ブルーアーカイブを、もう一度。   作:トクサン

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誤字脱字報告、ありがとうございますわ!
今回も約一万四千字ですの!
投降が五分遅れましたが誤差ですわよ誤差!


要塞都市エリドゥ

 

『――先生が運び込まれてから、ある程度話は聞いていたけれど』

 

 薄暗いヴェリタス部室、サブルーム。その中で投影されたホログラム、淡い光で縁取られる人物が頭を抱え、溜息を吐く姿が見えた。彼女は手にした端末を遠ざけながら、苦り切った表情で呟く。

 

『一体何を考えているのよ、会長は……!』

『最近何か裏で事を進めている気配はありましたが、まさかそんな事になってしまっていたなんて――少し、ショックですね』

 

 ゲーム開発部、ヴェリタス、C&Cが連絡を取った人物――それはミレニアムの現生徒会、セミナーに所属するユウカであった。彼女は良くも悪くもゲーム開発部と縁があり、何かにつけて部室に顔を出していた生徒の一人。隣には書記であるノアも同席しており、ユウカと同じく悲しみと戸惑いの表情を浮かべていた。

 

『アリスを誘拐して、ヘイローを破壊する? その上、阻止しようとした先生を拘束、暴行ですって……? そもそも会長、セミナーにも全然顔を出していなかったから寝耳に水状態だし、全く意味が分からないわよ!』

『普段から突飛な行動をされる方ではありましたが、今回のは少々、度が過ぎている様な……』

『ノア! これはもう、そういう次元の話じゃないわ!』

 

 ノアが顎先に指を当てながらそう口にすれば、目の前のデスクを叩いたユウカが声を荒げる。

 

『今回の一件はアリスちゃんの命が掛かっているのよ!? それに先生も、下手したら今より酷い状態になっていたかもしれないし! 幾ら会長だとしても、いや、それ以上の何かであったとしても――やって良い事と悪い事がある筈でしょう!?』

「仮にも自分の先輩なのに、容赦ないね……」

「ま、そういう所がユウカらしいよね!」

「た、頼もしい、かも……」

 

 激昂するユウカに対し、各々感想を漏らすゲーム開発部。彼女は自身の上司とも云える人物に対し、全く遠慮のない物云いをする。その後も何だかんだと言葉を続けるユウカに対し、ハレが軽く手を挙げながら告げる。

 

「私達だと非合法な方法しか取れないけれど、ユウカ達なら内部から探る事が出来ると思って……どうかな?」

『えぇ、えぇ! 任せて頂戴、セミナーの内部情報を洗ってみるわ、全力で協力してあげる!』

『とは云っても、ユウカちゃんの云う通りリオ会長は滅多に顔を出していませんでしたし、セミナー内部の情報で痕跡が残っていそうなものとなると――』

 

 自身の胸を叩き力強く答えるユウカに、思案する素振りを見せるノア。彼女達セミナーからしても、今回の件は全く予測がつかなかったもので、そもそも普段顔を見せないリオに関して探れる情報というのも限られている様に思えた。

 

「取り敢えず今重要なのは、リオ会長が何処に居るか、アリスを何処に連れて行ったのか……って事だよね?」

「そうだね、それを探るのが最優先かな」

「そうなると何か、足取りが掴める情報が必要です」

『現在地が分かる様な情報……ユウカちゃん、何か心当たりはありますか?』

『えっ!? そ、そうね、えっと――』

「ねぇねぇ」

 

 唐突な問いかけに慌て、端末に手を伸ばそうとするユウカ。そんな彼女達に呼びかける声があった。視線を向ければ、どこか落ち着きのない様子で考え込むアスナの姿。彼女の爪先が、一定間隔で床を叩いている音が耳に届く。

 

「ちょっと思ったんだけれど、会長ってどうやって資金を調達したの?」

「アスナ?」

「いやだってさ、部長が戦った時って無人機も一杯居たんでしょう? それに加えてトキちゃんだっけ? その子の専用武装まで用意してさ、部長と競り合う位なんだから、安物って事は無いと思うし」

 

 アスナの言葉に、ネルは当時配備されていたロボット群――AMASの事を思い出し、頷きを返した。

 

「……AMASだったか? 確かにリオの製造した無人機らしい奴らは彼方此方に居やがったが」

「でしょう? それにアリスちゃんを連れて行ったって事は、会長にも拠点みたいな場所があるって事だろうし――何となく、妙な感じがするって云うか」

「妙な感じ、か」

 

 その抽象的で、ぼんやりとした言葉に真剣な面持ちで思考を巡らせるネル。良くも悪くも彼女はアスナの言葉を無下にしない、その驚異的な直感を一番買っているのは彼女であると云っても良い。モモイは彼女の言葉を聞き、ユウカへと再び水を向けた。

 

「ねぇユウカ、実際リオ会長ってお金持ちなの? 何かロボットとか、一杯作れちゃうような設備とか、拠点とか、ドーン! って建てられちゃう位に!」

『さ、流石にプライベートな事になるし、セミナー全体なら兎も角会長の個人資産となると正確な事は……でも敢えて答えるなら、何とも云えない、微妙なラインかしら?』

「微妙なライン、って云うと」

 

 ホログラムの中で唸るユウカに、ハレは続きを促す。ユウカは端末を操作しながら普段の決裁を思い出し、眉をひそめながら答えた。

 

『予算審議会でもそうだし、当たり前の話だけれど研究や製造、設計には多額の予算が必要よ、材料や部品のコストは勿論、研究開発や製造に必要な設備、通信や電力も無料じゃないし……新しい設備、それも相応の規模で整えるとなるとかなりの金額が動くのよ、まぁ貴女達は余り気にしないかもしれないけれど』

『ふふっ、C&Cの皆さんが任務達成報告と一緒に持ってくる報告書、そこの被害総額を見た時のユウカちゃんの顔、とっても可愛いんですよ?』

『ちょ、ちょっとノア、今そういう話はしていないから!』

「……まぁ、本来の予算の六倍、七倍と膨らんだらそうもなるか」

「こまけぇ事気にすんな、依頼達成出来りゃ問題ねぇだろ」

『問題ない訳ないでしょう!?』

 

 カリンの申し訳なさそうな表情と呟きに反し、何ら悪びれる態度を見せないネル。そこに思わず声を荒げるユウカ。兎にも角にも金銭に無頓着な部活が多すぎるミレニアム、開発費を含む予算に関して全く躊躇や節制という言葉を知らない彼女達は、「こんな金額許可出来る筈ないでしょう!?」という額面を平気で要求してくる。だからこそ、その度にユウカが苦労する羽目になるのだが。

 

『んんッ! 兎に角、無人機を一から開発、設計して生産する体制を整えるのは、それこそ時間もお金が掛かる訳、ミレニアムにある既存の設備を使わないなら尚更……そうね、部活動全体の四半期予算があって足りるかどうか分からないわ』

『使用しているパーツや具体的な性能が分からないので断言は出来ませんが、その辺りを会長が手抜きするとも思えませんし、恐らく相応に高性能なパーツを使っていると思います――後はそれを賄える資金力がリオ会長にあるかどうかという話ですけれど』

『出来る様な気もするし、出来ない様な気も……』

 

 両腕を組んで眉間に皺を寄せながら唸るユウカ。そのどっちつかずな態度にモモイは地団駄を踏み、ホログラム投影されたユウカに向かって指を突きつけ叫ぶ。

 

「ハッキリしないなぁ、どっちなのさ!?」

『し、仕方ないじゃない! 私だってミレニアム全体の四半期予算全額負担できる? って聞かれたら、ちょっと厳しい時もあるし……!』

「ちょっと厳しくても、負担は出来るんだ……」

 

 ぽろりと出たユウカ個人の資産に思わず驚きと畏怖の声が漏れるユズ。ミレニアムを取り仕切る会計担当は伊達ではなく、彼女は自己の資産運用も凡そ「かんぺき~」なのである――そう、運用しているファンドが大暴落でも起こさない限りは。

 

「……成程な」

「ネル先輩?」

 

 今までのやり取りを聞いていたネルは独り呟き、頷きを零す。アカネが彼女の名を呼べば、椅子に座って思案に暮れていたネルがユウカへと視線を向け云った。

 

「会計、セミナーのデータベースから金の流れを追えるか?」

『えっ、それは、具体的にはどういう……』

「リオ個人の資産云々じゃねぇよ、追うのはセミナー全体の金の流れだ」

 

 リオ個人の資産を調べるのではなく、セミナー全体の予算、その流れを追う。ネルは今までの会話から凡そのアタリを付け終えていた。アイツなら、それ位大胆な事をやっていてもおかしくない。そんな想いと共に告げられた言葉に、ユウカはぎこちなく頷く。

 

『それなら私の権限内で可能な範囲ですけれど――ネル先輩、一体何を?』

「少し引っ掛かる事があるだけだ、それに……」

 

 ネルは直ぐ横に立つアスナを一瞥しながら破顔し、親指を向けながら告げた。

 

「コイツの勘は良く当たるんだよ――騙されたと思って、調べてみろ」

 

 ■

 

『まさかと思ったけれど、本当に――』

「ユウカ、結果が出たの!?」

『え、えぇ……』

 

 ネルの提案から凡そ二時間後、再び投影されたユウカのプログラムに食いつく様なモモイの声。それに対しつい先程までセミナーの端末と格闘していたユウカが力なく答える。その表情は優れない、困惑と怒りが半々と云った様子で滲んでいた。

 

『セミナーのデータベースを調べたら、妙に違和感のある取引記録が見つかって……』

「違和感のある取引記録?」

『えぇ、確かに記憶にある取引だったのだけれど、記載されている金額が妙に大きく感じたの、ログやバックアップも参照したのだけれど、そちらとも数字は一致したから気のせいかとも思ったのだけれど――』

『しかし予算会議の議事録や、私個人が管理している紙媒体の資料などを確認した所、データベースの情報が意図的に改ざん、隠蔽された痕跡が見られました、まさかこんな事をする人だったなんて……』

「それで?」

 

 ネルが微かに眉を顰め、続きを促す。ノアは手元の手帳、その頁を一枚捲るとペンを片手に落ち着いた口調で以て答えた。

 

『どうやらセミナーの予算を横領し、それを活用していた様です、予算の一部に不透明な流れがありました、私の記録にもユウカちゃんの記憶にもない運用です』

『そこから更に辿って、断片的だけれど削除されたデータの復元に成功したわ、支払われた金銭のルートから、朧気だけれど位置情報も掴んだ、多分だけれどアリスちゃんが連れていかれたのは、そこね』

「ば、場所が分かったの……!?」

「さっすがユウカ!」

「やるね」

『……取り敢えずホログラムに映すわ、注目して頂戴』

 

 素早く指先を動かし、皆が覗き込むホログラムに情報を転送するユウカ。僅かな間を置き、全員の視界に一枚の画像が飛び込んで来た。

 

『――これがアリスちゃんの居る場所、コードネーム【エリドゥ】(Eridu)よ』

 

 それが現在リオの潜伏する拠点の名前――しかし、彼女達は何かを答える事が出来ない。それは、目の前に表示された画像の規模に圧倒されたからだ。

 それは拠点と呼ぶには余りにも大きすぎた。乱立する様々なビル、その合間を縫う様に設計された高架橋、遥か奥に見える山々と比較しても劣らないタワーが中央に聳え立ち、その外周を囲う様に高壁が並んでいるのが辛うじて視認出来る。広さはどれほどか、この画像一枚では全体像が分からず確かな事は云えないが、それでもミレニアムの区画一つに匹敵する程の大きさがある事は確かであった。

 

「これって、都市……?」

「きょ、拠点とか、秘密基地とか、そんなレベルじゃない……」

「でっかぁ……!」

「これは――凄いね」

「一体建設費に幾らつぎ込んだのか」

「会長、流石にこれはやり過ぎでは……」

 

 ゲーム開発部、ヴェリタス、C&C、各々が驚愕とも呆れとも取れる声を漏らす。画像の隣にユウカの姿が表示され、彼女は何とも苦り切った表情を浮かべたまま口を開く。そこにはこれ程巨大な都市を建造するだけの資金、それを横領したリオに対する失望と、同時にそれだけの横領を許した自身に対する怒りが滲んでいた。

 

『復元した都市データから発見された上空写真だけれど、リオ会長が秘密裏に建設していた【終焉に備えるための要塞都市】、それがコレらしいわ、所々ノイズがあって見辛いかもしれないけれど、情報としては間違いない』

『規模としてはかなり大きいみたいですね、都市部が丸々存在しているような状態です、この規模のお金の流れを隠蔽する事は、かなり労力が必要でしょう』

『正直、この金額が動いたのに察知できなかったなんて、自分でも信じられないレベルよ……一体何期分の予算に該当するのか、考えたくもないわ』

「……あ」

 

 そんなセミナー二人の言葉に対し、ふとアカネが声を上げる。それは今まさに、何かに気付いたと云わんばかりに。

 

「あの、もしかしてですが、いつかのコユキさんが起こした騒動と関係があるのでは……?」

『コユキ――? あっ』

 

 その言葉と同時、セミナー、C&C全員の脳裏に過る騒動の記憶。

 セミナー名義で発行された債券、それを巡ってオデュッセイア海洋高等学校で起こった様々なアレコレ。現在もミレニアムタワーにて収監されている主犯――黒崎コユキ。

 彼女の起こした事件により、一時期ミレニアムの財政はそれはもう、途轍もない事になっていたのである。そして会計担当であるユウカは当時の事を思い出し、その後始末と補償とありとあらゆる仕事に忙殺されていた記憶を反芻、その裏で暗躍をしていたであろうリオ会長を想像し、視界が真っ赤に染まった。

 

『あの時の……ッ!? コユキィ~ッ!』

「騒動に乗じて予算を動かしたんだね、周到と云うべきか、何と云うべきか」

「ま、あれだけ莫大な金が動いちまったらな、目が眩んでも仕方ねぇ、なら取引記録の方は帳尻合わせの為って所か? だがこんな馬鹿デカイ都市なんざ作って、一体何を考えていやがる……?」

『リオ会長はご自身がやると決めた事に関しては絶対に迷いません、良くも悪くも合理的な判断を――時に重大な決断が迫られる場面でさえ、何ら迷うことなく目標達成の為に、強引に事を進めてしまいます』

 

 ノアは神妙な顔で答え、手元の手帳を閉じた。彼女の表情には表現しきれない、複雑な色が宿っていた。

 

『リオ会長にはコレを創り上げるだけの理由があったのでしょう、危機を排し、キヴォトス終焉を防ぐべくして奔走した結果、辿り着いた答えが――』

「この要塞都市、エリドゥって訳か」

 

 呟き、ネルは目を細める。これを見れば分かる、終焉に備えるというのは彼女にとって比喩でも何でもないらしい。云ってしまえば此処が彼女にとっての箱舟――破滅の未来から世界を救う、唯一の場所なのだろう。

 

『んんッ……! えっと、得られたデータは断片的だけれど、この中央のタワーが都市部の機能を制御する重要な役割を担っている事が分かっているわ、多分だけれどアリスちゃんが連れていかれたのなら、このタワーだと思う』

「――アリスが、此処に」

 

 ユウカが指差したのは画像中央に聳え立つ巨大なタワー、並ぶ硝子が陽光を反射し、エリドゥの中でも一際目立つ建造物である。全員の視線が写真の中心、中央タワーへと向けられる。この中にアリスが居る、そう思うと自然と瞳が険しさを帯びた。

 

『兎に角エリドゥの位置情報をヴェリタスに送るわ、端末を確認して』

「……うん、ありがとう、確認した」

 

 ハレが手元の端末に目を向ければ、電子音と共にユウカからエリドゥに関する情報が送られてくる。それを確認したハレは頷き、画面を二度、三度叩いた。

 

『正直、私達も一緒に乗り込みたい気持ちはあるのだけれど……』

『立場上、私達がお手伝い出来るのは此処までですね』

『そうね、先生から目を離したくないし――』

「十分だ、助かる」

 

 セミナーとして現場に赴く事は難しいと呟く彼女達に、ネルは片手を挙げながら感謝を告げた。彼女達の立場や状況を想えば、それは当然の判断だろう。此処から先は自分達だけで動く必要がある。情報を提供して貰えただけで十分、少なくともネルはそう考えた。

 

『皆、アリスちゃんの事……お願いね』

「まっかせてよッ!」

「セミナーの方は、先生の事をお願いします」

『勿論、今度はベッドに縛り付けてでも療養させるから!』

『そうならない事を願いますが、警備は万全です』

『それじゃあ――頑張ってね、皆!』

 

 その言葉を最後に、ホログラムは掻き消える。ユウカとノアの姿は見えなくなり、薄暗いヴェリタスのサブルームの中で再び皆が顔を突き合わせる事となった。全員が静かに脱力し、思考を切り替える。

 

「……さて、アリスの居る場所は分かったけれど」

「問題は、一体どうやってこのエリドゥに潜入するか、という事ですね」

「う、うーん」

「場所は分かっているんだし、もういっその事、正面から突撃しちゃっても――!」

「――それはお勧めしない」

 

 勇んで告げるマキの声を遮る様に、部室の入り口から声が響いた。一拍遅れて扉が開き、廊下側から差し込む光、そちらに顔を向けた面々が思わず驚きに目を見開く。

 

「あん?」

「あら……」

「えっ、あれ!? エンジニア部!?」

「わわっ……!?」

「やぁ、失礼するよ」

 

 その場に現れた生徒は三名――それはエンジニア部のウタハ、ヒビキ、コトリであった。彼女達は訳知り顔で微笑みを零しながら、廊下から差し込む光を背に胸を張って見せる。

 

「立ち聞きですまないが話は聞かせて貰った、全く、何やら学園全体が騒がしいと思えば――随分と大変な事になっている様子だね」

「……今回の件は、ちょっと色々やり過ぎたと思う、アリスの事も、先生の事も」

「私としてもリオ会長の行動には疑問が残ります!」

 

 独自の情報網を使って仕入れて来たのか、エンジニア部は事情を知った上でこの場に――ヴェリタスの部室へと踏み込んでいる様だった。その上で部室前でスタンバイし、今のやり取りに聞き耳を立てていたらしい。

 彼女達の登場に困惑の表情を隠せないユズは、思わず呟く。

 

「エンジニア部が、どうして……?」

「簡単な事だよ、リオ会長は勝手にエンジニア部最大の発明品を奪って行ったのだろう?」

「は、発明品……?」

「あっ!」

 

 その言葉にミドリが声を上げ、咄嗟にモモイを見る。暫し呆然としていたモモイであったが、自身の妹の瞳を見返し、そして程なく同じ結論に至った。手を叩き、指を一本立てながら叫ぶ。

 

光の剣(スーパーノヴァ)!」

「御明察」

 

 エンジニア部最大の発明品――それはやや大げさな響きにも聞こえたが、発明品という言葉自体に間違いはない。先頭に立つウタハ腕を組みながら辟易とした様子で首を振り、淡々と言葉を紡ぐ。

 

「うちのデータ実測の邪魔をするなんて、それは越権行為に他ならない、事実上エンジニア部に向けた宣戦布告って訳さ、これはエンジニア部として到底看過出来る事じゃない、それに先生の件も黙っていられなくてね、先生はエンジニア部の大事な顧客であり、パトロンであり、協力者であり、つまり実質的な顧問と云っても過言ではない、ならばひとつリオ会長に抗議の一つでもいれなければならないと――」

「……ウタハ先輩の恥ずかしがり屋」

 

 何やら長々と言葉を並べるウタハに対し、隣に立つヒビキがぼそりと呟きを漏らす。それを耳にしたウタハの頬にサッと赤が差し、思わず彼女は咳払いを挟んだ。

 

「んんっ、ヒビキ?」

「説明しましょう! ウタハ先輩の理論は次の通りです! 友達を助けに行きたいけれど、それを口にするのはちょっと恥ずかしい! それに先生が受けた仕打ちに関しても我慢ならない! そうだ、いっそ物を奪われた事を口実にして、リオ会長へと一発仕返しを――」

「ちょっと、コトリ」

「もがッ!」

 

 赤裸々に全てを打ち明けようとしたコトリに対し、ウタハは即座に手を伸ばすと彼女の口を塞ぐ。そのまま全身で彼女を拘束する様に抱き込むと、真剣な表情で羞恥の感情を覆い隠し告げた。

 

「しーっ」

「ふぐッ、んん、わかりまひた……!」

「……よし、これで秘密は守られた」

「ま、守られたの、かな?」

「守られたんだよ」

「あっ、はい」

 

 ミドリはウタハに気圧され、頷いた。彼女の表情が余りにも真剣(マジ)だったからだ。彼女はコトリから身を離すと、誤魔化す様に咳払いを挟み提案を口にする。

 

「んんッ、兎に角、大事なのはアリスを連れ戻す事だろう? 是非協力させてくれ」

「うん、私も手伝うよ」

「分からない事があれば何でも聞いて下さい、はい!」

 

 そう云って作戦の協力を申し出るエンジニア部、以前の騒動でも関係があった彼女達、その実力は味方であったゲーム開発部、ヴェリタス、敵対関係にあったC&Cでさえ良く理解している。エンジニア部が仲間になってくれると云うのならば心強い、ゲーム開発部、ヴェリタス、C&Cもエンジニア部の参入を快く受け入れ、歓迎した。

 

「それで、えっと、侵入する方法に関して何か策があるんですか?」

「会長なら恐らく対侵入者用の防御システムを構築しているだろう、馬鹿正直に侵入などしようものなら何故エリドゥが『要塞都市』と呼ばれているのか、それを身を以て知る事になるだろうね」

「防御システムって、具体的には……」

「ちょっと、先程の画像を見せて貰っても良いかな?」

「あ、うん」

 

 ハレが頷き、端末を操作して先程ユウカより受信したエリドゥの画像をホログラムで表示する。彼女達は投影されたそれを凝視しながら、視線を鋭く変化させ頷いた。

 

「ちょっと画質が粗いけれど――」

「見れないって程じゃない」

「ですね!」

 

 各々感想を漏らし、細部に至るまでじっと観察する三名。そして都市部のあらゆる面に目を付け、誰からという事もなく情報の擦り合わせを開始した。

 

「これは、外周部分が高壁で覆われているみたい……かなり高い」

「外部からの攻撃を警戒――いや、この構造、都市のギミックの一部になっているのかな? 建物や高架橋の位置に何か、含むものを感じる」

「遠目からでは判断も難しいですが、此処に見えるのは多連装ミサイルランチャーですね!」

「会長はドローンを扱っていたのだろう? ならまず自律ドローンは配備されていると見るべきだ」

「そうなると、都市周辺にはドローンと設置型の探知機の類で偵察網を敷いていると考えるのが自然、上空にもある筈だけれど、この映像からだと分からないね……」

「この部分、対空設備ですね、上空からの侵入・攻撃には対空砲、高射機関砲で迎撃、という形でしょうか?」

「それに加えてミサイルが飛んで来ても私は驚かないよ、先程コトリが見つけた物もあるから、或いはレールガンを配備している可能性も――」

「大多数は内部に収納されているか、外部から分からない形にしているだろうし、私なら其処に長射程の砲撃を加えるかな……地上に限った話だけれど」

「ふむ」

 

 投影された画像を指差し、時折視線を絡めながら議論を交わすエンジニア部。そして一通り観察と意見交換を終えた彼女達は、改めて皆に向き直ると小さく何度も頷きながら言葉を発した。

 

「結論から云うと、最低でも真正面から挑むなら自律砲台による砲撃、銃撃、誘導弾、ドローン群による出迎え程度は覚悟した方が良い、それと外周を高壁で覆っているから、地上から正面突破する場合ゲートか何かを突破する必要があるね――当たり前だけれど、戦力はゲート周辺に集中して配置しているだろうし、かなりの激戦が予想される、正直お勧めしない」

「………」

「じゃ、じゃあどうすれば良いのさ!?」

 

 要塞都市――その名前に偽りはない。

 エンジニア部の見立て、尤も限られた情報のみでの見解となるが、それを聞いた全員が思わず黙り込み、モモイが悲鳴染みた叫びを漏らす。だが、それを口にした当の本人であるエンジニア部には余裕の色があった。ウタハは指先で唇を軽く擦り、笑みを零し云った。

 

「今口にしたのは、あくまで普通に挑んだ場合の話だよ――だろう、コトリ?」

「はい! エリドゥ内部に侵入可能なルート、それも比較的安全に……そんなルートに一つ、心当たりがあります!」

 

 ウタハに視線を向けられたコトリは、眼鏡を押し上げながら自信満々と云った様子で頷いて見せる。元より彼女達には侵入経路のアテがあった、要塞都市と呼ばれる存在、パッと見ただけでもかなり強固な防衛設備を備えているであろうソレに真正面から攻め入るなど自殺行為だ――故にこそ、彼女達は彼女達なりの戦い方を選択する。

 

「それは、本当に?」

「す、凄いじゃん!」

「それでその、比較的安全に侵入出来るルートって!?」

「簡単な事さ、都市建設の人手だけならば会長の生産したドローンや無人機で事足りるかもしれないけれど、資材ばかりはどうしようもない」

「……あ」

 

 歓喜を滲ませながら問いかけるモモイ達に対し、得意げに語って聞かせるウタハ。

 

「成程、都市建設資材や物資の搬入ルートですか」

「そういう事」

 

 アカネの呟きに頷きを返すヒビキ、彼女は端末を取り出すとミレニアム自治区の全体マップを表示させ、ホログラムとして投影した。空中に映し出されるミレニアム自治区の領土、その外周が幾つか赤く点滅する。それは軈て無数の赤い線となり、ミレニアム各地へと伸びていった。

 ミレニアム郊外より伸びる物資運搬用の路線、そのルートである。

 

「ミレニアム自治区郊外には、輸送用の無人列車が沢山ある」

「都市建設資材をミレニアムより運送しているのなら、その路線のどれかがエリドゥと繋がっている筈です!」

「あの規模の都市となると、空路を使う事はまずないだろう、一度に運べる量も限られるしコストも嵩む、海は近くに見えなかったし、そうなると陸路一択、ならば必ず足が付く、そして一番可能性が高いのが無人列車による運搬……」

「問題はどうやって路線を割り出すかだけれど――」

「勿論、その事に関しても作戦があります! ちょっとだけ時間は頂きますけれどね……!」

 

 要塞都市エリドゥ、正面から挑めば文字通り要塞と化すだろう、しかし資材搬入路を使用し裏口から侵入すればその限りではない。少なくとも外周部を守る防衛システムは全てスルーし、余力を持って内部へ侵入を果たせるだろう。

 その作戦を聞いたゲーム開発部は思わず歓声を上げ、エンジニア部に称賛の言葉を投げかける。

 

「す、凄いじゃんエンジニア部!」

「い、至れり、尽くせり」

「これなら、本当に……!」

 

 アリスを助け出せるかもしれない、そんな希望が沸々と湧いて来る。だがあくまでコレは侵入するまでの話、ヴェリタスとC&Cは未だ思案顔のまま呟きを零した。

 

「けれど、潜入してハイ終わり――という訳じゃない」

「はい、要塞都市と呼ばれる程です、内部にも侵入者を撃退する設備や戦力が存在するでしょう」

「そうですね、恐らくリオ会長には万全の備えがあるのでしょうし……」

 

 ハレ、コタマの呟きに対し、アカネは真剣な面持ちで頷いて見せた。ウタハも同じ事を口にするつもりであったのか、指先で腕を叩きながら肯定の言葉を返した。

 

「そうだね、これは私達の予想だけれど、都市のセキュリティや迎撃設備は勿論の事、内部の防御システムもかなりのレベルを備えていると思うよ、さっき云ったのはあくまで都市に侵入される前の話、そして仮に侵入出来たとしても、皆の云う通り相応の出迎えがある筈だ」

「それに要塞都市の防御システムをどうにかしても、まだ問題が残っている」

「えっ、問題って、まだあるの!?」

「それって、多分……」

「リオ会長の護衛――あのメイドですね」

 

 コタマが真剣な面持ちで告げたそれに、ネルが視線を一際鋭く尖らせる。彼女の身を預けた椅子が軋み、その唇が忌々し気に開かれた。

 

「……コールサイン・ゼロフォーか」

「確かに、あの時の動き、まるで未来が見えているみたいで……」

「げ、ゲームの、チートプレイヤー、みたいだった」

 

 当時の戦いを目にしていた面々は戦々恐々とした様子で声を上げる。要塞都市も確かに厄介ではある、しかしそれと同程度、場合によっては凌駕さえし得るのがミレニアム最強と名高いネルを単独制圧したトキの存在であった。

 彼女をどうにかする手立てがなければ、仮に都市へと侵入を果たしてもアリスの奪還は叶わないだろう。その確信が、全員の中に存在している。

 

「場所は敵地だし、乗り込んでもこっちが消耗した状態で戦う事になる」

「此方も、真正面から戦うのは得策ではないかもしれません」

「となると――」

 

 カリン、アカネ、アスナが呟きネルを見る。そして仲間の視線を感じながら、ネルは頷きを返しハッキリとした口調で告げた。

 

「連中と一戦交える為に、綿密な作戦が必要だな」

「………」

 

 その言葉にゲーム開発部――モモイ、ミドリ、ユズの三名が明らかに啞然とした様子を見せた。モモイは恐る恐ると云った様子でネルへと近付くと、蒼褪めた表情をそのままに問いかける。

 

「ね、ネル先輩大丈夫? 熱とかない……?」

「あ?」

「も、もしかして怪我をした反動で――」

「……一体何の話だ」

 

 唐突に体調を心配され、怪訝な表情でゲーム開発部を見返すネル。何処となく馬鹿にされている様な気配を感じ、彼女の額に青筋が浮かんだ。しかしネルが爆発する前に、C&Cの面々が実感の籠った言葉を投げかけた。

 

「任務モードの部長だ、心配ない」

「大丈夫、仕事モードになった部長はとっても真面目だから!」

「えぇ、信頼して下さい」

 

 そこには何度も任務を共にしてきた信頼があった。彼女は直情的で向こう見ず、そして大抵の物事を力技で突破してしまう様な実力を持っているが――だからと云って、何でもかんでもそうであるという訳ではない。困難な任務には相応の準備と計画が必要である事を理解し、それを実行するだけの理性を兼ね備えている。

 ネルはじろりとゲーム開発部を睨み付け、肩を跳ねさせる三名を一瞥。その後、小さく溜息を零すと億劫そうに口を開いた。

 

「当たり前の話だが、要塞都市に侵入出来たとしても隠密行動でチビを救出するのは不可能だ、この都市がリオの領域である以上、あたしらの動きは丸見えだろうよ、突っ込んだ時点で正面から撃ち合う想定をしていた方が良い」

「そ、そうなの……?」

「あぁ、誰がなんと云おうが、あいつは『ビッグシスター』だからよ」

 

 好悪は別として、ネルは嘗ての上司であるリオを高く評価していた。十中八九、自分達がアリス奪還に動く事を想定している筈だ。そして、想定している以上備えを怠る人物ではないとも確信している。

 

「ですが部長、そうなるとリオ会長の思うツボでは……」

「そうだな、だから一層派手に暴れて目を惹き付けてやる」

「……?」

 

 そんな疑問を孕んだアカネの問い掛けに、ネルは薄らとした笑みを浮かべながら頷きを返した。最初、その言葉の意味するところが分からなかったモモイ、ミドリ、マキと云った面々は疑問符を浮かべる。

 ややあって、何かを考え込んでいたハレは指を鳴らし、瞳をネルへと向けた。暗闇の中で、彼女の眼光が煌めく。

 

「――もしかして、陽動作戦?」

「ビンゴ」

 

 ハレに対し指先を突きつけたネルは、その顔に好戦的な色を滲ませ笑った。

 

「ど、どういう事?」

「成程……そもそも、私達の目的はリオ会長を倒す事でも、護衛のメイドを倒す事でもありません、アリスを救出することですからね」

「主戦力の部隊が目立つ様に行動して、救出部隊が迂回してアリスを確保する……」

「……あぁ! 二手に分かれて行動するって訳?」

 

 モモイの放った疑問の声にコタマ、ハレ、マキの順に声を発する。ネルは椅子を軋ませると、不敵な笑みを貼り付けたまま肯定を口にした。

 

「そうだ、あたしらC&Cが真正面から突っ込んで騒ぎを起こしてやる、そうしたらリオも、あのトキって奴も、こっちの相手をせざるを得ないだろう? その間にお前達がチビを救出しろ、有象無象のドローン程度なら問題ねぇだろうし――どうだ、簡単な話だろう?」

「で、でも、実際に可能なの? こんな要塞都市って呼ばれる位の戦力を、C&Cだけで――」

「あぁ? あたしを誰だと思っていやがる」

 

 モモイの口にした疑問と不安に、ネルは口元を歪めながら自身を親指で示す。そこには己の実力に対する絶対の自信と、決して途切れる事のない闘争心が見え隠れしていた。

 

「アイツには一杯食わされたからな、次会ったら倍にして返してやるって決めてたんだよ! あたしがそう決めた、なら何も問題はねぇ! なら後は、実行するだけだろうが」

「………」

 

 C&C単独による敵勢力の誘因、確かに単純な戦力で云えばこの中で彼女達が最も優れている事は誰の目から見ても明らかである。しかし、件のトキに加え要塞都市の内部防衛戦力を一手に引き受けるというのは――中々どうしてリスキーな話にも聞こえた。そんな思いと共にネル以外の部員、C&Cへと視線を向ければ、彼女達もまたネルと同じように微笑みと共に頷きを返す。

 

「分かった、部長の決定に従おう」

「オッケー、任せて!」

「えぇ、いつも通り、敵対者には鉄槌を」

 

 彼女達に迷いはない、そこには自身のリーダーに対する信頼と、自分達ならば可能であるという自信に満ちた力強い煌めきがあった――詳細不明のC&C、飛鳥馬トキ。彼女は確かに脅威である、しかしネル単独ではない、C&C全体として動くのであれば勝ちをもぎ取る可能性は十分にある。

 

 元よりC&Cとはチームで動く事により、その戦闘能力を十全に発揮する存在。ネルの戦闘能力がミレニアム最強である事に疑いはない、しかしC&C総員が揃った上ならば――その更に上を行けると信じている。

 アカネは優雅にメイド服の裾を払うと、隣に鎮座していた武装ケースを撫でつけ告げた。

 

「決まりですね、正面は部長と私達――C&Cが担当致します」

「ふむ、ならば後方から潜入するのはゲーム開発部と私達エンジニア部……」

「私達ヴェリタスは遠隔で支援するよ、防衛システムのクラックには人手が必要だからね」

「任せて下さい、完璧にやり遂げて見せます」

「うん……分かった!」

 

 各々の役割が定まりC&C、エンジニア部、ヴェリタス、ゲーム開発部の全員が頷きを返す。モモイは部屋の中に居る仲間達の顔を眺めると、不意に力強く自身の頬を張った。僅かな痛みと衝撃、しかしそれ以上に精神が研ぎ澄まされて行くような感覚。大きく息を吸い込み、吐き出す。

 不安はあった、けれどそれ以上に勇気が勝った。

 

「行こう――絶対に、アリスを助けるんだから!」

 

 告げ、彼女は愛銃を手に取る。

 此処にアリス奪還計画――要塞都市エリドゥ攻略作戦が決定された。

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