ブルーアーカイブを、もう一度。   作:トクサン

263 / 340
誤字脱字報告に感謝ですわ~!
新しい総力戦のゲブラにボコられて一日遅れましたわ……新難易度LUNATICですってよ。
今回約一万六千字ですの~!


雪の中で蠢く黒

 

「RABBIT2、リロードをしますッ!」

「了解!」

 

 隣り合うミヤコが叫び、空になった弾倉を取り外す。その隣でサキは銃声に掻き消されぬよう、懸命に声を張り上げながらトリガーを引き絞り続けた。

 銃架に張り付いたサキは、取り付けられた重機関銃のアイアンサイト越しに迫り来るカイザーPMCのオートマタ達を薙ぎ払う。遮蔽に隠れようとした者、伏せてやり過ごそうとした者、勇敢にも銃撃を加えて来る者。その悉くが放たれる弾丸に貫かれ、吹き飛んで行く。

 重々しい銃声と強烈なマズルフラッシュ、そして身体全体を揺らす様な反動はサキの感覚を麻痺させ、足元に散らばった無数の空薬莢同士がぶつかり合い、甲高い音を鳴らしていた。薬莢受けのボックスは既に溢れ、これを取り換える暇さえ無かったのだ。

 

「クソ、分かっていたが、倒しても倒してもキリがないない……ッ!」

 

 こいつらはゾンビか何かか? すっかり痺れ、冷たくなった指先で引き金を絞り続けながら、サキは内心で吐き捨てた。

 最早、どれだけ撃ち続けたかも定かではない。比較的整理整頓されていた防衛陣地は最早見る影も無く、敷き詰めた土嚢には何発もの弾痕が刻まれ、詰めた土砂が零れ落ちている。爆発物等も防いだ為、一部土嚢は倒壊し、掘って作った傾斜の内側へと雪崩れ込んでいた。

 

「タレットの方は、もう弾切れか……!」

 

 射撃を続けながら、ちらりと横を見れば項垂れ、機能を停止したタレットが見える。隙を見て何度か給弾も行ったが、絶え間なく現れるカイザーコーポレーションの攻勢に弾薬は直ぐに空になった。そもそも、タレット用の弾薬ケースがあと何箱残っているかも把握出来ていない。

 そんな事を考えていると直ぐ脇を弾丸が掠め、数発の弾丸が鉄帽を弾いた。強い衝撃に思わず仰け反り、反射的に身が竦む。

 

「ぐッ!?」

「RABBIT2、頭を下げてッ!」

 

 ミヤコが叫び、サキが言葉に従って即座に屈み込めば、その頭上から銃口を突き出したミヤコが即座に銃撃を行った。揺れる視線で銃口の先を伺えば、いつの間にか数十メートルの距離まで接近していたオートマタが、ミヤコの射撃により倒れる所であった。茂みや樹々の影に隠れ、静かに近付いていたのか、その外装には汚れが目立っていた。

 一体いつの間にこんな近くまで、自分が思っているより疲労が重なっているのか――サキは泥の滲んだ掌を払い、土嚢に肩を預けながら身を起こす。

 

「っ、助かった、RABBIT1!」

「いえ、それにしても敵の攻勢、全く衰えませんね……!」

「あぁ、まだ一時間か、二時間其処らだって云うのに――」

 

 僅かにズレた鉄帽を指先で押し上げながら、サキは再び銃架に付きグリップを握る。そして引き金に指を掛けた所で、重機関銃に繋がれている弾帯が残り少ない事に気付いた。繋がれた弾帯が伸びる弾薬箱の中を覗き込めば、残弾は三十発を切っている。

 

「ミヤコ、弾薬箱(ボックス)をくれ!」

M548(200発箱)は残り二つです、大事に撃って下さい!」

「無茶を云う……ッ!」

 

 すぐ後ろに用意されていた弾薬箱を両手で掴み、サキへと差し出したミヤコに対し、思わず苦々しい声が漏れる。大事に撃つも何も、それだけの余裕が存在しない。兎に角次から次へと迫り来る敵を薙ぎ倒すには、弾丸の節約を考える精神的な余裕も、物理的な余裕も無かった。

 

「……?」

 

 不意に、サキは戦場の違和感に気付いた。

 妙に静かだと思ったのだ。

 先程まで其処ら中に轟いていた銃声がまるで聞こえず、弾丸も飛んでこない。一瞬の内に世界が切り替わってしまったのかの様な静けさが辺りを包んでおり、妙な緊張が走る。

 

「攻撃が、止んだ?」

 

 呟き、サキは手に持った弾薬ケースを地面に置き、肩に提げていた愛銃を手繰り寄せる。そうして恐る恐る土嚢の影より顔を覗かせれば、幾つもの弾痕や爆発の痕跡こそ視界に映るものの、遥か後方にポツポツと視認出来たオートマタ達の姿が確認出来なかった。

 ミヤコもまた同じように土嚢の影から顔を覗かせると、耳元のヘッドセットに指を添え問いかける。

 

「RABBIT4、敵は――」

『う、うん、後退したみたい』

「後退? どういう事だ、何でこのタイミングで……」

 

 今の今まで、被害など知った事ではないと愚直なまでに代わる代わる攻撃を仕掛けて来た連中が、これ以上の消耗を嫌うかのように下がっていく姿はいっそ不気味ですらあった。一体何を企んでいるのか、相手の意図が全く読めない。

 数秒程思案する素振りを見せたミヤコであったが、ややあって首を緩く横に振ると静かに立ち上がる。

 

「相手の意図は分かりませんが、猶予が出来たのは事実です、今の内に補給を済ませましょう――私はタレットに給弾を行います、サキは機関銃のリロードを」

「あ、あぁ」

 

 意図は分からずとも、時間が出来たのは決してマイナスではない。ミヤコは空になった保管箱を脇に退かし、その下に積まれていた弾薬ケースを両脇に抱え、タレットの元へと駆け出した。防衛陣地に設置されたタレットは銃架と並ぶ様に稼働していたが、その内の二台が火花を散らし、項垂れる様に機能を停止している。

 

「……二機、やられたな」

「仕方ありません、敵も必死ですから」

 

 使い物にならなくなったタレットを一瞥したサキは、険しい表情のまま呟く。ミヤコは弾薬ケースを持ったまま破損したタレットに近付くと、表面を軽く撫で損傷具合を確かめた。

 破損した二機とも正面の防弾装甲は割れ、其処から貫通した弾丸が内部機構に食い込んでいる。念の為弾薬ケースを取り外し中身を検めたが、空だった。

 

 ――現地修理は、無理ですね。

 

 部品を取り寄せ、時間を掛ければ可能かもしれないが、残念ながらこの戦闘の間に再起動させる事は不可能だろう。ミヤコは破損した二機はそのままに、他のタレットの給弾へと移る。

 側面の開閉口から手早く空のケースを取り出すミヤコを一瞥し、サキもまた銃架に取り付けられた重機関銃のリロードに取り掛かる。

 フィードカバーを開き短くなった弾帯を取り外すと、先程まで使用していた弾薬箱の中に戻す。そしてチャージングハンドルを引いてボルトを後退させ、排莢口を確認。後は先程手渡された弾薬箱をマウントに固定し、最初の弾丸が給弾口に差し込まれている事を確かめ、弾帯をフィードプレートに通し装填。チャージングハンドルはダブルチャージ、フィードカバーを閉じれば射撃準備完了である。

 手際良く銃架のリロードを済ませたサキは、次いで自身の愛銃の弾倉が残り少ない事に気付くと、近場の弾薬ボックスから予備の弾倉を取り出し、ポーチに詰めていく。

 

「タレットの弾薬ケース、残りは幾つだ?」

「残存する四機のタレットに給弾すると、これが最後です」

「……今の一戦で、一体どれだけ弾を使ったのか、考えたくも無いな」

 

 齎された報告にサキは一瞬補給の手を止めると、力なく呟いた。SRTの装備を売却し得た金銭で購入した弾薬だが、通常の作戦に耐え得るだけの量は買い込んでいた筈だった。それがものの一戦で、どれだけ費やされたのか――ミヤコはタレットの外装を嵌め直し、正面装甲の具合を確かめながら頷きを返す。

 

「同感です、ただ凄まじい勢いで弾薬を消費しているのは事実ですが、その分相手の被害も相応の筈、この後退も、私達の抵抗が向こうの予測を超えている証左かもしれません」

「そうだと良いが……どっちにしろ、これを後数回か」

 

 グローブに包まれた掌に吐息を吹き掛け、目を細めたサキは手首に付けた腕時計に視線を落とす。針が指し示す時刻は既に夕刻、もう二、三時間もすれば陽が落ち始めるだろう。雪の影響もあり、少しずつ暗がりに沈んでいく世界を見渡しながら、サキは内心の不安を漏らした。

 

「――想像以上に、キツイな」

「……えぇ」

 

 たった二時間足らずの防衛、しかしその間に費やした労力、肉体的、精神的な疲労感はずっしりと重く、辛い。

 

「良し、こっちの補給は終わった、後は――」

『二人共!』

 

 銃架のリロードも済ませ、自身の愛銃の弾倉もポーチに詰め込んだサキは、土嚢に凭れ掛かりながら声を発する。しかしそれを遮る様に、耳元からミユの声が響いて来た。

 

「どうした、RABBIT4?」

『正面に影、た、多分別の部隊だと思う……!』

「おいおい、もう次の攻勢か」

 

 舌打ち交じりに悪態を突いたサキは、土嚢の裏から正面を見据える。まだ部隊は遠いのか、此処からでは視認出来ないが――ミユの云う通りならば、もう間もなく次の攻勢が始まるのだろう。

 土が付着し、薄汚れた膝を軽く掌で叩きながらサキは銃架の後ろに立つ。

 

「これじゃあ、休む暇もないな」

「RABBIT4、相手の数は分かりますか? 凡その数で構いません」

『そ、それが――』

 

 また何十、何百というオートマタ達が押し寄せて来るのか。そんな感情と共に問いかけると、返って来た声には困惑が多分に含まれていた。

 

『た、たったの六名……みたい』

「――六名?」

 

 それは予想だにしない返答であった。

 ミヤコとサキは一瞬互いの顔を見合わせ、聞き間違いかと疑る。しかし、双方の表情に宿る色に間違いは無く、ミヤコは念を押す様に再度問いかけた。

 

「RABBIT4、見間違い……ではありませんよね?」

『う、うん――人影は何回数えても六つしかない、筈』

「まさか、交渉役か?」

「これだけの攻勢を仕掛けておいて、その可能性は無いと思いますが――」

 

 加えて防衛陣地を突破し、後がない状況ならばまだしも、この陣地はまだ一つ目である。交渉する気があるのならそもそも一当てする前に人を送って来そうなものだし、そうでないのなら相手の窮地に投降を促すのが定石だ。

 ある意味、現状そのものが窮地と云っても差し支えないが、問答無用で仕掛けて来た時点で話し合いのテーブルに着く気がない事は薄々ミヤコも感じている。

 そんな相手が、今更交渉役を送り込んで来るだろうか? ミヤコからすれば、とても信じられない心地だった。

 

「なら先手必勝だろう、RABBIT4、其処から狙えるか?」

 

 交渉役(ネゴシエーター)でないのなら、狙える内に狙った方が良い。サキの現実的な提案に、通信相手であるミユは逡巡し、ミヤコに指示を仰ぐ。

 

『ら、RABBIT1……』

「――対象は、武装していますか?」

『う、うん、他のオートマタと比べると、少しフォルムが違う気がするけれど、完全武装で来ているかな』

「………」

 

 その返答に、ミヤコは自身の口元を指先で覆いながら思考に耽る。

 そもそも仮に此方に来ているのが交渉役だとしても、応じるかどうかは明白だ。カイザーコーポレーションの目的が先生の身柄である以上、彼等の要求にRABBIT小隊が応じる事は決してない――ならば先手必勝、断固とした意志を示すサキの言葉は間違っていない様に思えた。

 ミヤコは頷きを一つ零し、口を開く。

 

「分かりました、先制攻撃をお願いします、RABBIT4」

『りょ、了解、やってみる……!』

 

 ミヤコの承諾を得たミユは、長距離からの狙撃で先手を取る方針に固める。ミヤコは土嚢の裏に身を隠しながら、サキへと手を伸ばした。

 

「サキ、双眼鏡を」

「あぁ……ほら」

 

 サキは首に提げていた双眼鏡をミヤコへと差し出し、礼を告げながらミヤコは双眼鏡を覗く。此処からでは雑木林を挟む為、殆ど視認する事は出来ないが――樹々や茂みの影に紛れ、微かに人影が見えた気がした。

 望遠鏡を使っても辛うじて人型であると識別出来る程度だが、確かに大勢を引き連れている様には見えない。

 

「――あの影ですね」

 

 双眼鏡のレンズを高倍率に調整しながら、ミヤコは呟く。細部までは確認出来ていないが、通常のオートマタと比較してややスマートな印象があった。

 見間違いでなければ、あの影がミユの云っていた部隊だろう。

 

『……う、撃つよ!』

 

 ミユの宣言があり、一拍置いて無線機越しに銃声が響く。

 一キロ以上の距離があるとは云え、「当てられるか?」等と云う無粋な問いかけをするつもりは無かった。彼女ならば当てられるという、確信に近い信頼があったのだ。

 RABBIT小隊はミユの狙撃に、絶対の信を置いている。それに足る腕前を、彼女は確かに持っているのだから。

 

 銃声を耳にした後、ミヤコは視界に映る小さな影のどれかが、すぐ様倒れる未来を予測した。

 そして実際、微かに動いていた人影の一つが銃声の後即座に上体を反らし、他の影は一斉に散開する。

 その動きを、ミヤコはミユが一人を仕留め、残りが狙撃を警戒し散開したものと受け取った。

 しかし、それは誤りであった。

 

『う、嘘っ!?』

「……RABBIT4?」

 

 スコープ越しに狙撃の結果を確認していたミユが、悲鳴染みた声を漏らす。それに疑念と共に声を掛ければ、彼女は慌てて自身の想定外の結果を吐露した。

 

『か、回避された……! そっちに向かって走り始めたよ!?』

「ッ!?」

 

 頭部を弾かれ、上体を反らしていたと思われていたオートマタ。しかし、先程の動きは、ヘッドショットを受けた為のものではなかった。

 ミユの狙撃したオートマタは、どのような原理か攻撃を直前に感知し、上体を反らして飛来した弾丸を回避したのだ。

 ミユが外したのではない――双眼鏡越しに見ていたミヤコは、思わず立ち上がり、双眼鏡から目を離す。

 

「何だ、どうしたんだRABBIT1……?」

「RABBIT4の狙撃が回避されました」

「は、ハァ? 狙撃を回避って、外したのなら兎も角、そんな馬鹿な事――」

「対象が移動中です、此方に向かってきます、RABBIT2迎撃を!」

「わ、分かったよ……ッ!」

 

 ミヤコの焦りの滲んだ声に、サキは握り締めた重機関銃のグリップを動かし、指示された方向に銃口を向ける。オートマタ達は散開した状態で防衛陣地に迫っている様で、数秒もすると薄らと肉眼でも視認出来る距離に近付いて来た。目を細め、「視認した!」と叫んだサキは、一息にトリガーを引き絞る。

 途端、ガガガッ! という重低音と共に彼女の全身が揺さぶられ、12.7mmの大口径が迫り来るオートマタ達に降り注いだ。

 

 放たれた弾丸は近くの樹々を粉砕し、地面を抉り、遮蔽諸共オートマタを穿とうと襲来する。加えて左右に並んだタレットもカメラがオートマタ達を捉え、ミヤコも土嚢に張り付き、射撃を開始する。

 防衛陣地より次々と浴びせられる弾丸の雨、しかしそれらを前にオートマタ達は全く動揺も、焦燥も見せなかった。ただ狙いを絞らせないように不規則に駆け、時折障害物で射線を切りながら無言の意思疎通を行う。

 

『想定より弾幕が薄い』

『少数精鋭と云う話だった、射撃間隔も一定、四つの銃口はタレットによるものだ』

『タレットが多く残っているのならば、遠隔からのクラックは?』

『当然だが、プロテクトされている、電子戦闘特化の基幹システムを積んでいれば可能性はあるが、生憎と専門外だ、物理的にアクセスする他ない』

『ならこのまま回避と陽動に徹して、相手の息切れを待つ選択肢もある』

『――いや、敵を消耗させる事が我々の任務ではない』

 

 極限まで加速された思考が、ネットワーク上で繋がった電脳越しに言葉を交わす。音を発さず、電子情報として行き交う思考は殆どラグ無く送受信を行い、戦闘状態に在っても決して乱れず。後方を駆けていたオートマタの一体が、静かにフェイスモニタのランプを点滅させた。

 

『正面より突貫し、強引に接触、後続の部隊が突破する糸口を作る――総員、駆動強化、OC(オーバークロック)用意、高電流キャパシタ起動、指定時間三十秒』

『三十秒、了解』

 

 その指示を受けると同時、各部隊員の素体、その発光リングが緑色の光を放ち、甲高い駆動音を鳴り響かせる。素体内部の駆動系が唸りを上げ、出力を極限にまで高めている音であった。

 同時に電脳がオートマタ達の疑似神経系を強化し、情報処理速度を向上させる。センサーで捉えた情報をいち早く処理し、反応速度を引き上げたのだ。

 先頭に立つオートマタが静かに、沈む様な前傾姿勢を取り、告げた。

 

「――突入開始」

 

 合図と共に、全力で地面を蹴り飛ばす。

 外装に包まれた両足が地面を蹴り上げ、雪と土の混じった枯葉が周囲に飛び散った。

 瞬間、サキは視界に捉えていたオートマタ達が一瞬にして掻き消えた様に錯覚した。それはほんの瞬きの出来事だった、マズルフラッシュに照らされた景色、その明暗が切り替わる瞬間、オートマタ達の姿が視界より消えたのだ。

 

「ッ!?」

 

 あり得ない事だ、咄嗟に射撃を中止し、瞳を素早く左右に動かし索敵――そしてサキは、大きく円を描く様に走行する影を視認する。

 

「速い――ッ!?」

 

 オートマタと思わしき影は、粉雪を撒き散らしながら雑木林の合間を凄まじい速度で駆けていた。

 枯れ枝を圧し折り、弧を描き走行する彼らの速度は時速八十キロに達していた。方々に散ったオートマタ達の影に銃口を重ねながら、重機関銃を旋回、サキは再度引き金を絞る。

 重低音が鳴り響き、強い反動が体を揺らすが、弾丸は彼らの後方を穿ち、樹々や茂みを粉砕するのみ。走行する小さな人影には掠りもしない。

 

「何だあの動き……!? どう考えても普通じゃないだろうッ!?」

「特殊な素体、いえ、だとしてもこの運動性能は――っ!」

 

 サキと同じように駆けるオートマタ達目掛けて銃弾をばら撒くミヤコは、視界を凄まじい勢いで駆け回る影を前に戦慄する。人型のオートマタで、あれ程の加速を行える運動性能を備えた素体など、聞いた事も無かった。

 まだ距離があるという理由もあるが、素早く不規則に動く対象を此処から撃ち抜くのは、非常に困難と云える。

 少なくとも、ミヤコとサキの両名にとっては。

 

『すぅ――』

 

 後方より戦況を眺めていたミユは、小さく息を吸い込む。

 ヘッドセット越しに、彼女の息遣いが微かに聞こえた。凄まじい勢いで肉薄して来る影、その軌道を冷静に、視線で追い、読み込む。

 一キロ先では当たらない、これ程の速度で動く的、それも車両等と比較して圧倒的に小柄な人型に。

 しかし、残り数百メートルの距離まで縮まったのであれば別だ。

 着弾までのタイムラグは格段に減少し、これまでの行動パターンから僅かであっても呼吸を読む事が出来る。オートマタを相手に呼吸という表現はやや可笑しな話であるが、プログラムで動く以上ある一定のリズムがある。

 ミユは目に見えず、耳に聞こえないそれを動きから読み取り、引き金に掛けた指に力を込めた。

 

『――今』

 

 一番先頭を駆けていたオートマタ、その動きをじっと、十秒以上見つめていたミユは凡その動き、その行き先を脳内でシミュレーションし、次のルートを予測した。

 今そこに居る目標ではない、動いた先の軌跡を銃口でなぞり――弾丸を置く。

 銃声が轟き、一瞬の閃光が放たれる。同時にスコープの遥か向こう側で切り返す為に地面を踏み締めたオートマタ、その頭部が弾け、大きく後方へと仰け反るのが見えた。

 ミユは一瞬スコープから目を離し、驚きと共に目を瞬かせる。

 

『あ、当たった……ッ!』

「ナイス、RABBIT4ッ!」

 

 撃ち抜かれたオートマタは跳ね上がった頭部をそのままに、勢い良く地面へと叩きつけられる。駆けていた速度がそのまま破壊力と繋がり、盛大に雪と土を撒き散らしながら転がると何度も地面をバウンドし、軈て樹に衝突し停止した。

 大きく凹んだ外装に、火花を散らした関節。罅割れたフェイスモニタにノイズを走らせ、オートマタは最後の通信を行う。

 

『頭部に被弾、回路に致命的損傷、入射角、軌道から、座標を共有――……』

 

 四肢があらぬ方向に曲がり、フェイスモニタのランプを点灯させたオートマタは、何度かランプを点滅させ、軈て沈黙した。

 防衛陣地に肉薄するオートマタ達は、機能を停止した同胞を一瞥する事も無く前を見据え続ける。

 

『一名戦闘不能――このまま前進を続ける』

 

 OCの効果時間は三十秒、それ以上は素体の耐久、冷却限界の都合上不可能。であれば機能を停止した味方は無視し、前進する事こそが正しいと彼らは結論付けた。

 迫り来る影を前に、サキは先程告げられたミヤコの忠言をかなぐり捨て、只管に弾丸をばら撒く。

 その甲斐あって一発がオートマタの肩を掠め、外装が剥がれ飛び散った。甲高く舞い上がる破片に、ただ掠めただけとは云え、大口径の弾丸、その威力により体勢を崩し、姿勢制御システムが一時的に素体の転倒を避ける為、停止を判断。

 動きが止まった。

 

「足さえ止まれば――ッ!」

 

 それを、サキが見逃す事は無く。

 僅か一秒の停止、その間隙にサキは弾丸を捻じ込み、近場の樹木ごとオートマタの素体を飴細工の如くバラバラに吹き飛ばす。

 戦車の装甲すら貫通し得る12.7mmはオートマタの外装を容易く貫通し、その胴体に風穴を開けた。咄嗟に防御姿勢を取るオートマタであったが、防ぐ腕や足ごと次の瞬間には消し飛び、装甲やコード、パーツが次々と地面に散らばる、軈て頭部から光が失われ、穴だらけの胴体が後方へと転がった。

 

「RABBIT1、そっちから来ている!」

「分かっていますッ!」

 

 土嚢から身を乗り出し、弾丸をばら撒くミヤコは急速に接近する影を追う。だが近距離であれば命中する余地はある。ばら撒かれたミヤコの弾丸は、その幾つかがオートマタ達の外装を強かに叩いていた。機動性を重視している為か、薄い装甲に次々と突き刺さる9mm弾。翳した腕や肩の外装に着弾し、緋色の火花が散っていた。

 しかし、頭部や関節部位を腕で防御しながら、オートマタは尚も肉薄する。幾つかは貫通している筈だが、それでも勢いは止まらない。暗がりの中で、薄らとした緑のランプが軌跡を描く。

 

「っ、止まらない!」

「まさか、痛覚が無いのか……!」

 

 その事実に、愕然とした心地でサキは呟く。オートマタとは云え、痛覚機能は存在している。例え軍事仕様の素体を使用する者であっても、そう云った五感機能を搭載しない事はまず無い。つまりあの素体には、そもそも痛覚機能が備わっていないか、或いは何らかの違法改造によって遮断しているのだと分かった。

 一瞬呆気に取られた彼女であったが、大きく首を振ると再び重機関銃を握り締め、薙ぎ払う。距離が百メートルも切れば、流石に回避出来る幅も狭まって来る。ミヤコの射撃、サキの掃射、ミユの狙撃、タレットの支援に次々と掴まり、足を止めれば即座に蜂の巣にされる。

 迫り来る影、内二名が誰かの放った弾丸に捉えられ、姿勢を崩す。足を止めれば集中砲火を浴び、地面に転がる末路を辿る。四肢を捥がれ、転がった残骸を一瞥する事無く、更に距離を詰めるオートマタ。

 

『三名戦闘不能――残り二名』

『OC状態の素体に、こうも当てて来るか、優秀だ』

 

 それは純粋な賞賛であった。多額の金銭を費やし開発された素体は、ハード面に於いても、ソフト面に於いても優秀な代物であると自負しているが故に。防衛側有利とは云え、これを生身で相手にして、こうも削られるとは。恐らく通常の生徒相手であれば、鎧袖一触の結果を齎すだろう。

 

 ――だが、懐に飛び込んだぞ

 

「くッ!?」

 

 防衛陣地との距離は、残り三十メートルを切っていた。

 そこから脅威的な跳躍力によって一息に防御陣地内部へと飛び込んで来る二つの影。彼らは丁度ミヤコやサキを飛び越える様にして陣地内へと着地すると、膝を突きながらぬかるんだ地面を滑り、停止した。

 跳ねた泥が四肢を汚し、外装の隙間から蒸気が噴き出す。

 

『冷却システム稼働、OC停止』

 

 酷使した全身の冷却が始まり、一時的に運動性能が大きく低下する。しかし、懐に入ってしまえば既に目標は達成したも同様。煌めいていたリングが光量を大きく落とし、代わりにフェイスモニタのランプが爛々と点滅を繰り返す。

 サキは重機関銃を手放し、提げていた愛銃を素早く構えると、間髪入れず射撃を加えた。

 しかし、弾丸はオートマタの外装を掠めるばかりで、地面を転がる様にして避けられてしまう。

 防衛用のタレットが銃口を回転させ、センサーが侵入して来たオートマタ二体を捉える。だが発射の直前、射線上にミヤコとサキを感知し、ロックが掛かる。四名の距離は、ほんの数メートルも存在しなかった。

 そしてそれは、狙撃手であるミユも同様に。

 

『RABBIT1、近くて撃てないッ!』

「私達で対処しますッ! 後続の警戒を!」

 

 叫び、ミヤコは腰だめで愛銃を確り握り締め、大きく足を開くと掃射を敢行した。

 銃口より吐き出される無数の弾丸、しかし緩慢な動作で立ち上がったオートマタは、降り注ぐ弾丸を驚異的な反射速度(処理能力)で感知、最適化された最低限の回避行動で被弾を避け、命中した数発も外装で致命傷を避ける。

 甲高い着弾音が鳴り響き、火花と共に弾かれた弾丸を視線で追いながら、ミヤコは歯噛みした。

 9mmではやはり、威力が足りない。

 そして数秒の経過と共に、カチリと音を立てる愛銃――弾切れの音。

 

「く……ッ!」

「SRTのRABBIT小隊、情報通りだ」

 

 オートマタがノイズ混じりの電子音声を発する。ミヤコは即座に愛銃を下げると、腰の前部に装着していたナイフと拳銃を抜き、素早く踏み込むと同時、発砲した。

 彼我の距離は凡そ三メートル、互いの腕が交差する距離まで一秒と掛からない。

 相手の装備も長物、加えて全身より噴き出した蒸気から、先程の運動性が時間制限付きの無茶な機動である事を察知していた。

 ならば負荷が掛かった今、近接戦闘での優位性は此方にあると判断しての行動だった。

 

「―――」

 

 オートマタはミヤコの間髪入れぬ早撃ちを、姿勢を低くし潜り抜ける様にして回避すると、そのまま応答する様に発砲。

 放たれた弾丸はミヤコの頬を掠め、しかし彼女はそれに臆することなく更に飛び込む。

 順手に持ったナイフを突き出し、ミヤコはオートマタの首元を狙う。刃物で外装を抜けるとは思っていない、故に振るう箇所は関節部位、刃を隙間に食い込ませ、噛ませる狙いがあった。

 しかし、突き出されたソレは下から掬い上げる様に放たれたライフルのストックによって阻まれる。

 硬いストックが彼女の手首を打ち、跳ね上げられ、痺れた指先がナイフを手放した。

 

「っ――ッ!」

 

 宙を舞うナイフを視線で追いながら、ミヤコは即座に対応。跳ね上げられた腕をそのままに、胸元でコンパクトに構えた拳銃で応射。乾いた銃声が二度響き渡り、一発は肩の外装に、もう一発は頭部のフェイスモニタに着弾した。

 

 直撃によってオートマタの身体が僅かに仰け反り、モニタ表面が罅割れる。

 それによって生まれた一拍の間隙、此処だとミヤコの本能が叫んだ。

 ミヤコはその瞬間大きく一歩を踏み込むと、オートマタの手首を掴み、引き寄せながら掴んだ腕の肘目掛けて、拳銃を握ったまま下から掌打を繰り出した。

 通常の生徒やオートマタであれば、関節の可動域から腕が圧し折れるような、そうでなくとも手に握った銃を取り落とさせる、武装解除の一撃である。

 相手はオートマタであるが故に、肉を打つ音は聞こえない。代わりに甲鉄が軋む様な、特徴的な打撃音が響き、グローブ越しに硬質的な感触と手応え、掴んだ手首が大きく揺れる。

 確かに、一撃が入った。効果はあった、そう確信する。このまま腕を軸に無力化して――思考するミヤコは、しかし。

 

「なッ!?」

 

 視界に映る、オートマタの折れ曲がった腕を前に、驚愕の声を漏らした。

 打ち出した掌打は確かにオートマタの腕を反対側に圧し折った。

 圧し折った様に――見えた。

 

 だが、それはミヤコの力によるものではなくオートマタの腕関節が自ら折れ曲がったからだった。

 真反対にくの字を描く腕は、握り締めた銃を取り落とす事無く、何事も無かったかのように元の位置へと戻って行く。

 人と、オートマタの違い。

 この素体は腕の関節可動域が通常のソレではなく、必要があれば真反対の方向に腕を曲げられる程、広い可動域を誇っていた。

 何から何まで、常識の範囲外。相手の間隙を突いた筈が、逆に隙を晒す羽目になった。ミヤコに手首を掴まれたオートマタは、徐に身を反らすと、思い切りフェイスモニタで頭突きを放った。

 ミヤコの額とオートマタの額が衝突し、鈍い打撃音が響く。一瞬視界が暗がりに落ち、ミヤコは衝撃に顔を歪める。

 しかし、それでも尚滲んだ視界で相手を注視すれば、体を後方に傾けバックステップを踏むオートマタの姿が見えた。

 させるものかとミヤコがより一層強く手に力を込め、重心を後ろに逸らせば。

 

『パージ』

 

 ガコン、という音と共にオートマタの手首が抜け落ちる。

 ミヤコは蹈鞴を踏み、確かに掴んでいた筈のオートマタの素体が距離を離していた。自身の掌に残ったオートマタの手首を凝視し、一拍遅れて自ら部位を切断し、窮地を逃れたのだと理解する。

 一体どんな素体だと、そんな思いと共に顔を上げれば、残った右手でライフルを握り、左腕の肘に銃身を乗せ、油断なく構えたオートマタの姿が視界に映った。

 直撃する。

 ミヤコは銃口から飛来する弾丸のコースを読み取り、咄嗟に両腕で顔と首元を庇い、苦し紛れに横合いへと身を投げる。

 

 しかし、想定した衝撃は来なかった。

 オートマタはミヤコに狙いをつける事無く、その銃口を唐突に逸らすと、自身を狙っていたタレット目掛けて発砲したのだ。

 銃声が轟き、タレットの外装に弾丸が着弾、次々と穴が穿たれ火花が散る。

 

「っ、タレット(防衛装置)を!?」

 

 何発も弾丸を撃ち込まれ、ビープ音を鳴らすタレット。次いで横合いにあった銃架目掛けて構えるオートマタ、防衛陣地の設備を破壊するつもりだとミヤコは理解した。これ以上の損害は、決して許容出来ない。

 

「この――ッ!」

 

 地面に身を投げたミヤコは地面を掻くようにして起き上がると、そのままオートマタの足目掛けてタックルを敢行。肩口から腹部に突っ込み、勢い良く地面に押し倒した。直ぐ傍で銃声が響き、放たれた弾丸は銃架の重機関銃と土嚢に命中する。

 泥が跳ね、ミヤコは衝撃で固まるオートマタの頭部に拳銃を押し付けると、そのまま躊躇う事なく何度も引き金を絞った。

 乾いた銃声が連続して響き渡り、オートマタのフェイスモニタに弾丸が叩き込まれる。至近距離で、それも同じ部位に何度も。例え威力の低い9mmと云えど、連続して同じ部位に撃ち込めば効果もある。三発、四発、五発、絶え間なく射撃を加え、ミヤコは必死の形相でオートマタを押さえつける。

 

「はぁ、はッ……!」

 

 弾倉が空になり、荒い息と共にオートマタを見下ろせば、奥に灯っていたランプは既に消え、機能を停止している事が分かった。モニタには幾つもの弾痕が残り、弾丸は頭部の内部にまで到達している。

 肩で息を繰り返し安堵の息を吐き出したミヤコは、覚束ない足取りで立ち上がると、無意識の内に空になった弾倉を切り離し、予備の弾倉と切り替える。思考出来ずとも、肉体は訓練の動作を完璧に覚えていた。

 そしてふと思い出したように、もう一体のオートマタとサキを探し、周囲を見渡す。

 

「っ、RABBIT2! 無事ですか!?」

「はぁッ、ハァ……ッ! 大丈夫だっ!」

 

 忙しなく周囲を見渡し叫ぶと、少し離れた場所で、地面に倒れたオートマタに銃口を向けているサキの姿が見えた。

 膝元を泥で汚しながら、サキは頬に滲む血を袖で拭うと、小さく手を挙げ無事を知らせる。

 その姿を視認し、ミヤコは強張っていた身体から力が抜けるのを自覚した。

 

「RABBIT4に助けられた、クソ、何なんだコイツ等……?」

『ら、RABBIT1、そっちは――』

「問題ありません、此方もたった今無力化しました……ですが」

 

 ミユの声に答えながら、ミヤコは唇を噛み締める。正体不明のオートマタは全て戦闘不能に追い込んだ、しかし代わりに支払った代償は少なく無くない。

 

「――やられました」

 

 防衛陣地を見渡したミヤコは、苦々しい表情と共に呟く。

 サキも遅れて顔を上げ、周囲の惨状に気付いた。先程まで稼働していたタレットが二機、敵の銃撃により破損していた。加えてサキの使用していた重機関銃も、レシーバーとフィードカバーが歪み、とても本来の役目を果たせるようには見えない。疲労の残る体に鞭打ち、破損したタレットの傍に近寄り状態を確認するミヤコ。

 

「RABBIT2、そちらのタレットは」

「……駄目だ、完全に装甲を貫通している、内部は多分ズタズタだ」

 

 手分けして弾丸の撃ち込まれたタレットを確認した両名は、修復不能な破損を被ったソレを前に、思わず項垂れた。先程まで点灯していたランプは最早光を灯さず、制御端末も反応しない。稼働しているタレットは二機、元の状態を考えれば単純に戦力は三分の一以下である。トラップも殆ど使い果たした。

 

「銃架も、トラップも、タレットも無い、これじゃあ……」

 

 拉げ、歪んだ重機関銃を撫でつけながら、サキは途中で言葉を切る。

 残ったタレットと自分達の火力だけで、どれだけの敵が押し留められるか? そんな事は、考えるまでも無い。十数人程度ならばまだしも、数十、数百と攻め込まれてしまえば――恐らく、容易に突破を許すだろう。

 言葉にせずとも、全員の思考は一致していた。

 

「……仕方ありません」

 

 暫くの間口を噤んでいたミヤコは、ややあって俯いていた顔を上げ、その重く閉ざしていた口を開く。

 

「――主防衛陣地に撤退しましょう、そこで改めて敵を迎え撃ちます」

「……それしか、無いか」

 

 ミヤコの言葉に一瞬悔しそうな顔を覗かせたサキであったが、反駁は無かった。この防衛陣地を固持する事がどれだけ無謀であるのか、理解しているのだ。ならば早めに見切りをつけ次の防衛拠点に移るべきだろう、引き際を見誤って倒れては元も子もない。

 

「――RABBIT4、現防衛陣地での戦闘継続は困難と判断しました、この前方陣地は放棄します、後退し主防衛陣地に入るまで警戒と援護を」

『りょ、了解!』

 

 そうと決まれば即座に動くべきだ。サキとミヤコは残った弾薬や物資を小脇に抱え、素早く前方陣地を後にする。幸い、この奇妙なオートマタ以降他の敵が攻め入って来る気配は無く、両名はそそくさと後方の雑木林に紛れ、後方の主防衛陣地へと撤退していった。万が一に備えた爆薬のセットは、既に済ませている。

 その道中、ミヤコは弾薬ケースを抱えたまま振り向き、泥の中に倒れたオートマタ達の素体を一瞥した。軽量型と思わしきフレームと薄い外装は、彼女の見て来たどんなオートマタにも似つかない。

 

 ――黒いフレームに、特徴的な外装、あのオートマタは一体……?

 

 脳裏に過る疑問、カイザーコーポレーションの部隊である事は間違いないだろうが、それ以外は一切不明。訝し気に素体を眺めていたミヤコであったが、何時までもその場に留まる愚を犯す事は無く、数秒して踵を返し、再び影に紛れる。

 その背中を、泥の中に沈むオートマタが見つめていた。

 

「流石、は……SRT特殊、学園――」

 

 近場まで接近したものの、足を止めたが為に蜂の巣にされ、下半身を失い、左肩も丸々喪失したオートマタの一体が、防衛陣地を去っていく二人の背中をじっと見つめる。弱々しく点滅するグリーンランプは軈て徐々に光量を落とし、最後に彼は虚空に残った右腕を伸ばすと、電脳に刻まれた記録データを同胞に共有する。

 

「データリンク、確認――……」

『第九班、全滅――情報収集任務、完了』

 

 ■

 

『出撃した第九班より――データリンク要請』

 

 子ウサギ公園、正面入り口。

 横付けされた輸送車両の中で、膝を突き合わせ全く同じ姿勢で座るオートマタ達。それは先程RABBIT小隊と交戦したオートマタ達と同じ外装、フレームを持っており、周囲は異様な空気に包まれていた。

 彼らは電子音声を発する事無く、他の車両に搭乗した同胞達とネットワーク上で意思疎通を図る。傍から見ればただじっと座している様に見えるが、その実凄まじい速度で情報のやり取りが行われていた。

 一車両に搭乗したオートマタは十二名、二班。

 現在はその車両が計五台、並んでいる。

 

『情報通り、相手はSRTのRABBIT小隊、確認出来たのは三名、前線に二名、後方に狙撃手一名』

『情報部からの報告では、RABBIT小隊は隊員四名で構成されている筈だが、最後の一名は所在不明』

『確認出来ない隊員一名については後方支援が主な担当と情報がある、目標と同じ拠点に籠っている可能性が高い、留意すべきだろう』

『各班、データリンクは完了したな、では作戦内容を説明する』

 

 並んだオートマタ達は微動だにせず、フェイスモニタにグリーンランプを灯し沈黙を守る。その中で一人が徐に立ち上がり、全員のランプがそのオートマタの姿を追った。

 

『今から十分前、プレジデントより正式に命令が下された、目標はシャーレの先生、その身柄確保、護衛を担当する敵勢力はRABBIT小隊、此方側からの航空支援は無し、自律兵器による索敵・戦闘も不可能、またトラップの存在が確認された為、地雷除去などの作業を並行して進行したい所ではあるが、敵方は強力な対戦車兵装なども取り揃えている為、除去車両の進入は不可能、最低限個人携帯機器での感知が限界となる、カイザーPMC側は正面からの突破に固執しているが――プレジデントは早急な解決を望んでおいでだ』

 

 頭部の中で響く声、特務第一班のリーダー、自分達と全く同じ素体、同じ装備、同じエンブレムを刻んだ彼の声に耳を傾ける。

 

『第九班の聴覚データより、二名は後方の第二防衛陣地に後退した事を確認している、恐らく第一防衛陣地は放棄済み――第八班は第九班の素体を回収後、本隊に一度帰還、その後合流せよ』

『――了解、第八班、行動を開始する』

『AGSCリーダーより各班、これより我々は作戦の第一段階としてカイザーPMC部隊と共同し、敵防衛陣地突破を図る、ただし共同とは云っても連携する必要は無い、各々PMC部隊は盾として上手く使え、今回の作戦に限ってはあらゆる損害が許容される――どのような手を使ってでも、必ず目標を確保しろ』

『了解』

 

 その一言と共に、装甲車の中に詰めていたオートマタ達が、入り口に近い順から起立し、一斉に下車を開始する。

 詳細な作戦は既にネットワーク上で共有されている、各班事の細かい動きからルートまで、態々言葉にする必要は無かった。リアルタイムで更新するそれは、部隊間の連携を確固たるものとし、このやり取りも形式上のモノでしかない。

 ある種、この些細なやり取りこそが彼らから削ぎ落された人格の残り香であり、微かな人間性の発露でもあった。

 

 最後に第一班のリーダーと共に下車したオートマタは、不意にその足を止め周囲を見渡す。徐に指先で頭部を叩くと、灯っていたグリーンランプが一瞬赤く点滅した。

 

 ――成程、そういう事でしたか、流石にセキュリティが強固ですがミレニアムが誇る超天才美少女である私に掛かれば、えぇ、この通り……さて、後は時間との勝負ですが、六時間、いえ三時間以内には何とか致しましょう。

 

『……?』

 

 一瞬、電脳に奇妙な声が聞こえた様な気がした。他の隊員とは異なる、明確な発声であった様に思う。足を止め、自身のフェイスモニタを指先で覆う隊員に対し、リーダーはその肩を掴むと無機質に問いかける。

 

『どうした』

『あぁ、一瞬、電脳に何かノイズが――』

 

 そう云って頭部を小突くオートマタであったが、ややあって緩く首を横に振る。

 

『……いや気のせいだろう、知覚感度を上げ過ぎた可能性が高い』

『念の為、セルフチェックは行っておけ』

『了解』

 

 大事な作戦前だと、そう念押しする仲間の声に頷き、自己診断プログラムを走らせるオートマタ。しかし異常らしき異常は見当たらず、単なる聴覚機能のノイズと断定、特に気に留める事も無く部隊と合流する為に小走りで移動を開始した。

 

『第一、第二班は予定通り別行動を取る、他班は作戦に従い、防衛陣地の突破を図れ』

 

 既に再攻撃を開始したカイザーPMC部隊の背中に続き、影へと潜む特務部隊。膨大な数を誇る兵士達の中に紛れてしまえば、その特異なフレームや色合いも直ぐに溶け込む。銃火器等は兎も角、防弾アーマーの類はカイザーPMCの物を流用している為、遠目からならば違和感も然程ない。

 周囲を駆け抜けていくカイザーPMCのオートマタ達を一瞥しながら、特務は静かに銃器の安全装置を弾くと、大きく一歩を踏み出した。

 

『――作戦開始』

 


 

 多分後二話位で、私が今章で一番書きたい部分に到達出来ますわ……! この一瞬で過ぎ去ってしまう、けれど最高に楽しい瞬間の為に何ヶ月も掛けていると考えると、気が狂いそうになりますわね! まぁ既に半分以上気が狂っている様なモノですし今更ですわ~!

 わたくし敵味方関係なく登場する特殊部隊的な立ち位置のモブが強い展開大好き侍。ブルアカ世界のオートマタって設定とか全く開示されていないけれど、アレって腕とか破損してもやっぱり大事になるんですの…? 

 アリスの腕が取れたら私は「アンマリ↑ダァァア→↓」と発狂しますが、オートマタなら「え、修理すれば直るんちゃうん?」ってなっちゃう不思議。

 は? アリスは生徒でロボットじゃないが? とってもキュートな勇者だが? でもネットサーフィン中に『私はロボットではありません』のチェックボタンを押して良いのかどうか分からなくてユウカに泣きつくアリスちゃんとかは可愛いと思います。

 って事はキヴォトスのオートマタは全員、アリスちゃんと同じ道を辿るのか……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。