ブルーアーカイブを、もう一度。   作:トクサン

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誤字脱字報告に感謝致しますわ~!
基本的にダイジェスト編のパヴァーヌ前編は希望の物語ですわよ。
先生がアリスに光の剣で消し飛ばされるのは、これの続きである後編ですの。
後今回、一万二千字近いですわ。


レトロチック・ロマン④

 

【第十二話】

 

「恐らく近い内にセミナーは襲撃を受けるわ」

「………」

 

 同日、ミレニアム自治区の校舎屋上で対峙する二名の生徒。片方はセミナー所属のユウカ、もう片方はC&C所属のアカネ。ユウカは事前にヴェリタス・ゲーム開発部襲撃の情報を掴んでおり、その防衛の為にC&Cを動かそうと画策していた。

 その知らせを聞いたアカネは瞳を細めながら呟く。

 

「にわかには信じられませんね、あんなに可愛らしいのに……ミレニアムの生徒会を襲撃しようだなんて、人は見かけによらないと云うか」

「純粋な子達よ、でもだからこそ時にはとんでもない悪戯をしたりもするの」

 

 ヴェリタスとゲーム開発部の共通点、それは大事なモノの為ならば手段を選ばないというもの。アカネはユウカの言葉に何度が頷きながらも、C&Cとして依頼を出された以上断る事は無いと受諾する。

 

「……ただ一つ問題がありまして」

「問題? C&Cに? 一体何よ」

「リーダーであるネル先輩が、現在不在なんです」

「ネル先輩が……?」

「えぇ、現在は郊外の方に出払っていて――」

 

 C&C最高戦力であるネルが不在である事を知り驚くユウカ。ただ、リーダーであるネルは守る事より壊す事に特化している為、ある意味いない方が周囲の被害は少ないかもしれないとアカネはひとり零す。

 ともあれC&Cはセミナーより正式に依頼を受け、規定時刻までゲーム開発部を特定の場所――差押品保管所に接近させない事を約束した。

 

「あぁ、そう云えば最後に一つだけ」

「――何かしら?」

「ゲーム開発部とヴェリタスが生徒会を襲撃するという情報……その事は一体どこから仕入れたのですか?」

 

 立ち去ろうとするユウカの背中に向けて、アカネは腹の底から疑問であるとばかりに問い掛ける。

 

「情報戦と云う分野において、ミレニアムにヴェリタスを超える諜報組織は存在しないと認識しておりましたが……」

「その通りよ」

「……?」

「情報戦に於いてヴェリタスを超える組織は存在しない――だから今回の襲撃の件も、予めヴェリタスが教えてくれたの、ただそれだけの事よ」

「ヴェリタスが? それは一体どういう――」

「今回の一件、私達セミナーに情報を提供したのは……」

 

 ユウカは振り向き、真剣な面持ちのまま告げた。

 

「ヴェリタスの部長(リーダー)――ヒマリよ」

 

 ■

 

【第十三話】

 

「成程、私達に協力を仰ぐのは的確な判断だね」

 

 ヴェリタスと手を組み鏡を奪取する計画を立てたゲーム開発部は、エンジニア部へと再度接触を果たす。計画を実行するにあたり、彼女達の協力が不可欠であるという結論に至った為だ。ヴェリタスやゲーム開発部としてもエンジニア部に伝手はなかった為、アリスに銃器を提供して貰った時と同じように先生が橋渡し役となる。ゲーム開発部から事情を一通り聞いた彼女達は、快く計画への協力を申し出た。

 

「――うん、分かった、協力しよう」

「ほ、本当に良いんですか?」

「あぁ、構わないとも」

「で、でも、エンジニア部は実績もありますし、こんな危ない橋を渡る必要なんて……」

 

 十分な実績を持つエンジニア部は予算も潤沢に割り振られており、態々騒動を起こし生徒会(セミナー)と関係を悪化させる必要はないのではとミドリは問いかける。

 

「そうだね、合理的に考えればその通りだ」

「なら、どうして――?」

「それはだね――」

 

 笑顔を浮かべるウタハ、コトリ、ヒビキの答えは単純。「面白そうだから」、「ロマンがあるから」、「熱情を感じたから」、そして「先生と仲良くなれる(パイプが作れるから)」というもの。明け透けであるが、故にこそ嘘はなく、同時に下心というよりも単なる好奇心と好意から来るものであると感じた。

 ややあってゲーム開発部と固い握手を交わしたエンジニア部の面々は、先生と共にヴェリタスの部室へと集合し作戦会議が始まった。

 

「それで、具体的にはどうするの?」

「さっきも云ったけれど、正面からぶつかるのは得策じゃない、トリニティの正義実現委員会やゲヘナの風紀委員会みたいな戦力があるのなら別だけれど……」

「私達を呼んだと云う事は、そうじゃないのだろう? 兎に角、まずはこれを見て欲しい」

「……ウタハ先輩、これは?」

「これはミレニアムタワーの高層――つまりセミナーの専用スペース、その見取り図だ」

「す、すごっ!?」

 

 ミレニアム生徒会、セミナーはミレニアムタワー最上階を専用スペースとして使用しており、差押品保管所もまた同階層西側に存在していた。周辺にはC&Cの他に約四百台の監視カメラ、五十二体の警備ロボット、違法企業、部活動から押収した戦闘機体が複数。それらの詳細な情報を前に、ゲーム開発部の面々は驚愕を見せる。

 

「な、何でこんなに詳しい情報を……?」

「なに簡単な事さ、あの場所のセキュリティ構築には私達エンジニア部が関わっていてね」

「それじゃあ、殆ど内応みたいなものですね……」

「それを云えば私達は皆ミレニアムの生徒だし、内も外も無いんじゃない?」

「まぁともあれだ、このセキュリティは大した問題ではない――一番の問題はエレベーターと、このフロア全体を区切るセクションだ」

 

 投影されたマップを指差しながら告げるウタハにゲーム開発部が首を傾げる。彼女曰く、最上階へと通じるエレベーターには専用の指紋認識システムが導入されており、最上階の各セクションにはそれぞれ同様のシステムが配備、更に認証を失敗するとシャッターが降下し他セクションへの移動を制限するという。加えて内部、外部問わずに衝撃を感知すると更に強固な第二シャッターが降下し、それの解除には生徒会役員の指紋と虹彩、二つのキーが必要になるとの事。

 

「あぁ、因みにエレベーターの方は強引に突破してフロアに侵入すると、セミナーフロアの全セクションがロックされて全ての第一、第二シャッターが一斉に降りる設計だ、一度こうなったら豊富な爆薬でも持ち込まない限り突破は不可能だろう……無策での強行突破はお勧めしない」

「なんかすっごい複雑だし、絶望的な話ばっかりじゃん!? もっとこう、分かり易い弱点とかないの!?」

「それがあればセミナーは疾うの昔に瓦解しているだろうね――とは云え、無敵という訳ではない」

「……うん、少ないけれど弱点自体はある、その一つが」

「――外部電力の遮断、ですね!」

 

 エンジニア部曰く、セミナーのフロアは万が一の事態に備え独立した電力ラインを持っており、その供給されている外部電力を遮断すれば、復旧の際に外部ネットワークと接続される為、ほんの一瞬外部からハッキングを行う隙が生まれると云う。

 しかし、天下のセミナーの持つ復旧システムもまた優秀であり、エンジニア部の作った小型EMPを内部から炸裂させ、電力と一帯のシステムを遮断、無力化出来る時間は――凡そ六秒。

 ヒビキが呟いたその言葉に、ヴェリタスの面々は顔を見合わせる。

 

「六秒かぁ~」

「中々ですね」

「うん、でも――」

 

 ――私達(ヴェリタス)には十分すぎる時間。

 

 ■

 

【第十四話】

 

「ぐふっ、や、やられました~……ふ、復活の呪文を――!」

「えぇ……?」

 

 夕刻、待機していたユウカの元にゲーム開発部襲撃の報が届く。こうも早く動いたかとオペレーションルームに駆け付けたユウカが目にしたのは、C&Cのアカネに制圧されたアリスの姿であった。どんな方法で攻めて来るか想定していたユウカは、まさか無策で正面突破を選ぶとは予想しておらず、困惑の声を漏らす。

 

「ふふっ、この子がアリスちゃんですね、とっても可愛いじゃないですか……六番目のエージェントメイドとして育てたくなってしまいます、連れ帰っても良いですか?」

「ダメに決まっているでしょう? 今は生徒会を襲撃した犯人の一人なんだから……取り敢えず生徒会の反省部屋に閉じ込めておくわ」

 

 単独で襲撃を行い、敗北したアリスはそのままセミナーの反省部屋へと収容。それを終えたユウカは満足げな様子で戦闘報告をアカネより受ける。

 

「それで、戦闘の被害は?」

「エレベーターの指紋認識システムが破壊されました、どうやら最初からこれの破壊が目的だったみですね」

「この規模の破損だと、セキュリティロックの修理は無理ね、一時的に予備のものと取り換えるしか――」

 

 セミナーのオペレーターと共に被害状況を確認したユウカはエレベーターの指紋認証システムが破損した為、システム周りをそっくり取り換える必要があると口にする。しかし、ユウカの思考に引っ掛かるものがあった。

 早速システムを取り換えようとするオペレーターを制止し、ユウカは神妙な表情で続ける。

 

「ねぇ、ちょっと待って」

「はい?」

「さっきアリスちゃんが使っていた武器、あの巨大な銃器って――多分、エンジニア部の作品よね?」

 

 ユウカはアリスの使用していた銃器に見覚えがなかった。しかし、あんな奇天烈な兵装を開発する場所など――ミレニアムのエンジニア部位しか思いつかない。元々身元がハッキリしない生徒だ、ミレニアム内で銃器を調達した可能性は十分にあり得る。

 

「……念の為、エンジニア部製作のセキュリティシステムじゃない、市販か、ミレニアムで開発された別の部活のものを使いましょう」

「――分かりました」

 

 ユウカの指示に頷き、予備のシステムを準備するオペレーター。思案顔で黙り込むユウカに近付いたアカネは、落ち着いた声色で問いかける。

 

「今回の件にエンジニア部が噛んでいると?」

「確証はないわ、けれど――一応ね」

 

 ■

 

「あ、アリスが捕まっちゃった……!」

「だ、大丈夫モモイ、計画通りだよ」

「アリスちゃん、待っていて……直ぐに助けてあげるから」

 

 一連の流れをヴェリタスの部室でモニタリングしていたゲーム開発部は、反省部屋へと収容されるアリスに声を漏らす。こうなる事は分かっていたし、狙い通りではあるが単独でアリスを突撃させた事に何とも云えない罪悪感を覚える。尤も当の本人は「単騎駆けは戦士の誉れです! ゴースト・オブ・ヒャッキヤコーで学びました!」と喜んでいたが。

 

「――先生」

「うん……ウタハ、そっちの方は?」

『こちらエンジニア部、全ては順調だよ、後はこれを仕込めば――トロイの木馬、侵入成功だ』

「良し、ありがとう」

 

 ミドリが先生に視線を向け、先生は手にした端末から別動隊として動いているエンジニア部に連絡を取る。彼女達も順調に計画を進行している様で、動きの切っ掛けとなるトロイの木馬を仕込む事に成功する。

 

「それじゃあ、ヴェリタスの皆はそれぞれ持ち場で待機をお願い、作戦開始時刻は――」

「勿論確認済み、後は先生の合図で……だよね?」

「うん、よろしくね」

「まっかせて!」

 

 エンジニア部、ヴェリタス、ゲーム開発部がそれぞれの役割を持ち、実質的な鏡奪還部隊となるゲーム開発部はミレニアムタワー近辺の別棟にて待機する流れとなる。ウタハ、ヒビキの両名はミレニアムタワー外部からの支援。マキ、コトリは囮を兼ねた突入陽動部隊。ハレはヴェリタス部室より電子支援とオペレーターを兼任。

 作戦決行は視認性が悪くなる夜――息を潜めて作戦開始時間まで身を隠すゲーム開発部。そして持ち込んだ軽食を口に含みつつ、別棟の退館時間が過ぎて室内灯が落とされる頃。

 先生はタブレットの時計を確認し、時刻が作戦開始時間を示した。

 

「――時間だ」

「よっし、行こうか!」

「うぅ、き、緊張する……こんな気持ち、古代史研究会の建物を襲撃した時以来だよ」

「わ、私も、大丈夫かな……?」

「まぁ何とかなるよ! というかユズ、何で段ボール持ってきているの?」

「ま、万が一見つかりそうになったら、これに隠れられないかなって思って……」

「さ、流石に難しいんじゃないかな……?」

 

 緊張に強張る体を自覚するゲーム開発部。先生は彼女達に声を掛け、励ましながら端末を通じヴェリタス、エンジニア部双方に作戦開始を告げる。

 

「――皆、作戦を開始するよ」

『こちらハレ、準備は出来ているよ、支援はいつでも』

『こちらマキ、現地で待機中! 直ぐにでも動けるよっ!』

『こちらコトリ、万事お任せ下さい! 理論上今回の作戦成功率は九十八パーセントです!』

 

 続々と応答する声、先生はその声に頷きを返しながらミレニアムタワーを臨む。タワー全体を包むように光を放つ不夜城は堅牢な守りを感じさせた。

 

「さて、始めよう」

 

 ゲーム開発部と共にタワーの前へと立った先生は、シッテムの箱を抱えながら作戦の開始を宣言する。

 

「――ゲーム開発部、出撃!」

「お~ッ!」

 


 

 私はヒフミが大好きですわ。

 彼女は私がブルアカを始めた時、一番最初に来てくれた生徒ですの。

 なので【補習授業部崩壊(ヒフミが勇気を出せなかった世界線)ルート】を考えますわ~!

 

 先生が心肺停止した後、もし即日復活出来なかったら――から派生する結末。

 或いはコハルに発破を掛けられた時、ヒフミが『先生が斃れ、不在の中、平凡な自分に一体何が出来るのか?』という疑念に打つ勝つことが出来なかった場合、訪れるエンディング(一周目)

 

 アズサが単独でスクワッド追跡に赴き、ヒフミとコハルに別れを告げた後、コハルはヒフミに彼女を追い掛け、「ハナコもアズサも止めなきゃ、駄目……!」と泣きながら説得するが、ヒフミは平凡な自分にそんな事が出来るのだろうかと自信を失う。

 ハナコは分派を取り纏め、ティーパーティーのミカを代理ホストとして動かしアリウスとの全面戦争に身を投じており、アズサと彼女を止めると云う事は学園そのものを止めるに等しい。そんな大それたことを、平凡な自分が出来るのか――? そんな迷いと共に、コハルの言葉に逡巡する。

 

 それを否定と受け取ったコハルは歯を食い縛り、「分かった、私一人でも……絶対に、諦めないから!」と一人で部屋を飛び出してしまう。「こ、コハルちゃん……!」とヒフミは彼女に手を伸ばすが、その指先が届く事は無くヒフミはひとり取り残される。

 ヒフミは暗がりに消えていくコハルの背中を見送る事しか出来ず、そのまま先生の亡骸に縋る様に沈黙を守った。

 

 その間にも事態は悪化し、本編の流れ通りアズサはスクワッドに単独で強襲を仕掛ける。ヒフミからのプレゼント、ペロロ人形に隠したヘイロー破壊爆弾を用いてスクワッドに壊滅的な打撃を与えるが、アツコが庇う事でヘイローの破壊に失敗。ベアトリーチェの加護によって一命を取り留めたアツコは戦線を離脱し、サオリとヒヨリ、ミサキの三名はアツコ負傷によって不安定になった戒律更新の為に聖堂へと向かう。

 それを追撃するアズサ――其処にハナコ率いるトリニティ部隊が追いつき、衝突してしまう。

 

「……ハナコッ!」

「――アズサちゃん」

 

 ETOを交えたアリウス対トリニティの戦闘は苛烈を極め、アズサはハナコの戦う姿に苦悶の表情を浮かべるも、何としてもアリウスを止める為に喰らい付く。

 其処に遅れてトリニティから駆けて来たコハルが参戦する。戦闘――もとい、殺し合う両陣営を止めるべく声を張り上げるが、彼女の言葉に耳を傾ける者はなく、力ない声に力を貸す者もいない。

 

「やめ、やめてよッ! こんな事して、一体何になるの……っ!?」

「綺麗事ばかり、その力も無いと云うのに――ッ!」

 

 コハルの声に苛立つサオリ、奇跡を起こす事も叶わず戦闘は止まらない。

 先生不在の為ヒナは未だ再起不能、これによりゲヘナ風紀委員会は合流せず、正義実現委員会のトップ二名も不在。同時にアビドス対策委員会もトリニティ本校舎に留まっており、戦闘は決め手に欠けるまま膠着状態に陥る。

 そして地上で繰り広げられるそれらを前に、マエストロは件の存在が姿を見せない事に落胆を覚える。

 結局程なくして切り札であるヒエロニムスを起動させ、地下を突き破って怪物は地上へと顕現を果たす。

 

「あ、れは――」

「ッ……!?」

 

 巨大な怪物に圧倒されるトリニティ生徒達、ハナコは敵の切り札を前に勝算は低いと判断、先生の仇を前にして何たる様かと憎悪に呑まれかけるも、辛うじて残った理性が事の無謀さを訴えかける。苦渋の表情を浮かべながら撤退を決断。主力となる本隊を逃がし、自らが殿に残ると口にしコハル、アズサにトリニティへの撤退を進言する。

 

「二人共、トリニティ中央区まで撤退をッ! 此処は私と少数の生徒で何とか食い止めますから――……!」

「い、嫌っ! ぜ、絶対に、一人で残したり、し、しないからッ!」

「いいや、此処は私が残るッ! 生き残るだけなら私が適任だ! 二人は早く逃げるんだッ! 急げッ!」

「単独で勝てる相手ではありません、アズサちゃんッ! 部隊指揮を執れる私が残るのが、一番時間を稼げるのですから――!」

「やだぁッ! ハナコも、アズサもッ! 絶対に一人にしないからッ!」

「くッ――!」

 

 しかし各々は互いを残す事を頑なに拒み、三名は僅かな護衛のみを残し絶望的な決戦を強いられる事となる。

 そして残念ながら、奇跡を起こす存在は――この場に居らず。

 

 ■

 

「―――」

 

 コハルより遅れてトリニティを出発し、勇気を振り絞って戦場へと立ったヒフミ。

 彼女が目にするのは、全滅した補習授業部と、トリニティの殿部隊。

 

 聖堂は崩壊し、倒れ伏した生徒達の骸を前に呆然と立ち尽くす事しか出来ないヒフミ。アリウスの姿はどこにもなく、既に彼女達は別の区画に侵攻を開始したのだと分かる。

 曇天は厚く、光は見えず、ヒフミはふらふらと崩れ落ちた聖堂に近付くと、泥に塗れる事も厭わず瓦礫の隙間に腕を突っ込み、嘗て共に笑い合った仲間達を引っ張り出す。ヘイローが浮かぶ事は無く、ぐったりと動かない友人達。

 

「……コハルちゃん」

 

 銃身の折れ曲がったライフルを掴んだまま、苦悶の表情で丸まるコハル。帯の切れたバッグが傍に転がっており、中から数冊の教本と、丸っこい字が一杯に書き綴られた学習ノートが零れ落ちている。

 

「……ハナコちゃん」

 

 コハルを庇う様に抱き締め、長い髪が半ばバッサリ切り取られているハナコ。背中に酷い火傷痕が残り、白い制服が黒く煤けている。だというのに表情は眠っているように綺麗で、トレードマークの白いリボンがポケットから顔を覗かせる。

 

「……アズサちゃん」

 

 最後まで足掻いたアズサの周りには空の弾倉が幾つも転がっており、壁に寄り掛って項垂れるように力尽きていた。空いたもう片方の手は自身の胸元を掴んでおり、そこから補習授業部人形が垣間見えた。

 

 全員を崩壊した聖堂から引っ張り出し、丁寧に床の上へと並べたヒフミは暫し無言で佇み、それからゆっくりとその場に屈みこむ。ペロロを模した鞄を強く抱き締めながら俯いた彼女は、悲しい筈なのに涙が出なくて、ただ制御できない感情が胸の内で荒れ狂い、見開いた目をそのままにくしゃりと髪を握り締める。歯がカチカチと鳴って、全身に夥しい寒気が走った。

 

 ――私があの時、勇気を出せていれば。

 

「ぅ、ぁ――……ッ!」

 

 自己嫌悪、失望、恐怖、後悔、怒り、憎しみ――様々な感情が彼女の中で蠢いて、震えながら何度も何度も額を鞄に打ち付ける。何で、何で、何で、あの時私は、あの時の私は。コハルに、アズサに、ハナコに、手を伸ばす事が出来なかったのか。そう自分に云い聞かせ、詰り、責め、憎悪する。

 先生の時だってそうだった、なりふり構わず助けに行けば良かったのに。結局同じように自分は、何も出来ないって高を括って、またこんな風に。痛い位に頭を抱えて、ヒフミは友人達だったものの前で蹲り続けるのだ。

 

 ――その後、別動隊として動いていたミカが到着した頃には既に聖堂周辺は掃討されており、ハナコを含む複数名の生徒、そのヘイロー消失が公式に確認される。

 

 しかし、その場所にヒフミの姿はない。

 

 ■

 

「サオリ、失態ですよ? 彼女には傷一つ付けてはならないと、そう云った筈です」

「……申し訳ありません、マダム」

「ふぅ――余り時間を掛けては万が一もあり得ますか、漸く件の聖人を排除出来たと云うのに……あぁ、その件に関しては褒めて差し上げましょう」

 

 ヒエロニムスとユスティナ聖徒会を使いハナコ率いるトリニティ部隊を撃退したスクワッドは、攻略作戦を一時別動隊に任せアツコの容態確認を兼ねて自治区へと帰還していた。そこでベアトリーチェとの面会を許可されるが、絶望的な言葉を掛けられる。

 

「では――儀式は三日後に執り行いましょう」

「……は?」

 

 ベアトリーチェは元々約束など守るつもりなどなく、先生の排除、ETOの確保、その両方が成し遂げられた今――大事なロイヤルブラッドが手元に在る状態で、儀式を待つ気などなかった。

 何せ儀式を為せば、自身に比肩し得る存在など何処にも居ないのだから。

 故にサオリは愕然とした表情で問いかける。

 

「そ、んな、任務を果たせば、儀式は……アツコは、助けて頂けると、そう云って――!」

「そう云えば、そんな約束もしていましたねぇ」

 

 まるでどうでも良い事を思い出したかのように彼女は気怠げに、そして呆ける様に間延びした声で応じる。ベアトリーチェは手元の扇子を勢い良く閉じると、悪辣に歪んだ口元を隠す事無く告げた。

 

「――そんな筈ないでしょう、愚かで可愛い私のサオリ?」

「――………」

 

 サオリは此処にて、漸く自身が最初から謀られていたのだと理解する。しかし気付いた時には遅く、アツコはベアトリーチェの手中にあり、次の瞬間には周囲に聖徒会が出現し、一斉にサオリへと銃口を向けるのだ。

 

「さい、しょから――」

「聖人を排除し、ユスティナ聖徒会を手にした以上、スクワッドは既に不要なのです、貴女達は十分に役目を果たしてくれました……えぇ、お疲れさまでした、後はロイヤルブラッド(アツコ)を贄とし私は次の段階()へと至るだけ」

「最初から、約束を、守るつもりなんて――……!?」

「――処分しなさい」

 

 ベアトリーチェが指先を振り下ろし、一斉に銃声が鳴り響く。サオリのベアトリーチェに向けた叫びはそれらに掻き消され――一拍後には静寂が訪れる。

 

 ■

 

 先生の死亡を知った万魔殿はトリニティ自治区内で辛うじて戦闘を続けていた風紀委員会、近衛隊をゲヘナ中央区へと呼び戻し、ゲヘナ防衛に力を注ぐ。アビドス、ワカモ含む忍術研究部もまた失意に呑まれ、アビドスは立ち尽くし、ワカモは殺意のままにアリウスとの抗争に身を投じる事を決意する。

 ハナコが消えた後もミカは単独でトリニティを率い、ユスティナ聖徒会との戦争を継続。同時に正義実現委員会のツルギ、ハスミが意識を取り戻し先生の死亡を知る。

 双方は正義実現委員会を率いてトリニティ防衛に注力するも、戦況は劣勢のまま一日、二日と経過する。

 

 そして運命の三日目――キヴォトスの空が赤く染まり、儀式が開始される。

 

 その異変を感じ取りながらも、トリニティはどうする事も出来ずにユスティナ聖徒会との戦いを継続。そして一際強い力の波動、振動、空間の捻じれを感じ取ると同時に、儀式を完遂したベアトリーチェがトリニティ自治区へと君臨する。

 

 同時期、先生の意識が浮上――自身がどういった状況にあるのかを朧気ながら理解する。転がされていた寝台より這い出ると、辛うじて電源を残していたアロナの力を借りて四肢を補完、赤く染まった空を見上げ自身が間に合わなかった事を悟る。先生は自身の誤断を大いに責め、この結末に至った事を強く悔いる。

 しかし――それでも為さねばならないと、先生は最後の責任を果たす為に校外へと足を進める。

 

 ■

 

 ヒフミは補習授業部の皆を失ってから、覚束ない足取りで合宿所に帰還していた。皆で共に過ごした場所で延々と自身を責め続け、三日間ずっと蹲り続けていた。しかし空が赤く染まり、異変が起こった事を知りゆっくりと顔を上げる。そこで彼女のペロロ鞄にぶら下がった補習授業部の人形に視線を吸われ、「それでも諦める理由にはならない」というアズサの言葉を思い出す。

 居なくなってしまった大切な友人達の想い出を振り返り、ヒフミは緩慢な動作で立ち上がる。

 

「行か、ないと……」

 

 それが何故なのかはヒフミには分からない。ただ、漠然と皆と過ごしたこの場所が無くなってしまうのは嫌だった。自分一人が行った所でどうにもならないと知りつつも、ヒフミは銃器を手に合宿所を後にするのだった。

 

 ■

 

 ベアトリーチェは新しく手にした力を前に嬉々として暴虐の限りを尽くし、自身こそがこの世を統べる絶対者であると豪語する。逆らう生徒を殴打し、叩き潰し、抵抗の意思が無くなるまで、彼我の力の差を理解させる。さしものミカ、ハスミ、ツルギでさえも儀式を為したベアトリーチェの前では歯が立たず、憎悪と憤怒に塗れたまま力尽きてしまう。圧倒的な力、無尽蔵の兵力を前にトリニティが屈しようとした時――満身創痍の先生は現れる。

 

 ベアトリーチェは死んだはずの先生、その出現に大層驚き、しかし嘲るように手を広げ云った。

 

「まさか生きているとは思いませんでした、確実に命を奪ったとばかり――あの子(サオリ)もその様に報告していたのですが、全く、最期まで愚かな子でしたね」

「………」

「ですが、今更何をしに来たのですか先生? 既に儀式は完遂されました、私は色彩の力を得、貴方を凌駕する絶対的な力を手にした――ロイヤルブラッドとは斯くも素晴らしい、いつも子ども達は私達大人に素晴らしい贈り物をくれます」

「……ベアト、リーチェ」

 

 先生は朽ちかけの身体に鞭を打ち、ゆっくりと手を掲げる。そこに集まる光、それは先生が果たすべき最後の責任。ベアトリーチェはその光を忌々しく睨み付けながら告げる。

 

「成程、つまり貴方は……死にに来たのですね?」

「――責任を、果たしに来たんだよ」

 

 先生の持つ全ての力、大人のカード、その全力行使。

 悍ましいまでの光にベアトリーチェは目を細め、その光景は赤に染まったキヴォトスを一時的に青空へと戻す。光柱に気付いたヒフミは、その光に見覚えがあり、まさかという思いで必死に駆け出す。

 そして見つけた、崩れ落ちた校舎の前に立つ大人の背中。

 

「せん、せい――……?」

「――ヒフミ」

 

 先生は残った一本の腕を突き上げながら、ヒフミの存在に気付く。その表情は強い光の影となり、良く見えない。

 

「皆を、守れなくてごめん、最後まで、寄り添えなくて、ごめん」

「い、一体、何を――何を、して」

「――責任は」

 

 先生がゆっくりと振り返り、ヒフミを真剣な瞳で射貫く。

 

「私が負うからね」

 

 ■

 

 先生の大人のカード、その全力行使によって呼び出された生徒達。圧倒的な奇跡の力によってベアトリーチェは退けられる。

 しかし同時に先生も代償によって全てを失い、ヒフミの目の前で肉体を崩壊させる。何かを口にする余力すらなく、瞬く間に朽ちていく先生に向かって必死に手を伸ばすヒフミ。しかし指先が先生に届くより早く、その存在は消え去った。

 

 残されたのは血塗れのシャーレ腕章と、擦り切れたIDカード、電源の入らなくなったシッテムの箱――触れれば崩れてしまいそうな程、脆い大人のカード。

 

 ヒフミはその場に崩れ落ち、先生だったものを必死になって搔き集める。風で飛ばされないように腕で囲い、自身の身体で守る様に覆い被さって――そこまでやって初めて、自分は大切だったもの、あらゆる全てを失ったのだと理解し、大粒の涙を零して泣き叫ぶのだ。

 自分が大切に思っていた補習授業部はもう、何処にも存在しない。

 生きていたのだと喜ぶ暇さえなく、先生も消えてしまった。

 正真正銘の、ひとりぼっち。

 涙が先生の腕章を濡らし、震える指先が強く地面を引っ掻く。けれど幾ら悔いても、悲しんでも、失われたものは戻って来ない。

 ヒフミはこの日、平凡である自分を始めて腹の底から呪った。

 

 ■

 

補習授業部崩壊(ひとりぼっちのヒフミ)ルート】

 

 何かの切っ掛けで失敗してしまった世界線のヒフミ。ブルアカ宣言出来なかったら、多分こうなっちゃうよねというルートその一。

 先生がミサイルで死んでも同じ感じになる、というかその場合ベアトリーチェ大勝利ルート、けれど最終的にはプレナパテス先生に叩き潰されるのではないだろうか。

 このヒフミを大人のカードで呼び出すと、多分酷く自罰的な感情を抱く。生きている先生、未だ健在の補習授業部、いつか自分が手放してしまった未来の光景がそのまま目の前の世界には広がっていて。あぁ、これこそが自分に対する罰なのだと、あの時、あの瞬間、勇気を振り絞る事が出来た自分自身(この世界のヒフミ)に羨望と尊敬と憧憬の視線を向けるのだ。

 事情を知ったハナコとか滅茶苦茶自己嫌悪になって落ち込みそう。

 全部ミサイル撃ち込まれた程度で絶命する先生が悪いんですわよ。先生はね、手足が捥げようが、心臓ぶち抜かれようが、何だろうが血反吐撒き散らしながら生き残って生徒の為にもっと苦しまなくちゃいけないんですの。

 絶命する時は沢山の生徒に囲まれて、一杯の愛を感じながらおくたばりなさるんですわよ。

 

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