ブルーアーカイブを、もう一度。   作:トクサン

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誤字脱字報告に感謝ですわ~!


圧倒的ニンジャ

 

「一番機、信号ロスト――」

 

 画面一杯に走るノイズを見つめながら、彼女――ヒマリはそう呟いた。

 場所は特異現象捜査部、メインルーム。ミレニアムの中でも特に秘匿性に優れ、部屋の中には無数のモニターが青白い光を放っている。その中央に座し、愛用の車椅子の上で指先を躍らせる彼女。手元のコンソールを操作しウィンドウを閉じると、耳に響いていた音も消える。完全に沈黙したドローン、真横に表示されたオフラインの表記を横目に、深く椅子に凭れ掛かったヒマリは溜息を零す。

 

「ふぅ、アリウス自治区に進行した時点で薄々感じていましたが、まさか突然殴りかかって来るとは、この手を出す速さは流石の私も予想していませんでしたね……」

 

 最後に表示された機体状況は大破、咄嗟に再起動(リブート)を掛けては見たものの、信号がロストした時点で再起動は絶望的だろう。超長距離通信可能な小型ドローンはそれなりに高価なのだが、仕方がないとヒマリは一番機の接続を完全に遮断する。

 

「しかし、駄目で元々、微々たるものではありますが――幸い時間を稼ぐ事は出来ました」

 

 素早くコンソールを叩き、複数のウィンドウを目前に投影する。其処には先程と同じ型版のドローン、そのカメラ越しの視点が映し出されていた。

 

 元々ヒマリは今回の説得の難度、その高さを理解していた。恐らく彼女達が納得して踵を返す、或いは戦闘行為を控える確率は限りなく低いであろうと予測し、失敗する前提で動いていたと云っても良い。

 それでも実行に移したのは、多少なりとも意識を逸らす為だった。

 何を隠そう、通信が途絶した後、アリウス追撃部隊の殆どをミカ一行にぶつけたのはヒマリの誘導によるものだった。若干彼女達が草臥れて見えたのは、連戦に次ぐ連戦の果てに自治区に辿り着いたからであろう。

 その甲斐あって先生は一度も会敵する事無く自治区内部に進行出来た筈である、尤も現時点でそれを確かめる術はないが――少なくとも戦闘が発生しても微々たる規模である筈だ。

 

 これはもう影の功労者と云っても過言ではないのではなかろうか? ヒマリはそんな事を思いつつ上機嫌にコンソールを叩く。本当ならば先生の自治区進入を止められる事が最善であったが――物事が常に最善の状況で推移するとは考えていない。

 

「――それで部長、これからどうするの?」

 

 横合いで椅子に寄り掛りながらモニタを監視していたエイミがふと問いかける。膝に毛布を掛け、きっちりと衣服を着込んでいるヒマリと比較し、相も変わらず彼女はかなり目を疑う様な薄着である。室内には彼女の希望で冷房すら掛けているというのに、ヒマリはエイミを横目にそれとなく膝掛けを上に引っ張る。

 

「結局先生の自治区進入は止められなかったし、他生徒の説得にも失敗しちゃったし、結構不味いんじゃない?」

「エイミ、確かに状況は決して良いとは云えませんが、その為に複数のプランを用意したのですよ?」

 

 彼女の問い掛けに、ヒマリは余裕を滲ませた表情で答える。彼女の顔には焦燥や不安と云った色は見られない、どこまでも泰然とした態度でヒマリは笑みを貼り付ける。

 

「先生を自治区進入前に止める第一プランは放棄、更には協力者の行動制御も失敗してしまったので――」

「第二、第三も放棄、だね」

「えぇ、この様子ですと第四プランを引っ張って来る必要がありそうです」

「第四――でも、それも難しいかも」

「あら……?」

 

 鼻高々に語って聞かせるヒマリ、しかしエイミの反応は芳しくない。

 想定していなかった彼女の言葉に、思わず目を瞬かせる。疑問符を浮かべるヒマリに対し、エイミは幾つかのモニタを指差し、その映像を彼女の手元へとポップアップさせた。

 

「部長、これ見て」

 

 そう云って表示されたのは現在彼女達が運用している小型ドローンのアクティブ状態、内装、外装含めた破損状況から通信状態まで、あらゆるステータスがそこには表示されている。それらにざっと目を通したヒマリは、その中で一部他とは異なるステータス状況になっているドローンに気付いた。

 

「――四番機の信号が弱い?」

「うん、一番先行させていた機体、システムチェックした時には何の問題もなかった、今も内装、外装共に損傷も無し、ステータスはオールグリーン、だから電波妨害か何かを疑ったんだけれど」

「ふむ……」

 

 ヒマリは自身の顎先を軽く撫でつけ、件の四番機を中心にコンソールを叩く。モニタには四番機の現在地、現在撮影している映像が投影されている――しかし、他の機体から送信されている映像と比較すると随分ノイズが酷い。試しに自治区の更に奥、中心に向けて機体を飛行させれば、そのノイズはどんどん粗を増していく。

 

「……これ以上近付けば、操作を受け付けなくなりそうですね」

「うん、このまま無理に進入させれば墜落かな」

「それは許容できませんね、一度呼び戻してください」

「分かった」

 

 エイミが手元のコンソールを操作し、四番機を外周付近に呼び戻す。その間ヒマリは他のドローンの状態をチェックしながら問いかけた。

 

「この影響は四番機のみですか?」

「ううん、中央区画に近付こうとすると、どの機体も同じような状態になる」

 

 その報告を聞きながら、ヒマリは別方角に向けていた別機を操作し試しに中央区画へと近付かせる。すると確かに、僅かずつではあるがノイズや信号の強弱が生まれだし、ドローンの操縦が覚束なくなる。ステータス上は何の異常も検知されていないというのに、確かな異変がそこには起きていた。

 

「この影響はアリウス自治区内中央区画に近付く程強くなっています、電波探知妨害――ではありませんね……アップリンク信号を遮断されているという感じではありません、フェイルセーフ(自律飛行)モードになる様子もありませんし、探知機に反応もなし」

「そもそもコレは既存の探知装置にダウンリンク信号を探知される造りじゃない、その為のステルス・ドローンだし、アリウスにミレニアム以上のテクノロジーがあるの?」

「どうでしょう、あの飛翔体を保有するアリウス自治区です、私達の知らない技術を擁していたとしても驚きはありません」

 

 溜息を零しながらヒマリはそう告げる。思い返すのはエデン条約調印式会場に撃ち込まれた弾頭、あれの解析には未だ着手していないが、早々簡単に種の割れるものでもないと考えている。元より未知の技術を使用する集団である事は分かっていた、故にこの程度の事は出来ても可笑しくはない――少なくともヒマリはそう思考する。

 

「第四プランが難しいと云った理由はこれですか、確かにこれは少々厄介ですね」

「うん、この状態だと先生に接触するのは難しい、間接的なサポートも同じ」

 

 相も変わらず微塵も変化しない表情、それを見つめながらヒマリは目を瞑る。ドローンを使用した先生の直接的、或いは間接的なサポート、自分達の関与は出来るだけ知られたくないヒマリであるが、それはそれとしてそうも云っていられない状況が迫りつつある。取られる選択肢は限られていた、小さく唸りながらヒマリは首を傾げる。

 

「今から解析する訳にはいきませんし、そもそもソフトウェア面でどうこう出来る保証もない、仮にハードウェアを弄って対策出来たとしてもドローンの改良を現地で行える人員はなし、全く嫌になってきますね――ですがまぁ、他に取れる手段はある筈です、えぇ、この私に解決できない問題など存在しないのですから、ふふっ♪」

「………」

 

 エイミは途中から何やら自画自賛し始めた彼女を見つめ、部長のそういう所、結構凄いと思う、と心の中で呟いた。彼女はどんな状況であっても自分に対する自信を失わない、少なくとも今までエイミはそういう彼女の面を目にしたことが無かった。そのポジティブさは恐らく唯一無二のものだろう――口に出すと絶対調子に乗るので、決して言葉にはしないが。

 

「しかし、この様子ですと時間的にこれ以上のサポートは難しそうですね、皆さんの殲滅速度と進行速度を考えると、先生達との接触もそう遠くはない――不必要な戦闘は避けて欲しい所ですが、あの返答を見るに難しいでしょうし」

「なら、外周を監視しつつ後続の支援に回る?」

「そうですね……ひとまずは先程破壊されたドローンの残骸を回収させておいて下さい、自治区に残しておく訳にもいきませんし、痕跡はなるべく残さないように」

「ん、分かった、一番近い二番機に回収させておく」

 

 破壊された一番機、その残骸の回収。エイミは頷きながら二番機に指定地点まで移動する様指示を出す。少量ではあるがドローンには運搬機能も備わっている、回収できない重量分は完全に破壊してしまうか、何処か発見されない場所に投棄すれば良い。その手の工作は苦手ではなかった。

 

「そう云えばエイミ、外部への情報提供準備は?」

「もう連絡は取ってある、幸い向こうも乗り気みたい」

「あら、流石トリニティの才媛と呼ばれる方は違いますね、話が早くて助かります」

 

 エイミの淡々とした返答に、彼女は上機嫌に頷いて見せる。

 

「向こうの古書館には私達も把握していない情報が眠っているでしょうし、此方が入手した情報も合わせればカタコンベ突破も不可能ではないでしょう、後は時間との勝負ですが……そればかりは私達でどうにも出来ません」

「そこは向こうに期待かな」

「えぇ――しかしエイミ、先程の説得についてですが、何がいけなかったのでしょうか?」

「……それ、私に聞く?」

 

 不意に、何でもない事の様に問いかけて来たヒマリに対し、エイミは何とも云えない、「ジト目」とも呼べる視線を彼女に向ける。小さく吐息を漏らすと、エイミはコンソールを操作したまま淡々と答えた。

 

「私は、感情がないってよく云われるけれど、それがどんな意味なのか良くわからない……でも多分、彼女達が動いている理由はソレだと思う」

 

 感情――それは時に人の動力源にもなるし、反対に足枷にもなる。ただそれが善いもの、悪いものと大別できる程簡単な代物ではない事は彼女も知っている。効率的、合理的、論理的なものを好むミレニアムだが、しかし感情というものを決して見下したり、蔑ろにしている訳ではない。

 確か何処かのマイスターが云っていた、重要なのは熱情だと。

 エイミはふと手を止めると、その手を自身の胸元に添え、僅かに気落ちした様に聞こえる声で呟いた。

 

「先生が居なくなると思うと、何となく胸がざわつく感じ――それが皆、嫌なんじゃないの?」

「ふむ――」

 

 エイミの言葉にヒマリは小さく頷き、思案する様子を見せる。そうして暫し考え込んだ彼女だったが、徐に顔を上げると緩く首を振ってみせた。

 

「私は、元より先生が居なくなる心配などしておりません」

「……それは、どうして?」

「どうして、って」

 

 エイミの問い掛けに対し、ヒマリは大袈裟な程目を見開くと、自身の胸を張りながら何処までも自信満々に、力強く宣言して見せた。

 

「このミレニアムの誇る超天才清楚系美少女が付いているのですよ? それに先生と私は運命の……えっと、そう、素敵な糸で結ばれているのです、今朝目にした雑誌の占いコーナーに書いてありました、今日の先生の運勢は最高、であれば何故そのように憂う必要があるのでしょう?」

「……部長って、偶に変になるよね」

「ちょっとエイミ、どういう意味ですか? ……エイミ? 聞いていますか、エイミ?」

 

 ■

 

「こ、これで三十体目です――……ッ!」

 

 街道に重々しい銃声が鳴り響く。

 ヒヨリの身体が反動で揺れ動き、強烈な反動が外套を靡かせる。弾丸は真っ直ぐ、最後のユスティナ聖徒会に飛来し、その胸元へと着弾――余りの威力に胸元を中心に大穴が空き、ユスティナ聖徒会はその肉体を霧散させる。霧の中へと滲む様に消えていく彼女を見送りながら荒い息を繰り返すサオリとミサキの両名。

 冷汗を滲ませながら周囲を見渡すミサキは、再び静寂を取り戻した街を目に呟く。

 

「流石に、打ち止め……?」

「み、みたいですね……」

 

 ミサキの呟きに、ヒヨリは強張った表情のまま頷いて見せる。

 破砕された石畳の床、弾痕の刻まれた外壁、圧し折れた街灯、戦いの痕跡が彼方此方に散見され、その激闘を物語っている。

 セイントプレデターを地面に突き立て、大きく息を吐き出したミサキは自身の前に立つサオリに視線を向けた。

 その背中には無数の弾痕が残っており、傍から見てもかなり外傷が増えてきている。一度休憩を挟んだので多少なりとも体調は持ち直した様子だが、やはり三時間にも満たない休息では外傷をどうにかする事は出来ない。徐々に、だが確実に、サオリの限界は近付いてきている。

 

「ふっ、ハッ、はぁ……!」

「リーダー、大丈夫?」

「大、丈夫だ……」

 

 ミサキの問い掛けにサオリは大きく息を吸い込むと、気丈にも胸を張って応える。

 

「――まだ、問題ない」

 

 口元に滲む血を拭い、サオリは断言した。その表情は険しく、顔色も悪いが、闘志だけは萎えていない。

 しかし、今の戦闘は先生の指揮が無ければ危なかった――。

 サオリは内心でそんな声を漏らす。ユスティナ聖徒会の戦闘能力は知っている、何せ彼女達は一時的にとは云え使役していた側だ。しかしいざ自分達が戦う側に回ると、どうして中々手強い存在であった。どこから出現するか分からない上に、弾丸の一発一発が奇妙な重さと威力を発揮する、恐らく頭部にでも直撃を許せば一瞬で意識を持って行かれる。その上痛覚が無い為、通常の生徒よりもタフである、弱点を撃てばその限りではないが、弾丸の衝撃に怯みもしない、何より白兵戦を仕掛けても周りの同胞が何の躊躇いも無く味方ごと発砲するのが一番堪えた。

 彼女の得手は室内に於ける奇襲、強襲――人数不利を覆す為に時には敵の懐に飛び込み、乱戦に持ち込むと云う戦法が暫し取られる。アリウスの防衛隊にも用いた戦い方だ、それがユスティナ聖徒会には通用しなかった。

 出現位置の事前警告、飛来する弾丸の予測線、先生の戦術眼、どれが欠けていても負けていた。サオリはそう強く思う。

 

「無理しないでリーダー、体調は万全じゃないんだから」

「……分かっているさ」

「はぁ、分かっていなさそうだから云ったんだけれど……」

 

 何処までも強がるサオリを前にしてミサキはそう苦言を呈す。彼女が倒れてしまえば、今度こそスクワッドは瓦解する、その確信があるからこその言葉だったが――小さく息を吐き出し、ミサキは視線を先生へと移す。

 

「先生も、無事?」

「うん、ヒヨリが守ってくれたからね」

「え、えへへ、隣で狙撃していただけですけれど」

 

 集積されたコンテナの裏に身を隠していた先生は、立ち上がると小さく頷いて見せる。隣には愛銃のアイデンティティを抱えたヒヨリが佇んでいる。コンテナにバイポッドを設置し、狙撃支援を行っていた彼女であるが、同時に先生の護衛も任されていた。

 尤も、派手にサオリやミサキが暴れ散らかした為、彼女がサイドアームを抜く事は無かったが。

 

「それにしても、補給しておいて助かった、そうじゃなかったら今の戦闘で弾薬が底を突いていたかもしれない」

「ほ、本当ですね……元々弾数は心許なかったですし」

 

 そう云ってヒヨリは自身の腰に装着された弾帯を見下ろす。彼女の扱う20mmは只ですらサイズが大きいため、多く持ち運ぶことが出来ない。今の戦闘で腰に下げていた分の弾薬は使い切ってしまった。

 そしてそれはミサキも同じである、或いは彼女の方が単純な弾数で云えば圧倒的に少ないと云える。担いでいた背嚢の中を覗き込み、新しい弾頭を取り出しながらミサキは云う。

 ヒヨリも彼女に倣い、背嚢横に下げていた弾薬ボックスから弾丸を取り出し、弾帯へと差し込んでいく。その作業は手慣れたもので、時間は取られない。

 

「兎に角、今の内に出来るだけ進もう、彼女に私達の行動が露呈しているのなら隠れて動いても無駄だろうし、迅速に動いて例の通路を見つけて――」

「いや」

 

 ミサキの言葉を、不意に先生が遮る。

 全員の視線が彼に集中した。

 先生はシッテムの箱を見つめたまま険しい表情を崩さない、その鋭い視線が街道へと移る。

 

「まだ、終わりじゃない」

「先生……?」

「――皆、構えて」

 

 その言葉と共に、街灯に照らされた薄暗い霧の中に再び人影が滲んだ。

 視界に表示される警告、咄嗟にサオリが愛銃を構え、ミサキとヒヨリもそれに続く。進行方向、旧校舎へと続く道に続々と出現する人影――それらは影の中から姿を現し、石畳の床を踏み締める。

 一歩一歩、緩慢な足取りで現れるユスティナ聖徒会。

 それを前に、サオリは思わず苦渋の表情を浮かべる。

 

「増援、か」

 

 文字通り無尽蔵とも云える兵力、先程三十人余りのユスティナ聖徒会を撃破したばかりだと云うのに、一分と立たずに第二派が襲来した。その事実にヒヨリは浮足立ち、ミサキは険しい面持ちでセイントプレデターを構える。

 

「ま、まだ来るんですか……!?」

「……成程、確かにこれは文字通り複製だね」

 

 倒しても倒してもキリがない。

 ミサキは脳内で背嚢に残っている弾頭の数、それを使って相手できる限界の数を弾き出す。事、この状況に於いて正面突破以外の策は無い、隠密は無意味だし何処かに立て籠もる事も出来ない。何せ増援は期待できなのだから。

 先生も同じ考えなのか、街道を真っ直ぐ指差しながら言葉を紡ぐ。

 

「戦えば戦う程こちらが不利になる、此処は多少の消耗を承知で正面突破するしかない、出来るだけ交戦は避けて旧校舎へ向かおう」

「……まぁ、それが最善か」

 

 その指示に否やはない。

 ゆっくりと歩み迫るユスティナ聖徒会を前に、スクワッドは緊張を高めていく。先生は酷であると理解していながら、しかし敵の隊列を乱し中央突破する為に一番最適な人物、サオリの名を呼んだ。

 

「――サオリ」

「あぁ、覚悟は出来ている、先生」

 

 頷き、息を吐き出すサオリ。

 その手が強くグリップを握り締め、睨みつける様にして前方を見据えた。視界に表示される進行ルート、攻撃する順番、その後取るべき動き、全て見えている――この程度の窮地、先生の助力があれば何てことは無い。

 これ以上に過酷な戦場を、自分達は生き抜いてきたのだ。

 サオリは大きく一歩を踏み出すと、声を張り上げた。

 

「行こう、私が血路を開――ッ!」

 

 しかし、その声は唐突に巻き起こった爆発に遮られる。

 爆発が発生した地点はユスティナ聖徒会のど真ん中、突然、何の前触れもなく炸裂する緋色の炎。唐突なそれにスクワッドの面々は面食らい、サオリは咄嗟に飛来する瓦礫片から身を守る為に姿勢を低くする。

 爆炎が周囲を明るく照らし、風が彼女達の髪と外套を靡かせる中、思わず困惑の声を上げた。

 爆発する予兆も、銃声も、砲撃音すら聞こえなかった。

 

「な、なんだ……っ!?」

「ば、爆発ですか!?」

「っ……!」

 

 ミサキはまだ弾頭を射出していない、ならば第三者による攻撃か。サオリが素早く視線を周囲に巡らせれば、そこには街灯の淡い光に照らされ、建物群を飛び交う人影があった。

 ハッとした表情で彼女が頭上を見上げれば、宙に舞い暗闇に溶け込んだ複数の影。外壁を蹴り飛ばし、宙高く舞い上がった彼女は指に挟んだ複数の手裏剣を構え、高らかに叫んだ。

 

「秘技、爆裂手裏剣――!」

 

 声と共に彼女――イズナは勢い良く両手を振り払う。

 同時に風切り音と共に放たれる六枚の手裏剣、それらは赤い尾を引きながらユスティナ聖徒会の下へと殺到し、その足元に着弾――炸裂する。

 爆発一つ一つは然程大きくないものの、六枚の爆裂手裏剣による同時攻撃は圧倒的な火力と手数を誇り、周囲の窓硝子が破砕され、石畳の床は穿たれる。ユスティナ聖徒会はその爆発をもろに受け、次々と消失、掻き消えて行った。

 

「イズナ……!」

「―――!」

 

 宙を舞う影、イズナと先生の視線がほんの一瞬交差する。街灯の淡い光に照らされた彼女の表情は良く見えない、だが何処か安堵したような、泣き笑う様な、そんな感情が伝わって来た様な気がした。

 周囲が一瞬昼間の明るさを取り戻す中、炎に照らされながら着地するイズナ、そこに集う三つの影。その足取りは余りにも軽く、まるで重さを感じさせない体捌きであった。

 彼女達は濃い影を地面に伸ばしながら、それぞれが得物を構えながら口を開く。

 

「暗闇を活かした奇襲、強襲の類は忍者の華なんだよ……っ! イズナ、ツクヨ! ワカモ!」

「はい、部長!」

「は、はいッ!」

「……えぇ」

 

 ミチルが皆の名前を呼ぶと同時、爆炎と爆風を裂き再度現れるユスティナ聖徒会、先の増援で終わりではない、彼女達はまだ余力を残している。

 しかし、それは此方とて同じ――ミチル率いる忍術研究部は懐からミチルの似顔絵の描かれた手製の煙幕玉を取り出すと、一斉にそれをユスティナ聖徒会に向かって投げつけた。

 

「行くよ、これぞ忍術研究部最終奥義――!」

 

 ミチルが素早く手を動かし、印を結ぶ。

 同時に煙幕玉が地面に着弾し、爆音を撒き散らしながら周囲に大量の煙幕を生み出した。霧を超える白煙、それらがユスティナ聖徒会とスクワッドを含めた周辺一帯を包み込み、暗闇も加わって非常に視界が悪くなる。スクワッドは先生のサポートがある為、大きな問題はないがそれが無ければかなり視界が制限され戦闘どころではないだろう。

 しかし、そんな視界の中で忍術研究部は一斉に動き出す。地面を蹴り飛ばし、外壁を駆け上がり、複数の影が宙を飛びユスティナ聖徒会を翻弄する様に駆けていた。

 

 そして一つの影が徐にユスティナ聖徒会に肉薄し、その腹部に愛銃――ミチル流オーバーフローショットガンを押し付け、叫んだ。

 

「煙に紛れてボッコボコ大作戦――しゅばばばッ!」

 

 開戦の号砲、ミチルの愛銃が火を噴き至近距離でそれを受けたユスティナ聖徒会が吹き飛ぶ。同時に攻撃の手応えさえ確かめずに再び彼女は駆け巡る。複数の人影がユスティナ聖徒会に肉薄しては離脱を繰り返し、銃声、小爆発、打撃音、斬撃音、あらゆる音が木霊する。

 煙幕の効果時間は室内ならば凡そ一分、屋外ならば三十秒程。しかし彼女達にはそれで十分、新たに出現したユスティナ聖徒会に対し忍術研究部はチームワークで対応する。誰かが足を撃って転倒させれば、空かさずもう一人が頭部を撃ち抜く。時には全く異なる標的を、全く同じタイミングで襲撃し反撃の暇さえ与えない。

 

 そして煙幕の効果時間が切れる絶妙なタイミングを見計らい、全員が外壁を蹴飛ばし空高く舞い上がる。

 虚空にて身を翻した四人は、それぞれが両手に爆裂手裏剣を構え、中心に立つミチルはマフラーを靡かせ叫んだ。

 

「これぞ天誅――ッ!」

 

 その声と共に四名が爆裂手裏剣を投擲、暗闇の中赤い閃光と共に放たれたそれは白煙の中に吸い込まれ――爆破。

 煙幕が爆風で吹き飛ばされ、ユスティナ聖徒会諸共霧散する。爆炎と衝撃に顔を逸らし、堪える様に這い蹲る、或いは遮蔽に身を隠すスクワッド。彼女達を他所に忍術研究部は地面に着地し、煌々と燃え盛る爆心地を背に佇んでいた。

 

 膝を突いた状態からゆっくりと立ち上がるミチル。

 彼女は地を舐める炎に照らされながら、印の二本指を立てながら告げた。

 

「私達、忍術研究部に――死角無し」

 


 

 キヴォトスに於いて忍者は最強、古事記(トリニティ古書館)にも書いてある圧倒的事実です事よ。

 嘘ですわよ。

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