ブルーアーカイブを、もう一度。   作:トクサン

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誤字脱字報告、ありがとうございますわ!
今日は約六千字ですの。


レトロチック・ロマン⑧

 

【第二十一話】

 

「だ、大丈夫ですか、アスナ先輩!?」

 

 壁越しに放たれた光の剣――スーパーノヴァの砲撃。

 その発射に直前で気付いたアスナはユウカとアカネの両名を突き飛ばし射線上から退避させた。しかし彼女自身は攻撃を避ける事が叶わなかった。砲撃の直撃を受けた彼女は十数メートル程吹き飛ばされ、廊下の片隅に転がる。煤け、焼け焦げたメイド服をそのままに床へと大の字になって倒れるアスナは、蒸気を吹き上げる自身の身体を見下ろしながら、しかし笑みを絶やさない。

 アカネが慌てて彼女の傍に駆け寄れば、アスナは視線だけ動かして云った。

 

「あははっ、大丈夫じゃないよ~! 思いっきり当たっちゃった! なにこれ、めっちゃ痛い、頭の天辺からつま先まで一ミリも動かしたくない!」

「……声だけ聞くと、大丈夫そうですね」

 

 けらけらと笑って自身の状態を告げる彼女に、アカネは思わず引き攣った笑みを零す。外見は酷いものだし、到底大丈夫には見えないが、当の本人は楽し気にさえ見える。ユウカは暫し砲撃の余波に呆然としていたが、自身の傍に募っていたガードロボットが軒並み消滅している事に気付き慌てて立ち上がった。

 

「アスナ先輩とガードロボットが殆ど一撃で……! 何よ、あの火力!?」

「エンジニア部の兵装、噂には聞いていましたが何てピーキーな――」

 

 二人の視線が今しがた合流したアリス、その両手に掴んだ光の剣へと向けられる。凄まじく大きな火砲、そしてそれに見合うだけの攻撃範囲と火力を持っている。先程先生が口にした通り――分かっていても回避が難しい広大な攻撃範囲、防御を固めても諸共沈める火力、直撃すればC&Cですら戦闘不能になってしまう威力は驚異的だ。

 こんな代物がそうポンポン作られる筈も無し、エンジニア部の技術力は相変わらず凄まじいものがある。

 

「皆、ありがとう、助かったよ」

「い、いえ……」

「それより、アリス! 何で此処に居るのさ!?」

「あ、アリスちゃん、差押品保管所に向かったんじゃ――」

 

 先生を飛び散る瓦礫片より守ったゲーム開発部は、駆け寄って来るアリスに疑問をぶつける。ヴェリタスの部室にて事前に練り上げた計画では、此処でアリス以外の三名が盛大に注意を引き、その間に彼女が秘密裏に反省部屋を脱出、鏡を確保するというものだった。

 しかし、どういう訳か彼女はこの場に居る。アリスは皆の疑問は尤もだと頷くと、ゆっくりと口を開いた。

 

「はい、当初の計画ではその様に予定されていました――でも」

 

 光の剣を持ち上げ、真剣な表情を浮かべた彼女は力強く告げる。

 

「先生と二人で話し合って、此処に合流すると決めたんです」

「先生と……?」

「はいっ!」

 

 三人の視線が先生に向く。彼は地面に座り込んだまま意味深に微笑んで見せた。これは決して先生だけの判断ではない、アリスの願望――信念によって選択された道だった。

 ゲーム開発部を庇う様に前へと足を進めたアリスは、ユウカとアカネ、その遥か向こうにいるカリンに挑む様にして身構える。

 

「アリスは沢山のゲームをプレイして、そこから学びました、『ファイナルファンタジア』、『ドラゴンテスト』、『トールズ・オブ・フェイト』、『竜騎伝統』、『英雄神話』、『アイズエターナル』――そして、『テイルズ・サガ・クロニクル』」

 

 アリスが廃墟から連れて来られ、ゲーム開発部の一員として過ごした日々。それは決して長くはない、人生全体からすればほんの刹那と云い換えても良いだろう。

 しかし、その間にプレイした数々のゲーム、世界、物語は彼女に途轍もなく大きな成長と学びを齎した。

 アリスは自身の指先で天を指し、自信満々に叫ぶ。

 星々の明かりが、彼女の姿を照らしていた。

 

「どんなゲームでも、どんな物語でも、主人公たちは試練に見舞われ、苦悩し、苦境に立たされて――けれど決して、仲間の事を諦めたりしませんでした!」

「あ、アリス……」

「だからアリスもそうします! どんな試練も、困難も、皆で一緒なら、仲間と一緒なら、絶対に突破出来るんです!」

 

 困難に立ち向かう時、勇者の傍には必ず仲間がいる。

 そして仲間と共に強敵へと立ち向かう時、彼ら、彼女らは常の何倍も、何十倍も強いのだ。

 アリスは信じている、心の底から信じている。

 どんなに辛く苦しい戦いでも、自分達の未来には必ず最後にハッピーエンドが待っていると。

 

 だって――。

 

「だってアリスは――勇者(主人公)ですからッ!」

 

 その光り輝く瞳には一切の翳りが無く、不安も、恐怖も、絶望も無い。どんなに不利な状況であっても、どんなに希望が見えない戦いでも、彼女は勇気を胸に立ち上がる。

 

 何故なら――それ(勇気)こそが勇者の第一条件だからだ。

 

「……アリスちゃん」

「――………」

 

 アリスの小さな、けれど大きな背中を見つめるゲーム開発部は一瞬声を失う。そこに込められた感情は、竦んだ体を奮い立たせるには十分な熱を持っていた。

 

「――うん、その通りだよ……!」

 

 アリスの背後から、立ち上がる一つの影。

 

「そうだよね、結局此処で諦めたらミレニアム・プライスには出展出来ない、部室もなくなっちゃう、それなら……最後の最後、本当の限界ギリギリまで、絶対に諦めてなんてあげないっ!」

「お姉ちゃん……」

「も、モモイ」

 

 最初に応えたのは、モモイだった。地面に放られていた愛銃を拾い直し、銃撃によって穴の開いた制服をそのままに立ち上がる。そんな彼女の姿を見上げるユズとミドリは、互いに顔を見つめ合い、力強く頷いた。

 

「そうだよね、どんなゲームだって主人公たちが諦めちゃったら、そこで物語は終わっちゃうもん……! まだ、終わらせなんかしない……!」

「う、うん、そうだね……それなら、最後まで――!」

 

 ユズとミドリの二人もまた立ち上がり、肩を寄せ合って愛銃を抱える。此処で諦めてしまえば大切なものが失われてしまう。なら我武者羅に、頑張って頑張って、最後の最後まで足掻いてからでも遅くない。

 まだ終わってなんかいない――まだ諦める訳にはいかない。

 先頭に立つアリス、その隣に足を進めたモモイが振り向き、最後に先生を見た。

 

「先生……っ!」

「――あぁ」

 

 先生は彼女から向けられる真剣な瞳に、その声に力強く頷く。

 

 ――応えるとも、その声に。

 

「行こうッ! ゲーム開発部っ!」

「おーッ!」

 

 先生がシッテムの箱を掲げ、一際強い光が彼女達を包み込む。互いの繋がりはより深く、強く結ばれ、彼女達のヘイローが輝きを増した。暗闇の中で煌々と光るそれを見たユウカは思わず怯み、アカネは表情を厳しく変化させる。

 

「っ、ガードロボットは大半が吹き飛ばされて機能停止しちゃっているし、向こうには先生が居るし、これはちょっと――!」

「カリン、聞こえますか? アリスちゃんが反省部屋を脱出して合流しました、此方はこのまま戦闘を開始します、火力支援を……」

 

 アリスの一撃によって、セミナー側の戦力は大きく削られた。何よりC&Cに於ける一大戦力のアスナが戦闘不能になった事は大きい。故に此処はカリンの狙撃で頭を押さえ、大火力を持つアリスを早急に倒す他ない。

 そう判断し、カリンへと火力支援を要請するアカネであったが。

 

「カリン、カリン? 応答を――!?」

 

 ■

 

「あの子がアリスか、途轍もない火力だな、セクションの一角が丸々吹き飛んでしまっている」

 

 遠方ビル屋上よりミレニアムタワーを注視していたカリンは、アリスの放った一撃を見て感嘆の声を上げた。アリスの砲撃は最上階フロアの一角を完全に消し飛ばし、ビルに風穴を空けている。恐らく直撃を許せばどんな生徒であれ戦闘不能、余程頑強な肉体を持っていなければ動く事すら儘ならなくなるだろう。

 

「しかし、この距離ならば――」

「そうだ、一つ云っておこう」

「……?」

 

 早速とばかりにアリスを狙撃しようと動き出すカリンに、圧し掛かられたウタハが声を掛けた。彼女はうつ伏せに倒れたままカリンを見上げ、淡々とした口調で告げる。

 

「私の後輩は大事な先輩に爆撃を当てたりしない、心優しい後輩で合っているとも、しかし同時にエンジニアという存在は不測の事態を良く妄想……もとい考える存在でもあってね」

「……何が云いたい?」

「特に私の後輩は物凄く賢いんだ、この状況を予測して、備えを怠らない程度には」

 

 迂遠な云い方、或いは意味深な言葉の羅列。カリンは言葉を咀嚼し呑み込むと同時に、徐々に目を見開く。

 

 夜空の向こう側から音が聞こえていた。

 風を切る様な――砲弾が飛来する音だ。

 

「―――」

「こんな台詞を、まさか此処で口に出来るとは思ってもいなかったが……さて」

 

 咄嗟にカリンが頭上を見上げた時、夜に溶け込む様にして砲弾は直ぐ傍にまで迫っていた。まさか、先輩諸共自分を爆破するつもりかと驚愕し、一瞬行動が遅れる。驚愕は肉体にも現れた、訓練した彼女の身体は砲撃から逃れようと腰を浮かす。

 その瞬間を逃さずウタハはカリンの下から素早く逃れ、渾身の笑みを浮かべながら叫んだ。

 

「――こんな事もあろうかと、だ!」

「なッ!?」

 

 爆破――炸裂。

 ヒビキが迫撃砲より撃ち出したものは爆発を引き起こす榴弾ではなく、閃光弾。夜空の中で炸裂したそれは一等目立ち、空を見上げていたカリンの網膜を焼いた。

 苦悶の声を上げながら顔を背け蹈鞴を踏むカリン、同時に地面に着弾する第二、第三射。それは周囲に白煙を撒き散らし、ビルの屋上を白く染め上げる。高所である為効果は短いが、僅かな間視線を遮れるのならば十分。涙目になったカリンは、自身の周囲を覆う白に思わず叫ぶ。

 

「閃光弾ッ――それに、煙幕(スモーク)か!」

「その通り、そして万が一に備え第二プランも用意してあるとも!」

 

 素早くカリンより距離を取ったウタハは、最初の一撃で横転していた雷の玉座へと近付くと、転倒していた機体を一気に押し起こす。そして表面に手を這わせ致命的な損傷がない事を確認すると、薄らと笑みを浮かべた。

 

「機械の真善美は合理的で、精密で、そして簡易である事――流石雷ちゃん、頑丈な子だ」

 

 ドローンに輸送させた小型の雷ちゃんは全て破壊されてしまったが、一等頑丈なこの子は難を逃れた。表面装甲はべっこりと凹んでしまっているが電源も入るし攻撃も可能、歩行に問題はない――パーフェクトだ。

 

「雷の玉座、戦闘モード再起動!」

「……っ!」

「――プロトコル【情熱と浪漫】(合理を超えた先)!」

 

 ウタハの声と共に雷の玉座が再起動し、項垂れていた銃身がゆっくりと上を向く。同時に白煙を掻き分けたカリンが彼女の行動に気付き、素早く愛銃を構え直した。

 

「何度起き上がろうとも……所詮はっ!」

「あぁ、そうだ、知っているかい? これは私の矜持、持論の様なものなのだけれど」

 

 ウタハの口上を無視し、カリンは即座に発砲する。重々しい銃声が鳴り響き、白煙の中でマズルフラッシュが瞬いた。弾丸は真っ直ぐ雷の玉座へと直進し、その銃身へと着弾する。大口径のソレはバレルを貫通し、そのまま上部装甲をも内部より吹き飛ばす。これで銃身は使い物にならない、発砲は不可能だ。

 カリンは自身の勝利を確信していた。

 しかし――ウタハは笑みを消す事無く告げる。

 

「――自爆機能のないロボットなんて、ただの鉄くずだと思わないかい?」

「―――」

 

 雷の玉座は止まらない。

 元より銃撃する意思など無かった、雷の玉座は通常の五倍以上の回転速度で足を回しカリンの元へと急接近する。その動きは余りにもコミカルであったが、やられた側からすればたまったものではない。両足を生やした砲塔付き椅子が凄まじい速度で迫って来るのだから然もありなん。

 カリンは思わず顔を引きつらせ、次弾装填のコッキングすら忘れ悲鳴を上げた。

 何より、今のウタハの口ぶりからして、コレの次の行動は。

 

「ばッ――!?」

 

 その声が最後まで届く事は無く、雷の玉座は跳躍する。カリンの目前へと迫った雷の玉座より――ピッ、という短い電子音が鳴り響いた。

 そして。

 

「――これがミレニアムの猛獣だ」

 

 プロトコル【情熱と浪漫】(合理を超えた先)とは、つまり――自爆である。

 

 凄まじい爆発が巻き起こり、周囲を覆っていた白煙が全て吹き飛ばされる。ウタハは爆発の瞬間に地面へと伏せ、自身の全身を押し出す様な熱波に唇を噛んで耐えた。そして程なく訪れる静寂。彼女が再び顔を上げた時、屋上には焼け焦げ抉れた床と飛び散った火の粉、コンクリートを舐める小火が見えた。

 

 跡形もなく消し飛んだ雷の玉座、しかしその成果は明確で――爆発の中心点には愛銃を抱きかかえたまま苦悶の表情で転がるカリンの姿があった。爆発をもろに受けた影響か肌は所々傷付き、制服も酷い有様だ。

 ウタハは自身の衣服に付着した火の粉と煤を払い、外套を靡かせ告げる。

 

エンジニア部(私達)の技術力と熱情――確りと感じただろう?」

 

 ■

 

「カリン、応答を――ッ!」

 

 インカムに向けて声を荒げるアカネ。しかしそんな彼女の耳に届く爆発音、音に釣られて振り向けば闇夜の中で煌めく炎が視界に見える。粉砕された壁の向こうに散るそれが、カリンの狙撃地点である事をアカネは知っている。

 

 ――まさか、カリンが倒されたのか。

 

 彼女の実力を知っているからこそ、アカネの動揺は大きく深い。耳元から走るノイズに思わず唇を噛み、警戒を数段高める。

 

「くっ、そんな……!」

「あはは、面白くなってきたね! けれどまだ身体がビクンビクンして、まともに立てないや!」

 

 一気に傾いた形勢、それを面白おかしく思っているアスナは相変わらず楽し気だ。傍から見ると到底あの砲撃を受けた後には思えないが、その負傷は真実である。

 

「先生、指揮を!」

「任せて――行くよ、皆!」

「うんっ!」

「は、はい!」

「が、頑張ります……!」

 

 先生の声を合図にモモイ、アリスが先陣を切って駆け出し、その後ろにミドリ、ユズが続く。その表情に怯懦はなく、何処までも強い意志を感じさせる瞳がある。一気に攻勢をかけて来たゲーム開発部に対し、ユウカは周囲の残った少ないドローンを動員し迎え撃つ姿勢を見せた。

 

「アカネ、来るわよ!」

「っ、仕方ありません、アスナ先輩は出来るだけ後ろに退避をっ! ユウカ、援護をお願いします!」

「分かったわ、任せて――ッ!」

 

 ユウカは周囲のロボットに指示を出し、持ち込んでいた二挺の愛銃――ロジック&リーズンを抜き放つ。まさかこれを抜く羽目になるとは思っていなかったが、しかし現にゲーム開発部は数多の困難を打破し此処に辿り着いた。

 だからこそ彼女も一切の手加減なく、真剣な面持ちでゲーム開発部と対峙する。

 

「ご主人様と手合わせするのは不本意且つ心が痛みますが、これもまたC&Cとしての務め――大丈夫です、落ち込んだご主人様を慰め癒すのもメイドの本懐ですので」

 

 サイレントソリューションを片手に、アカネは巨大なトランクケースを地面に降ろす。ズン、と音が鳴りそうな程力強く設置されたそれは、即座に内部を晒し幾つもの爆弾が顔を覗かせていた。

 目元の眼鏡を指先で押し上げ、彼女は告げる。

 

「――さて、お掃除を始めましょう」

 

 C&Cの一員として、その名に傷を付けない為に。

 

「C&C所属、コールサイン・ゼロスリー――アカネ、参ります!」

 


 

 恰好の良いメイドさんは最高でしてよ?

 毎日投稿八日目、間に合わないかもと思いましたが存外なんとかなりましたわ。

 でも明日こそ間に合わないかもしれませんわ。

 まぁその時は文字数増えるだけですの。

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