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「此処ですよ、シャーレの先生」
デカルト一行に連れられて辿り着いたのは、D.U.郊外の端も端、廃墟となって打ち捨てられた倉庫であった。元々資材置き場か何かだったのか、入り口は大きく開け放たれ、穴の開いたトタン屋根から陽光が差し込み、彼方此方錆び付いている。大きさはかなりのもので、元々はそれなりの規模を持つ工場か何かが近くにあったのかもしれない。
そんな巨大な空間の中には、等間隔で並ぶオートマタの兵士が複数。オートマタ達はデカルト一行が中に踏み込むと警戒の視線を寄越したが、元々話は通していたのか銃口を向けることは無かった。
よく見れば建物奥側に装甲車が二両入り込んでおり、その中心に軍服を着込んだ一際目立つ人影がある。その人物は何事かを近場の兵士と話し込んでいたが、デカルトに気付くと両手を後ろに回したまま、入口よりゾロゾロと現れた一行に対し、何とも冷ややかな視線を向けた。
「――時間通りだな」
「えぇ、えぇ、当然ですとも」
「首尾は」
「周辺は全て所確幸の同胞達が固めていました、この一件に於ける目撃者はゼロ、件の先生はこの通り……これで条件は全て達成したでしょう?」
「あぁ、問題ない」
「彼も非常に協力的で、大変助かりました」
そう告げ、何度も頷いて見せるデカルト。同時に身に纏った布の下から差し出される掌、そこから意図を察したのだろう。制服を着込んだオートマタは被った帽子、そのつばを指先で押し上げ、フェイスモニタを点灯させた。同時に彼の背後に立つ兵士が小さなジュラルミンケースを掴み、デカルトへと無造作に突き出す。
「これが報酬だ、御苦労だった」
「おぉ! ありがとうございます、これで暫くは贅――げふんッ、また無所有の活動に励めると云うもの!」
「………」
何やら組織名とは反する単語が聞こえた様な気もするが、誰もそれを指摘することは無い。デカルトはケースを受け取ると、喜色を滲ませながら仲間を引き連れ、そそくさと踵を返した。
「では、また何かあれば是非」
「……ふん」
返答は素っ気なく、否定も肯定もしない。ただ小さく肩を揺らし、不機嫌そうに声を漏らすだけである。去っていく所確幸の一団、そんな彼の背後から別のオートマタが問いかけた。
「
「それでもPMCを動かすよりは余程安上がりだ、浮浪者のネットワークというのも存外侮れないものだからな、はした金で事が穏便に済むならそうするというプレジデントの決定、我々はそれに従うのみ……さて」
軽く手を挙げ、話を打ち切ったオートマタ――将軍と呼ばれた彼は、改めて先生と向き直る。グレーの外套に軍人然とした立ち姿。右腕に装着した腕章にはカイザーPMCのロゴが刻まれており、フェイスモニタの奥側にカメラと思われる緑色の光が点灯していた。
「――お初にお目にかかる、私はカイザーPMC所属、どうかジェネラルと呼んで欲しい」
「どうも、シャーレの先生だよ」
知っているとは思うけれど、そんな言葉を先生は呑み込む。カイザーグループの中でも、カイザーPMCとはアビドスの一件で睨み合った仲だ。この台詞がどれだけ意味のない代物かは、分かり切っている。
しかし、ジェネラルはこの様な手段でこの場に招いておきながら、妙に紳士的な態度で此方に問い掛けた。
「まずは謝罪させて頂こう、彼等は何か貴方に無礼な言動を取らなかっただろうか? 怪我などは無かったかな? もしどこか身体に不調が生じたのならば、此方の治療施設で全て治療しよう、勿論費用は我々が負担する、望むのなら相応の慰謝料の用意もある」
「………」
「何分彼らは礼儀も知らぬ落伍者だ、本来であれば貴方を出迎える使者としては不適切だったが、此方も大々的に動く訳にはいかない理由があったのだ、どうかご理解願いたい」
身振り手振り、時折此方を気遣う気配を見せながらジェネラルは小さく頭を下げる。それが形だけの誠意である事は明らかであった、少なくとも彼らの内面を知る先生からすれば思わず苦い顔をしてしまう程に。
「……必要ないさ、別段手を出された訳でもないからね」
「ふむ、そうか、それを聞いて安心したよ」
最低限の仕事は果たせる様だ。
呟きはどこか満足気であったように思う。
「それで、私を態々こんな場所に呼んだ理由を聞いても?」
「――貴方に是非お会いしたいという方がいらっしゃってね、対話を望んでいる、私はその方との橋渡し役だ、どうかご同行を願いたい」
「……場所は?」
「何、そんな離れた場所ではないよ、勿論身の安全は保障するとも」
先生、とシッテムの箱からアロナの声が聞こえた。それは自身に警戒を促すものだったのだろう、先生はその言葉を耳にしながら慎重にジェネラルへと問いかけた。
「断る、と云ったら?」
「ふむ、それは――少々、困ってしまうかな」
先生の返答を聞き届けたジェネラルは恰好を崩し、自身のフェイスモニタを撫でつけた。しかし困る、などと口にしながらもその姿勢に焦燥感や圧迫感は無かった。周りを取り囲む兵士たちも特に逸る様子もなく、此方に迫る気配もない。本当に、対話だけを望んでいるかのように彼らは振る舞う。或いは、見せかけの抑止力と嘯くつもりか。先生は暫し思案し、それから口を開いた。
「分かった、同行しよう」
「――ほう」
先生は敢えて、ジェネラルの誘いに乗った。意外そうに、ジェネラルは声を上げる。一瞬、そこには探る様な色が見えた気がした。
「……こう云っては何だが、少々拍子抜けだ」
「拍子抜け?」
「あぁいや、失礼した、勿論悪い意味ではない、てっきり貴方は我々カイザーに良い印象を抱いていないと思っていたのだよ、もっと交渉は難航すると考えていたんだが」
「それは、否定しない」
それはお互い様だろう、先生はカイザーグループ全体の方針を快く思っていないし、同時に向こうも同じ筈だ。それは前提条件であり、火を見るよりも明らかな事実でもある。
しかし――先生は掌をジェネラルに向けながら問う。
「けれど、貴方は先程対話を望んでいると云った――そうだろう?」
「あぁ、確かに口にしたとも」
「対話ならば応じよう、互いに言葉を交わさなければ分からない事もある、言葉を交わした上で理解し合えないのならば、それは一つの答えだと思うから――けれどそう在る前から否定してしまっては互いを理解する、その機会すら失う事になる」
先生は思う。意見が異なり対立する事もあるだろう、或いは互いの信念や根底を否定され、その果てに憎しみ合う事だってあるかもしれない。それを先生は実体験として理解している。しかし、最初から銃口を突きつけるのは――それは違う。
少なくとも相手が対話を望み、その意思を見せるのであれば、先生は応じなければならないと思っていた。それは先生の性であり、善性である。仮に結末が変わらないとしても、きっと己はそうするだろう。
「確かに貴方達を私は好意的に見る事は出来ない、けれどそれはお互い様の筈だ、貴方も私の事は好意的に見ていない……件のアビドスの一件は、貴方達からすれば私が潰したようなものだからね」
「――ふむ、ならば、此方の意図するところも既に理解されているのかな?」
「カイザー全体の事は何も、けれど貴方個人の話ならば……そうだね」
呟き、先生はジェネラルを見据える。試す様な口調だと思った、それとも自身がこうして出向いた事を遠回しに汲んで欲しいと考えているのか。カイザー全体に関しては不透明であった、しかし目の前のジェネラルに関して云うのであれば、多少なりともその性質を記憶として保持している。
「個々人の恨み辛みで付き合う相手を選んでいてはならない、どれだけ憎い相手であっても利益の為に笑顔で握手出来てこその大人……そんな風に思っているのかな」
「素晴らしい!」
それは、掛け値なしに賞賛の叫びであった。ジェネラルは両腕を広げながら徐に先生へと歩み寄り、先程よりも明るく、朗らかな視線を寄越す。先生はその姿に肩を竦めながら、平坦な口調で以て続けた。
「賛同は出来ないけれど、理解はしよう――感情的な部分はまた、別な話だけれどね」
「それこそお互い様というものだろう、貴方のその身の毛もよだつ様な博愛主義には反吐が出る――しかし、それはそれ、これはこれ、個人の問題は脇に置いておくのが正しい
そうでなければ、良き兵士足り得ない。武器は自我を見せず、私情を殺し、上官の手足となって動けば十分。ジェネラルはそう言葉を続けながら深く頷いて見せる。
「そういう観点では確かに、貴方とは良き隣人になれそうだ」
「………」
先生はその言葉に答える事はしなかった。ただ目を瞑り、ジェネラルの目の前に佇むのみ。それがどの様な意図なのかは分からない、しかしジェネラルは両手を軽く叩き、それから周囲を警備する部下に対し声を掛けた。
「――先生をお連れしろ、決して失礼のない様にな」
「はっ!」
声は倉庫内に良く響き、続いて後方にあった装甲車がゆっくりと発進する。それは先生の直ぐ傍で停車すると、そのまま独りでに扉が開いた。内部は薄暗く、既に幾人かのオートマタが詰めている。直ぐ横に、二名のオートマタが付き、そっと声を掛けて来た。
「御乗車を、シャーレの先生」
「……分かった」
頷き、先生は一瞬シッテムの箱に視線を落とす。しかしそれ以上何か素振りを見せる事無く、先生は促されるまま車内へと足を踏み入れた。
■
移動先は、先の廃倉庫から三十分程走った場所だろうか。移動中は殆ど外を観察する事が出来なかったので、具体的な位置は分からない。少なくとも先生自身で判断出来る材料は殆ど与えられなかったと云って良い。
唯一探れる方法があるとすれば、先生が懐に仕舞い込んだシッテムの箱――アロナの助力によるものになるだろう。
招かれた場所はそれなりに背の高いビルであり、周囲には似たようなオフィスビル、テナントビルが幾つか並んでいた。しかし辺りに人の気配は余りなく、人通りは皆無。周囲を観察するよりも早く背中より声を掛けられ、半ば急かされるようにビルの内部へと足を運ぶ流れとなった。
エントランスは外観に似合わず殺風景で、受付と思われるカウンターと大型ディスプレイ、幾つかのソファ、カイザーコーポレーションのロゴと観葉植物が添えられるのみ。数人のオートマタとジェネラルに促されるままエレベーターを使用し、最上階手前の階層で降りる。長い廊下を歩いた先、奥まった一室の前でオートマタ達は足を止めた。
「どうぞ中へ、既にプレジデントがお待ちです」
先導していたオートマタの一人が先生に向かってそう告げ、直ぐ前に立っていたジェネラルはそれとなく背を正し、扉をノックした。
「――プレジデント、シャーレの先生をお連れしました」
「入れ」
その一言にジェネラルは一歩退くと、背後の先生に視線を寄越した。そしてそのまま扉に手を掛け、ゆっくりと開く。先生は小さく息を吸い込み、ジェネラルに続き部屋へと踏み込んだ。
内部は、執務室というよりも客間や、談話室の様に見えた。落ち着いた照明に、若干クラシックな色合い。その中心に佇むのは、他のオートマタとは明らかに異なる気配を纏った人物。
「――ほぅ」
「………」
照明を反射する黒い外装、顔面は六眼の複眼タイプで、首元には深い蒼のスキンが垣間見える。スーツ姿に赤いシャツ、ベストをきちんと身に纏った彼の姿は正に相応の貫禄を感じさせた。
性質としては、いつか対峙したカイザーPMCのCEOに近しいと思う。しかし彼の巨躯に反し、プレジデントの素体は余りにも細く、一般的なオートマタと変わりない様に見えた。無論、内部までは分からないが、視覚的な威圧感という意味合いでは数段劣る。或いは、彼が大型の素体を用いていたのはPMCのCEOという環境の違いによるものか。
しかし、プレジデントには目に見えない圧力があった。それはカイザーグループの頂点に立つという自負から来るものか、それとも本人の気質によるものか。
虫の様なコンパウンドアイが此方を捉え、彼は黄金色の靴を鳴らした。
黒い機械的な指先が広がり、先生の来訪を歓迎する。
「ようこそ、シャーレの先生――仮初ではあるが、我が城へ」
「初めまして、プレジデント」
言葉を交わしながらも、先生は泰然とした姿勢を崩さず口を開いた。一瞬、二人は無言で見つめ合う。プレジデントは観察する様に、先生は何かを見極める様に。
そんな双方を一瞥したジェネラルに対し、プレジデントは徐に手を挙げ告げる。
「
「ハッ!」
その指示に何ら逡巡を見せず、ジェネラルは素早く踵を返し部屋を後にした。同時に室内に詰めていた数名のオートマタも規律正しく退室し、部屋の中には文字通り先生とプレジデントだけの二人きりとなる。
背後から扉の締まる音が鳴った。暫しの間沈黙が流れ、プレジデントは先生と対峙したまま興味深そうに自身の顎先を擦る。
「ふむ、私は以前よりシャーレ――というよりは貴方個人に注目していた、動向は探っていたし情報の収集も抜かりはない、初めまして……という言葉には少々違和感がある」
「私も、貴方とは兎も角、カイザーグループとは何かと因縁があったからね、理解は出来るよ」
「そうか、それは奇遇だな」
クツクツと、喉を鳴らす様に笑うプレジデント。彼の素体の動きは非常に滑らかで、まるで機械らしさを感じさせない。指先一つの動作音さえ、その内側から聞こえて来る事は無かった。
「互いの立場は兎も角、貴方とは一度こうして会談の場を設けたかったのは本当だ、少々面倒なやり方をしてしまった事は謝罪しよう――尤も貴方がこうして素直に応じてくれた事の方が驚きだが」
「武力を用いない対話ならば、応じるとも」
「そうでなくては――どうぞ掛けてくれ、心配せずとも此処で貴方をどうこうしよう等と考えてはいない、是非リラックスしてくれ給え」
プレジデントはデスク前に配置された来客用のソファを指し、着席を促す。対面する様に置かれたソファと、中央にはローテーブルが一つ。先生はこの手の調度品に目が利く訳ではないが、目の前にあるそれは随分と高額な代物に見えた。しかし、小さな傷も無く、使用感も皆無――まるで新品の様だ。
或いは、文字通り自分と会談する為だけにこの場を整えたのか。調度品も、部屋も、もしくはこの建物さえも。先生はエントランスの様子を思い返しながら、そんな事を考える。
プレジデントは直ぐ横に設置されたワインセラーより、ワインを一本無造作に取り出し、それを先生に掲げて見せた。
「お近づきの印に、どうだね一杯? 中々手に入らない一品だよ」
「いえ、結構」
穏やかな口調でそう勧めるプレジデントに対し、先生は緩く首を振る。それを見た彼は、心外だとばかりに肩を竦めた。
「おや、よもや毒物の心配でも?」
「まだ勤務中だからね、アルコールは拙い」
先生は何の気負いもなく、その様な事を口にした。想定外の答えだったのだろう、先生の返答を聞き届けたプレジデントは一瞬呆気に取られ、それから愉快そうに笑った。機械的で、電子的な、しかし肉声に限りなく近い声が部屋に響いた。
「あぁ、フフッ、なるほど、何とも先生らしい――なら私も此方で我慢するとしよう」
そう云って彼が淹れたのは珈琲だった。ワインの他にも、コーヒーメーカーも用意されていたらしい。彼はカップを二つ持ち、二杯の珈琲を淹れた。「これならば、構わないだろう」と差し出されるソーサーと一杯の珈琲。生憎と嗅覚も利かなければ、味覚も弱いが――濁りのないそれは、雑味が無さそうに見えた。
自身で用意した珈琲を口元に寄せ一口啜ったプレジデントは、じっと此方を見る先生に対し、自身の外装を撫でつけながら告げた。
「私の味覚センサーは特別でね、色々と工夫が凝らしてある、微細な成分は勿論の事、美食と云うものを堪能する条件は全てクリアしているのだよ、こうした趣向品も勿論、愉しむ事が出来る」
「それは、随分と金銭が掛かっていそうな話だ」
「当然だとも、私のメインフレームだけでゴリアテが何機生産出来るか……そうだ、今度一緒に食事でもどうかね? こう見えてもカイザーは食品開発にも投資している、コンビニの食事が好きなのだろう、先生? カイザーコンビニの弁当は、中々好評だぞ」
「ご厚意は有難く、ただ別段、好き好んでコンビニの食事ばかりになっている訳ではないよ」
「おや、そうだったのか、これは失礼」
軽妙な語り口であった、老練でありながらどこか友好的、しかし背景には厳かな気配も感じさせる。もしくはそのちくはぐさが、カリスマと呼ばれるものなのか。
カタリと、彼はカップをソーサーに戻した。それが何かの合図である事は、先生にも理解出来た。改めて佇まいを正したプレジデントは、珈琲の水面を見下ろしながら言葉を続ける。
「さて、シャーレについてはカイザーPMCを通じて黒服から話を聞いてはいた、お互い確執はあるが――この場ではひとつ、過去の立場やすれ違いは一度横に置いておきたい、そうしないと話が進まないだろう」
「……なら先に、こんな会談の場を用意した理由を聞いても?」
「おや、随分と率直だな」
先生の問い掛けに、プレジデントは意外そうに肩を揺らした。ソファを軋ませ、背凭れに身を預けた彼は腕を組んだまま思案する様子を見せる。此方を見据えるコンパウンドアイは揺らぎなく、黄色の光が陽光の中でじっと不動を貫いた。
「さて、何と切り出すべきか――正直私も少し悩んでいるのだ、現状のカイザーグループの方針を明かすべきか、それとも先生、貴方の行動を詳らかに語るべきか」
「……私の行動、か」
「あぁ、そうとも」
――カイザーコーポレーションは既に、貴方が独自にアビドス砂漠を調査している事を把握している。
彼の言葉に、一瞬部屋の中に沈黙が降りた。それが此方の出方や反応を伺う為のものである事は分かっていた。故に先生は何の反応も示さず、ただ淡々と時を過ごす。プレジデントは数秒程間を置き、それからふっと脱力するように両手を挙げた。
「とは云っても、隠すつもりなど毛頭ないだろう、そういう動き方だった、違うかね?」
「……否定はしないよ」
あっさりと、先生は彼の言葉を認める。そうだ、元より全てを隠蔽して動く等土台無理な話。必ず何処からか情報は洩れる、特にシャーレとして動くのならば、最低限のラインを引き、動きの規模に合わせて防諜を考えなければならない。そして、アビドス砂漠に於いての行動は、その規模の大きさから完全な隠蔽は不可能であると判断していた。
ならば何も彼が此方の行動を把握しているのは驚くべき事ではない。特にカイザーコーポレーションともなれば、大きな自治区に劣らぬ情報部も持っている事だろう。相応の時間と金銭を掛ければ、可能な事だ。
「一応、あの砂漠の一部は我々の私有地なのだが」
「勿論、法務局の登記やカイザーの保有する施設がある場所には立ち入っていないさ、境界標識の張られた場所にもね」
「では、あくまで合法と」
「私が調査している場所は、単なる空白地帯に過ぎないよ、プレジデント」
「成程、ならば口を出す事は控えよう、お互い多忙の身だ、面倒は少ない方が良い」
空虚なやり取りだと思った。お互い、目的は理解している。故にこそプレジデントは前傾姿勢となり、先生を覗き込む様に背を曲げると重ねて問いかけた。
「ならば此方も率直に問おう、先生――貴方はあの砂漠に、【箱舟】の存在を嗅ぎつけたのか?」
「………」
箱舟――その単語は重々しい響きを伴って、双方の耳に届いた。
それが何を意味しているのか、どんな影響を齎すのか、この場で顔を突き合わせる両名は理解している。先生はその危険性と存在意義を、プレジデントは力と可能性を。
プレジデントのコンパウンドアイ、その奥に仄暗い感情が宿る。
「【宝探し】はカイザーPMCの頭が挿げ替えられた後も継続している、残念ながら目に見える成果は出ていないが――それでも我々は確信を持って捜索を続けているのだ、そうでなければこんな道楽染みた行動に何百、何千もの予算はつぎ込まんとも」
「……その情報はゲマトリア、黒服から齎されたものかな」
「ククッ、悪いが情報源は明かせんよ、我々にも『契約』があるのでね」
分かり易い誤魔化し方だと思った、そもそも隠す気が無いのか。しかし比較的早い段階で箱舟の存在は嗅ぎ付けていたのだろう、アビドスの一件から今日に至るまでずっと捜索を続けていたのならば、それこそ莫大な費用が掛かっているだろうに。それだけ箱舟を重要視しているのか。
思考を巡らせる先生を他所に、プレジデントは先生を――正確に云うのであれば、彼が懐に仕舞い込んでいるシッテムの箱に意識を向けていた。
「件の万物を生成するクラフトチェンバーのアクセス権、前時代の遺物であるオーパーツ、それを保有する連邦生徒会長が招集した大人――私からすれば、非常に興味深い、貴方が何らかの形で箱舟を探知出来る術を持っているとしても、私は驚かないだろう」
そもそも、連邦捜査部シャーレと云う存在自体が謎なのだ。あの傑物、連邦生徒会長が招集したという大人も、彼が持つ箱の力も、クラフトチェンバーも、何もかも。理解出来ないと同時に、それが持つ力も絶大であると云うのだから恐ろしい。
カイザーPMCが彼に敗れ、そのトップを左遷する事になった過去もそうだが――いや、あれはゲマトリア側の内部分裂に付き合わされた結果でもあるか。プレジデントは自身の指先を擦り、内心で呟く。
兎角、無用な消耗は避けるべきだった。ましてや箱舟を起動出来る唯一無二の手段となり得る存在ならば、尚の事。
プレジデントは両膝に肘を突いたまま、慎重に言葉を紡いだ。
「件の存在を捜索しているのならば是非も無い、先生、貴方は『アレ』を手にして何を為そうとしているのだ? 我々の様に利益を求める訳でもなく、キヴォトスを支配する訳でもない、絶大な力を求めた上で、一体何を――」
「……私の行動理由は、ずっと前から変わらないよ」
問い掛けに対する返答は、シンプルであった。
先生の瞳が、プレジデントのそれを見返す。
黄金に対峙する青が、ゆっくりと口を開いた。
「貴方の同胞である、カイザーCEOと対峙した時からね」
「――ほう」
――
シャーレの、先生の行動原理は単純にして絶対。故に予測はし易いが、曲げる事は困難を極める。どのような取引材料を用意しようと、それが彼の庇護する生徒に何らかの形で悪影響を及ぼすのであれば、先生は全力を以て此方を阻止するだろう。余りにも簡単に予想出来る未来だ。
プレジデントは一度上体を起こし、そのまま大きく吐息を漏らす。尤も、それは単なるポーズに過ぎない。本来彼には、呼吸すら必要ない筈なのだから。
「企業である我々には聊か共感し難い感性だが、そこは立場の違いから来るものだろうな、そこに好悪云々をするのは無粋か」
「私も頭から貴方達を否定するつもりはない、けれど利益の為に生徒を、子どもを食い物にするというのなら――そうだね、私は再び貴方達の前に立ち塞がる事になるだろう」
「……それは、此方としても避けたい事態だがね」
澄ました顔でそう断言する先生に対し、プレジデントは大袈裟に肩を竦めて見せる。こうして本人の口から実際に言葉にされてしまえば、尚の事。徐々に周囲の空気が張り詰めていくのが分かった。だからこそ、プレジデントは敢えて本題を切り出す事にした。
ローテーブルの縁に手を添えたプレジデントが、そのコンパウンドアイを煌めせた。
「実を云うと、今回は協力を申し出ようと考えていたのだ」
「……協力だって?」
「あぁ、そうだとも、共に探しているものは同じ――ならば手を取り合う事は、何も可笑しな事ではあるまい? つまりこれは、協力体制の構築、その打診だよ」
「………」
「この際だ、腹を割って話そうじゃないか、シャーレの先生」
プレジデントの口元が、笑みを模った様な気がした。甲鉄で覆われた外装は、人の口元とは似ても似つかない。しかし先生には、彼の纏う空気や仕草から、今彼が微笑んでいるのだと直感的に理解した。穏やかな気配に反し、先生は身構える様に瞳を細める。理性が、何かを叫んでいる様な気がした。
「恐らくあの超古代兵器も、元を辿れば貴方の持つオーパーツやクラフトチェンバーと同じ系統、その制御に『箱』や『サンクトゥムタワー』への権限云々を要求されても驚かんよ、私が危惧しているのは、その一点のみだ」
「手中に収めたとしても、動かなければ意味がない――と」
「聡い者は好ましい、話が早いからな」
故にこそ、どちらが先に『アレ』を見つけたとしても、互いの共有財産としようじゃないか、先生。
プレジデントは緩やかに、いっそこれは善意であると云いたげに口走った。それだけ自分達の展開した捜索部隊に自信があるのか。規模を考えれば、それは分からない事ではない。先生は数秒沈黙を守り、その眉間に皺を寄せた。
精悍な顔が、分かり易く歪む。
「……それが、今回の本題か」
「その通り、貴方がアレを用いたい時、好きに動かせば良い、保管場所も、整備も、あらゆる面倒事は此方が引き受けよう、費用も人員も出す、何なら貴方個人に対する謝礼も弾もうではないか、好きな額を云い給え、金銭は惜しまん、シャーレとして受け取る事は出来ずとも、個人との取引ならば問題あるまい? 無論大っぴらには出来ないが、色々と入用である事は知っているとも」
「………」
「代わりに――そう、万が一アレの起動にシャーレの先生、貴方の力が必要な時、協力して欲しいのだよ」
カタリと、プレジデントは再び珈琲のカップを手に取った。軽く水面を揺らす様に、円を描く指先。口をつける事はなく、その視線は変わらず先生へと向けられている。
「悪い話ではないだろう? 双方に利益がある話の筈だ、それとも何か不安があるかね」
「……本当に、悪い話ではないと?」
「先生」
呆れたように、訴えかける様に、プレジデントは此方の名を呼んだ。先生の視線が険しさを帯びる。カップを掲げ、まるで役者の様に仰々しく姿勢を変化させる彼は、ナンセンスだとばかりに首を振った。
「貴方個人がアレを所有するのは、聊か不都合な面が大きいだろうに、ましてや貴方はキヴォトスに於いて注目の的だろう、それとも何か、あの超古代兵器を
それを他所が見過ごすとも思えんが。呟きは口をつけたカップの中に溶けて消えた、プレジデントの云う他所というのが連邦生徒会を指しているのか、或いは他の自治区を指しているのか、それとも企業を指しているのか。先生は相変わらず険しい表情のまま、沈黙を守る。その態度はあからさまでもあった、彼の内面を表現しているのだ。
プレジデントは話を戻し、再度問う。
「是非聞かせて欲しい先生、貴方の懸念を」
「……カイザーコーポレーションは、箱舟を手中に収めて何をするつもりなのか?」
一点――ただ、その一点だ。
先生の懸念、不安、疑問、そう云ったものはその一点に集約する。何故カイザーコーポレーションは莫大な資金を投入してまで箱舟を捜索していたのか。何故、自身に不利益を齎した相手に迎合してまで助力を得ようとするのか。そうして手にした
問わずとも、答えは既に先生の中にあった。しかし、敢えて先生は言葉にする事にした。
プレジデントは一瞬視線を天井に向け、それから口を開いた。
「先も伝えたがカイザーコーポレーションは企業だ、畢竟その目的は利益を追求する事にある」
当たり前の事だがね、そう続けて彼は腕を組んだ。勿論、それだけではないが芯に該当する部分がそうである事は誰もが理解している事だろう。プレジデントにとってこの手の問い掛けに詰まる要素はまるで存在しない、故に彼の口調は淀みなく、流暢でさえあった。
「そう考えれば正しく
プレジデントは両腕を広げ、喜悦に染まった様子で語った。価値の創造、社会や顧客の要望に応えた商品やサービスを提供する事は企業として当然である。箱舟は正に、彼にとって可能性の塊だ。それ単体で運用しても良し、解析して新たな技術とビジネスを開拓しても良し。
――或いは、その圧倒的な武力を以て何かを奪い取る事さえ。
それは言葉にしないものの、滲み出るカイザーコーポレーションの本心であった。先生はプレジデントの言葉を真剣な面持ちで聞いていた。微動だにせず、ただ物静かに耳を傾ける先生に対し、彼は言葉に熱を込める。
「我がカイザーコーポレーションがミレニアムさえ凌駕する、革新的技術の先導者である事を示す事で、そのブランド価値は著しく向上する筈だ、顧客は勿論の事、投資家からの信頼も同時に得る……実に、合理的だろう」
「あくまで、企業価値を高めるためと?」
「それがトップたる私の務めだ」
代表たる者、組織の拡充を図るのは当然の事だ。プレジデントは告げ、満足そうに指先を組んだ。彼自身の言葉に嘘は無いのだろう、少なくとも先生はそう思う。しかし、それが全てでもない。彼が語って聞かせた内容は、所詮自身の持つ目的の表面を軽くなぞった程度の事だ。先生はその事を良く理解していた、確信があったのだ。
纏う気配も、口火の切り方も、此方を見つめる光の昏さも、何もかも。
ふっと、先生は吐息を零した。それは失笑だった。
「貴方の言葉は……随分と、耳障りの良いものに聞こえる」
「おや、私としては本心のつもりだが」
「私達の確執は脇に置いてと、貴方は最初にそう云ったけれど……」
――私は、身を以て知っている、貴方達のやり方というものを。
先生の言葉が、静かに、しかし確かに部屋の中に響いた。実感の籠った声色だった。プレジデントは一瞬肩を揺らし、先生を注視する。しかし此方に向けられる瞳からは、一切の情報が読み取れなかった。怒りも、憎しみも無い、しかし隙無く構える様な警戒心だけが覗いている。
それは、ある意味異質でもあった。プレジデントは先生の言葉に唸り、口元を指先で拭う。それは口惜しいと云わんばかりに。
「――あくまで、手を組むことは無いと?」
「………」
返答は無い。
しかしこの場合、その無言こそが、何よりも雄弁な答えでもあった。
「そろそろ、帰らせて貰うよ」
先生は徐に腰を上げ、そう呟いた。プレジデントは立ち上がり、踵を返す先生の背中を無言で見つめる。引き留める素振りも、声掛けも無かった。先生はコツコツと靴音を鳴らし、ゆっくりと部屋の扉に手を伸ばす。
「それは、許可出来ません」
「―――」
しかし、先生がドアノブに手を掛けるよりも早く――目の前の扉は独りでに開いた。
掛けられた言葉、同時に向こう側から覗く黒い銃口。突き出されたそれは扉の隙間から先生の胸元を突き、先生は目を見開きながら一歩後退した。そこから押し退ける様に現れるオートマタの兵士三名、彼等は先生を部屋の中へと押し戻すと、そのまま後ろ手に扉を閉めた。最初にこの部屋で待機していた、護衛の三名であった。
突き出されたそれを見つめながら、先生は表情から色を落とす。
「……これは?」
「席に御戻りを、シャーレの先生」
取り囲んだオートマタの一人が告げた、オートマタの表情は分からないが、音声は実に機械的で無機質であった。
「まだプレジデントとの交渉の席は、終わっておりません――どうかご着席を」
声は願う様な口ぶりだが、実態は脅迫だ。先生は暫しの間口を噤み、それから緩く首を振った。
「……いいや、交渉は既に終わったさ」
「――!」
「私はカイザーコーポレーションと手を組むことは無い、箱舟を君達の手には渡さない」
それはどれだけの金銭を積まれようと、或いはどんな対価を差し出されようと、変わる事はない。先生は目の前のオートマタを泰然とした姿勢で見つめながら、先程口にしなかったそれを、はっきりと言葉にした。
「これ以上に、何か意志表明が必要かな?」
「――……必要とあらば、力づくでも」
目の前に突き出された銃、それを構えるオートマタが指先に力を籠めるのが分かった。先生は素早く半身に構えながら胸元に手を当てると、シッテムの箱を意識する。先生の瞳に恐怖や不安と云った色は全く存在しなかった、それはアロナの防壁に対する信頼もあるだろう。
しかし、今はそれ以上に――頼れる生徒達の存在があった。
「はッ――?」
ビシッ、という何かが罅割れる音がした。それが防弾仕様のカーテンウォールを弾丸が貫通した音だと、誰が気付いただろう。
瞬間、先生の脇を凄まじい突風が突き抜け、一拍遅れて目の前で銃を突き付けていたオートマタ、その胸元から甲高い金属音が鳴り響いた。視界に映る火花、同時に胸部装甲が拉げ、破片が周囲に飛び散る光景。
――狙撃だ。
胸部を撃ち抜かれたオートマタは、衝撃でフェイスモニタの表示にノイズが走り、そのまま大きく仰け反ると、弾丸の威力を殺し切る事が出来ず後方の壁に体を叩きつけられた。けたたましい音が鳴り響き、手から銃が滑り落ちる。途端、残った二名のオートマタが一斉に浮足立った。足元に散らばる外装の破片が、その威力を物語っている。
「なっ、狙撃!?」
「一体、何処から……ッ!?」
「――待て」
恐慌状態に陥り、先生に銃口を向けながら身を竦ませるオートマタ。そんな両名を窘める声が響いた。
見れば未だソファに腰を下ろし、常と変わらぬ様子のプレジデントが片手を挙げていた。ゆっくりと顔を上げた彼は、先生と護衛のオートマタを一瞥し、声を発する。
「全員、銃口を降ろせ、此処は私と先生の場だ、勝手な行動は許さん」
「ッも、申し訳ありません、プレジデント……で、ですが、私達はプレジデントの直属として!」
「それに――」
プレジデントは手に持ったカップをじっと見つめながら、徐にそれを自身の目前に突き出す。
瞬間、一拍遅れて彼の目の前にあったカップが取っ手ごと消し飛んだ。風が吹き、プレジデントの身体が微かに揺れる。遠方からの狙撃で、プレジデントの支えるカップだけを狙ったのだと分かった。
そして、それが意味するところは――明確だ。
バラバラになった破片、中身の珈琲がローテーブルを汚し、プレジデントは罅割れたカップの取っ手を手放し、テーブルへと放る。カランと、破片だけとなったカップは軽い音を立てて転がった。
「お前達が下手をすると、コレと同じく、私の頭部が弾け飛ぶ」
「……っ!」
「――随分と優秀な狙撃手だ、此方からはまるで視認できない」
感心した様にプレジデントは呟いた、直ぐ脇の防弾ガラスに刻まれた弾痕、それを目視し周辺のビル群を凝視する。しかし、それらしい影は何処にもない、余程隠れるのが上手いのか――或いは恐ろしく遠い距離から狙っているのか。
何方にせよ、凄腕である事には変わりない。何より凄まじいのは、姿が見えずとも常に此方を捉えている様な重圧を感じる事だった。目に見えずとも、存在感のある狙撃手とは何とも稀有な事だ。嘆息するプレジデントに対し、先生は同意を口にした。
「……そうだね、彼女達は優秀だよ」
「あぁ、よもや防弾硝子越しに撃ち抜かれるとは思っていなかった、余程威力の高い火器を使っているか、或いは神秘の濃度か、それともこのビルを整備した部下の問題か――まぁ良い、今はそれよりも為すべき事がある」
そう告げると、プレジデントは徐に立ち上がり、胸元に手を当てながら先生へと謝罪を口にした。
「部下の軽挙を謝罪しよう、此方から招待しておいてこの体たらくとは、全く話し合いの空気ではなくなってしまったな」
「……今日はもう、失礼するよ」
「あぁ、今見送りを――」
「いや、結構」
プレジデントの言葉を遮り、先生は扉に手を掛けた。今度は独りでに開く事も無い、両脇で身構えるオートマタもまた、それ以上の行動を見せることは無かった。
先生は肩越しにプレジデントを見据えると、努めて平坦な声色で云った。
「出迎えはもう、来ているだろうから」
■
『タンゴ、ダウン、威嚇もバッチリ――連中、全然こっちの位置を掴めていないじゃん、何ならこのまま全員撃ち抜いちゃっても良いけれど?』
「いや、そのまま待機だ、先生から突入要請は受けていない」
FOX4――オトギからの報告に、FOX小隊の隊長であるユキノは冷静な声色で答えた。彼女の手には端末が握られており、画面には小型の偵察ドローンから送信される映像が映っている。其処には動きを止めたオートマタの兵士達とプレジデント、そして先生の姿が見えた。
何やらプレジデントがソファに座ったまま話している様だが、オトギの放った弾丸は見事連中に釘を刺す形となったらしい。残った二名のオートマタは身動きが取れず、プレジデントもまた慎重な対応を心掛けている様に見える。
しかし、油断は出来ない。ユキノは端末を注視したまま、直ぐ脇で待機する仲間達に意識を向けた。
「FOX2、FOX3」
「いつでも、合図があれば突入可能よ」
「うん、準備は万全」
ユキノが視線を上げれば、ラペリングの準備を終えたニコとクルミが、屋上の縁に立ち階下を覗き込んだまま答えた。先生から合図があった場合、ラペリング降下で部屋へと突入し、クルミ、ニコ、ユキノの三名で先生を迅速に救助する腹積もりであった。
FOX小隊がビルの屋上を誰にも気付かれず占拠したのは、つい五分ほど前だ。所確幸と接触した時点で先生はFOX小隊に位置情報を送り、そこから先生に何かあったのかと勘付いた彼女達は、独自に行動を開始。
移動を続ける先生のマークを追って、このビルへと辿り着いた。彼女達が到着した時、先生は丁度ビルの中へと消えていく所であった。それを確認するや否や、ユキノはオトギを離れた狙撃ポイントに配置し、自分達はビルの屋上へと潜入――そのまま音もなく警備を無力化し、必要があればいつでも突入できる状況にまで持ち込んでいた。
正面からの撃ち合いも熟せるが、元々彼女達の本領とするところはこういった潜入や工作の類である。それなりに整えられているとは云え、カイザーの総本山でもないビルの一角を占拠する事は、彼女達にとって容易であった。監視カメラやドローン、警備システム、巡廻の警備そのものさえ、質や量を揃えたとしても本社のソレとは比較にならない。
恐らく急ピッチで環境を整えたのだろう、ユキノは気絶させ拘束したオートマタの兵士達を横目に思う。
「……どうやら、何事も無く終わったらしい」
『まー、こっちは二発ぶち込んじゃったけれどね』
「あっちが先に銃口突きつけて来たんだから、別に良いでしょ、それくらい」
「先生の場合は、一発撃たれるだけでも危険だからね、先制は大事だと思うよ」
ドローン越しに先生が部屋を後にした事を確認したユキノは、その後兵士たちに銃を突きつけられる事無く廊下を歩く先生を見て、ほっと胸を撫でおろす。どうやら突入する必要は無い様だと、ニコとクルミもまた安堵の息を吐いた。
「
『了解、後から合流ね』
「あぁ、可能な限り、姿は晒さずに動くぞ」
ドローンとオトギを警戒に残し、自分達は先生の保護に動く。オトギは軽い調子で応答し、ユキノは愛銃を抱え直すと重々しい声色で以て告げた。
「――FOX小隊、行動を開始する」
次回はFOX小隊との邂逅とか、それに付随するアレコレですわ~!