【第八話】
「……ご、ごめん、私が部長会議に参加出来なかったせいで、こんな事に――」
「ゆ、ユズちゃんのせいじゃないよ! というかこういう大勢の生徒が集まる会議の時って、お姉ちゃんが代わりに参加する約束だったでしょう!?」
「えっ!? あ、あの時は、えっと、そのぅ、アイテムドロップ率二倍キャンペーンがあって、そっちの方に……」
「やっぱりお姉ちゃんのせいじゃんッ!」
ユウカが去った後、ゲーム開発部の面々は阿鼻叫喚の状態となる。部活動の人員さえ集めれば廃部を免れると思っていた彼女達は、しかしそうならなかった現実に打ちのめされてしまう。しかし奮起したモモイは自身の頬を叩き、神妙な顔つきで告げる。
「と、兎に角! これで退路は無くなっちゃった、そうなれば、やる事は一つしかないよ……!」
「う、うん、そう、だね」
「ミレニアムプライスで受賞出来るような、すっごいゲームを作る事」
「って事は、結局G.Bibleが必要なんじゃん! また廃墟に行くの!? やだぁ!」
ミレニアムプライスを受賞するゲームを作る、勿論それがどれ程難しい事かは理解している。となれば当初の予定通り、伝説のG.Bibleに頼る他ない。一行は苦り切った表情を浮かべながらも、再び廃墟へと潜入する流れとなる。
またその際、ユズは自身が会議に出席しなかったせいでこの様な事態になったのだと責任を感じ、彼女達に同行を申し出る。半年近く校舎の外に出ず、授業もインターネット受講だけだった彼女が外出する事に驚くモモイ達、しかし自身の苦手な事を為してでも部室を、皆との居場所を守りたいと口にする彼女に対し、モモイ、ミドリの両名は共感し立ち上がる。
「行こう、皆で
かくしてモモイ、ミドリ、ユズ、アリス――ゲーム開発部の一行は、廃墟へと繰り出す事となる。
■
【第九話】
「――という事で先生、何度もごめん! 私達に力を貸して!」
「そういう事なら、分かった、任せて」
廃墟へと足を踏み入れたゲーム開発部、自分達だけで進むのは不安が残った為、再び先生に救援要請を飛ばし計五名で探索を行う事となる。
そんな彼女達を出迎えたのは廃墟に蔓延るロボットの集団、飛来する無数の弾丸とロケット砲にゲーム開発部の面々は苦戦、「何か前より抵抗激しくない!?」と焦燥顔のモモイ。以前廃墟に来たときよりも、心なしか敵の抵抗、及び数が増えている様に思えた。
そして気のせいだろうか、ロボット達の攻撃が先生の方向へと集中している気さえする。
「こ、これちょっと撤退した方が良くない? 先生だって居るんだし……万が一の事があったら」
「大丈夫です、先生の事はアリスが守ります!」
余りの攻勢、その激しさにミドリは一時撤退を提案するも、集中砲火に晒されながらアリスは堂々とした態度で叫ぶ。
「先生、アリスを信じて下さい――!」
その言葉に先生は頷き、ロボット集団を正面から突破する事となる。先生がシッテムの箱を用いて生徒達とリンクし、モモイ、ユズ、ミドリが前衛として敵の押し留め、アリスの火力、及び攻撃範囲で以て一気に焼き払う作戦を敢行する。
その作戦は成功し一気に道が開け、増援が来る前に敵陣を突破、地下道へと潜り込む事に成功する。追撃が無い事を念入りに確認した後、一行は再び探索を開始した。
「――此処は」
暫く地下道を歩いて行くと、不意にアリスが足を止めた。皆が訝し気に彼女を見ると、アリスはふらふらと勝手に道を外れ歩いて行く。慌ててその背後に続くゲーム開発部と先生。
「あ、アリス、どこ行くの!?」
「アリスちゃん、危ないよ……!」
「分かりません、ただ、此方に行かないといけない気がして――」
彼女の声に従って歩き続けると、ふと放置され古びたPCを発見する。周囲を注意深く観察すると、嘗てアリスを見つけた場所に酷似している事に気付いた。
【Divi:sion Systemへ ようこそお越しくださいました お探しの項目を入力して下さい】
「なにこれ、何かの……端末?」
PCは一行が接近すると同時、電子音声を鳴らし告げる。何処か怪しむミドリに、呆然とした様子で画面を見つめるアリス。モモイは何かを考え込むと、先生が声を発するよりも早くアリスに向かって叫んだ。
「アリス、丁度良いし! G.Bibleについて聞いてみようよ!」
「……分かりました、入力してみます」
モモイに促されてキーボード入力を開始するアリス。しかしエンターを押す前に、画面には新しい文字が映し出されていた。
【あなたはAL-1Sですか?】
「ッ!?」
「……? いえ、アリスは、アリスで」
「アリスちゃん!」
何かおかしいと勘付いたミドリが叫ぶも、モニタには【音声確認、資格を確認しました――お帰りなさいませ、AL-1S】と表示される。
アリスは表示されたソレが自身の本当の名前である事を知り、AL-1Sとは何なのかをPCに向かって問いかける。しかし返答が返って来る事は無く、代わりに【電力限界】の文字が表示された。どうやら長い間放置されていた施設の為、発電周りに不具合が発生していたらしい。突然のシャットダウン宣言に慌て始めるゲーム開発部。
「え、えっ、何、電力限界って!?」
「せ、せめてG.Bibleの事を教えてから――!」
【G.Bible……検索完了、コード遊戯、人間、理解、リファレンス、ライブラリ登録ナンバー193、廃棄対象データ第一号――機能停止まで残り時間三十五秒】
「廃棄ぃ!? ちょちょ、どうして!? それはゲーム開発者達の、いや世界の宝物なんだよ!?」
【――提案、データ転送の為の保存媒体の接続】
残り三十秒程度で電力が切れると云うPCは、データを転送する為に保存媒体が必要であると通達する。G.Bibleのデータが中に存在すると知ったモモイ達は何とかPCのデータ消失を免れる為に保存媒体を必死に探し始めた。
「――スティック型SSDなら持ち歩ているから、これって使えるかな?」
「ナイス先生っ! 流石準備が良いねっ!」
すると先生が懐から一本の保存媒体を取り出し、モモイに手渡す。諸手を挙げて喜んだ彼女達はPCの挿入口を探し、其処にSSDを差し込む。データの転送は即座に開始され、ほどなくしてPCの電源が落ちてしまう。暗くなった画面を前に気を揉む面々。
「こ、これ、ちゃんと転送出来たのかな……?」
「分かんないけれど、これゲームガールアドバンスSPに差したらファイルって見れるかな?」
「変なウィルスとか入っていたら、ゲーム壊れそうだけれど――」
「いや、でも背に腹は代えられない……!」
「迷ったら進め、ですね!」
PCから抜いたSSDを、今度はモモイの持ち込んでいたゲームガールに接続し中身を検める。すると《G.Bible.exe》というデータが存在していた。その事にゲーム開発部の面々は大喜び、早速中身を開こうとする。
しかし実行にはパスワードが必要であり、その場で中身を確認する事は出来ず。ゲーム開発部はパスワード解析の為にヴェリタスを頼る事を決め、その場を後にするのだった。
■
【第十話】
「依頼されたデータについて結果が出たよ」
「ど、どうだったの……!?」
廃墟から持ち帰ったデータをヴェリタスに持ち込んだゲーム開発部一行。少なくない時間を掛け分析した彼女達の結論は、少なくとも取得したデータは本物のG.Bibleであるというものだった。主に解析を担当したマキは得意げな表情で告げる。
「ファイルの作成日や最後に転送された日時、ファイル形式から見ても確実だね、作業者も噂の伝説ゲーム制作者、それのIPと一致していたから、データ転送の痕跡も一回きり」
「私達が転送させた時の一回、って事だよね?」
「そーいう事!」
ただ、どうにもファイルを開く為のパスワードを突破する事が出来ず、ヴェリタスの技術を以てしても直接解析は不可能だと云う。しかし彼女達曰く、セキュリティファイルを取り除き、それ以外を丸ごとコピーするという手段ならば可能との事。「じゃあそれをやってよ!」と勇むモモイに、ヴェリタスは特殊なツールが必要であると事情を説明する。
「Optimus Mirror System――通称【鏡】って呼ばれるツール、これが無いとどうにもならない」
「それは何処にあるのさ?」
「私達ヴェリタスが持って――いた」
「ん? 待って、過去形なの!?」
事情を聞くと、どうやら不法な用途の機器所持は禁止という事でつい最近生徒会に押収されてしまったという。「私の盗聴器も没収されました、先生の録音データも……」と落ち込むコタマ。ただ先生のスマホに届いたメッセージを確認したかっただけなのにと呟く彼女に対し、「程々にね、あと私は構わないけれど生徒達のプライバシーは尊重して欲しいな」と苦笑を零す先生。ユズは内心で、何でそんな事をされて平気なのだと先生に戦慄する。
生徒会が押収するほど危険な物なんですかと問いかけるミドリに、ハレは「そんな事は無い、ただ暗号化されたシステムを開くのに最適化されたツールってだけ」と弁明する。ただそのツール制作者が只者ではなく、ヴェリタスの部長であるヒマリが直々に製作したこの世に一つだけのツールだという。
「つまりやる事は明白、私達はツールを取り戻さないと部長に怒られる、ゲーム開発部はツールを使ってコレの中身を見たい……そうでしょう?」
ヴェリタスは鏡を取り戻す必要があり、ゲーム開発部はG.Bibleの解析に鏡が必要。そこに利害の一致を見たハレ、マキ、コタマはゲーム開発部にある提案を行う。
「私達の作戦に――乗ってくれる?」
それはミレニアムの生徒会――『セミナー』を襲撃し、【鏡】を取り戻す計画であった。
■
【第十一話】
ヴェリタスと手を組み、セミナーを襲撃して鏡を取り戻す。その計画を聞いたゲーム開発部の反応は劇的であった。モモイはやる気満々と云った様子で、ミドリは正気? と云わんばかりの不安顔。ユズに至っては部屋の片隅で真っ青な表情となり、アリスはどれだけの事をやろうとしているのか理解していないのか、「レイドバトルですね!」と拳を突き上げる。
「ね、今回は先生も見逃してっ! アレがないと私達部長に怒られちゃうの!」
「個人的には先生の録音データと、コピーしたメッセージの回収も……」
「まぁ色々云いたい事はあるけれど、アレが万が一他の人の手に渡ると問題があるっていうのは本当で……」
「うーん」
彼女達の言葉に先生は困った様に腕を組む。シャーレという立場上、中々どうして積極的に賛成も出来ない。しかし実際の所は異なり、先生は既に部長であるヒマリから個人的な協力要請を受けていた。先生は思案顔のまま消極的賛成を示し、「後でユウカに揃って怒られようか」と苦笑を零す。
その事に喜びの声を上げるヴェリタス。かくしてゲーム開発部・ヴェリタス合同での鏡奪還作戦が計画される流れとなる。
「取り敢えず鏡がある場所は分かっている、この差押品保管所って所にあるんだけれど……」
「問題は此処を守っている存在、それが厄介なんです」
「一体何でしょう、もしかして強大なボスキャラですか?」
「まぁ、強ちボスって云い方も間違いじゃないかも……」
「なになに、最新鋭の防衛ロボットとか、タレットとかそういうの? そんなもの、私達が力を合わせれば――」
「いや、此処を守っているのは――メイド部なんだよね」
マキが云い辛そうに告げた名称、それを聞いた瞬間アリスを除いたゲーム開発部の表情が固まる。
メイド部――正式名称『Cleaning&Clearing』
ミレニアム最高のエージェント集団であり、同校トップクラスの戦闘能力を誇る武力組織である。「あ~、そっかぁ、ふ~ん、なるほどね~」と納得顔のモモイは、その後素早く踵を返し叫ぶ。
「無理だ! 諦めよう! ゲーム開発回れ右ッ!」
「わーっ! 待って待って待って! 諦めちゃ駄目だよモモ! G.Bibleが欲しいんでしょう!?」
帰ろうとするモモイに飛びつき必死に説得するマキ。このままじゃゲーム開発部は廃部になっちゃうんだよ!? と叫ばれるも、モモイの表情は優れない。C&Cの圧倒的な戦闘能力、そして実績を知っていたのだ。
彼女達のご奉仕によって壊滅したサークル、武装組織は数知れず、そんな連中と戦うなんて危険すぎると彼女は判断していた。確かにゲーム開発部は大切だ、けれどその部員であるミドリ、ユズ、アリスの事はもっと大切だった。彼女達を危険に晒す事は出来ないとモモイは云う。
しかし、マキは懇切丁寧に何も真正面から戦うつもりは無いと説得を口にした。何よりヴェリタスが入手した情報によれば、現在のC&Cは万全の状態ではないと云う。
「確かにC&Cは強いよ? 所属しているエージェントは優秀だし、普通にやれば万が一にも勝ち目はない――でも、彼女達が此処まで名声を獲得するに至ったのは、彼女の存在が大きいんだ」
C&Cのリーダー――コールサイン『ダブルオー』、美甘ネル。
彼女は現在、別途任務の為C&Cを離脱しているという。つまりC&C最大戦力は不在であり、その状態ならば鏡だけを奪取し逃走する事は十分に可能であるとヴェリタスは考えていた。
マキたちの必死の説得により熟考を重ねるモモイ。そんな彼女を眺めていたミドリは、ぐっと腹に力を籠め告げる。
「――やろう、お姉ちゃん」
驚くユズとモモイを前に、彼女は自身の想いを吐露する。雨漏りもするし、狭いし、ボロボロの部室だけれど、それでも自分達の思い出が沢山詰まった部室。ゲーム開発部はもう、皆で遊ぶ為だけの場所じゃない。
一緒に居る為の、大切な場所なのだと。
その言葉を聞いたユズは震える自身の膝を見下ろし、それからぎゅっと目を瞑る。そして二度、三度、自身の膝を叩いて揺れを収めると、食い縛った口元をそのままに告げる。
「わ、私も……あの場所を、皆の、居場所を、守りたい……!」
「ユズ――」
「こんな私に、何が出来るのか分からないけれど……あ、諦めたくないから!」
元来争いを好まず、誰かの悪意に対し敏感なユズ。多くの困難を前に目を背けて来た彼女は、この困難だけは立ち向かわなければならないと奮起する。そんな彼女の腕を掴み、支える存在が居た。
「大丈夫です、アリス達ならきっと出来ます!」
アリスはゲーム開発部の面々を見渡し、自信に満ちた笑顔で断言する。
「アリスは沢山のRPGをやって、色々な世界を知って、勇者たちが魔王を倒す為に必要な――大切なものを学びました」
勇者が世界を救う為に必要なもの。
魔王を倒す一等強力な力。
それは――。
「心強い仲間達――そして、困難に挑む勇気ですッ!」
今日更新のアビドス編新ストーリー。
最後が衝撃的過ぎて情緒がプレナパテス先生ですの。
詳しく説明して下さい。
私は今、冷静さを欠こうとしております。
アレがアビドス崩壊世界線への第一歩、って事ですの……?