読み飛ばしに御注意下さいまし!
レトロチック・ロマン①
【第一話】
アビドス事件を解決し日常に戻ったある日、シャーレの元に奇妙な手紙が届く。送り主はミレニアム・サイエンススクールのゲーム開発部。
内容は――。
『ゲーム開発部は今、存続の危機に陥っています』
『生徒会からの廃部命令により破滅が目前に迫っている今、助けを求められる相手はあなただけです』
『勇者よ、どうか私達を助けて下さい!』
先生は手紙の内容に懐かしさを覚えながら、ミレニアムへと足を運ぶ。道中様々な生徒と挨拶を交わしながらゲーム開発部の部室へと足を踏み入れた先生は、開いた扉から唐突に飛来したプライステーションを辛うじて受け止め、中を覗き込むと慌てた様子のゲーム開発部の部員――モモイとミドリの姉妹と邂逅する。
ゲーム機の安否を心配するモモイと、そんな彼女を窘めながら謝罪を口にするミドリ。彼女達に自身がシャーレの先生であると告げると、自分達の手紙がきちんと届き、それに先生が応えてくれた事にふたりは喜ぶ。
そうして改めて手紙の内容を聞き、事情を尋ねようとした所――ゲーム開発部の部室に、彼女達の云う
アビドス事件以降も度々シャーレに足を運んでいたユウカは、「こんな形で先生と逢いたくなかった」とぼやきつつ、モモイとミドリに呆れた表情を向ける。モモイは「出たな、この冷酷な算術使い!」とユウカを揶揄しつつ、徹底抗戦の構え。
そこでユウカは先生にゲーム開発部の実情を明かす。「部員が規定数に達する」、「ミレニアムの部活として相応しい成果を出す」、「それが出来なければ廃部、部費は勿論部室も没収」、「そしてゲーム開発部はその勧告を受けた状態で何ヶ月も経過している」と。
これだけ時間が経過したのだから廃部に異議はないでしょうと問いかけるユウカに、モモイは食って掛かる。「私達も全力で活動しているもん!」と反駁するモモイに対し、「笑わせないで!」と一喝。彼女達が行っているのは全くゲーム開発とは縁遠い所にあり、校内に変な建物を建てたと思ったらカジノの様に装飾してギャンブル大会を開いたり、レトロゲームを探すと云って古代史研究会を襲撃したり。
ミレニアムに於いては結果が全てと告げるユウカに、モモイは歯噛みする。そして彼女達が唯一開発したというゲーム、『テイルズ・サガ・クロニクル』は今年のクソゲーランキング一位を獲得してしまっていた。
悔しいならば結果を出しなさいと告げるユウカに怒り心頭と云った様子のモモイは、そこで勢いに任せ「ミレニアムプライスで受賞する」と宣言する。ミレニアムプライスとは、ミレニアムサイエンススクールに於いて最大級のコンテストであり、あらゆる部活動が各々の成果物を競い合う場であった。
確かに、ミレニアムプライスで結果を出したのならこれ以上ない成果となるだろう、納得したユウカは「そこまで云うなら、ミレニアムプライスまでの残り二週間、楽しみに待ってあげる」と告げ笑みを浮かべる。去り際に「まさか先生の前でこんな、可愛くない所を見せてしまう事になるなんて……」と意気消沈するユウカに、次は落ち着いた状況でお話しようねと先生は笑って見送った。
部室に残った先生とモモイ、ミドリ。「ミレニアムプライスを受賞するより、部員を集めた方が良いんじゃ……」と呟くミドリに対し、モモイは「大丈夫、切り札があるから!」と自信満々に告げる。その切り札とは一体何か問いかけると、モモイは神妙な顔で問いかけるのだ。
「先生――G.Bibleって知っている?」
■
【第二話】
G.Bible――それは嘗てミレニアムに存在した伝説的なゲームクリエイターが作った『最高のゲームを作れる秘密の方法』だという。モモイ曰くゲームの聖書であり、それを読めば最高のゲームが作れるため、ミレニアムプライスも楽勝の筈と高笑いする。そうしてそのG.Bibleを求めやって来たのはミレニアムでも出入り禁止区域とされる『廃墟』であった。
ヴェリタスやヒマリの協力を受け、G.Bibleが最後に稼働した場所を目指す先生、モモイ、ミドリの三名。廃墟には草臥れた
途中オートマタに発見され、応戦しながら廃墟を走り回り、三人は近くの廃工場へと逃げ込んだ。外をうろつくオートマタの群れに戦々恐々としながら、三名は別の脱出路を求めて廃工場の奥へと足を進める。そこで奇妙な電子音声に導かれ、先生のアクセス権限によって三名は地下へと足を進める事となる。
そうして辿り着いた廃墟の最奥、そこで三人は無機質な椅子に腰かけたひとりの少女を見つけた。裸のまま、死んだ様に目を瞑った彼女は天井より差し込む陽光に照らされ、白い肌と長く黒い髪が良く映えていた。
まるで人形の様な少女に困惑し、周りを観察するモモイとミドリ。そしてモモイは少女の傍に刻まれた文字に気付く。
――AL-1S
それが彼女を表す唯一の文字列であり、モモイはその文字列を「アリス?」と読んだ。先生は神妙な表情の中に一抹の懐古を忍ばせ、一先ずこんな格好では居させられないと、自身の外套と上着で彼女を包み込む。その際少女に触れた指先が微かに震え、少女の休眠状態が解除されてしまう。
咄嗟に距離を取るミドリとモモイ、そんな彼女達に反しごく自然体で少女の傍に佇む先生。
「状況把握、難航、会話を試みます――説明をお願い出来ますか」
周囲を見渡し、モモイ、ミドリ、先生と順に視線を向けた彼女は無機質な声色で問いかける。しかし誰も説明出来る人などなく、寧ろあなたが何か知っているのではないかとモモイやミドリは少女に問い掛ける。しかし少女の記憶データは消去され、何も残ってはいないのだと首を振る。それを聞いたモモイは何かを思いついたかのように手を打ち、それから口元を緩め告げた。
「工場の地下、ほぼ全裸の女の子、おまけに記憶喪失……ふふっ、良い事思い付いちゃった!」
■
【第三話】
「………」
モモイが思いついた良い事とは、彼女をそのまま部室まで連れ込む事だった。
「もごもご……」
「あぁっ、私のweeリモコン食べちゃだめ! ぺっ、して、ぺっ!」
先生の手引きもあって特に何の支障も無く部室に連れて来られたアリスは、物珍しそうに周囲を見渡し、時折目を輝かせては口にものを放り込む。それをミドリが何とか阻止しながら、腕を組んで悩むモモイを見る。モモイは暫し沈黙を守ると、「良し、名前は必要だし、今日からこの子はアリスって呼ぼう!」と宣言する。「いや、AL-1Sちゃんじゃないの?」と問いかけるミドリに、そんな長いのは呼びにくいと一蹴する。
モモイが少女――アリスに「気に入った?」と問いかければ、アリスは自身を指差し、「本機、アリス」と頷いて見せる。「本人が気に入っているなら良いけれど……」と呟くミドリは、次に何故彼女を部室に連れ込んだのかを問いかけた。
モモイは自慢げに胸を張ると、ユウカに指定された廃部回避の方法は実績を残すか部員を増やすかのどちらか。ミレニアムプライスで受賞するのも、あくまで廃部を回避する為の方法に過ぎないと告げる。それを聞いたミドリは段々と顔を蒼褪めさせ、呟く。
「ま、まさか、この子をミレニアムの生徒に偽装して――うちの部に入れるつもりじゃ……」
「そのまさかっ! アリス、私達の仲間になってッ!」
「あむあむ……」
「あぁっ! 私のゲームガールズアドバンスSP食べちゃだめっ! 8コア16スレッドカスタムCPUに8K解像度を誇るキヴォトス唯一の16btゲーム機なんだよ!?」
「……あーもう!」
そうしてアリスをゲーム開発部へと引き込む算段を立てるモモイとミドリ。モモイは先生に縋りつき、何とか協力を得ようと四苦八苦する。先生は当初何かを考え込むように沈黙を守っていたが、暫くアリスをゲーム開発部に向かえると云う提案に賛成の意を示した。諸手を挙げて喜ぶモモイ、不安げなミドリは「先生の協力があるって云っても、大丈夫かなぁ……」と呟く。
「大丈夫の意味を確認――状態が悪くなく問題が発生していない状況、肯定します」
「いや、この口調じゃ絶対疑われるよ!? これは無理だって!」
余りにも機械的な口調であるため懸念を露にするミドリ。しかしモモイは、今更諦める方が無理だと突っ撥ねる。「じゃないと、ユズの居場所が……寮に戻る訳にもいかないし」と呟きを漏らす。ミドリもまたその言葉に顔を俯かせ、「そうだったね……」と頷く。
「取り敢えず今必要なのは制服と、武器と、学生証と、データベースに登録も……」
「学生証関連とミレニアムの学籍データベースに関しては私が何とかするよ、代わりに制服の方を任せて良いかな?」
「本当、先生!? 分かった、任せて!」
「うーん、それなら私は……」
「ミドリはユズと二人でアリスに喋り方を教えてあげて!」
「しゃ、喋り方……?」
「流石にこの口調だと疑われちゃうから、なんかこう、良い感じに!」
「……まぁ、やれるだけやってみるけれど」
「良し、じゃあ任せた!」
「えっ、あ、お姉ちゃん!?」
そうして先生はアリスの学籍情報取得に動き出し、モモイはアリスの制服を調達しに向かう。そしてミドリはアリスと向き合い、何とか普通に喋る事が出来るように教育を開始するのだった。
■
【第四話】
どうやってアリスに口調を教え込もうかと悩むミドリ、あぁでもない、こうでもないと思案する彼女を他所にアリスは周囲を探索する。すると、その中に埋もれた一つのゲームを見つけた。手に取ったそれは彼女達が嘗て製作し、クソゲーと酷評された『テイルズサガクロニクル』であった。アリスが手に取ったゲームに気付くと、ミドリは恥ずかしそうに自分達が作ったゲームである事を説明し、「そうだ、どうせならゲームをやりながら学習するって手も――」と妙案を思いつく。
その提案を受け入れたアリスは、ミドリに促されるまま『テイルズ・サガ・クロニクル』のプレイを開始する。そうして序盤の世界観説明を終え、チュートリアルに突入したアリスであったが、何と武器を装備する為にボタンを押した瞬間画面の主人公が爆散し、ゲームオーバーになってしまう。その事に困惑する彼女に対し、手早く制服を調達してきたモモイが「予想出来る展開ほどつまらないものはないよ! 本当は此処で指示通りにBボタンじゃなくて、Aボタンを押さなくちゃいけないの!」とケラケラと笑って告げる。
困惑しながらゲームを続けるアリス、次は武器を持って敵とエンカウント、野生のプニプニと戦闘する事になる。指示通り剣を振って攻撃するものの、アリスの操作する主人公はプニプニの放った
そんなこんなで正に苦難に次ぐ苦難、アリスは何度も躓きながらテイルズ・サガ・クロニクルをプレイし続ける。何度もエラーを吐き、演算遅延を引き起こし、リブートを繰り返した彼女は何時間もの死闘の果てにゲームをクリアする。
因みに最後に吐いた言葉は、「こ、ろ、し……て」である。
自分達のアドバイスがあったとは云え、初見数時間でゲームをクリアしたアリスに称賛の言葉を投げかける二人。そしてミドリはゲーム前よりもアリスの口調が人間味を帯び、感情的である事に気付く。ゲームの台詞をそのまま憶えている為、やや不自然ではあるが機械的な言葉でなくなった分、まだマシであると判断した彼女はアリスにゲームによる教育を施す事を決定した。
尚、それはそれとして。
「わ、私達のゲームどうだった!? 面白かった!?」
「い、一応、頑張って作った作品なんだけれど……」
「……説明不可」
「え、えぇっ、何で!?」
「類似表現を検索、ロード中」
「も、もしかして悪口を探しているとか、そんな事ないよね……?」
「面白さ、それは明確に存在する」
「お、おぉっ……!」
「プレイを進めれば進める程、まるで別の世界を旅しているような、夢を見ている様な、そんな気分……あれを、もう一度」
途端、アリスは涙を零してしまう。その事に驚きを見せるモモイとミドリ。「あ、アリスちゃん、何で泣いているの……!?」と困惑を滲ませるミドリに対し、モモイは「決まっているじゃん! それくらい、私達のゲームが感動的だったって事でしょ!?」と喜びを爆発させる。いや、これってギャグ系のゲームの筈で、泣く様な要素なんて無い筈と尚も疑るミドリに反し、モモイはこの感想をゲーム開発部の部長であるユズにも教えてあげたいと口にする。
「ちゃ、ちゃんと……全部、見ていた、よ」
すると、部室のロッカーが独りでに開き、中から小柄な影がゆっくりと顔を覗かせた。驚く彼女達を前に人影はおどおどした様子で、しかしどこか喜色を滲ませた雰囲気を纏いながらアリスに近付く。廃墟から皆が戻って来て以降、ずっとロッカーに隠れていたという彼女はゲーム開発部の三人目の部員であり、部長であるユズであった。
「あ、あ、ありが、とう……ゲーム、面白いって、云ってくれて……もう一度、やりたいって云ってくれて――」
その言葉が、ずっと聞きたかったの。
そう云って今にも泣き出しそうにしながら笑うユズに、感情の育ち切らぬアリスはただ疑問符を浮かべる事しか出来なかった。
本ダイジェストは【アビドス編】直後の先生である為、まだまだ元気いっぱいの頃ですわ。素敵ですわね!
ダイジェスト版なのに想定より長くなった為、このダイジェスト編の間は毎日更新に切り替えますの! 最初は前編・後編の二話で纏めますわ~! とか考えていたら全然足りなかったです事よ。なので番号表記にして一話5,000字前後の毎日更新で何とか乗り切ります。
ダイジェストが終わったら、そのまま後編に突入しますわ! そうしたら多分いつも通り二日~三日更新に戻りますの!