ブルーアーカイブを、もう一度。   作:トクサン

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誤字脱字報告、大変感謝ですわ~!
今回は約一万五千字、今話を以てカルバノグの兎編は完結ですわ~!


物語の終わり(終幕の者よ)

 

「さて、集まりましたね」

 

 ――では、会議を始めましょう。

 

 薄暗い、赤に照らされた室内。中央に鎮座する白光のリングは円卓の役割を果たし、四名の影は互いを認めながら佇む。黒服の声は室内に響き、全員の顔が持ち上がった。四方にそれぞれ立つ黒服、マエストロ、ゴルコンダ・デカルコマニー、銀狼。無機質なコンクリートに囲まれた部屋は、何とも寒々しく無機質であった。

 発光する円卓にタブレットを置いた黒服は、その罅割れを蠢かせながら淡々と告げた。

 

「早速ですが、無名の司祭、その活動が再度確認されました」

「……彼の司祭が、遂に動いたか」

 

 初手に齎された報告に、対面に立つマエストロが身体を軋ませながら呟きを漏らす。カタカタと音を鳴らす二つの頭部は頭上より降り注ぐ赤を鈍く反射させ、不気味に艶めいていた。

 

「つまり、襲来が近いと、そういう訳だな」

「えぇ、恐らくは」

「……失礼、ひとつ宜しいでしょうか?」

 

 ふと、ゴルコンダが声を上げ、デカルコマニーがステッキを指先に掛けたまま挙手を行う。

 

「不勉強で申し訳ないのですが、『無名の司祭』とは具体的に何を意味するのでしょうか? ベアトリーチェが保有していたロイヤルブラッドを保護する技術、そして彼の者に致命的な一撃を齎した誘導弾頭、これらが無名の司祭による遺産、技術であると私は解釈しておりますが……」

 

 既存技術を凌駕するオーバーテクノロジー――それを保有する一団。ゴルコンダの無名の司祭に対する認識は、然程深い見識を伴わない。具体的な背景は元より、注視するべきは彼らの持つテクノロジーそのもの、ゴルコンダ本人の気質も含まれているのだろうが、彼らそのものの性質について、ゴルコンダはあまり情報を持ち得ていなかった。

 マエストロは一瞬ゴルコンダに視線を向けると、その木製の指先で自身の顎先を擦る。

 

「そうだな、彼等を端的に表現するならば、キヴォトス以前に存在していたこの世界の主だ」

「ほう……?」

 

 世界の主、それは実に興味をそそる文言であった。僅かにゴルコンダの声に色が混じり、相槌と共に耳を傾ける。

 

「名も無き神と、それを崇拝する無名の司祭――本来であれば彼らはキヴォトスの神秘の下に堆積し、痕跡だけが残る筈だった存在、名も無き神自体は大地、海原、天災と云った、そうですね……所謂太古の昔より存在する神秘や恐怖とでも申しましょうか、彼等は自然を模った形で顕現するとされております」

「自然を模る、ですか」

「えぇ、そして、それらを崇拝する無名の司祭、彼等が何の為にあのような技術を生み出したのかは定かではありませんが――淘汰されし旧き人は、現代のキヴォトスに対して友好的ではなかったでしょう」

「その辺りについては、銀狼が一番詳しいのではないか?」

 

 黒服の立て板に水を流すような弁説の最中、マエストロはその視線をただひとり口を閉ざし、沈黙を守る銀狼に投げかける。当の本人は両腕を組んだまま色の見えない表情を浮かべ、ただ三名を一瞥し、それから再び視線を逸らした。其処には友好的な色合いなど、微塵も含まれていない。

 

「………」

「ククッ、確かに、唯一実際に『ソレ』を目にしたのは、この中でも貴女だけでしょう銀狼さん」

「お前達に話すつもりはない」

 

 返って来た答えは余りにも冷ややかで、素っ気ないもの。彼女は組んだ腕の中で指先に力を込めながら、吐き捨てる様に続ける。

 

「それに今回――アレが表に出る事は無い筈だから」

「えぇ、勿論、これらの情報については契約に含まれていませんからね、構いませんとも」

「ふむ、聊か惜しい気もしますが」

「……ふん」

 

 アレ、と彼女が称する存在が何かは分からないが、彼女自身話す気は無いらしく、また対等な存在としてこの場に立っている以上無理強いも出来ない。名も無き神とそれに連なるモノ、興味深く知識欲を刺激されるのは確かであったが、それ以上言及する者は居なかった。

 

「兎角、彼等は何処かへと姿を消しました、しかしその技術はこの地に残されています――そして私は、彼等の遺産に大変興味がある」

「それは、あの『王女』とやらも含めてか」

 

 黒服の高揚したような声に、マエストロが問うた。王女――ミレニアム自治区で発見された、件の存在。現在手持ちの情報の中で、明確に無名の司祭と繋がりを持つ存在でもある。黒服は小さく頷きながら、しかし残念そうに否定を告げた。

 

「そうですね、『彼女』もある意味、彼等の遺産と呼べるでしょう――疑似的な生命活動、生命の模倣としては非常に興味深い、彼女を研究出来れば私の望む未来に一歩近付く事が出来ますが……残念ながら、それは彼との敵対を意味する」

「前回、無名の司祭が先生と接触したというのは、その遺産絡みでしょうか?」

「えぇ、どうやら彼らは王女を介し、『箱舟』を起動しようと試みた様子で」

「――箱舟?」

 

 その一言に、ピクリとマエストロの肩が跳ねた。それは自身の認識していたものと、黒服の言及したものに齟齬が発生していたからだ。掌を翳し、円卓に身を乗り出したマエストロは声を張る。

 

「待て、アレはそもそも知覚される概念なのか? あれは、物質的なものとばかり――」

「黒服、確かシャーレの方で一つ、箱舟に対抗する手段を確保したという話だったのでは?」

「えぇ、私もその報告を受け、箱舟は実在する物質であると考えておりました……しかし、どうやらそうではない様です」

 

 正確に云えば、『向こうの箱舟は』という事になるのだろうが。黒服はそれとなく姿勢を正しながら、興味深いとばかりに言葉を続ける。

 

「箱舟が、全ての神秘を併せ持つ抽象的な概念であるのならば、彼等が行おうとした事にも得心がいきます、もしアレの顕現が為されていれば――私達が行動を起こすよりも早く、キヴォトスは終焉を迎えていたでしょう」

「――けれど、そうはならなかった」

 

 黒服の予測に対し、銀狼はその重い口を開く。ミレニアムで起こった騒動、あの一件で万が一王女が完全に覚醒してしまえば、ゲマトリアとして対策を講じる前に全ては終わりを迎えていただろう。

 だが、現実はそうならなかった。銀狼の瞳が黒服を睨め付け、空に似た色合いが彼を真正面から射貫く。

 

「それは先生が阻止した、王女が世界の破滅を望む事はない」

「……えぇ、彼の者は既に先生の庇護下に在ります、王女として覚醒する事はまず無いでしょう」

「ふむ、であるならば」

 

 問題は、無名の司祭そのものではない。

 ましてや、先生がその手を掴んだ王女本人でも。

 各々の視線が交わり、周囲を照らす赤が僅かに揺らぐ。

 

「――問題はやはり、(きた)色彩(不吉な光)か」

 

 そう、エデン条約の折、広大な可能性の中から終ぞこの世界を見つけ出してしまった不吉な光――色彩。

 正確に云えば、その力を有した【色彩の嚮導者】か。

 彼が再びこのキヴォトスへと踏み入れるのは、そう遠い事ではない。そして次に彼が到来した瞬間こそ、この世界の命運が分かれる時だろう。

 

「今回のカイザーコーポレーションの一件、聊かタイミングが悪すぎました」

「あぁ、よもやこの瞬間に騒動を起こすとは……」

「アレがこの世界、キヴォトスを見つけてからそれなりに時が経ちます、最早いつ再び発見され、到来してもおかしくはありません、一刻も早く備えねば」

 

 この場に於いて、ゲマトリアの方針は一致している。少なくとも彼等はこの世界の崩壊を望んでいる訳ではない。世界が存在しなければ、探求も求道も為せず、能動的に終焉を呼び込む等以ての外。

 一度は退けたが、二度目はどうなるか分からない。しかし、もし可能性があるとすれば、到来した彼の者を一度退けた聖遺物を生み出したゴルコンダだろう。黒服はその顔をゴルコンダへと向け、口を開く。

 

「ゴルコンダ、首尾の方は?」

「……そうですね」

 

 黒服より水を向けられたゴルコンダは、一瞬言葉を呑む。そこには言葉を選ぶような素振りが垣間見えた。二度、三度、ステッキで軽く床を打つデカルコマニーと共に、彼は低くゆったりとした口調で続ける。

 

「残念ながら現状、かなり厳しいと云わざるを得ません、此処が学園都市という概念である限り、私達はその範疇で限られた解釈のみを許されています、ですがアレは――色彩はその枠の外に在る」

 

 それはある種、先生の持つ『大人のカード』に似る。この世の法則に縛られず、概念すらをも塗り替え、圧倒的な力で以て破滅と創造(変化)を齎す。

 そうでなければ、そも別世界とは云え(聖者)を取り込む事など出来なかろう。

 つまり、自分達とはそもそもの土俵が異なる。真向勝負で挑んでまず、勝利を拾える手合いではない。

 

「アレを一度退けた『作品』は最早再現不可能です、謂わばあの一度は銀狼さんという、『同じ枠の外側』から訪れた概念の力を借りて、辛うじて生み出された聖遺物……二度目は無い、いえ、仮に作り出させたとしても同じ手が通用するとは到底思えません」

「あぁ、分かっていた事ではあるが、これだけの時間で対策を講じるのは困難であったか」

「ですが、どうにかせねばならないというのは共通認識です、私も出来得る限り手を尽くしたつもりではありますが――生憎と、私の方では多少の戦力を用意するのが精一杯です、それで色彩と戦えるかと問われれば、何とも難しい所でしょう」

 

 脳裏に搔き集めた戦力の数々を思い描きながら、黒服は苦悶の声を漏らす。心無きオートマタ、ドローン、無人地上車両、ゴリアテ――そんなものを幾ら搔き集めた所でどうにかなるとは到底思えない。しかし、だからと云ってただ手を拱いているだけというのも頂けない。円卓を指先で叩く黒服は、続いてマエストロへと視線を飛ばす。

 

「マエストロ、其方の準備はどうですか?」

「此方も複製(ミメシス)を用いた対策を講じているが、どれ程効果があるかは未知数だ、複製で完成された聖徒の交わりは一期――アンブロジウスは失敗、グレゴリオの調整はまだ中途半端な段階にある」

「……となると、グレゴリオはまだ出せませんか」

「あぁ、ましてやアンブロジウスで抑えられるのであれば、原石(子ども)であっても対応は容易い――そう軽々な存在ではないだろう、アレ(色彩)は」

 

 この際、失敗作を表に出す事に対して躊躇いはない。思う所が無い訳ではないが、自身の矜持を曲げなければならない状況と云うのは存在する。そして、今がその状況であった。

 せめてもう少し時間があればグレゴリオも運用に足る状態へと持ち込めただろうが、それでも最低限動かせるようにするだけでも数ヶ月は必要となるだろう。想い、マエストロは屈辱に身を震わせる。

 

「だが直前まで手は尽くそう……ゴルコンダの無限図書館やアミューズメントパークはどうだ、アレがあれば幾分か時を稼ぐ事も叶うだろう」

「残念ですが、どちらもまだ時間が必要です、ある程度までの構築は完了しておりますが、未だ解釈の余地がある、完成には程遠く――私としては、神聖(聖者)の再臨に期待しているのですが、黒服」

「……パル―シアの再現(備えた保険)か」

 

 ゴルコンダの言葉に、マエストロが相槌を打つ。二人の意識が黒服へと向けられた。現状真面に運用出来る戦力、作品は少ない、その中で唯一最優先で進められ、最も期待出来る代物が――ゴルコンダの言及した、神聖の再臨。

 エデン条約の折、即座に研究・解析、再現に着手した代物である。視線を寄越す両名に対し、黒服は小さく頷きを返しながら口を開いた。

 

「一応、そちらについては目途が立っています」

「ほう……!」

 

 目途が立つ。ネガティブな反応が続いていた中、初めて生まれた肯定的な反応。マエストロは若干前傾姿勢を取りながら円卓に手を掛け、問いかけた。それは現状を打破し得ると云う希望もそうだが、純粋にその中身に興味があったのだ。

 

「ならば、直ぐにでも使えるのか?」

「いえ、最優先で進めた計画ではありますが、それでもまだ完全とは云い難い、現在手元にあるのはあくまで急造品(仮初)、器に過ぎないとは云ってもやはり神聖に連なる代物、微調整にすら多大な時間を要します」

「……具体的には、どの程度だ?」

「現在も可能な限り手を加えてはいますが、どれだけ早くとも、もうひと月は必要でしょう」

「――ひと月、ですか」

 

 長い。

 その場に居た全員が抱いた感想は一致していた。しかし、それを糾弾する様な真似は出来なかった。寧ろあれだけの計画を半年足らずで完成に漕ぎ付けようとしているのだから凄まじいとすら思う。賞賛する事はあれど、非難する点など存在しないだろう。

 マエストロは腕を組み、唸る様に呟きを漏らす。

 

「ひと月、本来であれば十分に早いと云えるのだろうが……」

「えぇ、残念ですが、それこそ【奇跡】でも起こらぬ限りは、襲来に間に合う事は無いでしょう」

 

 一ヶ月、それは本来であれば瞬きの間だろうが、今のゲマトリアにとっては到底稼ぐ事の出来ない時間。

 恐らく襲来までに残された時間は長くとも一週間、或いは数日の内にも件の光が顕れても驚きはしない。

 結論としては、余りにも時間が足りず。

 改めて自覚した現状に、部屋の中に重苦しい沈黙が流れ、ゴルコンダはこれより生まれる世界の崩壊を想い、デカルコマニーがぶるりと体を震わせた。

 

「――最悪、数多の神秘(生命)が失われますか」

「……その明滅をも、私達の探求であったとしましょう」

「何とも、何とも口惜しい……ッ!」

 

 あの者が握り締め、磨いた原石の輝き――それを目にせず、滅ぶというのか。

 

 マエストロが自身の双頭を抱え、落胆と失望を滲ませながら円卓へと身を沈ませる。未練、未練である、こうも中途半端に芸術家としての求道を閉ざされる事に対する、或いは彼の者と約定を結んでおきながらそれを果たせぬ事に対する。

 自身が朽ち果てる事になど然したる興味はない、しかし確固たる芸術を残せぬままに朽ちる事に対しては、大いに不満と悔いがあった。

 万物は衰退し、生ある限り死と消滅は免れぬ。それは当然の理、受け入れるべき宿命。

 しかし、芸術はそうではない。彼らは永遠にその地で価値を、存在を、境地を証明し、在り続ける。それは不滅に手を伸ばす事が出来る唯一の方法だ、有限が無限に近付く為の、軌跡そのもの。その切片に、自身は漸く手を伸ばし始めたばかりだと云うのに。

 

 せめて後少し、時があれば――。

 

 その様に考え、悔根の念に駆られるマエストロを前に、溜息の零れる音がした。俯いていた顔を上げれば、ひとり黙していた銀狼が呆れた様な気配を滲ませている事に気付く。

 

「銀狼……」

「そこらの戦力を幾ら搔き集めた所で、アレに届かなければ意味がない」

 

 声色は冷たく、突き放す様であった。彼女からすれば文字通り有象無象を幾ら搔き集めようが意味など無いのだ。必要なのは要所を叩く最低限の戦力、そして数ではなく質、ゆっくりと開いた瞼の向こう側に見える瞳が、横に佇むゴルコンダを捉える。

 

「頼んでいた、例の兵装は」

「……アレですか」

 

 銀狼の問い掛けに、ゴルコンダは微かに声を落とした。二人の間に共通する何かがある、しかし黒服とマエストロには銀狼の言及したアレとやら覚えがない。マエストロは身を起こし、訝し気な調子で問う。

 

「兵装とは何の事だ、銀狼」

「箱舟に乗り込むために、必要不可欠な兵装(モノ)

「……箱舟に乗り込む、だと?」

 

 銀狼の返答に、マエストロは思わず声を張る。

 

「待て、それはつまり、色彩と共に箱舟が顕現すると?」

「寧ろそうじゃない方が不自然、王女はあくまで箱舟を顕現させる為の手段の一つに過ぎない、方法は他にもある」

「随分とタイミングの良い、厄介な話ですね、しかしそうなると――」

「色彩を退け、破滅を回避するのなら、箱舟内部に乗り込む他ない」

 

 告げる彼女の口調は、半ば確信している様にも思えた。円卓に寄り掛り、険しい視線で虚空を睨みつける彼女は一切の色を感じさせない。

 

「それがゴルコンダの依頼していた品であると、そう云う訳か」

「そう」

「……銀狼さん、箱舟内部に直接転移する事は不可能なのですか?」

「それは無理、少なくとも多次元防壁を解除しない限りは、転移した瞬間に原子単位でバラバラに吹き飛ぶ」

「――多次元防壁」

 

 齎された単語を、黒服は含む様に繰り返す。馴染みのない響きである。口を閉ざす面々に視線を戻しながら、銀狼は言葉を続けた。

 

「箱舟の周辺に展開されている、あらゆる物理的な介入を無効化する状態共存の防壁、同軸の存在でなければ接触した瞬間に異なる次元に巻き込まれるか、そもそも存在そのものが原子単位で粉砕されるかのどちらか――回避する為には、接触する際に確率的な存在になるしかない」

「確率的な存在、とは?」

 

 或いは、連中が此方を招き入れる場合は問題ないだろうが、そんな事は望めない以上、解決策は酷く限定的だ。

 銀狼の言葉にマエストロが疑問を投げかけると、彼女の代わりにゴルコンダが指先を上げた。

 

「そうですね、簡単に云えば箱舟と同じ存在となれば、理論上箱舟の防壁は機能しなくなるという訳です」

「……状態の共存、なるほど、理論自体は理解出来ます」

 

 円卓を指先で叩きながら、黒服は呟きを漏らす。彼の脳裏には様々な遺物の記録が巡り、名も無き神の持つ力の片鱗を思い返す。あらゆる物理的な介入を無効化する防壁、しかし当然自身に対して反応する訳もなく。同質の存在となれば回避可能というのは実に分かり易い話だ。

 しかし――。

 

「ですが、その様な芸当、実際問題可能なのですかゴルコンダ? 箱舟は未だ我々の技術の及ばないオーパーツ、その中でも特大の結晶そのものです」

「……可能か、不可能かで云えば、辛うじて可能です」

 

 黒服の問い掛けに、ゴルコンダは努めて冷静な様子で答えた。辛うじてと口にしたのは、彼自身が未だ絶対の自信を持てずに居るからだろう。ステッキを握り締めたデカルコマニーもまた、心なしか落ち着かない様子で額縁を揺らす。

 

「幸い黒服の発見した遺産の中には、その手掛かりとなるオーパーツが幾つか散見されました、加えて銀狼さんからの情報提供も、不完全ではありますがそれらを参考に兵装と回路自体は完成、しかし正直私としては精度に疑問が――」

「らしくない、随分と歯切れが悪いな」

「……えぇ、まぁ」

 

 マエストロの云う様に、常にハッキリと流れる様に語るゴルコンダにしては、聊か歯切れの悪いように感じた。

 

「先も言及されましたが、箱舟が概念的なものであるのならば如何に科学的なアプローチを試みたとしても、その上からテクストを塗り替えられてしまえば、件の兵装に意味は無くなります、一枚の頁に綴られた文字を全て記憶しても、頁を捲られてしまえば綴られた文字、段落、余白に至るまで全て異なるように――現象、概念そのものが塗り替えられてしまえば、結末は同じです」

 

 この世の法則に縛られないとは、そういう事だと、ゴルコンダは告げる。

 

「多次元解析・状態共存・位相防壁(バリア)――あらゆる多次元の可能性を同居させ、防御に転じる力、波動と粒子の関係を根本から変化させるそれは、ある種物質の再構成と呼べるでしょう」

「……こちらが幾ら入念に用意しようとも、再び防壁が別種の存在に変化、再構成される可能性もあると」

「えぇ、その通りです、一応此方も状況に応じて情報値を変化させる性質を持ちますが、秒間に何度状態が切り替わるか不明な為、限界値以上の速度で変化する様であれば、その時は――」

「どんな形であろうと構わない、気圧されたのなら引っ込んでいろ、私ひとりだろうと、必ず阻止して見せる」

 

 ゴルコンダの懸念を含む声に、銀狼はハッキリとした口調で断じた。円卓に立て掛けていた愛銃――BLACK FANGを手に取り、手慣れた動作で肩に提げる。コツリと、音を鳴らしながら踵を返した彼女は、自身の背中に視線を送る三名を振り返ることなく足を進める。

 

「可能性があるのならば、それが那由他の果てだろうが、賭けるだけ」

「……銀狼さん」

「私は、諦めない」

 

 声には、非常に強固な決意が秘められていた。

 そう、諦める訳にはいかない。

 この場に辿り着く為に、この世界に足を進める為に、文字通り全てを捧げたのだから。だからもう、躊躇する事は無い。自身の全てを、或いはそれ以外をも犠牲にして、彼女は色彩(不吉な光)と対峙する。

 

「その為に、此処に来た(この世界に来た)

「……えぇ、その通りですね」

 

 彼女の決然とした言葉に、黒服は深く同意の声を漏らす。マエストロも、ゴルコンダも同様である。

 この状況に於いて取れる手は多くない、しかし項垂れて最期を迎えるというのもまた、正しい選択ではない。全員の視線が交わり、小さく頷きが零れる。

 

「……となるとやはり、色彩と対峙するにあたって最も重要なのは」

「えぇ、件の箱舟に唯一対抗出来る手段だという、本船を持つ」

 

 佇む四名、その全員の思考に過る一人の人間。

 これまで幾多もの奇跡を起こし、生徒達の明日(未来)を切り開いた、大人の姿。

 

「――シャーレの先生」

 

 ■

 

「……そっ」

 

 酷く震えた、あまりにも情けない声が口から漏れた。

 上擦ったそれは動揺と困惑、焦燥と悲愴、あらゆる感情が綯い交ぜになった結果放たれたもので。

 サンクトゥムタワー、沈痛な空気が蔓延する会議室内の中で、ヒナだけはその空気に、全身を圧し潰さんと降り注ぐ重圧に抗いながら、口を開く。

 ただ、その瞳だけは自身の手元に落ち、決してヒマリを見ようとはしない。

 

「そんな、筈……ないっ!」

 

 震えながら、動転しながら、それでも叫ぶのは否定だった。両手を握り締め、凍り付いたような肌寒さを覚えながらも懸命に舌を回す。

 肯定など出来る筈もない、それはヒナだけではない、この場に居る全員がそうだ、そうである筈だ。

 

「っ……!」

 

 強張った首筋、それを無理矢理動かしながら縋る様に顔を上げれば、乱れた前髪の先に座すトリニティ、ナギサの姿があった。

 彼女は空っぽのティーカップを持ったまま、蒼褪めた表情で視線を手元に落としている。中身のないカップ、それは分かっている筈だ、しかしナギサは定まらない視線でその中を凝視し、硬直し続ける。

 

「うッ――!?」

「ナギサ……!」

 

 不意に、ナギサが呻き声と共に口元へと手を当てた。咄嗟にセイアが手を伸ばし、彼女の背中を撫でつける。彼女自身一杯一杯であったものの、目の前の友人、その変調が辛うじてセイアの身体を突き動かした。

 ナギサは口元を抑えたまま、無言で机の上に突っ伏す。けたたましい音と共にソーサーとティーカップが跳ね、足元へと転がっていく。

 だが、誰もその音に反応を示す事は無い。

 

「………」

 

 事情を知っていた救護騎士団、救急医学部、特異現象捜査部は何も語らず、動かず。ただ何かを堪える様に目を瞑り、口を一文字に閉ざし、沈黙を守る。

 シスターフッドのサクラコは能面の様な表情で虚空を見つめ、指先を組んでいた。感情が抜け落ちている、否、よく見ればその組んだ指先が微かに震えている事に気付いただろう。それは祈りだった、彼女は無意識の内に縋っていたのだ。

 誰もかれもそうだ、ヒナが視線の先を変えれば、ミレニアムにも同様の光景が見られた。

 

「な、何よソレ、お、おかしいでしょ、そんな非科学的な――……」

「……ユウカちゃん」

 

 視線を左右に揺らし、愛用の端末を足元に落としながら震える声で何事かを訴えるユウカ。その隣に座るノアは手帳で目元を隠し、ただ静かに友人の名を呼んだ。

 彼女達の長であるリオは何も語らず、微動だにせず、ただ手を組み額に擦り付け、沈黙を守る。カーテンの様に滑り落ちた長髪が、彼女の表情を覆い隠していた。

 

「せ、先生は、だって……! 生きているじゃない、生存を欺瞞だとか、何でそんな必要があるのよ!? おかしい、絶対におかしい! どこかで計算ミスか、そうでもなければ、きっと正確じゃない情報かデータが混じって――」

「ユウカちゃん」

 

 ノアが再度、ユウカの名を呼んだ。今度は少しだけ、強く。

 途端、ユウカは椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がり、ヒマリに向かって指差し、大声で捲し立てた。倒れ、転がった椅子が大きな金属音を立てる。

 ユウカの目元には涙が滲み、制御できない感情が彼女を突き動かす。鬼気迫る表情で身を乗り出したユウカは、剥き出しの感情をヒマリへと容赦なくぶつけた。

 

「そうじゃなきゃ、まるで……っ! まるでさっきの説明は、先生が既に死――ッ!?」

「ユウカちゃんッ!」

 

 ノアが叫んだ、滅多に声を荒げない彼女があらん限りの声量で。

 びくりと、ユウカの身体が震え、同じように椅子を蹴飛ばして立ち上がったノアが彼女の両肩を掴む。愛用の手帳が足元に転がり、ペンと椅子が音を立てて跳ねた。

 

「の、ノア――」

「っ、ぅ――……!」

 

 だがノアは何かを訴える訳でも、説得する訳でもなく、ただ彼女の肩を両手で掴み、項垂れる。

 ぎゅっと、彼女の指先がユウカの肩口に食い込んだ。それだけで、ノアの抱く感情が伝わって来るようだった。二人の間に沈黙が流れる、白い絹のようなノアの髪が垂れ、ユウカは彼女に両肩を掴まれたまま口元をまごつかせた。

 小刻みに震える指先を伸ばし、ノアの腕に触れる。

 何かを云わなければならなかった、或いは今この瞬間に友人を払い除け、ヒマリに詰め寄るべきだった。

 だが、出来なかった。

 じわりと、視界が滲む。

 

「だ、だって、ノア……」

 

 再び噛み締めていた口を開いた途端、堪え切れず涙が一筋零れた。

 そこからはもう、抑えきれない。ポロポロと幾多も流れ始めた涙がノアの髪に触れ、消えていく。

 

「だっ、てぇ――ッ!」

 

 くしゃりと、ユウカの顔が歪んだ。声にならない声が漏れる、互いを掴んだまま、ノアとユウカはゆっくりと膝を折り、ズルズルとその場に崩れ落ちた。

 

「―――」

 

 背後から聞こえて来る啜り泣く声、それを耳にしながらリオは真っ暗な視界の中で唇を噛み締める。

 強く、強く、強く――血が滴り、無視できない痛みを感じて尚。

 

「……ヒマリ」

「……何でしょう、リオ」

「先程の言葉に、訂正すべき点は――」

 

 間違いと、そう呼べる点は。

 震えそうになる声を必死に堪え、彼女は問う。

 

「――一つも、無いのね?」

「……残念ですが」

 

 互いに視線を合わせぬまま、項垂れたリオの問い掛けにヒマリは答える。目を閉じ、努めて冷静に、機械的に。そうしなければ自身の心が守れぬ故に。

 リオは齎された返答に対し、ただ小さく、「そう」とだけ呟いた。

 それ以上の言葉は、なかった。

 

「―――……」

「……マコト先輩」

 

 両腕を組み、目深く帽子を被ったマコトは何も返さない。イロハは普段の昼行燈とした気配は欠片も感じさせず、湧き上がる激情によって開き切った瞳孔で以てマコトを射貫く。マコトは横合いから向けられる視線を感じながら、口元を歪め黙り込む。そうする他なかった。

 

「イブキに、何と説明する気ですか」

「………」

「……もう、取り返しがつきません」

「――あぁ」

 

 小さく、低く、唸る様にマコトは声を返した。

 横目に一瞥するイロハの視界に、帽子のつばを指先で押し上げながら虚空を睥睨するマコトの姿が映る。彼女はそれから小さく、「そうだな」と力なく呟いた。そこには確かに、強い悔恨の念が滲んでいた。

 

「ひ、ヒナ委員長……」

「……アコ」

 

 ぐっと、直ぐ隣から自身の袖を引く存在があった。蒼褪めた表情のまま立っていたヒナが視線を向ければ、嘗て見たことがない程に憔悴しきったアコの姿があった。彼女は泣いているのか、笑っているのか、どうにも判断の付かない表情を浮かべ、どもりながら言葉を続ける。

 

「あ、あんな言葉は、きっと虚偽に決まっています! 私達を貶める為にミレニアムが仕掛けた、ひ、卑劣な――……!」

「………」

「そ、そうでなければ、だって先生が、な、亡くなるなんて、事……あの人が、そんな簡単に!」

 

 縋る様に伸ばされていた指先が、ヒナの細い手首を掴んだ。ヒナは自身を見上げながら、今にも自失してしまいそうなアコを見つめた。そう思わなければ、今にも心が壊れてしまいそうなのだと分かった。

 その感情は、良く理解出来る。

 

 先生が亡くなる――死んでしまう。

 そんな事はあり得ない、先生は生きている、生きていなければならない。

 そうだ、そうでなければ。

 

「………」

 

 ヒナの視線が、不意にアコの向こう側へと移された。

 ただひとり、ゲヘナに用意されたテーブルの片隅でじっと身を縮こまらせ、沈黙を守る生徒。

 セナは資料に片側に掌を乗せ、何かを堪える様に俯いていた。

 胸元に何か、小さな封筒を握り締めて。

 蒼褪め、目元に影を落とし、黙り込む彼女の姿を見て――ヒナは思い出す。

 あの日、そうだ。

 

 遍く全てが変化(変質)してしまった、あの日の事(審判の日)を。

 

 ■

 

『ご、め――……んね……』

 

 ■

 

「――……わ」

 

 脳裏に過った光景、呪いの様に張り付いて消えない言葉。

 そうだ、今でも鮮明に思い出す事が出来る。忘れる筈がない、忘れる事等出来る筈がない。

 震えながら、ヒナは吐息を零す。肺の空気が、彼女の意志に反し勝手に漏れ出る。制御できない何かが、腹の底で暴れ出し、全身に滲み出す。

 あの日感じた血の香りも、先生の表情も、痛みも、苦しみも、この掌を握り返した、先生の弱々しい指先さえも。

 至近距離で覗き込んだ、先生の閉じられた瞼、冷たい頬、変色した唇、傷だらけの掌。

 全部、全部、鮮明に、はっきりと憶えている。

 

「私の、せい、で――……」

 

 目を見開き、俯いたまま自身の髪をクシャリと握る。此方を見上げるアコが、「ヒナ、委員長……?」と自身の名を呼んだ。しかし今のヒナには、何も聞こえなかった。それだけの余裕が、存在しなかった。

 

 先生がもし、その命を終えるとすれば。

 その黒い歪が、誰かの責任に依るものだとすれば。

 もし――そうならば。

 それは、きっと。

 

 

 

 ――私のせい(責任)だ。

 

 

 

「だ、代行、大変ですッ!」

「――ッ!」

 

 会議室の扉が、勢い良く開け放たれた。眼鏡を外し、自身の表情を掌で覆っていたリンは、横合いから響いた声に肩を震わせる。それから慌てて目元を拭うと眼鏡を付け直し、皺の目立つ資料をそのままに席を立った。

 動揺を見せる訳にはいかなかった、そして会議室の惨状も同様に。速足で扉へと近付いたリンは、冷静な様子を必死に装いながら口を開く。

 

「……この階層は現在、立ち入りを制限している筈ですが」

 

 しかし、それを押して来たという事は相応の理由があるのだろう。今、目の前に立つ行政官からは酷い焦燥の念が感じ取れる。二度、三度、呼吸を整え常の自身をイメージしながらリンは問いかける。

 

「一体、何があったのですか?」

「そ、それが――……!」

 

 端末を握り締めた行政官が何事かを口にしようとした瞬間。

 急激に、周囲の光量が落ちた。

 

「……えっ?」

 

 その疑問の声を上げたのは誰だったのか。廊下や会議室だけではない、まるで世界全てが突然暗闇に覆われたかのように、陽光が遮られ、薄暗い暗闇が周囲に広がる。

 同時に気付く、会議室の中に漂う――異質な気配。

 

 胸中を掻き乱され、取り乱していた生徒達の視線が一点に集まる。

 トリニティも、ゲヘナも、ミレニアムも、連邦生徒会でさえ例外ではない。

 それは今現在、何かを思い詰める様に周囲の異変に気付く事無く、俯き続ける空崎ヒナ。

 

 

 ――その背後。

 

 

 まるで空間に穴が開いたかのように、漆黒で塗りつぶされた虚空。

 そこから伸びる、包帯に包まれた指先。

 それが穿たれた漆黒の縁を捉え、徐々に、少しずつ、少しずつ押し広げていく。

 まるで世界を跨ぎ、侵攻してくるかのように開く黒。その向こう側から覗く巨躯、ぎらりと鈍く光る鉄仮面、深淵そのものとさえ感じてしまう、悍ましい気配。

 

 その鉄仮面越しに覗く空色の瞳が、目の前に佇む――空崎ヒナを捉えていた。

 

 ■

 

 

【――我々は望む、ジェリコの嘆きを】

【――我々は憶えている、七つの古則を】

 

 

 ■

 

【同時刻・ゲマトリア拠点】

 

「………」

 

 空間を削ったかのように開いた漆黒より、ふわりと身に纏った衣服が浮かび上がる。

 深い黒より伸びる足先、その矮躯は時を経ても尚変わらない。

 しかし、ざっくばらんになった髪に捻じ曲がった大きな角は所々欠け、ドレスとも制服とも取れる衣服に対し、羽織った外套は酷く馴染みのあるもの。

 身に着けた腕章、その文字は既に擦り切れ、読み取る事は出来ない。

 そして身の丈を超える様な銃火器、彼女の愛銃。

 それをまるで苦もせず担ぎながらコツリと、床を叩くブーツの音が空間に響いた。

 

「――……よもや、訪れる破滅の裏側(反転)が、貴女になるとは」

 

 唐突に、何の前触れも無く、秘匿されたこの空間に現れたその人影を前にして、ゲマトリアの面々――黒服は気圧されながらも驚嘆の声を漏らす。

 それは、銀狼とて例外ではない。

 彼女もまた、嘗て受けた事のない様な重圧と存在感に強張った表情を浮かべ、提げていた愛銃の安全装置を弾いた。

 その動作を、目の前の存在は取るに足らないとばかりに眺めている。

 銀狼の頬に、一筋の冷汗が流れた。

 

 今、この場に集う面々には知り得ない事ではあったが。

 異なる世界、異なる未来、異なる道を辿ったその先で――【小鳥遊ホシノ】が反転する可能性が存在するとして。

 もし、彼女(暁のホルス)に比肩し得る潜在能力(ポテンシャル)を持つ存在が居るとすれば。

 

 それは――。

 

「……えぇ、始めましょう、先生」

 

 両手に嵌めた黒いグローブ、それを引き絞りながら彼女は事も無げに告げる。

 嘗ての輝きはなく、色褪せ、罅割れ、それでも尚浮かび上がるヘイローは緩く発光を繰り返す。擦り切れた腕章、その意味も、重みも失った赤は風と共に靡き、矮躯を彩るばかり。

 不揃いになった白髪を掻き上げ、彼女は愛銃――終焉・デヴァステーター(終幕・デストロイヤー)を片腕で構え、ゲマトリアへと突きつけた。

 

「――ッ!」

 

 銀狼が思わず身を強張らせ、息を呑む。ガシャリと、武骨な銃身が重々しい金属音を鳴らす。鈍く、赤い光を反射する銃口が微かに揺れ、その奥に青白い光が灯るのが分かった。凄まじい神秘濃度、まるで身を焦がす太陽の如く強烈で、鮮烈な。

 

「私達の、悲劇と慟哭に塗れた物語(ブルーアーカイブ)を」

 

 紫がかった瞳に縦長の瞳孔、しかし、そこに感情らしい感情は一切覗かせず。

 彼女――空崎ヒナ(異なる世界のヒナ)は先生へと送る言葉を紡ぎ、その引き金を絞った。

 

「――もう一度」

 

 

 

 カルバノグの兎編 完。

 


 

【今後の方針と私信】

 

 各章の終わりは、出来得る限り明るく、未来を感じさせる終わり方が良いという方針がありましたの。

 アビドス編も、エデン条約前・後編も、パヴァーヌ後編も、なるべくそれに沿った締め方を意識していましたわ~!

 しかし、このカルバノグの兎編はSRTの生徒達の物語であり、同時に最終編の前段階。云わばラストスパートへの助走、先生の積み重ねて来た罪悪、繰り返して来た時の因果、紡いで来た絆と為して来た全てを清算する瞬間こそが、最終編なのです。

 アビドス編の時、私がエデン条約を書きたくて仕方なかった様に。

 ずっと、ずっとずっとずっと、この最終編を描けるこの瞬間を待っていましたわァ~! 

 

 初めて先生の腕を捥いだあの日の事を、私は今でも鮮明に憶えております。刻一刻と失われる生命と、それでも地面に這い蹲って抗おうとする先生は美しく、貴く、人間の懸命に生きる姿とは何と素晴らしいものかと、心の底から楽しみながら書けたものです。

 あの日の私は唯々、先生の腕を捥ぎたかった。血だまりに沈んだ先生を直視して必死に何とかしようとして、どうにも出来ない生徒達の姿を見て愛を感じたかった……ッ! 覆い隠す事の出来ない涙の向こう側には、決してまやかしなどではない素晴らしい愛があると信じていたんですの!

 私は耐えた、耐えたんですのよ……ッ! 先生の腕を捥いだエデン条約後編・前から、ベアトリーチェ決戦に至るまで。そしてダイジェストのパヴァーヌ前編、愛と勇気と希望の後編、そして今回の随分と長くなってしまったカルバノグの兎編という名の最終編前編……! 

 この百何十万字に渡る血と汗の結晶は、全て、全て全てこの時(最終編)の為に!

 

 次章最終編、最早遠慮などありませんわ、私の性癖と愛と先生に対する想いを余すことなく全部ぶちまけます事よ~ッ!

 エデン条約から何で後書きが無くなったと想っていらっしゃるの? 全部最終編に凝縮させる為ですわよッ! 本編ではゲマトリアが諸々奪われて虚妄のサンクトゥムの兵力が総力戦メンバーになりましたが、私の作品では虚妄のサンクトゥムを防衛するのは、先生が取りこぼした生徒達でしてよッ!

 

 つまり便利屋全滅エンド後にアウトロー(真)になったアルちゃんとか、先生を犠牲にしたこの世界にはきっと価値がある筈だと自身に云い聞かせながらシスターフッドを継いで延々と手を汚し続けるハナコとか、大事な時に立ち上がれなくて全部失ってそれぞれ大切な仲間の名前を付けた機械人形と一緒に冒険を続けているユズとか。

 そういう救われなかった生徒達に、今のキラキラ輝いて眩い生徒達の希望の光をこれでもかと翳し対峙する愛と勇気と透き通った世界観のお話が私の最終編ですわ~ッ!

 うぅ先生、死にそうな体引き摺りながら目の前で取りこぼした生徒がもう一回消えていくとこみてて……。涙を呑んで、悲鳴を押し殺し、進む先生の姿は貴い、いっぱい好き♡ だから沢山傷付いてからお宙の上で爆散しようね! 先生いぎでぇ~ッ! 死んじゃいやですわぁ~ッ!

 まぁでも、生徒達が幸せならオッケーですわね!

 

 ウォ~! 創作意欲の沸く音~!

 兎にも角にも、最終編はきっと最高に楽しみながら書ける筈なのでワクワクが止まりませんわ~! ひとまずいつも通り、一ヶ月か二ヶ月のお休みを頂きますの! また何かあればTwitter(新:X)の方で報告致しますわ!

 今月中にもう一本、何とか漫画も上げたいですわね……!

 

 それでは皆様、どうせここまで読んだのですから感想、ここ好き、評価などお願い致しますわね~ッ!

 また次章、最終編でお会い致しましょう!

 わっぴ~!

 

 

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