「ぐぇー……」
「いだァーッ!?」
「ひ、退け! 退け!」
「一旦退却だ!」
「な、なんだこいつら、未来でも見えてンのか!?」
一度の戦闘時間は凡そ十分足らず、押し寄せて来た不良達を千切っては投げ、千切っては投げ――そもそも組織だった攻撃ではなく、近場に居た不良達が集まって兎に角突撃という形だったので、撃退自体はそれほど難しくはなかった。
しかし、問題は別にあり――。
「敵、後退していきます! えっと、後方に増援、数は――」
「また来たの? 上等、幾らでも相手してあげる!」
「ま、待って下さい! これ以上戦っちゃ駄目です!」
シロコが闘志を燃やす中、不意にヒフミが声を上げる。心なしか、表情には焦燥が見て取れた。彼女は撤退していく不良達の背中を見送りながら、セリカが封鎖した裏口を指差して云う。
「ブラックマーケットで騒ぎを起こすと、此処を管理している治安機関がやって来ます! そ、そうなったら本当に大事です、大分時間も経ちましたし、まずはこの場から離れて――」
「むぅ……此処の事はヒフミちゃんの方が詳しいから、従った方が良いかも……だよね、先生?」
ホシノがそう口にしながら先生を見れば、タブレットを操作していた先生も小さく頷いて見せた。どちらにせよ、ずっと此処に籠城する訳にもいかない。ブラックマーケットの治安機関が素直に云い分を聞くとも思えないし、面倒事は回避するに限る。判断は早かった。
「そうだね、そろそろ潮時だ、私達も撤退しよう」
「ちぇっ、了解」
セリカが唇を尖らせ、銃を担ぎ直す。いちゃもんを付けて来た不良を蹴散らすのは、存外面白かったらしい。ヒフミは施錠されていた裏口の扉を開けると、外を覗き込んで不良達が待ち構えていない事を確かめ、皆に呼びかけた。
「こっちです!」
「よし、ヒフミを先頭に撤退しよう、ホシノ、ヒフミに付いて行って、アヤネとノノミ、私が中腹、セリカ、シロコ、殿を頼む」
「分かった」
「はーい☆」
「りょーかい!」
■
「はぁー……此処まで来れば大丈夫でしょうか」
十分か、二十分か。
不良達の警戒網を抜け、人混みに紛れたアビドスとヒフミ一行は、背後から追って来る影が無い事を確かめ、深く息を吐き出す。先生は最後尾で息を荒げ、その背中をノノミが優しく摩っている。そんな先生を眺めながらホシノは苦笑を零し、ヒフミに向けて口を開く。
「それにしても、ヒフミちゃんは此処を随分危険な場所だと認識しているんだね、凄い警戒心だ」
「えっ、それは……当然ですよ、連邦生徒会の手が及ばない場所の一つですし、ブラックマーケットだけでも学園数個分の規模に匹敵しますから、決して無視は出来ません」
そう口にして頷くヒフミの表情は真剣だ。土地の広さが全てとは云わないが、これ程までに活発な経済区画を持つブラックマーケットは最早一つの勢力と云って良い。連邦生徒会の手が回っていないのは、此処の上層部が『そういう風に手を回している』可能性すらある。連邦生徒会長が失踪した現在、連邦生徒会の内部はガタガタで、ブラックマーケットにも付け入る隙が出来ていた。監査や調査官に金を握らせて抱き込むなり、或いは他所の自治区で騒ぎを起こして目を逸らすなり、キヴォトスはその手の話題に事欠かない。金と云うのはこのキヴォトスに於いても分かり易い力の一つであった。特にアビドスはその事を良く知っている。
「それに様々な企業がこの場所で違法な事柄を巡って利権争いをしていると聞きましたし、ブラックマーケット専用の金融機関や治安機関がある程ですから」
「ぎ、銀行や警察があるって事!? そ、それって勿論、認可されていない違法な団体だよね!?」
「はい、勿論です」
セリカはヒフミの言葉に驚愕の色を見せた。認可されていないとは云え、独自の治安機関を持ち、銀行等の金融機関も保有している。それは本来、自治区が持つ機能の一部であり、ノノミは難しい表情で呟く。
「ブラックマーケットだけで運営される銀行や警察だなんて、まるで一つの『学園』――自治区ですね」
「えぇ、中でも特に治安機関は兎に角避けるべきでして、騒ぎを起こしたらまずは身を潜めるのが一番です」
「……ふ~ん、ヒフミちゃん此処の事、詳しいねぇ」
「えっ、そうですか? でもまぁ、その、ペロロ様のグッズの為に何度か足を運んでいるので……」
「なるほどねぇ……良し、決めた!」
「……?」
ホシノが手を打つと、ヒフミは目を瞬かせながら疑問符を浮かべた。
「助けてあげた御礼に、私達の探し物が手に入るまで一緒に行動してもらうねー♪」
「え……ええっ?」
ホシノが口にしたのは同行依頼――それも口ぶりから恩を盾にした強制同行である。ヒフミは唐突な宣言に驚きの声を上げ、しかし背後のアビドス勢は、それは良い考えだとばかりに頷いて見せた。
「わぁ☆ 良いアイディアですね!」
「成程、誘拐だね」
「はいッ!?」
誘拐という物騒な単語にヒフミの体が固まる。もしかして私、とんでもない人達に助けられちゃった? と若干涙目になった。そんなシロコ達の言動に、セリカは呆れ顔で告げる。
「誘拐じゃなくて案内をお願いするだけでしょ? 勿論、ヒフミさんが良ければ、だけれど……」
「あ、うぅ……私なんかでお役に立てるかは分かりませんが、アビドスの皆さんにはお世話になりましたし、それ位なら、まぁ」
「そっか、助かるよ、ヒフミ」
「あぅ」
「よーし、それじゃあ、ちょっとだけ同行頼むね~」
■
「――ふむ」
デスクの上の報告書を眺める巨躯――ギシリと椅子を鳴らしたカイザーPMC理事は、その四本のアイラインを煌々と光らせながら報告書を放る。数枚の紙面にはとある高等学校の生徒五名の顔写真と、それぞれの使用する兵装、数値化された凡その戦闘力が記載されていた。
隣り合う形で放られた紙面に、便利屋68の顔写真と同じく数値。それらを見比べ、理事は顎を指先で擦る。
「興味深い報告だ、戦力分析は確かだった筈だが……計算ミスか? しかし――」
呟き、デスク上の紙面を見つめる。態々電子媒体のそれを印刷してまで紙に認めたのは理由がある。戦力分析は確かな筈であった、カタカタヘルメット団を幾度となくぶつけ、
しかし、実際は敗北。そして便利屋から告げられたのは、以降アビドスに対し戦闘行為を行う意思はないというもの。事実上の依頼放棄――別段、弾薬費用、装備諸々全て自費負担だった為、PMC側としてマイナスの要素は一切ない訳だが、戦力としては勝る便利屋が依頼を放棄してまで戦闘を拒否するアビドスに、理事は何か『強い干渉』を感じ取った。
「――お困りの様ですね?」
「………」
不意に、声が響く。
見ればいつの間にか、オフィスの中に黒いスーツに身を包んだ――人型の闇としか表現できない人物が立っていた。理事は一瞬その存在に目を向け、それから再び紙面に視線を落とす。
「……いや、困ってはいない、ただ計算に少々エラーが生じた、アビドスの連中の戦力が予想より強かった、それだけの事だ――」
「ふむ……」
彼――黒服は小さく唸ると、足音を響かせながらデスクの前に立ち影を落とす。そして理事が見つめている紙面に目を向けると、徐に口を開いた。
「いえ、このデータに不備はありませんよ」
「……何?」
理事が顔を上げ、黒服を見る。
「これは単に、アビドスの生徒が更に強くなった、と解釈すべきかと」
「……馬鹿な、データは直近のものだ、そう簡単に強くなるなどありえん」
「――急激な成長には理由がある筈です、或いは、何らかの外的要因があるのやもしれません」
「外的要因だと?」
理事がアイラインを細めると、黒服は何かを考え込む素振りを見せ、それから理事に向かって助言を一つ零した。
「存外一月、いえ、数週間もあれば変わるものですよ、一度、アビドスに探りを入れてみるのも良いかもしれませんね」
「………」
「では、失礼」
云うだけ云って、黒服は闇に溶けるように消え去る。それを見届けた後、理事は再び椅子に体を預け、紙面を指先で叩きながら小さく呟いた。
「……アビドスに手を貸す何者かが居る、という事か?」
■
「………」
「あ、アル様、大丈夫ですか?」
場所は便利屋68事務所――学生の身分にしては少々立派な事務所の中に、便利屋の面々が思い思いの姿で過ごしていた。そして肝心のリーダーであるアルはというと、一人執務机に座り白目を剥いている。そんな自分達のボスの姿に、ソファに寝転びながら端末を弄っていたムツキが対面に座るカヨコへと問いかけた。
「アルちゃん、白目剥いちゃっているけれど、どうしたの? いや、いつもの事と云えばそうだけれどさ~」
「……今月の資金収支計算書を提出しただけ」
「あ~……」
カヨコの淡々とした口調に、ムツキは何とも云えない表情で声を漏らす。
今月の収支を考えると、どう考えても明るい未来が見えない。ムツキはその現実をまざまざと突き付けられたアルの脳内を想像し、くふふと笑みを浮かべた。
「まぁ傭兵に支払った分は戻って来たけれど、元々そんなにお金がある訳でもなかったしねぇ」
「今回の大口依頼を逃したから、次の依頼も決まっていないし、当面収入の宛ては無し、この事務所の維持費用だけでも結構持っていかれるから銃の整備費用とか弾薬費もカツカツ……」
「あはは、見栄を張ってこんな高いオフィス借りているからだよー」
「だ、黙りなさいよ! みんなうるさい! 静かにッ!」
カヨコとムツキの辛辣な言葉に、機能を停止していたアルが再起動を果たし、バンバンと机を叩く。そして椅子に勢い良く座り直すと、ペンを片手に頭を抱えた。
「くぅ~、今回の依頼でかなり大金が入ると見込んでいたから、ちょっと色々買い込んじゃったし、装備も一新してツケが……スケジュールも空けちゃったから依頼も来ない、今月はギリギリ何とかなるとしても、来月は予算が――」
「取り敢えずこの事務所引き払ったらー? 私は前みたいに公園でテント生活でも良いよ?」
「あ、アル様、私がバイトで稼いできましょうか?」
「……それじゃ根本的な解決になっていないよハルカ、それで良いなら便利屋じゃなくてフリーター」
カヨコの言葉に、アルは机にへばり付く。このままでは駄目だ、装備はあるのに依頼がない。そうだ、装備、戦力自体は一級品の筈なのだ。私達は強い、とても強い。だから依頼さえ来れば何とかなる、アビドスとか風紀委員会に喧嘩を売る以外であれば達成出来る。
アルはそう考え、取り敢えず今月――今月だけでも乗り切ろうと決め、立ち上がった。
「――融資を受けるわ」
アルの唐突な一言に、ムツキとカヨコは顔を見合わせる。
「は? アルちゃんブラックリスト入りしているでしょ」
「違うわよ! 私は指名手配されて口座が凍結されただけっ!」
「そうだっけ? ……あぁ、そうだった、風紀委員会にやられたんだよね」
「くっ、風紀委員会め、嫌がらせに関しては本当に的確よ……!」
「でもどこで借りるのさ? 中央銀行も、出向いた所で門前払いだと思うよ~?」
「う、うるさいってば! 他にも方法はあるんだからっ!」
胸を張り、ふふんと鼻を鳴らしたアルは、これぞ秘策と云わんばかりに告げた。
「表で借りられなくても、裏ならどうかしらっ!?」
「………」
その発言を聞いたカヨコの表情が露骨に歪む。どういう展開になるか、何となく先が読めてしまったのだ。指先で額を押しながら、ぼそりと呟く。反し、ムツキはいつも通りの笑顔だった。
「嫌な予感しかしないのだけれど……」
「あはは、面白ければ私は全然オッケー!」
「あ、アル様、私はどこまでもお供します……!」
ハルカが愛銃を抱えながら何度も頷くとアルは目に見えて調子に乗り、高らかに出発を宣言した。
「よし、そうと決まれば行くわよ皆っ!」
■
「はぁ、しんど……」
「もう数時間は歩きましたよね?」
「これは流石に、おじさんも参ったな~、腰も膝も悲鳴を上げているよー」
「えっ……ホシノさん、御幾つなのですか……?」
「ほぼ同年代っ! というか全然元気でしょホシノ先輩!? ほら、確り歩く!」
「うへー……」
ばしばしとホシノの背中を叩くセリカ。アビドスの面々は既にブラックマーケット内を数時間に渡って歩き回っていた。これもそれも全部、件のパーツの情報が全く手に入らないのが悪い。
如何に身体能力に優れるキヴォトスの住民と云えど、何時間も歩き通しなのは精神的にも疲れる様で、心なしか最初と比べて歩行速度が鈍化していた。だらだらと先頭を歩くホシノを叱咤するセリカは、ふと背後を振り向き、酷く呆れた目をする。
「で、先生は相変わらずシロコ先輩の背中と」
「あ、あはは、まぁ先生はデスクワークが中心ですし、万が一の事を考えると体力温存も正しいかと……」
「すまない、体力のない先生ですまない……」
「ん、任せて、先生は私の背中で休んでいると良い」
先生は歩行開始二時間でダウンし、シロコの背中の住人となっている。心なしかほくほく顔に見えるシロコは、先生の太腿を確りと掴みながら淀みなく歩いていた。
そんな彼女を横合いから眺めていたノノミは、小さく首を傾げる。
「……何だかシロコちゃん、イキイキとしていませんか?」
「私も何となく、そんな風に見えます……」
「――シロコちゃん、先生のおんぶ係、おじさん代わろうか?」
前を歩いていたホシノが不意にそう口にすれば、シロコは一瞬ぴくりと体を震わせ、それから何でもない様に答えた。
「問題ない、委員長だと身長的に難しいと思うし、私に任せて、あと十時間でも二十時間でも、私は平気」
「……ふぅん、そっか」
ホシノはそう口にして、以降特に何か口出しする事は無かったが、何となく不機嫌な気がして先生は戦々恐々とした。やはり毎度毎度生徒の背中にお世話になるのは大人として駄目だろうか、いや駄目だろうな。この仕事が終わったら体力づくりの為にランニングしよう、そうしよう。なんて心の中で決意する。
尚、同行を申し出たシロコのせいで地獄のシロコブートキャンプが始まる事を、この時の先生は知らない。
「あら! あそこにタイ焼き屋さんが!」
そんな調子で歩いていた面々の前に、ふわりと甘い香りが漂った。ノノミが目敏く匂いの元を見つけ、指差す。ホシノがノノミの後ろから覗き込むと、ややくたびれた色の屋台が路肩に止まっていた。
「あれ、ホントだ、こんな所にも屋台はあるんだね~」
「あそこで少し休みましょう、タイ焼き、私が御馳走します!」
「えっ、ノノミ先輩、またカード使うの!?」
「先生の『大人のカード』もあるよ~?」
「ううん、私が食べたいから良いんですよ☆ 皆で食べましょう? ねっ?」
ノノミが先生の腕を掴んでそう云えば、シロコも背後の先生を見上げる。先生は何処か懐かしそうな目をしながら、「なら、少し休憩にしようか」と頷いて見せた。
■
「まいど~」
サクリと、衣を歯で噛めば中の餡が零れ落ちる。甘すぎず、しかし深いコクのある餡は疲労した体に染み渡り、おやつとしては実に丁度良い量。ベンチに座り、タイ焼きを頬張る生徒の面々は、大量に買い込んだノノミのタイ焼きを両手で持ち、暫しの休息に勤しんでいた。
「ん、おいし~」
「いやぁ、丁度甘いものが欲しかったところなんだ~」
「あはは……私も貰っちゃって、すみません、有難く頂きますね」
「ブラックマーケットの食品だからちょっと疑っていましたが、結構本格的ですね……!」
「むぐもぐ」
ベンチに座れなかった生徒は直ぐ隣の植木周りに配置されたブロックの縁に腰掛け、少し大きめのタイ焼きを齧る。ブラックマーケットで販売されている食品である為、少々疑っていたアヤネも今ではその味と大きさ、そして価格設定に驚いている。表側基準で考えると、値段の割に量が多く、餡の味も悪くないのだ。
シロコの隣に座る先生も、ノノミの厚意でタイ焼きを頬張っているのだが――。
「ん、先生も、あーん――」
「あー……」
「ちょっと!?」
シロコが差し出たタイ焼きを口に含み、咀嚼していると、シロコの向こう側に座るセリカが声を荒げ先生を指差した。シロコは目を瞬かせ、首を傾げる。
「何?」
「し、シロコ先輩、流石にそれはどうかと……!」
「え、でも先生嫌がっていないし」
「いや駄目でしょう!? 先生も、良い大人が何やってんのよっ!」
「でもシロコに食べさせて貰えるの嬉しいし……」
シロコに差し出されたタイ焼きを再び頬張りながら云うと、ぽっと頬を赤く染めた彼女が恥ずかしそうに先生を見た。
「先生……♡」
「シロコ……!」
「いやいやいやいや!」
そんな二人を引き裂く様に、セリカが強引にシロコの肩を引っ張る。シロコはあからさまに不満な表情を浮かべ、セリカを見た。
「セリカ、食事の時は静かに――」
「いや違うから! 傍から見て明らかにおかしいでしょう!? 女子高生にあーんされる良い大人ってどうなの!? 駄目でしょう!? 私間違っている!?」
「先生は私にあーんして貰えて幸せ、私は先生にあーん出来て幸せ、何か問題?」
「問題だらけッ!」
「……もしかしてセリカ、嫉妬?」
「なっ、ばッ、は、ハァ!?」
シロコの予想外の一言に、セリカは目に見えて狼狽した。手元のタイ焼きをぶんぶんと振り回し、捲し立てる。
「全ッ然ちがうし! そんな事考えてもいないからッ! せ、先生も勘違いしないでよ!? 私、嫉妬なんて欠片も――」
「はい、先生、あーん☆」
「あー……」
先生は何か言い訳を口にするセリカを他所に、ノノミの差し出して来たタイ焼きを、嬉々として齧った。そんな彼の横顔を見ていたセリカは、一瞬唖然とした表情を浮かべ、それから一瞬にして表情を怒りに染める。
「………せ、ん、せ、いィッ!?」
「いだ、あだだだだッ!?」
背後から先生の腕を取り、関節を捻じ曲げてやるとばかりに捻るセリカ。先生は必死に弁明を試みながら、彼女の肩をタップした。
「ま、待つんだセリカ! 暴力系ヒロインは昨今流行らないぞッ!? 今の先生のトレンドはゆるふわお姉さん系、あまあま癒しキャラだ! もっとこう、余裕を持って! 具体的に云うと胸部装甲を――」
「何の話を、しているのか、全く、分からないわよッ!」
「アダバ―ッ!」
盛大に投げ飛ばされた先生は、そのまま硬い石床に叩きつけられ、二度、三度転がった後に停止する。「せ、先生!?」とアヤネが驚愕の表情で見ているものの、セリカ的には大したことではない。悪は滅びたとばかりに両腕を組み、顔を背けたセリカは鼻を鳴らして告げる。
「全く、何で私ばっかり……! これに懲りたら先生、外でそういう、その、如何わしい事は――」
「うぅ、ホシノ、セリカが虐めるんだ、コブが出来たかもしれない、頭撫でて……」
「おー、よしよし、セリカちゃんは過激だねぇ、おじさんが慰めてあげよう~」
「―――」
投げ飛ばされた先生は這い蹲りながらホシノに縋りつき泣いていた。ホシノは菩薩の様な表情で縋り付く先生を抱き留め、その頭を撫でている。その光景を見た瞬間、セリカの中にある何か、具体的に云うと堪忍袋の緒に限りなく近い何かが切れた。
担いでいた愛銃を握り、安全装置を弾く。
コッキングレバーを引いて薬室に弾薬を送り込む金属音が、やけに冷たく周囲に響いた。
「……ぶっ殺してやるわ」
「あわわッ、だ、駄目だよセリカちゃん! おち、落ち着いてッ!」
朝起きたらブルアカのフレンドがめちゃ増えていて驚きましたわ。感想欄にペッと出していただけなのに、皆さん意外と感想の返信欄読んでいらっしゃるのね……よろしくってよ! 皆さんの生徒、有難くお借りしますわッ! 合同演習で初めてフレンドさんのキャラ借りて戦ったらクッソ楽でおハーブ生えましてよ!!
それは兎も角マリーはね、生徒の中でも先生の健康と安全を常に祈ってくれるような、先生好き勢の中でも中々上位のメンバーの一人なんだ。ただ、ちょっと奥ゆかしくて、自分から好意を見せていくようなタイプではないから――或いは、教義的な理由かもしれないけれど――トリニティにやって来る先生と話したり、一緒にお祈りしたり、教会周りの掃除なんかもしている内に、段々と先生と一緒に居る時間が心地よく感じてしまって、そんな在り方はシスターとしてどうなのかと苦悩しながらも、先生への好意を確かに自覚し始めるんだ。
トリニティにやって来た先生と他愛もない話をして、仕事をして、帰って行く先生の背中を見送る。そんな毎日に幸せを感じていて、でも少し物足りなくて。いつか風邪を引いた時、先生が部屋に見舞いに来てくれた時みたいに――もしかしたら、もう一度風邪を引いたら、また来てくれるのかな、なんてシスターとしては恥ずべき事だと分かっているのに、そんな悪い事も考えてしまったりして。そんな悶々としながらも先生と過ごす時間を大切に、少しずつ愛情を育むような、そんな純粋で無垢な少女なんだ。
最初は教会やトリニティ中心に先生と逢瀬を重ねていたのに、その内当番や世話を理由にシャーレへと通って欲しい。時折シャーレの中にある、他の生徒の化粧品や私物などを見つけて、悶々とした気持ちを抱いて欲しい。けれど、そんな気持ちを自分が抱いている事を恥じ、それを表に出すことなく常に彼女は笑っているんだ。「信仰上のお願いでして」とか云いながら、その内シャーレにお祈りの為のスペースを作って欲しい。それを先生の私室の傍に設置して、さも先生のテリトリーは私のものだとばかりに自己主張して、けれど本人にはその自覚なく、ただ私は祈りを捧げる為の場所が欲しかっただけと、その滲み出る独占欲を少しずつ外側へと出力していって欲しい。
凄く個人的な意見だけれど、マリーは質素な生活をしていそう。化粧品とかは殆ど、身嗜みを整える程度にしか使っていなくて、お洒落とかもシスター服と平服で事足りるからと最低限の物品しか揃えていない。原作だと彼女の私室の背景は使い回しだったから、どんなふうな部屋なのかは実際分からないけれど、物が少なく、宗教書とか教科書とか、後はちょっとした「キヴォトスの歩き方」みたいな観光書が少しと、物の少ない机にちょこんと観葉植物なんかが乗っている部屋な気がする。
だから流行とかにも疎いし、甘味なんかも頻繁には口にしない。本人はそれを苦とも思っていないし、それが当たり前になっているから、先生には是非ともマリーを引き連れて遊びまわって貰いたい。
おしゃれなカフェで恋人専用の大盛りを頼んで、「せ、先生、これは……?」と赤面するマリーに「あーん」したい。最初は視線を泳がせ、おどおどしていた彼女も、「溶けちゃうよ?」と云って先生がスプーンを差し出すと、食べ物は粗末に出来ないと恐る恐る口を開いてくれるんだ。そして一口食べて、予想以上に美味しかったそれに目を見開いて口を抑えて欲しい。その後は先生にせっせと食べさせられて、パフェをひとりで完食して欲しい。気付けば全部なくなっていた空の器を見て、先生の分が……と顔を青くした後、「マリーが沢山食べるところを見て幸せだったさ」と先生にイケメン対応して欲しい。かーっ、見んねユウカ! 卑しか男ばい!
その後は遊園地でも映画館でも、水族館でも動物園でも何でも良いから遊びまわって欲しい。服屋とか、アクセサリーショップとか、何ならマリーの部屋の殺風景さを心配した先生が家具屋に連れて行くとかでも良い。マリーの事だから何処に行っても新鮮な反応を返してくれるって信じている。こんな服が似合うんじゃないかとか、いつもシスター服で露出が全くないから少しパンクな衣装で意外性を求めたり、それを恥ずかしそうにしながらも、「でも先生が折角選んでくれたから」と試着してみたり。或いは一緒に香水を嗅いで、これは良い匂い、これはちょっと強いかもとか、何か結婚したての新婚さんみたいなイチャコラをして欲しい。
でも大勢の人の中で過ごしていると、不意に先生と二人きりで過ごす教会の静けさや、あの静謐さを存外自分が好んでいる事に気付いて、そっと先生の袖を引くんだ。「どうしたの? もしかして、疲れちゃった?」と先生が問いかければ、肯定でも否定でもない、少しだけ恥ずかしそうな、申し訳なさそうな顔で佇んだあと、そっと頷いてくれる。
それから人の少ない公園とか、ちょっとした自然の中にぽつんとあるベンチなんかで、甘味片手にぼうっとして欲しい。一般的な娯楽とか、普通の楽しみ方というものを新鮮に楽しみながらも、彼女の中で妙な抵抗感がある事に気付いて欲しい。先生に買って貰って、一口齧ったクレープなんかを眺めながら、「こんなに貰って良いのかな」とか、「こんなに楽しんで良いのかな」とか、信仰と娯楽の間でちょっとだけ罪悪感を抱いて欲しい。でも隣で微笑む先生を見ていると、何となくその罪悪感も薄まって、俯きながらもう一口クレープを齧るんだ。そうして何となく、逢った日はトリニティの傍の公園で、二人でぼうっとする時間を設けて欲しい。
何をする訳でもないし、何か特別な話をする訳でもない。けれどそんな、先生と一緒に居る時間が彼女にとって掛け替えのないもので、先生の傍で祈ったり、クレープを食べたり、ぼうっとする事がマリーにとって一番幸せな時間になるんだ。
――「先生が幸せでしたら、私も幸せですので」
そんなある日、マリーの懺悔室に先生がやって来るんだ。第一声で先生がやって来たのだと分かったマリーは、しかし匿名性を守るために名前は聞かないし、深くは踏み込まない。ただ、先生にも悩み事はあるんだなと思いつつ、それを打ち明ける相手が自分である事に、ちょっとした喜びを感じて欲しい。
そして先生は云う――近い内にキヴォトスを裏切る、と。
マリーは一瞬、何を云われたのか分からなくて、ただその場で硬直するんだ。談話室の仕切り越しに、顔の隠れた先生は、きっとマリーに全てを打ち明けると思う。何故キヴォトスを裏切らなければならないのか。ゲマトリアの残した契約、打ち込まれた神秘の残り香、外宙からの干渉、崇高の器――そして契約の七つの嘆き、その六つ目が迫っている事。
マリーは先生の持つ秘密、その悉くを打ち明けられ、何も言えず、ただ混乱し、小さく震えていると思う。あらゆる事に理解が追いつかなくて、津波の如く押し寄せるそれに打ち据えられながら、ただ漠然と、先生が遠くに行ってしまう事だけは理解するんだ。
頭を抱え、震えながらマリーはきっと、今が懺悔中な事も忘れて、「せ、せんせい?」と名前を呼ぶんだ。先生はそんなマリーの様子を仕切り越しに見つめながら、もし自分が、六つ目を終えたら――七つ目の役目をマリーに頼みたいと、そう告げるんだ。
彼女は意図を理解しながら、多分先生に手を伸ばす。けれど先生がその手を取る事はなく、そっと立ち上がるんだ。「ま、待って、先生! 先生っ!」と必死に手を伸ばすマリーに、先生は最後まで顔を見せることなく立ち去ってしまう。
そしてマリーが息を切らしてその場を飛び出し、先生の後を追おうとしても、青い教室へと向かった先生の姿はどこにもないんだ。ただ彼女は早鐘を打つ心臓を抑えながら、荒い息を繰り返し、その場に屈み込む。気を抜くと嘔吐してしまいそうな緊張を覚えながら、マリーはきっと考える。どうすれば良いのか、このままでは先生が死んでしまうと。救わなければならない、助けなければならない、ティーパーティーなり、シスターフッドなり、或いは手段を問わなければミレニアムなりゲヘナなり百鬼夜行なり、駆けこめる場所は幾らでもあった。
けれど、先生を助ける為に奔走する行為、それは――先生の信頼に反する行いだ。
懺悔の内容を、誰かに漏らしてはならない。もしこれが、教義的、法律的な抵抗感のみであったのなら、マリーは喜んで身を擲っただろう。自身が戒律を破る、或いは法律を犯す事で先生の命が助かるのであれば、彼女はきっと悩みはすれど躊躇いはしない。
しかし、其処に先生の信頼が上乗せされた途端、彼女の足は鈍る。
先生は、自分だからこそ打ち明けたのだという意識がある。それを他者に打ち明けるという事は、その信頼に対する裏切りだと。先生は、死ぬつもりで自分に全てを打ち明けた。それを阻止するという事は、先生の意に反するという事。
その覚悟を、信頼を犯す事が、マリーは出来ない。多分それが、マリーの『弱さ』だと思う。信仰という壁を一枚捲っただけで、マリーはきっと信念を持ったシスターフッドから、ただのか弱い少女に成り下がってしまうんだ。
口元を抑え、教会の入り口で座り込んだまま、きっと彼女は声もなく涙を零す。今にも零れ落ちそうな程に目を見開いて、歯を食いしばって。口を開けばきっと、恥も外聞もなく泣き喚いてしまうから。そして誰かが彼女の様子に気付くまで、ずっとそうして涙を流し続けるんだ。可愛いね。
うぉ~、先生に嫌われる覚悟、信頼を裏切る覚悟をしたマリーが、直前になって先生を助けようとするけれど、間に合わなくて目の前で先生を撃ち殺される顔見てぇ~。
限界まで教会で祈り続けたマリーが、何日も飲まず食わずで一心不乱に祈り、考え続け。例えそれが間違った選択でも、先生の覚悟を踏み躙る行為でも、それでも先生に生きていて欲しいと、そう決めて愛銃を手にシャーレに向かって、崩れ落ちたロビーや割れ落ちたガラスを見て蒼褪めて欲しい~。息を切らしながら最上階のオフィスに到着して、彼女はそこで血塗れで倒れた先生に銃を向ける生徒の姿を見つけるんだ。思わず駆け出して、「待ってッ!」と全力で叫んで、その声に気付いた先生がゆっくりとマリーを見て、彼女の名前を呟く。
そして、弾かれる先生の頭部。
手を伸ばした向こう側で、無惨にも額を撃ち抜かれた先生が崩れ落ちる。
マリーはきっと彼女らしからぬ、喉が張り裂けんばかりの絶叫を搔き鳴らし、何度も転びそうになりながら先生の傍に駆け寄るんだ。囲っていた生徒を押し退け、先生の頭部を抱きしめ、溢れ出る血を止めようと必死になる。「だめ、だめ、だめ!」と繰り返しながら、先生の頬を掴んで、何度も何度も血を拭う。けれど閉じた先生の瞼はもう二度と開く事は無くて、腕や胸元を伝う生暖かい血液が先生の死を、これは現実だとマリーに刻み込むんだ。
マリーは先生の骸を抱きしめながら、自身の決断の遅さをこれでもかと嘆く事になる。もっと自分が早く決断出来ていれば、嫌われても構わないと覚悟出来ていれば、先生の想いを踏み躙ってでもと、強い決意を抱ければ――!
きっと彼女は誰かを恨む事が出来ない。憎悪する事も出来ない。それを向けられるとすれば、自分だ。唯一自分こそが原因であり憎悪の対象だと、きっと彼女は自責の念を抱き続ける。全て全て、自分の甘さが招いた結果、彼女は何度も涙を流しながら思うんだ。
先生の骸を抱きしめて、血だらけのままきっと、マリーはシャーレを後にする。他の生徒が手を伸ばしても、「触らないで」と云って跳ねのける。誰の手も借りず、彼女は先生の遺体を教会まで運び込むんだ。遺体の引き渡し要請があっても無視し、場合によっては武力行使すら躊躇わず、マリーは先生をそっと教会の祭壇に寝かせ、じっとその顔を見つめ続けるに違いない。そして七つ目の役目を果たすその時まで、彼女は笑わず、歪まず、ただ自分を憎悪し続けるのだ。可愛いね。
本当は先生を射殺した生徒を撃ち殺してやりたくて仕方ないけれど、最後に残った先生への愛情と信頼と、シスターらしくという先生と紡いだ信仰の残り香が、それを自分に対する憎悪という形で覆い隠して、それに気付かないマリーめちゃスコ。
けれど、それが唐突に壊れるのがまた素晴らしい。
先生を埋葬した後、泣きそうな顔でそれを見ていた先生を射殺した生徒に気付いて、「何であなたがそんな顔をするのか」とか、「先生を撃ち殺しておいて、何故泣きそうな顔をするんだ」とか、「そんな顔をするくらいなら、殺さなければ良かったのに」とか、マリーの中にあった筈の善性やシスターらしくという規範が唐突に壊れて、ゼロ距離から
きっと今まで抑圧していた怒りや憎悪、先生を喪った絶望、後悔、遣る瀬無さが噴き出し、悪鬼の如く歪んだ表情を見せてくれるに違いない。普段丁寧な物腰のマリーが、「懺悔しろ、懺悔しろ、懺悔しろッ!!」と云いながら鬼気迫る表情で生徒の顔面に弾丸を撃ち込む姿とか美し過ぎますよ。これで先生を射殺していた生徒が同じシスターフッドならば尚よろしい。
マリーの祈りは先生を守ってくれましたか? 多分守ってくれたよ、二十秒くらいは。
立派なシスターになれなかったマリーは、一体何者になるんだろうね。多分もう、純粋な心で信仰する事は出来ないだろうなぁ。幾ら祈っても神様は先生を守ってくれなかったし、先生は蘇ったりしない。でも「神は真実な方です。あなたがたを耐えられないような試練に遭わせることはなさらず、試練と共に、それに耐えられるよう、逃れる道をも備えていてくださいます」とも書いてあるし、多分大丈夫っしょ。先生もマリーならって信じていた訳だし!
でも酷いね神様って、こんな辛い試練をマリーに課すなんて、ちょっと信じられない、人の心とかなさそう。