ブルーアーカイブを、もう一度。   作:トクサン

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誤字脱字報告、助かります。
今回一万六千五百字となります、ご注意下さい。


――だから生きてね、先生

 

「――人影、発見しました! 前方二百メートル先、戦闘中の模様です!」

「な、なにこれ、銃撃戦!?」

 

 アビドス校にて久々の休息を楽しんでいた対策委員会の面々。その休息は、唐突に響き渡った爆発音によって終わりを迎えた。

 部室で屯していたシロコ、アヤネ、ノノミ、セリカの四名は愛銃と装備を搔き集め出撃――爆発の起きた方向へと駆け出した訳だが、其処には弾丸の飛び交う戦場と、阿鼻叫喚の地獄が広がっていた。

 彼方此方で起こる爆発、絶え間ない銃声、悲鳴、怒声――ここ最近、カタカタヘルメット団との戦闘続きであったアビドスだが、その中でもかなり規模の大きい戦闘である事が分かる。巻き起こるそれらを前に、アビドスの皆は困惑の表情を浮かべた。

 

「迫撃砲の痕もあります、何事かと駆けつけて来てみれば、これは――」

「戦闘を行っているのはゲヘナの――あの黒い制服、風紀委員会?」

「それに便利屋の皆さんです!」 

「ハァ!? 何でゲヘナと便利屋が……って、そっか、あの子達追われているんだっけ」

「だとしても、此処はアビドス自治区の筈、他校が他所の自治区で戦闘行為なんて――」

 

 そう云って苦り切った表情を見せるシロコに、セリカはハッとした表情で叫んだ。

 

「と云うか、あそこ柴関の直ぐ傍じゃない!? 大将、戦闘に巻き込まれていないでしょうね!?」

「柴関――……?」

 

 セリカの叫んだ単語に、ピクリとノノミが反応を示す。

 皆が彼女に視線を向ければ、その額にじっとりと汗を掻いたノノミが、どこか血の気の引いた顔色で恐る恐る呟いた。

 

「た、確か先生、部室を出る時に、柴関でラーメンを食べて来ると……!」

「は、はぁッ!?」

「嘘でしょう……!?」

 

 その言葉に全員の顔色が蒼褪める。先生はキヴォトス外の人間である、弾丸一発でも致命傷で、流れ弾だけでも死にかねない。

 全員が一斉に、今なお弾丸が飛び交う戦場に顔を向けた。もしあの中に先生が居るとすれば――ぞっとする想像が脳裏を過る。

 愛銃を抱え直した対策委員会の皆は、誰が云うでもなく柴関に向けて全力で駆け始めた。アヤネが一足早く偵察用のドローンを飛ばし、念の為とタブレットで後続のドローンに接続する。

 

「い、急ぎましょう! 裏から回れば見つからずに柴関へ入れますッ!」

「私が前衛を張る、セリカ、一緒に」

「わ、分かったわ!」

「後ろは任せて下さい!」

 

 先頭にセリカ、シロコのツートップ。真ん中にアヤネ、後方にノノミと分かれ前進。アビドス校に近い柴関はそれ程時間を掛ける事なく到着し、裏路地を使って戦闘に巻き込まれない様動いた彼女達は、一度も接敵する事無く柴関の店舗へと辿り着いた。

 そして、無惨にも入り口が崩れ落ち、瓦礫の散乱する柴関であった建物に呆然とする。辛うじて形は保っているものの、爆弾でも投げ込まれたかのように扉や窓は全壊し、内装もテーブル席が軒並み全損、カウンターも余波で塗装がボロボロに剥げていた。

 

「な、何よこれ、柴関が――」

「ッ……!」

「これは……」

「ひ、酷過ぎます……!」

 

 柴関へと足を踏み入れた対策委員会、その全員が言葉を失う。内装、装飾も吹き飛ばされ、焦げ付いた床がどれ程の爆発だったのかを物語っている。シロコは幾つかの瓦礫を足で退かすと、その一部に血痕が付着している事に気付いた。

 屈み指先で擦ると、まだ固まり切っておらず、指先表面に血が付着する。

 鼻腔を擽る鉄の匂いに、ぞっと、シロコの背筋に冷たいものが走った。

 

「セリカ、これ……――」

「なによ、シロコせんぱ――」

 

 セリカはシロコの指に付着する赤色と、床に引き摺られるようにして伸びたそれに――思わず息を呑んだ。後方で周囲を警戒しながら目を向けていたアヤネ、ノノミ両名も目を見開く。

 まさか、という考えが全員の脳裏に過った。

 

「そ、んな、まさか、先せ――」

「馬鹿云わないでッ! 先生の筈がないわッ! こ、この血が先生のだなんて、証拠もないじゃないッ!? どうせ外の風紀委員の誰かが怪我しただけだよッ! こんなのッ!」

 

 アヤネが口元を震わせ、思わずそんな言葉を口にすれば、セリカが大声でそれを遮る。認めたくないという想いが、声量として吐き出されていた。しかし、そんな彼女も微かに、愛銃を握る指先が震えている。もしかしたら、万が一、或いは――そんな想像が脳裏から離れない。セリカはそんな思考を遮る為に、足元の血痕を何度も踏み躙った。

 

「……或いは、大将の可能性もある」

「――どちらにせよ、放ってはおけません、周囲を探索しましょう! 幸い崩れているのは店の入り口だけです、それ程広い訳では……!」

「せ、セリカちゃんか!?」

 

 皆が店の中で方針を固めていれば、奥の方から声が響いた。全員が一斉に顔を声の方へと向ければ、扉から顔を覗かせている大将の姿が見える。

 

「た、大将!」

「無事だったんだね」

「よ、良かった……!」

 

 一先ず知り合いの生存に全員の頬が緩み――しかし、彼女達の動悸は早まった。

 ぱっと見、大将に大きな怪我は見受けられない。そうなると足元の血痕は彼のものではないと云う事になる――なら、もしそうなら、これは。

 嫌な汗が、全員の背中を流れた。酷く口の中が渇いて、手足の先が冷たくなる気がした。セリカはそれを振り払う様に一歩踏み出し、大将に詰め寄る。

 

「大将、先生の事見ていない!? ノノミ先輩が、先生は柴関にラーメンを食べに行ったって――」

「あ、あぁ、確かに先生さんはウチに来て――」

「そ、それで、先生は何処にッ!?」

 

 アヤネが食い気味にそう口にすれば、大将は面食らいながらも、「こっちだ」とアビドスを引き連れ店奥の倉庫へと向かった。扉を閉め、完全に閉じ籠った倉庫内は薄暗い。爆発で電気系統が狂ったのか、点いている電灯と点いていない電灯がある。幸い掃除は行き届いているのか埃っぽくはないが、妙な冷たさが空気に含まれていた。

 

「さっきまでは起きていたんだ、何やらタブレットを弄っている最中、急に意識を失っちまって」

「意識が無いんですか……? もしかして何処か怪我を――」

「……見りゃあ、分かる」

 

 そう云って大将が首を動かせば、倉庫の奥、壁に凭れ掛かる様にして俯く先生の姿があった。全員が息を呑み、一斉に駆け出す。

 

「せ、せんせ――ッ!?」

 

 セリカ、シロコ、ノノミ、アヤネ――対策委員会の全員が先生の傍に駆け寄り、その状態を目視し、絶句した。純白であった先生の制服は薄汚れ、近付くと強く砂と血の匂いがした。こめかみから頬にかけても血の凝固した痕が見え、上着も肩のあたりがべっとりと血に塗れている。直ぐ傍には血のこびり付いた、木片のようなものが転がっていた。

 セリカは殆ど涙目の状態で先生に掴み掛り、その肩を揺する。

 

「せ、先生ッ! ちょっと、だ、大丈夫なの!? ねぇ!?」

「セリカ、揺らしちゃ駄目!」

「これは――……アヤネちゃん!」

「今、医療用ドローンを呼んでいますッ! スキャンして処置をすれば――」

 

 そこまで口にした所で、不意に先生の瞼が小さく震えた。

 

「ぅ……ッ」

「せ、先生、意識が!」

 

 セリカに揺すられ、生徒達の声を耳にして意識を取り戻した先生。

 彼は薄らと開いた視界の中に、アビドスの皆が映っている事に一瞬驚く。自分が今何をして、どういう状況なのか――二度、三度頭を揺らした先生は、ぼんやりと視界に映る皆の顔を見た。

 誰もかれも、目元に涙を滲ませている。

 見える感情の色は、悲しみだ。

 生徒が――泣いている。

 その事実が先生の折れかけた四肢に、確かな力を与えた。

 

「セリカ……それに、シロコ……――」

「ん、皆も居る!」

「先生、大丈夫ですか? どこか痛い所は?」

 

 ノノミの問いかけに首を緩く振りながら、指先で目元を拭う。固まった血が指先に付着し、先生は漸く今、自分が何をしていたのかを思い出した。便利屋に対するリンクの反動で、一時気を失っていたらしい。手元に転がっていたタブレットを手繰り寄せ、もう一度背中を壁に預ける。

 ヘイロー――生徒の根源に接続する以上、その負担は決して少なくない。疲労、負傷状態でアプリを起動させると、気を失う事もある。今回は運悪く、そちらを引いてしまったようだった。

 

「先生、ちょっと、大丈夫なの……?」

「先生、吐き気や眩暈、痙攣や目の焦点が定まらないとかはありますか? 耳や、鼻からの出血は――」

 

 アヤネが周囲を動き回り、傷口を探し、出血の有無などを確かめる。その様子をセリカは忙しなく見守り、ノノミは隣に立つシロコの肩を叩き、倉庫の出入り口を指差した。

 

「シロコちゃん、私と一緒に出入り口の警戒を、万が一の事を考えると警護は必要です……!」

「……ん、分かった」

 

 頷き、立ち上がった二人は愛銃を手に先生を見下ろす。

 

「セリカちゃんとアヤネちゃんはそのまま先生についていて下さい、セリカちゃん、ホシノ先輩に連絡をお願いします!」

「わ、分かったわ!」

 

 セリカはそう云うと慌てて端末を取り出し、ホシノ先輩へと連絡する為画面をタップする。今はその動作すら煩わしくて仕方なかった。

 

「もう、こんな時にホシノ先輩……何やってんのよっ!」

 

 思わず、そんな悪態が漏れる。こんな大事な時に不在だなんて――画面に映るへらっと笑ったホシノ先輩のアイコンを何度も指で叩きながら、コール音を鳴らす端末を見守るセリカ。

 一、二、三、四、五――繰り返されるコール音、しかしそれが途切れる事はない。

 足を揺すりながらホシノの応答を待っていたセリカは、しかし一向に出る気配のないホシノに思わず唸り、声を荒げた。

 

「――駄目、ホシノ先輩、全ッ然出ない!」

「……委員長、一体何処に?」

 

 不安げな表情でそう呟くアヤネの肩に先生はそっと手を掛け、微笑む。

 

「私は、大丈夫だよ……」

 

 呟き、鈍い足腰に喝を入れ、立ち上がった。

 そんな先生の腕を取りながら、アヤネは咄嗟に支え、思わず苦言を呈す。

 

「先生、まだ立っては――!」

「爆発で少し脳を揺すられただけだ、外見も、派手に出血はしているけれど切っただけ、見た目ほど酷い傷じゃない」

「で、でも、せめて救急ドローンが来るまでは――」

「今は一分一秒が惜しいんだ……――ごめんね、アヤネ」

 

 アヤネに謝罪を口にしながら、先生はタブレットを握り締める。事態は刻一刻と悪化の一途を辿っているのだ。こんな所で、気を失っている暇など無い。そんな先生の表情を見て、何をするのかを理解したのだろう、大将は先生の姿を見上げながら心配げに口を開いた。

 

「先生さんよ、しかし、お前さん、肩に……!」

「――大将」

 

 遮り、唇の前にそっと指を立てる。

 指先の奥に見える先生の懇願するような表情に、大将は思わず口を噤んだ。

 

「シロコ、外はどうなっている?」

「……ゲヘナの――多分風紀委員会と、便利屋68が戦闘中、かなり派手にやっている」

 

 扉を僅かに開け、外を覗いていたシロコが呟く。その表情は不安げで、数秒に一度は先生の方へと視線を向けていた。外の様子も気になるが、先生の負傷具合も気になる。それは隣のノノミも同じであった。

 

「便利屋も頑張っているけれど、相手の数が多すぎる……ゲヘナの風紀委員会は多分、中隊規模」

「中隊って、二百人……!?」

「何でそんな数を――!」

 

 中隊規模の戦術行動と聞き、先生を支えていたアヤネが思わず声を荒げた。

 

「此処はアビドス自治区ですよ!? 他所でこんな大規模戦術行動を起こす何て、ゲヘナは政治紛争でも起こすつもりですか!?」

「……恐らく便利屋68の捕縛の為でしょうけれど、これは余りにも――」

「自治区を管理している学校の許可なく戦闘行動を起こす、これは私達の権利を無視した行いの筈」

「――先生の怪我も、柴関がこんなになったのも、全部あの風紀委員会の仕業なんでしょう!?」

 

 セリカがそう叫んで大将を見れば、その勢いに呑まれた彼は僅かに気圧されながらも頷いて見せる。

 

「……あ、あぁ、いつも通り営業していたら、店の前が突然吹っ飛んでよ、先生と便利屋の生徒さんが――」

「ッ……あいつらっ!」

 

 表情を怒りと憎悪に染め、セリカが歯を剥き出しにして外の風紀委員を睨みつける。その顔には、今にも鉛玉をぶち込んでやりたいという意気込みが見え隠れしていた。しかし、そんなセリカの意気を察しながらも、シロコは首を横に振って告げる。

 

「気持ちは分かるけれど、今は先生を病院に運ぼう、見つからない様に移動すれば不可能じゃない、便利屋が目を惹いているから裏を通れば……」

「いや――」

 

 シロコの言葉に被せる様に、先生は声を上げた。

 

「私も、便利屋と一緒に戦う」

「なっ……!」

「は、ハァ!?」

「先生ッ!?」

 

 先生の予想だにしない言葉に、アビドスの全員が言葉を失う。大将は分かっていた為か、彼女達ほどの驚愕を見せなかったが、ただ不安げな視線だけは変わらなかった。目前に居たセリカが首を振り、一歩先生へと詰め寄る。

 

「ちょ、ちょっと何言ってんのよ先生!? そんな怪我した状態で、戦闘指揮なんて……!」

「そ、そうですよ、無茶です!」

「流石に、それは賛成できない」

「今回の戦闘は、余りにも危険度合いが高すぎますッ!」

 

 セリカ、ノノミ、シロコ、アヤネ――全員が先生の参戦に否定の言葉を口にした。実際問題、先生の衣服は所々血に塗れ、パッと見ただけでも軽くない負傷である事が分かる。そうでなくとも柴関の内装、あの破壊跡――先生が具体的にどれ程爆心地に近い場所に居たのか、アビドスは知る由もないが、そもそも店内が軒並み吹き飛び、店舗前面が崩れる様な爆発を受けて生きている事が奇跡に近いのだ。外見上問題なくとも、内臓が、脳が、無事である保証はない。手遅れになる前に、精密検査を受ける必要があった。

 それでも先生は緩く首を振る。

 

「……今までだって、そうだった、五十人のカタカタヘルメット団を撃退した時も、最初は出来ないかもって、そう思っただろう?」

「それは……ですが、今は状況が違いますし、ましてや今回の相手はゲヘナ風紀委員会ですよ!? 向こうはきちんとした戦闘訓練を受けて、専用の装備まで揃えています! 連携だって……! 確かに便利屋の皆さんと協力すれば、先生の指揮で撃退は出来るかもしれませんが――!」

「それで先生の傷が悪化するようでは、決して賛成出来ません……!」

 

 アヤネの言葉に続き、ノノミが断固とした口調で告げる。

 先生の前に立った彼女は常の温厚な気配を消し、真剣な眼差しで先生を見つめた。

 

「ホシノ先輩が居ない以上、代理としてアビドスを動かす最終決定権は私が持っています、先生の戦闘行為を容認する事は出来ません――今は撤退して、治療を受けて下さい!」

「……それでは、便利屋の皆を見捨てる事になる」

「――っ!」

 

 先生の呟きに、ノノミの表情がくしゃりと歪んだ。

 それは、この期に及んで尚、先生は生徒を優先するのだと云う――その痛ましいまでの精神性に対する、悲しみの発露だった。

 真っ直ぐ先生を見つめるノノミのそれに、先生もまた真摯に視線を返す。何処までも強い決意と慈愛を秘めた瞳が、互いのそれを見据えていた。

 

「――私は先生だ、シャーレの先生なんだよ、生徒を誰一人として見捨てはしない、生徒を守り、教え、導き、寄り添う事が……私の使命だ」

 

 声はそれほど大きくなかった。けれど外の銃声に遮られて尚、先生の声は全員の耳に届いた。哀しいまでの決意を持つ、先生の底――信念の言葉。

 ノノミがひとり、拳を強く握り締めれば――隣り合っていたセリカが、不意に言葉を漏らした。

 

「せ、先生が、先生が皆の先生だっていうのは……分かるよっ!」

 

 声は震えていて、力が無かった。俯いた彼女の表情は伺えない。けれど先生の傍に立つ彼女の肩は、小さく震えていた。

 

「シャーレはキヴォトスの、連邦生徒会の組織だもん、先生の持っている権限とか、立場とか、それがどれだけ重いもので、凄い事なのか、私はまだ全然、ちっとも分かっていないけれど……ッ!」

 

 不意に、セリカが顔を上げる。その頬には一筋の涙が流れていた。

 先生の腕を掴み、彼女は震えたまま懇願を口にする。

 

「でも……でも先生は、アビドス対策委員会の顧問でしょう!? 今は、今だけはシャーレじゃなくて、『私達の先生』で居てよッ!? 他の生徒より、私達を優先してよッ!」

「セリカ、私は……!」

「私達は……私はッ! 先生が怪我するところなんて見たくないのッ! ねぇ……! 分かってよッ!?」

「ッ――」

 

 涙を流し、叫ぶように吐露される――彼女の感情。

 その泣き顔を見た瞬間、先生の脳裏にキヴォトス動乱の記憶が蘇った。

 泣き叫び、銃を向ける生徒。地面に這いつくばりながら、行かないでと懇願する生徒。怒り、拳を振り上げながら、それでも先生に前言を撤回するように求めた生徒。すべて、すべて――その根底にあるのは、『優しさ』と『信頼』、そして相手を思い遣る心だった。

 

 大切だから、喪いたくない。

 大事だから、消えて欲しくない。

 何を置いても――あなたが大切だから。

 

 今、自身の腕に縋りつき、涙を流す彼女は――あの日、先生が救いたくて、救えなかった生徒の姿そのものだった。

 

「先生、私は――この言葉は先生を苦しめるって、多分そうなるって分かった上で、それでも、先生に聞くよ」

 

 シロコが呆然とする先生に、言葉を投げかける。

 ゆっくりとシロコを見る先生、そんな彼に向けて、シロコは云った。

 

私達(対策委員会)と便利屋68……先生にとって、どっちが大事?」

「―――」

 

 一瞬、時が止まった。

 先生の胸が、妙な痛みを発した。今まで守って来た鉄仮面が、粉々に砕けるのが分かった。先生の表情を見たシロコが僅かに目を見開き、それからどこか恥じる様に、或いは後悔するように、シロコは目を伏せる。

 

「……ごめん、卑怯な聞き方をした、先生は今、皆の先生だって、そう云ったのに」

「いや――」

 

 声を、絞り出す。

 想いは、尊いものだ。それは善性の発露だ。彼女達の持つ、光の側面そのもの。

 シャーレは、中立でなければならない。どこか一勢力に、己の意思で贔屓するような真似は出来ない。それはキヴォトス全体のパワーバランスを崩す事に繋がり、牽いては連邦生徒会の不利益に繋がり、キヴォトス全体に混乱を招きかねない――否、そんなものは建前だ。先生の心を守るための、薄っぺらい戯言だ。

 どこかの学園と懇意になり過ぎれば、或いは偏った場所に身を置けば、先生は『生徒の味方』では居られなくなる。シャーレは、先生は、トリニティの味方でもなければ、ゲヘナの味方でもない、勿論、ミレニアムでもない。百鬼夜行でも、レッドウィンターでも、クロノスでも、アリウスでも。

 

 ましてや――【アビドス】の味方でもない。

 

 その事実が、どうしようもなく先生の胸を締め付けた。

 

「――皆が私の身を案じている事、その想い、感情……とても、嬉しく思う」

 

 歯を、食いしばる。

 血を吐く様な想いで、言葉を紡ぐ。早鐘を打つ心臓を押さえつけながら、喉を震わせる。

 

「ありがとう、それしか私は、返す言葉を持っていない、こんな――何も持っていない、何も与える事の出来ない、寄り添う事しか出来ない私を、そんなにも想ってくれて、本当にありがとう」

「な、何を云っているの先生……?」

 

 シロコの戸惑う様な声に、先生は俯いていた顔を上げた。

 皆が自身を想う心、その信頼、好意、とても有難く思う。それこそ涙を流し、感謝したい程に。

 本音を吐露すれば、その想いに応えたいと思った事は一度や二度ではない。彼女達の懇願に、悲鳴に、怒りに、足を止めたくなった事はある。躊躇った事も、顧みた事も、自分自身を呪い殺したくなった事すら。

 けれど――それでも。

 

「――それでも私は行くよ」

「ッ……!」

 

 先生を掴むセリカの力が、ぎゅっと、強まった。

 その痛みを心に刻みながら、先生は沈痛な面持ちのアビドスを見た。

 悲しませる事は分かっていた。怒りを抱かれる事も。けれど、此処で止まれるのならば、自分はこの世界に降り立つ事などなかった。

 

「月並みな言葉だけれど、便利屋もアビドスも、どちらも大切だ、どちらを選ぶとかじゃない、どちらも選んで守るんだ――私の持っている、ありとあらゆる知識と手段を以て、全力で、何が何でも、是が非でも、絶対に、守るんだ」

 

 告げ、強く拳を握る。それがどれだけ困難であろうと、それがどれだけ夢のような話であろうと。先生は諦めない、絶対に。

 シロコが、アヤネが、ノノミが、そっと口を開く。

 

「……私達を選んでと、そう懇願しても?」

「懇願しても」

「先生の傷つく姿を見たくないと、私達が泣いてもですか」

「涙を流しても」

「……どれだけ、言葉を重ねても」

「君達が、幾千、幾万の言葉を重ねても――」

 

「私は、誰か(救済)を諦める事を、したくない」

 

 沈黙が下りた。それは、痛い程の静寂だった。

 先生の哀し気で、辛そうで、けれど真剣な面持ちに、全員が理解した。先生はどれだけ懇願しようとも、希おうと、決してその道を曲げる事をしないと。それは鋼に勝る決意だった、それは泣きたくなる様な覚悟だった。

 

 ――いいや、そうではない。

 シロコは思った。道を曲げないのではない。

 先生は――【曲げられない】のだ。

 

「……ん、分かった」

「し、シロコ先輩?」

 

 呟き、先生を見る。

 アヤネがシロコを見つめ、目を瞬かせた。

 

「便利屋に加勢して、風紀委員会を叩く――私は先生についていく……皆は?」

 

 その言葉に、残ったアビドスのメンバーが息を呑んだ。

 

「こ、こんな怪我をしている先生に――正気ですか!?」

「アヤネ、私は正気、それに先生がこういう目をした時は絶対に譲らない、ホシノ先輩の時もそうだった……それなら、さっさと事態を終息させて先生にちゃんとした治療を受けさせた方が良い」

「それは、ですが――」

 

 シロコの淡々とした言葉に、アヤネは言葉を詰まらせる。此処で口論をするより、先生の目的を達成させ、一秒でも早く治療を受けさせる。それは、ある一つの解決策としては納得出来る。しかし――。

 

「先生、それは……どうしても譲れない事なんですね?」

「ノノミ先輩……!?」

 

 先生に問い掛けるノノミに、再びアヤネは驚愕の声を上げた。

 もしや、先輩も賛同するのかと顔を顰めれば、ノノミはそんな彼女を一瞥しながら先生を真っ直ぐ見据える。

 

「あぁ――私が今、こうして生きて此処に立っている……その理由と云っても良い位だよ」

「そう――ですか」

 

 呟き、数秒目を閉じる。その間に彼女が、どんな風に感情を飲み下したのか、そしてどんな思いを抱いたのか、先生には分からない。

 ただ彼女は小さく息を吐き出し、それから普段通りの柔らかな笑みを浮かべ、頷いた。

 

「……分かりました、私も、御供します」

「先輩ッ!」

「ですが!」

 

 悲鳴とも、非難とも呼べるアヤネの叫びに、ノノミは声を被せ断言する。

 

「これは、私個人の判断です、ホシノ先輩の代理としての判断ではありません、命令も、しません――私は皆の意見を尊重します」

 

 そう云ってアヤネとセリカを見るノノミ、そしてシロコ。

 二人は顔を俯かせ、拳を痛い位に握っている。その顔色は蒼く、酷く辛そうに見えた。

 

「おかしいですよ、だって……先生、そんな血を流して、怪我をして――し、失敗したら、先生が死んでしまうんですよ……?」

「ん、分かって――」

「分かっていませんッ!」

 

 シロコの言葉に、アヤネは彼女らしくない、絶叫で以て答えた。

 胸に押し付けたタブレットを握り締め、数歩よろめいたアヤネは、俯いていた顔を上げノノミとシロコを睨みつける。その頬には涙が伝い、強い怒りの感情が見え隠れしていた。

 

「死ぬって……もう会えないって事ですよ!? 先生が、居なくなるんですッ! 朝も、昼も、夜も、二度と! 永遠にッ! 会いたいってどんなに思っても、会えないんですッ! なのにッ!? なんでそんなっ、あっさり……! 先生も、もっと自分を大事にして下さいよ――ッ!」

 

 最後の声は最早、掠れて消える様な小ささだった。歯を食いしばり、ぽろぽろと涙を零すアヤネ。

 彼女は先生が怪我をした事実に、死を身近に感じてしまったのだ。

 どこか遠くにあった『永遠の別れ』という概念が、すぐ傍に存在するのだと理解してしまった。先生が弾丸一発で死んでしまう脆弱な肉体である事をアヤネは、知識として知っていた。けれどいざ、それを現実として見せつけられた時、アヤネは自分の足元が崩れ去る様な心地になった。

 

 ――本当に、こんなにも脆いのか、先生の体は。

 

 先生の怪我を診察する内に、アヤネのその不安はどんどん肥大化した。アビドスの皆ならば、「痛い」で済むような爆発、攻撃が、先生にとっては致命傷になる。肌にも食い込まない様な小さな破片の飛来が、先生にとっては重症になり得る。ありとあらゆるものが、世界のすべてが、先生を害する為に存在するように見えて仕方なかった。

 そんな先生を――あの、大規模な戦闘に巻き込む?

 

「理解、出来ません……!」

「アヤネ――」

 

 吐き捨て、その場に座り込んでしまうアヤネ。

 その姿を先生は、今にも泣き出しそうな顔で見ていた。

 けれど、涙を流す事は出来ない。

 その資格を、先生は持っていない。

 

「わ、私、は……」

 

 セリカは視線を泳がせ、呟く。

 

「先生の傷つく姿は見たくない、私達以外の、良くも知らない生徒の為に先生が身を擲つって考えると、胸がざわつく……苛々するッ……!」

「セリカ……!」

「でも、それが……先生のやりたい事――なんだよね? 私達がやめてって、お願いしても拒んじゃう位、大事なんだよね? ……そうなんだよね?」

 

 涙交じりに、そう問いかける彼女の、その切羽詰まった表情を見た時、先生は思わず言葉に詰まった。思い切り拳を握り締め、先生は両膝を着いた。自分自身を殺してやりたい気分だった。

 

「シロコ、ノノミ――セリカ、アヤネ」

 

 告げ、先生は深く頭を下げる。

 額を床に打ち付ける勢いで、深く。

 

「すまない、そして、頼む――どうか、私に力を貸してくれッ!」

「ッ、先生!?」

 

 唐突な先生の懇願に、生徒達は目を見開く。

 今だけは痛みを忘れた、立場を忘れた、ただ一人の人間として――懇願した。

 

「私は人間だ、ただの、普通の! 君達と違って弾丸一発で死んでしまう、脆弱で、力を持たない、キヴォトスに於いて最も弱い生き物だ! 君達の助けがなければ生徒ひとり満足に助ける事も出来ない……名ばかりの大人だッ!」

 

 らしくもなく、叫んだ。

 腹の底から絞り出すように声を張り上げた。

 

 先生は力を持っている、大きな力だ、誰かを救える力だ――生徒達を教え、導く為の力だ。

 けれど先生は、あくまで人間で、誰かを支える事でしか戦う事は出来ない。根源はゼロだ、ゼロに何を掛けたってゼロにしかならない。それを一にも十にもしてくれるのは、生徒達なのだ。

 スーパーヒーローの様に格好よく誰かを救う事は出来ない。

 英雄の様に何かを切り捨て前に進む事は出来ない。

 そんな脆弱で、矮小な存在が、先生だ――己なのだ。

 

「でも、そんな弱い私でも――どうしても捨てられない、信念がある……ッ!」

 

 力があれば――そう思わなかった事はない。

 戦う術があれば――そう願った事だってある。

 けれど先生は戦士ではない、戦う者ではない。

 先生は――教え、導く者だ。

 

 だから先生は懇願する。

 どうか私に力を貸して欲しいと。

 どうか私の我儘に付き合って欲しいと。

 救う為に、助ける為に、この身を捧ぐ己を、見ていて欲しいと。

 

 それが生徒にとって――地獄への片道であると知って尚、願う。

 

「私に、どうか皆を救わせてくれッ――!」

「先生……っ」

 

 セリカが、強く唇を噛み締めた。地面に額を擦りつける先生の腕を掴んで、何かを云おうとして、けれど何も言葉が出なくて。表情を歪め、何度も何度も口を開いて――結局、呻き声のような、悲鳴のような、絞り出す声を上げ、自身の頭を掻き毟る。

 それから、先生の肩を掴んで、身体を無理矢理起こした。

 至近距離で交わるセリカと先生の視線、セリカは震え、ぐしゃぐしゃになった顔で叫んだ。

 

「――絶ッ対に死なないでっ! 何が何でも生きてッ! 私が盾にでも何でもなるからっ、這い蹲ってでも生き延びてっ! 良い!? 分かったッ!? 出来ないって云ったらぶっ殺すからッ! 後、帰ったら即治療、即療養だからねッ!? これは約束よッ! 返事はッ!?」

「あ、あぁ……約束する」

 

 宛らマシンガンの如く放たれた言葉に、先生は面食らいながらも強く頷く。これを反故にはしない、絶対に、そう誓う。

 

「……アヤネ、先生の事は私達が守る、絶対に」

「えぇ、そうですね……! 弾丸一発も通しません」

「皆さん――」

 

 シロコとノノミの強い言葉に、アヤネは座り込んだまま呆然と皆を見る。

 涙を拭いながら立ち上がるセリカは、先生の意見に賛同した。反対しているアビドスのメンバーは、自身のみ。

 タブレットを掴んだまま俯くアヤネは、何度も何度も先生の言葉を反芻し、噛み締め――感情を、奥底へと押し込んだ。

 

「……分かり、ました、正直まだ不安で一杯です、本音で云えばすぐに病院に担ぎ込みたいくらい、私は、反対したい気持ちが消えません――でも、此処で無理矢理にでも連れ帰ったら、先生の心は守れないんですよね?」

 

 アヤネが泣き出しそうな、けれど仕方ないとばかりに口元を緩めれば、シロコは同じように笑って頷いた。

 

「ん――先生の体と想いを守る、両方やらなくちゃいけないのが辛い所」

「……分かりました、他所の自治区での戦闘行動、柴関への暴挙、問い詰めたい事は沢山あります、それに――」

 

 涙を拭い、よろよろと立ち上がったアヤネが瞳に強い光を宿し、告げる。

 

「先生に怪我をさせた事、償って貰わないと、気が済みません……ッ!」

「ぐずッ――えぇ、残らずぶっ殺してやるわ!」

「悪い子にはお仕置きが必要ですよねっ!」

「ん、因果応報」

 

 全員が愛銃を持ち、戦意を迸らせる。その姿を見た先生は深い――深い感謝を抱いた。

 

「先生、本当に怪我は大丈夫なんですよね? それだけは嘘、吐かないで下さい」

「――嘘何て吐かない、大丈夫さ」

 

 真剣なノノミの問いかけに、先生は笑いながら頷く。

 もう、弱気な自分は見せない。先生として立つ。鉄仮面を被り直し、深く深く、鍵をする。

 

「私も――今回の強引な手口には思う所がある、少々お灸を据えてやらないとね」

 

 告げ、床に放置されていたタブレットを拾い上げ、立ち上がる。

 足は動く、頭も働く――なら、まだ自分は戦える。その頃にはもう、常の『先生』がそこに立っていた。血のこびり付いた頬を拭いながら、先生は問い掛ける。

 

「行けるかい、アビドス?」

「当然っ!」

「はい!」

「えぇ!」

「いつでも」

 

 問いかけに、彼女達らしい溌剌とした応えが返って来た。その事に妙な充足感を覚えながら、先生は一歩踏み出す。

 

「大将――」

「……無理すんじゃねぇぞ、先生さん」

 

 壁際に座り込む大将を見れば、何とも云えない――憐憫とも、痛ましさとも取れる、悲し気な表情をした彼が居た。大将はひらひらと手を揺らし、ふっと笑う。

 

「終わったら、ラーメン一杯奢ってやるからよ」

「それは、是が非でも生きて帰らないとですね」

 

 肩を揺らし、破顔する。

 疲れた時に食べる柴関のラーメンは、美味かった。

 だから全てが終わった後、食べる柴関のラーメンは――きっと、とても美味い。

 

「良し――アビドス出撃!」

「おーッ!」

 

 生徒達の突き上げた腕を見つめながら、先生は出口に向け歩き出す。

 隅に転がる、注射器二本――それを顧みる事なく。

 


 

 次回、ゲヘナ風紀委員会vsアビドス・便利屋68vsダークライ

 

「おらァアアッ! アコォ! 出てこぉいッ! どうせ独断でチナツとイオリを動かしたんだろう!? お陰様でこちとら死ぬところだったんだぞッ!? 謝罪と賠償を請求するッ! 具体的にはわんわんプレイだッ! わんわんプレイを所望するぞコラッ!」

 

 と叫ぶ先生が見られます。良かったねアコ♡ あとイオリは吸われます(無慈悲)

 注射で無理矢理痛覚殺して動かしている体に限界が来たら、きっと生徒達の可愛い顔が見られるよ。でもきっと先生は耐え切るんだろうね。戦闘終わった後に路地裏で惨めに血反吐を撒き散らす姿を、大事な時に居なくて何も出来なかったホシノに見せつけてあげようね♡ そんな可哀そうな事する訳ないよね先生、折角だからみんなの前で血反吐はこうぜッ!

 

 すんごい、これ。

 先生とアビドスをイチャ♡ラブさせようと思ったら、それだけで一万字超えて「ほげ~」ってなった。最初は結構スムーズにvs風紀委員まで進んでいたんだけれど、「先生怪我してんのに、そんなあっさり戦闘突入する?」って思って加筆(七千字)したらエラい事になった。しっとりアビドス、まぁでもどうせ砂漠やし、雨も降らんからこれくらいの湿度あった方が健康にええやろ(適当)、う~ん、こうやって先生と生徒の純愛文(ラブ・ロマンス)を書いていると、「幸せにおなり……」という親心と云うか何というか、そういう気持ちになりますよね。早く先生の血肉飛び散らないかな。

 

「アビドスと便利屋、どっちが大事?」

 

 先生とキヴォトス全部を秤にかけて、先生を選ぶ女はやっぱり云う事が違うな!

 ヤンデレではハーレムは成立するかもしれないけれど、その中にメンヘラが混じったらハーレムは絶対に成立しませんわッ! だって自分に構って貰えなくなるかもしれないですからねぇ! 比較対象が常に隣にいるって云うのは、優劣問わずに想定以上にストレスでしてよッ! 

 じゃけん、この戦闘が終わったらアビドスの皆を甘々に甘やかしてあげましょうね~! 甘やかしてデロデロにして、一度傷が付いたからこそ、その存在の尊さと大事さを自覚した状態で、もう一度、今度は更に深い傷を目の前で与えてあげましょうね~! 次は臓物一個くらい貰おうかなぁ。エデン条約で手足飛ばす事を考えると、それ位が丁度良いかも。計算通り、かんぺき~なもぎもぎを見せちゃるけんのぅ。

 

 やっと先生にフォーカスを当てた話を書けましたわッ! オリジナルマシマシでごめんあそばせっ! 

 どれだけ生徒に想われていても、この先生はその想いを嬉しく想いながらも決して前進を止めませんわぁ! 前進を止めた結果が一周目の個別エンディング先生でしてよッ! つまり後書きで良く無惨に死んでいる先生ですわねッ! ウケますわね。場所が場所なら実質でぃーぶいでしてよッ!

 生徒の悲鳴に足を止めて、特定の勢力肩入れした結果、軒並みバッドエンドに直行~! そんな事、許せませんわよねぇ?

 

 そしてぼんやりとした記憶を保持しながらも、何とかキヴォトスを救おうと頑張った先生――これが二周目の先生、『原作』に一番近い先生でしてよッ! 確固たる記憶がある訳ではないのだけれど、それとなく周回を匂わせる先生ですわぁ! でも原作と唯一異なる点は、『連邦生徒会長が生存していた』という点ですわねッ! だからアロナは今と異なる、無機質なAI感マシマシの子でしたわ。その辺りもちゃんとアロナ初邂逅時に匂わせておりましてよ!

 先生と生徒会長は一緒に二人三脚でキヴォトスを守ろうと奮闘しましたわ。多分、真っ当な手段であればこの世界線が一番平和になる確率が高かったんじゃないかなぁ? まぁ最終的に失敗して、キヴォトス動乱が勃発し、先生と連邦生徒会長は殺し合う事になったんだけれどね♡ この辺は第一話で匂わせてあるぞ!

 

 因みに一周目の世界線は個別√なので、生徒の数だけ存在していて、二周目は合計で『三つ』存在しています。それぞれ名前を付けるのなら、『アビドス』、『エデン条約』、『秘密』が中心となった世界線。その三つの世界線が統合された最終世界線が、今回の三周目の世界ですね。因みに何で三つなのかと云うと、トリニティと同じ三位一体を基準としております。

 クロコは、この二周目の世界、『アビドス』から今回の世界線に渡って来た生徒です。

 まぁ、察しの良い方ならお分かりかもしれませんが、この記憶の持ち越し、世界線移動などを行ってくるのは、この二周目の生徒達です。各世界線で一人ずつ飛んでくるとしても、最低あと二人、現在の世界に混入してくる訳ですね。まぁ、あくまで最低限の数なので、それ以上居る可能性もありますが。今から修羅場が楽しみで私わくわくすっぞ! でも強すぎる敵は勘弁な! 先生は指揮能力つよつよだけれど、肉体的にはよわよわだからッ! おめぇつぇ~な! 私もっとよぇー奴と戦いてぇぞ!

 

 うぅ、先生を大切に想っているのに、その想いを理解した上で顧みない先生の後姿を見守る事しか出来ないアビドス可哀そう……。

 先生は生徒を守るために身を擲ち、そんな先生を守るために傷つく生徒、何というジレンマ。死んだ方がマシでは? 先生が死んだら生徒が泣いちゃうでしょう!? 

 多分ホシノがあの場に居たら、「この人はこんな風に、生徒の為に身を擲って、生徒の涙に顔を歪ませながら、それでもその悲鳴を胸に刻み、その身を晒して来たんだ」って理解して、心情がクロコ側に傾いちゃうぞ! 

 だってそんな先生見ている生徒側も辛いし、先生本人も辛いし、そんな重荷投げ捨てちゃえば良いのにって思ってしまうもの。ホシノは悲観的で疑り深くて、けれど懐に入れた人物には甘々だからね。それで先生が安らぎを得られるのなら、喜んで泥を被ってくれる良い女だよ。

 

 因みに現在だけでもアビドスの面々の想いは大分重いので、万が一此処で先生が落命した場合、発狂したアビドスによる全面戦争が勃発します。便利屋も、多分ハルカとムツキが激おこして参戦してくれます。アルとカヨコは怒ってくれるけれど、命投げ捨ててまで……っていうレベルではないかなぁ。ゲーム内好感度で云うと、メモロビ一歩手前位。因みに現在のアビドス勢は好感度ハートで二十~三十くらいはあります。アルとカヨコにとってはまだ便利屋>先生、ハルカとムツキにとっては便利屋=先生くらいの違いがある。何でムツキがそんなに好感度高いのかって? 私の趣味ですムツキについての学術論文(純愛)は既に提出してあるのでそちらを参照してください。

 

 んほ~、アビドスの先生の身を案じながらも戦火に身を投じる姿は美しいですね! どれだけ先生が危険な場所に身を置いても、私達が守って見せるって思っているんだろうなぁ、可愛いなぁ。その自身に対する驕りが先生を死に追いやるんですよぉ、シロコがなんでクロコになったのか、彼女達はその本質をまだ理解していないんだ。

 でもアビドスの中で唯一、ノノミだけは先生と一緒に沈んでくれそうな感あるんだよなぁ。復讐云々だとか、先生を生かすだとか、そういう事ではなく、いつまでも先生の骸に寄り添い続ける様な静けさが彼女にはある。

 たおやかに微笑んで、動かなくなった先生を膝枕する彼女の姿が見える見える。

 

 ノノミはあれだなぁ、多分限りなくトゥルーエンドに近いノーマルエンドを終えた先生を出迎える生徒な気がする。キヴォトス動乱を乗り切って、生徒を誰も死なせず、死者も出さず、キヴォトスを救った先生が、傷だらけの姿でシャーレのオフィスに戻って来て。そんな先生を見て、小さく微笑み、「おかえりなさい、先生」って云ってくれるような包容力。

 煤に塗れ、血だらけで、清潔感なんて欠片もないのに、そんな先生の頭を躊躇わず抱きかかえて、きっとそのまま暫く抱擁してくれると思う。そんな胸の中で死んでいる先生は幸せ者だね……あれ、これ実質ハッピーエンドでは? 私は訝しんだ。

 

 やだーッ! 先生にそんな安穏とした終わりは似合わないんじゃいッ! 血塗れになって、腕や足の一本無くなった状態で、這いずりながらタブレットに手を伸ばして、「それでも」って口ずさみながら瞳だけギラギラ輝かせた状態で戦って死ぬんだい! その背後で生徒達が泣きながら「やめて先生」、「戻って来て」って叫んで、その生徒の泣き顔に表情を歪ませながらも、その愛を背に立ち向かう先生が好きなんじゃいッ! 

 

 もしくは動けなくなった生徒を庇いながら、銃撃に身を晒す先生も好き。これ以上銃撃を受けたらヘイローが壊れかねない生徒を抱きしめて、背中で銃弾を受ける先生。絶対あれだよ、瀕死の状態で必死に先生を退かそうとするのに、普段からは想像も出来ない力で抱きしめられて、「先生ッ、やめて下さい!? おッ、お願いですからっ!」って云っても離さなくて。銃声とマズルフラッシュが瞬く中、先生の体に着弾する弾頭が肉を裂き骨を砕く感触だけが、抱き締められた生徒の肌に伝わるんだ。可愛いね♡ うぅ、銃弾を受けながら微笑む先生、本当に格好良いよ……。先生に庇われる瞬間に生徒をループさせてぇ~。先生が死んだと思って呆然としたら、再び先生に抱きしめられる生徒。何かを云うより早く放たれる銃弾、またミンチになる先生。絶叫して、また先生に抱きしめられて――でも実はこれ、先生もループしているんだよね。毎回律儀に地獄のような苦しみに耐える先生は立派だよ、ほら、生徒庇わなければ生き残れるよ? 今回も庇うんだ、ふーん。流石先生! そこに痺れる憧れるぅ! 先生と生徒が可哀そうだよ、やめなよそんな事。先生、生徒の為に一杯頑張っているから好き♡ でも生徒の事ないがしろにするから嫌い!

 逆に生徒が先生を殺す瞬間にループさせたら、生徒は何回目で指を止めるんだろう。

 

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