ブルーアーカイブを、もう一度。   作:トクサン

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誤字脱字報告に感謝ですわ~!


人と機械の形

 

「……何故こんな辺鄙な場所に、これだけの部隊を動員したんだ」

 

 人気のない子ウサギ公園、その出入口付近に屯するオートマタの一人が不意に呟いた。直ぐ脇には何台もの輸送車が並び、中から弾薬やら何やらの運搬が始まっている。上空を仰げば降り注ぐ雪に紛れ、攻撃ヘリのローター音が響いていた。尤も公園内部には対空準備が為されている様で、あまり近くまで寄る事は出来ないそうだが。

 

 改めて見回せば、こんな寂れた公園一つに攻め込むだけで、過剰とも云えるオートマタ達が集結している。一つ一つの影が忙しなく駆け回り、公園を囲む公道には等間隔で装甲車と兵士が並び、鼠一匹通さないと云わんばかりの気概を感じた。

 その殆どはジェネラルがカイザーコーポレーション本社より招集した本隊との事だが、シャーレでの作戦に従事していたカイザーPMCのオートマタもまた、数多く参戦している。

 それらを見渡しながら、腕に抱えた銃火器を揺らしオートマタは肩を竦める。彼もまた、外周部よりシャーレに派遣され、そのまま此方に流れた兵の一体であった。

 

「本隊の半分以上を連れて来たって話だが、これだけ数を集めた理由があるのか?」

「あぁ、何でもシャーレの先生を救出した部隊が此処に隠れているらしいぞ」

「は? こんな、何もない公園にか?」

「情報班からの報告では、そうらしい」

 

 隣り合ったオートマタ、彼と同じ様に外周部の防衛任務に就いていた同期であったが――彼は曇天から降り注ぐ雪を掌で受けながら、何でもない様子で答えた。周囲では忙しなく作戦準備が進められ、時折ドローンやカメラで内部を探ろうと試みている兵たちの姿も見えるが、どうにも上手く行っている気配はない。

 

「……なら態々こんな仰々しく包囲なんてせず、火砲か航空支援で公園諸共吹き飛ばせば良いだろうに、そっちの方が楽だろう?」

「プレジデントは目標の生け捕りをお望みだ、ジェネラルの目論見が外れたからな」

「何だよ、その目論見って」

「ジェネラルはシャーレ制圧と同時に、サンクトゥムタワーの制御権を手に入れる予定だったんだよ、だが失敗して、再取得には先生の持つ情報と承認、そしてタブレットが必要になった、諸共吹き飛ばしてしまえば、この作戦の根幹自体が揺らいでしまうって話だ」

「……なんだ、お前やけに詳しいじゃないか?」

「地下でジェネラルの警護を担当していた奴から聞いた、ソイツが特務出身だったんだ」

 

 訝し気に此方を見るオートマタに対し、もう一人は溜息交じりに云った。自分自身は末端の情報しか手に入れていないが、特務の、それもジェネラルの警護担当ともなれば得られる情報は段違いとなる。

 尤も、それを他者に共有する権限があるかと云われてしまえば決してそうではないが――真意不明の作戦に従事するのまた、相応のストレスがあったのだ。

 

「地下で? ジェネラルの護衛は全員戦闘不能になったって聞いたが、もう再起動した奴が居るのか」

「いや、フレームに被弾して、今も収容中だ、此処に移動する前に少しな、個人的な知古だった」

「……それは、御気の毒」

 

 何の外連味も無く放たれた言葉に、オートマタは口を噤んだ。ジェネラルの護衛を担当していた兵士達は、その殆どがフレームを圧し折られ、素体の乗り換えかフレームの換装を強いられていた。当然、それには相応の時間と費用が掛かる。少なくともこの作戦中の復帰は不可能だろう。彼の友人もまた、ハンガーに吊り下げられた状態で頭部と胸部フレームだけの恰好だった。

 

「それにしても、人間一人と少数の部隊を相手にこの規模か――外周部の応援を含めれば、旅団規模になるんじゃないか? 少なくとも五千以上は居るだろう、これは」

「あぁ、尤も包囲網形成で大分数を取られている、突入部隊は精々数百か、多くて千前後になる見通しだ」

「十分だろう、どうせ相手は十数人も居ないんだ」

 

 公園の敷地はそれなりに広く、包囲には相応の人数を割かなければならないが――だとしても、十分すぎる人員が此処には居る。どう考えても此処に籠っている連中に勝ち目はないと断ずる事が出来た。

 寂れた公園を見つめながら、オートマタは僅かな憐憫を込めて告げる。

 

「同情するよ、シャーレの先生とやらには」

「……それでも、相手は本棟防衛に当たっていた部隊を出し抜いている、大抵が自分達と同じPMC上がりとは云え、中にはプレジデントの直轄部隊から配属になった兵も居るって話だ、油断は出来ないぞ」

「あぁ、分かっているよ」

 

 手練れに違いはないのだろう、しかし圧倒的な数を前にはどのような手練れも霞むというもの。たった数名のグループで何が出来るというのか。

 そんな言葉を交わしていると、不意にオートマタ達のフェイスモニタが点滅した。内部通信に於いて特定の音声ガイドが流れ、二人は後方を振り返る。

 

「――合図だ」

 

 オートマタの一人が電子音声を発した。ブリーフィングを行う旨の通知が視界に浮かび上がり、気怠そうに歩き出す両名。同じように屯していた兵士達が、続々と公園入口へと集結し始めた。

 

「ジェネラルがしくじった分、精々此方で巻き返さないとな」

「……全く、世知辛い話だ、上官の尻拭いを部下がするなんて」

「云うな」

 

 ■

 

「――此方RABBIT2、来たぞ、正面からだ」

 

 土嚢に張り付き、双眼鏡を覗き込んだサキは視界に映るオートマタの一団を注視しながら、ヘッドセットのマイクに向かって呟いた。公園入口から少しばかり離れた位置に設置した前方陣地、最前線となるその場所で、複数のタレットと共に木々や茂みの合間から敵勢力を見据えるサキは、立て掛けていた愛銃を足先で確認しながら、鉄帽を深く被り直す。

 

『正面ですか、最初に裏を突いて来るかと思いましたが、予想が外れましたね』

『向こうの方が数は圧倒的有利だし、真正面から当たっても問題ないって思われたの……かな?』

「可能性はある、どうせ適当に戦ったって、負ける筈が無いと高を括っているんだろう」

 

 サキの声には、隠し切れない怒りが滲んでいた。

 前方陣地からスコープや双眼鏡を使用して辛うじて視認出来る程度だが、連中の軍勢は確かに凄まじい規模を誇っている。少なくとも、たった三名で籠城している部隊に差し向ける様な数では無い事は確かだ。

 傍から見れば弱い者いじめ以外の何者でもなく、楽勝と思われても仕方ない。

 だが、此方とて早々にやられるつもりなどない――その鼻を圧し折ってやると、サキは一層鼻息荒く意気込む。

 

『RABBIT2、侵入して来た敵の数は?』

「十、二十……凡そ三十か、周辺を包囲している規模と比べると随分少ない」

『その数なら恐らく威力偵察でしょう、此方の防衛力や装備を把握する意図がありそうです』

「あぁ、こっちのジャミングでドローンは使えない筈だし、そうなれば直接人を出して探りを入れる――当然の判断だ、慢心しているとは云え、この手の手順は踏むらしい」

 

 オートマタは正面入り口を進み、整備されていた公道を暫く進み続けると、周囲を警戒しながら森林地帯へと踏み入った。子ウサギ公園は補修されている部分と、そうではない部分の差異が激しい。一部芝生や樹木は全く手入れされておらず、茂みやら雑草やらが生え放題となり、雑木林と成り果てている区画が所々存在した。

 RABBIT小隊が構えた前方陣地は正面入り口より雑木林を抜け、数十メートル程進んだ場所に構えられている。樹々や茂みに紛れ、途切れ途切れとなる相手の姿を目視しながら、サキは愛銃をそっと手に取る。

 冬となり枯れ枝や枯葉の募った地面に、オートマタ達の足跡が点々と続いていた。

 

「後三十メートル前後で連中がトラップ地帯に入る、RABBIT1、追撃はどうする? 削るか、このまま潜伏するか」

 

 当然だが、公道に沿ったルートには全てトラップが仕掛けられている。あの雑木林にも、地雷からブービートラップの類まで満載だ。あの程度の数なら此方から何もしなくても、勝手にトラップで全滅するだろう。

 尤も、最初に地雷を踏み抜いた時点で撤退するか、ルートを変更する可能性は十分にあり得るが。

 敵に手の内を晒さずに様子を見るか、或いはトラップを踏み抜いた時点で攻撃を仕掛け全滅を狙うか。その判断を隊長であるミヤコに仰ぐ。

 

『少しでも数を削ぐべきです、此方から仕掛けましょう、迎撃ポイントEはタレットに任せ、そちらに合流します』

「分かった……RABBIT4、準備は」

『――うん、もう狙っているよ』

 

 削れる内に削る、それもまた合理だ。それに情報を持ち帰られるのも面白くない。

 サキが返答に頷き、遥か後方――一キロ以上離れた森林地帯に潜むミユへと声を掛ければ、微かな金属と共に力強い返答があった。どうやら既にスコープ越しに捉えているらしい。

 一歩、一歩、偵察部隊と思われるオートマタ達は周囲を警戒しながら進み続ける。流石に音までは拾えないが、茂みや木の枝を丁寧に避け、払い、地面を踏み締める姿は正に慎重そのもの。しかし、地雷探知機の類は持ち込んでいない様だった。

 トラップを設置したエリアに踏み込むまで、目測で後二十メートルと云った所。サキは抱えた愛銃の安全装置を弾きながらグリップを握り締め、土嚢の上に愛銃を静かに乗せる。

 アイアンサイト越しでは聊か遠い距離だが、問題ない、自分の腕ならば十分に当てられる距離だと云い聞かせた。

 

「RABBIT4、トラップが発動して連中が浮足立った瞬間、十秒以内に其処から何人抜ける?」

『え? あ、えっと……』

 

 サキの唐突な問い掛けに、ミユはスコープ越しにオートマタ達の動きをトレースしているのか、数秒程沈黙を守ると、微かな身動ぎの音と共に答えた。

 

『多分、六人は倒せる……と思う』

 

 耳に届いた声には、僅かな逡巡があった気がした。

 初回のトラップで何名潰せるかは分からないが、爆発で連中の足が止まり、浮足立った間隙を突いての狙撃――ミユの返答は三十名中の六名、十秒以内で決着をつけると考えれば十分か。

 そんな風にサキが考えていると、ややあって訂正の声があった。

 

『ううん――やっぱり、七人』

「上出来だ」

 

 笑って、サキは引き金に指を掛けた。

 地雷で爆発が起こった後、ミユが確実に相手を削り、タレットと自分の掃射で一気に片を付ける。三十名程度であれば、可能な範囲だ。

 

「敵に此方の情報を与えたくない、ひとりも逃がすな、初手でトラップに掛かった後、残った敵を私達で掃討するぞ」

『りょ、了解……!』

「構えろ、そろそろ引っ掛かる」

 

 尤も、此方が声に出さずとも彼女は既に準備万端だろうが。

 サキの瞳が引き絞られ、オートマタ達の足はトラップエリアへと近付いて行く。

 こうして攻撃の機を伺う時間は、一瞬の様にも感じるし、永遠にも感じられる。訓練を行っていた時もそうだった――この手の感覚については恐らく、ミユが一番馴染みがあるだろう。狙撃手という役割から、長時間潜伏を余儀なくされるが故に。

 慎重に、一歩ずつ進むオートマタ達の足取りは緩やかではあるが、しかし終わりは必ずやって来る。

 サキの視線が細まり、脳内の設置ポイントとオートマタ達の現在位置が重なっていく。

 

「ポイントまで五、四、三、二、一……」

 

 記憶の中に存在する地点、あの雑木林は一定のラインから絶対に踏み込んではならない――そのラインを、オートマタ達は超える。

 

「接触」

 

 サキが小さく、乾いた唇でそう言葉を紡ぐと同時。

 先頭を歩いていたオートマタの一人が何かを踏み抜き、地面がカチリと音を立てた。

 その感触にオートマタが足元を見下ろすと同時――ポン、という小さな爆発音が響く。

 それは地雷を踏み抜いた音、しかしソコに埋められていたのは通常の地雷ではない。

 幸いこの雑木林周辺のトラップは浸水の影響を受けず、SRTより持ち込んだ時のまま据え置きとなっていた地雷だった。

 

 即ち、本来であれば流通しない様な特殊地雷――それも広範囲の威力を高めた代物。

 最初の爆発は敵を攻撃するものではなく、内部の跳躍用爆薬が作動した音だった。

 炸薬は本体のユニットを一から二メートル前後へと打ち出し、金属製の外殻に設置されていた全周囲センサーが瞬時に敵の方向をスキャンする。それは一瞬の青白い閃光にしか見えず、そして内部の爆薬が感知した敵の居る方向によって調整、流動する。

 

「―――」

 

 地面から飛び上がり、目前に浮遊する跳躍地雷へと視線を向けるオートマタ達。しかし、事は一秒足らずの出来事であった。それが何であるか、これから何が起こるのかすら理解する事無く――打ち上げられたユニットが起爆する。

 炸裂した外殻は内側より無数の鉄球を吐き出し、凄まじい爆音と閃光を発しながら、目前のオートマタ達を一斉に襲った。

 

 先頭に立っていたオートマタは何か声を発する暇も無く、ごく至近距離での爆発により体中に無数の鉄球を受け、後方へと勢い良く吹き飛んだ。外装に鉄球がめり込み、甲高い金属音と共にフレームが拉げ、欠け、剥がれ落ちた破片が周囲に飛び散る。そのまま近場の茂みへと突っ込んだオートマタは、白煙を噴きながらピクリとも動かなくなった。

 後続のオートマタ達も飛来したそれを避ける事が出来ず、幾人かは鉄球が関節部位に命中し、断線を引き起こしながら地面に倒れ込んだ。オートマタを外れた鉄球は近場の樹々、その樹皮にめり込み、幾本もの枝を圧し折って遥か後方へと消えていく。

 唐突な爆発音と仲間の負傷に、偵察部隊の足が止まり、身が竦んでいた。

 

「掛かった! タレットを起動するッ!」

『――ッ!』

 

 叫ぶと同時、サキは端末のボタンを押し込み、合わせて引き金を絞る。爆発から間髪入れず銃声が轟き、辛うじて先を歩いていたオートマタの影となり、爆発から逃れた後続の者達に幾つもの弾丸が降り注いだ。

 

「はっ、RABBIT3(モエ)じゃないが、派手に吹き飛ばすと気持ちが良いな!」

 

 絶え間ない射撃を加え続け、網膜を閃光で焼きながら叫ぶサキは、犬歯を剥き出しにして笑う。

 設置されていたタレット群から放たれるバースト射撃は、正確無比な攻撃で次々とオートマタ達を薙ぎ倒していった。

 サキの放った弾丸も三、四名のオートマタへと着弾し、その外装とフレームに容赦なく風穴を開けた。彼等には反撃する余裕もない、爆発と同時に飛来した猛攻はほんの数秒足らずで部隊を半壊以上に追い込み、残った者もその場に伏せるか、近くの樹々に身を隠すが、悉くミユの狙撃やサキの掃射に倒れていく。空間を穿つ弾丸が地面を耕し、幾つもの枯れ枝を圧し折り、枯葉を打ち上げ、薄らと積もった雪を抉った。

 跳ね上がった白が粉雪となり、周囲を彩る。外装と弾丸が打ち合わさって火花が散り、白の中で飛び散る緋色(火花)は何とも鮮烈で、鮮やかに見えた。

 

「痛いか!? 痛いよな! オートマタにだって痛覚センサーはある筈だ! それなら、こんな場所に来るべきじゃなかった!」 

 

 タレットとサキの銃撃により、殆ど身動きが取れなくなるオートマタ達。しかし、そんな中でも勇敢に反撃を試み、発砲しながら立ち上がった者が居た。伏せた状態から緩慢な動作で身を起こし、サキの居る土嚢目掛けて引き金を絞る。幾つかの弾丸が土嚢の腹に着弾し、土埃を漂わせた。

 サキは素早く視界に捉えた影に銃口を向け、引き金を絞る。確かな反動とマズルフラッシュが瞬き、吐き出された弾丸が立ち上がったオートマタの身体を捉えた。

 

 弾丸は肩、首元、胴体にそれぞれ着弾し、7.62mmは標準的な防弾仕様の外装を食い破り、穴を穿つ。まるで出来の悪いダンスを踊るかのように蹈鞴を踏んだオートマタの身体から外装が弾け飛び、金属片が方々に散っていくのが遠目に見えた。

 咄嗟に突き出した腕にタレットの放った弾丸が着弾し、指が数本千切れ飛ぶ。首元から露出したコードを手で押さえ、そのまま背中から倒れ伏すオートマタ。

 その姿を見届け、サキは一瞬息を呑み、しかし強く歯を食いしばると、呟いた。

 

「だが、先生はもっと痛かった筈だ――ッ!」

 

 ■

 

「―――」

 

 装甲車両に囲まれた護送車両の中で、ひとり携帯端末を操作するプレジデント。時折脇に退かした杖を指先で叩きながら、その視線は手に持った端末の画面のみを見つめていた。

 ふと画面に表示される時計を見れば、既に作戦開始から一時間近くが経過している。聴覚センサーの感度を上げれば、車内であっても銃声が微かに聞こえて来る気がした。どうやら、まだ完遂には至っていないらしい。

 

「プレジデント」

 

 コン、とウィンドウをノックする音。

 顔を上げれば車内を覗き込むオートマタらしき影が一つ、プレジデントが無言でウィンドウを下げると、人影は中腰となりフェイスモニタを晒した。車内の明かりに薄らと照らされた外装が、微かな光沢を放つ。

 

「報告を」

「はっ――作戦は継続中です、公園正面入り口には地雷原が、地雷原後方にはタレットで固められた防衛陣地が一つ、加えて狙撃手の存在も確認されています、最初に投入された偵察部隊三十名はトラップと防衛陣地からの攻撃により全滅、以降は膠着状態が続いております」

「……ふむ」

 

 齎された報告に、プレジデントは一つ相槌を打ちながら口を噤む。

 現在の作戦に於いて、プレジデントは関与していない。偵察部隊含め、その後の攻勢は全てジェネラル麾下のカイザーPMCが担当していた。攻撃部隊の殆どはシャーレでの作戦、及び外周部防衛の任に当たっていた者達であった。

 

「その後もジェネラル麾下、PMC部隊が攻勢を強めていますが……今の所、目立った成果はなく」

 

 しかし、どうやらジェネラル麾下の報復攻撃は上手く機能していないらしい。プレジデントは辟易とした様子で肩を竦めると、端末の電源を落とし、足を組み直した。

 

「備えてはいると思ったが、存外本格的に構築していたか」

「はい、陣地は正面入り口から円型を描くように固められており、主要な通路は全てトラップが仕掛けていられる様子、また園内には強力な妨害電波が発生しており、ドローン等の遠隔操作を要する機器の使用が限定されています、自律兵器による支援は期待出来ないかと」

「それに加えて航空支援も限定されては、地上から地道に詰める他なし、か――だが、それらを加味しても不甲斐ない結果だ」

 

 報告に対し、プレジデントは不機嫌な態度を隠さない。聞けば、突入に使用した装甲車も何台かスクラップになったとの事。ほんの僅かな手勢を相手に、一体どれ程の損害を出すつもりなのか。

 コレで相手がゲヘナの風紀委員長や、正義実現委員会の委員長ならばまだしも、特殊学園出身とは云え所詮一年生のひよっ子に過ぎないのだ。傭兵を生業とする者共が、何と情けない。

 尤も、本来の指揮官が不在という部分も大きいのだろうが――だとしても、流石に顔を顰めたくもなる。

 

「ジェネラルの兵は何と?」

「……汚名を濯ぐ機会を頂きたく、との事です」

「汚名を濯ぐか」

 

 口を突いた言葉は、確かな失望を滲ませていた。現在進行形で濯ぐ所か上塗りとなっているだろうに。

 

「……その、退却を指示しますか?」

「良い、好きにやらせておけ」

 

 何とも苦々しい声色で言葉を絞り出す部下に対し、どうでも良いと云わんばかりにプレジデントは指先を揺らした。

 プレジデントからすれば、既に勝利は確定しているのだ。今更ジェネラル麾下の兵が百や二百、或いは千や二千倒されようと、どうでも良い事に違いは無い。寧ろ自ら率先して戦おうとするのであれば、それを止めるつもりは無かった。

 何せ、件の古代兵器を起動してしまえば、カイザーコーポレーションの持つ軍隊等、何の意味も無くなる。自身が信を置く、僅かな手勢さえ残ればそれで良い。それ以外がどうなろうと、最早興味も無かった。

 しかし、何も知らぬ末端の兵士からすればそうではない。ジェネラルの失態から、この任務が終わり次第再教育が待っているのではないかという不安と疑心が、彼等の身体を突き動かしているのだ。それを理解しているからこそ、プレジデントは敢えて放任する形を取り、自主的な作戦遂行を見守っていた。

 

「ジェネラルが倒れた今、連中にとっては必死にならざるを得ない理由がある、その結果が同じであろうとな――それに向こうとて物資は限られている筈だ、結果的に削れるのならば構いはしない、後が楽になるだけだ」

「はっ、そういう事であれば……」

 

 プレジデントの返答に、部下のオートマタは頷きを返す。防衛陣地を突破出来ないと云っても、相手も無限に戦える訳ではない。物資や体力、精神的な面に僅かでもダメージが入るのであれば、無謀な突貫だろうと決して無意味ではない。

 どうせ元より捨て駒に等しい者共だ、精々有効活用してこそだろう。

 

「しかし、調整もされていない、PMC出身の部隊では、やはりこの程度か」

 

 だが、それはそれとしてこの体たらくには思う所がある。プレジデントは肘を突きながら外を眺めると、そのコンパウンドアイに灯る光を細めながら吐き捨てた。

 一騎当千の活躍など端から期待していない、だが数千、数万という軍勢を抱えるカイザーコーポレーションの所属として、僅か数名の生徒に打ち倒される数百の兵など論外にも程がある。プレジデントからすれば、コレが自身の軍団の一部なのかと苛立ちすら覚える程だった。

 やはり選別は必要だ、優れた支配者には、優れた配下が相応しい――。

 

「プレジデント」

「ん?」

 

 その様な事を考えていると、扉の前に佇む部下の背後から静かな電子音声が響いた。振り向き、一歩退いた部下、纏う色は驚愕と困惑。見ればいつの間にか、護送車の傍に黒いオートマタの集団が佇んでいた。まるで気配が無かったのだ。

 しかしそのオートマタ達の姿を視界に収めた時、プレジデントは纏う気配を微かに柔らかく変化させ、軽く手を挙げた。

 

「あぁ、到着したか――サンクトゥムタワーの制圧、御苦労だった」

「………」

 

 プレジデントの乗る護送車、その傍に現れたのはオートマタ達は、非常に独特なフレームと外装を持っていた。

 各所に設けられた発光リングが煌々と輝き、極限まで軽量化した素体は一部内部フレームが露となっている。彼らは防弾性を補う為に装着したタクティカルベストを揺らし、プレジデントの前に影の如く現れた。

 サンクトゥムタワー制圧の任を受け、連邦生徒会の役員を確保、拘束した実行部隊――それがこの、黒のオートマタ達である。

 

「状況は把握しているな?」

 

 彼らを視認したプレジデントは車両の扉を押し開けると、緩慢な動作で外へと降り立った。

 車両を下車したプレジデントに対し、無言で整列する黒いオートマタ達。プレジデントは手にした杖を二度、三度確かめる様に握り締め、地面を突く。

 カン、という硬質的な音が周囲に響き、その場の空気が引き締まる様な感覚があった。

 

「シャーレより逃走した目標が、この公園に匿われていると」

「そうだ、現在ジェネラルの指揮していた部隊が突入を繰り返しているが、戦況は芳しくない、此方としては千や二千の兵を失おうと問題は無いが、事がシンプルに済ませられるのならばそれに越したことは無い――任せて良いかね?」

「御命令とあらば」

「宜しい」

 

 打てば響く様な返答であった。

 ただ静かに、いっそ不気味なまでに感情を見せず、淡々と返答する兵士達。彼らはプレジデントを見つめたまま、微動だにせず直立していた。

 

「次の攻勢が終わり次第、出撃しろ、私から細かな指示は無い――唯、最善を尽くせ」

「了解」

 

 命令が下された瞬間、黒いオートマタ達は機敏に敬礼を行い、そのまま踵を返し並んだ装甲車の影へと消えていく。その背中を呆然と見送った部下は、プレジデントへと振り返り問うた。

 

「プレジデント、今の部隊は――」

「連邦生徒会と事を構える事を想定し、私兵の中から選別、特別に調整を施した者達だ、護衛隊の者も含まれているが、素体(中身)は別物だな」

 

 部下からの問い掛けに、プレジデントは何処か上機嫌に答える。

 元より優秀な者に、カイザーコーポレーションの資産を惜しみなく注ぎ込み作り上げた、『プレジデントの為の部隊』――それがあの、黒いオートマタ達である。

 元々は連邦生徒会長が率いる戦力との戦闘を見越して作り上げた部隊であったが、彼女の失踪によって本来の意図と僅かに異なる運用となった。それでも十二分に結果を残してくれるだろう、そんな確信がプレジデントにはある。

 実際、サンクトゥムタワーでは確かな結果を残していた。突入から僅かな時間で全フロアを制圧し、当時タワー内部に存在していた全ての役員、その拘束に成功している。この作戦を任せ、信を置くには十分な成果だろう。

 

「カイザーPMCの兵共は私の麾下、特に護衛隊経験者を『特務』と呼ぶが――あれは全く以て正しくない、確かに私の直轄には優秀な者を割り当てている上、装備も吟味し揃えているが、私からすれば一般の部隊と大差はないのだ」

 

 そう、如何に良い武器、良い素体を用いようと、決して届かない領域というものがある。一般的なオートマタにはキヴォトスの生徒達が扱う神秘を用いる手段が無い。ヘイローが存在しないのだから、当然と云えば当然の事ではあるが。

 故に、彼女達と対等以上に渡り合うにはオートマタという存在の根底、その改良が必要不可欠であるとプレジデントは結論付けた。

 

 それはオートマタとしての強みの追及、即ち素体そのものの改良であり、組み換え可能な身体と電脳の最適化である。

 プレジデントは戦闘時に於ける電脳と素体の齟齬、その排除と徹底した効率化により、神秘の存在を超克しようと試みたのだ。

 戦術に合わせたフレーム、外装、素体の開発と、電脳の調整。BDの存在からデータの読み込み教育など珍しくもないが、彼等の意識にはあらゆる戦闘データ、銃火器の取り扱いから近接戦闘技術までがインプットされており、加えて戦闘時に於けるストレス軽減やパニック抑制を名目に感情生成プログラムを意図的にシャットダウンしていた。

 より強く、従順な兵士を、部隊を作り出すにはあらゆる部分を削るしかない。

 最初に怠惰を削り、次に道徳・倫理を除外、最後に私情を棄て、こうしてプレジデントの望む完全なる兵士の『調整』は完了した。

 

「本来の特務とは、彼奴等の事だ」

 

 両手を重ね、杖を突くプレジデントは甲鉄の口を歪ませる。

 いつかジェネラルが口にしていた、理想的な兵士。

 それを人工的に作り上げ、完成した結晶。それこそがカイザーコーポレーションのトップが信を置く僅かな手勢――特務であった。

 


 

 イベント終わりましたわ~! セイアちゃんの心境とリオ会長の心境が分かって色々とホッとしましたの! それと新キャラのミライちゃんですが、中々ミレニアムでは見ないタイプのキャラでしたわね。というかアビドス編に出て来たセリカが購入したブレスレット、彼女が販売していた代物だったんですのね。美食研究会と便利屋の電話もそうでしたが、「そこで繋がるんだ……」っていうのが結構多い気がしますわ!

 後個人的に、コハルが友達と一緒に居て、凄くホッコリしましたの。良かった、補習授業部以外にも友達が居て、本当に良かった……!

 あとゲームで催眠技術みたいなモノと、巨大化光線銃は「はー、ミレニアムって凄いんんですわねぇ」と思いました、それとギャン泣きするモモイはとても可愛らしかったです、まる。

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