ブルーアーカイブを、もう一度。   作:トクサン

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誤字脱字報告、感謝ですわ~!
今回約一万四千字ですの~!


己の為に、誰かの為に(信念の分かれ道)

 

「はぁ、はぁ……ッ!」

 

 肺が焼け付くように熱を帯びていた。

 丁度喉を通って肺に送られる空気が、炎で炙られたかのように。熱など感じない体になっても、漠然とした感覚は色濃く残るものだ。それが錯覚の類であったとしても、肉体にとってソレは忘れ難い人間性の欠片なのだろう。何度もそれを味わった先生は、良く知っている。

 

 力が抜けそうになる膝を時折叩き、無理矢理にでも前へ、前へと足を進める。

 この歩みを止める事は自身の首を絞めると同義であり、敵方に発見されてしまえば、自分ひとりでは抗う術がない。自身の弱さを先生は誰よりもよく理解していた。故に白く濁った息を繰り返しながら、非常灯の赤に照らされた廊下を駆け続ける。赤色が先生の背中を照らし、廊下に長い影を作っていた。周囲には先生の駆ける足音と、荒い息遣いだけが響く。

 

「エレベーターは……!」

 

 息を弾ませ、辿り着いた目的地で先生は呟き漏らす。中央ホールの両脇、オフィスから一番近くに存在するエレベーターへ前と辿り着いた先生は、一縷の望みと共にエレベーターのパネルに触れる。しかし手を翳しても、指先で軽く叩いても――パネルは無反応、完全にその機能を停止していた。

 

「駄目か」

 

 声は小さく、僅かな苦々しさを孕む。

 落胆は無かった、そもそもエレベーターが生きているとしても使用するには危険が伴う。

 しかし、エレベーターそのものを用いずとも、エレベーターシャフトを人力で辿った脱出が封じられた事は痛手だった。自身の肉体が成し遂げられるかどうかは別として、脱出するルートの一つであった事に違いは無い。

 

「アロナ、非常階段のルートを」

『は、はい!』

 

 アロナに別途、ルートの変更を進言しながら、大きく息を吸い、深く吐く。落ち着いた呼吸は幾分か気持ちを落ち着ける効果がある。先生は慎重に周囲を見渡し、アロナのサポートによって視界に映る敵性反応を探った。

 このオフィスエリアは視聴覚室、体育館、図書館、教室、実験室、射撃場、格納庫等が存在し、かなりの広さを誇る。外壁を爆破し、侵入してきた部隊が居るのはオフィス奥にある格納庫だ。

 どうやらヘリによる逃走を阻む為、格納庫を優先して押さえたらしい。これで航空機は使用できず、車両も同じく。リフトを使って地上に降下する事も叶わない。

 

 もう一つの部隊は体育館側の非常階段から登って来ている様だったが、此方は中央ホールに辿り着くまで若干の猶予がある。体育館から中央ホールへと続く廊下には隔壁が複数降りており、順次爆破しなければ直通しない。

 しかし猶予があると云っても、それはほんの二分、三分程度の話だ。適切な装備と火力があるのならば、突破自体は可能だった。

 

 執念――そう、執念だ。

 敵方からは、此処で必ず自身を屠るという熱の様なものを感じた。それが自分自身に対する感情の発露なのか、それとも自分を屠った後に得られる代物に対しての執着なのか。恐らく後者だろうと先生は思った。

 体育館側の隔壁を一瞥し、踵を返すと再び廊下を駆け始める先生。先程来た道を少し戻り、体育館とは反対側にある非常階段に向かっていた。

 

『先生、たった今シャーレ本棟周辺をスキャンしました!』

「そうか、結果は?」

『現在、シャーレは敵勢力によって完全に包囲されています! シャーレ内部に入り込んだ敵性反応は百以上、出入口部分には二十名以上の兵士が待ち構えていて、空には支援ヘリの姿も……!』

 

 この状況から抜け出すのは――画面の中でアロナはホログラムモニタを見つめながら呟き、その語調を弱めた。息を弾ませながら、先生は胸元に抱き寄せたシッテムの箱を見下ろす。

 その後に続く言葉が何なのかは、凡そ予想出来る。単身でシャーレを脱出する事自体が困難、加えてそこから逃走を成功させる事など、正に奇跡に等しい。

 自身に残された時間の都合上、此処で切り札を切る訳にはいかない。だが斃れる訳にもいかなかった。赤い光の中で、唯一緑色に煌めく非常階段のランプを見上げた先生は、その扉に手を掛けながら声を漏らす。

 

「――死地、か」

 

 生徒の助力は得られず、ただ一人で敵の包囲を潜り抜け、脱出する。中々どうして厳しい状況だ。それはアロナのバックアップがあっても同様、先生自身が経験してきた様々な状況の中でも、正しく『死地』と称しても問題ない程に険しいシチュエーションに思える。

 しかし、呟きながらも先生は顔を上げ、唇を一文字に結び直す。脳裏にちらつく様々な記憶と情景が、口にした言葉の重みを変質させていた。

 

「……いいや、こんな場所でそんな事を口にしたら、彼女達に怒られてしまうな」

『先生――』

 

 この程度の困難、いつもの事だ。

 先生はそう嘯いた。

 それは傍から見れば強がりや虚勢の類に見えただろう。しかし、口にした全てが虚勢と云う訳ではない。相手が兵士として存在するオートマタ(大人)である事は、心理的負担を幾分かマシなものに軽減してくれるのだ。

 対峙する相手が生徒ではなく、向けられる感情は余りにも無機質――対峙する上で、涙も、悲鳴も、慟哭も存在しない。戦いたくないと叫びながら、撃ちたくないと喚きながら、それでも血を流し、泥を啜る様な不快感と苦痛に耐えながら立ち続ける事の、何と不毛で、痛ましい事か。

 生徒が立ち塞がらない、それだけで先生は救われた気持ちになった。

 

 だから、これは困難であっても『死地』ではない。肉体も、精神も、全てが擦り切れ、摩耗し、憔悴する戦いと比較すれば、まだ気力が勝る。

 震える膝を叩きながらも、まだ屈さずに居られる理由はそれだ。先生は薄暗い暗闇へと足を進めながら、薄らとした笑みすら浮かべる心理的余裕があった。

 

 ――そうだろう、アロナ?

 

 胸中にて零した心の声に、返答は無かった。だがアロナもまた、同じ世界を見て来た同胞だ。こんな状況に在ってもなお、きらきらと煌めきを内包する瞳は希望を捨てず、光を失わない。

 その光こそが、こんな状況に置いては全てに勝る可能性なのだ。

 

 先生はシッテムの箱を抱いたまま非常階段を下っていく。吹き抜けの非常階段は第一層から屋上まで、全て見通す事が出来る。階段を急ぎ駆ける先生の靴音が、赤に照らされる世界に響いていた。

 

「アロナ、敵の狙いは何だと思う?」

 

 息を弾ませ、口元から白い吐息を靡かせながら先生は問うた。アロナは画面の中で先生を見上げながら、ぽつりぽつりと答えを返す。

 

『シャーレそのものに攻めて来た訳ですから、先生の身柄か、或いは……』

「どうだろうね、単に命を狙っているだけなら、砲撃か空爆で諸共吹き飛ばしてきそうなものだけれど」

 

 或いは、初手の爆弾がそうだったのかもしれない。

 カイザーコーポレーション――プレジデントはシッテムの箱、その存在を知っている。その機能までは把握していないと思うが、『死んでしまっても構わない』と、『何が何でも殺害する』は大きく方針が異なる。 

 爆破後、間髪入れず部隊を送り込んで来た事から自身に対する執着心は感じ取る事が出来た。しかし、それは先生という存在そのものを狙っているのか、それとも自身の所有するシッテムの箱を狙っているのか、そこまでは判別出来ない。

 しかし、シャーレ本棟に仕掛けて来たという事実が、先生の推測を強固なものとした。

 シッテムの箱と、もう一つ――このシャーレには重要な設備が存在する。

 

「彼らの狙いにシッテムの箱が含まれているのは間違いない、けれどもう一つ、このシャーレにはカイザーコーポレーションが欲しがるようなものがあるだろう?」

『それは、もしかして……』

「あぁ、サンクトゥムタワーの制御権、それに外部から触れる事の出来るクラフトチェンバーだよ」

『――!』

 

 その言葉に、アロナは何かに気付いた様に息を呑んだ。サンクトゥムタワーを制圧したとしても、制御権が即座に手に入る訳ではない。運用には行政委員会と総括室、それぞれの役員が持つ権限と同意が必要である。

 そして仮に彼女達を拘束し、権限を手中に収めたとしても――シッテムの箱とクラフトチェンバー、その両方が存在すればサンクトゥムタワーに外部からアクセスし、その暴走を阻止する事も可能となる。

 つまりカイザーコーポレーションがキヴォトスの中枢を担うサンクトゥムタワーを名実共に確保する為には、独立連邦捜査部シャーレの制圧と、サンクトゥムタワーの制圧、その両方を同時に成し遂げなければならなかった。

 プレジデントは、それを理解していたのだ。

 

 箱舟の運用にはサンクトゥムタワーが必要である。

 そしてサンクトゥムタワーを手中に収めるには、シャーレが邪魔だ。

 シッテムの箱と、その所有者たる先生を排除すれば、後は悠々とアビドスにある本船を回収すれば良い。薄らとだが、プレジデントの描いた絵が見えて来た気がした。

 

「さっきアビドスから箱舟を見つけたと連絡があったよね、恐らく連中――カイザーコーポレーションも私達が箱舟を確保した事に気付いたんだ」

『だから、こんな攻勢を……?』

「推測だけれどね、サンクトゥムタワーにもカイザーコーポレーションの手が回っているかもしれない、だから急がないと」

 

 アビドス砂漠にて掘り起こされたウトナピシュティムの本船――アレの性能は折り紙付きだ。災厄さえ降り掛からなければ、キヴォトスを手中に収めるだけの性能はある。何せ他ならぬアトラ・ハシースがそうなのだ、彼の箱舟に対抗するべく創造された件の兵器は、あらゆる自治区、世界そのものを敵に回しても尚勝ちを拾えるだけの力を持っている。

 だらこそ、それを利用し世界を統べようなどと考える者に、渡す訳にはいかないのだ。

 是が非でも阻止しなければ。

 

「何としても、箱舟が彼らの手に渡る事は阻止しなくちゃいけない」

『……はい』

「そのためにも、何とか脱出の糸口を――」

 

 呟き、階段を降りる先生の視界に――赤い輪郭に縁取られた、複数の人影が映った。同時に下から照らされるライト、吹き抜けの階段、その冷たい壁を這う様に照らされる光が中央の隙間を縫う様に走る。先生は咄嗟に足を止め、息を殺す様に壁へと身を寄せた。

 

『先生、下から別の部隊が登って来ます!』

「あぁ……!」

 

 非常階段を登って一階一階、虱潰しに見て回っているのか、或いは一階から一気に上まで駆け上るつもりだったのか。兎も角、鉢合わせする前に勘付けたのは僥倖だった。

 先生は苦り切った表情を浮かべ、今しがた降りて来た階段を今度は慎重に登り始める。自分が此処にいる事を知られないように、音を立てずに、一段ずつ。

 此処に登って来る前に、やり過ごす他ない。音を立てずに途中の出入り口へと手を掛けた先生は、そのまま身を滑り込ませ、後ろ手に扉を閉める。再び廊下へと身を晒した先生は、そっと安堵の息を吐き出しながら周囲を伺った。

 

 ――此処は、居住区か。

 

 非常階段の扉を潜った先に在ったのは、オフィスから何階か下った先にある居住区画。此処にはトレーニングルームや自習室、休憩室にゲームセンター、小規模な家庭菜園もあり比較的開放感のあるフロアとなっている。

 右手側には中央フロアへと続く廊下、左手側には降りた隔壁が見えた。それを一瞥した先生は、廊下の先にあるエンジェル24を見る。

 確か、今日はソラのシフトは入っていない筈だ――出入り口には既に緊急事態用の隔壁とシャッターが降りており、内部の様子は伺えない。今日のシフトを担当していた店員に何事も無ければ良いが、先生はそう内心で零す。

 

「アロナ、何処か一時的に身を隠す場所を探して欲しい、非常階段の部隊が他に移るまで、息を潜めて待とう」

『分かりました、今ナビゲートを……』

 

 そうアロナに伝え、先生が廊下へと一歩踏み出した瞬間。

 

『――先生ッ!』

 

 アロナが叫び、先生の身体を青白い防壁が一瞬で包み込んだ。

 唐突なそれに身を硬直させた次の瞬間、直ぐ横にあったシャッターを貫通し、飛来する弾丸。

 それは先生の肩目掛けて直進し、アロナの防壁に阻まれ、火花を散らしながら後方へと流れた。そのまま白い壁へ着弾、衝撃と粉塵を撒き散らしながら穴を穿つ。

 先生は硬直した身体を素早く翻し、今しがた弾丸の飛来した方向を驚愕の目で見つめる。

 

「狙撃!?」

『隣接した建物から、直接……っ!』

 

 シャッター越しに撃ち抜く威力、恐らく対物ライフルか、それに準じる威力を持っている。真面に受ければ肉体が粉々になって飛び散るだろう。

 どうやって障害物越しに此方を発見したのか、しかし今はそれを考えている余裕は無かった。

 先生は全力で前へと身を投げ、一拍置いて第二射が直ぐ後ろを穿つ。床に伏せ、頭を抱えた先生の上着に、貫通した外壁から漏れる陽光が降り注いだ。

 地面に手を突き、顔を上げた先生は思い切り地面を蹴り飛ばし、廊下を疾走する。

 

「位置が露呈したっ、アロナ!」

『ルートを更新します! 先生、走って下さいッ!』

 

 アロナが悲鳴染みた声を上げ、同時に先生の視界に表示されていた情報が目まぐるしく変化する。同階層を捜索していたオートマタ、そして先程非常階段を登っていた別動隊が此方に気付き、一斉に動き出すのが分かった。

 そしてそれは、この付近の敵に留まらない。

 シャーレに入り込んだ全ての兵士が、先生の現在位置に気付いてしまった。

 

『反応が一気に動き出しました、別動隊が来ます! このままでは囲まれて――ッ!』

「クソッ!」

 

 悪態を吐き、先生は兎に角敵性反応と距離を取る様に移動を開始した。シャーレの非常階段は二ヶ所、中央のエレベータを除き建物両側に各階層へと繋がるものがある。

 しかし、そこはもう使えないと先生は判断を下す。分かり易い脱出経路を潰すのは当然だ、仮に向かったとしても既に待ち伏せされていると考えるべきだろう。そうなると現実的な脱出策は格納庫や屋上など、外部へと繋がる経路がある場所。

 或いは閉じたシャッターを開放し、窓硝子から外界へと身を投げるか――どちらにせよ、現実的ではなかった。

 

「うッ!?」

 

 思考を巡らせながら駆ける先生の身体が、唐突な爆風に煽られ、その場で身を竦めた。足元に散らばる金属片、焦げ付いた瓦礫。見れば今しがた通過しようとしていた廊下脇の隔壁が爆破され、残骸が周囲に飛び散っている。

 その穴から銃口を覗かせ、此方を目視するカイザーPMCの兵士達。そのフェイスモニタに点滅した光が、此方を冷徹に見据えていた。

 

「目標を発見」

「これ以上逃走出来ない様、足の一発でも撃っておけ」

 

 赤いライトに照らされ、鈍く光る銃口が先生へと突き出される。

 拙いと、本能的に遮蔽を探し、そのまま次の曲がり角へと駆け出す先生。その背中目掛け、複数の閃光と乾いた銃声が鳴り響いた。

 

「うぉッ!?」

『先生ッ!』

 

 飛来した弾丸は五発、それは丁度駆ける先生の足元を薙ぎ払う様に放たれていた。しかし命中する直前、アロナが防壁を展開し弾丸は不自然な軌道を描き、直ぐ横の壁や床に着弾する。空薬莢の転がる音と共に、壁や床に突き刺さる弾丸。その結果を前にして、兵士達の不審がる声が廊下に響いた。

 

「なっ、外した!?」

「いや、今弾丸が横に逸れた様に――」

「あり得ない、視覚情報のノイズだろう、何方にせよ追い詰められるのは時間の問題だ、このまま距離を詰めるぞ」

「……了解」

 

 不可解な現象に、しかしオートマタ達は取り乱す事無く追跡を開始する。角を曲がり、射線を切った先生を追って兵士達は駆け出した。

 先生は背後から聞こえて来る足音を聞きながら、直ぐ隣の部屋へと半ば飛び込む様な形で転がり込んだ。肩から地面に身を投げ、そのまま滑る様に地面へと転がる先生。

 緊張と疲労で息が上がり、肺が苦しい。先生は胸元を握り締めしながら冷汗を流し、そのまま床に這い蹲るように呼吸を整えた。

 

「はぁ、はッ……! アロナ、基幹システムのクラックは……!?」

『敵の反応が多すぎます! 身代わり防壁の分も含めると、シャーレ全体への干渉は試行回数が二百回以上です、流石にバッテリーに不安が……ッ! 先生、窓ッ!』

 

 アロナの絹を裂く様な警告に顔を上げると同時、窓を覆っていたシャッターごと吹き飛ばす様な爆発が起きた。息が詰まり、先生は全身を焦がす様な熱波を幻として感じ取る。

 一瞬、鼓膜があらゆる音をシャットアウトし、世界に無音が訪れた。それは余りにも強烈な爆音に、聴覚が一時的に機能を失ったのだ。直ぐ傍を火の粉と金属片が掠め、地面に焦げ跡を残した。幸い先生は床に這い蹲っていた事もあり、殆ど被害も無く、シッテムの箱を抱き締めながら頭を抱え、爆風と衝撃をやり過ごす。

 

「ぐ、ぅ……ッ!?」

 

 ぬらりと床を舐める炎、そこから差し込む強い光。休憩室の庭園へと繋がる扉が吹き飛ばされ、大きく穴の開いた外壁から此方を覗き込むサーチライト。それは部屋の中をぐるりと一瞥し、それから床に蹲った先生の姿を発見し、固定された。

 

『――こちらヴァイオレット、標的を発見した』

 

 薄らと、徐々に回復する聴覚。

 最初に聞こえたのはヘリコプターのローター音、乾いた空気を破裂させるような音だ。先生が風圧に衣服と髪を靡かせながら緩慢な動作で上体を起こせば、途端に強烈な光が顔面を照らし、思わず顔を顰めた。

 薄暗い曇天の下で、陽光とは比べ物にならない光量が視界を遮る。

 

「……ッ!」

 

 突風と光に目を細め、先生はヘリから逃れようと覚束ない足取りで立ち上がった。ヘリの姿は逆光で良く分からない、しかしこのまま蹲っている訳にはいかなかった。

 

『了解、支援攻撃を開始する、付近の味方は表示された射撃範囲から離脱せよ』

 

 突然、ヘリコプターが旋回し側面を晒した。まさか離脱するのかと淡い希望を抱いた次の瞬間、ぐるりと強烈な光の代わりに現れた――黒々とした銃口。

 機体側面、ドアガンとして身に付けられた重機関銃、通称ミニガン。取り付けられたそれを操作し、此方に銃口を向けたオートマタがゆっくりと砲身を回転させるのが分かった。そこから導き出される答えに、先生は息を詰まらせる。

 

 ――冗談だろう。

 

 その唇が何事かを口にするより早く、凄まじい轟音とマズルフラッシュが網膜を焼いた。

 

「う、ぉオオオッ!?」

『先生っ!』

 

 口から悲鳴とも、雄たけびとも取れる声が漏れた。毎分最大六千発という途轍もない発射レートは最早火を噴いている様にしか見えず、先生が横へと身を投げるのと同じタイミングで、周囲は一斉に弾丸の雨に耕された。

 ソファやデスク、休憩用のドリンクバーに備え付けのモニター、クッション、観葉植物、降り注ぐ弾丸はあらゆる障害物を粉砕し、壁も床も関係なく打ち砕く。

 

 肝が冷えた、否、冷えた等というレベルではない。

 先生が頭を抱えながら床に這いつくばる間、アロナは辛うじて先生の肉体を保護できる大きさの防壁を展開した。弾丸は先生の身体を捉える寸前、奇妙にねじ曲がり、あらぬ方向へと着弾する。

 

 発射される全ての弾丸を逸らす事も可能ではある、しかし一秒に百発の弾丸を逸らし続ければ、シッテムの箱とて直ぐにバッテリーが底を突くだろう。アロナは顔を歪めながら、見る見るうちに減少していくバッテリー残量を睨みつけていた。

 

 義手に内蔵されたバッテリー残量を勘定に入れたとしても、到底足りるものではない。宅配を装った爆発からの防御、視界外からの狙撃、逃走時の補助に、アロナが今日防壁を展開したのは都合三度。これに加え常時敵位置を把握し、先生と共有しているが、それだけでも大きな消耗だった。

 シャーレに存在する兵士を全てクラックするなど、夢のまた夢。

 

『このままでは、バッテリーが……!』

 

 先生の身体と周囲を襲う弾丸の雨に、アロナは決断を迫られる。しかし、状況から迷っている暇は無いと判断。即座に行動へと移り、アロナはホログラムコンソールを叩き始める。先生へと展開した防壁は維持しながら、現在此方に攻撃を仕掛けて来る敵攻撃ヘリに対し、クラックを敢行した。

 

 流石に対策は施されているが、一機だけならばどうとでもなる。

 サイクリックとコレクティブ、FADECから自動操縦システムを掌握し、そのままヘリを遠方へと離脱するよう指示。

 途端グンッ、と機体が大きく傾き、此方に向けて射撃を続けていた重機関銃の砲口があらぬ方向を向いた。そのままシャーレの外壁に幾つかの弾痕を穿ちながら、機体は上昇を開始する。

 

『お、おい、何故上昇している!?』

『違う、操縦が利かないんだ! これは、自動操縦の――ッ!』

 

 内部で交わされる会話を他所に、ぐんぐん高度を上げていくヘリはそのまま操縦手の意思に反し、D.U.郊外に存在する比較的開けた場所へと飛行を開始した。このまま何事も無ければ強制的に着陸し、以降は此方からの許可が無ければ再び飛び立つことは無いだろう。

 ヘリが空の彼方へと消えれば、周囲には静寂が訪れ、先生は地面に這い蹲った状態からゆっくりと顔を上げた。周囲に飛び散った木片や硝子片を一瞥し、顔を顰める。攻撃自体は防げても、余波はどうしようもない。

 一瞬の内に濁流の様な攻撃を受けた先生の肉体は、衝撃に竦み切っていた。

 

「ッ、ぅ……」

『先――立っ……!』

 

 アロナの声が途切れていた。

 耳鳴りが酷い、掠めた弾丸や打ち鳴らされた空気の衝撃が、そのまま先生の彼方此方を打ち据えていた。自身の上に被さったデスクの残骸を押し退け、先生は大きく息を吸い込む。

 途端周囲に蔓延していた粉塵が肺を侵し、思わずむせ返った。

 

『先生、立って下さい! 先生ッ!』

「―――」

 

 蹲っていた身体に喝を入れ、漸く起き上がろうとした瞬間――先生は自身の足元に伸びる影に気付いた。

 丁度自分に覆い被さる様に映るソレ、先生がハッと我に返ると同時、頭上から風切り音が響く。

 

「ごッ!?」

 

 咄嗟に顔を上げた途端、横合いから頬を殴りつける硬質的な何か。視界が一気に狭まり、衝撃に骨が軋む音が聞こえた。

 アロナが悲鳴を上げ、殴られたのだと分かった。

 視界の端に突撃銃のストックを振り抜いたオートマタの姿が見えた。聴覚が一時的に麻痺していた結果、接近に気付けなかった。

 衝撃に視界は一瞬で白く染まり、意識が遠のく――しかし、伸ばした先生の左腕がオートマタの腕を掴んでいた。殴りつけられ、後方へと流れた先生の身体が、強引に引き戻される。

 

「なッ!?」

「っ、おォ――オォッ!」

 

 意識が飛ぶより早く、本能が体を動かした。

 歯を打ち鳴らし、雄叫びを上げながら全力で足に力を籠める。直ぐ後ろに立ち、自身の頬を殴打したオートマタの懐へと潜り込むと、先生は相手の腰に肩からタックルを敢行した。

 竦んだ足が、痛みと衝撃、そして生命の危機に奮い立つのが分かった。そのまま全体重を乗せ、オートマタを壁際へと押し込む様に突貫。オートマタの足が床を滑り、金属の擦り合う金切り音を鳴らしながら、僅かに浮き上がる。

 先生の死力を尽くした突撃はオートマタの意表を突き、その背中が壁に叩きつけられ、先の砲火によって穴だらけになっていた内壁は轟音と共に突き破られた。

 先生とオートマタの身体が廊下へと投げ出され、そのまま床に叩きつけられる。周囲に粉塵が撒き散らされ、瓦礫の崩れる音が響く。

 

「この、悪足掻きを――ッ!」

「私は、諦めない……ッ!」

 

 廊下に投げ出された二人は床を二度、三度転がり、殆ど同じタイミングで顔を上げた。混濁し、湾曲した視界の中で、先生は血の滲む歯茎を剥き出しにして立ち上がり、シッテムの箱を懐に差し込むと、勢い良く駆け出す。

 オートマタは咄嗟にライフルを構えようとして、しかし先程の突撃を受け、手から離れている事に気付いた。見れば、数メートル先に瓦礫と共に転がるライフルがある。今から手を伸ばしても、届くことは無い距離だった。

 

「隊長、今援護を……!」

『っ、させません!』

 

 廊下の後方から、退避していたオートマタ達の声が聞こえた。向けられる複数の銃口、しかし閃光が瞬くより早く、アロナは即座にホログラムコンソールを操作し、オートマタ達の基幹システムに侵入する。

 オートマタ達の首に装着されていた身代り防壁のアタッチメントが弾け、システムに侵入されたと理解するよりも早く――アロナの指示により、素体は即座にシャットダウンされた。

 崩れ落ちる複数のオートマタ、何が起こったのか分からぬまま、一体、二体と光を失い、直立したまま項垂れる兵士達が続出する。目減りするバッテリー残量、アロナはそれを理解して尚、先生の為に手を動かし続ける。

 

「おい、どうしたッ!?」

「なっ、何が……?」

「基幹システムに侵入されているぞ! 下がれ、私が対処するッ!」

 

 先生と対峙するオートマタはそう叫びながら、冷静にサイドアームである拳銃を抜き放った。先生の背後は閉じられた隔壁だ、もう逃げ場は何処にもない。故にこそ目の前に立ち塞がる自分へと挑んで来るのだろう。

 しかし、それは無謀に過ぎる。

 今にも倒れそうな青白い顔色で、愚直に肉薄する先生を見据えながら、オートマタは淡々とした動作で拳銃を構え、引き金を絞った。

 

『先生ッ!』

「構うなッ!」

 

 防壁を展開しようとしたアロナに対し、先生は血を吐く様な声で否定を叫んだ。

 同時に乾いた発砲音とマズルフラッシュが瞬き、弾丸は先生の肩と胸元に着弾する。空薬莢が視界の片隅で跳ね、前傾姿勢で駆けていた先生の上半身が揺らぐのが分かった。骨が軋み、筋肉が悲鳴を上げる。痛みこそ存在せずとも、衝撃は肉体を貫通する。

 

「ぐ――ッ!」

 

 だが、止まらない。

 先生は僅かに揺らぎ、流れた上体を引き戻し、必死の形相で床を蹴り上げる。その結果に目を見開き、想定外だとばかりに硬直するオートマタ。何故動ける、先生は人間の筈だ、弾丸に耐えられる装甲など何処にも。

 そんな思考が巡るも、良く観察すれば、先生が身に纏うシャーレの制服表面に微かな光沢が見えた。それは潰れた弾頭だ、表面が微かに非常灯の明かりを反射し、煌めいて見えた。貫通せずに張り付いていたソレを視認した時、オートマタは漸く何が起こったのかを理解する。

 

「防弾かッ!」

 

 シャーレの制服は本来防弾仕様である。エデン条約の折は爆発によって破損し使い物にならなくなっていたが、きちんと機能する状態ならば相応の防弾効果が期待出来る。今しがた放たれた弾丸は9mm、神秘の籠らない弾丸ならば完全にシャットアウトも可能だった。先生はそれを見越し、防壁の使用を敢えて控えたのだ。

 

「はぁアッ!」

「ッ!」

 

 二発の弾丸を発射される間に先生は距離を詰め、オートマタ目掛けて飛び掛かる。その左腕が拳銃ごとオートマタの掌を掴み、右腕は咄嗟に突き出された相手の腕を捉え、半ば組み合う形となった。

 ぐん、と先生の勢いに押されたオートマタが数歩蹈鞴を踏む。突撃の勢いを利用した飛び掛かりは、幾分かの猶予を先生に与えた。

 

「だがッ……!」

 

 しかし、肉体的なスペックで云えば人間が機械人形に敵う道理は無く。瞬く間に出力の差から先生は押し込まれ、その背筋が軋みを上げ、上半身が逸れた。

 見つめ合うフェイスモニタ、そのグリーンランプに嘲りの色が宿る。

 

「無謀だったな、人間――ッ!」

「ぐ、ぅううッ!」

 

 肉薄を許しはしたが、この状態ならば自身の有利は揺るがない。先生の右腕は徐々に押し負け、一歩、また一歩と後退する。

 だが、肝心の拳銃を握り締めたオートマタの右腕だけは微動だにしなかった。先生の左腕は、恐ろしい程の握力と出力で以てオートマタの腕を押さえつけていたのだ。

 その結果に驚愕し、思わず視線を手元に向ければ、軋み、歪み始める拳銃、そのポリマーフレームを目視する。

 

 ――この握力、普通ではない

 

 人間の出せる力とは到底思えなかった。先生の顔に視線を向ければ、此方を睨みつける様にして荒い息を繰り返し、足掻く人間の姿がある。先程壁を突き破った衝撃で切ったのか、額には血が滲み、赤色が頬を伝って顎先に伸びていた。

 そのまま二秒、三秒と拮抗状態を演じるオートマタ。しかし時間は先生の敵である、膠着状態は寧ろカイザー側に有利を齎し、時間を経れば増援は続々と集まり始めるだろう。

 それを理解していない筈は無いと、先生と対峙するオートマタは思考する。

 

「……!」

 

 そこまでして、彼は漸く理解した。

 何故自ら距離を詰めてまで、こんな状況に持ち込んだのか。先生の背後には隔壁があり、自分の後ろからは味方が銃口を覗かせている。

 自分とこうして組み合っている間、味方は発砲する事が出来ない――フレンドリーファイア(FF)の危険性があった。つまり、こうして自分と組み合う事で、疑似的な盾としている。

 ならば、その理由は? 単なるその場凌ぎか?

 いいや違う、この先生に限って、そんな消極的な手段は取らない――つまり。

 

 次の瞬間、ガコンという音が廊下に鳴り響いた。

 音は、先生の背後から聞こえた。

 はっと顔を上げれば、先生の背後にあった隔壁が僅かに持ち上がり、人ひとり通過出来るかどうかという隙間を生み出そうとしているのが見えた。

 それが先生の逃走を手引きする為のものだと、オートマタの演算機能は導き出す。

 

 ――このままでは、逃げられる。

 

 機械的な演算機能ではなく、これまで積み重ねて来たあらゆる経験が導き出した、疑似的な直感が叫んだ。

 同時に先生と組み合っていたオートマタの首元、そのガジェットが弾け飛ぶ。

 弧を描き、虚空を泳ぐガジェットの残骸を視界の隅で捉えた。身代り防壁が発動したのだ。

 つまり、今この瞬間にも基幹システムに侵入されている証拠――後数秒も経たずに、自分もシャットダウンされるだろう。

 そう思考した瞬間、オートマタは先生の掌を握り締め、一も二も無く叫んでいた。

 

「構わん、私ごと撃てェッ!」

「ッ……!?」

 

 目の前の先生、その表情が驚愕に彩られるのが見えた。

 背後から伝わる困惑の色、しかしそれは一瞬の内に転じ、後続の部隊が一斉に銃口を構えるのが分かった。

 

『先生――ッ!』

 

 アロナは息を呑み、防壁を展開しようとする。しかし、バッテリー残量を見た瞬間、その手が止まった。

 先のオートマタに対するクラック、その無力化数は十名以上にのぼる。身代り防壁分を含めれば単純に二十名以上、度重なる防壁展開とクラックはシッテムの箱、そのバッテリー残量を圧迫し、瞬間的な残量は一割を切ろうとしていた。

 外装を展開した、義手からの急速充電は間に合わない――ここで防壁を展開して、シッテムの箱がダウンすれば補完機能が止まってしまう。

 それは、絶対に避けなければならない事だった。

 

「ッ!?」

 

 先生は顔を顰め、咄嗟にオートマタの手を振り解こうと動いた。

 しかし、そうはさせない。今度はオートマタ側が先生を決して離すまいと引き寄せ、同時に体を逸らし、先生の肉体へと射線を通す。

 それを見た後続の部隊は、即座に号令を発した。

 

「撃てェッ!」

 

 薄暗い廊下に点滅する閃光、それが網膜を焼いた瞬間、先生は義手を強引に引き戻しバイタルラインを死守しようと試みる。

 オートマタの背中、後頭部、腕部、それらが先生の身体を隠し、弾丸の殆どは組み合ったオートマタ側へと着弾し、外装に弾かれた弾丸が火花を散らし、視界に瞬いた。

 鳴り響く跳弾音、銃声、金属の破裂する音。

 しかし、飛来した幾つもの弾丸は線ではなく面で先生を襲い、僅か一秒後には肉の身体へと弾丸が突き刺さった。

 

 着弾したのは右脇腹、左肩、右足。

 それぞれがシャーレの制服を貫通し、肉を食い千切り、白い布地に赤を滲ませる。

 

「ぐぅ、が……ッ!」

 

 抗い切れない、凄まじい衝撃が体を突き抜けた。

 体は意思とは関係なく後方へと流れ、特に右足に関しては弾かれた様に後退し、そのまま僅かな痙攣と共に膝から力が抜けた。

 がくんと体が折れ曲がり、背中から床に倒れ込むと、同じように横合いへと崩れ落ちるオートマタの素体。金属の拉げる様な音が周囲に響き、先生は倒れ込んだ衝撃で息を詰まらせる。

 短く、断続的な呼吸を繰り返す。極度の緊張状態に全身が強張り、血が凍る様な感覚があった。撃たれた脇腹に視線を向ければ、じわりと滲み出る赤色。顔を顰めながら歯を食い縛った先生は、そのまま緩慢な動作で脇腹に掌を伸ばし、止血を試みる。

 時間と共に脂汗が滲み始め、被弾した箇所が熱を帯びるのが分かった。所詮は錯覚だと云い聞かせる、しかし今の先生、その肉体にとっては現実だった。感覚を失っても、肉体は過去の経験から苦痛を再現するのだ。

 

『先生! 先生ッ!』

 

 アロナの声が聞こえた。だが、体が動かない。弾丸に貫かれる事には慣れていた筈だった――けれど弱り切った肉体では、最早這って移動する事すら困難で。

 ゆっくり、ゆっくり、先生の身体から赤が広がっていく。

 乾いた舌でアロナの名前を呼ぼうとして、込み上がる様な吐き気に口を閉ざす。たった十数秒足らずで視界は霞み始め、先生は呼吸を繰り返すだけで、言葉を紡ぐ余力さえ失った。

 

 軈て幾つもの足音が響き渡り、周囲を複数の影が覆った。オートマタ達が倒れた先生を取り囲み、銃口を突きつけたのだ。仰向けに転がった先生はそれらを朧げな視界で見上げながら、脇腹から溢れ出る赤を押さえ、浅い呼吸を繰り返すばかり。

 

「隊長、御無事で!?」

「ぐっ、外装が抜かれた……だがフレームは無事だ、問題は無い」

 

 直ぐ横に転がっていたオートマタを抱き起す隊員達。弾痕は外装に刻まれ、そのフェイスモニタは罅割れていたが、致命的ではない。

 起き上がる仲間を横目に先生を取り囲んだ部隊は油断なく銃口を突きつけ、即座に発砲出来る体勢を維持したまま、互いにコンタクトを取った。

 

「対象確保、まだ息はある――止血を急げ、後は将軍(ジェネラル)の管轄だ」

「了解」

 

 頷き、先生の傍へと屈み込んだオートマタの一人が、背嚢から乱雑に何かを取り出すのが分かった。オートマタに通常の生徒や、先生に対応する様な救急装備は無い。彼らは血を流さず、肉の身体を持たないが故に。

 しかし、今回の作戦では一班に一体、先生を確保した場合に応急処置が出来る様、工兵が応急処置キットを持ち込んでいた。

 

 撃たれた右足に何かが巻き付けられていくのが分かる、しかし当の先生は何をされているのか分からない。もう視界は薄暗く、感覚は無かった。少しずつ閉じていく世界を、辛うじて扉の隙間から覗いている様な感覚だ。

 少しすると、力なく抑えていた脇腹の処置に入ったのか、先生の両腕が乱雑に払われ、床の上に力なく掌が転がった。

 何かが脇腹を這う微かな感覚、少しずつ変化していく呼気、頭上で此方を見下ろしながら交わされいる会話は朧げだ。

 苦し気に唸り、辛うじて意識を保とうとする先生はしかし、精神よりも先に肉体が限界を迎えようとしていた。

 

『先――……! 先―ッ! 起き――……目を、覚まし――!』

「地下――将軍の指示――……問を……」

「了――連絡……」

 

 頭が、揺れ動く。思考が纏まらず、寒気は強まるばかり。ただ強烈な眠気と、まるで酩酊しているかのような感覚があった。脳が麻痺しているとでも云えば良いのか。体は微塵も動かず、連続した景色ではなく、断片的な光景がコマ送りで見える様な状態だった。

 

 一瞬、意識が飛ぶ。

 両足を持って引き摺られていた先生の身体は、ややあって担ぎ上げられ、階段を降りていく。

 揺れる視界の中で非常灯の赤はやけに鮮明に見えて――目元に深い隈を作った先生は静かに息を吐き出し、階段を下る足音を耳に、ゆっくりとその意識を閉ざした。

 


 

 ハッピーホリデーですわ~! メリークリスマスですの~!

 先生が生まれ落ちた日に、こんな素敵な話を投稿出来た事、主に感謝致しますわ~!

 次回はもっと素敵になる筈ですわ! 先生、拷問のお時間ですの! 急がないと先生の素敵なおみ足が大変な事になります事よ~! 

 うぅ、生徒達の前で拷問される先生の勇姿みてて……。そんな酷い事、私出来ませんわ! 教育にも悪いですし、悪影響が出たらどうするんですの!? 

 だからボコボコにされた先生を救出させるだけで良いんですの!

 うぅ、拷問されて全身襤褸雑巾になった先生が必死に這い蹲って脱出した所に鉢合わせになるRABBIT小隊の可愛いとこみてて……。

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