ブルーアーカイブを、もう一度。   作:トクサン

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誤字脱字報告ありがとうございます。


カイザーの城

 

「うへ……結局、何なのこいつら」

 

 ホシノは硝煙を吹き上げる銃口を払い、呟く。

 突発的に行われた戦闘は終息し、襲撃者であるオートマタは全て撃破され、煙を吹いて崩れ落ちていた。アビドスは倒れ伏すそれらを見下ろしながら、訝し気な表情を浮かべる。

 

「そんなに強くないけれど邪魔って云うか、面倒くさいというか……なんか、今まで戦ってきた奴らの中でも一際厄介って感じ」

「ん、下手したら風紀委員会より面倒……」

「多分、連携のせいだと思います――」

 

 シロコやセリカの言葉に、アヤネはオートマタ達の持っていた銃器を手に取りながら答えた。アヤネ自身それほど銃器に詳しい訳ではないが、銃器が必須なこのキヴォトスに於いて必要な知識は有している。専門家には遠く及ばないが、彼らの持っていたライフルが、既製品のそれではない事は分かった。この銃一丁だけでも、それなりの値段がするだろう。つまり、既製品の銃器やパーツを使用する日雇い傭兵の類ではないという事だ。

 

「全員が全員、自身の役割に徹しているんです、それでいて決して無茶をしない、堅実で、命令系統がキッチリしていて、だから非常に粘り強く感じる……」

「一体何なのでしょう、この方たちは――それに、こんな所で何を?」

「それは、私にも……――?」

 

 ノノミの疑問にアヤネは首を振り――ふと、外壁に何かマークの様なものが描かれている事に気付いた。それは外壁の塗装と砂に塗れてやや見辛いものの、見間違いなどではない。

 

「皆さん、外壁に何か、ロゴかマークの様なものが……」

「マーク?」

 

 その言葉に、全員がアヤネの指差した方向へ視線を向ける。皆が外壁に近付き、シロコが徐に張り付いていた砂埃を払うと、僅かに掠れたマークが視界に飛び込んで来た。

 

「これって……」

「このマーク、この集団は――」

 

 描かれていたマークは、三角形にクロスする帯。

 そしてその下に記された、企業名――『KAISER PMC』。

 

「――カイザーPMC」

 

 ホシノがどこか、呆然とした様子で呟いた。

 

「……今、照合しました、ホシノ先輩の仰る通り、これはカイザーPMCのものです」

「カイザー……カイザーって、こいつらもカイザーコーポレーションって事!?」

「そういう事みたいだね」

 

 シロコが苦り切った表情で頷けば、セリカが外壁を思い切り蹴飛ばす。

 その表情を怒りに染め、セリカは刻まれたそれに向かって叫んだ。

 

「カイザー……カイザー、カイザー、カイザーッ! どこへ行ってもッ! 一体、何なの!?」

 

 アビドスから金をせしめて、ブラックマーケットと繋がっていたのはカイザーローン。頸の廻らなくなったアビドスに甘言を囁き、土地を奪ったのはカイザーコンストラクション。そしてそれを裏から支援するカイザーコーポレーション――それに加えて、今度はアビドスの砂漠にカイザーPMC?

 一体、幾つ系列企業を並べれば気が済むのか。セリカは怒り心頭と云った様子で地団太を踏み、表情を歪めた。

 

「『PMC』、という事は、まさか、さっきのオートマタは――」

「? ノノミ、どうしたの」

 

 ロゴを見つけた瞬間から、どこか険しい表情を浮かべていたノノミ。シロコが疑問符を浮べれば、真剣な表情で外壁を見つめる彼女が呟く。

 

「PMCとは、Private Military Company(民間軍事会社)の事です」

「ぐ、軍事って……!?」

 

 その物騒な言葉に、外壁を蹴飛ばしていたセリカの動きが止まる。

 

「ヘルメット団のようなチンピラとはレベルが違います、本当に組織化されたプロの戦闘集団……文字通り、軍隊です」

「……成程、だからあんなに粘り強かったのか」

「退学した生徒や不良の生徒達を集めて、企業が私兵として雇っているという噂がありましたが、まさか――」

 

 ノノミがそこまで口にした所で、突然けたたましい警報音が周囲に鳴り響いた。甲高い電子音が高い空に吸い込まれ、アビドス全員の鼓膜を強かに叩く。不意のソレに全員が身を震わせ、慌てて周囲を見渡した。

 

「っ、警報!?」

「な、何だか大事になりそうな予感なんだけれど……!?」

 

 セリカが表情を引きつらせながらそう口にすれば、どこからともなく空気が破裂するような音が響いて来る。音のする方向へと視線を向ければ、空の向こう側から飛来する影が複数。

 

「これは……ローター音?」

「ちょ、アレってヘリコプターじゃないの!?」

 

 セリカが空を舞うそれらを指差し、思わず叫ぶ。それだけではなく、少しすれば地面が揺れる様な振動を感じた。鋼鉄同士の擦り合う様な甲高い音に、振動。シロコは、はっとした表情で叫ぶ。

 

「足元の砂が跳ねる位の振動……――まさか、戦車!?」

「これは……! 大規模な兵力が接近中、数は……不明! ただ、包囲するように動いています! 敵兵力は装甲車、戦車武装ヘリ……っ、兎に角、物凄い数ですッ!」

 

 ドローンによる索敵機能、表示されたマップには次々と敵兵力を示す赤点が増え続けている。アヤネが蒼褪め、冷汗を掻く程の量だった。警報が鳴り響く中、あらゆる音が続々と増えていく。戦車の駆動音、ヘリのローター音、大勢の兵士がアスファルトを駆ける音――警報を皮切りに、基地の警戒態勢が一気に引き上げられたのが分かった。

 

「包囲が完成する前に離脱しましょう! 一刻でも早く、この場から離れないと……!」

「喋っている暇が惜しい、行こう!」

 

 告げ、シロコがいの一番に飛び出す。その後ろにホシノが続き、背後のセリカを見て叫んだ。

 

「セリカちゃん、おじさんとシロコちゃんが突破口を開くから、殿をお願い」

「わ、分かった!」

 

 シロコ、ホシノのツートップ。中央にアヤネとノノミ、殿にセリカ。情報支援と火力支援を中心としたアビドスの包囲網突破陣形。倒れ伏したオートマタを跨ぎ、対策委員会の皆は走り出す。

 背後からは、夥しい数の足音が迫っていた。

 

 ■

 

「委員長、その……これは、いつまで書けば宜しいのでしょうか……?」

 

 カツカツと、ペンが走る音だけが木霊するゲヘナ風紀委員会執務室。ヒナ委員長が無言で業務を行う傍ら、その隣の席で只管反省文を書く作業に勤しんでいたアコは、自身の黒塗りになった手の側面を眺めながらふと呟いた。

 ヒナは一瞬だけ業務の手を止めると、ちらりとアコを一瞥し、再び手を動かし告げる。

 

「今、二百枚目くらいでしょう、自分で千枚書くって云っていなかった?」

「それはその、それくらい反省していますという比喩でして……」

「口より手を動かしなさい」

「が、頑張ります……」

 

 言外に、「流石に多すぎませんか?」という含みを持たせたものであったが、ヒナ委員長はどうやら辞めさせる気はないらしく、云い出した手前本音を吐露する訳にもいかず、アコはがっくりと項垂れ再び手を動かした。

 自分がこの反省文を終わらせねば、自身の担当する業務までヒナ委員長に流れる事になる。必死に文字を書き綴るも、やはりその速度には限界があり、どう頑張っても今日中に終わる気配はない。

 

「……後、前にも伝えたけれど、次先生が来たらわんわんプレイって云うのをやるそうだから、頑張って」

「わ、わんわんプレイ……」

 

 その言葉に、ぴたりと再びアコの手が止まる。

 

「やっぱりアレ、本気だったんですね……」

 

 呟き、アコは件の先生の奇行を思い出した。

 同じ風紀委員のイオリを抱きかかえながら、その髪に顔を埋め深呼吸するシャーレ担当顧問の姿。平然と、『あぁいう事』を賠償に求める人だ、その『わんわんプレイ』というのも恐らく本気なのだろう。もし他の人物が口にした事ならば、冗談か単なる嫌がらせだと断じる事も出来た。しかし、実例を前に示されると本気度が違う。

 青くなったり赤くなったりを繰り返すアコは、少しの間呆然と天井を眺めていたが、ふと目についたヒナ委員長の首元に小さくガーゼが貼り付けられている事に気付き、口を開いた。

 

「……それよりも、委員長こそ病み上がりではありませんか、何も即日復帰せずとも少しはお体を労わって――」

「どこかの誰かが暴走したせいで、関係各所に提出する書類が溜まっているの、傷自体も半日で治る程度のものだし、休んでなんていられない」

「うっ………」

 

 ぴしゃりと最も痛いところを突かれ、口を噤んだアコ。ヒナは淡々と業務をこなしながら目を伏せ、ぽつりと呟く。

 

「それに、気になる事もあるしね――」

 

 どこか陰を背負いながら呟かされたそれに、アコは剣呑な目つきで以て云った。

 

「……委員長を襲った相手(クソ女郎)ですか?」

「それに関しては黙秘すると云った筈よ」

「しかし、ゲヘナ風紀委員長を襲撃するなど、決して許せる筈が……!」

「どこかの誰かは連邦捜査部のトップを襲撃したわね」

「…………」

「――宜しい、そうやって手を動かせば良いの」

 

 最早、何も云う事は無かった。何を云っても自分の行動に返って来るに違いない、それが理解出来る程の塩対応というか――鉄壁であった。

 意気消沈したアコはしょんぼりとした顔を隠さず目の前の反省文と向き合い、暫くの間執務室にはペンを動かす音だけが響き、二人は黙々と作業を進めていた。

 その中で、ふとアコは疑問を思い出し、双方ペンを動かしながら口を開く。

 

「――そう云えば」

「ん、まだ何か?」

「あの、アビドスのホシノという方は、お知り合いだったのですか?」

「……いや、実際に会ったのは初めて」

「そうでしたか、どことなく、良く知っている方の様に話されていたので……」

 

 アコがそう告げると、ヒナはペンを止めずにどこか懐かしい色を滲ませて言葉を紡いだ。

 

「小鳥遊ホシノ――『天才』と呼ばれた、本物のエリート、二年前の情報部分析では、ゲヘナにとっての潜在脅威の一つとしてリストアップされていた」

「何と……全くそういった雰囲気を感じさせない方でしたが」

「アコ、外見で相手を判断するものじゃない」

 

 一際強くペンで机を打つと、ぎしりと椅子を軋ませながらヒナは小さく肩を揺らした。

 

「でも確かに、二年前とは随分と変わった……元々は攻撃的戦術を得意とした好戦的な性格で、荒っぽく鋭い印象を受けたけれど――」

「今とはまるで真逆ですね」

「えぇ、そうね」

 

 頷き、ヒナは一度手を止めるとアコに視線を投げかける。アコもまた、同じように視線をヒナへと向けた。

 

「……あの時、あのまま戦っていたらきっと、風紀委員の大半が戦闘不能になった筈、アコ、あなたの早とちりでね――シャーレと小鳥遊ホシノの組み合わせ、正直に云って、敵には回したくない類」

「戦力の分析は確りと行っていた筈でしたが、シャーレは兎も角、アビドス側のそういった情報は……」

「……まぁ、ある日突然活動報告が途切れたからね、なにしろ小さい学校だし、情報部も途中から脅威とはみなさなかったのかもしれない、詳しい事が知りたければ、情報部の過去資料でも漁ってみると良い」

 

 云いながら、ヒナは疲れを滲ませ背凭れに身を預ける。そうすると、妙な感傷が胸に湧き上がって来た。最も強く滲みだすのは、ホシノという少女についての疑問。嘗て天才と呼ばれ、その名に見合うだけの実力を持っていた少女――彼女の実力は、今でも尚健在だと対峙したヒナは確信している。

 しかし、だからこそ分からない。

 

「それにしても、小鳥遊ホシノ――未だにアビドスを離れないで、残っていたなんて……あれだけの能力があれば、どこの学校でも歓迎されるでしょうに、一体なぜ……?」

 

 ■

 

「はぁ、はぁッ……!」

「ふぅ――」

「キリがないなぁ、これは……」

 

 ホシノの力ない呟きは、砂漠の中でも耳に届いた。

 地面に転がるオートマタ、ドローンの残骸、加えて大破炎上した装甲車が数両。流石に大破までは持ち込めなかったものの、履帯を破壊し行動不能にした戦車が一両、たった五人の戦果としては上々の類だろう。息を切らせ、岩陰に身を隠したアビドスの大半は険しい表情を浮かべている。

 向こう側からゆっくりとした足取りで接近してくる無数のオートマタを見つめながら、ホシノは小さく舌打ちを零した。自身のポーチに手を突っ込み、残りの残弾を指先でなぞりながら思う。どう考えても弾も、体力も足りない。

 

「ッ、更に敵兵力に増援、装甲車や戦車も……まだ増えるんですか!?」

 

 背後から、アヤネの悲鳴染みた声が上がった。見れば彼女のタブレットには後方から迫り来る複数の赤点が映し出されている。移動速度からして車両である事は確かだろう。兵員輸送車だろうが戦車だろうが、今のアビドスにとって手に余るのは確かだった。

 右も左も、何処を見ても敵だらけ、アビドスは――既に包囲されていた。

 

「駄目です、包囲網の突破、出来ませんっ!」

 

 アヤネの叫びにシロコは額の汗を拭いながら、どこか淡々とした様子で呟いた。

 

「……絶体絶命?」

「うへ、包囲されちゃったかー……」

「ど、どうしよう……!?」

 

 皆が周囲の様子を伺いながら冷汗を流す、五対百――いや、もっとか。時を経る毎に数は増えていき、一斉射撃でも貰えばアビドスは一瞬で戦闘不能に陥るに違いない。それが分かっているからこそ、下手に手は出せず、同時に時間が経てば――という悪循環であった。

 そんな彼女達の目に、ふと接近してくる車がある事に気付いた。砂漠で用いるには、少しばかり頑丈過ぎる様に思えるソレ。一見普通の装甲車にも見えるが、硝子は全てスモークになっており、中を窺い知る事は出来なかった。アビドスが銃口を向けながら警戒する様子を見せる中、手前で停車したソレから――大柄な影が降車する。

 同時に数体のオートマタがアビドスを囲み、銃口を向けた。

 自然、中央に固まって背中合わせとなるアビドス。

 そんな彼女達を見下ろし、大柄な影は告げる。

 

「ふむ、侵入者とは聞いていたが……アビドスだったとは」

 

 重々しい口調で呟いたのは、黒と赤のスーツを着込み、特徴的なラインヘッドを用いた機械人形――人物だった。その大柄な体躯は優に二メートルは超えるだろう。重厚感と威圧感を感じさせる風貌に、どこか気圧されたセリカが思わず呟く。

 

「な、何よこいつ……!」

「――あいつは」

 

 最初に気付いたのは、ホシノだった。

 羽織ったコートを靡かせながら此方を見下ろすその風貌に、憶えがあった。そうでなくとも、こんな見た目の人物――早々忘れる事など出来ない。

 

「まさか此処に来るとは思ってもいなかったが……まぁ良い、何が変わるという訳でもあるまい」

 

 呟き、一歩踏み出す何者か。オートマタが付き従っている以上、何かしら役職を持っている人物なのは確かなのだろうが、実際にどこの誰なのか、ホシノを除き見当もつかない。銃口を向けられながらも余裕の態度を崩さない彼の人物は、自身の前に立つピンク髪の少女――ホシノを見下ろし、吐き捨てた。

 

「勝手に人の私有地に入り、暴れた事による被害額、君達学校の借金に加えても構わないが……まぁ、大して額は変わらないな」

「あんたは、あの時の――」

「……確か、例のゲマトリアが狙っていた生徒会長、いや、副会長だったか?」

 

 頸を傾げ、しげしげとホシノを注視する人物。

 彼は一つ頷きを見せると、指先で顎のラインを撫でながら云った。

 

「――面白いアイディアが浮かんだ、便利屋やヘルメット団を雇うよりも良さそうだ」

「ヘルメット団? 便利屋……? な、何を云っているの……」

「あなた達は、誰ですか?」

 

 ノノミの言葉に、彼は少しだけ驚いたような雰囲気を見せ――それから呆れたように肩を竦める。

 

「……まさか、私の事を知らないとは、アビドス――君達なら良く知っている相手だと思うがね?」

 

 云うや否や、彼は傲慢な態度を隠しもせずに胸を張り、アビドス対策委員会の全員を見下して、云った。

 

「私は、カイザーコーポレーションの理事を務めている者だ――つまり、君達アビドス高等学校が借金をしている相手だよ」

「ッ!」

「嘘っ!?」

 

「では、古くから続く借金の話でもしようか――アビドスの諸君?」

 

 ■

 

「カイザーコーポレーションの理事……!」

 

 アヤネが、何処か戦慄するような色を含んだ呟きを漏らした。

 目の前のこの、大柄でどこか居丈高な機械人形が、自分達を散々に苦しめて来たカイザーコーポレーションの理事。それは、唐突な邂逅だった。ずっと探していた筈の誰かが、唐突に目の前に現れ、全ての感情を浚っていった。

 ざわりと、胸に秘めていた感情が蠢くのを自覚する。

 彼はそんなアビドスの様子を興味深そうに見つめながら、言葉を続けた。

 

「正確に云えば、カイザーコーポレーション、カイザーローン、そしてカイザーコンストラクションの理事だ、現在はカイザーPMCの代表取締役も務めている」

「――そんな事はどうでも良い、要はあなたがアビドス高校を騙して、搾取した張本人って事で良い?」

「……ほう?」

 

 シロコが憎悪を滲ませた口調で吐き捨て一歩詰め寄れば、カイザー理事は首を回しながら面白そうに声を漏らす。

 

「そうよ! ヘルメット団と便利屋を仕向けて、ここまで私達をずっと苦しませて来た犯人があんたって事なんでしょ!? あんたのせいで私達は……アビドスはッ!」

 

 続けてセリカがカイザー理事の所業を糾弾すれば、彼はアイラインを何度か点滅させ、呆れたとばかりに首を横に振る。

 

「――やれやれ、最初に出て来る言葉がソレか、呆れ果てたぞアビドス」

「何ですって……!?」

「勝手に私有地へと侵入し、善良なる我がPMC職員たちを攻撃し、施設を散々破壊しておいて……くくっ、面白い」

「……善良な職員にしては、何の警告もなしに発砲されましたけれどね」

「自己防衛さ、何せ見知らぬ人物が家に無断で入り込んで来た様なものだからな、強盗や盗人が相手なら、君達とてそうするだろう?」

「………」

「――口の利き方には気を付けた方が良い、ここはカイザーPMCが合法的に事業を営んでいる場所、まず君達は今、企業の私有地に対し不法侵入しているのだという事を理解するべきだ」

「っ……!」

 

 カイザー理事がそう告げると、周囲を囲んでいたオートマタが一斉に銃口を突き出した。その威嚇行為にアビドスは一歩退き、悔し気に表情を歪ませる。

 

「さて、話を戻そう――アビドス自治区の土地だったか、確かに買い取ったとも、しかし、だからどうした? 全ては合法なる取引、記録も全て確りと存在している……まるで私達が不法な行為をしているかのような云い方はやめて貰おう、それとも此処には私を挑発しに来たのかね?」

「っ、どの口で……!」

「正直、何故君達が此処に来たのかは知らないが……どうしてアビドスの土地を買ったのか、その理由が知りたいのか?」

 

 カイザー理事がそう問いかければ、背後で彼を睨みつけていたノノミが答える。

 

「……確かに、こんな砂漠に大規模な施設を建築してまで何をしているのか、その理由は気になります」

「ふむ――ならば教えてやろう、私達はアビドスのどこかに埋められているという宝物を探しているのだ」

「!?」

 

 彼がそう口にすると、驚きを露にするものと、怒りを露にする者で綺麗に二分された。怒りを見せたのはセリカとシロコの二名、今にも食ってな掛かりそうな程に表情を歪めた二人は、カイザー理事を睨みつけながら叫ぶ。

 

「……そんなでまかせ、信じる訳ないでしょ!?」

「それはそう、もしそうだとすると、このPMCの兵力について説明がつかない――この兵力は、アビドス自治区を制圧する為のものじゃないの?」

 

 そうシロコが口にすれば、カイザー理事は数秒沈黙を守った後、妙に重々しい雰囲気を纏ったまま呟いた。

 

「……数百両もの戦車、数百名もの選ばれし兵士達、数百トンもの火薬に弾薬――たった五人しか在籍していない学校の為に、これ程の用意をすると本気で考えているのか?」

 

 手を広げ、周囲に展開する部隊を見せつける様に振る舞うカイザー理事。

 この兵力――軍隊を維持するだけで幾ら必要になるのか。最新鋭の戦車を一台購入するだけでも、アビドスの抱えている借金に匹敵する金額が動くのだ。比較的安価な装甲車両でも、数を揃えるとなると馬鹿にならない。勿論、買って終わりなどではない、それらを修理・整備する為に必要になる費用、その環境整備費用、人件費はもちろんの事、パーツ費、弾薬費、兵士の教育訓練費、設備整備費、技術研究開発費、基地周辺対策費――兎に角、軍隊というのは金が必要となる。アビドスの抱える借金など雀の涙ほどにしかならない、莫大な金銭が。

 それを、たった五人の生徒の為に用意するだと? カイザー理事は極めて不愉快だと云わんばかりにアイラインを細めた。

 

「冗談ではない、そんな非効率的な行為を企業が許容するものか、あくまでこれは、どこかの集団・企業・学園に宝探しを妨害された時の為に用意した備えだ、ただそれだけの、君達の為に用意したものではない……君達程度、いつでも、どうとでも出来るのだよ――例えばそう、こういう風にな」

 

 告げ、彼は自身の耳元に指を添える。その様子をアビドスの皆は、訝し気な表情で見つめていた。会話は聞こえない、そもそも声を発していない。しかし、僅かな時間が経過した後、カイザー理事は努めて淡々とした様子で云った。

 

「ふむ――残念なお知らせだ、どうやら、君達の学校の信用が随分落ちてしまったそうだよ」

「は……?」

 

 セリカが思わず声を漏らすと同時、アヤネの端末に着信が入った。

 全員の視線が彼女のタブレットに向かい、アヤネは唐突なそれに目を白黒させる。

 

「ちゃ、着信……?」

 

 カイザー理事に顎先で行動を促され、アヤネは恐る恐る応答ボタンをタッチする。するとスピーカーモードで音声が周囲に響き、アビドス全員の鼓膜を震わせた。

 

『――いつもご利用ありがとうございます、こちらカイザーローンです、突然のご連絡で恐縮ですが、現時点を持ちましてアビドスの信用評価を最低ランクに下げさせて頂きます』

「えっ……はッ!? ま、待って下さい、毎月きちんと利子金額の返済は出来て――ッ!」

『変動金利を三千%上昇させる形で調整致しました、該当金利諸々を適用した上で、来月以降の利子金額は九千百三十万円で御座います――それでは引き続き、お支払いの方をお願いいたします』

「はい!? 三千って……! ちょ、ちょっとそんな急に!?」

 

 アヤネが思わず声を荒げるが、カイザーローンのアビドス担当職員は無慈悲にも一方的に通話を切断する。無情な電子音が響く中、アヤネは顔面蒼白となった表情をそのままに、呟く。

 

「き、切れた……」

「きゅ、九千万円って……嘘でしょ!?」

「くくッ――」

 

 セリカがタブレットを見下ろしながら呆然と呟けば、その様子を愉快そうに眺めていたカイザー理事が嘲笑を零す。毎月九千万円の返済――どう考えても出来る筈がない。それが分かっているからこそ、カイザー理事はアビドスを楽し気に見下ろす。

 

「これで分かったかな、君達の首に掛けられた紐が今、誰の手にあるのか?」

「っ……こんなやり方で、良くも合法だなんて……!」

「ちょ、嘘でしょ!? 本気で云ってんの!?」

「あぁ、本気だとも、しかしこれだけでは面白みに欠けるか……そうだ、九億の借金に対する保証金でも貰っておくとしよう、一週間以内に我がカイザーローンに三億円程、預託して貰おうか? この利率でも借金返済が出来るという事を、証明して貰わねばなぁ?」

「っ、この……!」

 

 シロコが思わず引き金に指を掛けるも、それよりも早くカイザー理事の前にオートマタが立ち塞がり、周囲から向けられた銃口が更に一歩詰める。シロコは悔し気に表情を歪め、強く歯を噛み締めた。

 どう考えてもアビドスに勝ち目など無かった――力関係でも、金銭関係でも。

 

「そんなお金、用意出来るはずが……今、利子だけでも精一杯なのに……!」

「――ならば学校を諦め、去ったらどうだ?」

「……っ!」

 

 アヤネの呟きに、カイザー理事はどこか優し気な色さえ伴って、そう告げた。

 

「自主退学をして転校でもすれば良い、それで全て解決するだろう? そもそもこれは君達個人の借金ではない、学校が責任を取るべきお金だ……何も、君達が進んで背負う必要はないだろう? こんな、砂に塗れた小さな学校一つに拘って何になる? 卒業すればいずれ消える居場所だ、学生時代の殆どを僅かな金銭を得るための労働に費やし、無駄にする必要などない、君達はまだ――子どもだろう」

 

 年長者が幼い者に道理を説く様に、或いは親切心からの助言だとばかりに、カイザー理事は穏やかに、言い含める様な形でそう告げる。先程までのものが威圧感による支配だとすれば、今のこれは飴と鞭の『飴』だ。情を含ませながら理で以て説く、それは普通の学生を相手にするならば十二分に納得できるような行動だった。

 しかし――アビドスはそれでも尚、カイザー理事を睨みつけ、叫ぶ。

 

「そんな事、出来る訳ないじゃないですか!」

「そうよ、私達の学校なんだから! 見捨てられる訳ないでしょ!?」

「アビドスは私達の学校で、私達の街」

 

 対峙し、強く拳を握り締める。

 そこには理を以て説くだけではどうにもならない、強い執着と意思があった。

 カイザー理事の云う事は的を射ている、そうだ、この金銭は何もアビドス対策委員会の個人個人が背負う代物ではない。そんな事は百も承知だ、云われずとも理解している。誰が好き好んでこんな額の借金を背負おうなどと思うものか――それでも、莫大な借金を背負って尚、棄て難い感情と思い出があるのだ、あの場所には――!

 

 その瞳の輝きを直視した時、カイザー理事は僅かに表情を陰らせた。

 それが、どういった感情によるものなのか、彼自身分からなかった。呆れから来るものなのか、或いはもっと別の感情が来るものなのか。少なくとも、良い感情ではない事だけは確かだった。

 指先で頬をなぞり、カイザー理事は淡々と問い掛ける。

 

「……その意気込みは買うがね、ならばどうする? 他に何か良い手段でも?」

『――あると云ったら、あなたはどうする?』

 

 声は、直ぐ横から聞こえた。

 思わず全員が周囲を見渡し、その声の発生源へと目を向ける。そこには、基地に放送を行う為の放送塔、その子機が支柱に設置されていた。生徒全員が驚きを露にし、カイザーPMCのオートマタ達が浮足立つ。

 

「ッ……!?」

「えっ、この声、先生……!?」

「嘘……!」

「どうなっている!?」

「き、基地の放送機能がジャックされましたッ!? それに……未確認飛行物体が、当基地に急速接近中との報告が……!」

「未確認飛行物体だと? なんだ、ソレは――!」

 

 カイザー理事が吐き捨てると同時、空気を吸い込む様な、航空機特有のエンジン音が鳴り響いた。見れば空の向こう側から、青と白のカラーリングの航空機が凄まじい勢いで接近しているのが見え、周囲の戦車やオートマタが一斉に銃口を向ける。

 しかし、カイザー理事それを手で制止し、呟いた。

 

「あれは、VTOLか……?」

『残念、これはミレニアムのマイスター達が創った試作機でね、正式な名称も、機種も決まっていないんだ――彼女達は確か、エリアル・ビークルって呼んでいたかな?』

 

 解答は同じ放送塔から。徐々に減速し、カイザー理事とアビドス対策委員会の前で綺麗な着地を行った航空機――先生曰く、エリアル・ビークルは、奇妙な形をした代物だった。機体本体は平べったく、しかし左右はどこかずんぐりとしていて、恐らく其処にエンジンか何かが搭載されているのか甲高い音を響かせている。機体先頭横合いの扉が開き、展開されたタラップを下りながら、先生はいつも通りの笑みを浮べていた。

 

「――先生ッ!」

「やぁ、遅れてごめんね、皆」

 

 周囲のオートマタに銃口を向けられて尚、先生は一切の動揺も緊張も見せずにアビドス対策委員会の前へと立つ。その背中を見つめる生徒達は、ただ口を開閉させ、言葉を失くした。

 

 ――風に靡く、カイザー理事の黒と、シャーレの白が対峙する。

 

「さて――大人の話し合いをしに来たよ、カイザー理事?」

 


 

 先生はいつだって、生徒の前じゃ格好良くなくちゃいけないんだ……! だからアコちゃんとはわんわんプレイします(鋼の意思)。

 次回、先生がトリガー式メンチを切りながら、カイザー理事と対峙。

 生徒を虐めるオトナ、絶対許さないマン……! ついにカイザー理事にあの台詞を云わせる事が出来ると思うと胸が高鳴りますわ! ここらで一つ、大人で男らしい背中を見せつけて生徒のハートを鷲掴み(物理)してさしあげましょうね! 先生の格好良い姿が見られるなんて涙出そう……アロナ鬼つえぇぇ! このまま逆らう奴ら全員ブッ殺していこうぜ! 先生が生徒の愛を背に戦うとこみてて……。

 

 話は変わらないんですけれど、ムツキと何やかんやあって、お付き合いする事になった先生に、「いつもありがとうね、ムツキ」って愛情の籠った抱擁を貰い、そろそろ付き合って半年は経つのに全然そういう事がなくて、凄く大事にされている感じはするし、先生が自身の立場と生徒の立場を考えてそうしているんだろうなっていう事は分かるのだけれど――それはそれとして、自分は背が低いし、いつも揶揄ってばかりだし、「もしかして、私に女性としての魅力を感じていない……?」と、不安なり。

 そう云えば面と向かって「好き」って云ってくれるのは先生ばかりで、自分からは素直に気持ちを伝えた事がなかった事に気付いて、シャーレの当番の日に一念発起して、自分からアクションを起こそうと意気込み、先生がお風呂に入ろうとして脱衣所に向かったのを確認して、少し後から、「じゃーん、先生が大好きなムツキちゃんだよ~!? せんせっ、一緒にお風呂はいろ――……」って飛び出して、剥がされた保護膜と、その下に刻まれた夥しい傷跡を見てムツキに絶句して欲しい。

 自分が性的なモーションを見せても全然靡かなくて、いつもどこか一線を引いていたのはこれを知られたくなかったからだと気付いて、はっと先生の表情を見るのだけれど、どこか辛そうな、悲しそうな表情を浮かべた先生を見たムツキは思わず息を呑んで、「ち、違う、違うの、先生、わ、わた、私、そんなつもりなくて……ッ!」って喜色満面の笑みから一転、蒼褪め、涙すら滲ませたムツキに、先生は仕方ない生徒を見る様な笑みを浮べて、「大丈夫だよ、ごめんね、こんな汚い体を見せちゃって」って口にして、そんな台詞を口にさせた事自体に強烈な後悔と自己嫌悪を抱いたムツキが、「ちがッ! わ、私が悪いのッ! ムツキがっ! せ、先生の事、勝手にッ……ご、ごめんなさい! 私、何も知らなくてっ、ごめんなさいッ!」って先生に縋りつくんだ。可愛すぎて辛い。先生毎秒負傷して♡

 

 幸せだからこそ、その感情が裏返った時の表情にこそ愛は宿る。だってそれは、先程までは幸せだったという確かな証明なのだから。

 普段元気で活発で、人を揶揄ったり食ったような性格をしている者に、「ごめんなさい」と「涙」は良いものだ。強い愛の気配を感じます。こうやって一歩一歩、絆を確かめてより良い関係を築いていくんだろうなぁ……素敵だね♡ でも先生は生徒を泣かせたので四肢を捥ぎます。汚い手足(傷だらけの生身)を晒すより、綺麗な手足(傷のない義肢)の方が嬉しいでしょう、先生? 是非その綺麗な腕でムツキを抱きしめてあげてね。 

 うぉ、私の優しさ……菩薩すぎ? 先生が生きている、なんて慈愛の心。自画自賛しちゃう。自分への御褒美として先生の両足貰うね? うぅ、先生……ヒマリを事故から庇って車椅子生活になった後に、どこか焦燥した表情のヒマリと再会して、「……お揃いだね?」ってどこか儚い笑顔で云ってあげて……。んぉっ、炊き立てご飯うまっ! やっぱり出来立ては違うなぁ、テンション上がっちゃう~↑。

 

 

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