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【第十八話】
「――一発で仕留めたかったけれど、五センチ上にズレたか」
コッキングを行い、次弾を薬室に送り込みながら呟くカリン。夜の屋上、ミレニアムタワーを一望出来るその場所で愛銃を構えた彼女は、第一射が外れた事に溜息を零す。
今しがた狙いを定めた対象は自分が予想していたよりも幾分か小柄で素早い。レンズ越しに目視出来る標的は三人、ゲーム開発部のモモイ、ミドリ、ユズ――勿論、先生は最初から除外してある。彼に銃口を向けるなど論外。
「ん……?」
一発目の狙撃で一斉に物陰へと身を隠したゲーム開発部であったが、程なくして動き出すのが分かった。窓側を嫌って室内へと駆け込む姿、咄嗟に引き金を絞り銃撃、マズルフラッシュが網膜を焼き弾丸は駆け出したモモイの背中に直進したが――まるで狙われている事を分かっているかのように、彼女は着弾地点より身を反らし回避する。弾丸は奥の壁に突き刺さり、彼女達の背中は閉じられた扉の向こうへと消える。
「今のを避けるか……あれは、先生の戦闘支援があるな」
確実に直撃を狙えるコースだった。しかし殆ど予知染みた回避を見せたモモイに、先生の戦闘支援が働いている事をカリンは確信する。視界内に危険域、飛来する弾丸の予測線、敵の位置情報等が一斉に表示されるそれらは驚異的なアドバンテージを使用者に齎す。
尤も狙撃の場合はどうなるか、いまいち確証は持てなかったが――この距離ならば効果範囲内である様だ。
「全体的に動きが変わった、これも先生の指示かな? 壁や遮蔽に身を隠せば安全、何て先生が考える筈は無いと思うけれど――もしかして夜に動いたのは私対策?」
先生が敵方に付いているのだ、C&Cが動くと分かっている以上、狙撃手である自分が出て来るという予測は出来た筈。そう考えればある程度対策も練っているだろう。
本来であれば此処で釘付けにし時間を稼ぐつもりであったが、大胆にもゲーム開発部は足を止める様子がない。彼女達の動きを予測しながらカリンは薄らと笑みを浮かべる。室内で姿が見えなければ狙撃されないというのは、少々早とちりだろう。C&Cの狙撃手として、夜間だろうが壁越しに撃ち抜くだけの技量はある。
再度コッキングする金属音が夜の中に響いた。
「ふふっ、先生――悪いけれど、暗闇の中でさえ私の狙撃は正確だ」
呟き、今しがた逃げ込んだ部屋の壁に照準を合わせる。
目的地が分かっている以上、進行ルートは凡そ予想出来る。等間隔で弾を撃ち込み反応を見るか、万が一にも先生に着弾しないよう慎重になる必要はあるが、追い詰められているのはゲーム開発部の方だ。
この状況からいつまで逃げ続けられるか――。
「さて、それはどうかな」
「――!?」
唐突に聞こえた自身以外の声――その事に驚愕を露にするカリン。慌てて振り返れば、何者かが屋上の縁に立っていた。続いて聞こえる空転音、それが重火器のスピンアップであると理解した瞬間、カリンは横合いへと身を投げる。
次の瞬間放たれる弾丸の雨、屋上の一角を削り取るそれに戦慄しながらカリンは人影に向かって叫ぶ。
「どうやって此処に!? 屋上に通じる階段とエレベーターには細工を――ッ!」
「何、簡単な事だ、外周の壁を登って来たんだよ――この子と一緒にね」
狙撃手として敵の接近には十二分に注意を払っていた。だというのに目の前の存在は階段もエレベーターも用いず、垂直に壁を登って屋上に辿り着いたと云う。カリンの前に足を進めた人影――ウタハは薄らとした笑みを浮かべながら胸を張る。
「エンジニア部……!」
「ふふっ、紹介しよう、エンジニア部の力作、全ての天候に対応可能な上、垂直の壁すら歩いて登る二足歩行型戦闘用椅子、『雷の玉座』――通称、雷ちゃんだ」
「……は?」
彼女の紹介と共に、テコテコと音がしそうな程軽やかに前進する――砲台付きの椅子。ご丁寧に上部には搭乗者を固定する用のベルトすら垣間見え、カリンは暫しの間言葉を失う。その理由は単純に、何故椅子を歩かせているのか理解出来なかったからだ。
その反応から凡そ何を考えているのか理解したのだろう、ウタハは酷く残念そうに肩を竦める。
「ふむ、この雷ちゃんの魅力を理解して貰えないとは、大変残念だ……先生は満面の笑みで褒めてくれたと云うのに」
「……作品について理解は出来ないが、凡そ把握は出来た」
彼女の持ち込んだ兵器云々に関しては兎も角、カリンが疑念に思っていた事の一つがこの場で氷解する。
「――ゲーム開発部単独でミレニアム生徒会、セミナーのセキュリティを突破する事は考え辛い、先生の手によるものかとも疑ったけれど、エンジニア部が出てくるのなら答えは明白だ」
「おや、もしかして私達の協力を見越していたのかい?」
「可能性としては、考えていた」
こうなるとヒマリが齎したという情報も、自分達を混乱させる為の罠だったのか、疑わしいものだ。
答えながらカリンはゆっくりと立ち上がる。愛銃を抱えながら脱力する彼女からは、いっそ不自然なほど攻撃の意志が見えない。
「けれど――ッ!」
「むっ!?」
しかし、それは彼女なりのフェイントである。
下げていた銃口を即座に構え、前傾姿勢からの速射。強烈な反動を驚異的な筋力で抑え込み、強烈なマズルフラッシュが二人を照らす。放たれた弾丸は真っ直ぐウタハの隣に立つ雷の玉座へと突き刺さった。甲高い破砕音と共に火花が散り、ぐらりと傾いた巨躯が後方へと転がり倒れる。重々しい音と共にひっくり返った雷の玉座は、そのまま起き上がろうと足を何度も回転させ続けた。
その結果を見届け、カリンは鼻を鳴らしながら素早くコッキングを行う。
「――私の弾頭で貫通を許さないとは、随分と頑丈な装甲を使っている……転んだ拍子に足をバタバタさせているのは、何とも奇妙だけれど」
「むぅ、これもこれでチャームポイントではあるのだけれど、しかし参ったな、一発で横転してしまうとは、重心制御が甘かったか、それとも静歩行の方かな? 弾丸の着弾に合わせて加速度センサーがきちんと検知したか後できちんと確認しないとだね、通常のライフル程度なら実際に強度実験で試したけれど、対物ライフルまでは想定していなかった、これは私の失態だな」
「はぁ……そもそも、私を本気で止めるつもりならば奇襲を仕掛けるべきだった、如何に狙撃手相手とは云え正面戦闘なんて――」
倒れ伏した雷の玉座を前に改善案を脳裏に浮かべるウタハ。そんな根っからの技術屋の彼女に対し、カリンは若干の呆れを含みながら告げる。
「それは計算ミスだろう、ウタハ」
「いいや、計算通りさ」
しかし、ウタハは余裕の笑みを崩さなかった。
虚勢だとカリンは断じた。
再び銃口をウタハへと突きつけながら重ねて問いかける。
「こんな開けた場所で、私と正面からぶつかる事が?」
「そうさ、こんな開けた場所――屋根すらない此処で、戦う事が、だ」
何処までも飄々とした態度、それにカリンが不気味なものを感じ始めた頃。不意に風切り音が聞こえた。ハッと彼女が頭上を仰げば、星々の中を切り裂き飛来する影。咄嗟に身を逸らせば、直ぐ傍に着弾する砲弾。爆発は彼女の衣服を靡かせ、熱波が肌を焼いた。地面を転がり愛銃を抱えるカリン、広い屋上で良かったと内心で叫ぶ。そうでなければ爆風で吹き飛ばされ屋上から落下していた。
立ち上る砂塵、飛び散る破片を払いながら叫ぶ。
「ッ、砲撃、何処から――!?」
「ミレニアムタワーの反対側からさ、うちには優秀な砲撃手がいるからね」
「……曲射砲かッ!?」
夜間、それもたった一人を相手に此処までするかとカリンは驚愕する。ウタハは爆発で体勢を崩したカリンを前に、ゆっくりと腕を掲げた。
「さて、では始めよう――雷ちゃんMK-Ⅱ、駆動開始だ」
ウタハの合図と共に現れるのは複数のドローン――赤と緑のランプを点灯させ出現したそれらは、下部に何か奇妙な物体を吊り下げていた。よく見ればそれは先程倒れた雷の玉座、それの小型バージョンとも云うべき代物。ドローンによって屋上へと投下されたそれらは、通常の雷の玉座、その三分の一程度の大きさで駆動を開始する。
ウタハは足元で蠢く小型版雷の玉座を見下ろしながら、薄らと笑みを浮かべていた。
「これは元々先生……その身辺警護用に開発した子達でね、雷ちゃんを更に小型化してあらゆる場所、状況に対応できるよう改良したものだ、火力と継戦能力はかなり低下してしまったけれど頑丈さは折り紙付きだよ」
投下されたミニ雷の玉座は凡そ五台、それらが一斉に銃口をカリンに向け前進を開始する。愛銃を構え直し対峙するも、再び耳に届く風切り音。
頭上から自分を狙った砲撃が来る。カリンはウタハの狙いを理解し、思わず舌打ちを零した。正面には複数の火砲、頭上からは砲撃の雨。
「正確に降り注ぐ砲弾を回避しながら、
「くッ――!」
■
「さ、三発目が来ない……?」
「姿が見えなくなったから、出方を伺っているのかも……」
窓辺を避け、部屋を通って中央通路へと飛び出したゲーム開発部は、追撃が来ない事に疑問の声を上げる。あの大口径であれば壁ごと貫通させて来る事も可能である筈だが、予想に反して第三射が放たれる事は無かった。代わりに先生の端末が振動し、先生はエンジニア部がカリンを捉えた事を知る。
「ウタハとヒビキがカリンを捉えたらしい、今カリンは狙撃するだけの余裕が無い、今の内に進もう……!」
「流石、もう狙撃スポットを見つけたんだ……!」
「よ、良し! 今の内に一気に進むよミドリ! ユズ!」
「う、うん!」
自分達を狙う銃口はもうない、そうなれば慎重に進む必要もなく、モモイ達は一直線に差押品保管所へと駆け出す。残りのシャッターを解除し、最後の一枚を目視した瞬間――彼女達の足元に強烈な振動と爆音が届く。
「ちょ、うわッ!? 今度は何!?」
「せ、先生!」
「っ、大丈夫……!」
かなり大きな揺れにより思わず床へと這い蹲る面々。ユズが先生を庇う様に覆い被さり、忙しなく周囲を見渡す。
「今の何、ば、爆発!?」
「一体、何処から……」
「結構近かったと思う、た、多分だけれど、下の階かも……」
「下って、まさか――」
■
【第十九話】
「くぅ、講義はまだ、終わって……!?」
「ひーっ! し、死ぬかと思った!」
同時刻――ゲーム開発部階下、セクションA11にて。
強烈な爆発に巻き込まれたマキとコトリは煤けた制服をそのままに尻餅をつく。先の爆発はセクション内に閉じ込められたアカネが爆薬を用いて、強引にシャッターを爆破した際に生じたものであった。マキは漂う白煙を手で払いながら冷汗を滲ませ叫ぶ。
「一体そんな大量の爆弾、何処に隠していたのさ……!?」
「出来るメイドの嗜みです、本来であれば余り学校の設備を破壊したくは無いのですが――やむを得ません」
そう云ってアカネは大量の爆発物が詰められた長方形のトランクケースを勢い良く閉じる。彼女のC&C制服――メイド服には様々な武装が秘密裏に仕込まれているが、それは咄嗟の対応が可能な様に常備している通常兵装に過ぎない。
彼女の真骨頂は『掃除』、爆薬を用いた一切合切の掃討、それこそがアカネの本領である。そして愛銃とは別の、常に持ち歩く長方形の大きなケースこそが彼女の仕事道具が収められた代物であった。
「ユウカ、申し訳ありませんがシャッターは強引に爆破しました、このまま対象の追跡に移行します、ゲーム開発部の現在位置は?」
『さっきまでカリンが捕捉していたけれど、どうやらエンジニア部と交戦になったみたい、正確な位置はロスト――でもガードロボットの反応消失地点から、最後に確認された位置を割り出せるわ、今送信する』
「ありがとうございます、しかしどの様なルートを選ぶにしろ、恐らく最終目標は――」
『差押品保管所ね』
二人の声が合わさり、頷き合う。アカネとユウカの認識は一致していた。彼女達が最終的に目立つ場所は差押品保管所、鏡が其処に保管されている以上選択肢はない。アカネはケースを手に取ると靴音を鳴らしながら抉れ、爆破されたシャッターを潜る。
「エレベーターで現地に急行します、準備を……」
そこまで口にして、周囲の明かりが一斉に落ちた。唐突なそれに面食らうアカネ。
「停電!?」
『一体何が――……』
「っ、ユウカ、ユウカ!?」
同時に通信状態の悪化、ノイズが走りユウカの声が途切れる。それによりアカネはこの停電が意図的に引き起こされたものだと悟った。ユウカ以外の面々、C&Cの仲間へと通信を試みるも耳元から響くのはノイズばかり。
――通信妨害に停電、何て大規模な。
「くっ、まさかここまでするとは……!」
■
「あっ、電力が――」
セミナーフロア――反省部屋。
ミレニアムの中でも一等強固なセキュリティと防壁、隔離扉を持つその場所は最低限の生活環境のみが整えられた綺麗な監獄と云って良い。
そんな部屋の片隅で座り込み、只管待機を続けていたアリスは不意に部屋の明かりが落ちた事に気付いた。視界を暗視モードへと切り替え、周囲をゆっくりと見渡すアリス。そして事前に皆と話し合った計画の内容を反芻する。
「このイベントが発生したという事は……」
呟き、アリスは懐に手を差し込んで小さなメダルの様な電子機器を取り出す。何を隠そう、それこそがヴェリタスに持たされていた小型EMPである。アリスは軽い足取りで部屋を封鎖する巨大な隔離扉へと近付くと、扉脇にある操作盤へと件のEMPを貼り付けボタンを押し込む。
するとピッ、という短い電子音と共に青白い光が周囲に弾け、続いてガコンという音が隔離扉より鳴り響いた。アリスが恐る恐る扉に手を掛ければ、ゆっくりと開く隔離扉。EMPにより開錠されたのだ。
「EMP作動、把握しました――アリス、脱出します!」
自身を遮るものがなくなったと理解したアリスは、そのまま扉を押し開けて外へと脱出を果たす。反省部屋の傍には生徒から押収した銃器や弾倉の類を保管する小部屋が並んでおり、アリスの
どうやら重量が重量なだけに、ラックなどに立て掛けるのは危険と判断された様だ。
アリスはそれを軽々しく持ち上げると、帯を肩に掛け背負い直す。その際、きちんと充電残量を確認し砲撃が可能な回数を把握しておく。単独で突撃した際は敢えて攻撃を控え、殆ど一割未満の出力でしか砲撃を行わなかった。
その為充電残量は十分――フルパワーで砲撃しても、三回は撃ち込める。
「此処からの、アリスのクエストは――」
そしてその次に自分が為すべき事を考え、アリスは暗闇の中を駆け出した。
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「電力が落ちた、って事は――!」
「う、ウタハ先輩達の仕組んだプログラムが上手く作動してくれたみたい」
「でも、さっきの爆発は一体?」
「分からない、少なくとも良い予感はしないね――今は、兎に角先を急ごう」
「わ、分かった……!」
爆発が起きたと思った瞬間、間を置かずして訪れた暗闇。停電したセクションは非常灯へと切り替わり、薄らとした灯が廊下と天井を照らすのみ。その淡い光に導かれながらゲーム開発部は最後のシャッター、その前へと辿り着く。
「こ、此処を抜ければ、あと一つのセクションで目標地点……!」
ユズが上擦った声で呟き、モモイは興奮気味に指紋認証システムへと指先を翳す。しかし、それより早くシャッターは独りでに開き、上部へと引き上げて行った。
『先生、EMPが上手く作動した、ネットワークは一時的にヴェリタスが掌握したよ』
「ハレ……!」
『でも電力復旧を遅らせるのにも限界がある、鏡を入手したら即座に撤退して、非常電源を使ったシャッターの開閉とエレベーターの作動はこっちでやるから』
「さっすが、頼りになる!」
「あ、ありがとうございます……!」
ハレからの連絡に歓声を上げるゲーム開発部。これで障害は何一つなくなった、後は目的地である差押品保管所から鏡を回収し脱出するのみ。最後の隔壁を抜け、差押品保管所のあるフロアへと踏み込む四人。
「この先が、差押品――……!」
「――お、やっと来たね!」
しかし、その目的地へと続く廊下に立ち塞がる人影があった。
非常灯に照らされた彼女は長い髪を靡かせながら愛銃のサプライズパーティーを脇に挟む。そしてゲーム開発部の前に立つと、屈託のない笑みを浮かべながらひらひらと手を振って見せた。
「遅かったね~、ずっと待っていたんだよ?」
「えっ、だ、誰……!?」
「あの制服、なんでこんな場所にC&Cが――!」
彼女の身に纏う特徴的なメイド服に、ゲーム開発部の面々はその人物がC&Cである事を察する。ゆっくりと足を進めた彼女は光の当たる場所まで顔を覗かせると、にっと笑みを深めながら口を開いた。皆の前に彼女の顔が晒される。
「ようこそゲーム開発部の皆! それにご主人様っ!」
「――アスナ」
差押品保管所の前に単独で待機していたのはC&C所属、コールサイン・ゼロワン――アスナ。
彼女は先生を見つけると花が咲いた様に笑い、今にも飛び込んできそうな様子で前傾姿勢を取り体を揺すり始める。
「もー、最近会えてなかったからずっと会いたかったんだよ~? 最近は先生も忙しいって知っているけれどさ!」
「あ、アスナ先輩、どうして此処に……っ!?」
ミドリが愕然とした様子で呟く。差押品保管所が最終目的地だとして、其処に至るまでのルートで網を張るのなら分かる。しかし彼女はセクションの隔壁閉鎖、そして停電前から此処で待機していたのだろう。そうでなければ封鎖が完了した今、この場所に立っている筈がない。シャッターを強引に爆破して此処に来た? いいや、そんな音も振動も全く感じなかった。
ゲーム開発部が必ず此処に辿り着くと、そう確信していなければ出来ない行動だ。
ミドリからの問い掛けに顎先へと指先を添わせたアスナは、どこか飄々とした態度で答える。
「どうしてって、ん~……何となく?」
「何で何となくで最善を引き当てられるのさ!?」
「予感とか直感とか、そういうのってあるじゃない? 此処で待っていたら先生に会えそうな気がして、ずっと待っていたの!」
「なにそれ、つまり先生のせいじゃん!」
「えっ、私?」
「ち、違うと思うけれど……」
モモイの責任転嫁とも云える声に困惑するユズ。しかし、強ち間違った言葉でもないと先生は内心で零した。元よりアスナの隔離、攪乱はユズが担当する筈であったのだ。
アカネにはマキとコトリ。
カリンにはウタハとヒビキ。
そしてアスナにはユズを。
しかし、アスナの驚異的な直感を知る先生は敢えて彼女をマークしないという選択肢を彼女達に提示したのである。
果たして、その選択は正しかったのか、間違っていたのか――アスナはこうしてゲーム開発部の前に立ち塞がった。マークしていたとしても直感で躱されたかもしれないし、上手く騙されてくれたかもしれない。それはアスナにしか分からない。
「よーしっ! それじゃあ、始めよっか!」
「えっ、始める……?」
「始めるって、一体……何を?」
「何って――戦闘っ! 私、戦うのが大好きだから!」
恐る恐る問いかけるモモイとミドリ。いっそ清々しいまでに素直な彼女は、腕の中に抱えた銃を掲げながら叫ぶ。その言葉にゲーム開発部の面々はさっと顔色を青くし、反射的に身構えた。
「あっ、ご主人様には絶対当てないようにするから安心してね! でも念の為、後ろの遮蔽に隠れてくれると嬉しいなっ!」
「………」
何て事ないとばかりに告げるアスナ、先生は視線で周囲を探り脇に支柱が在る事を確認する。ゲーム開発部の三人は顔を見合わせると、先生に向けておずおずと進言した。
「先生、ここは一応云われた通りにした方が良いかも……」
「アスナ先輩相手だと、多分三人掛かりでも、勝てると断言は……」
「い、一応、頑張っては、みますから……!」
「――分かった、戦闘支援は任せて」
何処となく自信なさげな三人に、先生は力強く頷いて見せる。相手はC&Cの実質ナンバー2、リーダーであるネルと同じ三年生である彼女は驚異的な戦闘能力を秘めている。只ですら手強いC&Cの中でも更に強敵、自然と体も強張るというもの。
先生はシッテムの箱を操作しモモイ、ミドリ、ユズの三名とリンクする。それを確認したアスナは破顔し、二度、三度ステップを踏みながら――ゲーム開発部に向け勢い良く飛び出すのだった。
「準備オッケー? なら――コールサイン・ゼロワン、アスナ! いっくよーッ!」