ブルーアーカイブを、もう一度。   作:トクサン

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誤字脱字報告、ありがとうございます。


顔の見えない友人

 

「いやぁ~、ゴチでした先生―!」

「御馳走様でした、先生☆」

「ん、お陰様でお腹いっぱい」

 

 食事を終え、店の外へと出た頃にはすっかりと陽も沈み始め、空は暗く周辺は街灯に照らされ始めていた。少しだけ張った腹を擦りながらふらふらと歩くホシノに、同じような張り具合で満足そうに笑うシロコ。ノノミとアヤネは二人と比べれば良心的で、財布は兎も角先生の心は存分に満たされたと云って良い。

 皆を外まで見送ったセリカは、一度店の戸を閉めると忌々しそうな顔で皆を睨みつけ、地団駄を踏みながら云った。

 

「早く帰って、あと二度と来ないで! 仕事の邪魔だからッ! 分かった!?」

「あはは……えっと、セリカちゃん、また明日ね」

「ほんと嫌い! 皆死んじゃえー!」

「ふはは、元気そうで何よりだ~、それじゃあまた明日ねぇ」

「またね、セリカ」

「もう来るな!」

 

 むきーっ、と憤慨するセリカの背を見送りながら、帰路へとつく面々。先生は最後まで怒り心頭であったセリカを想い、申し訳なさそうに頭を掻いた。

 

「あはは……嫌われちゃったかな?」

「んー、単なる照れ隠しだよ、頑張る姿を見せたくないんだ、あの子は」

 

 特に、一人で頑張っている時は。

 ホシノはそう云って先生を振り返る。その瞳は優し気で、先生は一瞬、「誰かとそっくりだね」と口にしようとして、言葉を飲み込んだ。

 反撃でまた財布を軽くされては堪らない、そう思ったのだ。

 

「ま、お腹も膨れたし、今日はもう帰ろうか? おじさん眠くなってきちゃったよ~」

「ん、なら私は先生を送って行く」

「それなら私も御一緒しますよ☆」

「……普通、逆じゃない? 先生が皆を送るべきでは?」

 

 何でもない事の様に発言するシロコ。寧ろ生徒達をアビドスに送り届けようと考えていた先生が恐る恐るそう云えば、前を歩いていた皆が顔を見合わせ、首を傾げた。

 

「でも先生、暴徒とか不良に襲われたら抵抗出来る?」

「先生はその、キヴォトス外の方ですし……」

「不安ですよね」

「先生、よわよわだもんー、そりゃ心配でしょ」

「………はい、すみません」

 

 四人中四人、帰って来た答えは『戦闘力不足』の一言。実際その通りである、暴徒に襲われた場合先生は抵抗する事も出来ない。何せ基本、先生は非戦闘員なのである。

 護身用の拳銃はあっても、所詮9mm口径。ライフル弾ですら『痛い』で済ませるキヴォトスの生徒にとって、神秘も何も籠っていない先生の射撃など、恐らくデコピン程度の威力に過ぎまい。

 結局先生は大人しく送り届けられる事となり、情けないやら申し訳ないやらで、すっかり肩を落ち込ませていた。

 

「それじゃあ、先生の泊まっているホテルに向けてしゅっぱーつ! おーっ!」

「おー」

「お、おー」

「おーっ☆」

 

 ホシノが先頭を切り、腕を突きあげながら出発する。その背をぞろぞろと追う生徒達。夜の散歩は存外に気分を盛り上げるらしく、遠回りだというのに彼女達は笑顔で足を進めていた。

 先生はそんな彼女達の背を見ながら、そっとタブレットの電源を入れた。薄暗い夜の闇に、仄かな青色が混じる。電子の手がそっと先生の肩を掴み、耳元で囁いた。

 

「……アロナ」

『はい、先生』

「首尾は」

『万事、順調ですよっ』

「流石」

 

 誰にも聞こえないアロナの声を聴きながら、先生は生徒達の後を追い、不意にセリカの居る店を振り向いた。

 先生のその瞳は――黒く輝いている。

 ただ只管前を見て歩く生徒達は、その色に気付く事はなく――影は暗闇の中に沈んで消えた。

 

 ■

 

「お疲れ様でしたー!」

 

 頭を下げ、挨拶と共に店を出る。セリカがアルバイトを終え、帰路に就く頃にはすっかり夜も更けており、周囲には人も疎らで元から少ない店も閉まり始めていた。ふーっ、と吐息を吐き出せば、もう春だというのに吐息が白く濁り、思わず手を擦り合わせる。アビドスは昼と夜の気温差が激しい、これも砂漠化の影響だった。

 

「はぁ、やっと終わった……今日は特に、酷い一日だったなぁ」

 

 呟き、疲労感から肩を廻す。立ち仕事には慣れているが、接客と云うのはどうにもまだ慣れない。仕事の内容を思い返し、ふと皆が来た頃の時を回想、憤慨する。特に記憶に残っているのは、デレデレと生徒達と食べさせ合いをする先生の姿。その事を思い出すと妙な苛立ちが胸内で膨れ上がった。

 

「それにしても皆で来るなんて……騒がしいったらありゃしない、人が働いている横で先生先生って、チヤホヤしちゃってさ、何なのアレ、ホシノ先輩、昨日の事があったから態と先生を連れて来たに違いないわ……絶対にそう!」

 

 呟きながら足を進める。きっと、昨日自身が先生と半ば仲違いするような形で部室を後にしたから、要らぬ気を回したのだろう。そう考えると、突然バイト先に押しかけて来たのも理解出来る。多少無理矢理にでも顔を合わせて――という事なのだろう。一緒に過ごせば何とやら、呉越同舟という奴か。

 

「……私がそう簡単に折れると思ったら、大間違いなんだから」

 

 吐き捨て、帰路への一歩一歩を強く踏み出す。

 

「………」

 

 そんな彼女の背中を、妙なシルエットの二人組が見ていた。

 歩道橋の上、赤いフルフェイスヘルメットを被ったロングコートの生徒と、黒いフルフェイスヘルメットを被った中肉中背の生徒。二人は道を歩くセリカを見下ろしながら、口を開く。

 

「――あいつか」

「多分そう、アビドス対策委員会のメンバー――黒見セリカ」

「準備しろ、次のブロックで捕獲する」

「……了解」

 

 ■

 

「……ふーっ」

 

 バイト先からアビドスへの帰路の途中。それ程遠い訳ではないが、近い訳でもない。バイトの疲労感が足を蝕み、セリカは少しだけ足を止め周囲を見渡した。郊外から少し離れた通り、周囲は誰も住んでいないビルや住宅、商店がぽつぽつと見える。人口の集中している郊外から少し離れるだけで人影はなくなり、蟲の喧騒だけが聞こえてくる。夜空を見上げると星が良く見えた。セリカは空に向かって吐息を噴き出しながら呟く。

 

「……そう云えば、この辺も結構人がいなくなったなぁ、前はここまで静かじゃなかったのに――治安も悪くなったみたいだし」

 

 ふと横を向けば、誰も管理する者が居なくなったテナントビル、その壁に描かれた落書き。カラフルなそれらを見つめながら、セリカは顔を顰める。

 

「やっぱりこのままじゃ駄目、私達がもっと頑張らないと……そして、学校を立て直すんだ」

 

 こんな風に好き放題落書きされるようになったのも、人が居なくなってしまったのも、全部全部、アビドス高等学校が力を喪ってしまったから。それを取り戻し、学校に生徒達が戻ってくれば――きっと、このアビドス全域を復興させる事だって叶う筈だ。

 そう気持ちを新たに歩き出す。

 

「取り敢えずバイト代が入ったら、利息の返済に充てて――」

「おい」

 

 不意に、声を掛けられた。

 直前まで気配も無かった、慌てて振り向くと、視界に飛び込んできたのは特徴的なヘルメット姿。つい最近までアビドスを苦しめていた――不良集団の象徴。

 

「……っ! カタカタヘルメット団!?」

 

 叫び、咄嗟に鞄を足元に放り愛銃を構え、安全装置を弾きコッキングレバーを引く。一瞬で臨戦態勢を整えたセリカは、正面に立つ赤いヘルメットの生徒を睨みつけた。

 

「黒見セリカ――だな?」

 

 その問いかけに答えず、セリカは平静を装って周囲を見る。

 足音――そして気配。囲まれた、少なくとも自分の正面に二人、背後には――気配と伸びる影から、恐らく三人。セリカは内心で自身を罵倒する、こんなに接近されるまで気付かないなんて。バイト終わりだからと云って気を抜き過ぎた。

 頭の中で持っていた弾倉の数を思い出しながら、危機的状態であるにも関わらず、セリカは気丈に笑って見せる。虚勢を張るのは、得意だった。

 五人程度なら――自分だけでも何とか制圧出来る。

 

「……あんた達、まだこの辺うろついてんの? あれだけボコボコにされて、まだ足りなかったんだ、なら丁度良かった、今虫の居所が悪かったの、二度とこの辺りに足を踏み入れられない様にしてやるわ――ッ!」

 

 セリカは犬歯を剥き出しにして叫ぶ。声は夜空に吸い込まれて消え、正面の敵に向けて射撃を敢行しようと、素早く銃口を向け引き金に指を掛ける。

 最悪、倒せなくとも構わない。周辺に誰か一人でも住民がいれば、アビドス高等学校なり連邦生徒会なり、通報してくれる事だろう。もしこの連中が周辺の住民まで徹底的に散らしていたのなら、その時はその時――精々派手に立ち回って、目にもの見せてやる!

 苛立ち半分、勇み足半分。そんな心地で挑み、引き金を引いた瞬間。

 

 銃声――音は、セリカの愛銃から放たれたものではない。一瞬早く、それは周囲に響き渡り、飛来した弾丸はセリカの肩に着弾、衝撃に思わず前につんのめった。

 

「ぐ、ッ!?」

 

 撃たれた――背後から?

 咄嗟に射撃ポイントを割り出そうと目線を動かせば、近場の廃墟からマズルフラッシュ。しかも、複数のポイントから一斉に。

 セリカを囲む五名のヘルメット団は微動だにしていない、まるで木偶の様に突っ立ち、見ているだけだ。

 

 まさか――待ち伏せ……!

 

 セリカの脳内に、最悪のシナリオが過った。連中は待っていたのだ、自分が――このエリアに踏み込むまで。

 何度も銃声が木霊し、その度にセリカの体が左右に揺れる。肩や足に弾丸が突き刺さり、思わず呻き声が漏れた。障害物に身を隠そうにも――周辺には狙ったかのように何もない。

 

「あ、ぐッ!? あんた達、最初から私を……ッ!」

「足を止めた――やれ」

 

 赤いヘルメットの生徒が、静かに手を下ろす。左右から銃撃を受けるセリカは動けず、一拍遅れて強烈な砲撃音。聞き慣れたそれに、セリカは思考を巡らせる。

 この砲音は高射砲――違う、この音は、Flak41改か!

 

「ぐぅッ!」

 

 正解を引き当てた途端、砲弾が着弾しセリカの足元が爆発する。

 

 ――市街地で砲撃何て、正気!?

 

 爆風に呑まれ、頭を抱えながら地面の上を転がるセリカ。混乱の極みにありながらも、セリカは努めて冷静であろうとした。

 火力支援、場所を割り出して、どうにかしないと! ――地面に転がりながら、セリカは自身の体に手を這わせる。至近距離での爆発、最悪気絶してもおかしくなかった。如何に頑丈なキヴォトスの生徒であっても無敵ではない。地面に伏せ、砂塵に紛れながらセリカは負傷の確認に努める。

 しかし、銃を片手に出血箇所を探し彼方此方をまさぐるも、傷らしい傷はなかった。

 

 ――負傷は……ない? 砲撃の至近弾を受けて? 

 

 それは、酷くおかしな事である。

 Flak41改の砲撃を受けて、血だらけになるどころか掠り傷一つない。それは明らかに異常、誰にでも分かる程の。

 不意に、鼻腔を擽る甘い匂いに気付く、辺りに漂う砂塵――それに紛れ、微かに。

 セリカは顔を顰めた、砲撃に甘い匂い? まるで繋がらない。爆発に巻き込まれて甘菓子か何かが吹き飛んだ? まさか、そんな筈がない。少なくともセリカの鞄に、そんな余分なものは入っていない。精々栄養補給用のカロリーバー程度のもの。

 

 ――いや、もしかして、これは殺傷目的の爆撃ではない? なら、まさか。

 

 さっと、セリカの顔色が蒼褪めた。気付き、セリカは慌てて口元を覆う。しかし、その程度で吸引を防げる筈もなく。徐々に口元が緩み、妙に気分が落ち着いて来る。先ほどまであった銃撃による痛みが消え――軈て意識も沈んでいく。

 駄目だ、駄目だと言い聞かせても、肉体の作用は容易に精神を飲み込み、セリカの瞼が遂に落ちた。

 散布された笑気ガス(laughing gas)が晴れた頃――そこには俯せで倒れ伏し、ピクリともしないセリカだけが残されていた。

 

「……続けるの?」

 

 黒いヘルメットを被った一人が、倒れ伏したセリカの元に近付きながら銃を見せ、問いかける。言外に、「殺すのか?」と問うていた。

 しかし赤いヘルメットの生徒は、静かに首を横に振って否定する。

 

「いいや、オーダーは生け捕りだ、ヘイローを破壊するつもりはない――車に乗せろ、ポイントまで輸送させる」

「……了解」

 

 頷き、周囲の不良達がセリカを掴み、引き起こす。そのまま路地裏に用意されていたバンに押し込もうとした所で――。

 

「――あぁ、良かった、『そういう選択』をしてくれるんだね、君達は」

 

 不意に、声が響いた。

 男性の、酷く落ち着いた声だった。

 

「ッ!?」

 

 不良達は思わず銃を構え、声の方に銃口を向ける。

 軈て街灯に照らされ、ゆっくりと姿を現した人物は――いつも通りの笑みを浮かべ、彼女達と対峙した。

 白い制服に青い腕章。着込んだコートが風に靡き、対面する不良生徒が重々しい声で告げる。

 

「……連邦捜査部、シャーレ」

「こんばんは――それで、私の生徒に何か御用かな?」

 


 

 

 イズナはもう、何というか馬鹿可愛い。取り敢えず何でも忍術に結び付ければ、何の疑問も持たずに動いちゃうところとか正にそれ。そこがチャームポイント。暇があればきっと、先生の後ろをちょこちょこついていっているんだろうなぁとか簡単に想像できちゃう。見た目狐だけれど中身は忠犬、可愛いね。

 イズナは多分、今まで誰も忍者になりたいという夢を応援してくれなかったから、自身の夢を笑わず応援してくれる先生と、到達点の差こそあれ共に切磋琢磨し高め合う事が出来る忍者研究会の皆を、本当に大切に想っているんだ。失意の中に沈んだ時、躓いた時、落ち込んだ時、励まし、手を取り、笑いかけてくれる誰かがいる。楽しく笑みの絶えない日常の中で、不意に孤独だった時の事を思い出して、「あ、あの、主殿、今更なのですが、私は主殿を見つける事が出来て本当に嬉しいんです、だから――こんなイズナを見つけてくれて……ありがとうございます、主殿」と微笑んで欲しい。

 その後顔と髪をわしゃわしゃに撫でつけたい、「あるじどにょ、顔がとけましゅるうう」とか云う位むにむにしたい。多分良く伸びる。可愛いね。

 

 イズナと二人で映画鑑賞したい。イズナが持ってきた忍者、或いは時代劇映画を二人で一日掛けて見るんだ。先生がクッションを敷いて、足を開いて座ると、「!」と反応したイズナがシュババッ! と素早い動きで先生の間に挟まるに違いない。体育座りで先生の胸に背を預けながら、上目遣いで先生を見た後、「えへへっ」とはにかむんだ。主殿と一緒に映画~、映画~、と妙な歌を歌い始めたり、今日は最高の一日ですね! と先生に頭を擦りつけながら、満面の笑みで過ごすんだ。

 

 後、イズナの尻尾とか耳をブラッシングしたい。一度ブラッシングした時に、イズナの尻尾に顔を埋めたり、耳にふーっと息を吹きかけまくったせいで、真っ赤になりながら尻尾を隠して後退りするイズナを追い回し、ブラッシングしたい。

 多分イズナもイズナでまんざらではないのだけれど、匂いを嗅がれたり、変な気分になってしまうのが嫌で、「あ、主殿、御慈悲、御慈悲を~ッ!」と云いながら捕まる。なんだかんだ云って、先生が真剣な顔でお願いすると断れない。もしくは、「これは忍者が敵に捕まった時、決して屈しない為の訓練なんだ!」と言い含めれば、とっても難しい顔をした後、真っ赤になって一つ頷いてくれると思う。

 でもイズナは、そんな先生の屁理屈に薄々勘付きながらも付き合ってくれるんだ。何だかんだ嬉しそうに自分の尻尾を手入れする先生を見るのが好きで、鼻歌を歌いながら尻尾を梳く先生を見ながら、愛おしそうに微笑むんだ。

 

 イズナに一日百回は「可愛いね」って云いたい。最初の内は忍者と主殿の事しか頭になくて、まさか女性として見られると思っていなかったから、「あ、主殿! イズナを揶揄わないでください!」と真っ赤になって尻尾をぶんぶん振るんだ。

 けれど毎日云われ続けるうちに口がもにょもにょと動く様になって、真っ赤になって俯いて、忍術にしか興味がなかったイズナが朝、先生に会う前に鏡の前で前髪を整えたり、服を手で払ったり、爪を整えたりするようになって。段々と持ち物が女性らしく、ちょっと高めの乳液を使う様になったり、通りの良い櫛を買ったりするんだ。暫くすると、少しだけ女性としての自分に自信が出てきて、今日も可愛いねと云われたイズナは、「えへへっ……」と嬉しそうにはにかむようになるんだ。くそかわ。

 

 イズナはきっとお祭りも好きだから、一人でお祭りに出かけた後、「しゅば、さささ

 っ!」と下手な尾行をするイズナを呼び寄せて、二人で回りたい。適当な理由を付けて傍に侍らせて、「お祭り、楽しいですね、主殿!」と笑っているイズナに、「うん、デート楽しいね」と爆弾を投げつけたい。

 一瞬動きが止まった後、「ででで、デート!?」となるイズナを見守りたい。あぁ、いやでもこれは警護で、とか。これは主殿の身の安全の為に、とか。何やらぐるぐるおめめで考え込むイズナの手を取りながら、「私とデートは嫌かい?」と聞きたい。

 多分凄い勢いで首を横に振ってくれて、それから十秒くらい周囲を見渡し、頭上に汗のマークを飛ばしながら、真っ赤な顔で先生の手を握り返してくれるんだ。可愛いね。

 

 はー、そんなイズナに死に際の介錯を任せてぇ~。

 

 イズナは先生がキヴォトスを裏切った後も最後まで傍に侍ってくれるから、先生が凶弾に倒れて、血を吐きながら崩れ落ちた後、真っ青な顔で駆け寄って来るイズナに介錯を頼みてぇ~!

 

 先生の言葉は絶対で、主として忠誠を、人として敬愛を、男として愛情を持っていた相手に、最期の最期に頼まれた言葉が、「イズナ、介錯、頼む」だったらエモエモのエモ。

 イズナの忍者としての忠節を試す、きっと最期の試練なんだ。

 血に塗れて、浅い呼吸を繰り返す先生に縋りつきながら、涙をぼろぼろ零すイズナに向けて、殺してくれと云った時、多分最初は何を云われたのか分からなくなるんだ。先生がそんな事を云う筈がないという気持ちと、まだ助かるかもしれないのにという希望と、先生の真摯で、真っ直ぐな瞳に射貫かれ、身体が固まるんだ。

 きっと、「で、出来ません、主殿、そ、それだけは、で、出来ません、イズナは、イズナはっ……!」と首を緩く、呆然と振るイズナに、微笑み掛けたい。

 

 それを見た時、きっとイズナは、先生の全ての感情を悟ってくれるんだ。他の誰でもない、イズナの手で死にたいという先生の気持ちと、もう助からないという失意。その中できらりと輝く、イズナへの絶対的な信頼と好意。

 そこにあるのはイズナだからという、絶対不変にして、自身が先生に向けているそれに負けず劣らずの愛と信頼。

 イズナはそれを感じ取って、裏切れないと思ってしまうんだ。

 先生の想う、愛し、信頼し、『強い忍者』なら――そう思って、震える手で銃を手に取ってくれるんだ。内心では撃ちたくないと叫びながら、嫌だ嫌だと震えながら。涙を流し、目を充血させ、がちがちと歯を鳴らしながら、絶対に向けるべきではない相手の額に、銃口を向けるんだ。

 ここで生まれて初めてイズナはきっと、忍者なんか目指さなければ良かったと思ってしまうんだ。

 冷徹無比で恰好の良い忍者、主に忠節を尽くし、その命令には絶対服従。きっと、映画の中で見た忍者なら、こんな状況でも涙ひとつ流さずに完遂するに違いない。

 けれど、こんなにも、こんなにも辛いを想いをしなくてはいけないのかと、イズナは息を荒くして、口を震わせ、嗚咽を零しながら思うのだ。最後まで、「あるじどの、あるじどのぉ……!」と呼びながら。最後はその引き金に指を掛けるんだ。

 

 はー、これが流行りのMTR(看取られ)……このイズナならきっと上忍まで駆け上がるんでしょうね、間違いない。やったねイズナ、夢であったキヴォトス一番の忍者は直ぐそこだぞ! 誰よりも強く、忍者に相応しい存在に君ならなれるに違いないッ!

 まぁ仕えるべき主人はもういないけれど。

 

 

 

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