ブルーアーカイブを、もう一度。   作:トクサン

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誤字脱字報告に感謝ですわ~!
今回、いつもより少しだけ短いですの!


砂漠の狐(砂塵に潜む狩人)

 

「プレジデント」

 

 外郭地区、シャーレに向けて走行する警護車両の後部座席。プレジデント率いるカイザーコーポレーション本隊は、何両もの輸送車、装甲車両を引き連れ公道を駆けていた。ソファに深く座り無言で外を眺めるプレジデントは、直ぐ隣で端末を操作するオートマタの発した声に、そのコンパウンドアイを向けた。

 端末に視線を落としながら表面をタップしていた護衛のオートマタは、画面に表示される文字を視線で追いながら僅かに強張った気配を滲ませる。

 

「その、たった今、シャーレ制圧部隊より報告が入りました」

「内容は?」

「……それが」

 

 淡々と、無機質な声色でプレジデントが切り返せば、オートマタは言葉を濁らせる。この時点でポジティブな内容ではないと簡単に想像がついた。オートマタはフェイスモニタに灯るランプを何度か点灯させながらも、ゆっくりと電子音声を紡ぐ。

 

「制圧部隊と、ジェネラルが奇襲を受けたと」

「……奇襲?」

「はい、その戦闘でジェネラルが機能停止に追い込まれ、指揮官不在の混乱を突かれた結果シャーレの先生、その逃走を許したらしく……」

「―――」

 

 失態だ。

 オートマタは制圧部隊の犯したそれを読み上げる内に、段々と自身の素体から熱が失われて行く様な気がした。

 実際問題、その報告を受けたプレジデントの纏う気配は重々しいものへと変質し、隣り合うオートマタは委縮する様に肩を揺らした。どのような叱咤が飛んで来るのか、或いは此方に飛び火する事を恐れていたのだ。

 背を曲げ、前傾姿勢となったプレジデントはオートマタの端末を指差し、問う。

 

「一体、何があった? 攻め込んで来たのは、どこの勢力だ」

「はっ、どうもカイザーPMCの前理事が手勢を率いて、少数の戦力と共にシャーレへと潜入、先生救出を先導したとの情報が――」

「カイザーPMCの前理事だと?」

 

 その言葉に、プレジデントは指先で顎先を擦りながら、記憶領域に存在する該当データを探る。

 埃を被ったソレを引っ張り出せば、自身やジェネラルとは異なる巨躯を誇る前理事の姿が浮かび上がって来た。

 あの者か、と。

 そう呟きを漏らすと同時、オートマタは端末画面をスライドしながら言葉を続ける。

 

「またシャーレ本棟周辺では一般市民や生徒による反発が強く、現在D.U.区画の封鎖を担当していた外周部隊を幾つか増援に回し、到着を待っている状態との事です」

「………」

「加えてシャーレに接近する所属不明のヘリが一機、統制空域に侵入した為、手順に則り迎撃を行ったとの報告も」

「その所属不明機は、既に撃墜したのか?」

「いえ、該当のヘリは此方の迎撃行動を確認し即座に撤退、その後外周に展開した部隊より迎撃機が追跡を行いましたが、以降報告はなく――」

 

 口にする報告に対し、段々とオートマタの語調が弱々しくなる。画面に躍る文字には、プレジデントが期待する様な朗報が一つとして存在していなかったのだ。そして画面から顔を上げると、戦々恐々と云った様子で首を振った。

 

「……現在、調査中と」

「――愚鈍な連中め」

 

 吐き捨てられた言葉には、失望と侮蔑の色が多分に含まれていた。

 苛立ちはプレジデントの指先が自身の膝を叩く動作で分かる、一定のリズムを刻むそれに対し隣り合うオートマタは気が気ではない。

 数秒程沈黙を貫いたプレジデントは、それから膝を叩いていた指先をぴたりと止め、自身の顔面、その外装を指先で撫でつけた。指先からコンパウンドアイの光が漏れ、薄暗い車内を薄らと照らす。

 

「所属不明機に関しては深追いせずとも良い、これ以上追撃は出すな、今は兎に角シャーレの防備を固めろ、どのような手段を用いても構わん、本隊が到着するまで持ち堪えるのだ」

「ハッ! では、その様に指示を――」

「あぁ……この状況でシャーレのクラフトチェンバーを手放す訳にはいかない」

 

 先生の行った最後の抵抗については、ジェネラルから齎された最後の報告によって把握している。

 サンクトゥムタワーの制圧を成功させたとは云え、制御権が無ければそもそも話にならない。そして現在此方からのアクセスを拒む防衛システムに解除方法、或いは抜け道があるとすれば、それはシャーレ先生とシッテムの箱しかない。

 そしてサンクトゥムタワーに対し、外部より例外的に接続可能なクラフトチェンバー、これの重要性もまた同じく。これらを抑え、再び制御権獲得に動く他なかった。

 計画には大幅な変更が必要だ――腕を組み、思考回路を熱しながらプレジデントは告げる。

 

「逃がしたシャーレの先生、その足取りは掴めているのか?」

「不明です、現在捜索の手を広げているとの事ですが、捜索中の部隊から発見報告は上がっておらず……」

「制御権が無ければサンクトゥムタワーもただの巨大な置物に過ぎん、箱舟の起動も夢のまた夢――どうにかクラフトチェンバーか、サンクトゥムタワーより再度アクセスする手段を模索しなければならない」

 

 その鍵は、シャーレの先生――そして彼の持つシッテムの箱にある。

 

「何としても探し出せ、これはカイザーコーポレーションがキヴォトスを手中に収める為に避けては通れぬ道」

 

 プレジデントの指先が、再び自身の膝を叩いた。辟易とした、気怠げな気配、その中に混じる確かな苛立ちと――執念。

 煌々と輝く六つの瞳は直ぐ隣に座すオートマタを睨み付け、底から唸る様な電子音声が空気を震わせた。

 

「たとえ、D.U.全てを焼き尽くしてでも――必ず見つけ出すのだ」

 

 その為の犠牲ならば、どれ程積み上げようと構いはしない。

 

 ■

 

「コイツ、ちょっとしつこ過ぎでしょッ!」

 

 飛翔する機体、愛機の中でモエはサイクリック(操縦桿)を握り締めながら叫んだ。

 後方には此方を追跡する一つの機影、それがD.U.外郭地区を離れた時から、まるで影の様にぴったりと張り付き離れない。HUDに表示される赤い三角形、それが敵機の居る方向であり、それはずっと機体の背後に取り付いていた。

 

「ッ!」

 

 瞬間、レーダー警告受信機(RWR)が敵機のロックオンを検知し、この僅かな時間で何度も耳にした警告音(アラート)を鳴らす。警告パネルに、『MISSILE WARNING』のランプが赤く点灯し、後方から攻撃(ミサイル)が飛んでくると声高に叫ぶ。

 

AN/ALE-47(フレア)の休む暇がないっての……!」

 

 モエは素早くサイクリックを倒し、機体を左方向へと旋回させる。同時にコレクティブレバーを引きメインローターの仰角を増加、パワーを上げつつ機体を上昇させた。

 ぐんっ、と臓物が裏返る様な感覚。

 トルク計がパワー上昇により急増し、エンジン温度計(TGT)のタービン温度も同じく。鳴り響いていたローター音が大きく変化し、全体に掛かる重力からモエは食い縛った歯の隙間から、苦悶の声を漏らした。

 

「ッく――フレア射出!」

 

 機体を制御しながら、もう片手でAN/ALE-47ディスペンサーの操作パネルを叩く。『FLARE DISPENSE』と表記されていたボタンを押し込めば、ボンッ! という小さな爆発音と共にフレア発射ランプが一瞬点灯し、機体後方へと煌めく閃光が射出された。

 

 背後から射出されたであろう誘導弾頭(ミサイル)は射出されたフレアの熱源を追い、左右に逸れる。それを目視する事は叶わないが、機体が爆散していないという事は回避に成功したのだろう。

 モエは鋭く旋回し、その際硝子越しの視界に掠めた機影を確認、険しい表情のまま呟いた。

 

「今見えた機体、もしかしてAH-64(アパッチ)?」

 

 旋回中、微かにだが相手の機体、その輪郭を捉えた。先頭に見えたなだらかなフォルムに、機首下にぶら下げたチェーンガン。やや角ばったエンジンは見覚えがあった。

 対地攻撃、及び対空戦闘に特化した戦闘ヘリ、アパッチ――通称、『空飛ぶ戦車』である。

 

パイロン(装備)が良く見えなかった、ヘルファイアはぶら提げていた? それとも空対空特化? 頼むから、こっちのフレアより多く詰め込んでいないでよ……っ!」

 

 苦々しい色を隠さず、モエは思わず祈る様に叫ぶ。

 多目的用途で運用される此方の機体とは全く異なる、搭乗員二名による戦闘特化の機体。操縦席付近は確か、ボロン・カーバイドの装甲版で保護されていたのだったか。機体そのものも強化構造のフレームで構成されており、多少の銃撃や砲弾の破片程度では決して破損しない。

 勿論自己防衛システムも完備している、基本的なRWRは勿論、フレア・チャフディスペンサー、AN/ALQ-144赤外線ジャマーは揃っていた筈だ。攻守ともに隙なし、此方の機体、装備と比較して反撃に出れる要素は皆無。

 安心できる材料があるとすれば、速力では大きく遅れを取っていない事、精々がそれくらいだ。

 

「RABBIT1、聞こえる!? 此方RABBIT3――ッ!」

 

 コレクティブレバーを僅かに下げ、メインローターの仰角を減らし機体を急降下させ速度を稼ぐ。同時にサイクリックを小刻みに動かし、不規則な変化を絶えず行った。これは相手の機体に搭載された30mmのチェーンガンを警戒しての行動だった。

 そんな繊細な動作を続けながら、モエは通信パネル(COMM PANEL)を操作し、装着したヘッドセットに向かって叫ぶ。

 通信が送信されているTRANSMITのランプは点灯していた。

 しかし、一拍置いて警告が表示され、次いで躍る『NO SIGNAL』の文字。

 その結果に落胆する事は無かったが、モエの頬には一筋の冷汗が伝っていた。

 

「やっぱり駄目か、FMを使うならまた外郭地区に接近しないとだし……本気も本気だね、どれだけ装備持ち込んで広く展開しているんだか――」

 

 こっちは空対空用装備なんて、一切搭載していないのに。

 呟きは、機体のローター音に掻き消される。

 モエの愛機も相応の装甲は備えているが、それでもあくまで航空機の持ち得る装甲でしかない。片方のエンジンが停止しても飛行可能な機体であっても、あのクラスの攻撃を受ければまず、エンジンが耐えるどころか機体が木端微塵に吹き飛ぶ。ローターなど狙われてしまえば、絶対に受け切れない。

 口径30mmのHEDP弾は、約25mm厚の均質圧延装甲を貫通する。主力戦車の正面装甲、複合装甲(コンポジットアーマー)爆発反応装甲(ERA)は抜けずとも、側面や上面であれば貫通を狙えるだけの威力を誇っていた。

 そんなものを航空機に撃ち込めば、大抵は一発で吹き飛ぶだろう。ましてやアレは連射可能だ、一発捉えられてしまえば、そこから続々と次弾が叩き込まれる未来は容易に予測出来た。

 銃口に捕捉される事は、即ち撃墜を意味する。

 

 急降下により、垂直速度計(VSI)、高度計が一気に動く。機体全体が振動する様に唸りを上げ、モエは高出力飛行による燃料消費量の多さに、燃料計を確認した。

 残念ながらこの機体に補助燃料タンクは搭載されていない。高出力状態では燃料消費率が通常の倍近くに跳ね上がる。この全力飛行を続ければ、あと二時間以内に燃料は尽きると計算した。

 脳裏を過るあらゆるネガティブな要素に、モエは唇を噛む。

 

「……どうする、味方防空範囲(キャンプ上空)に一度退避する? あそこなら対空設備があるし――って、今キャンプに戻ったって、誰も居ないか」

 

 ならば残された手は――一か八か反転して、攻勢を仕掛ける位だろうか。

 

 此方にはアパッチの様な専用の火器管制システムは無いが、多目的の無誘導のロケット弾は搭載されている。十分に接近して発射すれば、一発位は着弾するかもしれない。

 分の悪い賭けだ、モエはじっとりと背中に流れる冷汗を自覚しながらディスペンサーパネルを一瞥した。

 既にフレア次弾は準備完了している、残弾数はディスペンサーパネルに表示されており、半分を切っていた。

 これが無くなった時が、自分の終わり。

 昨今の誘導弾(ミサイル)欺瞞対策(チャフ・フレア)無しの、完全な機動だけで回避するのは非常に困難である。理論上可能であっても、其処には多分に運が絡んだ。

 そして残念ながら、対空戦闘を主眼に置かないこの機体での機動回避は――ほぼ不可能である。

 

「―――くひひっ」

 

 状況は最悪だった。

 碌な打開策など浮かばない。

 武装も、機体性能も、友軍の有無も、何もかも。

 

 だと云うのに、モエは破顔した。

 

 それは吹っ切れたような、ある一線を越えた為に起きた、モエの悪癖であった。

 酷い状況だと云うのに、彼女の中にある本能が叫ぶのだ。

 どうせこのまま撃墜されるか、燃料切れまで逃げる位なら――HUD越しに正面を睨みつける瞳、それにギラリと危険な色が宿る。

 

(マズ)いよねぇ、このままだとエンジンが焼き切れるか、燃料が尽きるか、はたまた後ろに喰い付かれて木っ端みじんに吹き飛ばされるか……ホント、破滅的でゾクゾクする」

 

 サイクリックを握り締めながら、モエは粘つく様な声色で呟く。

 高出力飛行が続き、エンジン温度の警告ランプが黄色に点灯していた。だが生憎と、今出力を下げエンジンを冷却するだけの余裕は無い。

 

 ――ジリジリと、いつまでも逃げ回った挙句撃墜なんて、全く自分らしくないではないか。

 

 モエの笑みはどんどん深く、三日月の様な弧を描く。

 追い詰められている、自分の終わりが近付いている、しかし同時に己の中にある、強烈な渇望がどんどんと肥大化していくのが分かった。

 

 彼女の脳裏に、火花が弾ける。それは徐々に、徐々に大きさを増し、内に秘めた欲望を白日の下に晒していく。

 Armament Panelのランプは既に点滅していた。ARMEDと表示されたソレは、武装が準備状態である事を示している。ウェポンセレクトダイヤルはロケットを選択しており、MFD(マルチファンクションディスプレイ)に残弾数、射撃可能である、『READY』の文字が躍った。

 

 どうせ撃墜されるのなら――いっその事、破滅的で、派手な一発でも撃ち上げてやろう。

 

 パイロンにぶら下げたロケット弾、これを対面で全弾発射すれば一発位は命中するかもしれない。

 一度の交差に全てを賭ける、もし外れたら最悪体当たりでも何でもして、諸共爆散してやる気概があった。

 その時打ち上がる花火は、それはもう強烈で、鮮烈で、素敵な(破滅)になる筈だ。

 

「くひひっ!」

 

 額に滲む汗をそのままに、モエは引き攣った笑い声を漏らした。その末路を想像するだけで、得も云われぬ快楽が全身を突き抜けた。

 仲間達が搭乗していたのならば多少消極的な方針に秤が傾いたかもしれないが、生憎と今は一人だ。制止を叫ぶ者も、失敗した代償も自身のみに帰結する。

 

 それに、フラストレーションも溜まっていた。連中が為した事を、モエは十全に理解している。一矢報いてやらなければ、此方も溜飲が下がらない。引くに引けない感情があるのだ。

 モエの指先が『Arm・Safe』と表示されたスイッチを『Arm』に切り替えると、ARMEDランプが点滅状態から点灯状態に切り替わる。

 後はサイクリック(操縦桿)を握り締めた指先、掛かったトリガーを引き切れば弾頭は射出される。無誘導のロケット弾である為、半押しで照準を固定する必要も、レーザー照準の必要も無い。

 後方を振り返り、まだ視界に捉えられない敵機を想う。HUDに表示された赤い三角形は決して離れない。

 モエの舌が唇を湿らせ、緊張から心臓が早鐘を打つ。紅潮した頬は、これから為す一世一代の大博打に対する期待と興奮、そして確かな戦意から来る熱そのもの。

 彼女は大きく息を吸い込むと、頬を流れる汗を弾けさせ、叫んだ。

 

「さぁ、派手に一発、お見舞いして――ッ!」

『――えるか、RABBIT――……』

 

 しかし、彼女が大きくサイクリックを傾けるより早く、耳元のヘッドセットから誰かの声が聞こえて来た。

 返答は無いものと決めつけていた彼女の瞳は見開かれ、トリガーに掛かっていた指がピクリと固まる。

 そんな彼女の鼓膜を、再度警告音でも、ローター音でもない声が叩く。

 

『――聞こえるか? 応答しろ、RABBIT3』

「……誰?」

 

 モエが発した声には、多分に困惑が含まれていた。通信パネル(COMM PANEL)を一瞥すれば、周波数ダイヤルは先程使用していた時のまま、RABBIT小隊が使用していた周波数が用いられている。無線受信中のRXランプが点灯していた、この通信は――地上からだ。

 怪訝な表情を浮かべつつ、モエはPTTボタンを押し込み、応える。

 

「……これ、一応私達の部隊が使っている周波数なんだけれど?」

『――繋がったか、半分賭けだったが上手く行ったようで何よりだ』

「こっちの質問はガン無視? 悪いけれど、今悪戯に構っている余裕は――」

『時間が惜しい、周波数はこのままデータリンクを実行する、確認しろ』

 

 モエが舌打ち交じりに悪態を吐けば、MFD越しに『DATA LINK』の文字が見えた。ランプが点灯し、モエは殆ど反射的にデータリンクメニューより最新メッセージ(RECENT MSG)を選択肢、受信した位置情報を一瞥していた。この動作は、最早呼吸に等しい、彼女の無意識の内の所作だった。

 

『たった今位置情報を共有した、場所はD.U.とアビドス自治区境界線付近、そこから僅かに南下した地点、詳細はFMSに表示される筈だ――そのポイントに後ろの追手を連れて来れば、此方で対処(撃墜)する』

「はっ? 何、対処!?」

『何とかポイントまで辿り着け、RABBIT3――君の腕前なら、出来る筈だ』

 

 唐突な展開に、モエは逡巡する。そこには多分に困惑と焦燥が含まれ、小刻みに機体を揺れ動かしながらも、思考は急速に回転していた。

 そもそも何故此方の周波数を知っているのか、クラックされた? 対処すると云うが、つまりこのポイントに対空兵装があって待ち構えているという事か。下手をすれば、此方も撃墜されかねない、そもそもコレが敵の罠でないという保証もない。

 脳内で並び立つ要素は、全て不安なものばかり。当然だ、こんな唐突な通信を信じられる馬鹿が何処にいるのか。考えれば考える程、このポイントに向かう理由はなくなっていく。

 

「普通に考えてさ、敵か味方かも分からない通信の内容を鵜呑みにするとか、ヤバ過ぎでしょ?」

『………』

「でも、このまま何もしないで逃げ続けても破滅的な未来は変わらなさそうだし……」

 

 そう、このまま逃げ続けようと、特攻しようと、分が悪い事に変わりはない。

 モエは笑みを漏らし、FMSよりルート設定を選択、MFD上に赤いルートが伸びる。HUDには目的ととなるポイントと距離、そこから到着予定時間が表示された。

 

「良いよ、乗ってやろうじゃん――ッ!」

 

 叫び、再度警告音(アラート)。背後からロックオンされ、ミサイルが射出される。サイクリックを倒し、慣れた手つきでAN/ALE-47ディスペンサーの操作パネルを叩く。フレア発射ランプが一瞬点灯し、ボンッ! という小さな爆発音と共に機体後方へと煌めく閃光が三度射出された。機体は大きく弧を描き、モエの視線がディスペンサーパネルを見た。表示されるフレア残弾数は心許ない。

 指定されたポイントまで、躱し切れるかどうか――いや、躱し切る。

 モエは回避行動を続けながら、ヘッドセットに向けて叫ぶ。

 

「その代わり、名前くらい教えて欲しいんだけれど!?」

『……そうだな』

 

 返答は、僅かな詰まりを見せた。荒い音質の中では、その声に含まれた色を正確に読み取る事は出来ない。しかし僅かであっても、逡巡する声の中にモエは懐かしさや、確かな親愛の情を見出した。

 

『再会は濡れ衣を晴らした上で、もっときちんとした形が望ましかったのだが、こんな状況では選り好みもしていられないか』

「何、もしかして面識あったりする訳?」

『面識どころか、共に厳しい訓練を潜り抜けた仲だ』

「……はっ?」

 

 厳しい訓練? モエはその一言に一瞬意識が空白に呑まれる。激しいローター音の中でも、不思議と彼女が口にしたそれは、ハッキリと聞こえた。

 つまりこの通信相手は、元々SRTに所属していたという事を明かしたも同然で。

 

『何、気にする必要は無いぞ、RABBIT3』

 

 先程とは異なる、柔らかさを伴った声。それは丁度、合同訓練で力尽き、泥と共に地面にへばりついていた自分達に手を伸ばす、上級生(先輩方)の姿を想起させ。

 僅かに漏れた吐息と共に、通信相手(彼女)は告げた。

 

『――後輩(RABBIT)を助けるのは、先輩(FOX)の務めだからな』

 

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