ブルーアーカイブを、もう一度。   作:トクサン

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誤字脱字報告に感謝致しますわ~!


桐藤ナギサの(アガペー)

 

「――さて、では休憩を挟んだ所で会議を再開しましょう」

「承知しました」

「はい」

「そうだね」

 

 ソーサーにカップを戻したナギサが、ふとそう切り出した。

 手洗いやティータイムとしての僅かな休息を挟み、円卓を挟み再び四人が向き合う。長時間の会議はやはり心身ともに負担が大きく、時計を見れば既に開始から一時間が経過していた。円卓に用意されたティーポットの中身も、随分目減りした事だろう。

 ナギサが背筋を正し、口火を切る。

 

「さて、現在問題となっているのはアリウス自治区、その位置情報の把握に関してです、そしてカタコンベを通過する為の手段ですが――……」

「カタコンベは全体地図さえ判明していない巨大迷路、毎度変わる入り口を探すとなると、中々の難問ですね」

「今からでも調査隊を派遣して内部構造や入り口の変化、その規則性に関して調べるのも手ではありますが……」

「それは、かなり時間と労力が必要だろうね、少なくとも一ヶ月かそこらで結果が出るとは思えない」

 

 ナギサの言葉にミネは腕を組みながら呟き、サクラコが調査隊に関して言及する。しかし、先生はその提案に難色を示した。その発言にナギサも頷き同意を示す。

 

「先生の云う通り、調査隊に関しては現実的ではないでしょう、少なくともそう易々と解明できる事であるのならば先人が既にカタコンベを開拓していた筈です」

「手付かずのままであった事にはそれ相応の理由がある……という事ですか」

「アリウスがこのカタコンベの構造を把握している事も、彼女達の持つ不可思議な力に関係があるのでしょうか?」

「――或いは、知っていて秘匿されたか」

 

 先生の呟きは、誰の耳に届く事なく噛み潰される。元よりトリニティの過去については不明な点も多い。そしてその大部分は丁寧にコーティングされた(整えられた)代物である事が殆どだった。少なくとも、一般生徒の目に留まる部分は。

 過去のトリニティ、或いはトリニティ総合学園が生まれる前、彼女達がカタコンベの謎や構造を全て把握していた可能性はある。しかし時の流れの中でそれらの情報は失伝した、或いは意図的に秘匿され――いつしか、一部の者のみが知るだけとなった。

 そういった場合も考えられた。

 

 兎角、今必要なのはカタコンベを通過する方法、そしてアリウス自治区を見つけ出す事だ。実際問題、常に構造の変化するカタコンベは一つの正解を見つけた所で翌日には使えなくなる――なんて事は日常茶飯事。その変化が一定なのか、或いは不規則なのかすら定かではない現在、そうなると常に全ての入り口を確認する必要がある訳だが、入り口全てを見張る余裕は今のトリニティに存在しない。否、今でなくとも不可能だろう。

 調査ともなると都度変化する入り口を探して、という事になる。誰の目から見ても無謀な行為だ。

 そうなると、既に情報を持っているところから持ってくるしかない。

 

 同じ発想に至ったのか、サクラコは手を組んだまま穏やかな口調で告げた。

 

「確実な手段を取るのであれば、通路を把握している人に話を聞くのが一番でしょう」

「通路を把握?」

「――アリウス・スクワッドですよ」

 

 ミネの疑問に、彼女は極めて平坦な口調で答える。その言葉にナギサの視線が絞られ、ミネもその纏う雰囲気を寒々しいものへと変化させた。アリウス・スクワッド――その名は現在のトリニティに於いて一際重い意味を持つ。

 ずきりと、先生の潰れた右目が軋む様な痛みを発した。

 

「襲撃を主導したアリウスの特殊部隊、そのリーダーである錠前サオリ、彼女であれば確実に通路を熟知している筈です」

「アリウス・スクワッド、トリニティを此処まで追い込んだアリウスの特記戦力……ですね」

「成程、特殊部隊のリーダー、確かにその様な立場であれば通路の詳細を把握していてもおかしくはない」

 

 サクラコ、ナギサ、ミネの順に発言し、その表情には理解の色が灯っている。通路に関係する情報がどの程度の生徒にまで知らされているかは分からない。しかし、特殊部隊という分かり易く重要な部隊の長ともなれば、情報を貰っていないという事はまず無い筈だった。

 

「ですが、仮に捕らえたとしてどの様に聞き出すのですか? よもや、前時代的な手法を取るつもりではないでしょう?」

「今は薬剤による自白も促せますが……そうですね、学園の特殊部隊ともなれば尋問に対する訓練も積んでいる筈です、口を割らせるのは容易ではないでしょう」

「それでは――」

 

 ミネとサクラコが互いに言葉を交わし、二人の視線がナギサに向けられる。そこにある意図を汲み取り、ナギサは一度目を瞑る。そして何処か憂う様な表情と共に先生に顔を向けると、彼女は唇を噛み締めながらも、しかしハッキリとした口調で告げた。

 

「先生がいらっしゃる手前、このような事は口にしたくはありませんが……必要とあらば多少の暴力行為を厭うつもりはありません」

「――それは」

「決して褒められた事ではないのは重々承知の上です、しかし事は高度に政治的要素を含んでおります、ましては今回は私達トリニティの被った被害が余りにも大きすぎる、このまま野放しにして置くことは出来ません、襲ってくると分かっている相手を前に無防備な隙を晒す事は真似は、決して」

 

 次は――本当に死人が出てもおかしくないのですから。

 ナギサの言葉にサクラコとミネの両名は沈黙を返す。サクラコとしては消極的賛成、ミネとしては救護騎士団という立場上決して賛成は出来ない、しかし現状を考えれば反対を口にする事も出来かねる、という所だろう。

 先生はナギサの言葉に小さく頷きながら、感情を押し殺し発言する。

 

「少し、良いかな」

「勿論です、先生」

「……私としては、ナギサの意見に賛成は出来ない」

「それは、先生としての立場からでしょうか?」

「勿論そういう気持ちはある、けれどそれ以上に――」

 

 ナギサの問い掛けはもっともだ。本音を云えば生徒達が憎悪を持って銃を向け合う様な事態そのものを止めたいと思っている。しかし、スクワッドに関しては感情以外の問題が存在していた。

 

「肝心のスクワッドの消息が掴めていない、皆の情報網でアリウス・スクワッドの行方を掴んだ所はあるかい?」

「それは――」

 

 先生の問い掛けに、ナギサは言葉を詰まらせる。そのまま二人に目を向ければ、ミネとサクラコの二人は静かに首を振ってみせた。

 

「シスターフッドの方では、特に発見報告は上がっておりません」

「救護騎士団でも、スクワッドの行方に関しての情報は何も」

「……ティーパーティーでも、行政官から発見報告は受けておりません」

 

 トリニティに於ける三大組織、その何処もスクワッドの足取りを掴めていない。捕まえた後を云々する以前に、見つける事すら出来ていないのが現状だった。先生はその言葉を耳にし、神妙な面持ちで告げる。

 

「そうなると、既にアリウス自治区へと撤退している可能性もある筈だ、内部に戻った彼女達を追跡するのは不可能だろう」

「……情報源は既に闇の中、という訳ですか」

 

 呟き、ナギサは椅子に凭れ掛かる。その様子を見つめながら、先生は内心で彼女達に詫びた。スクワッドがアリウスを離反した事実を知っているのはごく一部だ。少なくともアズサがそれを彼女達に明かした様子はないし、そして先生自身も明かすつもりはない。

 先のナギサの発言からも察せられる通り――彼女達がゲヘナか、トリニティか、そのどちらかに拘束された場合、碌な未来にならないのは明らかであった。

 

「実質的な調査は難しい、情報源もない、これでは手詰まり――」

「いいえ」

 

 ミネがそう呟きを漏らせば、サクラコがふと声を上げた。二人の視線が彼女の向けられ、当の本人は涼し気な表情を浮かべたまま口を開く。

 

「スクワッドから聞き出す事が難しいのならば、彼女達以外に通路を知っている可能性のある生徒に当たってみましょう」

「……通路を知っている生徒?」

「サクラコさん、そのような方がいらっしゃるのですか?」

「えぇ、いらっしゃいます――このトリニティに」

「………」

 

 ミネが疑念を表情に張り付け、ナギサが純粋な驚きを見せる。そんな中、先生だけは強張った表情でサクラコを見ていた。彼女は薄らとした笑みを貼り付けたまま、その名を告げる。

 

「――聖園ミカ」

「っ……!」

 

 その声は決して大きくなどなかった筈なのに、会議室の中で良く響き全員の耳に届いた。

 カタリと、ナギサのティーカップが揺れ音を立てる。

 

「ミカさんが……?」

「――少し、待って欲しい」

 

 空かさず先生が口を開く。サクラコの美しい光を湛えた瞳が先生を真っ直ぐ捉え、それを正面から見返しながら彼は言葉を紡いだ。その表情は、酷く真剣だった。

 

「サクラコ、ミカの調書については既に目を通しているよね?」

「調書――と云うと、ミカさんを尋問(取り調べ)した際の報告書ですね」

 

 先生の問い掛けに対し、彼女は穏やかな様子で応える。先生の言葉にナギサはハッとした表情を浮かべ舌を回した。

 

「そ、そうです! 既に調書に関しては皆さんと共有している筈です! ミカさん本人も、アリウス自治区の位置は知らないと仰っていると、そう記載されて――」

「お言葉ですが」

 

 ナギサの弁護を両断する様に、凛と響いたサクラコが声を張る。びくりと、ナギサの肩が揺れた。薄らと閉じられていたサクラコの瞳が大きく開き、その双眸がナギサを捉えた。

 

「彼女は長い間アリウスと内通していました、誰にも悟られる事無く、パテル分派の傍付きにすら気付かれず、だというのにアリウスの位置を微塵も知らない等――その様な事が果たしてあり得るのでしょうか?」

「………」

 

 サクラコの言葉に、ナギサは思わず言葉を呑み込む。額に薄らと汗が滲んだ。サクラコの言葉に反論しようとしながら、しかしその言葉の正当性を僅かでも認めているナギサ自身が居たのだ。

 長期間誰にも悟られずアリウスと内通していたミカ、果たしてそんな彼女がカタコンベの情報を僅かも持っていない事があるのか?

 しかし、彼女の尋問に関しては既に終了している、これ以上聞き出すべき情報は無いと取り調べを担当した生徒も報告していた筈だった。

 

「……成程、理解は出来ます」

「ミネ団長まで――!?」

 

 サクラコの言葉に暫し沈黙を守っていたミネではあるが、その腕を組んだまま深く頷く。思わず非難する様に彼女の名を呼んだナギサに顔を向け、ミネはどこまでも真摯な態度で言葉を紡いだ。

 

「確か、ミカ様はアリウス生徒に補給品を手渡していた記録が残っていた筈です、クーデターを起こす為、アリウスを支援していた――そう考えるのが自然でしょう、元より存在を秘匿されていた自治区、補給状況が乏しい可能性は高い、であればアリウスにとっても彼女は重要な存在の筈、補給ルートの伝達の為にも情報を与えられている可能性は十二分に考えられます」

「で、ですが、ミカさんは――……」

 

 彼女は、知らないと――そう云って。

 そう口にしようとして、けれど言葉は続かない。俯き、両手を握り締めたナギサを痛ましそうに見つめながらミネは続ける。

 

「これまでのミカ様の評判と行動はあまり模範的とは云えません、ナギサ様は良くご存知だとは思いますが、彼女はティーパーティーに所属している事を盾に多くの過失や問題を誤魔化して来ました、未だ彼女に対する糾弾の声が止まぬのも――彼女のこれまでの振る舞いと無関係と云う訳ではないでしょう」

 

 ミカの現状に対し、思う所はある。しかしそれが起きたのには相応の理由があるのだ、その事をこの場に居る者は理解していた。ナギサは沈黙し、その口を堅く閉ざしてしまう。サクラコは深く息を吐き出し、自身の額を指先で軽く押し解しながら呟いた。

 

「現在のパテル分派とサンクトゥス分派の対立は彼女が根本的な原因であるとも云えます、決してそれだけではありませんが彼女の積み重ねて来たものが一因である事は否定できない事実です――それだけの背景が、存在してしまっているのですよ、ナギサさん」

「……それはミカさんが嘘を吐いた、という事ですか?」

 

 あの調書に記載されていたのは、ミカの嘘だった。

 サクラコの言葉はつまり、そういう事だ。

 その問い掛けに彼女はほんの一瞬目を瞑ると、その両手を膝の上で重ねながら静かに頷いた。

 

「……可能性のひとつとしては」

「っ、ありえません!」

 

 ガタリと、ナギサの椅子が音を立てた。立ち上がった彼女は両手を円卓に付けたまま身を乗り出し、サクラコを睨みつける様にして叫ぶ。ティーパーティーとして常に優雅に、淑女らしく――そう常日頃口にしていた彼女らしからぬ態度だった。

 

「ミカさんがその様な事をして、一体何の利になると云うのですか――ッ!?」

「落ち着いて下さい、ナギサ様」

 

 強い口調でそう叫ぶナギサを前に、ミネはそっと手を伸ばし宥める。その瞳の中に渦巻く感情を理解していながら、ミネは他者の理性に訴えかける声色で以て告げた。

 

「ナギサ様がミカ様を想う気持ちは良く理解しています、その上で不躾な話ではありますが、ミカ様の一番の理解者は誰かと云う議論になった場合――幼馴染であるナギサ様となるのではないでしょうか」

「ッ……!」

「ナギサ様から見て、ミカ様はまだ、私達に隠し事がある様に感じられますか?」

「それは――」

 

 その問い掛けに対し、ナギサは俯く。見下ろした両の手、握り締めたそれを見つめながら唇を強く噛んだ。隠し事があるか、無いか――その問い掛けに対してナギサは明確な答えを持っていない。

 何故なら、分からないからだ。

 ナギサには分からない、ミカの心も、その感情も、秘めたる想いも。何年と共に在った筈の自分でさえ、彼女の心の内を理解する事は出来なかった。そして、それは当然の事だった。

 

 ――だって自分達は所詮、他人なのだから。

 

 故に、今問いかけられる言葉の意図は単純にして明快。ミカが隠し事をしているのか、していないか。肝要なのは其処(ソコ)ではない。

 重要なのは彼女を――聖園ミカという一人の友人を、桐藤ナギサは信じているのか、どうか。

 これはただ、それだけの問い掛けだった。

 

「……ナギサ」

「っ――」

 

 先生の呟きに、彼女は顔を上げる。その今にも泣き出しそうな彼女の瞳の中に、先生の真剣な眼差しが映った。自身と一時敵対し、退けて尚補習授業部を守ろうとした先生。常に正しく在った――否、そう在ろうとした大人の姿。

 彼の存在は、ナギサの心に僅かな勇気を与えてくれた。

 

 小さく息を吸い込み、腹に力を籠める。視界の端に揺れる紅茶の水面が見えた。でも今は何故か、手を伸ばそうとは思わなかった。

 

 聖園ミカは、決して善良な生徒ではない。

 癇癪は起こすし、暴力に訴えかける事だってあるし、我儘で考えなしで無鉄砲で、常日頃から「まぁ、何とかなるでしょ☆」と楽観的に過ごしていた。自分の気に入らない事は子どもの様に喚いて反対するし、彼女が原因で騒動になった事、その後始末に追われた事は一度や二度ではない。彼女の意地の悪い行いに涙を濡らした生徒は一体どれ程存在するのか、全く淑女とは呼べない彼女と我ながら良くもまぁ此処まで関係が続いたものだと驚くほどだった。

 だが――それでも、桐藤ナギサにとって彼女は友人(幼馴染)である。

 

 唯一無二の、たったひとりの。

 自身の命を失う事になっても尚、その後を憂う程に心を許した相手だった。

 ――それならば。

 

「……いいえ、いいえ!」

 

 ナギサは力強く、宣言する。

 吸い込んだ空気を全て吐き出す勢いで、彼女は声を張り上げた。

 

「ミカさんが嘘を吐いている、その様な事実はありません」

「ナギサ様」

「――私は、ミカさんを信じます……!」

 

 サクラコの声に被せる形で、彼女はそう断じた。その双眸に先程まで滲んでいた迷い、逡巡はない。何処までも強い、鋼の覚悟を決めた一人の少女だけが立っていた。

 

「彼女が善良な生徒ではないと、それは確かに事実です、他ならぬ幼馴染である私が、それを一番良く知っています、しかしそれでも私は彼女を、ミカさんが私達を想う心を信じたい……いえ、信じると決めたのです! それこそが、今回の騒動で学んだ私の――教訓なのですからッ!」

 

 告げ、彼女は歯を強く噛み締める。

 そう、このエデン条約――そして補習授業部間で起きた騒動。その只中で彼女は多くの事を学んだ。

 そして、その中で最も価値ある学びであったと胸を張って云える事、それこそが他者を信じる事。

 

「他の方にも信じて頂けるよう、明日の聴聞会にも出席しミカさんを弁護するつもりです、あなた方にも、必要とあらばこの学園すべての生徒に、ミカさんの証言を信じて頂けるように……! 私は、私の持てる全てを費やし訴えて見せます!」

 

 強く、円卓を叩きつける様に再度手を置いた彼女は、左右に座るサクラコを、ミネを睥睨する様にして叫ぶ。ティーカップが音を鳴らし、その紅茶が僅かに跳ねた。

 

「たとえ……たとえっ! それが原因で私が糾弾されるような事になったとしても、私の持つ立場が剥奪されようとも、どれだけの生徒に罵られようとも、私は決して後悔しません、諦める様な事はいたしません――!」

 

 ナギサは決めたのだ、とことん戦い抜くと。彼女を、友人を、ミカを、腹の底から信じ抜くのだと。

 ナギサは目に見えずとも、そこにある筈の想いを信じると決めた。

 否――目に見えないからこそ、信じると決めた。

 故に彼女は必死になる、その証明出来ないもの(こころ)を証明する為に、全てを捨てる覚悟を以て。

 自身の名誉も、肩書も、立場も、権力も、金銭も、今まで積み重ねて来た何もかも(あらゆる全て)を費やして、彼女はミカの味方をする。

 この感情(きもち)が、想い(願い)が、友愛(祈り)相手(ミカ)にほんの少しでも届くように。

 

 分かり合う事は出来ないのかもしれない、通じ合う事は出来ないのかもしれない、どれだけ長い間共に居ようとも、幾千幾万の言葉を交わそうとも、本当の意味で相手を知る事は出来ないのかもしれない。

 けれど――それでも。

 この、彼女の想う(感情)だけは、本物である事を証明したい。

 

 ――それこそが、ナギサ()の想う『愛』なのだと。

 

「だから、私は――っ!」

「――いいえ、もう結構です」

 

 顔を歪め、必死に声を絞り出すナギサを前に、サクラコが手を翳す。彼女は目を瞑ったまま動かない。その表情は穏やかで、先程のナギサの宣言を聞いたとは思えない程に暖かな色に満ちていた。

 サクラコは静かに席を立つと、ナギサに向かって頭を下げる。

 

「どうやら誤解を招いてしまった様です、申し訳ありません、ナギサ様――私はただ仮説を口にしたまで、決して他意はありませんでした」

「……失礼いたしました、私も非礼をお詫び申し上げます」

 

 ミネとサクラコが真摯に謝罪を口にし、ナギサは驚いた様に目を瞬かせる。てっきり彼女達はまだミカがアリウス側に加担しているのではないかと疑っているのだと、そう思っていたのに。予想以上にあっさりと、それこそ真摯に謝罪をされてしまった為に、ナギサはほんの一瞬戸惑いに呑まれた。

 

「――一度、お開きにした方が良いね」

 

 その間隙を縫う様に、先生が手を叩き告げる。皆の視線が集中し、先生は努めて冷静に、淡々とした口調で云った。

 

「皆何とか状況を打破しようとして焦っているんだ、処理すべき問題が多くてそうなる気持ちは分かる、けれど急いては事を仕損じるとも云うから――また別の日に集まる事にしよう、幸いまだ時間的余裕はある、もう一度情報を収集して、分析してから話し合っても遅くはない」

「……そう、ですね」

 

 頭に血が上っていた事は自覚している、ナギサは自身の額を撫でつけながら崩れ落ちる様にして椅子に座り込み。サクラコとミネは先生の言葉に頷き、静かに席を立った。

 

「お騒がせしました、先生」

「いいや、皆必死に、自分に出来る事を頑張っているだけだよ」

「……そう云って頂けると、救われます」

 

 サクラコがふっと口元を緩め、静かに一礼する。そのウィンプルから零れた銀髪が揺れ、彼女の瞳は再び閉じられた。

 

「では、私は一度大聖堂に戻る事にしましょう、また何かあれば連絡を」

「ならば私も救護騎士団の方に――お会い出来て光栄でした、先生」

「うん、またね二人共」

「えぇ……どうか、お気を付けて」

 

 それぞれが頭を下げ、ミネとサクラコの両名は会議室を後にしていく。その背中をナギサと先生の二人は見送り、会議室の扉が音を立てて閉じられた。

 


 

 快復致しましたわ~っ!

 大変お騒がせ致しましたの! 数日寝込んですっかり良くなりましたわ!

 お薬というのは偉大ですわね~! 更新は今まで通り続けられますので、よろしくお願いいたしますわ!

 

 さて、段々とサオリの雨中土下座が近付いてきましたわね……。

 今章は殆ど前回後編の続きからになるので、フォーカスは学園そのものではなくキャラクターに絞っていきますわ。

 そしてセイアの予知夢描写も近付いて来たので、新規追加されるストーリーでプロット破壊が起きない事を祈っておきますの。

 最近会話パートばかり続いておりますが、基本的に最初の方は学園間に於ける政治の話が殆どなのですわ……。こればっかりは本編もそうなので我慢してもろて。次話でナギサとミカに対する相談、ミカの元へ行くパート。その次でミカと再会かな?

 本編とはトリニティに於ける情勢が少々異なり、また彼女の辿る運命も捻じ曲がったりしますが結末は変わりませんわ! 

 そして此処に来てイチカが実装されましたわねっ! 君、あと一ヶ月半くらい早く来てくれたら本編で活躍させてあげられたのに……ッ! 

 

 君絶対目の前で先生死んだら狂嗤しながら涙を流して感情爆発させるタイプじゃん……! 素晴らしい、新しいタイプだ、惹かれますわ~っ! 正義実現委員会ほんとたすかる。

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