ブルーアーカイブを、もう一度。   作:トクサン

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子どもの戦い

 

 タブレットを片手に、ごく自然体で現れた先生。彼に銃口を向けながらも、対峙するヘルメット団の面々は即座に動く事が出来なかった。それは、先生から放たれる重圧のせいだ。肩に圧しかかるそれが、物理的な力さえ伴って地面に押し付けて来るような錯覚を覚える。

 原因は――先生の、その目。

 笑みすら浮かべているにも関わらず、先生の目だけは笑っていなかった。鋭く、冷たく、断じて生徒を見る目ではない。自分達を通して、背後にいる何か――誰かを睨みつける様にして見ている気がしてならない。

 小さく息を吞みながら、先頭に立つ赤いヘルメットの生徒が口を開く。

 

「……シャーレの顧問先生が、何の用だ」

「分かり切っている事を聞くじゃないか、君達が今、そのバンに押し込んだ生徒――彼女はアビドス高等学校、対策委員会のメンバーだ、私は最近そこの顧問に就任してね、ちょっとその暴挙は見逃せないかなぁって」

「成程、取り戻しに来たのか」

「んー、どちらかと云うと最悪を回避しに来た、という感じかな」

 

 どこかおどける様に肩を竦めながら、先生は答えた。その雰囲気と動作は余りにもミスマッチで違和感が拭えない。

 真っ直ぐと赤いヘルメットを被った生徒を見つめ、先生は告げる。

 

「本当の事を云うと、【君達】が介入して来ない様だったら私も此処に足を運ぼうとは思わなかったんだ、君たちが彼女を――セリカのヘイローを破壊しなかったから、私はこうして真正面から姿を晒した、だから云ったんだ……そういう選択をしてくれたんだね、と」

「なら、仮に破壊する様に動いていれば」

「当然、阻止したよ――大人の力を使ってでも、ね」

 

 対面する生徒を油断なく見据える先生。その雰囲気に気圧されてか、背後でおろおろするヘルメット団に対し、赤いヘルメットの生徒が一人手を振る。

 

「……早く行け、先生の相手は私達がする――元々、私達の役割は此処までだ」

「りょ、了解です! ありがとうございましたッ!」

「おい、早く出せ!」

 

 二人を除いた全てのカタカタヘルメット団達が慌ててセリカを乗せた車両に乗車し、甲高い発車音を鳴らしながら出発する。それを先生はじっと、微動だにせず見送った。

 車影が闇夜に紛れ、完全に見えなくなってから、赤いヘルメットの不良は口を開く。

 

「……止めないのか」

「云っただろう、私が止めるべきは君達だよ」

 

 先生がそう云って赤いヘルメットの生徒に一歩踏み出せば、彼女は態とらしく音を立てて安全装置を弾いた。それ以上近付けば発砲すると、分かり易い威嚇行為だった。それでも尚、先生は余裕の笑みで言葉を続ける。

 

「ヘルメットを被れば、誰だってヘルメット団に早変わりだ、分かり易いシンボルだよね、隠れ蓑としては打ってつけだと思わない?」

「……何が云いたい、シャーレの先生」

「別段、ただ、こんなにも早いものなのかと思ってね――ゲマトリアは、もっと慎重なのかと思っていた」

 

 途端、先生の目つきが細く絞られ、刃物の様な鋭利さを伴った。

 

「君達を動かしたのはマダムだろう、元々彼ら、彼女らにも横の繋がりはある、互いが互いの戦力、道具を融通し合うのは珍しい事じゃない、問題なのは――君たちを動かすようにマダムへ進言した人物だ」

「………」

「黒服か、マダム本人か、マエストロか、ゴルコンダとデカルコマニーか、誰であってもおかしくはないが、君達を動かせば私が来ると分かっていたのだろうね――随分と高く買われたものだ」

 

 言葉に対し、不良達が選んだのは黙秘。それは答えを知っていてのものか、或いは知らないが故のものか。先生に察する事は出来ない。

 ただ時間だけが過ぎていく。夜の街は静かで、冷たく、不気味だった。不意に、背後に控えていたヘルメット団の片割れが、先生へと銃口を向けた。引き金に指が掛かり、その視線がヘルム越しに突き刺さる。

 

「……問答はどうでも良い、シャーレの先生だろうと何だろうと、邪魔なら消すだけ――」

 

 そして、躊躇いもなく引き金を絞ろうとした時――その銃口に、赤いヘルメットの生徒、その手が翳された。まるで撃つなと云わんばかりに。

 

「よせ」

「……リーダー? でも――」

「私達が撃つよりも、そっちの方が早い……そうだろう?」

「何を――」

 

「――あらあら、先生に銃口を向けてタダで帰れるとでも?」

 

 こつんと、何かが二人の後頭部に当たった。ヘルメット越しに、何かで小突かれたのだと気付く。咄嗟に背後を振り返れば、狐の面を被った和装の少女が二人の後頭部に銃を突き付けていた。赤いヘルメットの不良には長銃を、黒いヘルメットの不良には拳銃を――それぞれ引き金に指を掛けて。

 

「ッ、いつの間に……!」

「――先生が姿を見せた少し後だ、私も気付くのが遅れた」

 

 内心で愕然とする黒いヘルメットの生徒。全く気付かなかった、気配どころか音にさえ。ヘルメットを被っていたから? 否、そんな事は言い訳にすらならない。

 銃口が再び彼女のヘルムを小突き、小さく舌打ちを零して黒いヘルメットの生徒は先生を狙っていた銃を下げる。状況は一転、二人の命は背後の狐面の少女が握っていた。

 

「邪魔なら――何でしたっけ? 確か、消す、とか仰いましたか? 私の先生に向かって? よもやその様な暴言を? うふっ……ふふふふふッ!」

 

 背後からグリップが軋む音が聞こえる。ヘルメットの中で、額に汗が流れた。良く聞かずとも酷く怒り狂っている様子が分かる。しかし、そんな少女の暴走を止めたのも、また先生だった。

 

「ワカモ、駄目だよ」

「ッ! しかしあなた様、この方々はあなた様に対する【殺意】があります! 放っておけば必ず後々の障害になるでしょう、あなた様を害する芽を放っておくなど、このワカモ、とてもとても……!」

「それでも、此処で撃ち合う様な事にはならないよ、それに――彼女達も生徒である事に変わりはないのだから」

 

 数秒の沈黙。和装の少女――ワカモはじっと二人の姿を見つめながら、ゆっくりと引き金から指を離した。

 

「………あなた様がそう、仰るのなら」

 

 銃口を下ろし、二人の間を抜ける様にして先生の傍へと歩みを進めるワカモ。そうして対面して初めて、二人は目前の少女の全貌を目にした。

 

「――七囚人、厄災の狐か」

「この方の前で物騒な名前を呼ばないで頂けます? やはり撃ち殺しましょうか、アナタ?」

 

 不機嫌そうに鼻を鳴らし、仮面越しに見下すワカモ。殺そうと思えば殺せた、そう言外に口にする彼女に、不良二人は沈黙を返す。先生はワカモを宥める様に手を翳し、二人に向かって口を開く。

 

「先ほど云った通り、此処で君達と撃ち合うつもりはないよ、セリカのヘイローを破壊しなかった、その事実で十分だ――今、退くのなら見逃そう」

「……断れば、その狐一匹で私達とやり合うつもり?」

「――あら」

 

 黒いヘルメットの生徒、その言葉にワカモは不思議そうに頸を傾げた。

 

「存外、鈍いのですね、あなた達、本当に二人だけだとお考えで?」

「何を云って――ッ!?」

 

 訝しむ声を上げた途端、一斉に周囲の電灯が光を落とした。それは周囲だけの話ではなく、先生やワカモの立つこのブロック周辺が軒並み全て。世界が一瞬で闇に呑まれ、ほんの数十センチ先の景色すら危うくなる。光の消えた世界を見渡し、不良達は驚愕の声を上げる。

 

「これは、まさかEMP(電磁パルス)か?」

「そんな大層なものじゃないよ、この区画の、ごく一部のエリアの電源供給を絶っただけさ――」

『このブロックの制御権はアロナのものです!』

 

 周囲から光が消えると同時、複数の銃声があちこちから響き渡った。それは、彼女達から僅かに離れた場所から。まさかと思いつつ、端末に向かって声を上げる。

 

「……第一班、応答しろ――第二班、第三班、応答可能な者は!」

『―――』

 

 返答はない。セリカ捕獲の為に配置していた狙撃メンバーが全滅している事実に、赤いヘルメットの生徒は端末を握り締める。

 

「まさか――」

「ニンニン!」

 

 再び街灯の光が灯り、世界が開けると同時――残った二人を囲う様に、人影が降り立つ。

 

「主殿! 周辺の悪者掃討、完了致しましたっ!」

「うわっ、ととっ、ちゃ、着地成こッ、いだぁ! あ、足、足ッ、足捻ったぁあだだだッ!」

「ぶ、部長! 確り、確りして下さい! 傷は、傷は浅いですよっ!」

 

 制服に和装――忍者衣装を組み合わせた三人組。それが高所から宛ら突然現れたかのように、降り立つ。尚一名、着地に失敗し足を抱えながら転がっているものの、長身でメカクレの生徒以外特に反応する事はない。

 ワカモと先生、そして対峙した不良は転がる忍者姿の少女――ミチルを見下ろしながら、何とも言えない表情を浮かべた。

 

「………」

「……あなた様、その、本当に彼女達で宜しかったのでしょうか?」

「――忍者を信じるんだ、ワカモ」

 

 忍者は強い、忍者は凄い、忍者はカッコ良い。

 かまぼこ突風伝にも書いてあった。漫画は嘘を吐かない。先生は清らかな瞳で以てそう告げた。

 

「――と、まぁ私の周りには文字通り、『影に潜む者』が居てね、暗中での戦闘は大の得意だ、夜戦装備もない中で彼女達とやり合うのは無謀だと思うよ、ましてや――」

 

 先生の指がタブレットを叩き、不良を囲んだ四名の生徒――そのヘイローが輝く。リンクが確立し、全員の視界にありとあらゆる情報が齎される。装備も、地形も、素性も、何もかも、先生の前では隠し通す事が出来ない。

 

「――私のサポートを受けた彼女達に二人だけで挑むのは、お勧めしない」

「ッ!」

 

 先生の前に立ち塞がる四名の壁――先生から放たれた青白い光が過ぎ去った時、彼女達の体が一回りも二回りも大きく見えた。これが、先生に指揮権を委ねるという事。

 現れたばかりの三名――忍術研究部の面々は、先生のサポートを受け、ふっと笑みを零し。

 

「か、影に潜む者……! き、聞きましたか、部長!」

「滅茶苦茶忍者っぽいワードじゃん! 流石先生殿、忍者センスがずば抜けてるぅ!」

「暗中戦闘、影に潜む者、何という心躍る言葉……あ、主殿! イズナ、感動しました!」

「――ちょっと待ってね、今先生恰好付けている最中だからね、少しだけ静かにしていてね」

「はいッ! イズナはちゃんと静かにしていますッ!(クソデカボイス)」

「もうその時点で駄目だねぇ、でもイズナはいつも元気で宜しい、花丸百点あげちゃう」

「やったあぁぁぁぁあッ!」

「あっズルイ! 先生どにょ! 私っ、私も花丸欲しい!」

「あ、わ、私も欲しいけれど……でも今は、うぅ――」

「勿論、二人にも花丸をあげるよ」

「わぁい!」

 

 諸手を上げて喜び喝采を挙げる忍術研究部三名。そんな様子を見ていた不良二名は、何とも言えない雰囲気を纏ったまま銃口を下げる。

 

「――引くぞ」

「リーダー……良いの?」

「……あの足を抱えて転がっていた奴は論外だが、隣の大女はそこそこやる、そしてあのワカモと似た狐耳の女――手練れだ、少なくとも装備不足の状態で戦いたくはない」

 

 手に持ったライフルを握り締め、呟く。現在彼女達は所属を隠す為に市販品の銃を使用しており、カスタムされた愛銃と比較すれば性能は著しく劣る。ましてや銃撃に神秘を込めるキヴォトスに於いて、市販品など撃てれば十分程度の品物。

 此処は撤退が正しい選択だと、背を見せぬまま後退る二人。

 それを見つめるワカモは、まるで挑発するように仮面の奥で嘲笑を漏らした。

 

「あら、尻尾を巻いて逃げ帰るのですか?」

「貴様の相手だけでも面倒だというのに、数でも負けた上で挑む程、愚かではない」

「そうですか、私としては此処で危険な芽は摘み取りたかったのですが、襲って頂ければ合法的に屠れますし……ふふっ、まぁ、先生の願いですもの、叶えて差し上げるというのが良き妻の役目――ふふふっ♡」

「……気狂いが」

 

 吐き捨て、そのまま一定の距離まで離れると、不良達は一気に背を向け駆け出した。

 言葉通り、シャーレからの追撃はない。

 

「連絡!」

「――?」

 

 しかし追撃の代わりに、背中に向けて声が飛んできた。一瞬振り返れば、先生が手を振りながら声を張り上げている。

 

「いつでも、待っているから!」

「………」

 

 一瞬、リーダーと呼ばれた少女の足が緩み――しかし、それから振り返ることなく、二人の姿は闇夜の中に消えて行った。

 最後に一つ、呟きを残して。

 

「――……お人好しの先生め」

 

 ■

 

「さて……皆、悪かったね、急に集まって貰って」

 

 夜の中に消えて行った二人の背中を見送り、先生は残った皆の方を振り向く。

 

「いえ、あなた様の願いであればいつでも何処でも、このワカモ……喜んで駆けつけます!」

「主殿の為であれば、例え火の中、水の中! いつでもイズナを頼って下さいッ、ニンニン!」

「まー、事前に連絡もあったし、私としては先生殿の力になれるなら悪くないって云うかぁ……あ、ツクヨ! 私の恰好の良いシーン撮れた!? 良さげだったら『少女忍法帖ミチルっち』の方に上げるから!」

「えっと、部長が着地したシーンなら、多分……」

「駄目じゃんッ!?」

 

 ワカモとイズナは先生を挟むようにして体を擦りつけ、ミチルとツクヨの両名は相変わらず忍術、忍法の布教に熱心らしい。兎にも角にも、それなりに夜も更けた時間だと云うのに駆けつけてくれた皆には感謝しかない。ましてや万が一に備え、昨日からアビドスのホテルに駐在して貰っているのだから。

 

「ありがとう、助かるよ、シャーレとして自由に動かせる生徒は少なくてね……多くはないけれど夜間手当も出すから、活動の足しにしてね」

「えっ、本当!? ヤッター! ツクヨ、イズナ、帰りにご飯食べて行こう!」

 

 両手を上げ、飛び跳ねながら満面の笑みを浮かべるミチル。しかし、そんな彼女に向け相変わらず猫背なツクヨは、指先同士を突き合わせながら呟く。

 

「いえ部長、この時間だともうお店は閉まっているんじゃあ……」

「あっ、主殿! それならイズナ、主殿の手料理が食べたいですッ! 手料理!」

「は? 私を差し置いてあなた様の手料理を食べる? 極刑では?」

「分かった、分かったよ、なら次の休日に皆で食事をしよう、ちゃんと私が作るから、今日は先に帰っていて欲しい」

「はーい!」

「しょ、承知しました」

 

 ツクヨとミチルが素直に頷き、一先ず解散の流れとなる。皆にはホテルに帰還して貰い、翌日学園に復帰して貰う形だ。

 尚、ワカモは停学中の身なので、一時的にシャーレの宿舎を寝床として開放している。授業も、先生の手が空いている時は開校していたりするのだ。今の所、生徒はワカモだけだが。現在特にこれといった不満もなく、ワカモは良くやってくれている。

 ただシャーレのオフィスに、「先生と私の愛の巣♡」とプレートを掲げるのは勘弁して欲しい。この前、ユウカに見つかって、ほんともう大変だったのだ。ユウカの太腿に縋りつき、泣き落としを敢行しなければ今頃ユウカとワカモの間で、大怪獣大戦が勃発していたかもしれない。先生は一瞬、世界を救ったヒーローの気分になった。

 

「しかし主殿、おひとりで大丈夫ですか? イズナを頼って頂ければ、先程の生徒救出も――」

「ん、大丈夫だよ、ありがとうイズナ」

「あ、えへへっ……」

 

 先生の身を案じ、同行を願い出るイズナ。その頭を撫で、柔らかく提案を断る。気持ちだけで十分嬉しい。現実的な考えならば、この面子を連れて救出に赴くべきだろう。

 しかし、それでは駄目なのだ――。

 ふと横を見ると、誰かのつむじが見えた。良く良く見れば、それは頭を突き出した姿勢で待機するワカモであった。

 

「……ワカモ?」

「――何でしょう、あなた様?」

「………何でもないよ」

 

 突っ込んだら負けなのかな、そう思いながらワカモの髪も撫でる。心なしか、ふんわりとワカモの周辺に柔らかな空気と花が浮かんだ気がした。

 撫でられた姿勢のまま、ワカモはそっと、分かっていますよと云わんばかりの笑みを浮かべる。

 

「ふふっ、あなた様の身を守る、そして心も守る――両方守ってこそ、あなた様の懐刀足り得る、そういうものでしょう?」

「――敵わないな、ワカモには」

 

 彼女は、分かった上で同行を願い出なかったのだ。まるで先生の心と思考を読んだかの如く――昔から彼女は、存外に人の機微に聡かった。或いは、先生だけの心かもしれないが。

 そんなやり取りを傍で見ていたイズナは先生とワカモの顔を交互に見つめ、微かに頬を膨らませた。

 

「……むむっ、何やら好敵手出現の予感――主殿の懐刀を名乗るのならば、ワカモ殿とてこのイズナ、負けられません! 主殿に仕える一番の忍はイズナですっ!」

「……忍には欠片も興味がありませんが、『一番』という部分は少々、気に障りますね」 

 

 互いに頭を撫でられた姿勢のまま、横目で喧嘩をする。互いの尻尾はぶんぶんと左右に振られているのに、放つ雰囲気は剣呑そのもの。恰好は間抜けだが、本人同士は至って真面目だった。

 

「えっと、仲良くね?」

「あなた様のお言葉ですもの、無碍にはしません、ただまぁ――上下関係というものは大事でして」

「良くは分かりませんがこれも忍の定! ワカモ殿が来るというのであれば、受けて立ちます!」

「エッ、ワカモと戦うのッ!? あー……えっとぉ、じゃあ私達、先にホテル帰っているから、余り怪我しないでよイズナ?」

「イズナちゃん、えっと、頑張ってね」

「はい、頑張ります!」

「……ワカモ、その、程々に」

「勿論です、ふふっ……!」

 

 先生成分を存分に補給した両名は、気力体力十分と云った様子で対峙する。ミチルとツクヨは巻き込まれたら堪らんとばかりに早々に離脱し、先生は先生でやり過ぎない様にだけ釘を刺し、同じようにその場を後にした。

 ――実際、ワカモと共に戦ってくれる生徒は貴重なのだ。忍者研究部の面々は含むものこそあっても、それはそれとして口には出さず、また一応は同学園の生徒としての仲間意識がある。イズナはそもそもワカモがどういう人物なのか理解していない節もあり、即席のメンバーとしては十二分に許容の範囲だった。

 

「さて、それじゃあ――」

 

 背後から鳴り響く銃声を努めて無視し、先生はタブレットをタップする。

 

『――先程の車の追跡ですね、先生!』

「うん、首尾はどうだい?」

『バッチリです! あの車がどのルートで、何処にいるのか、アロナの目からは逃れられません!』

「良し、それならアビドスの皆に連絡を」

『はい!』

 

 告げ、アロナがアビドスの皆に連絡を送る傍ら、先生はそっと夜空を見上げる。

 アビドスの生徒は、アビドスの手で救い出さなければならない。

 それが未来へと繋がる道筋であり――ひとり目のゲマトリアと対峙する、近道であるから。

 

 


 

 

 連載開始から二週間が経過しました、ストックは三日目で切れているので、毎日せっせと書いた分だけ投稿してきましたが、ちょっと厳しいので明日はお休みします。本音はブルアカのイベントが開始され、ちょっと走りたいので一日サボります。

 先生の手足を捥げない私をゆるして。

 

 それはそれとしてアコって可愛いよね、その恰好で風紀委員は無理でしょって思うけれど、きちんと仕事を果たしている偉い。パンティ(パンデモニウムソサエティ)はちゃんと見習ってほしい。ヒナ委員長至上主義で、委員長が絡んだら黒も白にしそうなアコ。彼女の疲労は見抜いているし多忙なのは理解しているけれど、エデン条約編で委員長が委員長じゃなくなるという事にめちゃ悲しそうな顔をしていたアコ。

 

 多分アコは先生の事を尊敬はしていても、複雑な感情で見ている様な気がする。ヒナが心から先生を慕っている為、そんなヒナに好意を寄せているアコからすれば面白くないし、何というか今までは私が仕事でもプライベートでも心の支えであったのに、みたいな嫉妬心があると思う。だからシャーレには普段から無理難題を吹っ掛けてやりたいし、何なら先生が忙殺される事に関してはなんの心も痛まない。寧ろそれでヒナ委員長の負担が軽くなるなら率先して仕事放り投げてやるという心地。

 だからゲヘナにやって来てヒナといちゃいちゃする先生を、凄い目で見て欲しい。その後は先生に大量の仕事を押し付けて留飲を下げるんだ。委員長を独占したのですから当然の報いです、って。

 

 でも一緒に仕事をしたり、カフェに呼び出して一方的に愚痴を聞かせている内に、段々と絆されていく気がする。何だかんだ仕事の手腕は悪くないし、自分の事もヒナの事も気に掛けてくれるし、ゲヘナの絶対的な味方という訳ではないけれど、本当に困った時は身を投げ捨ててでも助けてくれるし。

 

 だから時間が経つにつれ、存外、悪い人じゃないのかも、って思って欲しい。その内、カフェで愚痴を聞かせる代わりに、他愛もない先生の話や、或いはヒナの普段の行いを愛でるものにすり替わって、アコは二人で過ごす時間が楽しみになっていくんだ。

 先生とモモトークで約束を取り付けた日は、少しでも疲労感を隠す為にファンデーションを多めに塗って隈を隠したり、ちょっと高めの香水を使ったりして、でもそんなことをしている自分に対して、「これはシャーレとゲヘナの関係を良好に保つため」とか言い訳をして。けれどいざ二人で会って話しだすと、自然に笑みが零れて、ゲヘナだとかシャーレだとか、関係云々なんてとっくに頭から抜け落ちて、ただその一時一時を大切に、心から楽しそうに過ごすんだ。

 

 そんな淡い好意とも、恋心ともつかぬ感情を抱いた頃に、「ヒナとお付き合いする事になった」って先生に云って欲しい。

 

 多分、凄く驚いた顔をした後、しどろもどろになって、「それは、お、おめでとうございます……?」とキョドるに違いない。先生と生徒が良いのかとか、それは犯罪ではとか、私の委員長に何をしているのとか、色々言いたい事はあるけれど、不意に胸を刺したチクリという痛みに意識を引っ張られて、文句を言う事が出来ないのだ。

 そしてその日は一日ぼおっと過ごして、ヒナに、「アコ、大丈夫?」と心配されて欲しい。

 

 その後、またゲヘナに来てヒナとイチャつく先生を見て、前とは違う表情を浮かべて欲しい。幸せそうなヒナと先生、相思相愛なのは明らかで、そんな二人の笑顔を見る度に胸を痛めて欲しい。

 

 そこで漸く、自分も先生に好意を抱いていたんだと自覚して、そっと儚い笑みを浮かべるんだ。気付くのが遅かった、もっと早くに気付いていれば、あそこには私が座っていたのかもしれないのに――そんな風に考えて、それでも満面の笑みを浮かべるヒナに文句は一つも出て来なくて、ただ純粋なまでに幸せそうな二人に、アコは静かに身を引くんだ。どうかお幸せにって。委員長が笑っていて、先生が幸せそうなら、自分は何も後悔はないんだって。

 

 はー、そんなアコにヒナが先生を殺害したって報告を聞かせてぇ~。

 

 敬愛するヒナ委員長が、心の奥底では想っていた先生を殺害したって聞いて、頭が真っ白になるアコ見てぇ~。

 キヴォトス動乱で、先生が生徒を裏切って、シャーレの鎮圧を完了したと聞いた後、血塗れの恰好で帰還したヒナ委員長が、能面の様な表情を浮かべて、「先生を殺した」って云うんだ。

 

 それを聞いた時、委員長の帰還を嬉しそうな表情で迎えたアコは、一瞬硬直して、それからヒナの無事の帰還を喜んだ笑みのまま、静かに、「今……何と?」と聞き返すんだ。ヒナは一瞬も表情を崩さず、ただ淡々と、何も感じないと云わんばかりの表情で、もう一度、「先生を、殺した」と云うんだ。

 

 アコは何も言えなくて、ただ胸の中に様々な感情が渦巻いて。笑えば良いのか泣けば良いのか、それすらも分からなくなって、「え、ぁ、は……え?」と顔をぐしゃぐしゃにするんだ。

 ヒナはそんなアコの横を通り抜けながら無言で去って、その場にはアコ一人が残される。

 生きて捕らえるって云ったじゃないですかとか、何で殺す事になったんですかとか、先生を殺しておいて何でそんなに平気そうなんですかとか、云いたい事は山の様にあるのに、言葉には出なくて。

 ただ両手を痛い位に握り締めて、吐息しか漏れない口を何度も開閉させて、それから憎悪だとか悲哀だとか絶望だとか敬意だとか好意だとか信頼だとか、今沸き上がった代物と嘗て抱いていた様々な感情を混ぜ合わせた、凄まじい形相でヒナの背中を睨みつけるアコを見たい。

 

 貴女だから任せたのに、貴女だから身を引いたのにという信頼を裏切られた想いと、こんな事なら私が隣にという昏い後悔と、今まで積み上げて来た敬意や好意が並び立ち、殺したくない、けれど、それでもという感情が上回った時――多分生徒達は、この世で最も美しい表情を浮かべてくれると思うんです。

 

 はーッ! 多分背中からアコに撃ち殺されても、ヒナは笑いもしなければ泣きもしない、ただ申し訳なさそうに、少しだけ目を細めながら、全てを淡々と受け入れるんだろうなぁ! ヒナは心が弱いもんなぁ! 先生が居なくなったら多分立ち上がれないよなぁ! 心の奥底では先生を殺した己を、誰かがきっと殺してくれるって、期待しているんだろうなぁ! そしてアコが先生に好意を感じていた事を薄々勘付いていたヒナは、敢えてアコの前で『そういう風』に振る舞ったんだろうなぁ! 可愛いなぁ!

 まぁ先生はそんな事望んでないと思うけれどね。自分が死んだ後に生徒達が殺し合いに発展する様を先生に見せつけながら隣で柴関ラーメン啜りてぇー。何かお腹減って来たから先生でご飯炊くね?

 

 どうでも良いけれど、ヒナ委員長撃ち殺した後のアコが、先生とヒナ委員長が付き合う前にタイムリープする話とか見たくない? 私は見たい。昨日まで委員長ラブだったアコが、翌日心底嫌悪感を滲ませる態度で接してきて、反対に先生にはベッタベタになって困惑するヒナとかめちゃ見たい。もう遠慮の欠片もない、全力のアコ恋愛攻勢が始まるんだ。未来を変える為に努力するアコは可愛いね。

 その後フラれてヒナと結ばれる先生見て絶望して欲しい。

 

 その未来を変えるなんてとんでもない! アコの精神が擦り切れるか、愛情が勝つか勝負だね。大丈夫! 愛は世界を救うんだ! 君なら出来る! 自分を信じて!

 まぁ世界は救えても、先生を救えるかは別問題だから。先生を救えると思った? 可愛いね♡ 先生救われちゃったらヒナとアコの泣き顔見れないじゃん。ウケる。

 

 

 

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