ブルーアーカイブを、もう一度。   作:トクサン

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誤字脱字報告、大感謝。


風紀委員会、行政官

 

「痛ったぁ……」

 

 銃声轟く戦場、その片隅。

 アルとの戦闘中、横合いから散弾銃を喰らい、瓦礫に埋もれていたイオリが目を覚ました。脇腹に走る鈍痛に顔を顰めながら、自身の体に降りかかっていた砂塵を手で払い、立ち上がる。風紀委員の制服は押並べて防弾仕様だが、それはそれとして衝撃はきちんと感じてしまう。横に転がっていた愛銃を拾い、残弾がある事を確かめた彼女は砂利の混じった唾を吐き出す。時計を見ると、然程気を失っていた訳ではないらしい。経過したのは、ほんの数分程度だった。

 

「くそ、あいつ等……良くもやってくれたな――ッ!」

「た、隊長!」

 

 そんなイオリの元に駆け込んでくる風紀委員の一般委員。銃を抱えながら駆け寄って来た彼女に対し、イオリは青筋を浮かべながら叫ぶ。

 

「だから私を隊長と呼ぶなって……!」

「便利屋以外の部隊から、たった今攻撃が――!」

「ハァ!?」

 

 その報告に思わず目を見開いたイオリは、近場の瓦礫を蹴飛ばし周囲を見渡した。激怒した便利屋の対処だけでも手を焼いているというのに、他の勢力が戦闘を仕掛けて来たなんて――。

 

「こんな時に、一体どこの誰だ……!?」

「校章は――あ、アビドス校です!」

「アビドス? アビドスって、確かこの自治区の――」

 

 管理校だった筈、その言葉は途中で爆発に掻き消された。爆発は至近距離ではなかったものの、それなりの規模で、幾人もの風紀委員が宙を舞っていた。悲鳴を上げながら地面に転がる彼女達を唖然とした表情で見送るイオリは、爆発の起きた方向へと顔を向ける。

 

「しゃあァ! やってやったわッ! ざまぁ見なさい! 先生に怪我をさせた罰よッ!」

「運搬用のドローンには医療品だけではなく、爆弾だって搭載出来るんですッ!」

「あははは~っ☆ 汚物は消毒ですよ~!」

「ん、先生に血を流させた分、アナタ達も血を流すべき」

 

 そこには、便利屋と同じようにヘイローを光り輝かせた四人組が、銃やら何やらを振り回しながら、好き勝手に暴れていた。見るからに後方支援専門らしき眼鏡の生徒が一人、気炎を吐いて此方に中指を立てる生徒が一人、ドローンと連携して戦う白銀の生徒が一人、明らかに人に向けて撃ってはいけない類の重火器を撃ちまくる豊満な生徒が一人。

 計四人が笑ったり怒ったりしながらやたら滅多らに撃ちまくり、周囲の風紀委員が塵の様に蹴散らされていく。まるで悪夢の光景だった。一瞬、自身は気絶したままなのかと目を擦り、頬を抓ったイオリであったが――夢から覚める事はない。

 つまりこれは、現実である。

 

「な、何なんだ、あいつら……?」

「わ、分かりません、ですが予想以上に強くて……アダぁッ!?」

「危なッ!?」

 

 ノノミのミニガンによる薙ぎ払う様な一撃が、周囲を文字通り一網打尽にする。咄嗟に瓦礫の影に隠れたイオリは助かったものの、横に立っていた風紀委員は顔面に弾丸を貰い、そのまま後方へと弾け飛んだ。顔を地面に擦り付けながら吹き飛ぶ仲間の姿を見て、イオリの顔色が蒼褪める。

 

「――おらァアアッ! アコォ! 出てこぉいッ! どうせ独断でチナツとイオリを動かしたんだろう!? お陰様でこちとら死ぬところだったんだぞッ!? 謝罪と賠償を請求するッ! 具体的にはわんわんプレイだッ! わんわんプレイを所望するぞコラッ!」

 

 不意に、戦場に聞き慣れぬ低い声が響き渡った。

 見れば先の暴れ倒している四人組の後ろで、柴関の崩れた瓦礫の上に立ち何事かを叫んでいる大人の姿がある。恐らく元は白かったのであろう制服は砂塵に塗れ、血の跡も見える。だと云うのに腕を振り回し、延々と怒声を繰り返す姿は元気そのもの。

 

「な、なんだ、あの頭のおかしい大人は……?」

 

 イオリはそんな先生の姿を見てドン引きした。

 

「ちょ、せ、先生! 危ないからッ! そんな所に上って叫んだら撃たれちゃうでしょうッ!? ちゃんと私の後ろに居てッ!」

「先生、わんわんプレイなら後で私がやってあげるから、今は大人しくしていて欲しい」

「し、シロコ先輩、それ何かおかしくないですか……?」

「それなら私も御一緒しますよ~☆」

「ノノミ先輩っ!?」

 

 軽口を叩きながら一切射撃を躊躇わないアビドス勢。最初は撃たれたのだから反撃せねばと疎らに弾丸も飛来していたが、先生の姿が見えた途端、その態度を一変させる生徒がひとり。

 

「あれは――先生ッ!? しゃ、射撃中止ッ! 絶対にあの方を撃たないで下さいッ! 被弾したら事ですよッ!? 射撃中止、射撃――やめろって云っているでしょうッ!?」

「あばッ!?」

 

 チナツは後方で血塗れの先生を視認した瞬間、速攻で戦闘中止の声を張り上げ、云っても射撃を止めない傍の風紀委員を全力で蹴飛ばした。哀れ、蹴飛ばされた風紀委員は瓦礫に頭を打ち付け、昏倒する。

 

「先生!? なんで前線に――!? そうか、アビドスが合流したのか!」

「はッ、先生!? 噓でしょ――って何だ、思ったより元気そうじゃん! 良かった~!」

「うわぁあアアアアアッ! 死んで下さい死んで下さい死んで下さいッ!」

「は、ハルカ!? 落ち着いて、今ほら、何か戦闘停止したみたいだからねッ!? 一旦落ち着きましょう!? ね、ねっ!? ホラ、先生も思ったより元気そうよ!?」

 

 便利屋の皆は先生の叫びに、戦闘へと傾けていた意識を何とか引き戻す。腕を振り回して元気に叫ぶ先生の姿を見た皆が一様に抱く感情は安堵、しかしハルカは変わらず暴走状態のまま、何とかアルが羽交い締めをする事でそれ以上の暴発を防ぐ。

 チナツの射撃中止命令、実力行使すら厭わないそれは徐々に風紀委員会の中で浸透し、銃声が収まっていく。反撃が無ければ自然、アビドスも攻撃の手を緩め、便利屋もまた先生の出現と健在に手を止め、一先ず戦場に静寂が訪れた。

 

「――周囲の戦闘、一時的に止まりました!」

「よぉし、アビドス一旦射撃中止……ゲヘナ風紀委員会、撃つなよ? 良いか、フリじゃないぞ? 私は弾丸一発で死ぬぞ? 今もぶっちゃけ足がガクガクでマジでクソヤバだからな? 私が死んだら、何かもう凄い事になるからな? そこんとこ分かっているか!?」

「内容がふわっふわ過ぎませんか先生……?」

 

 アヤネの突っ込みに取り合わず、先生は片手を上げたまま一歩、一歩、ゲヘナ風紀委員会に近付いていく。最初は困惑した空気を出していた風紀委員会側だったが、人の波を掻き分け駆け寄る人影が一つ。

 件のワカモ騒動で共に戦った生徒の一人――ゲヘナ風紀委員会所属のチナツであった。

 彼女は息を弾ませながら先生の傍まで駆け、その姿を見てくしゃりと顔を歪める。先生は敢えてお道化た様に笑い、声を掛けた。

 

「久しぶり、チナツ」

「先生っ……! すみません、まさかその様な怪我をさせてしまうなんて、私は、取り返しのつかない事を、なんとお詫びしたら良いか――……!」

「気にしないで……とは云えないけれど、事故だろう? 結果的にこの程度で済んだんだから強く責める気は無いよ、それに戦闘を止めてくれたのはチナツだ――ありがとう」

「わっ……」

 

 深く頭を下げ、震えながら謝罪を口にするチナツに、先生は強く頭を撫でる事で済ませる。彼女に対する謝罪と賠償は、これで十分だ。元々チナツがこんな大胆な事をするとは思っていないし、知識として知っている。

 故に――。

 

「それで――イオリ?」

「んぐ……」

 

 近場の瓦礫の影から顔を出し、胡乱な目で此方を見ていた褐色銀髪ツインテール娘を呼び出す。彼女は名指しで呼ばれた事に言葉を詰まらせ、周囲を一瞥した後、観念したような表情で先生の前まで足を進める。

 ハルカに撃たれた脇腹の制服が破れ、僅かに露出しているものの、それ程大きな怪我ではない。というよりも、キヴォトスの住人にとって銃撃による負傷など軽傷なのだ。脇腹を庇う様子もなく、痛みなど感じていないとばかりの振る舞いに、先生は心配の言葉を飲み込み、苦笑を零した。

 

「一応初めましてになるのかな? 私は連邦捜査シャーレ顧問の先生だよ」

「……ゲヘナ風紀委員会所属、銀鏡イオリだ」

 

 ぶっきらぼうに答え、愛銃のライフルを肩に担ぎ直す。先生はそんな彼女の姿を足先から頭の天辺まで一瞥し、ひとつ頷いて見せる。

 

「多分作戦自体はアコが推し進めたのだろうけれど、最終的に店に迫撃砲をぶち込んだのはイオリ、君だよね?」

「……そうだ、最終的に許可を出したのは私だ」

「へぇ、ふぅん、ほぉ~……――いやぁ、凄く痛かったんだよねぇ、見てこれ、血が滲んでいるでしょう? 制服も最初は真っ白だったのに、爆発の砂塵と私の血でこんなになっちゃってさぁ、もうちょっと当たり所悪かったら死んじゃう所だったんだぁ、痛いし怖いしで、ねぇ?」

「うぐッ――」

 

 先生の顔がにやりと歪み、これ見よがしに制服をはためかせ、血のこびり付いた肩などを見せつける。そうでなくとも頬や額、首元など乾いた血の痕跡があちこちに散見され、かなりの出血である事は確かであった。キヴォトス外の人間であるならば、それなりの負傷である――そもそも、迫撃砲に巻き込まれて生きているというのが奇跡なのだ。それを考えれば自身の行為がどれだけ目の前の彼にとって致命的なアクションだったのか、イオリは良く良く理解していた。

 

「アコにも勿論、謝罪と賠償を求めるけれど、実行犯のイオリにも求めちゃっても良いと思わないかい?」

「わ、悪かったよ……流石に今回の件は、その、反省する、ごめんなさい……賠償って、具体的には何だ? 私、その、余りお金は――」

 

 しょんぼりした表情で肩を落とし、目線を落とすイオリ。普段強気で跳ねっ返りな彼女であるが、生死が絡むとなればそうも云っていられない。今回の件は全面的に自身に非があると認め、素直に賠償を支払う姿勢を見せる。

 そんな彼女の姿を満足そうに見ていた先生は、強い口調で告げた。

 

「イオリを吸います」

「す、吸う………?」

 

 先生の言葉に、どれ程の金額を吹っ掛けられるのだと戦々恐々としていたイオリはしかし、予想外の言葉に目を白黒させる。そもそも、「吸う」という単語を人に向けて使った事が無い彼女は、それが何を意味しているのか皆目見当も付かず、疑問符を浮かべながら再び問いかけた。

 

「な、何だ、吸うって」

「イオリの首筋とか髪の毛に顔を押し付けて、深呼吸をします」

「―――」

 

 瞬間、先生の云う『吸う』が何を意味するのかを完全に理解したイオリは――全力でバックステップを踏み距離を取り、銃を抱きしめながら首を横に振って叫んだ。

 

「は、はぁッ!? 何それ!? ぜ、絶対に嫌だッ! 気持ち悪いッ!」

「因みに実行は今なので、程よい汗を感じられそうで非常に胸が高鳴りますね」

「――~ッ! ヘンタイっ、悪魔! 変人ッ! これ以上近寄らないでッ! あっちいってッ!」

 

 先生の満面の笑みを浮かべた渾身のコメントに、イオリは顔を蒼褪めさせながら叫ぶ。そして一歩一歩近づいて来る先生に、自己防衛の為に蹴飛ばそうとして――不意に、先生がその場に崩れ落ちた。

 

「ぐぅッ――……!」

「!?」

 

 にわかに、先生の後方で待機していたアビドスがざわつき、先生は荒い呼吸を繰り返しながら首を垂れる。まだ蹴飛ばしもしていなければ、何をしたわけでもないイオリは困惑し、恐る恐る這い蹲る先生に手を伸ばし、問いかけた。

 

「お、おい、先生、大丈――」

「うッ――げほッ、ごぼっ!」

 

 その手が触れそうになる瞬間――先生の口から、決して少なくない量の赤色が飛び散った。それはどろっとしていて、妙に生々しく、微かに鉄の匂いがする赤色だった。その飛沫がイオリの爪先に付着し、思わず身を竦ませる。

 

「ひッ!?」

「先生ッ!?」

「――ごほッ、これ、は……内臓を……傷つけた、かな」

 

 イオリが先程とは異なる意味合いで顔色を蒼褪めさせ、隣に立っていたチナツが悲鳴染みた声色で先生の名を呼ぶ。慌てて駆け寄ったイオリは先生の肩を掴み、必死に声を張り上げる。

 

「お、おい!? う、嘘だろう!? ちょ、ちょっと!? 先生っ!?」

「い、イオリ、頼む……ッ、せ、せめて――最期に……っ」

 

 口の端から赤を垂らしながら、胸を抑え、そう懇願する先生。その表情を直視したイオリは、顔を赤くしたり青くしたり、忙しなく口元を動かしながら、しかし先生の必死の懇願を無下にする事も出来ず、やけくそ気味に叫んだ。

 

「わ、わか、分かったよッ! 好きにして良いから、吸うなり嗅ぐなりして良いからッ、だから――」

「――あ、そう? 助かる~!」

 

 イオリの承諾を得た先生は、ぱっと苦し気な表情を切り替え、再び笑みを浮かべると素早い動きでイオリの背後を取り、背後から抱きしめながらその後頭部に顔を埋めた。それは匠の技であった、イオリの意思の隙を突いた完璧なだいしゅきホールドであった。

 

「………――は?」

「すぅ~ッ! あーっ、これですよ、これ、シロコやホシノも素晴らしい匂いだったけれど、イオリも良いね、うん、最高、素晴らしい、可愛らしい匂いの中に汗も混じって完璧、間違った、かんぺき~、あ、ついでに足も舐めて良い?」

「は?」

 

 先生に嗅がれた状態でイオリは硬直し、蒼褪めた表情をしていたチナツもまた、その急激な変化に情緒が追いついていない。その間もイオリの後頭部で深呼吸を繰り返す先生に対し、何とか持ち直したチナツは恐る恐る問いかけた。

 

「せ、先生?」

「スゥーッ……ん、何だいチナツ? 今先生、イオリを吸って回復している最中なのだけれど」

「あの赤い液体……喀血か吐血ではないのですか?」

「あれトマトジュース」

 

 そう云って先生は懐からストローの刺さった紙パックのジュースを取り出して見せた。表面には、『新鮮・健康一番! 鉄分補給!』の文字と一緒に手足の生えたトマトが踊っているパッケージが見える。何処からどう見てもトマトジュースだった。

 

「柴関近くの自販機に流れ弾が当たっていてさ、中身が転がっていたんだよね、それをちょっと口に含んで、どばーって」

「……心臓が飛び出るかと思ったので、二度とやらないで下さい」

「はぁい」

 

 疲れた様に、或いは呆れたように、けれど少しだけ安堵を含ませた、何とも表現し難い表情でそう呟くチナツに先生は気の抜けた声を返した。尚、アビドスの面々にはトマトジュースを拾った時に、「ちょっと一芝居打つね」と通達しておいたので、動揺するだけで済んだ。何やら騒がしい便利屋の方向は見ない事にする。

 

「な……か、ッ……ぐ……ぅッ!」

「あ、イオリ、因みに私、今結構血を流していてヤバいので、暴れたりして運が悪いと冗談抜きで死にます」

「――ッ!?」

 

 顔を真っ赤にして、自分が騙されたのだと気付いたイオリが無理矢理突き離そうという気配を見せたので、それを察した先生が先手で釘を刺し、動きを制限する。腐ってもシャーレ、腐っても連邦捜査部――一度失態を犯した以上、これ以上罪を重ねる事など出来まい。ましてや先生が心身ともにボロボロなのは真実なので、割と本気で暴れられたら死にかねないというのがポイントである。

 イオリは口を何度も開閉させ、何かを云おうとして、しかし怒りと羞恥で言葉が出ず、ただ恐ろしい程に青筋を浮かばせていた。そんな彼女の後頭部に顔を埋めながら、先生は勝利の余韻に浸る。いざ暴れられてしまえば先生に成す術などないが、そんな行動を取らないと先生は確信している。

 

「ふふっ、そうだイオリ、良い子だね、君は大人しく私に吸われていれば良いのだよ」

「くぅッ……こんのっ! お、憶えていろよ、シャーレの先生ッ……!」

「憶えているよ、生徒との事は――全部ね」

 

 呟き、先生はふっと一瞬だけ表情を変える。しかしそれはイオリの髪に遮られ、誰に見られる事もなく――それから先生はチナツの持つ端末へと目を向け、告げた。

 

「さて……そろそろ出てきなよ、アコ」

『ふぅ――聞きしに勝る、と云うべきでしょうか……シャーレの先生?』

 

 先生の言葉に、一拍置いて返事があった。

 チナツの持つタブレットからホログラムが投影され、皆の視線が吸い寄せられる。そこには先生にとっては懐かしい人物であり、ゲヘナ風紀委員会の面々にとっては見慣れた人物――ゲヘナ風紀委員会所属、天雨アコの姿があった。

 相変わらず神経質そうな表情に薄らと笑みを張り付けた彼女が、先生に視線を向ける。

 

「あ、アコちゃん……」

「アコ行政官」

 

 イオリはどこか情けない、引き攣った表情で。反対にチナツは責める様な声色で彼女の名を呼んだ。アコは二人の姿を一瞥した後、先生と――そしてその背後に佇むアビドス、便利屋に向けて小さく会釈して見せる。

 

『こんにちはアビドスの皆さま、そして先生、序に便利屋の方々も――私はゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します』

 


 

 

 イオリを吸いながら、アコと舌戦を繰り広げる――両方やらなくちゃならないのが、先生の辛い所だ。

 これ以上生徒間の溝が広がらない様に道化を演じながら綱渡りをする先生の姿は美しいべ……失敗したらゲヘナとアビドス・便利屋間に修復不可能な溝が出来ると考えるだけで先生が内心でどれだけ恐怖している事か、銃を向ける相手も守らなくちゃいけないというのが大変だね先生♡ 身を挺して守りなよ先生なんだから。

 

 一見元気そうに見えるのに、ぶり返しが来た瞬間にとんでもない事になる薬物って良いよね。余りにも注射を使い過ぎて、腕をまくったら注射痕がずらりと並んだ先生のそれを見て顔を蒼褪めさせるユウカ――うぅ、先生がODするとこみてて……。先生が薬物なんかに頼って恥ずかしくないの? 健全な精神は健全な肉体に宿るっていうしちょっと弛んでるんとちゃう先生? 手足捥げようと根性で立ち上がらんかい! 血に塗れながらも頑張る先生は素敵だよ♡

 

 もし此処で先生の手足が吹き飛んでいたらなぁ~、多分便利屋の皆もエラい事になっていたんだろうなぁ。まず庇われたハルカが先生の状態に気付くでしょ? 自分の体に滴る温い体温と鉄の匂い、ぐったりと動かないまま自分に覆い被さる先生を見て、「庇われた」と思った瞬間、先生の片腕が吹き飛んでいる事に気付いて、「うあァアアアアアッ!?」って発狂するじゃん? その声を聴いたカヨコが瓦礫を押し退けながら、ハルカに覆い被さって動かない先生を見て、血の気が引くじゃん。本編とは違って腕一本――おまけで足も吹き飛ばしても良いけれど、流石に二つも捥いじゃいます! をする程私は鬼ではない、命拾いしたな先生……まぁどうあれ最後に死ぬがなガハハ!――捥いじゃった訳だから、出血もヤバくて、ハルカは涙を流しながら先生を抱きしめて、「先生ッ! せんせいッ!」って錯乱する。

 

 カヨコは一瞬自失しかけるも、ここで自分が対処を間違ったら間違いなく先生が死ぬという強迫観念から、先生の傍に駆け寄って自分の着ていた服とか諸々で止血を行うと思う。ただその手付きはたどたどしく、顔色は悪いし、震えが止まらないしで動揺が隠せない。

 

 ハルカに先生を奥に連れて行くよう指示しようと考えるんだけれど、先生の名前を呼びながら血塗れの彼に縋りつくハルカを見て無理だと判断し、そのまま引き摺って行こうと考える。その時、アルが合流するんだけれど、「何なのよもう……!」と悪態をつきながら砂塵を手で払いながら足を進めれば、文字通り血塗れの片腕欠損先生と、蒼褪めた表情で先生を見るカヨコ、泣き喚き縋り付くハルカの地獄絵図。

「えっ……?」って一瞬、目の前の光景が何なのか理解出来なくて、目を瞬かせる。アルの姿を認めたカヨコは、震える指先で、「社長、先生の腕、取って」って、先生の体を起こしながら云うんだ。

 

「う、腕……腕って――」、「そこに落ちている奴」って指差した先には、先生の切断された腕が転がっていて、アルは思わず口元を抑えるんだ。「腕があれば、まだ、くっつくかもしれないから」って抑揚のない口調で呟くカヨコに、アルは何も言えなくて、恐る恐る切断されたそれに手を伸ばす。

 

 ほんの数分前までは先生に繋がっていたそれは、温かくて、妙な重さがあって、アルは歯を鳴らしながら、自分の服が汚れるのも構わず抱きしめると思う。

「ど、どうすれば良いの、カヨコ!? ねぇ、どうすれば――」と震える声で問い掛ければ、カヨコは顔をくしゃりと歪めながら、「今考えているから、ちょっと黙ってッ!」って荒々しい声で叫ぶんだ。

 

 そこに「痛ったぁ~……アルちゃん無事~?」ってムツキが合流して、アルが歯を鳴らしながら先生の千切れた腕を抱きしめ、当の先生は絶賛血の海で、ムツキは絶句する。「は?」の一言すら漏らせずに、ただ困惑した様に、蚊の鳴く様な声で吐息を漏らし、それから数秒体を硬直させるんだけれど、先生の状態とアルの抱きしめる腕をもう一度見て、「アルちゃん、氷ッ!」って叫ぶんだ。

 

 先生の腕をクーラーボックスか何かに入れて、冷やして病院までもっていけば、まだ望みはあるから。持っていたバッグを投げ捨てて、柴関のカウンターに氷か何かが無いか探し始める。そんなムツキを見ながらアルは、何をすれば良いのか、どうすれば良いのか、足が竦んで動けなくて、「ぁ、ぅ――」と右往左往する。先生の腕を何処かに置いておくわけにもいかず、大事に抱えながらふらふらとムツキの後を追いかけるんだ。

 

 カヨコは先生の体を起こして、引き摺ろうとするんだろうけれど、縋り付くハルカが先生の事を離さなくて、「いい加減にしてよハルカッ!? 先生の事殺したいのアンタッ!?」ってハルカに怒声を上げて、けれど当のハルカは先生の事しか見えていなくて、ただ「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいッ!」と繰り返しながら、先生の制服を強く握り締めて顔面真っ白で蹲るんだ。

 

 柴関に押し入った風紀委員は、そんな地獄絵図を見る羽目になる。

 最初は銃を構えながら素早く踏み込むんだけれど、想定していた抵抗は皆無で、それどころか泣き喚く生徒と血塗れの大人を焦燥しながら引き摺る生徒、そしてカウンター裏で物を次々投げ捨てながら鬼気迫る表情で何かを探す少女と、千切れた腕を抱きしめながら涙を流して右往左往する生徒。

 

 床に広がる血を見て、「もしかして、とんでもない事になっているのでは」と遅まきながらに理解しはじめた一般風紀委員の群れを掻き分けて、チナツが「先生ッ!」と叫びながら押し入る。そこでカヨコに引き摺られる、片腕のない先生を見て、さっと顔を蒼褪めさせるんだ。

 

 カヨコは踏み入った風紀委員に気付くんだけれど、今はそれどころではないと舌打ちを零して、「救護班ッ! 風紀委員なら、いるでしょう!?」って助けを求めるんだ。勿論、チナツは救急バッグを吊り下げながら先生の傍に駆け寄って、素早く負傷状態を確かめる。そんな中、迫撃砲を撃ち込んだイオリが、「おい、一体どうしたんだ――」と店の中に踏み入って……。

 

 んほぉ~! この後、チナツと口論して、イオリが最終的に迫撃砲叩き込んだ実行犯だと気付いたムツキに、「お前ぇェッ!」って物凄い形相で銃口向けられて欲しい~ッ! 最終的に便利屋は捕縛されるし、アコの思惑通りシャーレの先生の身柄は手に入るけれど、結局先生の腕は欠損するし、撤収した後に崩れ落ちた柴関と、気絶した大将、さらに飛び散った血痕の前で呆然とするアビドスが敵に回るぞッ! 因みに情報が広まった場合、百鬼夜行の一部とミレニアムも敵に回る模様。トリニティは元々敵みたいなモンだから変わらないけれど、ティーパーティーのミカは記憶持ちだから、全ギレして単身ゲヘナに乗り込んで来るゾ! ブルーアーカイブ無双、はじまります。

 

 これちゃんと書こうと思ったら一話~二話分どころじゃないな! 後書き分岐ルートで色々書こうと思ったけれど分厚くなりそうだしやめよ! というか今回も先生、生きてるじゃん。何でそういう事するの? ちゃんと絶命してくれなきゃ役目でしょ?

 でもさ~、呆気なく死んじゃうよりはさ~、瀕死の状態にしてさ~、何としてでも先生を生かそうとして必死に頑張る生徒を眺めた方がさ~、お得じゃないかな~って思うんですよ。頑張って手を尽くして、それでも足りなくて、どんどん冷たくなっていく先生を見て流す涙、それにプラスアルファが付くわけだから、お得じゃんね。

 

 皆の前で何度もトマトジュースを吐き出せば、いざ、本当に血を吐いたとしても、「これもトマトジュースだから」って言い訳出来るの、先生ほんとずるいよね。水着じゃなくて下着だと思えば、それは下着だから。文字通り本編の言葉を逆手に取った訳だ、サスガダァ。此処でヒナを記憶持ちにしたら楽しい事になりそうだよね先生、もっと苦しんでね。

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