「……はぁー」
二人が去った
「全く、胃が痛い事ばかりですね」
「お疲れ様、ナギサ」
「先生こそ、お疲れ様でした……折角ですし、アフタヌーンティーでも如何ですか?」
「もうそんな時間か、それじゃあ有難く」
ナギサのお誘いに頷き、先生は彼女と隣り合った席に腰を下ろす。時計を見れば既に時刻は三時を回っていた。随分と会議に熱中してしまったらしい。立ち上がった彼女はワゴンに備え付けられていたウォーマーを使って茶器を温め、新しい湯を注ぎながら茶葉を取り出した。そんな彼女の背中を見つめながら、先生は自身の義手を手袋越しに撫でつける。最近出来た、先生の新しい癖の様なものだった。
「会議中は、正直紅茶の味が全く分かりませんでした、殆ど白湯を流し込んでいた気分です」
「はは、気持ちは分かるよ、私も似たような感覚になるからね」
「連邦生徒会での会議でしょうか?」
「それもあるけれど、まぁ、色々、でも今日の会議も同じ位大変だった」
「そうですね――はぁ、今日は何だか、情けない姿ばかり見せてしまっております、さぞかし残念に思われたでしょう」
「まさか、どんな形でも頑張っているナギサは素敵だよ」
そう云って先生は朗らかに笑う。カップに出来上がった紅茶を注いでいたナギサが、そんな彼の笑顔を背中越しに眺め動きを一瞬止めたが――しかし何事も無かったように再起動を果たす。その口元は僅かに緩んでいたが、彼女はそれを悟られない様努めて何でもないかのように振る舞った。
「ごほん、それよりも先生、聞きたい事があるのではないでしょうか?」
「それは……ミカ周りの事、かな?」
「えぇ」
頷き、ナギサはワゴンからソーサーに乗せたカップを二つ手に取る。それぞれを円卓に移すと、その一皿を先生の前へと差し出した。
「どうぞ、先生」
「ありがとう、ナギサ」
「先程の会議中にも何度か口にされておりましたが、現在のミカさんは非常に……えぇ、複雑な立場に置かれています」
再び席に腰を下ろしたナギサは、その表情に憂いを滲ませながら呟く。現トリニティに於けるミカの立場、それは非常に難しいものだろう。以前の騒動を思い、先生は眉間に皺を寄せる。
「明日の午前に、ミカさんの聴聞会が開かれる予定です」
「聴聞会、か」
「とは云っても、実際には先日の件に対しての審問に近い――査問会のようなものだと思って頂ければ」
「それの議題は、エデン条約の?」
「はい、彼女の犯した罪、そしてエデン条約に関連する事柄が中心になるかと」
やはり、そうなるか。
口の中で呟きながら先生は紅茶を一口啜る。出来立てのそれは風味も良く、会議中に呑んだものとは味わいが違う。恐らく自身の好みの茶葉を使用してくれたのだろう、多少なりともリラックスした状態で口にする紅茶は、本当に美味かった。そっとソーサーにカップを戻した先生は、低く問いかける。
「趨勢は?」
「……難しい、ですね」
同じように紅茶を口に運んでいたナギサは、そう云って首を振った。
「退学は無いと思います、しかしそれなりに厳しい状況である事は確かです」
「厳しい状況……不利、という事か」
「エデン条約での事件以降、トリニティ総合学園の情勢は複雑になりました、ミカさんに対する糾弾の声は勿論の事、ティーパーティーの席を剥奪するべきと云う声も、過程や真相はともあれ……ミカさんはアリウス分校と結託してエデン条約の事件を起こした主犯のひとりですから」
「でも、彼女は調印式の際にはアリウスと対峙し、トリニティやゲヘナと共に戦った筈だ」
「えぇ、一時的にとは云え彼女にトリニティを任せられたのは、その功績が大きかったからです」
当時は彼女以外動けるティーパーティーが存在しなかった、今の様に救護騎士団やシスターフッドが政治の場に顔を見せる事もなく、学園の運営に関してはティーパーティーがその全てを担っていた。だからこそ、彼女以外学園の舵を取れる人物が居なかった為、あの様な措置となった訳だが――。
しかし、トリニティは変わった。ティーパーティーの権威が削がれ他主力分派のシスターフッドと救護騎士団というティーパーティーに匹敵する柱が生まれた。学園の生徒達にとってティーパーティーという存在が絶対的ではなくなった瞬間だ。
しかしトリニティ総合学園が設立されて以来、最も古く歴史ある生徒会、その役割を果たして来たティーパーティーの名は泥に塗れて尚相応に重い。各分派の生徒達がその伝統、歴史、権威を保とうとするのは自然な流れだ。名誉や権威を手っ取り早く回復させるのならば、その組織に於ける『汚点』を排除すれば良い、そしてティーパーティーに於いて現在最も疎まれている対象と云えば――聖園ミカ、彼女を於いて他にない。
「どのような形であれ、彼女がアリウスを撃退したのは事実、勿論その中には先生のご活躍も含まれていますが……彼女はアリウスに利用されていた、それが大半の生徒の見解である事は確かです」
「なら――」
「しかし、それでも収まらぬ怒りを抱いている分派があります」
そう、今回の騒動――その根っこにあるのは分派間の対立だ。その言葉に先生の顔が顰められ、呟くようにしてその名が耳に届く。
「――サンクトゥスか」
「えぇ」
サンクトゥス分派、百合園セイアが首長を務めるティーパーティーの一分派である。頷き、指に掛けたカップを揺らしながらナギサはその水面を見つめる。紅茶の香りは彼女の心を慰めるが、それでも拭いきれない不安が胸に燻っていた。
「自らの分派、その首長を襲撃されたサンクトゥス分派の生徒は、ミカさんを目の敵にしています、あの事件以降セイアさんの体調は悪化し、自室に籠り切りになってしまいましたから、余計に」
「サンクトゥス分派の生徒は、全員ミカを?」
「いいえ、勿論そうではない生徒もおります、同じ分派の生徒とは云え一枚岩ではないのです、特にセイアさんの率いるサンクトゥス分派はセイアさん自身余り分派生徒と関わる事を好みませんでしたから――それでも予知の力を持ち、知性に優れた彼女を慕う生徒は多く在籍しておりました、そうでなければ首長等という椅子に座る事はありません」
告げ、ナギサは憂う様に目を伏せる。現在サンクトゥス分派はその統制を失いつつある。首長であるセイアが病床に在る為手綱を握れていないという点も大きいが、それにしては少々大袈裟過ぎる程に暴走しているきらいがある。ナギサの見解としては、件のアリウスを追撃出来なかった弊害が此処に現れている様な気がした。
学園の不祥事、エデン条約締結の失敗、先生の負傷、ティーパーティーの失墜、そう云った様々な不安、不満、心の傷付く要素を誰かを攻撃する事によって解消しようとしているのだ。
本来であれば、その怒りはアリウスに向けられる筈であった。しかし、その対象は既に姿を消し闇の中へと消えてしまった。
「……現在、一部の過激派によってミカさんが使っていた本や所持品、大事に集めていた服やアクセサリーの一部が持ち去られてしまい、恐らくは処分されてしまっています」
「それは――少々、いや、大分やり過ぎだ」
「えぇ、その事に怒ったパテル分派の一部と小競り合いが発生している様子でして、毎日報告が上がっています……正義実現委員会が取り締まってはいますが、中々どうして全てを阻止する事は難しく」
「中央区の警備に派閥間の仲裁、区画復興支援にパトロール、かなり激務だろうね」
先生は顔を歪めながら息を吐き出し、指先を組む。正義実現委員会の業務は多岐に渡り、現在はアリウス襲撃に備える必要もあり警備にリソースを割いている筈だ。そうでなくともエデン条約に於ける戦闘で古聖堂区画も破損し、復興も続いている事だろう。その上、派閥間の小競り合い、その仲裁にも駆り出されるとなると――相当な激務が予測された。
「それでも、ミカさんがトリニティ全体の敵として石を投げられていないだけ、まだマシなのでしょう、尤もいつそれが転じるかも分からない状況ですので油断は出来ませんが」
「……パテル分派の方は?」
「元よりミカさんが首長を務めるような、その、大変力を信奉する様な生徒が多く、先の一件でミカさんが先陣を切ったからでしょうか、批判の声が全くない訳ではありませんが、他分派と比べれば穏やかなものです」
「そっか、少しだけ安心した」
「私もフィリウス分派の首長として、出来得る限り自身の一派の意思統一に努めていますが……このまま騒動が続けば、パテルとサンクトゥスが衝突する事態にもなりかねません」
そうなれば、そこから火種が広がって分派間に於ける全面戦争――内部分裂すら起きかねない。アリウスとの戦闘が起こったばかりだと云うのに、内戦を起こすような愚を犯す事は絶対に避けなければならなかった。それが分かっているからこそシスターフッドのサクラコは政治的な介入を決めたのかもしれない。救護騎士団のミネ団長は――正直、どういった意図で表に出て来たのかは分からないが。
ナギサは肩を竦め、紅茶に口を付ける。きゅっと、何となく胃が裏返る様な感覚があった。
「私に何かできる事は?」
「それは……」
先生は円卓の上で指先を組み、真摯な表情で問いかける。ナギサは一瞬言葉に詰まった。先生――シャーレに依頼したい事を並べれば、それこそ山の様に存在する。桐藤ナギサでは出来ない事も、シャーレの先生ならば成し遂げられる。派閥間の云々でさえ、彼が介入すれば即座にとは云えないが解決する目途も立つだろう。
しかし、今現在最も優先すべき事柄と云えば。
「その、ミカさん本人が、聴聞会にてご自身を弁護する意思がない様でして――」
「ミカが?」
「はい、ミカさんは聴聞会を欠席しようとしています、そんな状態で行われる聴聞会は――まず間違いなく、彼女の不利益に直結する筈です」
「………」
「私では、彼女を説得する事が叶いませんでした、或いはセイアさんであれば上手く出来たのかもしれませんが……彼女は今、それどころではありませんし」
「分かった」
どこかまごつくように、或いは申し訳なさそうに呟くナギサを前にして、先生は二つ返事で頷いてみせる。
「なら、私がミカを説得してくるよ」
「あ、ありがとうございます、先生のお言葉なら、きっと……!」
俯いていたナギサの顔が先生に向けられ、その表情がぱっと花開く。陰鬱であった彼女の雰囲気が少しだけ明るさを帯び、その顔色が僅かだが血の通う色合いに変化した気がした。
「その、ミカさんは先生を待っている様にも見えましたから」
「私を?」
「えぇ、私の所感ですが……でも、少し安心しました、まだ何も解決はしていませんけれど」
「ナギサは、その、大丈夫かい? 少し疲れている様に見えるよ」
「私は――大丈夫ですよ、いつもと変わりません」
少し云い淀みながらもナギサは首を振って見せる。この程度の事は慣れている、とは云い難いけれど、それでも以前の騒動で経験は十分に積んでいる。それに今自分が倒れてしまえばティーパーティーの指揮を執る人物が居なくなってしまう。救護騎士団とシスターフッドが表舞台へと踏み出した今、ナギサが倒れたからと云ってミカを釈放する事は許されないだろう。
故にこそ今が踏ん張りどころ、そう考えて彼女は腹部に力を籠める。
「ふふっ、私の事を心配してくれるのは先生くらいなものですね」
「まさか、きっとフィリウス分派の子達だって心配しているさ、それにきっとセイアも、ミカだってそう、ヒフミだってナギサの事を心配しているよ」
「……そうですね、ヒフミさんは優しいですから」
呟き、ナギサは微笑む。ナギサの持つ人脈は多岐に渡る、それこそ両手両足の指では足りぬ程に。しかし其処に純粋な友愛のみで成立する縁がどれ程あるかと考えた時――彼女はそれが、存外に限られたものである事を自覚していた。それこそ、両の手ですら多い程に、その縁はほんの僅かに過ぎない。
だからこそ、今度こそ大切にしようと思った。彼女達の存在に心から感謝し、ナギサは告げる。
「――それでは先生、ミカさんの事をどうか、宜しくお願い致します」
「うん、任せて」
深々と頭を下げるナギサに、先生は力強く返答する。
彼女からお願いされずとも、ミカに関しては先生もどうにかしなければと思っていた。だからこそお墨付きを貰えたのならば大々的に動く事も出来る。先生はシッテムの箱を抱えて立ち上がると、頷き告げた。
「ミカも、私の大切な生徒だからね」
■
「セイア様を害そうとした裏切り者を引き摺り出せ!」
「アリウスと手を組んでエデン条約を台無しにした罪人がティーパーティーだなんて、許せません!」
「罪人には罰を! 断罪を!」
「裏切りには代償を!」
「わわっ、こ、この線から出ないで下さい……っ!」
会議室を後にし、本校舎周辺を歩く事十分程。時刻は既に夕刻に差し掛かり、空は茜色に染まり始めていた。夏の終わり、段々と陽が落ちる速度が早くなっている。以前ならばもう少し陽は長かったと云うのに。
遠目にミカの収容されている建物が見えてくると同時、生徒達の喧騒が先生の耳に届いた。
目を細めれば、何やら入り口に付近に屯する生徒達が十数名程。彼女達は手を突き上げ、身を乗り出し、何事かを懸命に叫んでいる。その勢いを止めようと、入り口の扉を身を以て守る小柄な生徒――正義実現委員会の構成員が二名。
何かを叫ぶ生徒を見つめながら、先生は小さく呟いた。
「サンクトゥスの生徒達か」
どうやら内容を聞くに、ミカを糾弾しているサンクトゥス分派の生徒達らしい。かなり悪辣で、心無い言葉も口にしていた。そんな彼女達の様子を伺いながら、先生は小さく首を振る。パテル分派の生徒が居ないのは僥倖だった、そうでなければ銃撃戦が起こってもおかしくない。
きっと、そんな事を思ったのが悪かったのだろう。
「またサンクトゥス分派の連中か……!」
「お前達、まだこんな事をッ!」
「無駄に集まって罵声に怒声、品のない分派ですこと」
「程度がしれますね、サンクトゥス!」
彼女達の声を聞いて駆け付けたのか、或いは遠目に見ていた仲間が連絡網で呼び出したのか。十名程度の同じ制服を身に纏った生徒達が、ゾロゾロと彼女達の傍へと足を進めていた。現場に緊張が走り、声を上げていたサンクトゥス分派の生徒達が色めき立つ。
「パテル……ッ!」
「ふん、サンクトゥス分派の生徒は随分暇なのですね?」
「なんですって……っ!?」
互いの分派が横一列に並び、相手を睨みつける様にして胸を張る。張りつめた空気を感じ取った正義実現委員会の生徒二人が焦燥を滲ませながらあたふたと銃を抱え、しかし声を掛ける事も出来ず戦々恐々と扉の前で縮こまっていた。万が一に備え、その手には連絡用の端末が握られていたが――本部の生徒は殆ど出払っている筈だった、応援が駆け付けるとしても何分後かも分からない。
そうこうしている内にパテル分派から一人の生徒が踏み出し、ふんと鼻を鳴らしながら告げる。
「そもそもミカ様はアリウスの悪辣な罠に掛かってしまっただけ、その証拠に以前の騒動ではこのトリニティを率いて見事、件のアリウスを撃退致しました、この学園が未だ形を保っているのもミカ様が先陣を切って戦ったからこそでしょう? その様な御方に裏切りだの、断罪をだの……良く云えますわね?」
「そもそも、あの事件は聖園ミカがアリウスを呼び込まなければ起きなかった筈でしょう!」
「どうだか、卑劣なアリウスの事だ、どう転ぼうと調印式で仕掛けて来たに違いない、ミカ様は慈悲を見せただけだ、長年の対立を水に流し手を差し伸べ、それを払ったのはアリウスそのものだろう?」
「ならば我らの首長、セイア様を襲撃した件はどうする!?」
「それこそアリウスが勝手にやった事、ミカ様はセイア様を攻撃しろ等と一度も指示しなかったと仰っているだろうに!」
「罪人の言葉を信じると云うのですか?」
「口を慎みなさい、我らの首長を罪人呼ばわりなど」
互いが互いを睥睨し、敵意を剥き出しにして対立する。そしてどちらともなく、鞄に仕舞い込んでいた銃を静かに取り出した。その安全装置を弾き、薬室に弾丸を送り込む硬質的な音が周囲に木霊する。その銃口が、ゆっくりと対面に立つ相手へと向けられた。
「やはり、力を信奉すると頭まで筋肉になるのか? パテル?」
「口ばかり達者で頭でっかちなサンクトゥスには、やはり此方の方が良く効くかしら?」
「ちょ、ちょっと! こんな所で銃を構えないで下さい……ッ!?」
「あわわっ、ほ、本部に応援を……!」
一触即発、ほんの些細な刺激で銃撃戦に発展する予感。そこに至り先生は漸く動き出した。石畳の床を靴で叩き、コツコツと音を立てながら集団に接近する。そして突きつけられた二つの銃口をそっと手で覆い、告げた。
「ごめん、ちょっと良いかな?」
「何ですか、今私達は大事な話の最中――……?」
「申し訳ありませんが、今私達は、この魔女に加担する連中を――……?」
自身の銃身を優しく掴まれ、横合いから唐突に掛けられた声に鋭く反応する両名。しかしその視線を向けた途端、彼女達は目に見えて狼狽し、その纏っていた敵意を霧散させた。
「あっ、せ、先生!」
「先生……!?」
自身の直ぐ傍に立つ存在が先生だと気付いた途端、彼女達は構えていた銃を慌てて地面か空に向ける。先生の傍で銃火器を扱う危険性を、彼女達は良く理解していた。
周囲に立っていた生徒達も先生を見るや否や慌てて銃口を逸らし、安全装置を掛けると弾倉を抜いて排莢を行う。
「申し訳ないのだけれど、これからそこの建物で会議があってね、出来れば少し静かにして欲しいんだ――頼めるかな?」
「えっ、か、会議ですか……?」
先生は二人の肩を優しく掴むと、そっと顔を近付けながらそう告げる。その表情は薄らと笑みを浮かべていたが、声には表現する事が出来ない強い意志が込められている様な気がした。ぐっと、二人の肩を掴む先生の指先に力が籠められる。痛みは無いし、彼女達からすれば簡単に振りほどけてしまう程度の力だ。
けれど何故だろう、彼女達はまるで凄まじい力で抑え込まれている様な錯覚を覚えた。
先生の視線が二人を真っ直ぐ捉え、低く、力強い声で彼は云う。
「とても、重要で、大切な会議なんだよ」
「わ、分かりました……」
「は、はい……」
先生の言葉に二人はぎこちなく頷き、口を噤む。その返答を聞いた先生はふっと先程よりも深い笑みを浮かべると、「ありがとう」と礼を口にし肩を掴んでいた手を離す。彼女達の背後に並んでいた生徒達は疑問符を浮かべながら口々に囁いた。
「シャーレの先生が一体、何の用でこの様な場所に――」
「此処の建物で会議があるとの事ですが」
「え、でも此処って……」
「先生がいらっしゃるとなると、サクラコ様も参加するのでしょうか?」
「という事は、ミネ団長がいらっしゃるという事に――」
「救護される……ッ!?」
「ふ、ふんっ、命拾いしましたねサンクトゥス……!」
「パテルこそ、次は必ず……!」
互いに口々に罵りながら――しかし先生が傍に居る為、明らかにパワーダウンしている語彙だった――解散する両分派。その背中を見送り、先生は深く溜息を吐き出す。
「ふぅ、さて――」
解散した生徒達、彼女達が排莢して足元に転がった弾丸を一つ一つ先生が拾い上げていると、直ぐ傍に駆け寄って来た影が二つ。先生は彼女達を見上げながら、労う様に声を掛ける。
「せ、先生……!」
「やぁ、お疲れ様、正義実現委員会も大変そうだね」
「い、いえ、助けて頂いてありがとうございます!」
「私は何も――申し訳ないけれど、警護の方お願いね? 何かあったら呼んで、直ぐ駆けつけるから」
「はい、此処はお任せ下さい! 後、掃除も私達で行いますから……!」
「ん、そっか……ごめん、ありがとう」
頻りに恐縮し、頭を下げる正義実現委員会の二人に拾い上げた弾丸を手渡す。彼女達に礼を告げこの場を任せながら、先生は建物の扉を押し開け中へと踏み入った。
独房の存在するこの場所は薄暗く、何処か空気が冷たく感じる。背後の大扉が閉じられると一気に静寂が周囲を支配し、吹き抜けとなった天井を見上げ先生は呟いた。
「……嫌な空気だね、全く」
それは変化していくトリニティに向けて零れた言葉か。
それとも――。
そこまで考え、先生は緩く首を振る。思う事はあった、しかし自分にはまだ為すべき事がある。今はそれを優先しなければならない。
そう考え、先生は地下へと続く階段へと足を進めた。
寂れた聖堂の中で、先生の靴音だけが響いていた。
本小説に於いてはパテル分派が比較的ミカに友好的ですの。元々本編でも救出の為にクーデター起こされる程度には好かれているし、前編でそれに参加してアリウスをボコした上に、エデン条約調印式前に流されていたカバーストーリーが効果を発揮していますわ。
ただ、それはそれとしてセイアのサンクトゥス分派は「ウチの首長に何しとんじゃワレ」って感じ。復帰してからも病床で外出もままならないので益々ヒートアップ。
ナギサのフィリウス分派は「ナギサ様もやらかしたけれど、アレは学園守るためだしノーカン、ミカ様? クーデター未遂は本当だし、でもアリウス撃退したのは彼女だし、うーん……後はお任せしますわ、オホホ」というスタンス。
ミカのパテル分派は「確かにやらかしたけれど、元はアリウスと友好を結ぼうとした善意から始まった上に、そのアリウスもミカ様が撃退したじゃんね? ミカ様いればゲヘナとかワンパンだし!」という感じ。
対立するパテルとサンクトゥスを、フィリウスが高みの見物状態ですわ~!
因みに救護騎士団は「救護ォ!!!!」という思考。
シスターフッドは「あれ、もしかしてこれ最悪内部分裂する? やべーぞ内戦だ!」という感じで外部から手助け中ですの。でも真意を聞いてもニコニコ微笑みながら、「さぁ、どうでしょう?」と回答するサクラコ様。
実はぁ、シスターフッドが内部からティーパーティーを傀儡としようとしているって噂があってぇ……。