ブルーアーカイブを、もう一度。   作:トクサン

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 誤字報告凄く助かります。
 ずっと「ギ」だと思っていた私をお許しください。
 


まだ少女だった天使達へ

 

 場所はD.U.郊外、シャーレ部室へと続く公道。いざヘリコプターを飛ばして撃墜されたら目も当てられない為、近場までは車両で、そしてシャーレ本棟までは徒歩で向かう事となった。連邦生徒会から人を出して貰い車で数十分、シャーレにある程度徒歩で向かえる距離になった時点で先生、及び『暇な人達』を下車させると、「では、後は任せます、くれぐれも先生をお守りする様に、主席行政官は後程別働隊を率いて合流しますので」と口にして、運転を担当した行政官はサンクトゥムタワーへと戻って行った。

 その去っていく車両の背中を呆然と見送っていた先生を除く四名は、思わず口にする。

 

「――何で私達が戦場に出ないといけないのよ!?」

「……まぁ、サンクトゥムタワーの制御権を取り戻す為に、部室の奪還は必須ですから」

「いや、それは聞いたけれど! なんでミレニアム所属の、しかもセミナーの私がっ……!」

 

 荒ぶるユウカに、ゲヘナ風紀委員所属のチナツは宥める様に声を掛ける。トリニティ所属のハスミとスズミは、「まぁ、こんな事だろうと思った」と何処か諦め気味である。元々正義感の強い二人である、恐らく頼まれなくても同行してくれた可能性は高い。先生は地団駄を踏むユウカの肩に手を置き、笑いかける。

 

「すまないユウカ、連邦生徒会も今は混乱で人手が足りない、どうか頼むよ」

「ぐっ――」

 

 先生の笑みを直視し、どこか言葉に詰まるユウカ。

 初対面の大人の男性である、関わり合いもない、知り合いでもない。だと云うのに何故か――他人な気がしない。

 妙な気分だった、彼に名前を呼ばれると胸が弾む。

 

 ――この人に頼まれると、断れる気がしない。

 

「わ、分かりました、元々連邦生徒会に頼まれたら断れませんし、キヴォトスの――結果的にはミレニアムの為ですから!」

「………」

 

 頬に桜を散し、早口で捲し立てるユウカを隣のチナツが、「何だこいつ」と云わんばかりの目で見ていた。その瞳に映る感情は何だろうか、呆れか、或いは、「ちょろすぎるのでは?」という感情か。どちらにせよやめてさしあげろ。

 ライフルを担いだ長身の女性、ハスミが先生を感心した様子で見つめる。

 

「連邦生徒会所属ともなれば、主要な生徒は把握済みでしょうか? ですが一応、自己紹介を――正義実現委員会の羽川ハスミです」

「あぁ、えっと、ゲヘナ学園、風紀委員の火宮チナツです、よろしくお願いします」

「トリニティ自警団の守月スズミです」

「わ、私は早瀬ユウカです、ご存知の様ですが」

「――うん、宜しく、私の事は気軽に先生と呼んで欲しい」

 

 自己紹介――目の前で名前を告げる生徒達を前に、先生は僅かに眉を顰める。無論、彼女達に悟られない程度に。

 知っている相手を前に、初対面の如く振る舞われるというのは……想像以上に、堪えるものだった。

 否、これは分かり切っていた事だろう。今更、何を傷つく事があるのか。自身にそう言い聞かせ、喝を入れる。こんな事で心に傷を負う事など、許されない。これから歩む、修羅の如き道に比べれば。

 そんな彼の葛藤を他所に進行先を見つめるハスミは、やや険しい表情で告げる。

 彼女の視線の先には屯し、破壊行為に勤しむ不良軍団の姿がある。統率は取れているが最低限、それこそ纏まって行動して好きに暴れろ――程度のものだろう。特に率いているリーダーがいる様子もない。

 

「戦闘を行うのであれば、先生を守る事が最優先――シャーレの奪還は二の次ですね」

「えぇ、先生はキヴォトス外の方、弾丸一発でも致命傷に成り得ますから、どうかご注意を」

「分かっているわ、先生、戦闘は私達に任せて、後方の安全な場所に――」

「いや」

 

 彼女達の提案を、先生は首を振って否定する。

 無論、彼女達と同じように銃を握って戦うつもりはない。肉体的なスペックとしても、銃を扱う技量としても、鉄火場に立つには不適格な存在であると自負している。

 しかし――そんな己にも役割はある。

 

「後方には下がろう、ただ戦術指揮は私が執る、従って欲しい」

「ええっ!?」

 

 先生の言葉にユウカは驚愕し、周囲の生徒も大なり小なり似たような反応を返した。込められた感情は期待、不安、猜疑――しかし、それが誰とも知れぬ相手ならば兎も角、相手は連邦生徒会長が直々に指名した大人。無能である筈がないという、ある種、『連邦生徒会長』に向けられた信頼が先生にも及んでいた。

 

「……いや、でも先生だし――出来て当たり前、なの、かしら」

「信じてくれ」

 

 皆の顔を見返し、真摯に告げる。

 彼女達は一瞬顔を見合わせるも、判断は早かった。愛銃を握り締めながら、皆が力強く頷く。

 

「――了解しました、先生の指揮に従います」

「先生の言葉に従うのは自然な事、よろしくお願いします」

「信じます、先生」

「わ、分かりました――お願いします、先生!」

 

 皆が真剣に、或いは笑顔を浮かべながら承諾する。その信頼が――どうしようもなく心地良い。嘗て失ったものがそこにある。その事実が、彼を心胆から燃え上がらせた。

 

『状況開始、オペレーティングシステム、戦術指揮モード起動します』

 

 ――幻聴だ。

 けれど、確かに聞こえた。あの瞬間、燃え盛るキヴォトスの中で唯一、最後まで自身と共に在った彼女の声が。

 先生は数秒、目を瞑る。深呼吸を一度――そして再び目を開いた時、其処には機械的で冷徹な色が宿っていた。

 地獄の様な修羅場を掻い潜って来た先生と呼ばれる男にとって、戦術指揮(コレ)は自身の全てであり、存在価値そのものである。どれだけ損耗を少なく、苛烈に、冷徹に、淡々とした戦場を描けるかどうか。

 この一戦で、自身の価値を証明する。

 

 進路上に存在する敵性勢力――不良達を見据える。

 この暴動を引き起こした元凶に従う障害、その排除の為に必要な情報と効率的な戦闘行動を頭の中で組み立てる。本来であれば生徒一人一人の役割と得手、思考などのデータが必要になってくるが――その点について、己は既に熟知している。

 

「前衛をユウカ、中衛をスズミとチナツ、後衛をハスミに編成する――敵総数、十名」

 

 指先で凡その距離を測り、障害物と敵の位置、味方の位置を頭の中で構築する。思い浮かべるのは三次元化された盤上、その中で味方を動かし敵を打倒する道筋を描く。

 

「せ、先生?」

 

 豹変した先生の気配に生徒たちはたじろぎ、しかし彼は歯牙にもかけない。予想される敵の動きと味方の動き、それらのシミュレートに脳のリソースの大半を注ぎ込んでいる。外部刺激を限りなくシャットアウトし、組み上がった戦術を口に出し実行。

 

「ユウカ、五十メートル前進、弾倉一つ分射撃後シールド展開、ハスミ、二十メートル前進、遮蔽物に身を隠し後列三人目狙撃、スズミ、四十メートル前進、弾倉半分射撃後、閃光弾前列投擲、チナツ、スズミに随行、援護射撃後頃合いを見て回復剤準備」

「!」

「は、はい!」

 

 唐突に出された詳細な指示、雰囲気の変わった先生には驚いたものの、断言するように出されたソレは自信に満ち溢れている。否、自信というよりは――確信か。

 先生を除く全員が一斉に物陰から飛び出せば、それなりに距離があっても気付かれる。不良達は飛び出した生徒達に気付き、慌てて迎撃態勢を取った。

 

「っ、敵襲~! 敵襲ぅ~!」

『ユウカ、対象のヘイトを』

「了、解…!」

 

 連邦生徒会より支給された無線機を使用し、指示を出す。具体的な方法ではなく、簡素な指示。しかしユウカはその意思を正確に汲み取り、愛銃を腰だめに構えると派手に銃弾をばらまき視線を集めた。一人が運良く、或いは運悪くか射線上に重なり、数発頭部に弾丸を受け斃れる。打ち所が悪かったのか、起き上がる気配はない。

 

『弾倉払底まで三、二、一、シールド展開、今』

「計算、完了ッ!」

 

 派手に視線を引きつけ、弾倉の弾が切れると同時にユウカは演算を完了させる。彼女の『特殊技能』(EXスキル)は電磁シールド防御。自身を中心とした円形のシールドを形成し、表面に弾丸が触れるとあらぬ方向へと逸れるというもの。その為、彼女単騎での生存能力は非常に高い。

 先生はそれを、良く知っている。

 

 派手な掃射に目を引きつけられ、見事にヘイトを買った彼女は複数の銃口に狙われる。一斉に火を噴き、本来であれば彼女をハチの巣にしたであろうそれは――しかし、悉くシールドに拒まれ逸脱する。

 

「閃光弾、着弾、今!」

「うわッ……!?」

 

 視線を引きつけ、反撃を誘い、ユウカを注視していた所に――スズミの閃光弾が投げ込まれる。ユウカを注視していた者ほど光をモロに喰らい、悶えた。

 

『ハスミ』

「――はい」

 

 絶対的な信頼を含んだ声――無線機越しに響く先生の声に、ハスミは力強く返答を行う。障害物の縁に乗せた愛銃、インペイルメントが一拍後、金属音を掻き鳴らし火を噴いた。放たれた弾丸は真っ直ぐ対象へと進み、目を覆って悶える一人の不良、その頭部を弾く。大きく後ろに仰け反った不良はそのまま地面に倒れ込み、数度痙攣してから動かなくなった。

 

「ワンダウン、射撃を継続します、狙いは――」

『前列右から順に、鴨撃ちだ』

「……了解」

 

 コッキングを行い、弾け飛んだ空薬莢を目で追う。酷く落ち着いた心地だった、それは理性的なものではなく、本能的なものだ。この人の声に従っていれば間違いがない、負ける筈がない――そんな信頼とも、確信でもない、漠然とした予感が胸の中にあった。

 

「リロード、完了!」

『前列を突破、目の眩んでいる敵一人にCQC』

「ッ!」

 

 未だ目を覆って立ち直れていない前列は、ハスミとスズミ、チナツが順に撃ち取っている。ユウカはその中を切り裂く様に駆け、中列で今まさに立ち直ろうとしている不良、その一人に近接格闘を仕掛けた。

 

「射撃戦だけじゃないって所、見せてあげるんだから……ッ!」

「うぇッ!?」

 

 鋭く踏み込んだユウカは、そのまま不良が構えようとした銃を前蹴りで蹴飛ばし、そのまま黒マスクに覆われた顔面を銃床で殴る。「ぐえ」、とも「ぐお」、とも聞こえる呻き声をあげ仰け反った不良の腕を取り、反転させた後、ユウカは鮮やかに関節技を決めて見せた。背面を取られ、片腕をキメられた不良は、「あだだだだッ!」と叫びながらタップを行う。だが無論、そんな事で解放される筈もなく。

 

『スズミ、ハスミ、前から順次射撃、チナツ、スズミと同列にて援護射撃継続』

「はい!」

『ユウカ、その不良を盾に前進』

「盾!? えっ、あ、はい!」

 

 背面を取ったまま愛銃、ロジック&リーズンを構えるユウカ。現在構えているのはロジックの方である、火力が必要な場合のみ彼女は二挺運用を行う。軽量かつ反動が小さい9mmパラベラムのサブマシンガンであり、キヴォトス外の先生よりも肉体的なスペックが優れている彼女達にとって片手運用は容易い。

 片腕で人質の盾を保持したまま、愛銃で近くの敵から順に射撃を行う。

 不安定な体勢にも関わらず精度は全く落ちず、閃光手榴弾から立ち直った不良達は慌てて障害物に身を隠す。

 

『チナツ、【盾】に回復剤投与』

「えっ……!? りょ、了解」

 

 前列の敵は全滅、しかし中列、後列の敵が完全に立ち直った。反撃が来ると先生は確信する。既にユウカは敵陣中程まで入り込み、中衛のスズミ、チナツとはやや距離が空く。必然、敵の攻撃はユウカに集中するだろう。

 しかし。

 

「いで、いだッ! あだァッ! やめっ、あばばばばッ!」

「ひ、卑怯だぞ! 人質の盾とか、お前達に人情というものはないのかッ!」

「いや、街で大暴れしているアナタ達が云える立場じゃないでしょう!? いえ、まぁ、私としても少し複雑だけれども……!」

 

 捕獲した不良を盾にし、攻撃を凌ぐユウカ。サイドアタックさえ警戒すれば、前面の盾程効果的なものはない。飛来する弾丸は悉く肉壁と化した不良に被弾し、ユウカへ届く事はない。仲間に射撃する事に抵抗感を覚えれば儲けもの、無論ヘイローが破壊されない様チナツによる注射器の投擲も万全。この間に特殊技能のクールタイムを稼ぎ、序にユウカしか見ていない不良達を横合いから叩く。

 

『……ユウカ、その場で防御、スズミ、チナツは援護射撃準備、ハスミ、後列右端ポイント狙撃、対象【銃】、タイミング合わせ』

「――銃を狙い撃てば宜しいのですね」

『そうだ――射撃時間合わせ、五、四、三、二、一、発射、今』

「ッ!」

 

 先生のタイミングに合わせ、ハスミは狙撃を敢行する。甲高い発射音、同時に銃弾が不良の持っていた銃に着弾、ユウカを狙い撃っていた不良の銃口が横合いに弾かれ、吐き出された弾丸が真横で射撃に勤しんでいた別の不良に着弾する。

 

「いッあだだだだっ!?」

「あ、エッ、ごめ――」

『スズミ、チナツ』

「はいッ!」

「了解!」

 

 空かさず名を呼べば、二人は同時に身を乗り出して今しがた隙を晒した二名の不良を射撃。弾丸は二人の頭部を綺麗に弾き、不良達は揃って昏倒。

 これで残り五名――敵性戦力は半壊。

 

『ユウカ、シールド展開後、閃光弾に合わせて突撃、スズミ、閃光弾投擲後ユウカに続いて突撃、ハスミ、後列左端一人を射撃、五秒以内、チナツ、中央一人を射撃、ハスミ、チナツ両名は対象射撃後、二人の援護射撃に備え――時間合わせ』

「っ……!」

 

 先生の指示――突貫要請にユウカはぐっと腹に力を籠める。敵は戦力半壊に浮足立ち、気勢が削がれている。盾にしていた不良を背後から数発射撃し、無理矢理昏倒させたユウカは崩れ落ちた不良の影でリロードを済ませ、片手間に端末をタップしシールド展開の準備を行う。

 障害物に身を潜めている中衛、後衛の三人も号令が掛かる瞬間を今か今かと待った。

 

『――行動開始、閃光弾用意、三、二、一、投擲、今』

「行きますッ!」

 

 スズミが叫び、安全ピンを抜いた閃光弾を後列深くに投げ込む。二度目の閃光弾、流石に一度目と同じ効果は望めない。飛来したそれを目視した時点で、残った不良達は物陰に身を隠し耳を覆う。しかし、投擲された――という事実が重要なのだ。分かっていても防御姿勢を取るだけで隙が生まれる。

 ユウカは閃光弾が炸裂すると同時に不良の背から飛び出し、叫んだ。

 

「私に弾丸は命中しないっ!」

 

 シールドがユウカの周囲を覆い、防御姿勢を取ったままの不良に肉薄する。右手のロジックで近場の不良を射撃し、背中に隠し持っていたリーズンを抜き放ち、逆の手でもう一人の不良を狙う。二挺持ちによる複数対象同時攻撃――ユウカが『I.F.F』と呼称する、凄まじい技量の早撃ちである。

 両腕を広げる様にして構えたユウカの愛銃が唸り、凄まじい勢いで弾丸を吐き出す。横合いから無防備に攻撃を受けた不良二人は、「いでッ!」、「あがっ!」と叫びながら地面に叩きつけられる。横腹から側頭部に掛けて複数の被弾を受けた不良二名は小さく痙攣し、銃を手放したまま起き上がる事はない。

 

「ッ! 敵無力化――完了っ!」

「あ、当たった……!」

「敵一人鎮圧完了!」

「此方も、命中です」

 

 各々がユウカの突撃に合わせ、対象を絞り射撃、突撃。チナツ、ハスミの二名は中・遠距離から的確に不良の頭部を狙い撃ち、スズミはユウカのバックアップとして突撃。至近距離からライフルの連射を受けた不良は白目を剥いて昏倒している。残った不良達すべてが戦闘不能に陥り、総勢十名の不良達が地面に転がる。その様子を確認した先生は小さく息を吐き出し、強張っていた肩の力を抜いた。

 

【状況終了、オペレーティングシステム、通常モードに移行します】

「状況終了――」

 

 懐かしい幻聴を再び聞きながら、先生は無線越しに皆の健闘を称え、怪我の有無を問う。幸いにして被弾ひとつなく、完勝ともいえる無傷での勝利に成功した。

 後方待機する先生の元へと帰還した生徒達は、戦闘直後の興奮をそのままに、先生の顔を見つめる。そこにある感情は、分かり易く、同時に先生にとって馴染みのある代物だった。

 

「戦闘がやりやすい、何てレベルではありませんね、凄まじい精度の戦術指揮です」

「先生の指揮、素晴らしいです――」

「これが先生の力……いえ、連邦生徒会長が特別指名した方です、これが当たり前なのかも」

「私達が何も考えなくても、先生の指示に従うだけでこんなにも簡単に」

 

 各々が先生の指揮に対する感想を零す。共通するのは先生が持つ絶対的な指揮に対する畏怖――そして興味だ。連邦生徒会長が直々に指名し、超法規的措置とも言えるシャーレを運営するだけの実力は確かにあると、そう納得できるものが彼には備わっている。

 

「どうやら私達が個々に動くよりも、先生に指揮を任せた方が効率的にも、安全的にも正しい様です――次の戦闘もお願いします、先生」

「あぁ、任せて欲しい」

 

 ハスミの言葉に、先生は力強く頷く。否はない、生徒達も皆、先生に指揮権を預ける事に不安はない様子だった。

 元より、それしか能のない人間である。頸から下はいらない――とまでは云えないが、彼女達の隣に並ぶ為には必須の技能だった。元より備わっていた指揮の才能が、嘗てのキヴォトス動乱によって磨きに磨かれ、今の先生の血肉となっている。

 如何に経験(レベル)の足りない生徒達であっても、十分な意思疎通さえ可能であれば――。

 

「………」

 

 考え、首を横に振る。

 嘗ての彼女達と、今の彼女達を重ねる事は出来ない。それは、どちらの彼女達にも失礼極まりない行為だと思い直した。小さく額を小突き、先生は進路を見据える。

 その瞳に何か、悲哀の念を感じ取ったユウカは小さく尋ねた。

 

「――先生?」

「何でもないよ……先を急ごう、シャーレは直ぐ傍だ」

 

 (いら)えはない。ただ歩き出した先生の背中を見つめ、生徒たちは後に続く。先を往くその背中は確かに頼もしく、大きい筈なのに――何故だろう、彼女達はその背中がどこか、寂しそうに見えて仕方なかった。

 





 この先生が「大人」のカードで、嘗て自分を犠牲にして救ったキヴォトスの生徒達を呼び出すと考えると、その想像だけでご飯が美味しい。
 愛憎と悲哀と妄念の混じった瞳と叫びが聞こえる、聞こえる……。
 これが、美食研究会という事なのでしょうか?
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