ブルーアーカイブを、もう一度。   作:トクサン

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誤字脱字報告に感謝ですわ!


コールサイン・ゼロフォー(五人目のC&C)

 

「此処が……」

「要塞都市――エリドゥ」

「厳密に云えば、その搬入口に過ぎないけれどね」

「ともあれ、漸く到着です!」

 

 停車した物流輸送用の無人列車、そのコンテナの中から顔を覗かせたゲーム開発部、そしてエンジニア部の面々は周囲を見渡しながら声を上げる。エンジニア部がエリドゥへと続く路線を割り出し、秘密裏に運搬されるコンテナへと紛れ込んだ彼女達は無事、エリドゥ地下内部へと侵入を果たしていた。

 その規模の大きさから凡そ予想はしていたが運用されている無人列車は多く、搬入口となるステーションは積み荷を降ろし集積するドローンやクレーンの類が絶え間なく稼働しており、周囲には駆動音と金属同士が擦れ合う様な音、列車が発進、停車する音が常に響き渡っていた。

 一行はその隙間を縫いながら、地上へと通じているであろう通路に足を進める。物珍しそうに辺りを見回すゲーム開発部とは反対に、エンジニア部の面々は手慣れた様子で通信を開いた。

 

「良し、予定通り現場に到着した、エンジニア部、ゲーム開発部共に問題なし、警報の類はどうかな?」

『こちらヴェリタス、大丈夫、全部黙らせてあるから……それより列車運行に問題はなかった?』

「はい、流石ヴェリタスです! 凄く快適でした!」

「うん、特に問題なし」

『そっか、ぶっつけ本番だったけれど上手くいったみたいだね』

 

 ホログラム越しに薄らと笑みを浮かべるハレ。当然の話ではあるが、無人列車にも警報や探知機の類は存在しており、彼女達の『混入』を悟らせないようにする必要があった。その為、ヴェリタスはアラートを抑える役割を担っており、今回の隠密行動の成否は彼女達の手腕に掛かっていると云っても過言ではない。

 

「うーん、ちょっと薄暗いね……?」

「この辺りは人の手による管理を想定していないのだろう、光も非常灯の類しか設置されていないみたいだ」

「或いは、まだ建設途中なのかもしれませんね!」

「防衛設備とか、インフラ、コア部分の建設が終わっているのなら、最低限機能はするだろうし……」

 

 廊下の片隅に固まったエンジニア部、ゲーム開発部の六名は薄暗い地下通路、その先に目を凝らす。剥き出しのパイプや配線が所々垣間見え、時折小型の円型ロボットがふよふよと宙を舞い、それらをプレートで覆い、溶接しているのが見えた。左右に設置された微かな明かりを放つ非常灯が等間隔で通路を照らしており、遥か奥まで光は続いている。周囲に人の姿は見えない、予想通り要塞都市はドローンやドロイドの類で完結しているらしい。

 

「ねぇ、あそこに居る、何か小さいロボットとかは見つかっても大丈夫なの?」

『アレは整備、メンテナンス作業用のドローンだから大丈夫、通報システムとか、警報の類は搭載していない、ただ気を付けてね、その通路の先――地上に出たらもう都市内部に入るから、そうなったら警備ドローンも出て来ると思う』

『一応、こっちでも常にモニタリングしているから、何かあったら直ぐに伝えるよ!』

『ですが此方では拾えない何かが現れるかもしれません、警戒は怠らず、御注意を』

「りょーかい!」

「わ、分かりました……!」

 

 ヴェリタスからの通信に頷きながら愛銃を握る一行。ウタハは持ち込んでいた端末の画面を操作すると、表示される時刻を確認した。此処への到着時間は凡そ予想通り、後は作戦開始の合図を待つだけ。

 端末を片手に振り返ったウタハは、全員を見渡しながら口を開く。

 

「時間的に余裕はあるね、それじゃあ私達は一度此処で待機しよう、C&Cが暴れたら騒ぎに乗じて行動を――」

『――待って』

 

 C&Cからの合図を待つ旨を皆に伝えようとして、しかしそれよりも早くハレが鋭い口調で声を上げた。

 

『早速反応がありました、数は三!』

『気を付けて! 何か来るよ!?』

「えっ……!?」

 

 続いてコタマ、マキからの通信。モモイ達が慌てて通路に目を向ければ、何やらメンテナンス・ドローンよりも大柄な、地上を走行する影が見えた。薄暗い通路を突っ切り、此方へと近付いて来る稼働音。照らされた外装と左右に設置された銃口を目にした瞬間、ウタハは目を瞬かせながら感心した様な声を上げた。

 

「おや、中々素敵な子だね、迷子かな?」

「うん、でも見た事ないタイプ……」

「大型の一輪駆動ですか? 確かにミレニアムでは珍しい――……」

「ち、違います、この形――!」

「リオ会長のドローンじゃん!?」

 

 見覚えのあったゲーム開発部は思わず身を震わせ、慌てて叫ぶ。姿を現したのはリオの扱っていたドローン――AMASである。それが三機、隊列を組んで一行の前に姿を現していた。

 

「もしかして、もうバレたんですか!?」

「さ、作戦開始前に、ゲームオーバー!?」

 

 ミドリとモモイが焦燥を滲ませて悲鳴染みた声を上げれば、端末の中でヴェリタスはコンソールを叩きながら首を横に振った。

 

『大丈夫! こっちで周辺ネットワークは制圧してあるから!』

 

 マキがミドリとモモイに対し親指を突き出し、破顔する。既にこの辺りに対しては対策済み、戦闘が発生しても問題ない様に準備を済ませていた。

 

『地下のドローンはリンクを切断して孤立させた、欺瞞措置でネットワーク上では何の問題もなく稼働している様に見えるけれど、今なら破壊してしまっても問題ないよ』

『本当なら、乗っ取ってしまうのが一番良いのですが……流石に、其処まで許してくれる手合いではなさそうです』

 

 ハレとコタマが画面を一瞥し、そう口にする。ともあれ、作戦が開始前に頓挫という事はなさそうで、ゲーム開発部の面々は露骨に胸を撫でおろす。

 

「そ、そんな事も出来るんだ……」

「流石ヴェリタスの皆さんですね!」

 

 決して信じていなかった訳ではないのだが、中々どうして一回きりの作戦となると気負いもする。冷汗を額に滲ませた彼女達に反し、エンジニア部の面々は変わらず飄々とした態度で持ち込んでいた愛銃を手に取った。

 

「ふむ、悪くない走り出しだ、なら今の内に対処してしまおう」

「なるべく、派手な攻撃はしない方が良い……かな?」

「そうだね、騒ぎはC&Cに起こして貰わないと、戦闘の際は周囲に配慮して戦うとしよう」

「分かりました!」

「りょ、了解です……!」

「よーし! いっくよッ!」

「援護は任せて下さい……!」

 

 撃破しても悟られないとは云え、物理的な光や音ばかりはどうしようもない。故に派手さは控えめ、なるべく静かに、手早く処理する必要がある。その条件に頷きを返しながら戦闘態勢を取るゲーム開発部とエンジニア部。

 先頭に立ったモモイは突貫してくるAMASを前に、その表情を勇ましく染め上げ、叫んだ。

 

「――戦闘、開始するよ!」

 

 ■

 

「あっははッ! いっくよぉ~っ!」

 

 エリドゥ第三区画――中央街道。

 少しずつ陽が落ちて来たエリドゥ、夕焼けに照らされる街道、硝子張りのビル群は陽光を反射しエリドゥ全体が茜色に染まっていく。そんな中鳴り響く幾つもの銃声、連鎖する爆発、爆炎を縫う様にメイド服を身に纏った三名が、次々と迫り来るドローンを前にステップを踏む。アスナ、カリン、アカネの三名は互いに背を預けながら街道の中心で愛銃を振り回し、奮戦していた。

 

「アスナ先輩、後方――」

「大丈夫! 視えているからっ!」

 

 アカネがケースを片手に愛銃を構え、声を上げる。しかし全て云い終わるより早く、アスナは叫び、大きく身を反らした。瞬間、反った背中の合間を縫う様に突き抜ける弾丸、超人的な感覚により飛来する攻撃を事前に感じ取り、回避する。

 そのまま片足で地面を蹴り、空中で身を翻し愛銃を構えたアスナは自身の背後に迫っていたドローンを意図も容易く撃ち抜く。外装を撃ち抜かれたドローンは火花を散らし、そのまま地面へと墜落、爆散した。それを横目で確認したアスナは破顔し、告げる。

 

「四十六体目っ!」

「いいえ」

 

 アスナの言葉に、アカネは緩く首を振って笑った。

 

「これで丁度五十です」

 

 カチッ、という硬質的な音。

 それはアカネの手元から鳴り響いた音であり、同時に彼女の後方で固まっていたドローン群、その足元から特大の爆発が巻き起こる。「わっ!」とアスナが驚いた声を上げ、次いで後方で火力支援に努めていたカリンが顔を腕で覆い苦悶の声を漏らした。

 熱波が肌を焼き、爆炎と爆風がC&Cを襲う――迸る衝撃波が周囲のビル群の硝子を粉々に砕き、陽光を反射した硝子片が舞う様は酷く幻想的に見えた。

 しかしそれも一瞬の事で、地面に叩きつけられた硝子片は甲高い音を鳴らし跡形もなくなる。それらを眺めながら息を吐き出すアカネ、カリンとアスナも爆風に煽られた髪を軽く払いながら立ち上がった。

 

「すっごい爆発だったね! 正にスクラップの山って感じ? ん~、想像していたよりも数が多いかも!」

「確かに終わりが見えないな、一体どれだけ配備されているんだ?」

「さぁ? 幸い派手に暴れて騒ぎを起こし、目を惹き付けるという目標はこれ以上ない程に達成出来ていますが――」

 

 アカネは後方にくっきりと残った爆発跡、散乱したドローンの残骸を一瞥しながら手元のサイレントソリューション、その弾倉を取り出し残弾を検める。こうも数が多いと、爆弾は勿論の事銃弾すら不足しかねない。無論、それを見越して有りっ丈持ち込んではいるのだが――。

 エンジニア部、ゲーム開発部に先駆けてエリドゥ侵入を果たしたC&C。彼女達は救助部隊であるゲーム開発部一行の侵入を悟らせぬよう、端から正面戦闘を挑み派手な戦闘を繰り返していた。作戦開始から凡そ十分前後、だというのに積み上がった残骸(スクラップ)は山の如く。火花を散らし、黒煙を噴くそれらを見渡しながらケース内部の爆弾残数を確認するアカネ。

 全力戦闘を行えば、後一時間、いや一時間半が限度か。自身の肩程まである大型のケース一杯に詰められた爆発物を目にしながら、アカネは思考する。

 

 そんな彼女を覆う様に――伸びる影が一つ。

 

 音もなく飛来する影、最初に気付いたのは、狙撃手のカリンだった。彼女は仲間の元へと伸びる影に気付き、咄嗟に頭上を仰ぎながら叫んだ。

 

「――アカネッ!」

「……っ!」

 

 その声に反応出来たのは訓練の賜物か。ケースを手にしたまま大きく前方へと身を投げたアカネ、一拍遅れて地面に突き刺さる弾丸、銃声。影はアカネの頭上を一瞬で通り過ぎ、街道に立ち並びビルの外壁へと突き刺さった。外壁が抉れ、破片が飛び散る。衝撃で中途半端に残っていた硝子が弾け飛び、轟音が鼓膜を揺らす。

 

「そこッ――!」

 

 カリンの視線が外壁に着地した影を捉え、裂帛の気合と共に銃口が火を噴く。重々しい銃声が臓物を揺らし、放たれた攻撃は影を撃ち抜く――そう確信した瞬間、まるで狙撃される事を知っていたかのように影は身を翻し、沈み行く夕日を背にして跳躍、虚空を舞った。

 弾丸はビルの外壁に突き刺さり、衝撃と共に外壁を抉る。飛び散る破片群を目にしながら、カリンは思わず声を漏らした。

 

「外したッ……!?」

 

 当たると――そう直感した程の一撃であった。

 この手の確信を得た上で弾丸を外した経験など、カリンには数える程しかない。そして大抵、この勘が外れる相手というのは限られている。故にこそ動揺し、思わず叫ぶ。影は空中で一度回転し、そのまま先程の派手な着地とは異なり、音もなく地面に舞い降りた。薄暗い茜色の中で、青色の瞳が煌めく。

 

「――随分と正確無比な射撃ですね、カリン先輩」

「……成程、お出ましか」

 

 正確過ぎる狙撃は、時に予測し易い。

 そう云わんばかりに佇む人影、その声と輪郭に――彼女達は憶えがある。この作戦を実行するにあたり、最も脅威となる存在、特記戦力。ふわりと靡くスカートを抑え、ゆっくりと立ち上がる影を前にしてC&Cの三名は目に見えて体を強張らせる。

 しかし、それに対し何ら反応を見せる事無く――彼女、トキは優雅にロングスカートの裾を摘まみ、一礼して見せた。

 

「お初にお目にかかります先輩方、C&C所属、コールサイン・ゼロフォー――飛鳥馬トキ、御挨拶申し上げます」

 

 それは余裕か、或いは礼儀のつもりか。

 カリンは一礼する後輩を前に無言でコッキングレバーを操作し、空薬莢を排出、次弾を装填する。アカネは横目でアスナ、カリンを一瞥し、愛銃を握る手に力を込めた。

 

「ふぅん、貴女がトキちゃんかぁ……」

「想定していたよりも、聊か早い登場ですね」

「どうやら、私達が此処に乗り込んで来る事は最初からお見通しだった様だ」

「はい、リオ様は全て把握されておいでです」

 

 C&Cの呟きに対し、淡白な肯定を示すトキ。対峙する三名を見据えながら、トキは静かに背負った愛銃――シークレットタイムへと手を伸ばす。互いの視線が絡み合い、空気が張り詰めるのが分かった。

 

「C&Cの判断も、動きも、そして勿論――皆さんの狙いも、全て」

「……陽動も全部、気付いた上で此処に来たか」

「はい、その上で僭越ながら申し上げます」

 

 ゲーム開発部、エンジニア部の別動隊、その存在に気付いている。気付いた上で彼女は此方に急行した――C&Cを相手に勝ち目があると自負しているのだ。

 トキの視線が鋭く変化し、抑揚のない声で告げられる。

 

「――これ以上の抵抗は無意味です、大人しく降伏をお願い致します」

 

 それは事実上の勝利宣言、少なくともC&Cの面々からすればそう捉える事が出来た。その声を聞いた瞬間、ぴくりと震える肩、全員の視線が険しさを帯び、反対にその口元が弧を描く。

 

「ほう、降伏勧告か」

「……へぇ~」

「あらあら」

 

 新鮮な気分だった。

 少なくともミレニアムに於いてC&Cを相手に降伏勧告を行う相手など皆無だったが故に。アカネは銃を手にしたまま指先で眼鏡を押し上げ、陽光を反射したレンズで視界を覆いながら問いかける。

 

「その提案を断る、と云えば?」

「――勿論、実力で制圧するまでの事です」

 

 告げ、トキは一歩足を進めた。

 前を見据える瞳、その光に揺らぎはない。

 本気だった、自分ならば出来ると確信している目だ。この三人を前にして彼女は尚、単独で勝利し得ると腹の底から信じていた。

 

「……全く」

「――?」

 

 アカネが何事かを呟き、肩を竦める。トキはそんな彼女の動作に疑問符を浮かべ。

 

「……ッ!」

 

 カツン、と。

 不意に音がした、それは自身の足元から響いた音だった。トキが咄嗟に足元へと視線を向ければ、転がる円型の何か。それがグレネードの類であると気付くと同時、トキは全力で地面を蹴り後方へと飛びずさった。

 瞬間、爆発。

 爆炎がトキの肌を舐め、撒き散らされた火の粉が頬を撫でる。靡くメイド服をそのままに前を見据えるトキは、粉塵を裂き悠々と現れるアカネを前に表情を強張らせた。

 

「あぁ、やはりこの程度では奇襲にもなりませんか」

「……室笠アカネ先輩」

 

 思い返すのは事前にリオ(主人)から渡されていたC&Cに関する情報。彼女自身の所属もそうだが、敵対する以上相手の情報を吟味するのは当然の事である。無論、彼女達の情報は全て頭の中に入っている。銃口を彼女に向けながら身構えるトキは、脳内にあったアカネの情報を改めて口に出す。

 

「戦闘に於いては爆発物を好んで使用し、広域制圧を得意とする、対多数を相手取る戦闘に於いて優秀なエージェント――そう伺っております」

「ふふっ、初対面の後輩に面と向かって評価を口にされるなんて、何とも面映ゆいですね」

 

 にこりともせずに言葉を口にするトキを前に、アカネは自身のスカートに付着した煤を軽く払い除ける。その背後からカリンとアスナが顔を出し、手で軽く粉塵を払った。

 

「私達の戦闘スタイルや装備に関して、既に情報は持っているのだろう、何せリオ会長がそちら側にいるのだからな」

「えぇ、勿論そうでしょう、個人的には可愛い後輩との初対面がこの様な形となってしまったのは大残念に思いますが……ともあれそうですね、私達も改めてご挨拶すると致しましょう」

 

 唐突な奇襲、しかしそれは何方も同じ事。大型のケースを地面に降ろし、サイレントソリューションを腰裏へと収納した彼女は先程のトキを真似る様にスカートを摘まむと、優雅に一礼して見せた。

 

「初めまして後輩さん、お名前は飛鳥馬トキ……と仰いましたね」

「………」

「先日は部長が大変お世話になったそうで、それに先生――ご主人様に関しても」

 

 微かに上がった顔、そこから覗き込む様に向けられる眼差し。奇妙な熱を帯びたそれがトキを射貫く。秘められたそれは、決してプラスの方向へと向けられた感情ではない。瞳の奥底には冷ややかな色が潜んでおり、今尚滾り、濁り、淀んでいる。

 

「加えてこの様な降伏勧告まで、ご丁寧に頂けるなんて……ふふっ」

「あ、アカネ……?」

 

 何やら不穏な気配を滲ませ始めた仲間に、カリンは思わず肩越しに声を掛ける。しかしアカネはそんな彼女の不安を顧みる事無く、腰裏に収納したサイレントソリューションに手を添えた。

 

「貴女がリオ会長のボディーガードだという事は事前に知らされておりましたが、あぁ、全く――」

 

 隙は見せなかった。

 目を離した訳でもない。

 しかし気付いた時、そう表現するしかない程に、唐突に――アカネの持つ愛銃、その銃口が自身へと突きつけられていた。

 音もなく突き出されたサイレントソリューション、そのバレルが鈍い光を放つ。

 その向こう側に、アカネの煌めく瞳を見た。

 

「私達C&Cも、随分と安く見られたものです」

「――!」

 

 微かな発砲音と共に発射される弾丸、トキの額を狙ったソレを彼女は辛うじて身を反らし回避する。弾丸はトキの髪を掠め、数本の前髪が宙を舞った。同時に耳を打つ風切り音、見上げればビルの外壁を蹴飛ばし、身を翻すアスナの姿が視界を過った。

 

 ――速い……っ!?

 

 驚愕に息を呑み、目を見開くトキ。いつ動いたのか、行動の起こりが全く見えなかった。

 阿吽の呼吸、彼女達は仲間の攻撃タイミングを熟知している。

 口に出さずとも、彼女達は互いがどの様に動き、何を望んでいるのかを理解しているのだ。繰り出される連携に隙は無く、だからこそ対処は困難を極める。体勢を崩したままアスナを見上げるトキは、その表情を歪め叫んだ。

 

「コールサイン・ゼロワン、アスナ先輩……!」

「あははっ、イッツ・ショウタイム!」

 

 歓喜を滲ませる声、同時に轟く銃声。頭上から降り注ぐ弾丸の雨、広範囲にばら撒かれたそれを前にトキは思考を加速させる。この状態から完全回避を行うのは難しい、直撃コース、被弾すれば少なくない被害を受ける。

 ――それならば。

 

「演算、加速――ッ!」

 

 勢い良く足を踏み締め、地面を砕く。瞬間彼女の身体は加速し、残像を見せながらアスナの強襲を凌いだ。一拍遅れて突き刺さる弾丸の雨、数発が合間を駆け抜けたトキの衣服を掠め、穴を穿つが気に留める余裕は無かった。

 蒸気を吹き上げ、アスファルトの上を滑るトキ、一瞬で見失った彼女を再び視界に捉えたアスナは、その表情を驚きと感心に染めながら着地を敢行。笑顔を浮かべたまま称賛の声を上げる。

 

「わお、すっご~い、これも避けちゃうんだ!?」

「今度は此方の番です、砲塔起動、制圧射撃開始――ッ!」

 

 彼女をフリーにするのは危険だ、トキの戦術的思考がそう叫んでいる。

 トキは大きく腕を振り被り、宣言する――瞬間彼女の視界に幾つもの通知が表示され、稼働音を鳴らし一斉に出現する防衛砲塔(タレット)の数々。

 ビル群の中に紛れ、用意されていたそれは内部に侵入した者を迎撃する為の代物。ビルの外壁、屋上、街道の地下、ドローンターミナル裏、あらゆる場所が展開し、内部より格納されていた砲塔が顔を覗かせる。稼働したそれらはトキの示した対象、アスナに銃口を向けバレルを回転、一斉に火を噴いた。

 搭載されているのは重機関銃(ガトリング砲)、口径7.62mmの弾丸を毎分四千発ばら撒く砲塔。キヴォトスの生徒であっても直撃を許せば一瞬で意識を失う暴威の嵐、それに四方を囲まれた彼女は絶体絶命とも云えた。

 周囲の空気を揺らす重低音、視界を覆う閃光、砲火の光。

 しかし――。

 

「あはははッ! 全然当たらないよ!」

「っ……!?」

 

 前後左右、あらゆる箇所から飛来する砲撃に対しアスナは笑いながら駆け抜ける。ほんの鼻先を弾丸が掠め、足元に着弾した攻撃が地面を抉り破裂させる。だがその破片一つも、まるで何処に飛んで来るのか分かっているかのようにアスナは身を翻し、駆け、跳び、悉くを回避する。

 飛び散る破片一つとして、彼女の衣服に触れる事すら許されない。

 

「どう、いう……!?」

 

 それは正に異次元の回避術――縦横無尽に駆け巡る彼女は炸裂する砲火を前に、余裕の笑みを崩さずに居た。愛銃を掻き抱いたまま身を晒すアスナは、ビル群の合間を跳び交い、トキを空中より見下ろしながら笑う。

 

「ねぇ、もしかしてこの程度? 違うよね? 仮にもリーダーに勝って――ご主人様を虐めたんだからさぁ!」

 

 その笑みに込められた感情は何か、落下しながら引き金を絞ったアスナ。乾いた銃声が連続し、トキは素早く後退し回避を敢行。自身の立っていた場所に突き刺さる弾丸へと視線を向けながら、彼女は顔を顰める。

 

「この回避率、まさか予測演算? いえ、その様な装備、情報には……」

「――アスナ先輩ばかり気にして良いのか?」

 

 余りにも常識はずれな光景に一瞬思考を止めたトキ、そんな彼女の肌を叩く銃声が背後より轟いた。一拍遅れて青白い閃光が両脇を掠め、周囲に展開されていた砲塔(タレット)全てに突き刺さる。

 

「っ!?」

 

 一瞬の内に砲塔を穿ち抜いた弾丸は、そのまま内部に侵入し、炸裂。ほぼ同時に起きた爆発は空間を揺らし、爆炎が一斉に辺りを包んだ。

 爆風に目を細めながら振り向けば、愛銃であるホークアイを構えたカリンが佇んでいた。カコンと、音を鳴らし操作されるコッキングレバー。軽い音を立てて空薬莢が地面を弾み、転がっていく。

 

「私の火力支援を甘く見ない方が良い、直撃すれば一発で意識を吹き飛ばす、それだけの威力はあると自負しているからな」

「……コールサイン・ゼロツー、カリン先輩」

 

 たったの一撃で全ての砲塔(タレット)を撃ち抜いたカリン、その技量は情報として知っていた。しかし実際にこうして目にすると、情報とは違う凄まじさを感じる。先程放たれた複数の青白い閃光、あの弾丸一発一発に必殺級の威力が籠っているのか。只ですら驚異的な命中精度を誇る彼女の狙撃は厄介であるというのに。

 トキは油断なく三人を見据えながら、引き金に指を添える。

 

「目には目を、歯には歯を――銃弾を贈られたのであれば、銃弾を贈り返す、本日はその為に来ておりますから」

 

 カツンと靴音を鳴らし立ち塞がるアカネ、彼女の背後に佇むカリン、「よっと!」と声を上げながら着地するアスナ。対峙するトキは大きく息を吸い込み、視線を周囲に向けた。黒煙を吹き上げ、沈黙する砲塔。周辺の防衛砲塔は、先の一撃で壊滅的な打撃を受けていた。外周に展開した増援(AMAS)到着まで、まだ暫し時間が必要である。

 

「元より私達C&Cの真価はチームでの作戦行動、そう易々と勝てる等と思わぬ事です――あぁ、勿論大人しく投降するというのであれば、先の件も水に流す事も出来ますよ?」

「……それは、無理な相談です」

 

 微笑み、余裕すら湛えて投げかけられたその提案にトキは即座に首を横に振った。意趣返しの類である事は直ぐに分かった。だからこそ愛銃を脇に構えたまま佇む彼女は、淡々とした口調で以て答える。

 

「私とて、リオ様より命令を受けた身です――その命令に背く事は出来ません」

「ふ~ん、随分と真面目ちゃんなんだね、トキちゃん」

「まぁ、想定通りの反応だ」

 

 元より彼女が大人しく投降する等と、そんな風に考えている者など誰ひとりとして居ない。そしてそれは、トキとて同じである。この場に居るC&C全員、最後の最後まで喰らい付く覚悟の上で立っているのだ。

 ならば此処からが正念場――自然、皆の纏う気配は荒々しさを増す。

 

「……C&Cは潜入、工作、秘密裏に活動する事を主眼に置いた組織、最初は隠密行動による攪乱を想定し、それに備えておりましたが――よもや正面突破を試みるとは思いませんでした」

「隠密しか出来ないと、隠密も出来るは、大きな違いがあります、あらゆる状況、戦術に対応してこそのC&Cです」

 

 その性質上、C&Cは隠密行動を選択するものとばかり思っていたが――トキの予想に反し、C&Cは正面突破を選択した。その事に言及すれば、アカネは手元のケースを地面に置き答える。

 下から見上げる様な視線がトキを射貫いていた。

 

「ご主人様のご要望には、あらゆる手を尽くして応える、当然の事でしょう?」

「――御尤もです」

 

 彼女の言葉にトキは賛同を示した。その言葉に嘘はない、最終的な立ち位置は異なっても、その根底は正しくC&Cとして相応しい輝きを放っている。

 トキは三人を見つめながら、それとなくある人物を探した。彼女達が『ご主人様』と呼称する存在――先生の姿を探したのだ。

 しかし、彼の存在は何処にも見当たらない。探知を行っても同様、ドローンによる発見報告もなし。その事にトキは内心で安堵する。無論、それを表に出す事はない。

 

「しかし、これもまた想定の範囲内、それに――ネル先輩の姿が見えないと云う事は、私との正面対決を避けたのでしょう?」

「あら……」

 

 トキの言葉にアカネは僅かに目を見開いた。それは純粋な驚きだった。トキは会長よりC&Cの情報を提供されている、それは確かだ。しかし、彼女はネルが戦闘を避けたと口にした。

 アカネの反応を横目に、トキは尚も言葉を重ねる。

 

「合理的な判断です、部隊を二つに分けミレニアム最強と名高いネル先輩をフリーにする、皆さんの役割は時間稼ぎ、そうでしょう? しかし、その様な策を講じたとしても――」

「――あぁ? 誰がてめぇを避けたって?」

 

 トキが何かを云い募ろうとして、しかし遮る声があった。

 一拍遅れてトキの佇む街道、その脇にあったビル一階部分が爆発によって吹き飛ぶ。拉げたフレーム、変形した外装、硝子、砕けたコンクリート片、あらゆるものが空中に撒き散らされ、地面に重々しい音、甲高い音を立てて転がる。トキは爆風と衝撃に顔を逸らし、姿勢を低く防御姿勢を取った。ややあって目を細めながら顔を上げたトキが見たものは、燃え盛る緋色を背に歩く小柄な人影。

 耳に届く鎖の音、同時に影は何かを放り投げ――無残に変形し、穴だらけとなったAMASが地面を転がる。

 

「っ、これは……!?」

「あははっ! 部長、遅かったじゃん!」

「派手なご登場ですね」

「まぁ、部長らしいと云えばらしい」

 

 撃破したAMASをトキの足元へと転がした人影――ネルは炎に包まれたビル一階を背に、その口元を吊り上げる。その恰好は所々煤けてはいたが、ダメージらしいダメージは皆無。放たれる重圧は寧ろ、嘗てより増している様に思えた。

 

我楽多(ガラクタ)共が存外多くてよ、取り敢えず周辺の連中は粗方片付けてやったぞ」

「……作戦通りではありますが、どれ程相手取って来たのですか?」

「んなモン、一々数えていられるかよ、多分百はいってねぇだろう」

 

 若干の呆れ、或いは感心を滲ませたアカネの問い掛けに対し、ネルは億劫そうな態度を隠す事無く答えた。

 兎に角目に付いたモノを片っ端から破壊する、三名と別行動を取っていた彼女は自分達の存在をよりアピールし戦火を広げる為、外周を一通り掃除して来たのである。彼女がたった今投げ捨てたソレは、外周に配備されていた増援予定のAMAS。それをネルは単独で全て撃破した上で、この場へと足を運んでいた。

 

 ――ジャラリと、彼女が愛銃で肩を叩く度繋がれた鎖が音を鳴らす。

 

 燃え盛るビルよりアラートが鳴り響いていた。備え付けられていた自動消火装置が稼働し、ビル内部に消火剤が散布される。その白を背にしながら、ネルはトキの前へと足を進める。その足取りは淀みなく、自信に満ち溢れていた。

 煌めく血の様に赤い瞳がトキを捉える。肌が粟立ち、ひりつく様な息苦しさを覚えた。

 

「よぉ――リベンジマッチに来たぜ、後輩?」

「……ネル、先輩」

 

 そう、彼女(ネル)が戦闘を避ける事など――あり得ない。

 彼女達の情報を入手しておきながら、トキはその行動予測を誤った。滲み出る戦意に気圧されたトキは無意識の内に一歩退く。トキの声が彼女の名を呼び、ネルは歓喜を滲ませながら好戦的な笑みを浮かべた。

 

「あたしが別行動していたら、てめぇは絶対に止めに来るだろう? 一々段取り考えるのも面倒だしよぉ、こっちから会いに来てやったんだ」

「………」

「チビを助け出すのは大前提、だがコソコソ目を気にして動くなんざ性に合わねぇ、だったらあいつを助けるのは、てめぇをぶっ倒した後でも遅くはねぇ訳だ――そうだろう?」

 

 そう云って一歩、また一歩と距離を詰めるネル。其処には嘗て敗れた事に対する気負いや負い目などまるで存在しない、絶対的な自負と自信があった。

 

「この前は随分と好き勝手やってくれたなぁ? しかも先生の前でよぉ――つぅ事で、先輩に楯突いたらどうなんのか、その辺りをじ~っくりと教えてやるよ」

「――……」

 

 愛銃を両手にぶら提げたネルが告げ、C&Cの先頭に立つ――瞬間、自然と陣形を取る総員四名。その行動は殆ど、呼吸に等しい。

 彼女達は個々であっても高い戦闘能力を持つ存在、しかしチームとして完成されたC&Cは全員揃って初めて本領を発揮する。フロント、ミドル、バック、各々が独自の役割を持ち、あらゆる状況、戦力に対応出来るだけの実力とチームワークを持っている。

 身に降りかかる重圧が、一層その重さを増した。

 

「……要請、武装の限定使用許可」

 

 演算を行わなくとも理解出来た。

 現状装備のままでは彼女達の攻勢に対応できない。

 故に――。

 

「――武装の限定使用許可、確認」

 

 呟き、トキは視界に表示された、『武装限定使用許可』の文字を視線でなぞる。

 息を吸い込むと、彼女は自身の装備を一部パージした。肩から袖に掛けて、またロングスカートが音もなく地面へと落ち、彼女の装備した白いレッグギアが露となる。

 それを見たネルの視線が鋭く光った、あの時と同じ装備――自身を捉えた、部室棟での一戦。否が応でも思い出すそれに、ネルの戦意は天井知らずに膨れ上がる。

 自然纏う空気は重苦しく、張り詰める。リーダーである彼女に釣られ、アスナ、カリン、アカネもまた目に見えて闘志を滾らせ始めた。

 両手足に装着された武装、ギアの調子を軽く確かめ――張り詰めたそれを裂くようにトキは叫び、構えた。

 

「――戦闘、開始します!」

「はッ! 良いぜ、あの時の続きと行こうじゃねぇか!」

「アスナ、行っくよ~ッ!」

「目標確認、敵は逃がさない」

「ご主人様に愛を、敵には鉄槌を!」

 

 飛び出す双方、先頭に立ったネルは地面を踏み砕き、勢いそのままに飛び蹴りを繰り出す。トキは飛来する影を見て、手甲の様に纏ったアームギアで受ける判断を下した。瞬間、衝撃が走り、トキとネルが衝突する。腕に走る威力と痛みに顔を顰めるトキ、至近距離で睨み合う二人の耳に、鎖の音が響く。

 破顔し、トキを真正面に捉えたネルは両腕に構えた愛銃を突きつけ、叫んだ。

 

「C&C――掃除を始めるぞッ!」

 


 

 カリンのEX攻撃、通常衣装だと単体攻撃なのにバニーになった途端、範囲攻撃になるんですわよね。アレって何を撃っているのか分からねぇですわ、多分神秘的な何かです事よ。

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