ブルーアーカイブを、もう一度。   作:トクサン

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誤字脱字報告、ありがとうございますわ!
少し間が空いて申し訳ありませんの、しかし文字数を見れば分かって頂けますわ。
今回二万一千五百字ですの、クソなげぇですわね。


私達のレトロチック・ロマン

 

【第二十七話】

 

 G.Bibleを手に入れ、PCにて起動を開始したゲーム開発部、全員の視線がPCのモニタに集中する中――黒い背景に緑色の文字が出現する。

 

【G.Bibleの世界へようこそ】

「き、来た……っ!」

 

 モニタに表示された文字にモモイが歓喜を滲ませ、ゲーム開発部の面々が沸き立つ。伝説のG.Bible、長年その存在は語り継がれていたが実際にこうして目にすると何とも云えない期待と高揚感が滲む。身を乗り出す面々は互いに身を寄せ合いながら次の文字列を待つ。

 

【最高のゲームとは何か……この質問に対して、世界中で様々な答えが模索され続けてきました】

【作品性、人気、売り上げ、素晴らしいストーリーや爽快感、鳥肌の立つ様な演出、そういったものが最高のゲーム足る『条件』として挙げられる事は多いですが、それらは全て、あくまで『真理』の枝葉に過ぎません】

【最高のゲームを作る秘訣、それはたった一つです――そして、このG.Bibleにはその真理が秘められています】

「い、いよいよ……!」

「良く分からないけれど、何だか凄そう……!」

【最高のゲームを作るたった一つの真理、秘密の方法――それを今こそお教えしましょう】

 

 ごくりと、誰かの喉が鳴る。

 これだ、この最高のゲームを作る真理とやらを知る為に、自分達は此処まで頑張ってきたのだ。ユズ、モモイ、ミドリは今にも飛び出しそうな姿勢のまま、固唾を呑んで次のメッセージに注視する。

 そうして表示された文言は。

 

【――ゲームを愛しなさい】

 

 短くも、確かに真理を突いた言葉。

 それにモモイは期待を更に高め、何度も頷いて見せる。

 

「おぉ……何か壮大なオープニングみたいな感じ、それっぽい!」

「そ、そうかな?」

「そうだよ! 此処から具体的な、作り方とか、手法とか、そんな感じの話が――」

 

 言葉を口にし、モモイは画面に再度視線を向ける。

 

【……ゲームを愛しなさい】

 

 しかし、再び表示されるのは先程と同じ文字列。

 ゲームを愛しなさい、ただそれだけ。

 皆の目が瞬き、ぎこちなく互いに視線を交わす。

 

「……え、っと」

「これだけ、じゃないよね……その、流石に」

「同じ文字が続いているし、もしかしてバグじゃないの?」

「えっと、ちょっとまって、設定は――」

 

 ミドリが慌ててキーボードを操作する。設定か、或いは一度デスクトップに戻って――そう考えてキーを押した瞬間、唐突に画面が切り替わる。

 

「わっ」

【あなたがこのボタンを押したという事は、ファイルが壊れた、若しくは何らかの問題があったのでは、エラーが生じたのではないか……そう疑っている状況なのでしょう】

「あっ、やっぱり! 何か不具合が発生したから……!」

【しかし、エラーではありません、残念ですがこれが結論です――ゲームを愛しなさい! これが、最高のゲームを作る唯一の方法です!】

「嘘ぉ!?」

 

 余りにも予想外の展開に、モモイは思わず蒼褪めた表情で叫ぶ。そしてそれはモモイだけではない、他の仲間達も同じ想いであった。慌ててPCに飛びつくモモイ。

 

「そ、そんな筈ない、きっと何かエラーが……!」

「でも、ファイル損傷とか修正は見当たらないし、最後の転送情報、ファイルサイズ、それにデータ構成も問題なし……」

「そ、それじゃあ、本当に……」

「――これだけ、なの?」

 

 本当に、これだけ?

 全員の口から、愕然とした声が漏れる。

 ゲームを愛せ――自分達が必死になって手に入れたゲーム制作の真理は、この一文だけだった。じわりと滲み出す冷汗、同時にせり上がる昏い感情。

 

「ぉ……」

 

 その現実を理解した時、モモイは震える手で頭を抱え、その場で仰け反った。

 

「終わりだぁああアアッ!」

 

 彼女の悲鳴染みた声が部室に木霊する。その感情はモモイだけではなく、ミドリも、ユズも同じであった。皆が皆、その場にへたり込み、血の気の失せた顔で呟く。

 

「あ、悪夢だよ、こんなの、私達、悪い夢でも見て……」

「うぅ、そんな……こんなに落ち込んだのは、テイルズ・サガ・クロニクルのプロトタイプをアップロードした時以来、かも」

「ぇ、ぁ――?」

 

 唐突に絶望し、悲壮に打ちのめされたゲーム開発部の仲間達。彼女達を前にアリスは困惑を隠せず、右往左往する。

 

「あ、あの、モモイ……?」

「ふは、ふへへ、ぜ、全部終わった、お終いだぁ!」

「みっ、ミドリ、大丈夫ですか?」

「……アリスちゃん、ごめん、今は――何も話したくない気分なの……」

「ゆ、ユズ……」

「怒り、破滅、腐食、絶望、虚脱……世界は今、破滅に向かって――」

「あ、あの! えっと、わ、私は、アリスは――……!」

 

 全員が全員、余りの事に現実から目を逸らしている。そんな彼女達の様子にどうする事も出来ず、思わずアリスは後方に立つ先生に縋る様な視線を送った。先生は悲観に暮れるゲーム開発部の皆を見つめながら、沈痛な面持ちを浮かべている。

 モモイは両手で床を叩きながら涙を流し、今なお一文のみを画面に表示するPCに向けて叫んだ。

 

「な、何でこんな、これが最後の手段だったのに……! それなのに、あんな誰でも知っている文章が入っているだけなんて、こんなの詐欺だよ! 詐欺!」

「………」

「知っていた! 世界にはそんな、それ一つで全部変わって上手くいくような便利な方法なんかないって! でも、伝説って云う位なら、期待しても良いじゃん! もしかしたらって、思うじゃん! うわぁぁあん!」

「これじゃ、ミレニアム・プライスで入賞何て、もう……」

「G.Bible無しじゃ、私達は――」

「そんな……そんな事は、ありません!」

 

 悲観に暮れる友人達、同時に吐き出される自分達の作品を否定する言葉。それを聞いたアリスは思わず声を荒げ、直ぐ傍に座り込んでいたモモイの肩を掴んだ。強引に引き起こされ、顔を突き合わせたモモイとアリスは、互いの視線を絡めながら告げる。

 

「アリスは、アリスは知っています! 皆の作ったゲームが、テイルズ・サガ・クロニクルが、素晴らしいゲームだって事を!」

 

 世間ではクソゲーと罵られるテイルズ・サガ・クロニクル――けれど初めてゲームをプレイしたアリスにとっては新鮮で、劇的で、素敵なもので。いつだって自分の中に根付いている、宝物の記憶だ。

 だから、彼女達の手がクソゲーしか作れないなんて事は決してない。

 G.Bibleが無ければ神ゲーを作れない何て、そんな事は無い。

 アリスはそう、心の底から信じているのだ。

 

「モモイが、ミドリが、ユズが、どれだけゲームを愛しているのかを、アリスは知っているんです……! エンディングが近付くにつれて、もっと遊んでいたい、ずっと終わらないで欲しいって、そう思ってしまう位素敵な世界、物語だったんです……!」

「……アリスちゃん」

「仲間と一緒に新しい世界を旅する感覚を、夢を見ると云うのがどういう事なのか、どれ程胸の高鳴る事なのか――それをアリスに教えてくれた、そんな世界を皆は作れるんです!」

 

 必死の形相で訴えかけ、自分の想いの丈をぶつけるアリス。それを正面から受け止めたモモイは一瞬面食らう様に目を開いて、それからふっと笑みを浮かべた。

 

「アリス、ありがとう……」

「も、モモイ……」

 

 アリスの口から戸惑った様な声が漏れる。モモイが浮かべた笑み、それは彼女らしくない、諦観に塗れた笑みだった。

 

「凄く嬉しいよ、本当に、そう云ってくれるのは心の底から嬉しいんだよ……でも」

「……どれだけ私達が想いを込めたって、頑張って作ったって、私達の作ったゲーム(世界)はクソゲーって呼ばれているの」

 

 モモイが視線を逸らし、背後で項垂れるミドリが力ない声で続ける。

 ゲーム作りは本気だった、いつだって全力で、自分達が面白いと思えるものを力一杯詰め込んだ。あぁでもない、こうでもないと意見を出し合って、時には喧嘩までして、それでも最後までやり切るんだと作り上げた一本だった――けれどそれは、罵詈雑言しか生まなかった駄作で。

 ミドリの言葉に、俯いていたユズはくしゃりと顔を歪める。袖の中に埋まった両手が、一際強く握り締められた。

 

「っ……」

 

 そうだ、二人の云う通りだ。ユズは思う。

 G.Bibleの無い自分なんて、クソゲーしか作れない。

 一生懸命作っても、精一杯努力しても――どんなに頑張ったって、きっと自分に最高のゲームなんて作れはしないのだ。

 

 だったら――もう、あんな想いをしない為にも。

 

 ■

 

【これがゲーム?】

【これを作った人の頭の中が逆に気になるよ】

【これは流石に脳みそ……って云おうかと思ったけれど、本当に入っているかも怪しいね】

【ゲームの事を良く知らない人が作ってない?】

【まぁ、ゲームをあまりプレイした事がない人の作品なら、頑張ったんじゃない?】

【だとしても身の程を知った方が良い】

【これはゲームなんかじゃない、ゲームに良く似たゴミだよ】

【やるだけ時間の無駄でしょ】

【クソゲー以外の何物でもない】

 

 批判、罵倒――埋め尽くされる不評の文字。

 モニタに表示されるそれは、テイルズ・サガ・クロニクルのプロトタイプをネットにアップロードした翌日に書き込まれたものだ。たった一日、ほんの一日で多くの人々にダウンロードされたそれは、けれど決してポジティブな人気によるものではなく――寧ろ逆の、悪い意味での人気によるものだった。

 一分、十分、時間が経過する毎にコメントは増えていく。

 そのどれもこれもが製作者を――自身を否定するものばかり。誰も、誰一人として賞賛の言葉を投げかけてくれる人はいない。

 

「うぅ……」

 

 このゲームを制作したユズはパソコンを開いたまま、毛布に身を包み床を転がっていた。まるで悪意そのものから身を守る様に蹲って、頭を抱えて震えていた。

 

「やめて、ごめん……ごめんなさい、ごめんなさい――」

 

 涙を流し、ひとり呟くのは謝罪の言葉。ゲームが好きだった、大好きだった。そんなゲームを自分でも作って見たくて、何も分からない手探りの状況から必死に勉強して、たった一人で製作したプロトタイプ。

 完成なんてしていない、まだ粗削りな部分も多いし未熟な事は分かっていた。けれど、それでも自分のゲームを愛する心を誰かに知って欲しくてアップロードした。

 

 ――その結果がこれだった。

 

 幾らゲームが上手くても、製作者として優秀なのかはまた別の話。自身にゲーム制作の才能は、存在しなかった。

 

「もうお願いだから、許して……! わた、私がっ、わだじがッ、悪かったです、から……!」

 

 頭を抱え、身体を震わせながら必死に繰り返す。涙を流し過ぎて、枯れた声で何度も謝罪を口にする。それでも悪意は止まない、自分に降り注ぐ罵詈雑言はこの瞬間にも増えていく。自身を責め続けるユズはこの瞬間、心の底から思った。

 

 こんな事なら――ゲーム製作なんて、するんじゃなかった。

 

「あのーっ!」

「ひぃっ!?」

 

 そんな時、ゲーム開発部――ユズだけしか所属していないその場所の扉が、無造作にノックされた。誰も通らない様な部室棟の端、そんな場所に立ち寄る生徒などユズには覚えがない。毛布を頭から被ったままゆっくりと振り向けば、扉の曇りガラス越しに誰かの人影が見える。

 

「えっと、ここってテイルズ・サガ・クロニクルのプロトタイプを作った、ミレニアムのゲーム開発部で合っていますか!?」

「っ、な、何、今度は、直接……?」

 

 思わず恐怖に引き攣った声が漏れた。ネットでの誹謗中傷では飽き足らず、実際に乗り込んで来たのかと、ユズは本気でそう思ったのだ。再び毛布を頭から被り直し、扉に背を向ける形で蹲るユズ。

 

「ごっ、ごめんなさい、ごめんなさい……! わ、私が、あんなゲームを作ったから……! もう二度とゲームは作りません! だから、だからッ、どうか許して下さい……!」

「えぇッ!?」

 

 必死に、本気で扉の向こう側に立つ誰かに対し、ユズは許しを請う言葉を投げかける。しかし返って来たのは驚愕の声と、どこか怒りの滲んだ声。

 

「何云っているんですか!? こんなに面白いのに! プロトタイプだけ作ってやめちゃうなんて! これの続き、凄い気になっているんですよ!? ここまでワクワクさせておいて、そんなの無しでしょ!?」

「ぅぇ……?」

 

 ――面白い?

 

 それは、ユズが予想もしていなかった言葉で。思わず蹲っていたユズの肩が跳ね、縮こまっていた首が扉の方を向く。ネットの声とは全く反対の、作品を肯定してくれる声、それはユズが望んでいたものの決して届かなかった唯一の色。信じられないという心地でユズは硝子越しの人影を凝視する。

 

「テイルズ・サガ・クロニクル――すっごく面白かったです!」

「お姉ちゃん、徹夜でやっていたもんね」

「ミドリだってニヤニヤしながらプレイしていたじゃん! もともとゲームにそんな興味なかった癖に!」

「え、いやだって、ドットのキャラとか凄い可愛かったし……」

「ほら、やっぱり! って、こんな事しても目的は果たせないし……あぁもう! 兎に角、入りますよ!?」

「えっ!?」

 

 ユズが何かを口にする前に、人影は扉を勢い良く開き駆け込んで来る。毛布を頭から被ったユズは咄嗟に目元と鼻を拭い、何とか対面出来る体裁を整える。毛布を被った、何ともズボラで目を腫らした生徒と、目を輝かせ期待に胸を膨らませる二人が対峙する。部室へと踏み込んで来た二人組は床に座り込み、自身を見上げる小さな生徒――ユズに向かって満面の笑みを浮かべる。

 

「あなたがUZ様!?」

「ぅえ、あ、は、はい……そう、です」

「ファンですっ!」

「私も、ミドリも! あっ、ミドリは私の妹で……まぁ良いや! えっと、これッ!」

 

 破顔し、何の臆面もなく告げる二人。よく似た二人だった、多分双子――なのだろうか。元気一杯といった様子の姉と、比較的大人しく見える妹。

 そんな姉から突き出される紙きれ――それが二枚。

 ユズは目を瞬かせ、差し出されたそれに目を向ける。

 

「……これ、は?」

「入部届ですッ! 私と、ミドリの!」

「入部、届……?」

「そうです! 私達もUZ様みたいに面白いゲーム、作りたいんですっ! だから、このゲーム開発部に入部させて下さい!」

「―――」

 

 それは。

 それは何て、夢みたいな。

 

 ユズは思わず毛布を足元に落とし、恐る恐る入部届を受け取った。其処にはきちんと名前からクラス、寮の部屋番号まで記載されていて。悪戯でも何でもない事が分かる、この子達は本気だ――本気でこの部活に入りに来たのだと、そう分かった。

 入部届と二人の顔、視線を忙しなく交互させながらユズは問いかける。

 

「にゅ、入部って、此処(ゲーム開発部)に……? 何かの間違いじゃ、なくて?」

「はい! 間違いじゃないです! 此処に私達は入部したいんです!」

「あの、此処には、私しか居ないよ……? 部員、ひとりだけで――」

「じゃあ今日から三人ですねっ!」

「ぶ、部室も小さいし、予算も殆どないし……!」

「少数精鋭って格好良いじゃないですか! あと、予算は工夫で何とか……! そうだ、ミドリって絵が描けるから、それで予算も削れるよ!」

「ちょっと、お姉ちゃん!」

「――………」

 

 どんなに酷い惨状であると説明しても、二人の表情は曇りなく、輝いている。ユズは信じられない心地で頬を摘まみ、軽く捻った。確かな痛みが肌を刺激し、これが夢でも何でもない事が分かった。

 だから最後に、彼女は震える声で問うた。

 

「ほ、本当に、良いの……?」

 

 くしゃりと、手にした入部届を握る手に力が入る。

 だって――それは余りにも希望に満ちた現実だったから。

 

「当然!」

 

 目の前の彼女達は満面の笑みで頷く。そこには何の憂いも、不安もなくて。

 光り輝く彼女の瞳は、これ以上ない程に自分(ユズ)を照らしてくれた。

 

「だってテイルズ・サガ・クロニクルから、すっごくゲーム愛が伝わって来たんだもん!」

 

 ――それが、ゲーム開発部(私達の居場所)の始まりだった。

 

 ■

 

 ずっと一人だった。

 一人で作って、一人で酷評されて、叩かれて。

 もう二度と、あんな想いはしたくないと思った。

 ゲーム制作を止めようと思っていたのだ。

 実際、あそこで二人が来てくれなければゲーム開発部は始まる前に解散していたに違いない。或いは、ゲームそのものを嫌いになって、憎んでいたかもしれない。そうじゃない可能性もあるけれど――そんな未来も、あった筈だ。

 

 けれど、(ユズ)は二人と出会った。

 二人が、出会ってくれた。

 一人だけじゃない、誰かとゲームを作る事は新鮮で、楽しくて。一人じゃない分、失敗したくない、認められたいと云う気持ちが強くなって。一人の時よりもずっと、何倍も、何十倍も頑張った。

 結局、それだけ頑張って作ったゲームは――クソゲーとして世に認知されてしまったけれど。

 

 でも――それでも。

 

 ■

 

「――作ろう、ゲームを」

「……えっ」

「ユズ?」

 

 床に蹲っていたユズが、ぽつりと呟いた。

 その声は小さくて、けれど声の奥には揺ぎ無い力が込められていた様に思う。ゆっくりと身を起こしたユズは、その小さな手を力一杯握り締めながら続ける。

 

「あの時アリスちゃんが、私の、私達の作ったゲームを面白いって云ってくれた……ずっと、今まで誰からも褒められなかった作品を初めて――あの時、私の夢は叶ったの」

「ユズの、夢?」

「……うん」

 

 誰にも口にした事は無かった。

 気恥ずかしくて、けれどずっと捨てられなくて、心の奥にそっと仕舞っていた夢。

 俯いていたユズは自身の胸元に手を当て、絞り出すように声を漏らす。

 

「心の通じ合う大事な仲間達と、一緒にゲームを作って、それを面白いって云って貰う事――ずっと一人で思い描いているだけだった、そんな小さな夢」

 

 激烈ではなかった、寧ろ穏やかで、けれど確かな変化だった。ゆっくりと彼女の全身が何かに包まれて行くような、そんな感覚。凪ぐ様な力強さ――ユズは俯いていた瞳を真っ直ぐ正し、皆を見つめる。

 そこには秘められた想いがあった、覚悟があった。力強いそれに射貫かれた面々が、思わず息を呑む。

 

「アリスちゃんが云った通り、その物語が、世界が終わらないで欲しいと思う気持ち、分かるんだ……欲張りかもしれないけれど、叶うのなら私は――この(ゲーム開発部)が、この先も、ずっと先も、終わらないで欲しい」

 

 ずっと、ゲームを作っていたい。

 皆で。

 此処に居る、皆で。

 ゲーム開発部の仲間達と一緒に。

 だから――。

 ユズは一歩を踏み出し、力強く告げる。

 

「終わらせない為に――最後まで足掻きたい(最後まで諦めたくない)

「………」

 

 この居場所を守れる手段があるのなら、方法があるのなら、最後まで諦めたくない。どんな手段であっても、どんなに難しい事であっても、最後の最後、その一瞬まで足掻き続けたい。

 自身の大切な――夢の(仲間の)為に。

 

「ユズ……」

 

 その、いつもは気弱で、自身の意見を余り口にしない彼女の痛烈な意思に、モモイは圧倒される。

 

「大丈夫」

「っ……!」

 

 硬直したモモイの肩に、大きな手が乗せられた。思わず身を弾ませたモモイが振り返れば、直ぐ後ろに先生が立っていた。

 その表情は優し気で、穏やかで、全てを包む込む様な暖かさに満ちている。

 いつもの先生だ、憂いの無い光が目の前にはあった。

 

「失敗したらどうしようと不安に思う気持ちは分かる、挑戦する事は勇気が必要だからね、どれだけ大変な事かは私自身知っているんだ」

 

 呟き、先生は目を細める。

 挑戦する事は難しい。ましてや一度、失敗してしまったからこそ尻込みをしてしまう事も。また怖い目に遭うかもしれない、何かを喪うかもしれない、誰かに悪意を向けられるかもしれない……そう云った理由が胸の内でぐるぐると巡り、足を止めてしまう。痛みを避けて、傷付かない道を選んでしまう。

 それは決して非難される事ではない、それもまた道の一つではある。安寧に価値を見出すのであれば、それを先生は否定しない。

 けれど、その先にある自身の夢を、希望を、明日を求めるのならば。

 大切な何かを、守りたいと思うのならば。

 

 進まなければならない、例え傷付いても。

 困難に、試練に、痛みに――立ち向かわなければならない。

 

 それでもし、倒れてしまったら。

 失敗してしまったら。

 また、形のない悪意に晒されたのなら。

 

「――その時は私が絶対に何とかする」

「……先生」

 

 彼女達を見守る先生(大人)は断言する。目の前の生徒達、その瞳を見返しながら。

 

「皆がまたゲームを作れるように、一緒に居られるように全力を尽くす、部室を取り上げられたって私が何としても取り戻す、チャンスは何度だって(大人)が用意する、失敗を恐れる必要はないんだ、怖い時、不安になった時、そっと横を見て欲しい――私は、必ず皆の隣に居る」

 

 生徒達がやり直す機会――チャンスを用意するのが、大人(先生)の役目だ。

 その言葉を聞いたモモイは先生を見上げ、それから一度俯く。

 

「ッ……!」

 

 そして徐に両手を開くと、全力で自身の頬を叩いた。

 バチン! と頬を張る音が部室に響く。

 

「っ、よしッ!」

「お、お姉ちゃん?」

 

 唐突な奇行に思わず驚愕するミドリ。モモイは赤く腫れた頬をそのままに、力強い目つきで叫ぶ。

 

「ミドリ! 今からミレニアム・プライス応募締め切りまで、あとどれくらい!?」

「えっ、えっと……」

「六日と、四時間三十八分です、モモイ……ッ!」

 

 アリスが即座に応えた。ミレニアム・プライス――この部室がどうなるかの分水嶺、そのリミット。モモイはその残り時間を聞き、大きく息を吸い込む。彼女の瞳に、力が戻っていた。

 

「開発期間としては、かなり短いけれど……」

「そんなの、関係ないねッ!」

 

 ミドリの不安に満ちた呟き、それを即座に斬って返した。振り向いたモモイは全員に目を向けながら、拳を突き上げ告げる。

 

「それに、一から作る訳じゃない――ずっと前に作ったけれど、怖くて発表出来なかった作品(世界)があるでしょう!?」

「――!」

 

 その言葉に全員の目が見開かれた。それはテイルズ・サガ・クロニクルを発表し、酷評された後――見返してやると手掛けた作品の一つ。けれど作品を作っている間にもテイルズ・サガ・クロニクルは評判を落とし、彼女達の自信は少しずつ失われて行った。自分達には良いゲームが作れないのではないか、世に出してもまた叩かれてしまうのではないか。

 そんな想いが捨てきれず、結局中途半端に止まってしまった自分達の作品。

 埃を被ったそれは、未だPCの片隅に眠っている。

 後六日、一からゲームを作るとなれば並大抵の努力では足りない。大作ゲームはまず無理だと断言できる。だからこそ、モモイは決断する。

 過去を乗り越える――いいや、過去を含めて、自分達は成長するのだ。

 夢の残骸(努力の証)を、(努力)のままでは終わらせない。

 

「作るんだよ、全力で、今度こそ、いや今度も精一杯……! 私達がどれだけゲームが好きで、愛しているか! 世界中のゲーマーたちに見せてやるんだ!」

 

 モモイは両腕を広げ、力一杯叫ぶ。

 また酷評される事は怖い、否定される事は恐ろしい――けれど此処で諦めたら、皆の居場所(ゲーム開発部)は無くなってしまう。

 だったら、それならば。

 ユズが、自分達の部長が云った様に。

 

「神ゲーを作るんだッ! 私達で――ゲーム開発部の皆でッ!」

「う、うん……!」

 

 モモイの声に、ミドリは涙を滲ませながら頷く。

 G.Bible何て関係ない、神ゲーを作る具体的な方法何て知らない。「ゲームを愛しなさい」だと? そんなもの、ずっと昔から愛しているに決まっている。ゲームが好きで、大好きで、どんな昔の(レトロ)ゲームでも、最新ゲームでも、ありとあらゆるゲームを愛している。

 

 だったら――作れる筈だ。

 私達なら。

 いいや、私達だからこそ……!

 モモイは腹の底から、そう信じる。

 

「ゲーム開発部――行けるよねッ!?」

「うん、モモイ……!」

「お姉ちゃん――!」

「アリスはどんな時も、冒険の準備は出来ていますッ!」

 

 モモイの力強い叫びに、ゲーム開発部の皆は呼応する。後六日、その間にゲームを一本仕上げる。それも全力で、自分達の全てを出し切ったゲームを。並大抵の事ではないと理解していた、恐怖も不安もあった、けれどそれ以上に――沸き立つ勇気が(まさ)った。

 

「先生!」

「――いつだって信じているよ、ゲーム開発部の皆を」

「当ぉ然!」

 

 自分達ならば出来る。

 自分達だからこそ出来る。

 モモイは先生に満面の笑みを返し、拳を握り締め叫ぶ。

 

 その瞳にはいつか、この場所(ゲーム開発部)へと訪れた時と同じ――光が輝いていた。

 

「皆、『テイルズ・サガ・クロニクル2』の開発――始めようッ!」

「おーッ!」

 

 ■

 

【第二十八話】

 

 テイルズ・サガ・クロニクル2開発開始より――六日後。

 ミレニアム・プライス応募締め切り、当日。

 ゲーム開発部にて。

 

「最後の一枚、修正終わり――っ、ユズちゃん!」

「うん、任せて……アリスちゃん、進捗――」

「こっちは既に完了しています! 後はモモイの……」

「待って! まだ、もう少し――!」

 

 それ程大きくも無いゲーム開発部の部室、その中でキーボードを叩く音が反響する。全員のPCを用意し、一丸となってゲーム開発に打ち込む事六日目。僅かな時間を惜しみ、一睡すらする事無く作業に打ち込む彼女達は充血した瞳をそのままにPCのモニタと睨み合う。

 最後の一枚イラスト、その修正を終えたミドリがユズにデータを送り、彼女はゲーム内にそれを組み込む。既存データのデバックはアリスが担当し、最後の仕上げがモモイのパートのみとなった。

 

「デバッグ、シミュレート……現段階では問題ありません、進行不能バグも――ありません!」

「後は最後の調整を加えた上で、どうなるか……!」

 

 アリスがバグの確認を終え、ユズは祈る様に手を合わせながらモモイを見る。モモイは額に汗を滲ませながら、必死の形相でキーボードを叩き続ける。その背後から同じように焦燥感を滲ませたミドリが時計を一瞥し、叫んだ。

 

「お姉ちゃん、まだッ!?」

「ま、待って、急かさないで、あとこれだけ入力出来れば終わりだから――っ!」

「後二分だよ!? 流石に焦るよ……っ!」

「分かってる! これで……ユズ!」

 

 モモイが最後の作業を終え、データをユズに送る。ユズは送りつけられたそれを即座にゲームへと適応し、丁寧にバグチェックを行う時間は無いと判断、簡易エラーチェックのみを敢行する。黒い背景越しに流れる文字列、数字、それらを視線で追いながら必死に確認を行う。

 

「うん、うん……こっちも――エラーチェック終わったよ! 問題なし!」

「アップロード待機中です! ユズ、データを!」

「アリスちゃん、お願い……!」

「ファイルアップロード中、完了予想時間……十五秒」

「アリス、締め切りまであと何秒!?」

「十九秒です……!」

「っ、お願い――!」

 

 秒単位の攻防、全員がアリスのPCに視線を向けながら両手を組み、祈りを捧げる。自分達の六日間、血と汗の結晶――それをこんな所で終わらせたくない。少しずつ伸びていく緑のバー、アップロードの進捗状況。こんな事なら容量をもっと減らすべきだったかとか、圧縮すべきだったかとか、様々な想いが脳裏を過る。

 全員が戦々恐々とした心地でモニタを見つめ――文字がモニタに表示される。

 

「アップロード――完了です!」

 

 応募受付完了の文字。

 全員がそれを目にした瞬間、大きな安堵の息が口から漏れた。身体から力が抜け、思わずその場にへたり込む面々。

 

「お、おわ、った……!」

「や、やった――!」

「し、心臓、止まるかと、思っ――……」

 

 胸を撫でおろし、乾いた笑みを浮かべたユズ――次の瞬間、彼女の身体がぐらりと傾き、ゴン! と音を立てて額が床とぶつかった。

 

「ゆ、ユズちゃん!?」

「ユズ、大丈夫!?」

 

 傍に居たモモイとミドリが慌てて倒れたユズの身体を抱き起せば、赤くなった額をそのままに目を瞑るユズ。彼女の身体はぐったりとしており、ヘイローが消失していた。耳を澄ませば微かに聞こえて来る穏やかな寝息――それを確認した他の三人は苦笑を零す。

 

「ね、寝ちゃった……?」

「……ずっと、徹夜だったもんね、六日間」

 

 意識を失う様にして寝入ったユズ、しかしそれは仕方ない事なのかもしれないと二人は納得する。ミレニアムタワーに襲撃を仕掛け、そこから六日間不眠不休でのゲーム制作。寝る間も惜しんで作業に打ち込んだ彼女達の体力は、殆ど底を突いている。人生で一番全力を尽くした六日間と云っても過言ではない。それを自覚した途端、二人の身体もゆらりゆらりと左右に揺れ始める。

 

「さ、流石に私も、限界かも」

「お姉ちゃんも……? 実は、へへ、わ、私も……」

「えへ、へへ、やっぱり……?」

 

 目の下に濃すぎる隈を作った姉妹は、互いの満身創痍とも云える姿に笑い合いながら床に転がる。ユズを挟む様にして寝転がった二人は、自身を覗き込むアリスを見上げながら苦笑を浮かべた。

 

「ごめん、アリス、ちょっとだけ、横に……」

「わ、私も、少しだけ――」

「あっ……」

 

 それだけ口にして、モモイとミドリは目を瞑る。そして数秒と経たず二人のヘイローは消失し、そのまま意識を失ったのが分かった。耳に届く三人分の寝息、アリスは寝入った三人を見下ろしながら呟く。

 

「……皆、眠ってしまいました」

 

 全力を出し切った仲間達、アリスは彼女達の眠りを妨げる事無く立ち上がる。このまま寝ていては、風邪を引いてしまうかもしれないと思ったのだ。ソファに畳まれていた毛布を掴むと、アリスは三人の上に広げて被せる。そして皆の寝顔を暫くの間、じっと見守っていた。

 そんな彼女の耳に届く――誰かの足音。

 アリスが振り向くと同時、ゲーム開発部の扉がゆっくりと開くのが分かった。

 

「……先生」

「やぁアリス、皆は――」

 

 顔を覗かせたのは先生、僅かによれた制服に跳ねた髪。走って来たのか顔が紅潮しているのが分かる。先生の視線は座り込んだアリスに向けられ、それから三人揃って寝入るミドリ、ユズ、モモイに向かった。

 眠っている事に気付いた先生は一層静かに足を動かし、そのまま扉を音もなく閉める。

 

「……眠っているね」

「はい、限界ギリギリまで制作を続けていたので、稼働限界が来てしまいました」

「そっか、ミレニアム・プライスには――」

「提出済みです」

「良かった、間に合ったんだね」

 

 その事に胸を撫でおろす先生。今日のこの瞬間には立ち会わなければと、急ぎ仕事を片付け走ってきたが、少しだけ間に合わなかった様だ。

 しかし、無事提出出来たのならば喜ばしい。先生は並んで眠る彼女達の前髪を指先で払い、微笑みを零す。

 

「アリスは眠くない?」

「はい、アリスの活動限界にはまだまだ余裕があります」

「流石だね」

「寧ろ、先生の体力ゲージが赤色なのではありませんか?」

 

 自身の隣に屈みこむ大人に対し、アリスは純粋な疑問をぶつける。キヴォトスの生徒と比較しても一等頑丈な身体を持つ彼女からすれば、先生の脆弱な肉体はより弱々しく見える事だろう。アリスは先生の袖を引きながら、強い口調で断言する。

 

「先生の体力はスネイル(雑魚モンスター)以下ですから、無理をすると直ぐに教会に向かう羽目になってしまいますよ?」

「ははっ、そうだね、気を付けるよ」

 

 彼女の言葉に押し殺す様な笑みを零し、先生はアリスの頭を撫でつける。無言でそれを受け入れ喜色を滲ませるアリスは、そのまま暫しの間先生と一緒に三人の寝顔を見守り続けた。そして何かを思い立ったのか、不意に立ち上がるとPCの前に足を進ませる。

 そしてミレニアム・プライスのウェブサイトを開くと、そのまま両手を膝の上に置いて微動だにしなくなった。

 

「……アリス?」

「ミレニアム・プライスの発表まで、アリスは此処で待機します」

「でも、発表まであと三日はあるよ?」

「それでも、です」

「……そっか」

 

 アリスの言葉に頷きを返した先生は、そのままアリスの元へと足を進めると再び腰を下ろす。自身の隣に寄り添う先生に、アリスは目を向ける。

 

「なら暫く、私も一緒に居ようかな」

「お仕事は、大丈夫なんですか?」

「元々何かしら手伝うつもりで来たから、半日休暇って奴さ」

「問題の先送りですね、アリス知っています」

「……はは」

 

 乾いた笑いが漏れた。彼女の言葉が存外間違ってもいないからだ。シャーレは多忙を極める、しかし彼女達の為に協力を惜しまないという約束は違えない。どれだけ多忙であっても、彼女達の為に時間は作る。その為の先生――その為の自分だ。

 アリスはPCのモニタを凝視したまま、ふと口を開く。

 

「先生」

「うん?」

「アリス達の作った、ゲーム開発部の作品(テイルズ・サガ・クロニクル2)は……」

 

 ぐっと、両手を握り締めたアリスが強張った表情で問いかける。最後まで口にしなかったのは、それに不吉なものを覚えたからか。彼女の表情に滲むのは不安や恐怖といったネガティブなもの――自分達の創り上げた作品が、果たして受け入れられるのか、望んだ結果を手繰り寄せてくれるのか。

 彼女はきっと、怖くて仕方ないのだ。

 

「――大丈夫さ」

 

 先生はそんなアリスを横目に、小さく、けれど確りと告げた。微かに震えたアリスの指先が、先生の大きな手に触れる。ゆっくりと開いた先生の指先を、アリスの手が強く握り締めた。

 

 ■

 

【第二十九話】

 

 ミレニアム・プライス開催――当日。

 

【こちらミレニアム・プライス、授賞式会場です! 今年も始まりましたミレニアム・プライス! 司会及び進行を担当するのは私、コトリです!】

「は、始まった……!」

 

 ゲーム開発部の部室、そこに設置された古いテレビの前に集まるモモイ、ミドリ、ユズ、アリス、先生の姿。彼女達の視線はテレビに注がれており、画面の向こうではエンジニア部のコトリがマイクを片手にミレニアム・プライスの開催を告げていた。

 場所はミレニアムサイエンススクールの中央広場、カメラ越しに見える現地には大勢の生徒達が詰めかけており、かなりの盛況である事が伺える。モモイは自分の手の中にあるクラッカーを見下ろしながら、険しい表情で呟いた。

 

「もし受賞したらクラッカーを鳴らそっか、でも、そうじゃなかったなら……」

「……直ぐに、荷造りしないとね」

 

 ミドリの言葉に頷きを返す。これで受賞を逃せば、ゲーム開発部は廃部。部室も没収され寮に戻される事となる。モモイ、ミドリは勿論、寮に戻りたくないユズまで――そして、アリスは。

 

「っ……!」

 

 そこまで考えてモモイは首を振る。ネガティブな思考を振り払い、歯を食い縛る。自分達に出来る事は全部やった、文字通り提出した後気絶する様に倒れる程、全力を費やした。だから後は結果を信じ、待つだけだ。

 

【今回は、これまでのミレニアム・プライスの中で最も多い応募数となりました! 恐らく生徒会の方針変更により、部活動維持の為に成果が必要となった影響かと思われます!】

「コトリちゃん達の方は無事だったみたいだね、何事もなく司会に抜擢される位だし……」

「エンジニア部は元々、ミレニアムの中でもかなり功績が認められている部活だったから……でも、本当に良かった」

「……それにしても過去最多の応募かぁ」

「モモイ、不安ですか?」

「ちょ、ちょっとだけね……」

 

 アリスの問い掛けにモモイは弾む胸元に手を添える。只ですら受賞は難しいというのに、今年に限っては応募数も増えたという。当然母数が増えれば確率は更に下がる、その現実を前に少しだけ彼女の臆病な心が顔を覗かせていた。

 

【歯磨き粉と見せかけてモッツアレラチーズが出る持ち歩きチーズケース、ミサイルが内蔵された護身用の傘、ネクタイ型モバイルバッテリー、光学迷彩下着セット――今回応募された中から栄光の座を手にするのは……僅か七作品!】

「っ、七作品……」

「何百って作品の中の、七つ……!」

【それでは発表します! まずは――第七位から!】

「来るよ、皆」

 

 皆の背後に佇む先生の言葉に、全員が体を強張らせる。

 きた、遂に来た――受賞作品の発表だ。

 両手を痛い程に握り締め、画面を睨み付ける様にして見つめる面々。画面の向こうでコトリがフリップを取り出し、受賞作品の一つを発表した。

 

【七位はエンジニア部、ウタハさんの『光学迷彩下着セット』です! これは身に着けていても下の素肌が見えてしまう為、そもそも着用する意味があるのか分からないエキセントリックな作品ですが……露出癖の患者さんが合法的に趣味生活を営めると云う点で大変高い評価を受けました! その評価を下した審査員が一体誰なのか気になってしまいますね!】

「な、七位はパスだね……」

「フーッ、まぁ私達の作品は七位にふわさしくないよね」

 

 第七位――そこにテイルズ・サガ・クロニクルの名はない。その事に息を吐き出す四名、しかしまだまだこれから、モモイは強がりを口にしながら震える手を必死に隠す。

 まだ枠は六つもある、きっと大丈夫、そう自分に云い聞かせる。

 

【続いて第六位は、『千六百八十万色に光る別にゲーミングではない冷蔵庫ッ!』、凄く目が疲れますね! しかし内部の冷却機能は凡そ三分で対象を氷漬けに――】

「………」

【第五位は、『シャーレの先生私生活音声、一緒にお昼寝編』です! 因みにこれは決して本人の音声ではなく、AIを用いた疑似的な再現音声である為――】

「ま、まだ呼ばれないみたい……」

「つ、次は四位です」

「さ、流石に、そろそろ……」

 

 トントン拍子で発表は続いて行く。ゲーム開発部の名は呼ばれない、テイルズ・サガ・クロニクルの名もまた同じ。画面の向こう側に立つコトリは笑顔で受賞作品を発表し、その度に歓声と悲鳴が会場より響いて来る。

 第四位――これも違う。

 七つの限られた枠、その半分が既に埋められてしまった。その事に否が応でも恐怖心が滲み出る、まさかこのまま呼ばれないのではないか、自分達はまた失敗してしまったのではないか。そんな想いが体を侵し、恐怖で泣き出しそうになる。

 

【――さて、ここからはベスト三の発表です!】

「っ!」

「お願い、お願い……!」

「どうか……!」

「ぅ、っ……!」

 

 全員が固唾を呑んで両手を重ねる。知らず知らずの内に肩を寄せ合い、恐怖心を紛らわせようとしていた彼女達は――画面の中で提示されるフリップと、自分ではない部活の名前に歯を食い縛る。

 

【今年のミレニアム・プライス、第三位を受賞したのは――ッ!】

「お願いします、私達の名前を……!」

「どうか、どうか……ッ!」

 

 第三位――違う、私達じゃない。

 後二枠、第二位と第一位しかない、どちらか、一位じゃなくて良い。本当は七位でも良かった、ただ入賞したという事実が欲しい。この場所を、自分達の居場所を守る為に。

 これからも皆で、ずっと一緒にゲームを作る為に……!

 

【栄えある第二位、これに輝いたのは――!】

 

 第二位が発表される――これも違う、ゲーム開発部ではない。

 最後、最後の一枠。全員が隣り合う仲間の指を強く握り締め、涙を滲ませながら画面を見る。派手な演出、軽快なBGM、笑顔の審査員、それらに反しゲーム開発部の心臓は今にも弾けそうで、緊張で死んでしまいそうな程。

 一瞬一瞬がコマ送りの様に、恐ろしく遅く感じる。時間の流れが変わった、画面のコトリがフリップを掴み、取り出そうとする。

 最後の一枠、最後の受賞作品。

 

 ――これに名前が無ければ、ゲーム開発部(私達)は。

 

【最後に、今回のミレニアム・プライスで最高の栄誉を受賞した作品です!】

「――ッ!」

 

 全員の身体が跳ねる、第一の受賞作品、そのフリップが提示される。会場が沸き立つ、現場を盛り上げるBGMがより大きくなる。それと同じく、皆の心臓が高鳴って。

 

「栄えある第一位はッ!」

「――っ!」

【『新素材開発部』の――ッ!】

 

 その瞬間、モモイは素早く立ち上がり、テレビの電源をコードごと引き抜いた。ブツン! と音を立てて沈黙するテレビ、唐突なそれに呆気にとられる他の面々。けれど最後の声、第一位を受賞した部活動だけは分かった。

 

 ――私達は失敗したのだ。

 

「お、お姉ちゃん……?」

「っ、ぅ、ぐぅうう――ッ!」

 

 テレビのコードを握り締めたまま、俯き項垂れるモモイ。そんな姉の姿にミドリは戸惑い、その背中を摩る。ユズは落涙するモモイの姿を見つめながら、強張っていた体から力を抜いた。背一杯頑張った、努力した、けれど――届かなかった。

 力ない笑みを浮かべ、天井を見上げたユズはぽつりと呟く。

 

「結局、こうなっちゃうなんて……」

 

 超えるべき壁を越えられなかった。

 けれど不思議と涙は流れなかった。

 それは未だ嘗てない程、全力で抗って敗れたからだろうか? ユズには分からなかった。

 

「落ち着いて、お姉ちゃん、これで全部、終わった訳じゃ――」

「分かって、いる……よ! 全部が、否定された訳じゃないって! そんなのっ……でも、でも……!」

 

 崩れ落ちたモモイを抱き締め、そう言葉を口にするミドリ。しかしモモイは緩く首を振りながら、涙に塗れた声を漏らした。ぽろぽろと、絶え間なく頬を流れる涙。それが床を濡らし、目元が赤く染まる。

 

「今回の制作で私達はずっと成長できた! 良いゲームを作れた手応えもあった! もっと時間を掛ければ、大きい部室だって、実績も積めるかもしれないって……! けれど、この場所は無くなっちゃう! 私達の、ゲーム開発部(居場所)は! ユズも、アリスだって……!」

 

 歯を食い縛り、涙と鼻水に塗れながらモモイは叫ぶ。いつか自分達は神ゲーを作れるかもしれない、自分達を罵倒したプレイヤーを見返せるかもしれない。良い部室も貰えるようになって、予算だって潤沢の素晴らしい環境を作れるかもしれなくて――けれどそれは、今じゃない。

 

「――私はっ、私はッ! 今、その(結果)が欲しかったのにッ!」

「……心配しないで」

 

 泣き叫び、慟哭するモモイに対しユズは穏やかな口調で告げた。はっと顔を上げたモモイが見たのは、薄らと微笑みを浮かべるユズ。その結果に反して悲しさを見せない友人の姿に、モモイは思わず言葉を呑んだ。

 

「――私、寮に戻るよ」

「ユズ……!」

「私はもう大丈夫、もし仮にまたクソゲー開発者なんて、そんな風に云われても平気――だって」

 

 緩く首を振ったユズは、憂いの無い笑みで以て告げる。

 

「今の私は、ひとりぼっちじゃないから」

 

 モモイ、ミドリ、アリスちゃん、先生――自分には勿体ない位、大切な人達がいる。それはユズにとって何物にも代えがたい宝物で、例えこの場所が無くなったとしても消える事は無い。だからユズは、今まで恐れて踏み出せなかった世界にだって一歩を踏み出せる。そう思ったのだ。

 

「………ユズ」

「先生、色々とありがとうございました、この場所を守る為に力を貸してくれて」

 

 ユズは先生と向き合うと、深々と頭を下げて云った。

 

「――先生がこの部室に来てくれたから、私達は大きく変わる事が出来たんです、私達だけだったらきっと、色んな事が上手くいなかったと思うから」

「……いいや」

 

 ユズの言葉に先生は目を閉じる。そんな事は無い、自分が力を貸した事など微々たるものだと。彼女達は、彼女達の力と勇気で此処まで道を切り開いて来た。先生は強く、そう思う。

 

「先生、アリスちゃんの事を、お願いします……」

「……アリス」

 

 皆の視線がアリスに向けられる。その視線に含まれるのは罪悪感、後悔、自責の念。それらを感じながらアリスは俯き、自身の制服を力一杯握り締める。

 

「あ、アリスは……」

 

 縺れた舌で必死に紡ごうとした言葉は上手くいかなくて、彼女は何度か言葉を詰まらせながら、漸く声を絞り出した。

 

「もう、皆と一緒に、居られないんですね……」

「っ!」

 

 歪んだ表情と共に、放たれたその言葉。

 

「ごめん、ごめんね、アリスちゃん……!」

「アリス……ッ!」

 

 失敗すれば、こうなる事は分かっていた。だから彼女が俯き、酷く悲しそうな表情でそう呟いた時、三人はどうにも堪え切れず彼女へと飛びついた。痛い程に抱きしめられた腕が絡み合い、ゲーム開発部はアリスに思いの丈をぶつける。

 

「私、毎日シャーレに行くから! 絶対に毎日会いに行くから! 何処に行っても、一緒にゲームを作ろう!」

「う、うぅうっ――……や、やっぱり嫌! いやだぁっ!」

「も、モモイ……」

「やっぱりアリスをシャーレに連れて行っちゃ駄目! わ、私の部屋に連れて行く! ベッドも一緒に使おう!? ごはんも二人で分けて食べるからぁ!」

「なっ、なら、私の分もあげるっ! ゲームに使っていたお小遣いも、全部使うから……!」

「――それは」

「二人共、先生を困らせちゃ、駄目だよ……もしもその事がバレたら、モモイも、ミドリも……」

「ユズ、ミドリ、モモイ……」

 

 ぽろぽろと涙を流し自身に縋りつく三人、全員の抱擁を受けながら沈痛な面持ちを浮かべるアリス。

 そんな彼女達の耳に、廊下を駆ける誰かの足音が聞こえて来た。次いで勢い良く開け放たれるゲーム開発部の扉――その向こう側から、ぬっと現れる生徒、ユウカ。

 彼女はゲーム開発部の中に目を向けると、一つの塊になって抱き合う部員達を見つけ満面の笑みを浮かべた。

 

「モモイ! ミドリ! ユズ! アリスちゃん!」

「ひ、ひぃっ、ユウカ!?」

「ちょ、ちょっと待って、そんな、直ぐに出ていく事なんて……!」

「ま、まだ荷造りも、何も……」

「鬼! 悪魔! ユウカ! 生徒会に人の心はないの!?」

「――おめでとうっ!」

 

 全員が阿鼻叫喚の叫びを上げる中、笑顔を崩さずに告げるユウカ。満面の笑み、喜色と歓喜に塗れた彼女の雰囲気と表情にゲーム開発部は呆気に取られる。

 

「……えっ?」

「は……?」

「………?」

「えっ、なにこの反応は……」

 

 しかし、戸惑ったのはユウカも同じであり、何だかんだとクラッカーでも鳴らしているのではないかと思って入室してみれば涙と鼻水に塗れた顔ばかり。困惑を滲ませたユウカは部屋の中の惨状と、沈黙するテレビを一瞥し思わず顔を顰めた。

 

「もしかして、ミレニアム・プライスの結果を見ていなかったの?」

「け、結果って……」

「私達は、七位に入れなくて、落選したから……」

「全く、何を云っているのよ? 今も放送中なんだから、きちんと見なさい!」

 

 呆れたように溜息を零したユウカは無遠慮に部室の中へと足を進めると、「何でコードごと抜いてあるのよ……?」とテレビの電源を点ける。そして僅かなノイズと共に再び画面を映したテレビを見て、満足そうに頷いた。

 

「私も端末で視聴しながら走って来たのに――ほら、まだやっているわ!」

 

 映し出されたミレニアム・プライスの会場――そこでは丁度、壇上に上がった審査員が何かを語りかけている最中であった。ユウカの勢いに気圧されたゲーム開発部の面々は互いに顔を見合わせ、恐る恐るといった風にテレビの前へと集合する。

 無数のカメラ、ドローンに囲まれた審査員のロボットはマイクを片手に堂々たる立ち姿で観客を見渡し、力強く声を発した。

 

【ミレニアム・プライスはこれまで、生徒達の才能と能力で作られた作品に対し、実用性を軸に据えて授賞を行って参りました、これはより良い未来を求め、実現していくと云う趣旨に基づいており、今後ともこの軸をズラす事はありません】

【しかし今回の作品の中には、新しい角度から実用性を感じさせてくれたものがありました、とあるゲームが実際に、懐かしい過去をありありと思い出させ、未来への可能性を感じさせてくれたのです】

【レトロというものは、過去に目を向けたものです、常に未来を見据え最先端を突き進むミレニアムに於いては余り注視されない分野とも云えるでしょう……しかし、だからこそロマンがあり、新たな着眼点が生まれる】

【レトロチック・ロマン――これは、今までのミレニアムに存在しなかった、革新的な視点です】

【よって私達はこの度――異例の選択をする事にしました】

【今回の受賞枠に、特別賞を設けます、その受賞作品は――ゲーム開発部、『テイルズ・サガ・クロニクル2』です!】

 

 湧き上がる観客、異例の決定に様々な声が飛び交う。設けられた第七枠、その例外となる第八枠目――見事その座を射止めたゲーム開発部の『テイルズ・サガ・クロニクル2』。

 全員が目を見開き、硬直する。唖然とした表情で画面を見続け、それから抱き合ったまま互いの顔を確認する。目の前にある仲間の顔はやはり、自分と同じように呆然としていて。

 

「ぇ、ぁ……え?」

「こ、れ……ほんと?」

「ゆ、夢じゃ、ない、よね?」

「夢なんかじゃないわ!」

 

 ぼそぼそと呟かれたそれに、ユウカは変わらず笑みを以て答える。その力強さに、少しずつ再起動を果たすゲーム開発部。ふつふつと湧き上がる衝動、ぎこちなくアリスへと視線を向ければ、爛々と輝く瞳と視線が交わる。

 

「アリス……!」

「モモイ、ミドリ、ユズ……!」

「な、ならっ、それなら、ゲーム開発部の廃部は……!」

「えぇ、部の存続を許可するわ! ――あっ、でもあくまで臨時の猶予だからね? 今回の受賞は正式な受賞ではないし、これまでの騒動を踏まえて、生徒会としてはまた来学期までゲーム開発部の廃部、部室没収を保留する事にしたの」

「来学期、って事は……まだ猶予は沢山ある!」

 

 今期と来期を合わせれば、猶予はまだまだある。それこそ六日間で仕上げたテイルズ・サガ・クロニクル2を超える大作を作る事だって夢じゃない。次のゲームはきっともっと、素敵で、壮大で、面白い世界を作れる筈だ。そうすれば実績が付く、実績があれば――まだまだ、皆と一緒に居られる。

 捕らぬ狸の皮算用と云われてしまえばそれまでだが、それでも語れる未来があるというのは素晴らしい事の様に思えた。

 

「その、悪かったわね」

「……?」

「あなた達の大切なもの、ガラクタって云ってしまって」

 

 不意にユウカが謝罪を口にした。一体何の事だとモモイ達が疑問符を浮かべれば、どこか気まずそうに頬を掻いたユウカが、部室に飾られた様々なレトロゲームを眺めながら告げる。

 

「実は例のゲーム、私もプレイしたのよ、おかげで思い出したわ、小さい頃に遊んでいた色々なゲームの事……久し振りにあの頃の、新しい世界で旅をする楽しさを思い出せた」

 

 ゲームを卒業する人、続ける人。その差はあっても幼い頃に遊んだ記憶はいつまでも色褪せる事無く、楽しさは不変である。愛を込めて作り上げた作品は、必ず誰かに届く。ユウカもまたその一人だった、ずっと昔に触っていたゲームの楽しさを今回手にした作品で思い出したのだ。

 どんなものであっても、本気で取り組むならば笑ってはいけない。ミレニアムの理念とはつまり、未知への探求(七つの難題)にあるのだから。

 

「――んんっ、兎に角、部室の延長申請と部費の受け取り処理は必要になるから、落ち着いたら生徒会室に来て、来学期まではきちんとした部活動として扱うから……それじゃあ、また後で!」

 

 それだけ云って、恥ずかしそうに踵を返すユウカ。部室の扉に手を掛けて、それから先生に目を向けた彼女は口を尖らせる。

 

「先生も、その、えっと……」

「――分かっているよユウカ、また後で」

「は、はいっ!」

 

 何事かを云い掛け、結局口にする事無く廊下へと飛び出す彼女。その背中を見送り、ゲーム開発部の面々はお互いを一瞥する。

 

「ほ、本当に……」

「私達、やり遂げたの……?」

「やっ――」

 

 ぐっと、身を丸めたモモイは震える拳を抱え――それから、あらん限りの声で叫んだ。

 

「やったぁあアアッ!」

 

 全力での歓喜、突き上げた拳が空を切る。画面の向こうでは今回のミレニアム・プライスで受賞した作品達が並べられている。第一位から第七位まで、その端に燦然と輝くゲーム開発部作――『テイルズ・サガ・クロニクル2』の文字。

 モモイの歓喜を皮切りに、ゲーム開発部の胸に実感が湧き上がる。自分達は成し遂げた、凄まじい困難を乗り越えたのだという感情が爆発する。

 

「先生っ、先生やったよ! 私達、私達がミレニアム・プライスで……ッ!」

「あぁ、おめでとう!」

「アリスちゃん! 私達、特別賞を受賞したんだよ! この場所も、私達の部室のまま!」

「それなら……それなら、アリスはこれからも、皆と一緒に居て良いのですか?」

「当然でしょ!?」

 

 アリスの涙が滲んだ問い掛けに、三人は全力で頷きを返す。アリスの手を取り、破顔した彼女達は全身から歓喜を滲ませながら叫んだ。

 

「これからも私達――ずっと一緒に居られるんだ!」

「――ぁ」

 

 この場所を守り切った、ゲーム開発部は存続を許され、廃部にはならない。余りにも突然の事に声が出ない、何を云って良いの分からない。けれどアリスは戦慄く唇を結び、腹の底から言葉を一つ一つ汲み取る様に取り出し、ゆっくりと笑みを浮かべながら云った。

 

「わ、私も……アリスも、皆と一緒に居れて、嬉しいです!」

「アリスちゃん……!」

「アリス!」

 

 ゲーム開発部全員が涙を流しながら笑みを浮かべる。其処には恐怖も不安も無い、希望に満ちた光だけが輝いている。

 大変な困難があった、他の生徒からすれば何て事の無い、ちっぽけな困難に見えたかもしれないけれど――彼女達にとっては明日、世界が終わってしまう様な試練だった。

 もう駄目だと思った事もある、何度も諦めようと思った。

 けれど仲間達と力を合わせ、彼女達は明日(未来)を掴み取ったのだ。

 

 モモイが皆の手を繋ぎ、大粒の涙を流す。けれどそれに負けない位、太陽の様に輝かしい笑顔で以て告げた。

 

「これからもずっと、皆で一緒に居ようね!」

「――はいっ!」

 

 アリスは笑った。

 笑って、その言葉に答えた。

 どんなに辛い物語でも――最後はきっと、ハッピーエンドに。

 

 それこそが、アリスの信じる世界(物語)だった。

 


 

 ずっと一緒に居られると良いね。

 

 という事で今回でダイジェスト版パヴァーヌ前編は完結ですの。

 次回から本編時空に戻ってパヴァーヌ後編を書きます。

 多分二日後か三日後ですので、よろしくお願いいたしますわ~!

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