ブルーアーカイブを、もう一度。   作:トクサン

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誤字脱字報告、ありがとうございます。


便利屋の矜持

 

『――せッ、せ……んせいッ!』

「ぅ……ぐッ……!」

 

 酷い耳鳴りがした。その奥から、誰かが叫んでいる。

 こんな風になるのは何度目か――指折り数える事が出来る程度には、経験した状況だった。最初に聞こえたのは声、そして感じたのは痛み。頭部と背中、それから脇腹、腕全体。数えれば切りがないが、痛覚というのは大事だ。これが無くなると――本当に後がない。

 腕は――取れていない。足も、千切れていない。五体満足、神経の通った感覚に一先ず安堵する。

 しかし視界は不良、霞み、良く見えない、ただ両手に抱きしめた彼女の体温と、床に滑り落ちたタブレットの光だけは辛うじて分かる。軋む体に鞭打って、タブレットと思わしき光に指を伸ばす。タブレット表面には『emergency』(緊急事態)の文字が躍っていた。その下には自身の生体モニタが表示され、本来オールグリーンである筈の人体表記が、所々黄色く点滅している。右上に見えるバッテリーは、ごっそりと減少していた。

 

「……アロナの、防壁が辛うじて……間に合ったのか」

 

 回収したタブレットを掴み、思わず呟く。爆発の瞬間、恐らく向こう側から干渉しこの体を守ってくれたのだろう。まさか、ハルカの爆発を阻止した途端、こんな結末になるとは。まさしく、流れは変えられないという事なのか――或いは、ゲマトリア用に偽装プロトコルを走らせていたのが仇となったか。

 

 ぽたりと、先生の額から赤が滴り落ちた。

 

「ぁ――あぁ………ッ!」

「ハルカ――」

 

 先生の腕の中で、ハルカが酷く震える。

 その瞳孔は開き切って、先生の砂塵に塗れ薄汚れた制服と、今なお頭部から滴り落ちる血を見ていた。ハルカの震える指先が、恐る恐る先生の頬に触れる。がちがちと歯を鳴らすハルカが、何度も何度も噛みながら言葉を紡いだ。

 

「せ、せんせっ、何で、何で私なんか守ッ……わ、わた、わたしっ……!」

「生徒を守らない先生が、何処にいるのさ……!」

 

 血を流しながらも、先生は努めて笑顔を浮かべる。痛みからか、額には汗が滲んでいたが、ハルカにはそれに気付くだけの余裕が無かった。背中に圧し掛かったテーブルの残骸を押し退け、先生は立ち上がろうとする。しかし、膝に力が入らず、その場で両腕を突いた。仰向けに転がったハルカの頬に、先生の赤が垂れる。

 ひっ、とハルカが怯えた目で自身に触れた赤を見た。

 

「ぐッ……キヴォトス動乱の時も、もっと体を鍛えておけばと思って、いたけれど……! どれだけ鍛えようと、所詮私は……人間か……!」

『せ、先生! その場所は危険です、早く移動を――!』

「分かっては……いるよ」

 

 そう云って、先生は自身の足を見た。膝が震え、まともに立つ事すらままならない。頭部に衝撃を受けた為か、平衡感覚も怪しい。様々な感情に呑まれ、硬直し、震える事しか出来ないハルカを見下ろし、先生は決断を迫られた。

 

「先生――ッ!?」

「! カヨコ……っ」

 

 先生が腹を括ろうと覚悟を決めかけた時――砂塵を裂き、崩れ落ちた天井の残骸を押し退け、カヨコが姿を見せる。彼女は血を流し、赤と砂塵の混じった制服を纏う先生を見て、思わず息を呑んだ。表情を険しくし、先生の元へと駆け寄ったカヨコは頭部の出血場所を探し、先生の頬を掴んで目を真っ直ぐ見据える。

 

「っ、頭部から血が出ている、痛みとか吐き気は? 手足に痺れは?」

「大丈夫だよ、ただ、ちょっと自分で歩くのは無理かな……カヨコの方は、怪我はなかった?」

「ッ――私の心配より、自分の心配をしてよッ!」

 

 這い蹲りながらも苦笑を零し、カヨコの心配を口にする先生に対し彼女は思わず声を荒げた。この人はどこまで――ッ! キヴォトスと外の人間では、そもそも肉体的な強度に天と地の差があるというのに!

 そんな思いを噛み殺し、カヨコは徐々に晴れ始めた砂塵に舌打ちを零す。動かす事は悪手と考えながらも、先生の下に腕を潜り込ませて引き起こす。此処に居たら最悪、風紀委員会との銃撃戦に巻き込まれる可能性が高い。しかし引き起こす最中、彼女は先生の背中に深々と刺さった木片に気付いた。恐らくテーブルか何かが爆ぜた時、運悪く突き刺さってしまったのだろう。

 

「ッ……! 先生、背中に破片がっ――」

「ぐっ……抜かないで、最悪、血が足りなくなる」

「っ、くそッ!」

 

 彼女らしからぬ悪態を吐き、カヨコは先生を引き摺りながら未だ倒れたまま震えるハルカに向かって叫んだ。

 

「ハルカ、早く立ってッ! 外に風紀委員会が来ているから、応戦しないとッ!」

「――ぅ、ぁ、あぁ……」

「っく……!」

 

 ハルカは、カヨコの言葉に反応すら示さない。思わず、罵声が口をついて出そうになったのを堪える。

 そんな三人の前に、アルが手で砂塵を払いながら現れた。

 

「けほッ、ゴッホ! な、何よこれ!? 何なの!? 砲撃? 誰よもうッ! ――って、先生!? ちょ、血、血が出ているわよ!? 大丈夫なのソレ!?」

「あ、はは、大丈夫だよ……」

「先生、ちょっと黙って!」

 

 崩壊した周囲に驚愕し、それから血を流しながら引き摺られる先生に蒼褪めた表情を浮かべるアル。しかし今は白目を剥いている時でもなければ、お喋りに興じる場合でもない。

 

「ち、血がこんなに……こ、これ、お医者さん! 病院に連れて行かないと……!」

「もう囲まれている、こんな中先生を担いで外には出られない! まずは押し返すなり、包囲網に穴を空けないと――」

「お、押し返すって、あんな人数相手に……!?」

「――痛ったぁ……アルちゃん、無事~?」

 

 アルの背後から瓦礫を押し退け顔を出したムツキは、目の前に立つアルの姿を認めほっと胸を撫で下ろす。それから彼女の向こう側に居るカヨコに目を向け――彼女の引き摺る、血塗れの先生を見た。

 

「……は?」

 

 ムツキは一瞬、硬直する。自分の視界に映るソレに思考が停止し、砂利と血に染まった先生の制服に、手に持った愛用のバッグを痛い位に握り締めた。

 視線は自然と、柴関を包囲する風紀委員会へと向けられる。ビキリ、と。ムツキの額に青筋が浮かんだ。乱雑に周囲の瓦礫を蹴飛ばした彼女はバッグの中から愛銃を引き抜き、凄まじい形相で風紀委員会を睨みつける。

 

「――あいつら……ッ! アルちゃん! 私達で抑えるよッ! 急いでッ!」

「えっ!? え、えぇッ! あ、あいつ等って、外の風紀委員会よね……? というか、一体なにがどうなって、先生は――」

「風紀委員会が此処に迫撃砲を叩き込んだのッ! そのせいで先生があんなになって、店はぐちゃぐちゃッ! 他に聞きたい事は!? ないよねッ!? ならホラ、行くよッ! まずは連中をぶっ飛ばしてから考えるッ! いつかは戦わなきゃいけない敵が来た、それが今日っ!」

「っ――わ、分かったわよッ!」

 

 ムツキに手を引かれ、アルは慌てて地面に転がっていた自分の愛銃を手に取る。表面に付着した砂塵を払い、弾詰まりなどが起こっていない事を確認した後、アルはカヨコに向かって叫んだ。

 

「カヨコ! 先生とハルカをお願いねッ!?」

「分かっているっ、って!」

 

 一先ず、店の奥へと運べば安全な筈だ。そう考え先生を引き摺っていたカヨコは、カウンターの下から這い出して来た大将を見て驚き、危うく銃に手を伸ばしかけた。

 

「っと、先生か!?」

「っ、大将! 無事で良かった……!」

 

 先生がそう云って微笑むと、大将は先生に駆け寄りながらカヨコの代わりに先生の体を支える。カヨコはそれを見届けると、ホルスターから愛銃を取り出し、弾倉を確認して安全装置を弾いた。

 

「云っている場合かよ! ヒデェ顔色だぞ!」

「――大将、先生を!」

「あ、あぁ、任せろ!」

「いッ……!」

「痛むか、ちっと我慢してくれ先生っ!」

 

 カヨコは外へと向かって駆け出し、先生は大将に担がれる。流石にキヴォトスの住人だけあって、力はある。先生を横抱きにした大将は、そのまま奥の倉庫へと小走りで向かった。その姿を、ハルカは這い蹲ったまま眺めている。

 

「は、ハルカ……!」

「せん、せんせっ……!」

 

 思わず手を伸ばしたハルカに、先生は血の滲む唇のまま――云った。

 

「便利屋の皆を、頼む……っ!」

「―――」

 

 その言葉を最後に、店の奥へと担ぎ込まれる先生。その背中を見送った後、ハルカは自分の頭を抱える様に蹲った。頬に付着していた先生の血が流れ、ハルカの唇に触れる。少量口に入ったそれは、鉄の味がした。

 

 血を流した――先生が。

 私を、私なんかを庇って。

 こんな何の価値もない、塵屑同然の自分を庇って、怪我をした。

 

 ハルカは数秒、蹲ったまま動きを止めた。震えも――止まった。それは、限界を超えた為だった。

 自分には、価値がない。過去、己に与えられたものは嘲りと、罵倒と、侮蔑と、悪意のみだった。それだけが自身の価値を証明する全てだった。だから自分は、何の価値もない塵屑の様に、分相応の生き方をしなければならない。道端で踏みつけられる事もない、誰にも意識されず、何の感慨も与えず、ただそこに在るだけの様な雑草の如く。静かで、無価値で、無感動で、無駄で――思う事もない、思われる事もない、それが自分の生き方。

 大人は、助けてくれない。誰も助けてはくれない――ただひとり、アルという少女を除いて。

 

 便利屋の皆は、優しい。烏滸がましいけれど、友達だと思っている。仲間だと思っている。こんな私が余りにも傲慢で、あり得ない、妄想の様なものだけれど、そう思ってしまっている。

 

 ――じゃあ、先生は(ハルカ)にとって、何だ?

 

 胸に渦巻くのは後悔と懺悔と謝罪と申し訳なさと、それに勝るどす黒い感情。

 ふらふらと覚束ない足取りで立ち上がったハルカは、自分の頬に付着した先生の血を指先で拭い、自分の唇に塗りつける。

 そして未だ左右に揺れる瞳で、床に落ちていた愛銃(ブローアウェイ)を見つけ出し、拾い上げた。砂利に塗れたそれを、指先で乱雑に拭い、安全装置を弾く。

 

「――ぁ」

 

 ふと足元に、先生のくれた飴が砕け、砂に塗れて転がっているのが見えた。先生がくれた、プレゼントしてくれたもの。ハルカは力なく跪き、その欠片を砂ごと、一つ一つ口に放り込む。

 じゃり、と。

 噛むと、砂の味に僅かな甘みがあった。

 鉄と、砂と、飴の味。

 

「……恩返し、しなきゃ」

 

 砂に塗れた口を拭い、立ち上がる。

 

「た、助けて貰ったんだから、い、命がけで、わた、私なんかを、あ、あんな優しくて、良い人が、代わりに血、血なんか流してまで、あ、あんな、あああ、あんな―――」

 

 ふらふらと、愛銃を抱えたまま柴関の出入り口まで進む。迫撃砲によって出入口周りの壁は吹き飛び、殆ど吹き抜けになってしまっていたが、ハルカは丁寧に扉のあった場所から、瓦礫を踏まない様に外へと出た。

 外では既に便利屋と風紀委員会による射撃戦が繰り広げられている。多勢に無勢ではあるものの、どこか鬼気迫る様子の便利屋68の様子に、風紀委員会は呑まれかけていた。

 アルと風紀委員会メンバーである銀鏡イオリは、至急距離で銃撃戦を繰り広げながらも怒鳴り合い、周囲の委員が巻き込まれ、悲鳴が上がっている。

 

「よくもまぁ、こうも白昼堂々と……ッ! ウチの経営顧問を殺すつもりだったのかしら!?」

「経営顧問!? 何の話だッ、私達の目的はお前達便利屋で……というか民間人が同じ席に居たなんて、事前偵察じゃ何の反応も――」

 

 イオリが何かしらの弁明をしている最中、不意にその横腹に向かって銃撃が叩き込まれた。イオリの体が折れ曲がり、反対方向へと吹き飛ぶ。盛大な音を立てて瓦礫に突っ込んだイオリは砂塵を巻き起こし、そのまま沈黙した。

 アルが銃弾の飛来した方向を見れば、ハルカがショットガンを腰だめに構えたまま俯いていた。銃口からは、硝煙が立ち上っている。

 

「ハルカ!?」

「っ、起きたのか……!」

 

 カヨコが拳銃で射撃を敢行しながらハルカの傍に駆け寄り、そのまま最寄りの瓦礫に突っ立ったままのハルカを引き摺り込む。そして未だショットガンを強く握り締めるハルカに、カヨコは強い口調で告げた。

 

「ハルカ、動ける? なら私と前線を張って、社長とムツキが後方で火力を担当するから、直ぐに――」

「……さない――い、ゆる――」

 

 しかし、カヨコの言葉が届いている様子はない。

 ハルカはグリップが軋む程に強く握り締め、その顔は俯いて伺えない。

 

「……ハルカ?」

「許さない、許さない、許さない許さない許さない――ッ!」

 

 訝し気にカヨコが問いかけ、肩に手を掛けた途端――それを跳ねのけ、ハルカは血走った目で瓦礫から飛び出した。咄嗟の事に反応出来ず、近くに居た風紀委員の一人は無防備な顔面に、至近距離で散弾を叩き込まれる。

 

「――ぶっ殺してやるッ!」

「へぶッ!?」

 

 顔面が弾け飛び、そのまま後方へと倒れるゲヘナ風紀委員会メンバー。倒れた彼女を足蹴にし、周囲に居る風紀委員会目掛けて手あたり次第射撃を行うハルカ。弾丸の雨を潜り抜け、時に被弾しながらも決して怯まず。ストックで顔面を殴りつけ、至近距離で胴体を吹き飛ばし、時に全力で踏みつけ意識を奪う。

 ハルカは全身から夥しい殺気と怒気を撒き散らしながら、目に見える範囲の風紀委員に次々と飛び掛かった。

 

「うああァアアアアアアッ!」

「は、ハルカッ!?」

「あはッ、あはははッ! ノリノリじゃん、ハルカちゃん! 良いよ良いよっ、なら私も、先生に怪我させちゃったんだし――本気出さないとねぇッ!?」

 

 ハルカの豹変にアルは驚愕し、ムツキは同調する。カヨコは突出する二人に対し制止を掛けようとして――手足に走った痺れに思わず動きを止めた。

 

「なに――ぅッ!?」

 

 次の瞬間、僅かな頭痛と視界に走るノイズに顔を顰める。そして数度瞬きを終えればノイズも消え去り、視界の中に無数の赤い輪郭が飛び込んで来た。

 ――敵勢力であるゲヘナ風紀委員会の潜む場所だ、それが壁越しからでも視界にはっきりと表示されていた。

 更に敵の構える銃から発射されるであろう弾丸の予測線、演算から導き出される遮蔽物の安全箇所と危険個所、現在の場所から射撃を行って命中する確率、手に持っている愛銃の残弾、残りの弾倉、立体化した周辺地形の3Dマップ、湿度や風の有無――それらの情報が視界に、直感的な形で表示されていた。

 宛ら近未来の戦闘オペレーティングシステム、網膜投影でもされているかのような臨場感に、カヨコは戦慄する。

 

「なに、これ――」

 

 思わず呟き、自身の両手を見下ろした。そして気付く、こんな事が出来る人は――カヨコの知る限り、一人しかいない。

 

「もしかして……先生?」

 

 ■

 

「た、大将、早く避難を……」

「馬鹿、常連のお前さんを置いて逃げられるかよ!」

 

 そう云って壁際に先生を下ろした大将は、先生の目に滲んでいた血を袖で拭う。目の上を少し切ったらしい、頭部の血も止まる様子が無い。しかし、重症ではないという確信が先生にはあった。これよりも酷い負傷を何度となく経験して来た。

 今更、この程度。

 

「大丈夫です、命に関わる傷ではありません……多少脳が揺れて、表面を切っただけですから」

「だとしても、此処で先生を見捨てて逃げちまったら、アビドスの皆に合わせる顔がなくなっちまう、セリカちゃんにも叱られちまうぜ」

 

 そう云って肩を竦める大将に、先生は思わず破顔した。

 

「――やっぱりあなたは、善人だ」

 

 告げ、先生は手元のタブレットに視線を向ける。柴関の店奥、倉庫は今の所安全ではある。しかし時折、銃弾が壁を叩く音が聞こえていた。外の戦闘は激化の一途を辿っている、便利屋と風紀委員会の双方が全力戦闘を行っているのだ――飲食店に問答無用で迫撃砲を叩き込む行為は、どう考えても褒められたものではないが、自身の負傷に関しては完全な事故だろう。向こうも、よもや外部の人間が迫撃砲の範囲内に居たなど思っても居なかった筈だ。何せ今の先生は、先生自身が許可したドローンカメラか、生徒の肉眼でしか認識されない。認識外に対する完全反応遮断(対ゲマトリアプロトコル)を展開している――これが完全に仇となった。

 であるならば、自身が取るべき行動は一つしかない。

 

「アロナ、バッテリーは後、どれくらいもつ……?」

『せ、先生、無茶です! 万が一、先程の様に砲撃を撃ち込まれても防御出来る様に、バッテリーには余裕を――』

「私の生徒が、直ぐ傍で戦っているんだ」

 

 タブレットを強く掴み、先生は顔を上げ、云った。

 

「それを、指を咥えて見ているつもりはないよ」

 

 そこには痛烈な意思があった。

 此処で静観何て事はあり得ない、生徒が戦い続ける限り、先生である自分が何もしないなんて事は――あってはいけない。どれだけの傷を負っても、どれだけの苦境であっても、生徒が銃を取る限り、先生はそれを助ける義務がある。

 例え敗北するとしても、最後の一人が膝を折る、その瞬間まで――先生である己は、共に戦い続ける、そう誓った。

 

「戦闘を止める為にも、便利屋の皆を支援して一度風紀委員会を退かせる、話し合う為にもそれは必須事項だ――エデン条約の為にも、生徒間の不和は出来る限り失くしておきたい」

『先生――!』

「大将、お願いがあります」

 

 アロナの制止を振り切り、先生は大将へと目を向ける。

 

「な、何だ」

「私の背中に刺さった破片、一息に抜いて頂けませんか」

「なッ、馬鹿、それを抜いたら血が出ちまうッ!」

「……この破片のせいで、左腕が余り動きません、いや、動かし辛いというべきか――戦場に立つなら、これは邪魔です」

「先生さん、あんた――」

「お願いします」

 

 深く、頭を下げる。床に血が滴る音と、くぐもった銃声だけが倉庫に響いた。大将は頭を掻いて、唸りながら何度も何かを口にしようとし――しかし、「くそッ」と悪態を吐いた後、先生の肩を叩いた。

 

「……くたばるんじゃねぇぞ先生、アンタが死んじまったら、アビドスの生徒さんが悲しんじまう」

「――えぇ、斃れませんよ、私は」

 

 そこだけは約束する。

 ここで斃れてしまえば、ゲヘナと要らぬ確執を生む。それはエデン条約に於いて、予測できない結果を生むだろう。

 大将は立ち上がると倉庫の中から、古い救急キットを探し出した。ガラスケースの中に入ったそれは、中身こそ綺麗なものだが、ケース表面には埃が薄らと積もっている。長い間使われていなかったのだろう。大将はそれを開きながら、先生の背中に突き刺さった木片に目を向けた。

 

「念の為備え付けてあったモンだ、一応定期的に交換はしているが……」

「構いません、お願いします」

 

 先生が背を向ければ、大将は背中に手で触れる。破片を抜き、消毒液をぶっかけ、傷跡を覆う――やる事は単純だ、残った細かい木片だとか縫合だとかはアロナとクラフトチェンバーの超技術がどうとでもしてくれる。

 大将が息を呑み、木片に手を添えた。

 

「……行くぞ、先生さん――!」

「はい――アロナ」

『っ~!』

 

 アロナが何かを云おうと口を開いた瞬間、大将は突き刺さっていた木片を一気に引き抜いた。背中を貫く激痛に思わず悲鳴が漏れ、先生の体が撓る。

 

「ぅ、ぐぅッ……!」

『――く、クラフトチェンバー、生成物質を固定化しますっ!』

 

 音を立てて転がる血塗れの木片に目を向けながら、アロナは慌てて先生の傍に、必要な物資を転送させた。それは何層にも重ね、積まれた肌色のシート。ぱっと見は人の皮膚を切り取ったような外見をした代物だった。そして、その隣にはプラスチック製の細長いケースが三つ。中身は注射器の様な代物で、丁寧に並べられたまま転送されていた。

 先生の傷痕にガーゼを押し当てながら消毒液を掛ける大将は、唐突に現れたそれを見て目を見開く。

 

「っ、こいつは何だ!?」

「た、大将……それを、私に打ってッ――シートは血を拭って、張り付けて下さい……!」

「分かった、捲るぞ!」

 

 そう頼まれた大将は、慣れない手つきでガーゼを動かし先生の背中を抑える。もう片方の手でケースを開けると、中の注射器を取り出し、一瞬迷いを見せながらも先生のシャツを捲りあげた。

 そして――大将の目に映る、夥しい数の傷痕。

 

「なッ――せ、先生さん、こりゃあ、一体……!?」

 

 それは、明らかに今出来た傷ではない。もっと前からある、古傷だ。背中、脇腹、肩、どこもかしこも見る限り刻まれた、銃創、切創、挫創、刺創、擦創、裂創、爆創――判断できない傷もあれば、明らかに分かる傷もある。刻まれたそれらの、余りの多さと深さに、大将は思わず言葉を失った。

 

「大将、今はッ……!」

「――あ、あぁ!」

 

 しかし、それを説明する余裕も、時間もない。大将は先生の絞り出した声に意識を戻し、先生の肩に注射器を突き立てた。注射器は空気の抜ける小さな音を鳴らし、針もなく先生の体内に薬品を打ち込む。しかし、血は一向に止まらない。心なしか先生の顔色も蒼褪めていた。

 

「止まらねぇ、血が止まらねぇぞ!?」

「注射が効けば問題ありません、そのまま貼り付けて……早く!」

「わ、分かった!」

 

 大将は血塗れのガーゼを放り捨てると、重ねられたシート――人工皮膚を先生の背中に貼り付ける。皮膚は血が付着しているというのに、呆気なく先生の背中に貼り付き、僅かな赤みを残して――出血は一先ず、止まった。

 

「これで……良いのか?」

「えぇ……包帯代わりには、なる筈です」

 

 呟き、先生はその場に這いつくばる。痛みで意識は戻ったが、出血で立ち眩みがあった。致死量にはまだまだ及ばないだろうが――十全なパフォーマンスを発揮するには、少々流し過ぎたかもしれない。

 

「この、皮膚みてぇなのは何だ……?」

「保護膜――人工皮膚って云った方が分かり易いかもしれません、ね」

「血は止まるのか?」

「……布よりはマシでしょう」

 

 答え、先生は捲れたシャツを正し、上着を着込む。一先ずこれで動けるだけの土台は整った。戦闘を行うと云うのに、背中に破片を刺したままというのも格好が悪い。何より、何かの拍子でより深く差し込んでしまえば、本当に取り返しが付かなくなる。先程打ったECも、効果が発揮されてくる筈だった。最悪、今だけでも動ければ、数日寝たきりになっても構わない。

 

「アロナ……」

『先生――』

「砲撃の時は助かった、予想外の砲撃を良く防いでくれたよ」

『……完全ではありません、衝撃や破片を完全に防げなかったアロナが――!』

「それでもだ」

 

 アロナの言葉を遮り、先生は脂汗を流しながら力なく微笑む。

 

「まさか……こんな風に運命が捻じ曲がるとは思っていなかった、想定外だ、それを防いでくれただけでも、儲けものだろう」

『――っ』

「頼むよアロナ、私を――まだ、先生でいさせてくれ」

 

 先生の言葉に、青い教室に佇むアロナは静かに目を瞑った。葛藤があるのだろう、彼女としては第一に先生の安全の確保が最優先。しかし、ここで駄目だと云えば、そのまま生身で飛び出してしまいそうな恐ろしさが先生にはある。実際、そんな場面を何度となく見て来たのだから。

 アロナは目を見開き、数秒先生と視線を交わし――軈て根負けしたように、小さく笑って、仕方なさそうに云った。

 

『分かりました、便利屋の皆さんとラインを繋ぎます――先生は……あなたは、いつだってそうでしたから』

「――ありがとう、アロナ」

 

 ■

 

「くふふッ、何だか良く分からないけれどッ、すっごく便利じゃん!? 爆発範囲まで予測されるんだ、あははっ! すごーい!」

 

 ムツキは自身の視界に現れたサポート項目に、嬉々として順応する。向けられた銃口が見えずとも、飛来する弾丸の予測線がレッドラインとして四方から視認出来る。躍る様に弾丸を掻い潜り、彼女はバッグから次々と爆発物を取り出し、愛銃で銃弾をばらまきながら投擲する。

 爆発した場合の規模、爆発範囲、投擲予測地点――まるで自分の為に存在するようなサポートだと思った。

 

「先生、あんな状態で無理して――っ! 後でお説教ねッ!」

 

 アルは唐突な変化に戸惑い、驚きつつも、それを為したのであろう人物にあたりを付け怒りを覚える。少なくとも、無茶が利く様な体ではなかった筈だ。

 

「でも、これがあれば――っ!」

 

 告げ、片手でライフルを構えたアルは一見、見当違いな方向へと銃口を向け――射撃。

 しかし彼女の視界には、自身の弾頭が辿る道筋がはっきりと見えている。

 アルの放った弾丸は近場の公道、その縁石に弾かれ、障害物に身を隠していた風紀委員会のメンバー、その一人を真横から襲撃した。

 弾丸は狙ったかのように側頭部へと着弾し、彼女は何が起こったのか理解せぬまま意識を失う。

 

「なッ、ちょ、跳弾!?」

「何それ――ぐあッ!」

「あっはは! 命中よッ!」

 

 最早、身を隠そうとも意味を為さない、超高精度の曲がる弾丸。アルの射程範囲内であれば、三百六十度すべてが彼女の射線である。

 

「死んで下さい死んで下さい死んで死んで死んでッ!」

「ちょ、待っ――ごはッ!?」

「こ、コイツ、止まらな――アダァッ!?」

「ハルカ……声は聞こえないか、でも前線の敵は釘付けになっているから、役割は果たしているのは不幸中の幸い――」

 

 カヨコはアルとムツキ、そしてハルカの健闘を横目に呟く。

 狂ったように突撃を繰り返し、至近距離でショットガンを連射し続けるハルカ。此方の声は完全に届いていないが、彼女らしからぬ奮闘が風紀委員会の目を惹いている。特に、その残虐性も注目の的だ。倒れた風紀委員に圧し掛かり、何度も何度も銃撃を叩き込むその様は悪鬼羅刹もかくやという程。ムツキの爆発も派手であり、この二人が目下風紀委員会のヘイトを買っている。その間隙を縫うように、アルとカヨコの射撃が堅実に、確実に敵の数を削いでいる。

 普段の作戦の延長線上ではあるが――良くも悪くも、先生のサポートがそれに拍車を掛けていた。殲滅速度が目に見えて早い。

 

「くそ、何なんだお前等!? こんな、聞いて――」

「――邪魔」

 

 不用意に顔を出した風紀委員会のメンバーを、カヨコは素早く照準し、射撃。頭部に一発、胸部に二発受けた彼女はそのまま崩れ落ち、手元に落ちた銃をカヨコは蹴飛ばす。

 

「――別にそんな、長い間一緒に過ごした訳でもないし、先生の何を知っているって訳じゃない……でも、あの人が生徒想いの善人だって事位、私にだって分かる」

「な、何を……」

「私だって、怒っているって事……!」

 

 吐き捨て、カヨコは次なる風紀委員へと銃口を向けた。

 


 

 次回、アビドス参戦。

 うぅ……先生血塗れになるとこみてて……。

 

 何で先生の手足って四本しかないんだろう?

 もっと一杯あれば、それだけ生徒の愛を感じる回数が増えるのに。

 先生は進化の過程で生徒の愛を考慮しなかったのかな? そういう所あるよね先生、ちゃんと反省して下さい。

 

 前回の後書きは先生が生き残っちゃってごめんね、先生がやっと血を流してくれたから、そっちの方に注力して私の純愛が今回の本編一万字に流れ込んでしまったんだ……基本的に本編で先生が精神的にでも物理的にでもボコボコにされている時は、そっちに愛が傾いてしまうから、その時は、「あっ、そうだよなぁ、本編の先生頑張っているもんなぁ、後書きでも捥いじゃったら可哀そうだもんな」と思って下さい。

 元々後書きは本編が平和すぎて、「んほー、先生ボコして生徒の愛を感じたいけれど、それ本編でやるとストーリーライン狂っちゃ~う……せや! 後書きで先生ボコボコにして生徒泣かしたろ! これでノーベル平和賞は私のモンや!」という発想から始まったものなので、本編で先生がボコされたら消え去るのは自然な流れ。

 最近ずっと投稿、感想返信の反復横跳びだったから作品の評価とか見れていなかったんですが、思った以上に支持者が多くて、「あっ、私のこれって一般性癖なんだ、よかったぁ」って思ったからお気に入りと評価をして性癖カウンター(評価数)を上昇させ、「生徒の泣き顔で、皆を笑顔に」は一般性癖であると胸を張って叫ぼうね。

 ノーベル平和受賞したら壇上でブルーアーカイブ(泣き顔&ピース)への愛を叫んであげるよ! 

 

 そしてイオリスキーの皆さま、ご安心ください。この件でイオリが周囲から孤立したり、シャーレの面々から白い目で見られたり、「アンタのせいで先生はッ!」とセリカに突き飛ばされ、「ち、ちが、私っ、そんなつもりじゃ……!」となる事はありません。

 

 ただちょっとイオリは気難しいので、初手負傷する事により、「あ~、あの時の傷が痛いわ~! 何か血が出てきそうだわ~! めっちゃまだ跡のこっているわ~! たまに夢に見るわ~! つらいわぁ~!」とアピールする事によって、イオリを「ふぐぅ……」させ、合法的に足を舐める事が出来る様になるんですね。損害と賠償請求は大人の特権。

 このまま何かにつけて、「あ~、イオリの背中舐めたら元気出るんだけどなぁ~!」とか、「あ~、イオリの小学校の頃の写真貰えたら傷治りそうだなぁ~!」とか、あらゆる手でイオリを辱めてあげるから、待っていてね♡ 先生の怪我のせいで手も出せないし、真っ赤になりながらも言いなりになるしかないイオリ、美しいべ……。消えろ、光のわだす!

 

 イオリってぶっちゃけ怪我を言い訳にしたらどこまでやってくれるんだろう。信頼度多少あれば『ハナコッ! 管理』とか、『お風呂でハナコッ! プレイ』とかはギリギリ請け負ってくれそうな感じある。でも多分最中は、「変態! ヘンタイッ! キモイ! 死ねッ!」と云ってくるぞ。まぁ先生はそんな事頼まないけれどな! 

 でもお風呂で背中流すくらいなら先生頼みそう。「わ、私は目隠しをするからなッ!」と云って、目を布で覆ったイオリに背中を流すよう頼んで、石鹸とタオルを片手に手探りで先生の背中を探すイオリを、バスタブの中から眺めていたい。多分、「せ、先生? ちょっと、何処にいるんだ……?」ってなって、数分したら気付くと思う。

 おちょくられた事に怒って、顔を真っ赤にしながら目隠しとタオルを床に叩きつけて、「ほんときらいッ!」と云いながらズンズン風呂場を後にするイオリ……うーん、芸術。

 

 その後、何だかんだ言って一人で風呂に入れるのか心配になって、ちらちら風呂場を気にするイオリは良い子だね。先生があがった後、着替えを手伝おうと思って少し経ってから洗面台を覗いたら、思ったより良い体をした先生に赤面した後、周回を重ねても消えない先生のエグイ数の傷痕に蒼褪めて欲しい。

 

「せ、先生、なんだ、その傷痕……」って震えた声で聴いた後、先生は見られたことに気まずそうにしながら、「ま、色々ね」って誤魔化すんだ。その後、バレちゃったなら仕方ないとクラフトチェンバーから保護膜を生成して、背中とか肩とかお腹にそれらを張り付けるんだ。薄い保護膜は皮膚に張り付けると殆ど見分けが付かなくて、先生の古傷を隠してくれる。だから毎日先生は夜にこうやって、自分の傷を隠す為に保護膜を貼っていた。まだ傷が痛むからとイオリにその作業を手伝って貰って、イオリは意気消沈しながら、「この傷は、何だ」、「こっちは、銃創だぞ」って問い掛けるんだ。

 先生は何度も問いかけて来るイオリに、「……もう大分前の事だから、忘れちゃったよ」とお道化た様に軽口をたたくのだけれど、不意にイオリが先生の顔を掴んで、自分の目を真っ直ぐ見つめさせる。

「なら、私の付けた傷も、そうやって忘れるのか!?」、そう云って悲しそうに顔を歪めるイオリに、先生は一瞬、くしゃりと表情を変え、「……ごめん」と呟く。

 その後、お互いに何も話さずに先生の古傷を全部隠し終えた後、「イオリ、添い寝してくれない?」って先生に云わせたい。

 イオリは一瞬、何を云われたのか分からなくて、理解した瞬間耳を赤く染めるのだけれど、顔を上げた瞬間に見えた、先生の寂しそうな、泣きそうな表情に、口をつこうとした言葉は奥に消えて――「傷がどうこうって、云わないの?」って軽口の後に、そっと先生の胸に額を押し付けて欲しい。

 

 そのまま先生の私室で横になって、大人の男性の隣で横になっているってそういう事だよなとか、こんな風に異性と二人きりで同じ部屋とかどうかしているとか、色々思う事はあるのだけれど、そういう雰囲気には全然ならなくて。

 二人の間にあるほんの僅かな距離、少しだけ手を動かせば触れられる距離が、イオリにとってはとても大きなものに見えて。色々聞きたい事も、知りたい事もあるのに、それを聞き出した途端、先生が遠くに行ってしまう様な気がして。私らしくないと思いながらも二の足を踏むイオリに、先生はそっと手を伸ばしてイオリの手を握るんだ。

 そのことにビクンと体を震わせながらも、イオリは先生を見て。

 先生は目を瞑ったまま、静かに、「おやすみ」って云うんだ。

 イオリはそんな先生に、ずるいとか、卑怯だとか、色々言葉を思い浮かべるんだけれど。結局何も云わずに、むくれたような口調で「おやすみっ」って云うんだ。そしてそのまま数分後には寝息を立てる先生を見て、ふっと口元を歪めて欲しい。

 大人でも寝顔はあどけないんだなとか、そんな風に思って。

 

 その翌日、冷たくなった先生の横で起床したイオリが見たい。

 ふと目が覚めて、知らない天井が視界に入って、目を擦りながら身を起こしたら何かが引っ掛かって。良く見たら先生の手を握ったまま寝ていて、そっと視線を移せば、まだ眠ったままの先生が見えて。笑みを浮かべたイオリはそんな先生の頬に手を伸ばしながら、けれど触れる事は躊躇って、「……寝坊助」と呟いてベッドを降りるんだ。途中先生が中々手を放してくれなくて、でもその事が少し嬉しくて、するりと自分の手を抜き取った後、イオリは静かに朝ご飯を用意してくれる良い生徒なんだ。

 ずっと握っていた手はイオリの体温で暖かいから、気付かなかったんだね。でもその先生もう死んでいるんだよ。

 

 朝食が出来て、作った後に何で私、あいつのご飯なんて作っているんだと自問自答して。でも、美味しいと云いながら食事をする先生を考えると、そんなに悪い気分じゃなくて。

 冷める前に先生起こそうと、「先生、朝だぞ?」と部屋に踏み入って、そこで漸く異変に気付いて欲しい。さっきと全然姿勢が変わっていなくて、手を抜き取った時の形もそのままで、イオリは妙な動悸を覚えながら、そっと先生に手を伸ばすんだ。

「せんせ……?」とか細い声で呟いた後、頬に触れた瞬間、その冷たさに驚いて手を引っ込めて欲しい。そのまま、朝だからとか、そろそろ冬も近付いて来たからとか、自分でも良く分からない言い訳を頭の中に浮かべながら、肩を掴んで、「先生、せんせ、起きて?」って口を開くんだ。少しずつ揺する力を強くするのに、先生は全然起きなくて、イオリの声色に段々と涙が混じって、「先生、ねぇ、起きてって、先生、ねぇ、先生ってば!」と、最後はきっと悲鳴なのか呼び声なのか分からない程に、悲哀と焦燥と後悔に満ちた絶叫を聞かせてくれるって信じている。

 

 死因は何であれ、イオリは以降白い目で見られちゃうゾ! だって先生に傷を負わせた犯人だもんな! そんな奴が先生と二人きりで、先生の死体第一発見者とか怪しすぎるもん! おぉ先生よ、こんな所で死んでしまうとは情けない。でも先生にとってはある意味救いかもね、日常の中で死ねたんだし、最後に生徒の泣き顔を見ずに逝けたよ。何呑気に死んでる、もっと大勢の生徒の前で劇的に爆散して血を撒き散らさないと生徒が泣いてくれないでしょう? 先生のお葬式で静かに涙を零すのも好きだけれど、私は目の前で先生がボロボロのぐちゃぐちゃにされて、腹の底から先生の名前を呼びながら必死で這いずって手を伸ばす生徒の絶叫が好きなの、分かる? だからこのエンドはバッドエンドルートとして処理します、トゥルーエンドには程遠いのだわ! もっと鍛えて出直してきんしゃい!

 添い寝した日の真夜中に、イオリが先生の首絞めるルートもすこ。

 

 

 

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