定外だったようで、その顔に見えていた最初の余裕は消え、今では現実に理解が追いつかない困惑と、僅かな恐怖が浮かび上がっていた。

 

 

「化け物かよ!? お前等っ後ろのガキ共から先に殺せ!」

「ヨナはしゃがんで私の後ろに!」

 

 

 男達は千束(ちさと)に向けていた拳銃の銃口を千束(ちさと)の横に立っていたたきなとヨナへ向けた。

 それを予想できていたのか、たきなは淀みなくヨナに指示を下し、ヨナも即座にそれに従う。

 スライディングの要領でたきなの背中側へと移動するヨナ。たきなもまた、ヨナへの指示と同時に自分もしゃがみ、床に落としていた学生鞄に触れると、とあるギミックが解放される。

 

 男達が二人に向かって銃を撃つよりも先に、たきなの学生鞄から飛び出した白い布が一瞬で袋状に膨らみ、人間大にまでなったソレが放たれた銃弾を受け止める。

 たきなが学生鞄から出したのは、特殊な素材で構成された、車のエアバッグの様な即席の盾。

 二人に放たれた銃弾は盾に防がれ、命中するに至らない。しかし、袋状の盾は弾が当たった穴から空気が抜けてしまいすぐに(しぼ)んでしまう。

 たきなの盾によって一瞬だけ遮られていた視界と射線が、盾が消えた事でたきなと男達の間を再び繋げる。

 そうして再度の発砲音、放たれた弾丸は今度は命中した。 

 

 

「――ガァッ! 痛ぇ!?」

 

 

 工場内に上がった、痛苦に叫ぶ男の声。

 盾に守られ隠されていた二人の姿が再び男達の視界に入る。男達が二人に照準を合わせて引き金を引くよりも、たきなの背後から拳銃を構えていたヨナが撃つ方が速かった。

 その銃口の先にあったのは、自分達に拳銃を向けていた者達ではなく、取り巻きの男の一人が人質に向けていた拳銃だった。

 ヨナの放った弾は男の拳銃の側面を正確に狙い撃ち、ソレを弾き飛ばす。

 男の体に弾は(かす)りもしていない。故に血の一滴も流れてはいないが、弾かれた銃を持っていた男の手の指はあらぬ方向に曲がってしまっていた。

 折れた指を庇い、痛みに(うずくま)る男。これで人質が(ただ)ちに害されることはなくなった。

 

 ヨナが、叫ぶ。

 

 

「やれぇっ千束(ちさと)!」

 

 

 ヨナの叫びに応える様に、いつのまにか銃を手にしていた千束(ちさと)が駆ける。

 慌ててリーダー格の男が千束(ちさと)に向けて銃を乱発するも、それらは先程の繰り返しのように、千束(ちさと)の髪の毛を数本散らすのみ。

 数瞬で両者の間にあった距離は潰され、千束(ちさと)が男に向かって腰だめに構えた拳銃の、引き金を連続して引いた。

 超至近距離から撃ち出された非殺傷弾が金髪の男の腹部に当たり、砕けた硬質の赤いゴム弾が血霞(ちがすみ)のような赤い煙を上げる。

 

 

「ガ、ァ……」

 

 

 千束(ちさと)に撃たれた腹部を庇う様に、金髪の男はゆっくりと前に倒れ伏せていく。非殺傷弾と言えども、痛みはかなりのもの。痛覚の限界を超過した男が地面に倒れた時には既に気絶していた。

 残ったのは、三人いた男の内の最後の一人。金髪の男のすぐ傍に立っていた取り巻きの男。

 

 

「なぁ――ッ!? このっ、クソガキ共がぁああああああああっっ!!!」

 

 

 銃声。

 一瞬で二人の仲間を無力化させられた事に理解が追いつかないのか――それとも、拒んでいるのか――恐怖に顔を歪め半狂乱になった男が自分に一番近い千束(ちさと)に向かって銃を突きつけ弾を撃――つ前に、たきなの放った銃弾によって肩を撃ち抜かれて倒れ込んだ。

 床に転がり痛みに悶える男に向けて千束(ちさと)が非殺傷弾を撃ち込み気絶させ、ヨナに銃を弾かれたせいで折れてしまって折れた手の指をもう片方の手で抑え込んでいた男もすぐさま、同じ結末を辿る。

 

 

「クルミ、工場内の敵は片付けた。周辺に伏兵や増援の姿はありそうか」

 

 

 油断なく銃を構えたままのヨナが周囲を警戒しながら、無線機の向こう側のクルミに尋ねる。返答はすぐに届いた。

 

 

『周囲に怪しい車や人物はいないぞ、工場の中に他にいなかったらそれで全員だな』

「……ふぃーっ、終わったぁー! ヘイッたきな!」

「はいはい」

 

 

 たきなに撃たれ血を流す男の手当ても終わり、危機が去ったことで張りつめていた息を吐き出した千束(ちさと)が、たきなの名前を呼ぶと共に手を高く上げる、それに応えたたきなも手を上げ、パシンッとハイタッチ。

 

 

「イエーイ! ほら、ヨナも!」

「……」

「ほらっ、イエーイ!」

「……イエーイ」

「イッエーイ!」

 

 

 次いでヨナの名前も呼ばれ、千束(ちさと)のニッコニコの笑顔を無視する事は流石に気が引けたのか、渋々低めに手を上げて、千束(ちさと)がパチーンッとそれを叩いた。

 二人のやり取りを見守っていたたきなが、二人のハイタッチを見届けると縛られている男女へ歩み寄った。

 

 

「大丈夫ですか、怪我などはありませんか?」

「……ああ、すまない」

「お二人はどうしてここに?」

「それが、君達と別れた後すぐに護衛の中から裏切り者が出たんだ。あの金髪の男だ。私以外の護衛はアイツと後から来た増援にやられてしまった。戦闘になってすぐにそちらに知らせたんだが……不甲斐なくも捕まってしまってね。その後の連絡は全て、脅されて嘘の情報を伝えるしかなかった」

「この場所もその護衛から漏らされていたのでしょう。私もここに到着すると同時に奴らに捕まってしまいました」

 

 

 たきなによって拘束を解かれた二人が悔しそうに歯噛みする。

 特に男の方は自分に責任を感じているのだろう。耐えがたいと言わんばかりに体を震えさせ、三人に向かって頭を下げた。 

 

 

「私の不手際で君達の足を引っ張ってしまった。本当に申し訳ない!」

「まーま、私達に怪我は無かったんだしさ、そんなに気にしなくてもいいですよ!」

「あぁ……すまない。それと、助けてくれてありがとう。キミ達に依頼して本当に良かったよ」

「えへへー、どういたしまして」

「……とりあえず今は、ここを離れましょう。クルミ」

『おー、車に乗ってた奴等も、そこに居る奴等のことも既に『DA』に連絡済だ。(じき)にそっちにも人が回されるはずだぞ』

「ありがとうございます、では、お二人とも」

「ああ、ありがとうお嬢さん」

「ええ、助かるわ」

「ねぇ、これ――」

「あら? 何かしら」

 

 

 千束(ちさと)が依頼主に頭を上げさせ、たきなの提案で二人を車の方へと案内しようとした時、倒れた男の手から零れ落ちた茶封筒を拾い上げていたヨナが、それを女性に向けて差し出した。

 

 

「――忘れものだ」

「「「「あっ」」」」

 

 

 ヨナの一言に依頼の本来の目的を思い出したのか、その場の全員が呆気にとられ、そしてそろって苦笑を浮かべてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 

 

 場所は変わって、喫茶リコリコの一室――押し入れの中にあるクルミのプライベートスペース。

 そこに敷き詰められたモニターの一つに廃工場から離れつつある一台の車が映像に映っていた。クルミの操作するドローンからの視点だ。

 

 

「全員車に乗って移動を開始したぞー」

「あーっ、つっかれたぁー!」

「お前ほとんど何もしてないだろ」

「してたわ! 色々と! さっき『DA』に連絡入れたのもアタシだし!」

 

 

千束(ちさと)達の乗るドアの破損した車の代わりを『DA』に用意してもらえるように連絡を入れていたミズキが、通話を終えたスマホを放り投げながら畳の上に倒れ込んだ。

 その脱力しきった情けない姿を見て、ドローンのカメラと連動しているVRゴーグルを顔からズリ下げながら言ったクルミの言葉にミズキが噛みついた。

 現場で奮闘する千束(ちさと)達を補佐する役割を担っていた彼女たちも、目まぐるしく変わる状況に今まで対応に追われていたのだ。

 

 

「ミズキがしてたのは電話かけたくらいで、あとはドローンの映像を見ながら叫んでただけだろ」

「もっと色々してましたぁー。アンタだってミサイルぶっ放された時大声で叫んでたクセに、よく言うわ」

「んなっ、アレはだって……仕方ないだろ!」

 

 

 ミズキの様子に呆れたようにジト目を向けたクルミに寝転がってたミズキが食い掛り、やがて二人の言い合いは掴み合いに発展していく。

 そんな彼女たちを見守っていたミカが苦笑して、懐からスマホを取り出しながら二人に声を掛ける。

 

 

「お疲れ様だ、二人共。ほら、そう喧嘩するんじゃない。三人が無事で何よりじゃないか……っと、もうこんな時間か、お昼が近いな。私はこれから買い出しがてら、駅前のハンバーガーショップに行くが、何か買ってこようか?」

「お、気が利くじゃないかミカ。ボクはチーズバーガーとナゲットを頼むよ」

「ゴチでーす! アタシテリヤキバーガーとポテト、あとシェイクもつけといて」

「あ、それいいなミズキ。ボクもシェイク追加で」

「フッ。分かった。少し遅くなるかもしれんが、仲良くして待っていてくれ」

「「はーい」」

 

 

 二人のキャイキャイとした騒がしい声を背中にしながら、ミカは杖を突きながらゆっくりとその場をはなれ店の外に出る。

 

 少し前から呼び出していたタクシーに乗り込み、発進してからしばらく。

 ミカはリダイヤルしたスマホを耳に当てた。

 

 

 

「私だ。今からそっちに向かう」

 

 

 

 

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 女性の手に無事茶封筒が渡された後、たきなが捕らわれていた二人を先導して三人が乗ってきた車に向かう。

 千束(ちさと)とヨナもそれに続こうとして、ふと、ヨナが千束(ちさと)に声を掛けた。

 

 

千束(ちさと)

「んー、何?」

「さっきの銃弾を避けてたヤツ、あれどうやったんだ?」

「あー、アレかぁ。アレはまぁ、『勘』かなぁ。なんとなく撃ってきそうだなって思ったら体を動かしてる感じ?」

「……ふーん」

「私よりもさ、ヨナの方がすごいじゃん! ここに来る途中とかさ、バシュ~って向かって来るミサイルをドーンッ! ってして、ドッカーン! って。アレほんと助かったよ~。どうやったらあんなの出来る様になるの?」

「……『勘』だ」

「『勘』かぁー、じゃあ私には無理そうかな」

「そうかも。僕も千束(ちさと)みたいに銃弾を避けれるとは思えない」

「あはは、お互い様だねぇ…………あのさ、私も聞いていい?」

「何だ」

「なんで、殺さなかったの?」

「……」

「私が言うのも何だけどさ、そっちの方が楽だったんじゃない? いや、誰も死ななかったのは嬉しいんだよ? でも、ちょっと気になってさ」

「……千束(ちさと)が」

「ん?」

千束(ちさと)非殺傷弾(ソレ)を使うのと同じ理由だ。特にこだわりがある訳でもないし。『リコリコ』の方針は【いのちを大事に】なんだろ、それに(なら)っただけだ」

「ふーん、そっか」

「ああ」

(なら)っただけ、かぁ」

「……それだけだ」

 

 

 

 

 

 父さん、母さんを殺したのは『銃』と呼ばれる武器。人を殺す為だけに進化し続ける道具――。

 

 武器を考える奴。

 造る奴。

 売りさばく奴。

 使う奴――――……僕は、永遠に憎む。

 

 

 そんな気持ち、神は知ってか知らずか、一緒に仕事をする事になった暗殺者(リコリス)である少女達。

 彼女たちと出会って、僕は知った。

 

 武器を使う奴の中には、こんな奴もいるのだ。

 異端なのかもしれないけど。

 しばらくの間くらいは、一緒にいてもいいと思った――――

 

 

 

 

「ほら二人とも、早く乗ってください」

「はいはーい……ねぇ、ヨナ?」

「何だ」

 

 二人が男性が運転席に座る車の下に着くと、二人を待っていたたきなが声を掛けて二人の乗車を急かした。

 それに返事をした千束(ちさと)がドアのない後部席に飛び乗って、振り返って後ろのヨナに手を差し出した。

 

 

「これからよろしくね、ヨナ!」

「………………よろしく」

 

 

 

 

 手を差し出した白髪の少女と、それを握り返す銀髪の少年。

 

 二人の『特異』な才能が出会い、そしてこれから何を成すのか。

 

 それは『(アラン・アダム)』にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 僕は、 銃で武装し人を撃つ。そんな少女達と――――喫茶店で働いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

「相変わらず、人目を引く奴だな……キャスパー」

「やあミカ、遅かったじゃないですか。待ちましたよ」

「八年間も音信不通だったくせに、いきなりココに来いと連絡を入れてきたのはそっちだろう」

 

 

 買い物袋を手に下げたミカはハンバーガーショップに入ると、テーブル席の一つに座る、ハンバーガーを食べている男の下へ近づいた。

 ミカがキャスパーと呼んだその人物は、真っ白な肌と同じく真っ白な髪に青い瞳と、どこか冷たささえ感じさせる風貌に、薄い笑みを顔に張り付けている超俗的な白人の男性。

 キャスパーはミカの言葉におどける様に肩をすくめてみせた。

 

 

「まあまあ、そうカタイこと言わないで下さい。僕と君の仲じゃないですか。あ、バーガー食べます? (おご)りますよ」

「そうかい? なら遠慮なく。ウチの娘っ子共の分も頼むよ」

「構いませんよ、僕は稼いでいますからね。ああ、どうせなら女の子達の分だけでなく、そちらに新しく入った少年の分も一緒にしてもいいくらいだ」

 

 

 キャスパーの何気のないその言葉に、ミカは瞠目して驚きを表した。

 少年――ヨナがミカの下に居ることを知るのは『DA』の中でも極一部の者のみ。本来なら目の前の人物が知る情報ではなかった――はずだった。

 

 

「……お前がどうしてそれを」

「フフーフ。知っていますよ。なにせ、彼を(アラン)の子として見出したのはこの僕なのだから」

「……『アラン機関』。お前も()()なのかキャスパー。私はお前が子供に無償の支援を行う性格とは思わなかった」

「『優れた才能は世界に届けられなければならない』なんて、言うつもりはありませんよ。では何故僕が機関の構成員(エージェント)なんかをやっているのか? 簡単な話だ。『アラン・チャイルド』はそれがどのような才能であろうとも、結果的に莫大(ばくだい)な利益をもたらしてくれる。僕が機関に協力する理由としてはそれで十分すぎる」

「……それが、(まる)なのか」

「ええ、彼は素晴らしいでしょう? 並外れた空間認識能力と、精密な射撃力を支える手先の器用さ。そしてリリベルで(つちか)われた不意の事態にも即座に行動できる対応力。……彼は『傭兵(ようへい)の天才』だ」

「……お前はどこまであの子に干渉している」

「……フフーフ。全て、ですよ。彼の両親が殺された時、たまたま僕もそこに居ましてね。いやあ、驚きました。当時五歳だった彼が、両親を殺した民兵組織のリーダーを父親の銃で射殺したんです! ……驚きでした。当時まだ幼い、銃など持った事もないような子供が成人男性の頭部を「正確」に「狙って」、撃った弾を「命中」させたんですからね。真の天才は見る者の心を震わせるとは、本当なのだとあの時僕は教えられました」

「……」

「僕はすぐさま彼を保護し、日本の『DA』に渡しました。僕は顔が効きますからね。彼がより良い経験を積めるよう、何度か口出しもさせてもらいました」

「武器、か」

「ええ! 僕の表……というか本業は武器の売買。『DA』の扱う銃器のほとんどは僕の商品だ」

「『機関は支援対象者に接触してはならない』のではなかったのか」

「フフーフ。そんな規則、守っている所属員がはたしてどれほどいるのか! 僕から言わせて貰えばミスタ吉松、彼は少々理想主義が過ぎる。十数年以上成り行きを見守るだけとは、呆れを通り越して感心しますよ」

「……チサトの事も把握済みか」

「把握しているだけ、ですよ。彼女には手を出すつもりはありません。まあ、ミスタ徐納(じょな)への干渉に巻き込まれる可能性は(いな)めませんが」

「もうこれ以上、あの子達に手を出すな! (まる)千束(ちさと)も優しい子だ!」

 

 

 湧き上がる感情をミカは抑えきれなかった。テーブルの上に叩き付けられた拳の音が店内に響き渡る。

 ミカの怒声を真正面から浴びたキャスパーは、張り付けた笑みを微動だにもせず、まるで(こた)えた様子がない。

 

 

「そんなに大きな声を出さないで下さい。他のお客さんに迷惑になってしまう」

「くっ」

「彼が心優しい男であることは、貴方よりも僕の方が知っています。なにせ八年間見続けていたんですからね。どれだけ凄惨な地獄(現実)が彼の前に立ち塞がろうと、それでも彼は人間に、世界に希望を持ち続ける事を止めない。……本当に強い男だ、彼は」

「……なぜ、私の所にあの子を送り込んだ。あの異動もお前の差し金なのだろう?」

「……僕も彼には同情しているんですよ。誰よりも銃を憎んでいるのに、誰よりも上手く銃を扱える才能を持ってしまった少年。何より彼は銃を持つことの頼もしさを、その『味』をあの年で知ってしまった。もう銃を捨てることは出来ない」

 

 

 ミカとハンバーガーショップで顔を合わせてから、そこで初めてキャスパーは浮かべていた表情を変えた。

 そこに見える色は、憐憫(れんびん)か。

 表情を変えたのも、瞬きの間。見間違いかと思ってしまう程の一瞬で、キャスパーの顔が再び張り付けたような微笑みに戻る。

 

 

「それにミカ、僕は君の事を気に入っています。君なら彼に程々の安寧を与えてくれるでしょう? 己の「分」を知りつつも、なおも子供たちの為にあがこうとするその姿勢。実に好感が持てる」

「……お前に好かれてもな」

「フフーフ! これは手厳しい! ……これは彼に与える最後の猶予。世界に羽ばたく前に、君の所で穏やかな時間を送れるよう僕からの僅かばかりの心遣いです」

「……ロクな死に方をしないぞ」

「今更でしょう! 僕も君も、この武器と血で(あふ)れる世界に足を踏み入れた瞬間から、平穏なんてモノとは無縁ですよ。それに、僕は死ぬまで刺激を感じていたいんです。退屈な人生なんて、こちらからゴメン(こうむ)ります!」

「……処置なしだな」

「自分でもそう思います。さて、予想以上に長話になってしまった。これでも僕は忙しい身でしてね、今日の所はここらで切り上げましょう。ああ、そうだミカ、君の喫茶店にかき氷はありますか? 僕の大好物なんです」

「……今後一切かき氷を店のメニューに出さないことに決めたよ」

「それは残念。ではミカ、また会いましょう」

「……ああ」

「あ、そうだ。最後に一つ」

 

 

 言外に店に顔を出すなと言ったミカに、残念そうな様子の一切ないキャスパーが、テーブルに一万円先を置いて立ち上がる。

 店の出入り口に向けて何歩か進んだところで、キャスパーは立ち止まってテーブルに残ったミカへ後ろ背に顔だけを向け、告げる。

 

 

「『ヨナ』によろしくお伝えください。それでは。フフーフ」

「なっ!? キャスパー!」

 

 

 声を荒げるミカを置き去りに、キャスパーはバーガーショップを後にする。

 その顔に張り付けられた笑みの奥には、一体何が隠されているのか。

 キャスパーは取り出したスマートフォンを操作して耳に当てると、連絡を入れた自身の部下に指示を出す。

 

 

「ああ、僕だ。準備は進んでいるかい? ……それは重畳。今から僕もそっちに戻るよ。これから忙しくなるぞ、彼に退屈させてはいけない」

 

 

 

 才能に踊らされるのは、何もその持ち主だけではない。

 いつか少年が彼に見せた光景が、神から与えられた才能の御業が一人の男の目を焼いた。

 才能の奴隷になった男は、少年の為に、その才能を磨く為ならばいかなる犠牲も(いと)わない。

 例えソレが、少年を地獄の只中に叩き落す結果に繋がるものだとしても。

 

 

「さぁ、ヨナ。君の才能を活かせる場所を僕が用意させてあげよう。だから僕に君の凄い所(才能)を見せてくれ……!」

 

 

 

 天を仰ぐ彼の声は抑えきれない興奮に震え、少年への期待が溢れていた。

 男の狂気と、少年がこれから踏み入れる事になる鉄火は留まる所を見せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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