【第十五話】
「――来た」
アリス襲撃より数時間、その間オペレータールームで待機を続けていたユウカは、防犯システムのアラートにて襲撃を察知する。即座に監視カメラの映像を回せば、モニタに映る二人組の姿が。場所はミレニアムタワー一番ゲート内部、ポイントA1――進行速度は周囲を警戒しているのか緩慢で、それでも程なくA2へと到達するだろう。
「一番ゲートから入り込んできましたか、B3とC3に設置した準備は空振りですね」
「まだ分からないわアカネ、別動隊が居るかもしれないし――カメラを回して、第二、第三ゲートに人影は?」
「……第二、第三ゲート、B1、C1共にそれらしい人影は何も」
オペレーターの言葉に頷きを返すユウカ。アカネは床に置いていた巨大なトランクケースを持ち上げるとユウカに告げる。
「A3にまで踏み込めば此処から脱出は不可能でしょう――私が直接出ます、生徒会役員の方々はなるべく近付かないよう、勧告を」
「あら、アカネ自ら出るなんて、ゲーム開発部を大分高く買っているのね?」
「えぇ、勿論です」
ユウカの意外そうな声に、彼女はスカートの裾を摘まみ上げながら優雅に一礼して見せた。
「お客様のお出迎えは、メイドとしての基本ですから」
■
第一ゲートよりミレニアムタワー内部へと侵入した二人組は、暗闇の中を移動し続ける。そして内部の奥まで足を進めた二人は不意に足を止め、互いに端末を出して確認し合った。
「えーっと、この辺だっけ?」
「凄く奥の方まで来た感じですが、恐らくこの辺りですね!」
「じゃあ、後は――」
「させませんよ」
何か動きを見せようとした二人に、唐突に掛かる声。二人が肩を跳ねさせながら素早く後退すれば、音もなく背後に立つメイド服の生徒。
彼女――アカネは暗がりの中で辛うじて視認出来る二人の輪郭に向け微笑み、一礼して見せる。
「――こんばんは、良い夜ですね? お二人共」
手にしたトランクを床に置き、対峙する人影。二人組は緊張した様子で無言を貫き、反対にアカネは朗らかな笑みさえ浮かべている。アカネは初対面である二人に向けて穏やかな口調で自己紹介を口にした。
「改めまして、私はC&Cコールサイン・ゼロスリー……本名は秘密ですので、謎の美少女メイドとでも」
「あ、アカネ先輩!」
「あの、特技が暗殺で有名なアカネ先輩、でしょうか?」
「……一応機密扱いのエージェントの筈なのですが、いつの間にそんな知られ方を? 正体を明かさない系ヒロインはもう時代遅れなのでしょうか?」
予想に反した返答にアカネは困惑と落胆を滲ませる。
「知っているよ~、確かコタマ先輩情報によると、最近体重が――」
「――ま、待って下さい! その情報漏洩は流石に問題がありますよね!?」
てっきり相手方は自身を知らないとばかり考えていたら、そんな事もなく余計な情報まで付いて来る始末。アカネは羞恥心に頬を赤く染めながら懐の拳銃、サイレントソリューションを抜き放ち叫ぶ。
「その情報に関しては永久に黙って頂きます……! さぁ、そろそろ姿を見せて頂きましょうか、モモイちゃん、ミドリちゃん!」
暗がりで立ち竦む二人の影、それがゲーム開発部の二人組である事をアカネは知っている。少なくとも監視カメラで確認した映像では、二人の姿がハッキリと映っていた。
「ふふふ――」
「……?」
しかし、アカネの発言に対して影は不敵な笑みを零すばかり。
「何を笑って……」
「まだ気付かれていない感じかな? 失敗しているのは、そっちの計画の方だよ」
「やはり偽装工作は完璧ですね! 変身君MK.3も良い仕事をしています!」
「偽装――」
その一言に、アカネの胸に嫌な予感が過った。手にした愛銃のグリップを握り締めながらアカネは驚愕の声を漏らす。
「ま、まさかっ!?」
「その――まさかだよッ!」
ハッとした表情でアカネが叫べば、二人の輪郭がぐにゃりと歪む。同時に暗がりで分かり辛かった二人の顔がハッキリと光に照らされ、マキとコトリの二人が姿を現した。モモイとミドリだと思っていた影は、彼女達が変装した姿であったのだ。してやったりと笑みを浮かべながら自身の名を呼ぶ二人、そしてアカネがセクションの内側に踏み込んでいる事を確認したマキは手元の端末を素早く操作する。
「タイミングは今、ですね!」
「防犯システム、起動!」
電子音と共に、館内に鳴り響くアラーム。同時に金属同士が擦れるような音が響き、巨大な影が落ちて来る。
「――っ、これは、シャッターがっ!?」
後方を塞ぐ様に降りる防壁、シャッター。それによりセクションが封鎖され、アカネ達三人は現セクションに閉じ込められてしまうのだった。
■
【第十六話】
『ユウカ、一体何が起きているのですか!?』
「わ、分からないわ! こっちの監視カメラでは今でも確かにモモイとミドリが映っているし、でもアカネ、貴女の姿が映っていなくて……!」
『私の姿が――? それは、まさか!』
「――カメラ設定を初期化して! クラウド接続を遮断、プライベート回線でもう一度繋ぎ直すのよ!」
ユウカの指示によって即座に更新されるモニタ、一度途切れたそれは今度こそ正確にアカネとマキ、コトリの三名を映し出す。今まで見せられていたのは偽装映像、まさかこんな事を許す何てとユウカは臍を噛む。
隔壁閉鎖で閉じ込められたアカネに対し、ユウカはマイク越しに叫んだ。
「アカネ、認証権限は与えている筈でしょう!? シャッターの解除は可能な筈だから自力で脱出を――」
『ッ、駄目です、認証が無効化されて……! 第二シャッターが降りてきます!』
「そんな……!?」
アカネの認証は弾かれ、失敗判定となり更に強力な第二シャッターが区画を隔てる。ユウカは素早くフロアマップを開き、アカネに一番近い解除権限を持つ生徒役員を確認した。
「誰かアカネの救出を、確かノアが近くにいた筈だから向かわせて!」
「い、いえ、どうやら他の生徒会役員も全てセクション封鎖に巻き込まれ、認証が失敗していると……!」
「なっ……!?」
――まさか、セキュリティが乗っ取られた?
ユウカの脳裏に過る最悪の予感。セクション全体が封鎖され、生徒会役員全員が各々解除に失敗して第二シャッターまで降りている。その事実にユウカは思わず息を呑み、そしてつい先程破壊されたエレベーターに視線を向けた。
「もしかして、最初からこれを狙ってアリスちゃんを……!?」
アリスの単独行動、それにより破壊された指紋認証システム。取り換える為に敢えて普段とは異なる選択肢を取った筈だった――しかし、それすらも読まれていたとしたら。
換装したミレニアムで開発されたという認証システムは、エンジニア部の息が掛かった作品であった。
「――やられた!」
ユウカはこれが相手の作戦であった事を悟り、怒りと共に端末を握り締めた。
■
「さて、そろそろ偽装工作がバレた頃かな」
「分断は成功、って事でしょうか……?」
一方その頃、別ルートよりミレニアムタワーへと侵入したゲーム開発部。本来であれば生徒会役員しか使用できないエレベーターを私用しフロアへ侵入、恐る恐る廊下へと顔を出す。遠目にシャッターが降りているのが確認出来、セクションは完全に区切られているのだと分かった。
周囲を計画する先生の端末が震え、ヴェリタスより作戦成功の報告が届く。
「――連絡が来たよ、どうやら作戦は成功したみたいだ」
「って事は……」
「指紋認証システムは、正常に作動したって事だよね!?」
「うん、ヴェリタスとエンジニア部の皆が上手くやってくれたみたい」
「よ、良かった……!」
その一言に安堵するユズ。取り敢えずこれによって分断作戦の第一段階は突破出来た事になる。先生はタブレットを抱えたまま皆の方を振り向き告げる。
「これで生徒会役員は隔離され、タワー内部を自由に動けるのは権限を持っている私達だけ――今の内に目的を達成しよう」
「りょーかいっ!」
上書きした権限を利用し、シャッターを次々と突破するゲーム開発部。現生徒会役員のセキュリティ権限を剥奪し、ゲーム開発部と先生のみがセキュリティを解除出来る状況を作り上げた今、セミナー側はゲーム開発部の位置を特定出来ていない。自由に動ける今こそが鏡奪取のチャンスだった。
「っと、流石にガードの類はまだ生きているか」
「い、意外と多い……!」
「こっちは私達で対処します、先生、指揮を!」
「分かった、任せて――!」
目的地へと急ぐゲーム開発部の前に、ユウカが予め配備していたガードロボットが出現する。モモイ、ミドリ、ユズの三名は身構え、先生の指揮によって強硬突破を敢行、廊下に銃声が轟くのであった。
■
【第十七話】
「ふふっ、流石に合金製とはレベルの違うシャッターだね、これを破るのはかなり骨だけれど……さて、どうしよっか?」
「現状の火力で突破するのはかなり困難でしょう! アカネ先輩、こうして仲良く閉じ込められたのも何かの縁ですし、楽しい相対性理論の講義でも――」
モモイとミドリの代わりに囮となってアカネをセクションAへと閉じ込めたマキ、コトリの両名。二人は目の前に立ち塞がる二枚の障壁を前にしてあくまで自然体に振る舞う。こうなってしまえば脱出は難しい、ならばこのまま時間稼ぎに付き合って貰おうと語り掛ける二人に反し、アカネは耳元に装着したインカムに指を添えながら声を荒げる。
「此方コールサイン・ゼロスリー! A-11セクションにて閉じ込められました、コールサイン・ゼロワン、応答を……!」
【―――】
「オフライン状態……!? アスナ先輩、一体何処にいるんですか、もう! せめて電源位点けていて頂かないと……!」
自身の窮地を仲間に知らせようと通信を飛ばすも、応答はない。と云うよりもこの様子だと恐らく取り決めていた地点で待機していない可能性すらある。いつもの事とは云え、その事実に焦燥感を覚えるアカネ。
『――安心して、アカネ』
「っ、カリン?」
アスナの代わりに、同じC&C所属のカリンが応答する。マイク越しに聞こえる微かな風切り音、そして焦りを見せるアカネと反対に、何処までも淡々と冷静な声色で彼女は告げた。
『ゲーム開発部は、既に私の射程範囲内だ』
■
「……っし! この辺りのガードはこれで全部だね!」
「数は多いけれど、先生の指揮と戦闘支援もあるし、全然余裕」
「あ、あとセクションを四つ移動すれば、目的地に到着するから――」
道中のガードロボットを薙ぎ倒し、順調にセクション間を移動するゲーム開発部。丁度四つ目のセクションを攻略し、特にこれと云った問題も発生していない為、ゲーム開発部の面々には余裕の色が垣間見えた。
そんなこんなで廊下を駆け抜ける四名、窓一杯に広がるミレニアムの夜景――その中できらりと何が一瞬光る。
『――先生!』
「ッ!?」
アロナの声が耳に届き、それが危険を知らせる声だと瞬時に判断。
咄嗟に先生は叫ぶ。
「三人共、頭を下げろッ!」
「えっ――」
先頭を駆けていたモモイが振り向き、同時に凄まじい何かが彼女の頭上を通り過ぎる。窓硝子を粉砕し、直ぐ脇の壁を破壊して粉塵を撒き散らした弾丸は、そのまま数枚先の壁まで貫通していた。散らばった壁の残骸が地面に散乱し、破片が肌を殴打する。
「おわぁあッ!?」
「お、お姉ちゃん!」
「も、モモイっ!?」
攻撃の余波で地面を転がったモモイは額を抑えながら這い蹲り、冷汗と共に目を瞬かせる。ミドリは転がったモモイを引っ張り上げ、慌てて近場の遮蔽へと引き摺って行った。ユズは先生の傍に付くと、そのまま攻撃の飛来した方向を警戒する。
「よ、良かった、お姉ちゃんの背が後五センチ高かったら、おでこに直撃だったよ……」
「ヒューッ! 小さくて良かった……じゃないよ!? というか、私の髪の毛無くなってないよね!?」
「大丈夫、あと少し横にズレていたらヘッドホンに当たっていたと思うけれど」
「あっぶな!? これすっごく高かったんだからねっ!?」
自身の頭と猫耳型ヘッドホンをぺたぺたと触りながら叫ぶモモイ。地面に転がった愛銃を慌てて回収しながら、罅割れた窓硝子越しに夜のミレニアムを涙目で睨み付ける。しかし、肝心の狙撃手の姿は何処にも見えなかった。
「今の狙撃だよね……? どんな威力の弾丸を使っているのさ、壁が吹っ飛んじゃっているし……っ!」
「た、対物狙撃用の13.97mm弾かな……流石にこれを受けたら、私達でも一発で意識が飛んじゃうと思う……!」
穴の開いた壁を戦々恐々とした表情で見つめるモモイ。ユズは被害の大きさから飛来した弾頭の正確な種類を見抜く。先生はタブレットを注視するが、索敵出来る範囲内に反応は存在しない。自分達の探知出来る範囲外からの狙撃――夜景の明かりに潜む人影を探しながら、彼女の名を呟く。
「この狙撃、カリンか――!」
C&C所属、コールサイン・ゼロツー――彼女の扱う愛銃、ホークアイは正確無比な狙撃と、強固な装甲をも撃ち抜く火力を併せ持つ。百メートル以内に限った話であれば殆ど必中、そして20mmの
床を這う様にして身を隠すゲーム開発部に向けて、先生は行動を促す。
「直接体は見えないよう気を付けながら、壁越しに移動しよう……! このまま此処に留まるのは危険だ、壁ごと撃ち抜かれてしまう」
「えっ、で、でも、下手に動くと危ないんじゃ――」
「彼女相手には足を止める方が不味い、予測線と危険域は視界に表示するから、慎重に動けば大丈夫……!」
「わ、分かった、先生を信じるよっ!」
先生の言葉に身を潜めていたゲーム開発部は再び動き出し、窓側ではなく部屋から部屋を通る形で動きを悟らせないルートを取る。駆けながら先生はハレと通信を繋ぐ。
『先生、気を付けて、C&Cの攻撃支援が始まったみたい』
「そうだね、絶賛味わっている最中だよ……!」
『向こうもプロだし、無いとは思うけれど先生に直撃したら――』
「流石に、それは考えたくないね――大丈夫、カリンの腕前なら誤射なんてしないさ」
誤射させてぇですわ~ッ! おミンチでしてよ~!
そんな事より一年前の私はどうやって毎日投稿で一万字近く投稿していたのでしょうか。
しかもダイジェスト版でもないのに、頭イカれてんじゃねぇですの?
これ一ヶ月とか正気の沙汰じゃねぇですわ、今の私だと一、二週間が限界でしてよ。