ブルーアーカイブを、もう一度。   作:トクサン

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誤字脱字報告に感謝~!
昨日はイベントをプレイしていたので、一日遅れましたの!
今回は約一万六千字ですわ~!


それぞれの存在証明

 

【シャーレ爆破直後、各自治区にて】

 

「会長!」

 

 ミレニアムタワー上層、セミナー区画――執務室。

 セミナーの役員が集うその場所に、飛び込んで来る人影があった。それは自動ドアが開くと同時に室内へと転がり込む様にして入室し、額に滲んだ汗を拭う事もせずに声を張り上げる。

 

「ヴェリタスから、しゃ、シャーレで爆発が起きたって……ッ!」

「えぇ、既に聞き及んでいるわ」

 

 部屋の中に響く人影――ユウカの声にいつもの調子と変わらぬ、寧ろ一層機械的な様子で応じた部屋の主、リオはデスク上のコンソールを操作しながら頷きを返した。

 血のように赤い瞳がジロリとユウカを一瞥し、そのまま再びモニタへと向けられる。

 

「まさか、あの盗聴癖がこんな風に役立つなんて」

 

 リオの呟きは小さく、ほんの僅かにだが驚きの色が滲んでいた。

 シャーレに異変が生じた事に、いち早く気付いたのはコタマであった。

 彼女の盗聴器が唐突に爆音を拾い、仕込んでいた複数の盗聴器が同時にシグナルロスト、突然の事に戸惑い慌てて先生に連絡を取ろうと試みるも繋がることは無く、仕方なくシャーレ周辺の情報収集を開始すれば――SNSやら掲示板やら、彼方此方で流れ始めたシャーレ爆破の情報。

 これに血相を変えてヴェリタスのメンバーへと情報を共有し、情報の真偽を確かめた彼女達からセミナーへと伝達されたという流れだった。

 

「す、既に聞き及んでいるって……」

 

 ユウカは淡々と、いつもと同じ冷静さを保つリオに対し愕然とした表情を浮かべると、そこから一転、怒りと焦り半々と云った様子で声を荒げ、詰め寄った。

 

「そ、それなら、何で直ぐに向かわないんですかッ!? こんな事をしている場合じゃ――!」

「落ち着きなさいユウカ、現地に駆け付ける前にやる事があるわ、ノア、ユウカと一緒にC&Cへ出動要請を、それとエンジニア部やAI研究部に緊急発進可能な航空機の有無、稼働可能なドローンの確認をして頂戴、状況が分からない以上動かせるものは搔き集めておく必要があるわ」

 

 何かを云い募ろうとするユウカ、その声を遮って直ぐ横のノアに視線を向けたリオは、端末を操作し詳細な指示と権限を彼女に送信する。振動し、電子音を鳴らす端末を一瞥したノアは、険しい表情のまま頷きを返した。

 

「分かりました、しかしリオ会長、D.U.上空の飛行許可は――」

「此方で何とかする、けれど万が一に備えて提出用の記録は万全に」

「……そういう事なら」

 

 短いやり取りではあったが、双方の思考は一致している。「行きましょうユウカちゃん」、そう云って彼女の腕を掴み、指示に従って動き出すノア。

 引かれた腕を一瞥し逡巡するユウカであったが、やるべき事があるという事実が多少なりとも彼女の理性を守った。「っ、わ、分かったわ……!」とぎこちなく頷き、二人は速足で執務室を後にする。

 その背中を見つめるリオは、内心で彼女の露にした不安に理解を示しながら、しかし何処までも冷徹に状況を観察する自分もまた自覚していた。

 確かに状況は不透明で、危機的ではあるが、以前とは異なる環境がネガティブな感情をシャットアウトしている。今のリオには気持ちや精神に、比較的余裕があるのだ。

 恐らく、その一番の理由は――。

 

「――ヒマリ」

『あら、少し遅かったですね、リオ』

 

 手にした端末、その中に存在するヒマリの名前をタップすれば、即座に通信が繋がる。コール音すら無かった、まるで此方から連絡が来る事を予期していた様な用意周到さ。否、実際に予期していたのだろう、この状況に於いて寧ろ連絡を取らないという選択肢は存在しない。

 端末よりホログラムモニタが投影され、画面越しにヒマリの顔が見えた。

 リオはコンソールを叩く手を緩める事無く、ヒマリに一つの要請を口にする。

 

「トキに出動指示を、行先はD.U.外郭地区シャーレ本棟、情報が足りていないわ、足の速い装備で固めて頂戴」

 

 ヒマリに要請するのは、トキの出動。

 現在彼女は要塞都市エリドゥの封鎖によりスペックダウンしたアビ・エシュフ、その調整と改良の為、現在ヒマリの下に身を寄せていた。リオが独自に研究、開発を進めていた兵器群はエンジニア部の目を大いに惹き、今では共同開発という名目でアビ・エシュフの装備開発、改修が頻繁に行われている。

 兎角、この状況では何よりも状況を把握する為に動ける人材が欲しい、C&Cにコンタクトを取ったのもその為だ。C&Cはフットワークも軽く、少数精鋭で即応性が高い、加えて個々人の戦闘能力も優秀である為、こういった任務でも即座に投入出来る。

 しかし、如何せん足が無ければどうしようもない――その点アビ・エシュフを装備したトキは機動性、火力、装甲、全てを兼ね備えている。単独での作戦領域突入も無理難題ではなく、アビ・エシュフそのものがトキを運ぶ足となる為、早期投入が望まれた。

 そんなリオの言葉に、ヒマリは悠々とした口ぶりで答える。

 

『――既に出撃しています、全く、初動が遅れていますよ』

 

 どうやら、要らぬ世話だったらしい。ヒマリは件の情報を受けた瞬間に、リオと全く同じ結論に至っていた。その事に決して表に出さないものの、微かな安堵を覚えながらリオは言葉を続ける。

 

「装備は?」

『高機動兵装に換装したアビ・エシュフ、エンジニア部協力の元半月前に完成した飛行型ですから、そこらの航空機を飛ばすより余程早く到着するでしょう、出撃したのは五分前です』

換装用コンテナ(パッケージ)の用意は?」

『現地換装用の武装コンテナも射出済み、状況が不透明の為通常兵装のコンテナを用意しました、妨害が無ければD.U.外郭地区のシャーレ本棟付近に着陸するでしょう、念の為コンテナ制御の権限はトキに譲渡してあるので、セルフコントロールで別の地点に降下する可能性もありますが、兎に角必要に応じて使い分ける様伝えてあります』

「――流石ね」

 

 此方が要請するまでも無く、彼女は完璧な形でトキを送り出していた。アビ・エシュフの機動力ならばそう遠くない内にD.U.へと辿り着くだろう。少なくとも通常の航空機に負けず劣らずな速度で。

 

『それよりも今回の介入について、ミレニアム側の連邦生徒会に対する建前(弁明)はどうするのです?』

「連邦生徒会へは六分前に二十一回の通信を試みたけれど、全て失敗したわ、D.U.の通信網が遮断されているのかシャーレも同様、ヴェリタスから繋げていたバックドアも機能していない――それ位は其方も把握しているでしょう」

『えぇ勿論、そうなると重要なのは正当性の証明ですね、其方は任せましょう……C&Cへの連絡は既に終わっていますね?』

「ユウカとノアを通じてコンタクトを取っている所よ、ついでにセミナーが保有する航空機以外も活用して、彼女達にもそのまま現場へと向かって貰うわ、必要があれば他の部活動にも協力を仰ぎましょう、今回の一件、セミナーだけで対処出来るかどうか極めて不透明だもの、安全策を設けましょう」

『……ふふっ』

 

 流れる様に言葉を紡げば、不意に端末の向こう側から笑い声が漏れた。

 リオが顔を上げて投影されたホログラムに視線を向ければ、其処には口元を隠し愉快そうに肩を上下するヒマリの姿がある。それを見たリオは訝し気に眉を顰めると、問うた。

 

「何かしら、ヒマリ?」

『いえ、何でも――フフッ、ありませんよ?』

「とても、そうには見えないけれど」

『気にしないで下さい、今回の件には関係のない事ですから、えぇ』

「……そう」

 

 ヒマリの声は楽し気で、それでいて興味深そうな声だった。弾んだそれに含まれた色はあからさまでさえある。

 しかし、リオがそれ以上言及する事はなく、ヒマリもまた明かすつもりなど無かった。恐らく彼女自身、その心境の変化には勘付いているのだろう。しかし、それを言葉にする事は無粋であるとヒマリは感じていた。

 尤も、それをリオ本人が聞けば、『言葉にしなければ分からない』と平気で宣うのだろうが。

 

『所でリオ、貴女は今回どう動くつもりなのですか? C&Cと一緒に現場に向かう予定で?』

「……えぇ、ただ少し遅れて向かうわ」

 

 ヒマリの問い掛けに、彼女はぎこちなく頷きを返す。

 一応、リオ自身も現場に向かう予定ではある。適材適所、後方支援が自身の得手であるとは理解しているが、それはそれとして事が事だ、直接目で見て指示を出す方が確実性は高いと判断した。

 何より今は、動かせる人材が多いという背景もある。生憎とミレニアムでは後方支援を得意とする生徒が殆ど故に、現場で指揮を執る者が少ない。

 

「ノアとユウカは直ぐにでも現地へと向かうでしょうから――流石にあの子を誰も居ないセミナーに置いてはいけないもの、戻って来るのを待って一緒に出発する予定よ」

『あぁ、それは、それは……』

 

 リオの返答に一瞬目を瞬かせたヒマリであったが、『あの子』というのが誰を指しているのか理解した途端、その瞳に納得の色が浮かんだ。

 何せセミナーに於いて一番の問題児だ、カジノでの一件もそうだったが――一人にした瞬間、何を仕出かすか分からないという一点に於いては同感であった。

 

『成程、道理ですね』

「そういう貴女は、ヒマリ?」

『生憎と私は可憐で儚い一輪の花ですので、後輩達と一緒に電子戦の用意ですよ』

「電子戦? けれど現在D.U.は――」

『あら』

 

 一瞬、疑問符を浮かべるリオ。しかし何かを云い掛けた彼女に対し笑みを零したヒマリは、指を一本立て唇の前に添えると堂々とした態度で断言した。

 

『――儚く気高い、私の様な美少女には秘密の一つや二つ、あるものですよ?』

「……そう、分かったわ、なら私が此処を離れた後、何か不測の事態が起きたら連絡を頂戴」

 

 彼女がそう云い切るのであれば、法螺ではないのだろう。何かしらの形で干渉する伝手があるのか、或いは元々備えていたのか。詳細は不明だが、少なくとも考えと手段があるという事だけは確かであった。

 追及しない事は、ある種信頼でもある。

 互いに良い面も、悪い面も、知悉しているからこそ。

 

「此方からは以上よ、通信を切るわ」

『リオ』

 

 通信を切る直前、ヒマリがリオの名を呼んだ。

 端末に伸ばした手を止め、ホログラムを見れば――真っ直ぐ此方を見つめるヒマリの姿があった。

 所詮は虚像であるが、そこに映る真剣な眼差しは、ホログラム越しであっても伝わるものがある。

 じっと此方を見つめ続けるヒマリは二度、三度、唇をまごつかせ、それから観念した様子で云った。

 

『――先生を、頼みましたよ』

「………」

 

 一瞬、リオは目を見開き、息を呑む。

 まさか彼女からそんな言葉を投げかけられるなんて、夢にも思わなかったから。

 互いを知り尽くしているからこそ、その衝撃は二重、三重にもなってリオを襲った。二秒、三秒と沈黙するリオであったが、ややあって我に返ると、どこか居心地悪そうにそっぽを向くヒマリに向かって返答する。

 

「えぇ、任せて頂戴――代わりに、私達(ミレニアム)の背中は任せるわ」

 

 声は詰まることなく、すんなりと口をついた。

 その事に、リオ自身驚く。

 自身のみで完結し、誰かに頼る事を善しとしなかった自分が、こうもあっさりと誰かに頼り、頼られる関係に終始している現実に。

 だがそれは想像以上に心地良く、彼女の背中に圧し掛かっていたあらゆる重圧が和らぐ様な、そんな感覚があった。

 ホログラムモニタ越しに口元を緩めたヒマリは自身の胸元に手を当て、仕方なさそうに鼻を鳴らすと、尊大に天を仰ぐ。

 

『当然です、私を誰だと思っているのですか?』

 

 放たれた言葉は自尊心に満ちていた。それは事実と数字に固執し、客観的な評価に基づき判断を下す自身(リオ)とは全く異なる在り方。

 彼女のそれは内より湧き上がる、第三者を介さない絶対の自信。

 瞳に決して色褪せる事のない煌めきを宿したヒマリは、どこまでも高らかに謳った。

 

『私はミレニアムの誇る全知、超天才清楚系美少女――明星ヒマリなのですから』

 

 ■

 

「………」

 

 その日、万魔殿は重々しい空気に支配されていた。

 設置された執務机に座り、今しがた提出された報告書に目を通す万魔殿のトップ――マコトは常と異なる厳格な気配を身に纏い、指先で紙面をなぞりながら眉間に皺を寄せる。

 彼女の目前に立ち、直立不動を貫く万魔殿の生徒は薄らと額に冷汗を滲ませていた。肘を突き、黙々と報告書に目を通すマコトの姿は妙に威圧的であったからだ。

 或いは、本人にその自覚は無いのかもしれないが、滲み出る気配は常と全く異なるものであり、普段のギャップもあり相応の貫禄があった。

 

「……この報告は」

 

 トン、と。

 彼女の指先が机を叩く。音は小さかったが、確かに耳に届いた。

 固く結んでいた口を開き、マコトは声を発する。紙面に落とされていた視線が、じろりと目前の生徒を捉えた。

 

「確かなのか? この内容、誤報では決して済まされんぞ?」

「は、はい、映像記録から音声まで、全て此方でチェック済みです、まず間違いないかと――」

 

 生徒は縺れそうになる舌を震わせ、何度も首を縦に振る。D.U.に存在する万魔殿情報部の事務所、そしてトリニティに潜伏する内通者から直接齎された報告と映像である。信じ難い代物であるのは事実だが、捏造や誤報の類ではない事は既に確認済みであった。

 それでも尚、余りにも唐突過ぎる事態にマコトは額を指先で揉み解し、その視線を横合いに飛ばす。

 視線の先には、マコトの傍で佇むサツキの姿があった。彼女は両手を握り締めたまま項垂れ、口を一文字に結んでいる。普段の溌剌とした様子は形を潜め、その眉は分かり易く顰められていた。

 

「サツキ」

 

 マコトが彼女の名を呼ぶと、サツキの顔が持ち上げられる。何とも悲壮感溢れる瞳がマコトを一瞥し、それから彼女は一つ頷いて見せた。

 

「……情報部長として、齎された報告に偽りはないと、そう断言するわ」

 

 そうか。

 返答は短く、簡素であった。

 しかしその端的な一言に、彼女の中にあった指針が一気に傾く気配があった。付き合いの長いサツキだけは、それを漠然とした感覚で察知した。数秒程沈黙を守った後、マコトは徐に立ち上がると、報告書を脇に退かす。

 そして卓上に置かれていた愛用の帽子を手に取ると、表面を何度か叩き深く被った。

 

「チアキとイロハを呼べ、今直ぐ用意出来る万魔殿の戦力を招集しろ、ただしイブキにはプリンをダース単位で与えて、この本棟から決して出すな、必要があればスヤスヤお昼寝マットと子守歌放送の使用も許可する」

「えっ、あ……は、はいッ!」

 

 靴音を鳴らしながら来客用の椅子に放っていた外套を掴み、矢継ぎ早に指示を出すマコト。そんな彼女に一瞬呆気に取られたサツキは、しかしふと我に返ると慌てて口を開いた。マコトが執務室を後にし、何処かに向かおうとしていたからだ。

 

「ま、マコトちゃん、何処に――」

「こんな状況だ、全く以て気に入らないし、業腹な上不愉快極まりないが――共同して事に当たる他あるまい」

 

 両腕で扉を押し開けたマコトは、振り返りながら答える。帽子のつばに覆われた目元が微かに光を灯し、サツキを捉えた。

 何処に向かうのか、そんなものは決まっている。

 マコトは表情を盛大に歪めながら、忌々しさと共に告げた。

 

「風紀委員会だ」

 

 ■

 

 万魔殿の護衛を幾人も引き連れ、廊下を歩くマコト。

 場所は風紀委員会の本棟、廊下を歩く生徒達はマコト達の姿に気付くと驚愕の表情を隠さず、慌てて廊下の端へと避ける。場所が場所なだけに当たり前の事ではあるが、すれ違う生徒の大半は風紀委員会の所属であった。

 脇に退けた彼女達の瞳に宿る色は、驚愕と疑念、そして困惑。風紀委員会を毛嫌いする万魔殿のトップが何故、こんな場所に? そんな疑問が言葉にせずとも建物全体に蔓延し、空気越しに伝わって来るようだった。そんな視線を不機嫌そうに受け流しながら、マコトは奥へ奥へと進んでいく。

 目的地は、風紀委員会の中央――委員長室だ。

 

「―――」

 

 肩で風を切り、堂々と歩くマコトはふと、正面から同じように歩いて向かって来る人影を認めた。

 その影もまた、正面から歩いて来るマコトに気付き、歩みを緩める。

 鋭い光を秘めた双眸がマコトを正面から射貫き、二名は廊下の只中で対峙した。

 カツン、と。

 靴音が廊下に木霊する。

 

「……空崎ヒナ」

「――マコト」

 

 正面から歩いて来たのは、アコとイオリ、そしてチナツの三名を引き連れた風紀委員長その人。全員が銃器を抱えており、当のヒナもまた愛銃を肩に提げて佇んでいる。

 彼女の纏う気配は常よりも何処か刺々しい所を孕んでおり、心なしか背後に控える三名の表情も強張っているように見えた。

 そんな風紀委員会の面々を一瞥し、マコトは鼻を鳴らすと――唐突に両手を広げ、羽織った外套を靡かせながら叫んだ。

 

「キヒャヒャッ! この万魔殿の主、羽沼マコト様が態々こんな黴臭い場所に足を運んでやったのだ! 盛大に喜び、平伏し、手厚く歓待する事を許してやろう!」

 

 廊下全体に、彼女の朗々と謳う様な文言が響いた。

 しかしその絶叫に対し誰も、何の反応を示す事無く、対峙するヒナは冷ややかな視線で此方を見据えるのみ。釣り上がったマコトの口元は張り付いた様に崩れる事無く、僅かな間、静寂が身を包む。

 

「――と、常ならば云いたい所だが」

 

 だが、それは所詮ポーズに過ぎない。三日月の様に釣り上がった口元は直ぐに引っ込み、一転して厳格な気配を纏ったマコトは、先程と異なる能面の様な表情でヒナを見下ろしていた。

 

「その様子だと、既にD.U.の情報は掴んでいるか」

「……えぇ」

「ククッ! 流石は元情報部、狗の様に這いまわって嗅ぎまわるのは得意という訳だ」

「御託は良い、手早く済ませましょう――遠征許可を」

 

 軽い嫌味も受け流し、ヒリ付く様な空気を身に纏ったヒナは端的に告げた。その表情の裏には、隠し切れない焦燥と苛立ちの色がある。

 遠征許可、即ちゲヘナ自治区外での戦闘を含めた活動の許可。

 それを真正面から求めるヒナに対し、マコトは敢えて歯を剥き出しにして笑うと、跳ね退けた。

 

「キキッ……! そう急くな、認識の擦り合わせもせずに自治区越境許可など、早々出せるものか」

「―――」

 

 マコトの返答は端的であり、冷徹でもあった。

 途端、ヒナの額に青筋が浮かび、ぶわりと全身から怒気が漏れ出る。

 彼女の羽織った外套が揺らめき、長く伸びた髪が微かに浮き上がった。正面に立つマコトへと叩きつけられる、莫大な戦意と敵意。目前の矮躯から湧き上がるそれは、さしものマコトでさえ肌が粟立ち、ビリビリと全身を打つ何かを感じた。

 背後に立つ護衛達が分かり易く浮足立ち、冷汗を滲ませながら愛銃に手が伸びる。しかしマコトはそれを察知し、軽く手を挙げ制止した。

 生憎と、この程度の敵意や悪意をぶつけられ、怯む程軟な道は辿っていない。力の塊と称しても良い程の圧力を前に、マコトは堂々たる態度を崩さず、寧ろ面白そうに眼を細めた。

 

「ひ、ヒナ委員長」

「委員長、落ち着いて……!」

「その、気持ちは分かりますが……」

 

 アコが不安げに彼女の名を呼び、イオリとチナツがヒナの背中に手を当て首を横に振る。今此処で万魔殿と事を構える事がどれ程時間のロスに繋がるか、加えてマコトの云っている事は正論だ、決して間違っている事を口にしている訳ではない。普段の嫌がらせや妨害行為は流石に擁護出来ないが、今回の件に関しては向こうに理がある。ヒナとて、それは理解している筈だった。

 

「――えぇ、分かっているわ」

 

 激昂しかけて尚、彼女は理性を失ってなどいない。マコトを睥睨しながらも小さく息を吸い込み、次いでゆっくりと吐き出す。感情をそのまま吐息として絞り出すような、そんな仕草だった。

 それから目を瞑り、二度、三度深呼吸を挟んだヒナは、先程よりも幾分か落ち着いた声色で言葉を紡ぐ。

 

「……シャーレが爆破されて、同時にD.U.全域の通信網がシャットダウンされている、外部から中の情報を探る事が出来ない状況で連邦生徒会とも連絡は付かず、現地の支部に駐在していた生徒とも連絡途絶――一部D.U.を脱した生徒からの報告によれば、カイザーコーポレーションがD.U.全域を包囲する形で私設軍隊を動員した様ね」

 

 目を瞑ったまま、努めて淡々と先程掴んだばかりの情報を並べるヒナ。ゲヘナの治安維持を目的として風紀委員会は存在しているが、情報部の拠点はあらゆる自治区に存在する。それは表立ったものから、秘密裏に活動する場所にまで。尤も、それは風紀委員会のみの話ではなく、万魔殿も同様であるだろう。そしてこのような情報拠点の存在は、各自治区に於いて暗黙の了解でさえある。

 

「細かい部分は抜いて、大体そんな所よ」

「十分だ、尤も万魔殿はそれに加えて、トリニティの連中が動き出したという情報を掴んでいるがな」

 

 付け加える様に放たれた言葉に、ヒナはぴくりと眉を顰めた。マコトは薄らとした笑みを貼り付けたまま、小馬鹿にした様子でヒナを見下ろす。僅かであっても多くの情報を有しているという事実が、ささやかな優越感をマコトに齎していた。

 

「トリニティが?」

「あぁ、ティーパーティーを構成する三大分派、傘下の正義実現委員会、救護騎士団、シスターフッド、果ては自警団まで――キシシッ! 時期が時期なら、ゲヘナに電撃戦でも仕掛けて来るつもりかと身構えただろう規模でな」

 

 これはトリニティの内通者から齎された報告だ、それもつい先程。

 表情は愉快だとでも云いたげであったが、その口調は全く以て厳かなものであった。相変わらず、彼女の情報網は凄まじい。どのようなルートを伝って構築したのか予想出来ない程に。犬猿の仲とも云えるトリニティ内部にまで手が伸びているというのだから、その凄まじさに拍車が掛かると云うもの。

 腕を後ろに回し、胸を張るマコトは視線を逸らしながら続ける。

 

「どうもトリニティの連中、数千どころか、万に届く軍勢をD.U.に差し向けるつもりの様だ、どれだけ早く情報を掴んだのかは定かではないが、僅かな時間で良くもまぁ搔き集めたものだと感心する――それだけ今回の件を重く捉えているのだろうが、生半な覚悟ではあるまい」

「……なら、この情報は」

「認めたくはないが、信憑性は高いらしい」

「―――」

 

 マコトはもう、笑わなかった。

 風紀委員会は齎された情報が事実かどうか、もし事実ならば即応出来る程度の部隊で急行するつもりだったのだろう。しかし、トリニティは完全に本腰を入れている――正に今から戦争を仕掛ける様な規模と勢いで。

 尤も、本気になればこの数倍以上の数を揃えて来るだろうが、情報を入手して一時間そこらの状況と考えれば、恐ろしく素早い動きだと思った。

 少なくとも、トリニティがそれだけの動きを見せる理由があるのだと、マコトは確信している。

 

「万魔殿も先程議員に招集を掛けた、準備が整い次第D.U.に向かう、風紀委員会は先立って情報収集に当たれ、そのまま事態を収拾可能だと判断したのならば、戦闘に突入しても構わん――面倒だが事後処理は此方が受け持ってやろう、地に頭を擦りつけて感謝しても良いぞ?」

「マコト議長、それは随分と、此方に都合の良い話ですね?」

「優先順位だ、背に腹は代えられん」

 

 一歩踏み出したアコの疑念の混じった声に、マコトはそっぽを向きながら答える。此方としても不本意極まりないと、そう云わんばかりに顔を顰める彼女であったが、使える手を使わずに事態を悪化させる事が如何に間抜け極まりない事か、身に沁みて知っていた。

 ましてやその対象が唯一無二であるのならば尚更、なりふり構ってはいられない。

 

「理解しているとは思うが最優先はシャーレの先生、その安全確保だ、それ以外は些事に過ぎん、貴様らが全滅する様な目に遭おうと必ず保護しろ、良いな?」

「トリニティの部隊と鉢合わせた場合は」

「交戦は避けろ、今の状況で潰し合っても何の利益にもならん、此方からも外交ルートを通じて最低限の緩衝材は敷いて置く、ただし――向こうがこんな状況でも分別の無い、文字通りの『鳥頭』ならば話は別だが」

「……分かった」

 

 認識の擦り合わせ、一通り言葉を交わし終わったと判断したヒナは、その場で踵を返し冷徹な声で指示を出す。外套の裾が靡き、退いた部下達の間を縫って彼女は来た道を戻った。

 

「部隊を再編成する、最低でも対自治区規模の数を集めて、それから出撃準備を、全員の準備が整い次第出るわ」

「わ、分かりました……!」

 

 慌ただしく去っていく風紀委員会、先頭を行くヒナにイオリとチナツが続き、最後にアコがまるで不気味なものでも見る様な瞳でマコトを一瞥し、ヒナの背中を追い掛け去っていく。

 

「――ふん、戻るぞ」

「ハッ!」

 

 去り行く風紀委員会の背中を見送ったマコトは、不機嫌そうに瞳を細め、同じように踵を返した。左右に退き、道を作る護衛の間を堂々と歩く。

 そのまま風紀委員会の本部を後にすると、丁度ひらひらと降る雪の中、気怠そうに此方へと向かって歩く小柄な影が見えた。

 ヒナとは異なる、赤い髪が左右に揺れ、寒そうに身を縮こまらせた彼女は帽子のつばを指先で押し上げ、時折吹き付ける風に顔を歪める。その見知った姿に、マコトは向き直ると声を上げた。

 

「イロハか」

「はぁ……招集が掛かったという話でしたけれど、風紀委員会の所に態々足を運ぶなんて、もしかして明日は嵐だったりします?」

 

 呟き、イロハは困惑と疑念、そして倦怠感の滲む表情でマコトを見る。

 大抵、彼女が嫌々ながら風紀委員会と関わる時は、使いを遣るか執務室に呼び出すかのどちらかだ。自ら風紀委員会の縄張りに踏み込むなど、マコトらしくないと思った。

 正面玄関から外へと踏み出し、薄らと降り積もった雪を踏み締めながらイロハの元へと歩み寄ったマコトは、真剣な面持ちのまま自身の部下を見下ろす。普段とは異なる、やや棘のある気配を纏う彼女を訝し気に見つめながらも、イロハは普段の調子を崩す事無く問うた。

 

「それで? マコト先輩、こんな寒い中招集なんて掛けて、一体今度は何をやらかして――」

「超無敵鉄甲虎丸は出撃可能か、イロハ?」

 

 面倒そうに問いかけるイロハの声に被せて、マコトは聞いた。声の調子は普段と変わらなく、相変わらず壊滅的な呼び名に顔を顰め、溜息を零しながらも――イロハは曖昧に頷いて返答する。

 マコトが人の話を聞かない事は、何も今に始まった事ではないと。

 

「まぁ、整備は常にしていますし、簡単な車両点検と搭乗員の準備さえ整えば、直ぐに出撃出来ますけれど」

「ならば直ぐに準備を済ませろ、動かせるモノは全て出せ、万魔殿の歩兵と統合して装甲部隊を編成する」

「えぇ……?」

 

 胸を張り、超然と宣言するマコトに対し、イロハは辟易とした様子で肩を落とした。どうせまた、突拍子もない事を考えたのだろうと、そんな彼女の思考が態度に現れていた。

 万魔殿の保有する戦車、その内で直ぐに動かせるモノと云っても、その数は優に百を超える。此処から多少時間を掛ければ千、二千と増えていき、それらを一斉に動かすとなると必要な労力は一体どれ程か。

 勿論出撃してハイ終わりではない、帰還したのなら帰還したで、そこから整備作業が待っている。燃料の補給やオイル、冷却液の確認にエンジン点検、武装をチェックして無線装置が正常に動作するかテストして、履帯の状態確認や緩みの調整、サスペンションチェックなどを済ませ――等と非常に、それはもう非常に面倒なのだ。

 自身の仕事が倍々に増えていくのは目に見えている、イロハは酷く疲れた表情のままマコトの意図を探る様に口を開いた。もしこれがまた、単なる思いつきであるのならば、流石に洒落にならないから勘弁して貰おうと。

 

「動かせる車両全部って、何ですか、遂にトリニティと戦争でも起こすつもりですか? やめて下さいよ面倒くさい……それにそんな事して、今度こそ先生に怒られても知りませんよ、先輩」

「その先生が居るシャーレが先程吹き飛んだ、今から救出に向かう、つべこべ云わずに準備をしろ、イロハ」

「……?」

 

 イロハの肩を軽く叩き、何やら重大な事をさらりと云ってのけたマコト。

 イロハは一瞬何を云われたのか分からないといった様子で目を瞬かせ、それから自身の脇を抜けて歩き出したマコトを視線で追い、腹の底から響く様な声を上げた。

 

「――……は?」

 

 ■

 

「ふぅーッ」

 

 大きく息を吐き出すと、白く濁った息が腕に掛かった。

 グローブ越しにタレットを弄るミヤコは、最後に背嚢からバッテリーユニットを取り出し、動力ポートに接続する。するとタレットのジンバル部分が音を立てて駆動し、回転を始めた。

 制御端末を確認し、タレットのカメラ機能が周囲をスキャンしている事を確認、脚部のペグがきちんと撃ち込まれている事も確かめ――タレットの設置が無事終わった事を実感し、胸を撫でおろす。

 

 これで、此処一帯にタレットの防衛線を構築する事が出来た。少なくとも、簡単に突破される事は無いだろう。

 タレットの使用弾薬は5.56mm、ミドルサイズで装弾数は二百発、弾薬ボックスの中身を入れ替える事で再装填は可能だが、恐らく戦闘中に各陣地のタレットを再装填する事は難しいだろう。

 人数がもっと居れば可能であった筈だが、恐らく前線のタレットの殆どは使い捨てる形になる予想だった。

 その為、少しでも長く運用できるようフルオートに於ける射撃は制限し、バースト射撃による継続戦闘能力を高める。微々たる努力ではあるが、間欠的に敵が現れる状況であればタレットだけでも十分程度の継続運用が出来る筈だった。

 

「……雪、止みませんね」

 

 タレットの起動を見届け、端末を握ったまま曇天を見上げるミヤコは、小さく呟きを漏らした。

 降雪は設置したトラップの類を視認し辛いものにするだろう、だが同時に自分達のパフォーマンスもまた、寒さによって低下する事が懸念される。

 カイザーコーポレーションの兵士、その殆どはオートマタだ、単純な身体的な面だけを考えると、メリットとも、デメリットとも断じ難いものがあった。

 

「――先生」

 

 振り返り、後方のテントで安静にしている筈の先生を想い、名を呼ぶ。

 無論、返答が返って来ることは無く、姿が見える事も無い。彼女の視界に映るのは、薄らと雪が積もった地面と樹々、茂みに隠れたタレットのみ。

 それはただの感傷であった、或いは彼女の内に押し込んだ不安の顕れとも云える。この一戦で、先生の結末が変わると云っても過言ではない。

 そう考えるとやはり、何とも抗い難い重圧を感じてしまう。

 

「……!」

 

 不意に、握り締めた端末に振動があった。

 同時に鳴り響く電子音、見ればキャンプ周辺に新しく設置したセンサーに反応。

 それが意味するところは、明確だった。

 

「遂に、来ましたか」

 

 時間切れだ。

 

 強張り、緊張の滲む声が口から漏れた。

 端末の時計に視線を落とせば、先生と共にキャンプへと避難してから、凡そ一時間程が経過している。事前準備の時間としては、十分に稼げた方だろう。

 程なくして、身に着けたインナーイヤー型のヘッドセットから声が響く。

 

『ミヤコ……いや、RABBIT1』

 

 送り主はRABBIT2(サキ)、彼女の纏う気配が作戦中のものに切り替わった事を感じ、ミヤコもまた全身が引き締まる様な感覚を認める。

 立ち上がり、肩に提げていた愛銃に指を添えたミヤコは、端末を見下ろしながら小走りで移動を開始した。

 

『どうやら招かれていない客人が到着したらしい』

「はい、此方でも確認済みです」

 

 頷き、画面に表示される赤い反応を瞳でなぞる。しかし、それは続々と増えていき、軈て公園一帯を覆い隠してしまう程の数へと膨れ上がった。

 敵性反応はぐるりと公園の周辺を囲っている、完全に包囲するつもりのようだ。子ウサギ公園はかなりの広さを誇っているが、全ての退路を塞ぎ、包囲するとなると百や二百では不足だろう。

 敵の数が膨大である事は理解していたし、覚悟していた――だが画面全てを覆い尽くす様な反応の多さには、さしものミヤコでさえ苦り切った声を漏らす。

 

「……私達の予想よりも随分と、大軍を率いて来た様ですが」

『あぁ、数えるのが馬鹿馬鹿しくなるな――だが、何とか準備は間に合った』

 

 各防衛戦に設置したタレット、仕掛けたトラップ、時間と資材の許す限り設けたそれらは、多少なりとも連中の数を削いでくれる事だろう。

 遠くから、ヘリの空気を叩く様なローター音が響いていた。当然、敵も航空支援の用意がある。

 ミヤコは曇天の先から響くそれを耳にしながら、端末を通じて各地に用意していた防衛装置を順次起動していく。それは通信のジャミングであったり、対空兵器であったり、或いはアンチドローンであったり、様々だ。

 一通りの迎撃準備を整え、ミヤコは二人に問い掛ける。

 

「RABBIT4、配置は?」

『此方RABBIT4、準備は完了しているよ……!』

「RABBIT2」

『万端だ』

 

 呼びかければ、両名より明瞭な返答があった。それぞれ割り振られたポイントの防備を固める仕事は、何とか間に合った様だ。ミヤコは端末に公園の全体図を表示させながら、設置されたトラップやタレットの反応を確かめる。画面をタップすると、公園内にポツポツと、緑色の反応が浮き上がった。

 

「トラップの起動タイミングは各配置の隊員に一任します、今回は情報支援、オペレーターを担当するRABBIT3が不在の為、いつも以上に慎重な対応を心掛けて下さい、RABBIT2は正面よりタレット群と共に火線を担当、RABBIT4は後方の森林地帯より支援を、前線が押し込まれた場合は攪乱し、その後主防衛陣地に退避して下さい、私は敵方の侵入経路(ルート)が確定するまで、念の為後方の警戒に回ります」

『火線が突破された場合は、プランDで良いんだな?』

「えぇ、ただ壊されるよりはマシな筈です」

 

 プランD――各タレットの傍には爆薬が設置されている。敵に突破を許した場合は、それを一斉に起爆し諸共屠る手筈であった。原始的なトラップではあるが、残弾がある状態で無力化された場合は弾薬にも引火し、相応の被害を齎してくれる事が期待出来る。元々前線のタレットは後退と同時に破棄する予定だ、一人でも多く削れるのであれば御の字だ。

 

「詳細な動きは伝えた作戦通りに、宜しいですね?」

『了解した――それと、RABBIT1』

「……?」

 

 話し終えたミヤコが作戦開始を告げようとした瞬間、サキが声を被せて来た。

 彼女は数秒程間を空けると、云い辛そうに口を開く。

 

『こんな事は考えたくもないが、万が一敗色濃厚とお前が判断、或いはそれに準ずる状況に陥った場合――』

 

 あまり、想定したい様な状況ではない。

 しかし決してあり得ないと断言するには現実的な予測でもある。故にサキは、それに備えて一つの提案を口にした。

 もし自分達が突破される様な、絶望的な状況に陥ったのなら。

 

『私達は反転攻勢に転じ、何としても戦線に穴を空けてやる――だから、お前が先生を連れて子ウサギ公園を脱出しろ』

「っ……!」

 

 最悪の事態に備えた、最後の手段。

 それを耳にしたミヤコは一瞬言葉を詰まらせ、黙り込む。考えていない訳ではなかった。しかし実行するには問題が多く、可能性の低いソレに賭ける気にはなれなかったのだ。

 

『私達の勝利条件、その本質は此処で負ける事じゃない、先生を奪われる事だ』

『サキちゃん……RABBIT2と相談して決めたんだ、ほ、本当にどうしようもなくなったら、そうしようって』

 

 ミユが恐る恐ると云った風に言葉を紡ぐ。通信越しであっても、彼女の恐怖は手に取る様に分かった。どうやら、事前に二人で取り決めていたらしい。万が一自分達が突破された場合、二人を捨て石として脱出を図る。突破出来る可能性は限りなく低い、しかし最後の最後――本当にどうしようもなくなったのなら、選択肢の一つではある。

 それは個人の感情を抜きにして考えれば、合理的判断ではあった。

 しかし、ミヤコ個人にとしては――。

 

「で、ですが、それでは二人が……」

『勿論、負けるつもりは無い、そもそもたった二人でこの人数を突破する事自体、現実的じゃないからな、だからこれはあくまで万が一の話だ、その前に救援が到着すれば問題ない』

 

 けれど、最悪の事態は常に想定しておくべきだろう。

 続けて放たれたサキの言葉に、ミヤコは反駁の言葉を持たない。正しいと、そう思ってしまったからだ。実際に可能かどうかは兎も角、追い詰められた時に残された選択肢として取る覚悟があるかどうか、その一点に於いて彼女の言葉は正しい。

 その苦悩を察したサキは小さく吐息を零し、柔らかな口調で告げる。

 

『だから……頼むぞ、ミヤコ』

『もしもの時は、先生をお願い、ミヤコちゃん』

「―――」

 

 二人から投げかけられた言葉(願い)に、小さく歯噛みする。

 僅かな間答えに窮したミヤコは、ややあって息を吸い込み、答えた。

 

「……分かりました」

 

 声は小さく、力なかった。

 そう答える他無かったのだ。

 

「ですが私達なら、きっと大丈夫です……絶対に、勝って見せます」

 

 口から零れた言葉は、余りにも頼りなく思えた。それは虚勢か、単なる願望に過ぎない。しかし、最初に意志が無ければ結果は生まれないのも事実だった。ミヤコはその様な結末を望まない。

 だからこそ、勝たなければならない。

 是を非としても。

 

 ――諦めません、最後のその瞬間まで。

 

 肩に提げた愛銃を手に取り、ミヤコは挑む様に曇天を睨みつける。

 降り続ける雪は、少しずつ、ほんの少しずつ勢いを増していた。雲に覆われた陽光は見えず、夜には吹雪いて来るかもしれない。

 肩に薄らと張り付く雪をそのままに、彼女は白の中に紛れる様にして駆け出す。

 遠方より聞こえて来る車両の駆動音、ヘリのローター音、確かな喧騒に負けないよう、彼女は声を張り上げ告げた。

 

「RABBIT小隊――出撃します!」

『了解!』

 


 

 本当は昨日投稿するつもりだったのですが、イベントのプレイ時間を確保する為に一日遅らせて頂きましたの! 遂にセイアちゃん来ましたわね……三人で囲うティーテーブルはまた、格別ですわ。

 っていうかセイアちゃんネルに自己紹介する時、「ティーパーティが一翼、百合園セイアだ」って云っていましたけれど、なにそれ格好良いって思いましたわ~! これってナギサ様とかミカもやっているんでしょうか? それともセイアだけ? 流石にこの自己紹介スタイルが標準って事は無いですわよね? もしかして私が忘れているだけで本編でも似たような事云っていたのかしら…。

 

 あと報酬交換画面でセイアちゃんにタッチすると、「そうして君が伸ばした手は、私の手を拒まない事を意味するのだろう?」って云ってくれるんですけれど、これがねぇ、凄く良いんですわよ。

 これってつまり、「君が私に手を伸ばし、こうして触れたという事は、其処に親しみ(好意)を秘めているからだろう、ならば此方から手を伸ばしたとしても、君はきっと受け入れてくれるのだろうね(意訳)」という事だと私は解釈したんですわよ。

 なんて美しいんですの……素敵、背後でミカが拳握ってガン見してそう(小並感)

 

 リオの隠れ家でロボ犬を撫でるセイアちゃんも可愛らしいですわね。お腹に飛び込んで来たロボ犬を笑顔で受け入れていましたが、いつか「そんなロボ犬なんかに負けていられないッ! シャァッ!」って先生に四つん這いでセイアちゃんのお腹に突撃して貰いたいですわね。まぁ四つん這いになるには腕と足が一本ずつ足りないんですけれど…ガハハ!

 

 後はリオ、リオですわよ! 今の所ミレニアムの生徒全員の情報把握しているとかいうトンデモ発言出ちゃっていますし、内面を察せられるやりとりや軸となる情報が少なすぎて辛いので、それを補完できるストーリーを切望していますわ~! でもネルとはまだ付き合いが続いている様で安心しましたわ、良かったね……。

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