今回は一万一千字ですの。
【第二十三話】
「皆、散開――ッ!」
先生が叫び、ゲーム開発部の全員が広く距離を取って遮蔽に滑り込む。前衛をモモイとユズ、後衛をミドリとアリスとして展開し、アリスのスーパーノヴァによる一撃必殺を狙う構え。互いに距離を取ったのはアカネの爆発物を警戒しての事だった、C&Cに於いて爆発物のスペシャリストとして知られる彼女は、あらゆる爆弾に精通している。彼女が常に持ち歩くトランクケース、それに警戒を向けながら先生は常に視野を広く持つ。
「制圧射撃――!」
「りょーかいっ!」
「はい……!」
アリスの光の剣、スーパーノヴァのチャージ時間を稼ぐ為にユズ、ミドリ、モモイの三名に対し積極的に銃撃を指示。視界に映ったそれに反応した三名は遮蔽より半身を覗かせ、即座に銃撃を加える。
「させないわよッ!」
飛来する弾丸に対しユウカはガードロボットに指示、装甲の最も厚い前面部分で受け、ユズのグレネードランチャーに対しては電磁防壁を発生させ、何とかやり過ごす。弾丸の大多数は装甲に弾かれ、電磁防壁に着弾したものは後方へと逸れる。何発かがガードロボットの関節部位に着弾し、ロボットのアームが千切れ飛ぶのが分かった。
分散したゲーム開発部を前にアカネは僅かな喜色を滲ませ告げる。
「あら、この陣形――流石ご主人様、私の事をご理解頂いている様子で大変光栄です」
「云っている場合!? 兎に角、アリスちゃんの一撃、あれをもう撃たせる訳にはいかないわっ!」
「同意見です、ですから果敢に攻めると致しましょう!」
アリスの主砲、その威力を知っているからこそ攻め手に回る判断を下したアカネ達は容赦なく攻める事を選択する。
「ご主人様、念の為頭は低く……さて、爆発のお時間です!」
告げたアカネはトランクケースからベルトの様に繋がれた爆薬を取り出し、それを鞭のように撓らせ投擲する。空中を舞うそれはゲーム開発部目掛けて投擲され、一定の距離に達した瞬間赤いランプが点灯、ベルトに繋がれていた爆弾が一斉に散布された。
「ミドリッ!」
「――!」
ミドリの視界に表示されるロックオンマーカー、自分達に被害が及ぶ可能性が高い爆弾。先生は演算によって即座に弾き出されたそれをミドリの視界に表示させる。彼女は思考を挟まず、全幅の信頼を持ってマーカーへと銃口を向ける。
銃声が轟き、空薬莢が弾き出される。マズルフラッシュと同時に放たれた弾丸は空中を舞う爆弾を一つ、二つと撃ち抜いた。そのまま背を逸らし、床に背中を付けたミドリは真上へと銃口を向け、最後の一つを撃ち抜く。
瞬間爆発が臓物を揺らし、火の粉が彼女達の衣服に降りかかる。
「っ、ちょっと、遅かった……!」
「直撃しなかっただけ十分……っ! アリス――!?」
「充填率、七十パーセント……!」
「まだですッ! ユウカ!」
「突撃!」
アリスのチャージを阻止すべく、ユウカはガードロボットを突撃させる。残った全てのロボットがゲーム開発部へと迫る、モモイが兎に角弾幕を張り、近付かせまいと奮闘するも、その勢いは止まらない。跳弾する弾丸が壁や床に穴を空け、瞬く間にモモイの弾倉は空になった。カチン、という硬質的な弾切れを知らせる音にモモイは顔を歪める。
「っ、硬いし、速いよ、このロボット……!?」
「ユズ、先頭を狙えッ!」
「――は、はいっ!」
ユズは先生の指示に従い、先頭を走るロボットに向けてグレネードランチャーを放つ。独特の発砲音と、同時に爆発。その攻撃は先頭を走っていたロボットの脚部履帯を破壊し、転倒したガードロボットが火花を散らしながら床を滑り、後続を巻き込み盛大に大破した。頭を引っ込めていたモモイは盛大な爆発に肩を竦め、ユズは齎された結果に歓声を上げる。
「や、やった……!」
「流石ユズちゃん!」
「ナイスユズ! これでもうロボットは……」
「えぇ、ロボットは打ち止めです――ですがっ!」
同時に大破したロボット、その影から飛び出すアカネ。突撃したロボットを盾に、強引に距離を詰めた彼女は手に持っていた爆弾を投擲し、空中でそれを正確に撃ち抜いた。瞬間、チャージの為に待機していたアリスに襲い掛かる爆発。特製の爆薬か何かを使っているのか、通常のそれよりも遥かに強力なそれはアリスの矮躯を吹き飛ばし、スーパーノヴァに引き摺られる形で床を転がる。
「あぐっ!?」
「あ、アリスちゃん、大丈夫!?」
「っ、損傷率十二パーセント、戦闘継続、問題ありません……!」
爆発によって煤けた制服をそのままに、アリスは立ち上がる。しかし爆発によってスーパーノヴァのチャージは中断されてしまっており、再度充填する必要があった。
「この距離であれば、チャージの時間はもう与えません!」
「さぁ、観念しなさい、此処まで接近を許したあなた達が勝てる確率は――極めて低い!」
ユウカを前衛に、後方から爆弾を次々と投擲、同時に正確な射撃を加えるアカネ。此方の攻撃はユウカの電磁防壁によってガードされ、何とかチャージを通そうとする度にアリスは被弾を重ねる。遮蔽に身を隠そうとも、炙り出す様に投擲される爆弾がそれを許さない。
「アリス、
「っ、先生からの指示を確認、防御を実行します――!」
アカネの猛攻による被弾増加を嫌った先生は、一旦チャージを諦め防御を固める方針へと固める。
巨大なスーパーノヴァは優秀な火砲でもあるが、同時に盾でもある。宇宙戦艦に搭載する予定だったレールガンというのは誇張でも何でもなく、その外装は宇宙空間での運用を視野に入れており、デブリの衝突から戦艦クラスの銃火からもある程度耐えられる様強固な装甲を施されている。
「―――」
先生は冷静に二人の動きを観察し、つぶさに隙を探る。ユウカとアカネ、いざこうしてタッグを組まれると厄介極まりない。恐らくこの面子にアスナが混じっていたら、かなり厳しい戦いを強いられていただろう。
電磁防壁と合わせて単純な耐久性で云えばミレニアム上位のユウカ、そんな彼女を盾代わりに攻撃を担当するのは歩く爆薬庫とも云うべきアカネ。相手が単独であれ、複数であれ、圧倒的な火力でゴリ押しが効く。そのアカネを仕留めるにはユウカを抜く必要があり――残念ながら今のゲーム開発部で、その火力を持つのはアリスだけである。
だからこそ彼女達は是が非でも彼女の攻撃を許さない。こうなると殆ど我慢比べに等しい。
――向こうの攻勢が息切れするか、此方の体力が先に尽きるか。
「……!」
そんな先生のタブレットから通知音が鳴った。咄嗟に視線をタブレットに落とせば、送信主はヴェリタス部室にて電子支援を務めるハレ。表示されているのはフロアマップ、そして特定のポイントに表示されるピン。先生は彼女の意図を理解し、同時に幾つかの要素を検討する。
現在のユウカ、アカネの装備、これまでの行動、辿って来たルート、この戦闘で使用した弾薬、爆発物。それらを脳裏に思い浮かべ、決断を済ませた先生はゲーム開発部全員の視界に指示を送信する。
「っ……!」
「これは――」
「え、っと……」
「――なるほど、引き撃ちですね!」
先生からの指示を確認した彼女達は各々の反応を見せ、アリスは一等早く指示に従う。内容は一時後退、アリスと自身を先頭としてユズ、ミドリ、モモイが後退支援を行うというもの。
アリスはその指示を目視すると同時、素早く踵を返し叫ぶ。
「アリス、後方へ撤退します!」
「えっ!?」
「ユズ、ミドリ!」
「う、うん!」
「分かった……!」
唐突に駆け出したアリス、同時に先生もアリスと同じタイミングで後退を開始。それを見たユズ、モモイ、ミドリはユウカとアカネに射撃を加えつつ同じように後方へと下がっていく。
その動きを見たアカネ、ユウカの両名は疑念に満ちた表情を浮かべる。
「差押品管理所はこの奥の筈、何故距離を取る様な真似を――?」
「もしかして、下がってチャージの時間を稼ぐ算段!? もしそうなら、追うわよアカネ!」
「……分かりました」
何か引っ掛かるものがあるが、そのまま見送るという選択肢はない。急ぎ後退したゲーム開発部を追い駆けるユウカとアカネ。二人が追って来る事を確認した先生はより足を速め、ゲーム開発部を引き連れ一つ前のセクションへと飛び込む。
戦闘痕の無い真新しいフロアへと踏み込むゲーム開発部、その背後からアカネ達が迫る。
「待ちなさいっ! どこまで走ったって、絶対に逃がさな――ッ」
「モモイ、今だッ!」
恐ろしい表情で迫るユウカを視界に収めつつ、二人があと十数メートルという距離まで迫った所で先生が叫ぶ。ハッとアカネが気付いた時には既に遅く、壁に備え付けられた認証装置に手を翳すモモイの姿。
同時に電子音が鳴り響き、ゲーム開発部とアカネ達を遮る様にシャッターが降りた。シャッターは重々しい音を立てて視界を遮り、二人の行く手を阻む。
「なっ、これは――ッ!」
「
セクションの防犯システム。それの頑丈さをセミナーであるユウカは知識として、アカネは実体験として知っている。電子音を搔き鳴らしながら続々と降りて来るシャッターはセクション全体を封鎖する、ゲーム開発部が進むために開放していたそれらが再び二人の進路を塞ぎ、瞬く間に通路は行き場を失くした。
「まさか私達をこのセクションに誘い込んだのは、こうやって閉じ込めるつもりで!?」
「くっ、ならば爆破してでも――!」
目前を塞ぐシャッターを睨み付けながら、アカネは担いでいたトランクケースを地面に接地させる。そして収納していた爆薬を取り出そうとして――。
「……!」
しかし彼女の手が新しい爆薬を取る事は無かった。内部に並んでいた爆薬、限界一杯まで詰め込んでいた筈の場薬は、しかしその数を大きく減らしていたのだ。
――やられた。
それを見た瞬間、アカネは内心で呟く。合流する為に爆破したシャッターは複数、先の戦闘を含めアカネが所有する爆弾は自身の制服に仕込んでいたものと、このケース内部のもののみ。特にアリスのチャージを阻止する為に、出し惜しむ様な真似は出来なかった為、先の戦闘で使用した爆薬も少なくない。
――手持ちの爆薬で、シャッターを吹き飛ばせるだけの威力は出せない。爆発物のスペシャリストとして、アカネは確信を持って云えた。
まさか先生は此処に来るまでに使用した爆薬、その量すら計算していたのか? 或いはこちらの手札が少ない事を見越してコレを仕掛けて来たのか。どちらにせよ、完全にしてやられた形になる。アカネはケースに伸ばした手を引っ込め、感嘆とも呆れとも取れる吐息を零した。
「アカネ! これ、どうにかして開けられないの!?」
「……手持ちの火力でどうにかするのは、難しいですね」
閉ざされた隔壁を前に声を荒げるユウカに対し、アカネは穏やかな口調で答える。こうなってしまえば内側からどうにかする手段はない、外部から権限を持った役員の救助が来るのを待つ他なかった。
「……全く、C&Cとして失態ですね」
■
【第二十四話】
「ひぃ、ふぅ、も、もう追って来ないよね!?」
「た、多分、シャッターは閉じちゃったし……!」
「追撃は確認出来ていません、アリス達の戦術的勝利です!」
「ぜっ、はっ、も、もう、走れ、ない、かも……」
アカネとユウカ、二人をセクションに閉じ込める事に成功したゲーム開発部は、迂回する様に隣り合うセクションを通過し差押品管理所を目指し駆けていた。
作戦が開始されてからずっと走りっぱなしのモモイ、ユズ、ミドリの三名は額に汗を掻き、強い疲労感を滲ませている。それは先生も同じだが、普段から騒動に巻き込まれ文字通り駆け回っている先生には僅かだが余裕が見えた。尤も、それはほんの僅かな差に過ぎないが。
普段室内でばかり過ごしているゲーム開発部と比べれば、多少体力面では勝っているらしい。アビドスの一件以来、定期的にシロコと運動を続けているのも要因の一つだろう。
「あ、あれだけ啖呵切っておいて逃げるのも、何だか申し訳ない気もするけれど……」
「何も彼女達を完全に倒す必要はないんだ、私達の目的は鏡の奪取だからね……!」
「そうそう、別に良いんだよ! 失敗したら部室が無くなっちゃうんだし、手段は選んでいられないもん!」
勢い良く先頭を駆けるモモイは疲労を滲ませながら、しかし満足げな笑みを浮かべ告げる。そのまま幾つかのシャッターを開き、差押品管理所のあるセクションへと辿り着くゲーム開発部。円型の重厚な扉に守られたその場所に辿り着いた一行は歓声を上げ、扉の前へと足を進めた。
「っと、あった! 差押品管理所! 此処で良いんだよね!?」
「う、うん、あっている筈――えっと、ロックは……?」
「確かシャッターの解除と同じシステムだから、私達の指紋と虹彩で大丈夫だっと思う」
「おっけ~!」
ミドリの言葉にモモイは認証装置へと手を近付ける。指紋と虹彩によってロックを解除した瞬間、重々しい音を立てて扉が開き内部を晒す。
意気揚々と内部へ踏み込んだ彼女達の視界に、ずらりと並んだ差押品の数々。差押品管理所は予想以上に物が多く、何か良く分からない小さなパーツから、身の丈を超えるロボットまで、ミレニアム内部で押収されたありとあらゆるものが詰め込まれていた。
「うわ、思った以上に物が多い……!」
「見て下さい、おっきなロボットもあります! まだ動くのでしょうか?」
「この中から探すの、結構大変そう……あ、アリスちゃん、下手に触っちゃ駄目だよ」
「う、ううん、確かヴェリタス関連のものは、纏めて置いてあるって――」
「ヴェリタスの保管棚はこっちだよ、皆」
薄暗い室内で右往左往する彼女達に対し、先生は部屋の片隅を指し示す。先生が指差した方向には、ヴェリタス専用の棚が設けられており、様々な物品に溢れかえっていた。
「あっ、これ全部ヴェリタスの差押品なんだ」
「す、凄く、多いね?」
「何か、大半はメモリーカードとか、USBとか、保存媒体っぽいけれど……」
「この中から鏡を探せば良いんですね? 宝探しクエストです!」
押収品に溢れたヴェリタス専用の棚、そこに足を進めたゲーム開発部の面々はアレでもない、コレでもないと鏡の捜索を開始する。
「えっと、この変な機械は違う、こっちも……」
「これは? 何か小型マイクっぽいけれど」
「そ、それは多分、コタマ先輩の――」
「何々、『先生の私生活ファイル 115』……」
「えっ、何、もしかして先生のお宝映像?」
「お姉ちゃん……」
「あわわっ」
「お宝ですか!? アリスも欲しいですっ!」
「……それは戻しておこうね」
途中色々と見たくないものを目にしてしまったが、それはそれとして鏡を探して棚を漁るゲーム開発部。そしてふと、アリスが掴んだ物品を掲げながら告げた。
「あ、もしかしてコレでしょうか?」
アリスが見つけ出したそれは、ぱっと見何らかのデータ保存媒体らしいもので、ありふれたSSDの様にしか見えない。だがヴェリタスより知らされていた外見と一致する。アリスの傍に駆け寄った他の面々はソレが鏡である事を確かめ、喜色を滲ませた。
「あった、多分それだ! 聞かされていた奴と同じ!」
「じゃあ、これが鏡?」
「テテテデーン! アリスは鏡を手に入れた!」
「い、急いで戻ろう、これでヴェリタスにG.Bibleを解析して貰って……!」
アリスは手にした鏡を暫くじっと見つめ、それから先生の方へとそれを差し出す。
「これは先生が所持していて下さい! 重要アイテムは、一番戦闘不能にならない仲間に渡すのが鉄則です!」
「……分かった、私が責任を持って預かるよ」
手渡された鏡を懐に仕舞い込み、落とさないように確りと前を閉じる先生。そんな彼の端末に着信表記。振動に気付いた先生は画面をタップする。
『先生、早くそこから逃げて、いや隠れて、何としても接触する前にタワーをだsっしゅつsて』
「……ハレ?」
余程急いで入力したのか、彼女らしくないタイピングミスが目立つ。先生はそこから何かを感じ取る。
はっと顔を上げれば、廊下の向こう側から歩いて来る、誰かの足音が耳に届いた。先生は目を細め、ゲーム開発部の面々に何者かの接近を伝える。
「――皆、誰か来たみたいだ」
「えっ?」
「誰かって……生徒会の役員、でしょうか?」
ミドリとユズが顔を上げ、緊張に強張った表情を見せる。今このフロアに居る生徒と云えば、セミナーの役員かC&Cくらいなもの。モモイは此方にやって来る足音が一人分である事に気付き、自信満々に愛銃を掲げながら告げる。
「数はひとりだけ? だったらこのまま無理矢理突破して、部室に帰還しちゃお――」
「――モモイ静かに、ミュートでお願いします」
「……アリス?」
しかし、その声はアリスの無機質な声に遮られる。アリスは非常灯に照らされた廊下を歩いて来る人影を凝視しながら、真剣な面持ちで呟いた。
「接近対象を確認中、ミレニアムの生徒名簿を検索――……該当者候補一名」
アリスの瞳が煌めき、人影を拡大する。体格は小柄だ、自身と同じかそれ以下か。武装もこれと云って特徴がある訳でもなく、自身の光の剣とは比較にもならない。
しかし――肌がひりつく様な、独特な威圧感がある。
「身長百四十六センチ、ダブルSMG、メイド服の上から龍柄のスカジャン……」
「え……」
「そ、それって」
「まさか――」
アリスは辛うじて確認出来る特徴を口にする。その余りにも覚えのある格好にゲーム開発部はさっと表情を変化させる。ミレニアム内部に於いて、この特徴を持つ生徒は――ただの一人。
彼女はゲーム開発部と手前で足を止めると、影に覆われた顔をそのままに告げた。
「――よぉ」
びくりと、先生を除いた全員の肩が跳ねる。ただ声を掛けられただけだ、しかしまるで虎にでも睨まれた様な恐怖心が彼女達を襲っていた。一歩、前に踏み出した生徒の顔が非常灯に照らされ、視界に映る。
「あたしが留守の間、随分派手にやってくれたみてぇじゃねぇか?」
「ね……ネル、先輩」
エージェント組織C&Cを率いるリーダー、ミレニアム最強と名高い生徒。
ミドリが引き攣った声で彼女の名を呼ぶ。
小柄な体格にメイド服、それに似合わぬスカジャンを羽織った生徒――美甘ネル。
鋭い眼光で以てゲーム開発部を睨み付ける彼女は、ジャラリと鎖で繋がった二挺のSMGを揺らし告げた。
「………」
この人は、何かが違う。
アリスは自身と同程度の背丈、その生徒を見てそう思った。
胸に沸々と湧き上がる正体不明の感情――恐怖。
そう恐怖だ、アリスは生まれて初めてその感情を抱いた。アリスの優秀な演算機能がこの状況で正面から戦闘を行った場合、その成功確率を計算する。そして得られた結果は、成功確率――三パーセント未満。
戦闘行為、非推奨。
それがアリスの結論であった。
「ハッ! 成程な、ゲーム開発部なんざ聞いた事もなかった部活だが、そんな連中にC&Cが蹴散らされる筈もねぇと思っていたんだ……けれど、あんたが手を貸していたなら納得だ」
愛銃のツイン・ドラゴンをぶら下げ鎖を鳴らす彼女は破顔し、彼女達の背後に佇む大人――先生へと無遠慮に視線を飛ばす。その表情は実に楽し気で、同時に何か期待を孕んでいるように見えた。
「なぁ、先生?」
「……ネル、戻っていたんだね」
「あぁ、ついさっきな」
別の依頼でミレニアム郊外へと出向いていた筈のC&Cリーダー、彼女はどういう訳かこの場に姿を現した。今は居ない筈じゃなかったのかと戦慄するゲーム開発部を他所に、ネルは吐き捨てるように任務への不満を口にした。
「つまんねぇ依頼だったよ、小突けば倒れちまうような弱小勢力を潰すのに、何で態々あたしを指名したのかイマイチ腑に落ちなかったが……どうやらリオとヒマリはあたしを今回の件に関わらせたくなかったみてぇだな」
「り、リオ……?」
「それって確か、生徒会長の名前だよね……?」
「それに、ヒマリ先輩まで……一体、何の話を――」
ネルの言葉に疑問符を浮かべるゲーム開発部の面々。何故此処でリオとヒマリの名前が出て来るのか分からないと云った様子。しかし、ネルにとってそんな事は重要ではない。口元を歪ませ凄む彼女はギラギラとした瞳を彼女達へと向ける。
「だが、そんなモンは関係ねぇ、こんだけやらかしたんだ――テメェら、覚悟出来ているんだろうな?」
「ひぃっ……!?」
「お、お姉ちゃん……!」
「う、うぅ……」
唐突に向けられた戦意、その迫力に思わず仰け反るモモイ。ユズとミドリは近場に居た先生の背中へと隠れ、顔を青くする。小柄な体格に見合わぬ強烈な戦意、常在戦場、趣味を『勝利』と断言する彼女とゲーム開発部で潜って来た修羅場が違う。気圧されるゲーム開発部を眺めながら、ふと彼女はアリスに視線を止めた。
「あぁ、それと、その馬鹿デケェ武器を持ったあんた」
「……アリス、ですか?」
「そうだ、うちのC&Cに一発喰らわせてくれたらしいじゃねぇか」
どこかぽかんとした様子のアリスに、ネルは面白そうに笑って声を掛ける。どうやらアリスがC&Cに痛手を加えた事を既に知っていたらしい。その戦果がネルの興味を引いていた。
「うちのアスナを真正面から
「あ、アリス、このパターンを知っています! 『私にあんな事をしたのは、あなたが初めてよ……っ!』――告白イベントですね、チビメイド様はアリスに惚れていると見ました! これはスチル獲得です!」
「―――」
それは余りにも場違いな発言であった。
同時にアリスは恐怖と云う感情を理解しても、それがどういった行動に繋がるかを知らなかった。故にいつも通り何と事のないように、笑顔を浮かべながら悪意なく言葉を口にする。自身の発言がどれだけ相手の怒りに火を点けるか、自覚しないままに。
「あ、アリス……?」
「あわわ……」
「?」
反対にゲーム開発部はアリスの発言がどれだけ相手を怒らせるのか、それを理解していた。アリスの言葉、それを聞いたネルは俯き黙り込む。心なしかその肩は震えているようにも見え、アリスは小首を傾げた。
そして――。
「ふっ――」
「ふっ?」
「ふっざけんなこの野郎ッ! ってか、誰がチビメイド様だ!? ぶっ殺されてぇのか!?」
「ひぐッ!?」
当然の如く、怒り狂う
顔を真っ赤にして放たれた怒声に思わず身を竦め、肩を震わせるアリス。チビメイド呼ばわりされた彼女は相当頭に来ているのか、額に青筋を浮かべながらアリスに向けて銃口を突きつける。
「良い度胸だテメェ! あたしを此処までコケにする奴は中々いねぇ、気に入ったぜ、色んな意味でなぁ……!?」
「す、ステータス激怒を確認、どうしてチビメイド様はアリスに怒りを向けているのですか……?」
「おもしれぇ、このあたしを馬鹿にしてんのか――問答無用だ、ぶっ殺す」
「ひぇっ!?」
二度目のチビメイド呼びに堪忍袋の緒が切れるネル。どうやらアリスが意図的に自身を煽っているのだと勘違いしたらしい。アリスは突然爆発した相手に戦々恐々としながら、抱えていた光の剣に手を掛ける。
「あ、アリス、決闘の作法なら心得ています!」
「あ?」
怯えを見せながら、しかし何やら妙な事を云い出すアリス。何かを思いついたとばかりに動き出した彼女は予備動作もなく抱えていた光の剣をネルに突きつける。更に砲口は既に青白く発光しており、幾らかチャージを済ませているのが分かった。
会話中の低速チャージ――比較的静音で行われるそれに、ネルは直前まで気付かなかった。
「てめっ――!?」
「充填率三十パーセント――貫け、バランス崩壊ッ!」
彼女の叫びと共に炸裂する砲撃――廊下を走る青白い閃光。
百パーセントチャージと比較すれば小規模ではあるが、三割であっても通常の火器と比較すれば途轍もない威力である事に変わりはない。床を半円に抉り、遥か先の壁まで抉り抜いた砲撃。閃光は周囲に居た全員の網膜を焼き、爆音が辺りに轟いた。
収束しする光、赤熱し立ち上る蒸気を銃身で掻き消しながら、アリスは告げた。
「アンブッシュは一度までなら許されるのです、誉れはネオ・キヴォトスで死にました!」
「な、何て堂々とした不意打ち……」
「あ、アリスちゃん……? これって勇者的にアリなの……?」
「大丈夫です! 勇者は他人の家で壺を割ったり箪笥を漁っても合法です! タックルでぶつかっても一度目は許されます!」
「えっと、これ、また怒られるんじゃ……?」
「うーん」
まさかC&Cのリーダー相手に不意打ちを敢行するとは思っていなかったゲーム開発部の面々は、アリスに対して驚愕と畏怖を抱く。同時に三割チャージとは云え光の剣、その砲撃を受けたならば――もしかして倒せたのではないかと、そんな言葉が脳裏を過った。
しかし、その幻想を裂くように蒸気越しに轟く銃声。
「あだっ!?」
「あぶなっ!?」
「ひっ……!」
一帯を薙ぐ様にして放たれたそれはゲーム開発部に襲い掛かり、モモイは肩に一発、ミドリは辛うじて回避、ユズも咄嗟に屈んで難を逃れる。しかし先生の元へは一発たりとも飛来する事無く、まるで弾丸は先生を避けるように廊下の向こう側へと消えていった。
「っ……!」
同時に小柄な影が蒸気を裂いて飛来し、アリスは咄嗟に光の剣を盾に見立て構えた。
ガツン、と強力な衝撃がアリスの腕に走る。衝撃は百キロを超えるスーパーノヴァを持つアリスを後方へと僅かに押し込み、見れば光の剣に飛び蹴りを敢行するネルの姿。彼女はギラギラと光る瞳で以てアリスを睨みつけていた。
「うッ――!」
「へぇ、良い反応じゃねぇか! 戦闘勘もありやがる――いや、これは先生の力か?」
自身の奇襲を完璧に防いで見せたアリスに対しネルは称賛の言葉を投げかける。その視線が一瞬先生に向けられ、歯を剥き出しにして彼女は笑った。
光の剣、その外装を蹴飛ばし宙を舞うネル。軽い足取りで着地した彼女はステップを踏む様に身を揺らし、両手にぶら下げた愛銃の弾倉を取り外す。音を立てて床に転がる空の弾倉、同時にスカジャンから取り出した弾倉を空中に放り投げ、振り払う様にツイン・ドラゴンを薙ぐ。弾倉は確りと銃に嵌り、換装は一瞬で事足りた。
ツイン・ドラゴンで肩を叩く彼女は、楽し気に喉を震わせながら声を上げる。
「はっ、やっぱり先生はスゲェな、あんたが居るだけで戦いにハリが出る」
「ネル……!」
「先生の戦闘支援を卑怯だとは思わねぇよ、寧ろ丁度良いハンデだ、あぁ、勿論今の不意打ちもな」
使えるものは何でも使え、そう云って彼女は一歩、二歩とゲーム開発部に歩み寄る。同時に対峙する彼女達は無意識の内に一歩、二歩と下がる。一歩距離を詰められるだけで、息が詰まる様な圧迫感を覚える。
「だからこそ遠慮はいらねぇ、全員纏めて掛かって来な――テメェらがどんな存在か、あたしに魅せてみろ」
先の銃撃で割れた非常灯の一つが点滅する。影と光が彼女の姿を暗闇に浮かび上がらせ、ジャラリと鎖が音を立てた。
避けられない戦闘――ゲーム開発部に拒否権はない。
暗闇の中で煌々と輝く赤い瞳。ネルは愛銃を両手に握り締めたまま告げた。
「C&C、コールサイン・ダブルオー――さぁ、始めようぜ!」
毎日投稿は浜で死にましたの。
恐らくあと二、三話でダイジェスト前編は終わりですわ。