ブルーアーカイブを、もう一度。   作:トクサン

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誤字脱字報告に感謝の正拳捥ぎをします。
16,500字です、ご注意ください。
これだけ文字数多いので日付跨いだのは許してくれるって信じている。


その手の中に、ホシを掴んで。

 

「此処は聊か、狭い」

 

 戦端は、そんな一言と共に開かれた。

 それが何だったのか、アビドスは何も分からなかった。ただ何か、巨大な腕に薙ぎ払われた様な衝撃が身を襲い、アビドス対策委員会と先生が壁に並んだ硝子に叩きつけられ、ビルの外へと放り出されたのだ。

 

「ぐぅッ――!?」

「先生ッ!」

 

 攻撃自体は、辛うじてアロナの防壁が発動した。しかし、衝撃と風圧が先生の体を強かに突き抜け、叩きつけられた硝子が砕け虚空へと放り出される。放り出された場所は足場のない空、飛ぶ術を持たない先生は只、堕ちるのみ。

 シロコは同じように虚空に投げ出された状態から先生に手を伸ばし、辛うじてその腕を掴むと、思い切り抱きしめた。そして――目についたドローンに手を伸ばし、その外装を掴む。無論、人ふたり分の重量をドローンが支え切れるはずもなく、僅かに落下の速度は緩められたとは云え、依然危険に変わりなく。

 二人はそのまま為す術なく、停車していた車両のボンネットに叩きつけられた。

 大きく凹むルーフ、衝撃で飛び散るフロントガラス。その中で、先生を強く抱きしめながら背中を強打したシロコが咽る。

 

「うッ、げほっ、ケホッ!」

「ッ、シロコ……!?」

「だ、いじょうぶ……この位、何てことない」

 

 呟き、シロコは笑みを浮べて見せる。飛び散った硝子で多少頬や手を切ったものの、ドローンによる減速と、自動車のルーフが程よい緩衝材となった。それに、キヴォトスの生徒は一等体が頑丈だ。神秘の籠った弾丸より、落下のダメージなど微々たるもの。

 先生は生徒の傷つく姿に苦り切った表情を浮かべるものの、一度シロコの手を強く握り深い感謝を述べ、顔を上げ他の皆の名を呼ぶ。

 

「ノノミ! セリカ!」

「いったぁー……あの、馬鹿力……! 大丈夫、無事よ!」

「こっちも、何とか大丈夫です!」

 

 下の並木に引っ掛かり、何とか無事に済んだセリカ、そしてドローンに引っ掛かり、辛うじて地面との衝突を免れたノノミが起き上がりながら手を挙げる。先生は無事な二人の姿に胸を撫で下ろし、タブレットを強く握り締めた。

 

 ■

 

 銀狼は、今しがた巨大な腕に薙ぎ払われ、ビルの外へと弾き飛ばされた先生を目撃し、思わず吹き抜けとなった硝子から身を乗り出す。そしてそれを追う様にして外へと飛び出したベアトリーチェを一瞥し、その表情を憎悪一色に染めた。

 

「ッ、おい塵屑、あの女を!」

「いえ、残念ながら私に彼女を止める権利はありません、契約でもあれば別ですが――元より、私達ゲマトリアとはそういうものですので」

「っ、なら私が……うぐッ」

 

 黒服の返答に舌打ちを零し、愛銃を手に自身も地上へ落下を敢行しようとするものの、震えた足と強烈な頭痛がぶり返し、思わず抱えた銃を取り零す。その様子を見ていた黒服は銀狼の肩を掴み、首をゆっくりと振って見せた。

 

「ヘイローに直接干渉されたのです、暫くは動けないでしょう、今はどうか安静に」

「くそ、先生――!」

 

 ■

 

「これは――囲まれたか」

「カイザーコーポレーション……!」

 

 再集合し、無事を確認し合ったアビドス対策委員会を囲むようにドローンとオートマタが集い始める。その数は嫌になる程多く、件の砂漠で戦闘した数にも負けず劣らず。戦力の大部分を此方に回しているのか、先生は厳しい表情で周囲を見渡した。

 そんな彼女達の前に、頭上より飛来したベアトリーチェが、アスファルトを砕きながら着地を敢行。ビル数十階から落下したというのに涼しい顔で扇子を払い、巻き上がる砂塵を散らす。

 

「――さて、金で動く私兵というのは聊か不満ですが、質は兎も角量は十分でしょう?あなた方四名程度を屠るには過剰戦力というものです」

「………」

 

 飄々とした態度で語るベアトリーチェに、先生は内心で臍を噛む。以前の戦闘で対クラック装備を増設したのか、オートマタには首元に妙な装置が取り付けられているのが見えた。恐らくは防壁、基幹システムへの侵入を一度だけ防ぐ、身代わり用のデバイスだ。つまり、アロナがこのオートマタを排除するには、一体につき二度の侵入を行わなければならない。

 アロナの性能は伊達ではない、この一帯のオートマタとドローンを一斉にクラックする事は十分に可能な範囲――しかし。

 先程のシロコ(銀狼)が持つヘイローへの干渉、皆への戦術サポート、防壁の発動――シッテムの箱が持つ残りバッテリーは、決して多くは無かった。此処でこれだけの数を無力化すれば、恐らく残量全てを吐き出すだろう。

 それをすれば、このベアトリーチェに対抗する為の札が無くなる。

 

 ――或いは、此処で使うか。

 

 その先生の逡巡を嘲笑うかのように、カイザーコーポレーションの私兵が銃を構える。

 

「――辞世の句くらいは聞いておきますよ、先生?」

 

 扇子で口元を隠しながら、ベアトリーチェは愉悦に歪んだ表情のまま問うた。

 

「先生、此処は私達が、せめてあなただけでも……ッ!」

「こ、この位、私達だけで何とかしてみせるわよッ!」

「行って、先生」

 

 告げ、一歩前へ踏み出すアビドス。シロコも、ノノミも、セリカも、この絶体絶命の状況にありながら欠片も退くつもりなどない。その瞳には確かな闘志と意気込みが感じられた。ノノミも、セリカも、シロコも分かっている。互いに視線を通わせ、頷く。

 例え此処で、自分達が斃れても。

 例え此処で、勝てなくても。

 先生が生き残れば――最期に笑うのは、アビドス(私達)だと。

 

「……ふふっ」

 

 その信頼に、応えたいと、強く思う。

 先生の思わず漏れた微笑みに、ベアトリーチェは目を絞る。

 

「何か、おかしい事でも?」

「いいや、おかしく何てないよ、ただ――」

 

 告げ、真っ直ぐとベアトリーチェを見据える。

 その瞳には――絶望や諦観なんて、欠片も宿っていなかった。

 先生がアビドスと並ぶように、一歩踏み出す。

 そしてもう一歩――生徒に背中を晒し、踏み込む。

 

「先生っ……?」

「任せて――」

 

 告げ、笑う。

 この絶望的な状況の中で、気丈にも。

 虚勢か――ベアトリーチェは先生の笑みを前にそう思考した。

 否、その思考に反しベアトリーチェの本能は警鐘を鳴らしている。絶望し、項垂れた人物を彼女は何人も見て来た。皆一様に色褪せ、俯き、その瞳に光はなく、その顔は地面を見つめるものだ。しかし、彼はどうだ? 背筋を正し、その瞳に光を湛え、欠片も意思を挫かれてなどいない。

 先生とベアトリーチェの瞳が、交差する。

 

「あなたは、私に戦う力がないと思っている」

「……実際、そうでしょう、あなたが銃を取っても神秘の籠らない只の銃弾に過ぎない、キヴォトスの住人程の身体能力もない、ただの人間――先生、あなたに戦う力はない」

「そうだ、実にその通り、私に銃を取る資格はなく、生徒と共に戦う力も、苦難に抗う術もない……けれど――」

 

 僅かに砂の付着した裾を払い、先生は告げる。

 

「――下げる頭はあるよ」

 

 瞬間、ベアトリーチェの背後で盛大な爆発が起きた。

 

「ッ! 何――!?」

 

 爆風と熱波が肌を撫で、破損したオートマタとドローンのパーツが飛び散る。それらを横目に振り返ったベアトリーチェは、アスファルトを砕き焦げ跡を残す着弾痕に目を見開いた。

 

「確か、L118、牽引式榴弾砲――だったかな」

『み、皆さん、ご無事ですか!?』

 

 先生が呟くと同時、先生のタブレットから聞き覚えのある声が響く。先生がホログラム機能をオンにすると、『5』と描かれた紙袋を被り、トリニティ制服を着込んだ生徒――ヒフミの姿が投影された。

 それを見たアビドスの皆が驚き、思わずセリカが声を上げる。

 

「この声、ヒフミ!?」

『ち、違います! 私はヒフミではなく、ファウストです! この件に関してトリニティ総合学園は一切関係ありません!』

「……もう名前、云っちゃっているけれど」

『あ、あぅ……』

 

 シロコの鋭い指摘に、思わずヒフミは勢いを失くす。

 しかし今はそんな事で意気を削いでいる場合ではないと、ヒフミは手に持った弾頭を振り回しながら叫んだ。

 

『と、兎に角、此処から援護射撃します! 砲台の数は多くありませんけれど、火力支援は任せて下さい!』

「助かる、ありがとうヒフミ!」

『先生っ!? で、ですからヒフミではなく、ファウストですッ!』

 

 先生の一言に、ヒフミ――改めファウストはぶんぶんと首を振り、それから一方的に通信を切断した。それと同時に、後方から次々と砲音が鳴り響き、周辺に展開していたドローンやオートマタが粉砕される。

 ベアトリーチェは宙を舞うドローンの残骸に舌打ちを零しながら、しかし余裕の態度を崩さない。火力支援は確かに脅威だ、だが空に尾を引く弾道を見る限り、精々が十門に満たない数、それだけでどうにかなる筈もなし。

 

「……成程、援軍を呼んでいましたか、しかし――その程度で」

「彼女達だけじゃないよ」

 

 ベアトリーチェの言葉に被せ、先生は周囲を指差す。

 途端、放たれる銃弾の嵐。集っていたオートマタが次々と倒れ、空を舞うドローンが撃ち落とされた。アビドスは銃声のした方向へと顔を向け、目を見開く。

 

「あれは――ゲヘナ風紀委員会!?」

 

 彼女達の視線の先には、コートを靡かせ愛銃を脇に挟み掃射を行う風紀委員長――ヒナの姿が。そしてその背後に続く形で、アコ、チナツ、イオリの面々が銃撃を敢行している。他の隊員の姿は見えないが、風紀委員最大戦力の人員が軒並み投入されていた。

 

「はぁ……まぁこの程度で賠償になるのなら別に構わないけれど、まだ仕事が残っているし、手早く片付けよう」

「クソ、何で私まで……」

「愚痴を吐かない、イオリ、チナツ、アコ、これは反省文の代わりだから」

「うぐ……りょ、了解」

「まぁ、先生の助けになれるのなら私は別に――」

「あの、次に逢ったらって云っていましたけれど、流石にこの場でわんわんプレイとかはないですよね……?」

 

「主殿~! このイズナ、招集に応じ参上致しましたッ!」

「忍術研究部ッ、華麗に参上~っ!」

「さ、参上、です!」

「あの風紀委員と共闘というのは心底気に入りませんが……あの方の役に立つと云うのなら、一時目を瞑りましょう……それにしても、まさか再び私の先生を害そう等という輩が出て来ようとは――万死に値しますッ!」

 

「あははッ、アスナ、突撃しま~すっ!」

「ちょ、待ちなさい! 何でC&Cの子はこう……ッ!」

「すみませんユウカさん、アスナ先輩は、その、非常にアクティブな方でして――」

「EMPドローン展開、あ、周辺の人は余波に気を付けて」

「機械の真善美は、合理的で、精密で、そして簡易である事だね」

「いやぁ~、まさか未来直行スカイハイが役立つ日がこようとは! 正に、人生に無駄なし、ですねッ!」

 

「先生に頼まれたら、参加しない訳にはいかないものねッ! 終わったらまた、柴関のラーメンでも食べに行くわよッ!」

「くふふッ、アルちゃんってば輝いてる~! それじゃあ、先生の為にもひと肌脱いじゃおっか!」

「あ、アル様と先生の為に……ぜ、全員殺しますッ!」

「はぁ、考えなしに突撃はやめてよね、一応味方の位置も意識して動こう」

 

 ゲヘナ風紀委員会だけではない、ヒフミのトリニティに加え、ミレニアム・サイエンススクールのC&C、ヴェリタス、エンジニア部からセミナーまで、百鬼夜行連合学院、便利屋68、ありとあらゆる所属を問わない生徒達が一斉に戦闘を開始した。カイザーコーポレーションのオートマタやドローンの数と比較すれば、確かに少数ではあるものの――侮るなかれ、招集された彼女達は一癖も二癖もある生徒達だ。自身の得意な分野で競い合い、高め合い、時に協力しながら、時に睨み合いながら周辺の敵勢力を蹴散らしていく。

 そんな彼女達の奮戦を、シロコ、ノノミ、セリカの三名は呆然とした様子で見つめていた。

 

「百鬼夜行に、ミレニアムまで……!?」

「わぁ……便利屋の皆さんも!」

「凄い、こんなに人が――」

「事前に招集を……――やはり、あなたは危険な存在だ、先生」

「光栄だよ、マダム」

 

 アビドスの声色に反し、彼女は酷く表情を歪める。

 周囲で銃を突き付けていたオートマタ達がトリニティによる火砲と、後方から行われる狙撃で次々と倒れて行く。最早、カイザーコーポレーションの私兵はアビドスだけを気に掛ける事が出来ない。倒れた仲間の穴埋めの為に駆けて行くオートマタを見つめながら、ベアトリーチェは手にした扇子を勢い良く閉じた。

 

「……確信しました、あなたは必ず私達の障害となる、故に――是が非でも排除する、今、この場で……ッ!」

 

 決断は早かった、本来ならばカイザーコーポレーションを動かし、その上でアビドス諸共この先生を殲滅する、その予定だった。

 しかし、その手札が潰された以上――この場で最も信の置ける手段を講じるのみ。

 生贄も不十分、事前準備すら足りない、しかし此処でこの者(先生)を生かして帰す事の方が、今のベアトリーチェにとっては何十倍にも恐ろしい事に感じられた。

 

 切り札を切る、その決断をする。

 

 ベアトリーチェの肉体が変質し、人型であった彼女の影が肥大化――最早その名残もなく、怪物としか表現できない姿へと変貌していく。巨大な全長、華の如く咲いた頭部、そこから垂れる黒髪に、背中から生えた樹木の如き枝。足だった代物は樹の根の如く広がり、その両手諸共真っ赤に染め上げている。

 そして背中に現れる――巨大で、血の如く赤い円環(ヘイロー)

 

 その姿は宛ら、(神秘と恐怖)を啜り成長する大樹の如く。

 

「ッ、こいつ……!」

「変身するの!?」

 

 呟き、戦慄するアビドスに――変貌を終えたベアトリーチェからの、全力の咆哮が叩きつけられた。

 音圧が周囲の残骸が弾き、びりびりと先生の肌を刺激する。はためく制服をそのままに、先生はベアトリーチェを睨みつけ、背後の生徒達に問うた。

 

「周囲のカイザーコーポレーションは他の学園の生徒に任せる、今は目の前のコイツを倒す――行けるか、アビドス!?」

「――当然ッ!」

 

 先生の問いかけに、踏み込み、皆が愛銃を構え意気込みを見せる。

 此処に――アビドス最後の戦いが勃発した。

 

 ■

 

「奥の手を早々に切ったその英断、やはりあなたは変わらない、ベアトリーチェ!」

「御託は良い、潰れて消えなさい!」

「っ、先生!」

 

 叫びと共に振るわれる腕。細く、枯れ枝の様な腕ではあるが、先生や生徒からすれば身の丈を超える巨大な丸太にも等しい。辛うじてそれを躱した生徒と先生は、散り散りになりながらも肌を撫でる豪風に冷汗を流す。

 直撃すれば、只では済まないだろう。

 続けて、振り上げられる拳。狙いは先生、ただ一人。

 生徒(子ども)など後からどうとでも処理出来る、故に狙いは正確だった。

 アスファルトの上を転がりながら、己の頭上に振り上げられた拳を見上げる先生。ちょっとした自動車程の大きさはあるソレが、己へと振り下ろされた。

 

『せ、先生! 流石に連続しての防御は――』

「くッ――」

 

 タブレットを抱き、先生が目を閉じる。

 あわや直撃かと思った瞬間、先生の体を別の衝撃が襲った。

 

「――あなた様、ご無事で?」

「……お陰様で、傷一つないよ」

 

 先生を抱き、叩きつけられたベアトリーチェの拳から救い出したのは――ワカモ。

 和服の袖を靡かせながら先生を腕の中に抱きしめた彼女は、ライフルを肩に担いだままアビドスの元へと跳躍する。唐突な出現に目を瞬かせたセリカは、その銃口を彷徨わせながら呟いた。

 

「アンタは……」

「――先生の事は私にお任せを、絶対に放しませんし、傷一つ付けさせません」

「っ、助かる!」

 

 一体何処の誰なのか、詳しい事は一切分からない。しかしシロコは一先ずワカモを信用し、そう叫ぶ。

 アスファルトを殴り砕いたベアトリーチェは、寸での所で助け出したワカモを睨みつけ、忌々し気に身を捩った。

 

「シロコ、ドローンを使え! あの弾頭ならベアトリーチェと云えど無視できない!」

「っ、了解!」

 

 散発的な銃撃、大抵の攻撃はベアトリーチェの外皮に弾かれるものの、シロコの弾頭やノノミのミニガンによる集中砲火は、さしものベアトリーチェでも無傷とは行かないらしい。また、花弁の如く開いた顔面の外皮は厚くない様で、セリカはこれ見よがしに其処へと火力を集中していた。先生はシッテムの箱を通じて個々に指示を出しながら、冷静に戦場を俯瞰する。回避や護身に関しては、完全にワカモを信頼していた。

 片腕で銃弾を防ぎながら、もう片腕でアビドスの生徒を薙ぎ払うベアトリーチェ。同時に指先から深紅の弾丸を放ち、瓦礫諸共アビドスを屠らんと動く。

 しかし、綺麗に分散したアビドスの三人は的を絞らせず、常に走り回る事で彼女の意識を分断した。確かに三名のみでこのベアトリーチェと渡り合う事は難しいだろう。しかしそれは、先生の指揮が無ければの話だ。

 

「あんたの事は良く知らないけれど、ポッと出の大人に負ける程、私達は弱くないの……よッ!」

「こいつ……!」

 

 セリカが叫び、同時にポーチに入れていた手榴弾を顔面目掛けて投げつける。それを手で払い退けようとした瞬間、図ったかのように爆破し、ベアトリーチェの視界が一瞬逸れた。空かさず先生は叫ぶ。

 

「ノノミ!」

「はいッ!」

 

 先生の声にノノミは答え、広く足を開くと射撃体勢を取り、弾丸の雨をベアトリーチェの胴体目掛けて撃ち放った。凄まじい反動と閃光、それに見合うだけの数の弾丸がベアトリーチェの外皮を削り、その肉体が僅かに抉れる。確かに堅い、生徒と比較すれば驚異的だ。しかし決して無敵でもなければ最強でもない、攻撃を続ければいつか確実に倒せる。埒が明かない様に思うかもしれない、しかし違う、必ず埒は明けられる。

 

生徒(子ども)がッ、忌々しい連携だ――!」

アビドス(私達)を甘く見たツケを払えッ!」

「……確かに、予想よりは強い、それは認めよう――だがっ!」

 

 叫び、深紅がベアトリーチェの顔面――花弁へと集う。それは明らかな前動作、集う光に強烈な悪寒を感じた先生は、直後に退避命令を出した。

 そしてベアトリーチェが僅かに身を逸らした直後、彼女の顔面から伸びるようにして放たれる深紅の極光。反動で顔が仰け反り、まるで地上と空に線を刻むべくソレはアビドスを襲った。

 

「ッ!?」

 

 セリカは、その不気味な光を認識した瞬間、全力で横合いへと体を投げた。瞬間、先程まで立っていた場所を通り過ぎる深紅の光。超高速、高熱、高威力の熱線(ビーム)。アスファルトが蒸発し、赤熱した痕跡がべったりと地面に張り付く。深紅の極光が通った後には何も残らない。セリカは高熱の余波に肌を焼かれながら、地面の上を跳ねる。掠りもしなかった筈なのに、肌は焼ける様な熱を持っていた。

 

「あっ、つゥッ!?」

「セリカ!?」

 

 命中していないのに、傍を通っただけでこの威力。蒸気を吹き上げ、赤熱した通過痕を見たシロコが顔を顰める。致命的な負傷ではないものの、火傷というのは痛みが酷いのだ。僅かに赤らんだセリカの肌、彼女は這い蹲ったままベアトリーチェの巨躯を睨みつける。

 

「所詮は幼年期! 成熟した経験(ステータス)には程遠いッ!」

「っ、よくもセリカちゃんを!」

「――ノノミ、待てッ!」

 

 ノノミが再び愛銃を腰だめに構え、射撃を敢行しようとするものの――それより早く、ベアトリーチェは全身に深紅を纏った。頭上より注がれる、太陽の光の如き赤色――それを浴び、一層その存在感を強くする。軈て彼女の円環が輝き、その両腕が握り締められた。

 

「呪いを、恐怖を――神秘をッ!」

 

 彼女の文言と共に――周囲一帯が赤に染まる。

 暁を終えようとしていた世界が、宛ら血の如き深紅へと。それは何と表現すれば良いのか、まるで影が伸びる様だった。彼女の足元に佇む影が、周囲を呑み込むように。或いは覆い隠すように。

 呑まれた範囲は先生達を含んだ僅かな距離に過ぎない。数字で云えば精々が百メートル前後。しかし、確かにそれは世界を塗り替える行為だった。

 

「下劣な真似を――ベアトリーチェ」

 

 それを目撃した黒服が、らしくもなく感情を込めて吐き捨てる。

 

「これ、は」

「私の一部を差し出し、此処を一時的に私の【領域】としました――この場所でならば、私も全力を出せます」

「……秘めた神秘と恐怖を吐き出してまで、そうまでして私を潰したいか」

「――当然です」

 

 先生の言葉に、より深紅を濃くした彼女が答えた。時間は敵だ、少なくともベアトリーチェにとっては。動かしたカイザーコーポレーションの私兵は、確実にその数を減らし続けている。そしてその全てが掃滅された時、残る生徒は全て此処へと殺到するだろう。それでも尚、負けるつもりは毛頭ない、しかし――この先生が介入するならば別だ。

 この先生があの生徒達全てを指揮した時、自身は敗北する。

 その予感――否、確信がある。

 故に、此処で全力を出してでも、エデン条約に多少の遅れを出して尚、先生の息の根を止める必要がある。

 確実に、絶対に。

 

 先程まで伸びていた背中の枝より、幾つもの光球が出現する。その矛先を先生に向けながら、彼女は云った。

 

「さて先生――覚悟は宜しいですか?」

「……良くない、と云っても撃つだろう、あなたは」

「――当然」

 

 嘲笑う言葉と共に、一斉に深紅の線が先生目掛けて放たれる。

 銃弾に匹敵する速度を誇るそれを、ワカモは先生を担いだまま回避した。地面やビルの外壁に弾痕を残すソレ。しかし、いつまでも回避できる筈がない。次々と放たれる光線は、宛ら連射砲の如く。僅かずつワカモの衣服を裂く深紅の弾丸に、彼女は内心で悪態を吐いた。

 

「っ、させない!」

 

 余波によりダメージを追っていたセリカが、その痛みを噛み殺し銃を向ける。幾つかの弾丸がベアトリーチェの顔面を捉え、光球の勢いが削がれた。ノノミやシロコがその隙を見て攻勢に転じ、ベアトリーチェが鬱陶しいとばかりに手を払う。セリカは覚束ない足取りで立ち上がると、ワカモに視線を向けながら叫んだ。

 

「はやく先生を連れて、離脱してッ……!」

「っ!」

 

 この深紅が一体何なのかは分からない、しかし、決して良いものではないという事だけは理解出来る。この場所で戦い続ける事は危険だと、そう彼女の本能は訴えていた。

 ワカモは高速移動により口を噤んでいる先生を一瞥し、此処は彼女の言葉に従い撤退するべきだと判断。せめてこの深紅の領域から脱出するべきだと、背を見せ一気に離脱を開始した。

 しかし、もう僅かで逃れられるという場所で――見えぬ何か、障壁としか表現できない代物に阻まれた。勢い良くソレに衝突したワカモは弾かれ、先生を抱きながら目を見開く。己の弾かれた空間が撓んでいた。まるで非現実的な光景だった。

 

「ぐっ、これは……!?」

「この私が、一度捕らえた獲物を逃がすとでも!?」

 

 地面に根を張ったベアトリーチェが嘲笑うかの様にそう告げる。この領域は自身の権能を強化する側面が大きいが、動けぬ自身から逃れようとする獲物を決して逃さない為の代物でもある。

 ワカモは小さく舌打ちを零し、先生を抱きかかえたまま再び回避に専念する。

 しかし領域内には限りがあり、先程までとは異なる苛烈な攻撃、それにより逃げ場が次々と潰される。如何に俊敏であろうとも、動きを予測されてしまえば何れ被弾するのは必然。アビドスも果敢に攻勢に転じるが、この深紅の領域により強化されているのか、ベアトリーチェの外皮は明らかに数段上の強度を獲得していた。アビドスの攻撃を片手間に往なしながら、彼女は叫ぶ。

 

「往生際の悪い狐もこれまで――焼けて果てるが良いッ!」

「っ……ワカモッ!」

 

 幾つかの攻撃を回避した後、ベアトリーチェは僅かな呼吸を置き、顔面から幾つもの極光を放った。宛ら散弾の如く降り注ぐ深紅、先程放った一撃必殺の代物より規模は小さく、線は細く、射程も決して長くない。しかし、先生が当たれば即死するのは変わらず、光はワカモの進行方向へと撒き散らす形で放たれていた。

 勘付いた先生が咄嗟に口を開くも、一瞬早く極光が着弾する。瓦礫が粉砕され、溶け落ち、爆炎と蒸気が吹き上がった。その様子を見ていたアビドスの顔色が蒼褪める。

 

「ッ、先生!?」

「ははっ、漸く死んだか!?」

 

 ノノミが叫び、ベアトリーチェは歓喜の声を上げる。

 爆炎は煌々と立ち上り、ちょっとした榴弾並みの威力を誇る様に地面へと刻みつけていた。

 先生は立ち上る蒸気の中、辛うじて意識を保つ。着弾を予測した先生は、ワカモを突き飛ばし、その反動でワカモと自身を直撃コースから強引に外したのだ。しかし、無傷かと云えばそうではない。爆風に体を流され、同時に熱波によって肌が焼け、火傷に近い症状が出ていた。また、着弾した拍子に飛び散った破片が先生の頬や首筋を裂き、僅かながら出血もしている。

 しかし、直撃した事を考えれば、負傷とも云えぬ傷だった。

 

「けほっ! ゲホッ!」

『先生!』

 

 画面に張り付きながら叫ぶアロナに、先生は強張った笑みを見せる。端末を胸に抱いたまま、立ち上がった先生は目元を軽く拭う。目も、耳も、手足も無事だ。ならばまだ、戦える。

 

「先生、生きている!?」

「――大丈夫、私は、無事だよ」

 

 告げ、辺りを見渡す。

 自身を抱いていた生徒の姿が見えなかった。

 

「ワカモは――」

「申し訳ありません、あなた様」

 

 呟きと同時、蒸気を裂く様にして現れた人影。ワカモは罅割れた仮面の奥から金色の瞳を覗かせ、額から流れる血を強引に拭い払った。そして先生の頬や頸元に刻まれた切傷に手を当て、その表情を悲痛なものに変える。

 

「御身に傷を――」

「気にしないで、掠り傷さ」

 

 先生はそう云って笑った。実際、直撃した場合を考えれば本当に掠り傷程度のものなのだから。

 

「ふん、運の良い、しかしそう何度も――」

 

 ベアトリーチェがそう口にし、再び深紅の光球を生み出した所で――空を覆う天蓋を突き破って、人影が落ちて来た。影は二つ、それぞれ地面の上を転がりながら着地した両名は、素早く周囲を見渡し、先生とアビドスの皆を見つけ、破顔する。

 ベアトリーチェはその影を警戒し、光球を消し防御の姿勢を見せた。

 

「ホシノ! アヤネッ!」

「――やっほ、先生」

「お、遅れましたッ!」

 

 陰の正体は、ホシノとアヤネ。恐らく治療を終え、あのビルから飛び降りて来たのだろう。この天蓋がどの程度の強度を持つかは分からないが、大した度胸だと先生は内心で舌を巻く。着地の瞬間に砂に塗れた二人、そんな彼女達の元に駆け寄りながら、先生はホシノの頬に手を添えて矢継ぎ早に問いかけた。

 

「ホシノ、大丈夫? 痛みはない?」

「……うへ、ただ痺れただけだよー、アヤネちゃんのお陰でバッチリ……それに――」

 

 ふっと、ホシノの表情が悲しみを帯びる。ホシノの指先は、血と砂の付着した先生の頬をなぞった。その表情には様々な感情が込められていた。それは感謝であったり、後悔であったり、歓喜であったり、悲しみであったり――それらを呑み込み、ホシノは僅かに震えた声で告げる。

 

「――先生の方が、ボロボロじゃん」

「はは、それはアビドスの皆も同じだ」

 

 先生がそう云えば、ホシノを見つめる対策委員会、全員が笑う。彼女はその事に肩を竦めると、先生の傍に侍る和服の少女――ワカモを見た。

 

「ワカモ、だよね」

「……えぇ」

「先生の事、お願い」

 

 割れた仮面の奥、ワカモとホシノの視線が交錯する。少し前に、同じような事があった。けれど受ける印象は全く異なっていた。ワカモは仮面の下でふっと口元を緩めると、目を伏せながら強く断言する。

 

「――当然、命に代えても」

「……うへ、やっぱり私と同じか、なら安心」

 

 へらっとした、いつも通りの笑みを浮べたホシノは、担いでいた愛銃を抱え直し、背を向ける。

 

「あの時の言葉さ――」

「………?」

 

「助かったよ、目が覚めた」

 

 声は、ワカモにだけ向けられていた。

 その意味が分かるのは、彼女だけで良い。

 憂いはない、迷いもない、アヤネと共にアビドスと合流したホシノは緩んだ口元をそのままに告げる。ベアトリーチェを警戒しながら、アビドスはホシノの到着を待っていた。

 

「さぁて……漸くアビドスフルメンバーだねぇ、皆?」

 

 そう軽口を叩くと、鼻を鳴らして瓦礫を蹴飛ばしたセリカを筆頭に、次々と声が掛かる。

 

「はん、ホシノ先輩があんな書置き残して消えるからでしょ?」

「せ、セリカちゃん……」

「ん、次行くときは声を掛けて欲しい、こっちにも準備がある」

「あはは、それって結局ホシノ先輩は渡さないって事ですよね」

 

 彼女達は言葉に反し、皆が笑っていた。負の感情など微塵も見えぬ、希望に満ちた顔だった。

 信頼を感じた。友愛を感じた。絆を感じた。

 彼女達の言葉には、嘘など一つもなかった。

 強く、愛銃を握り締める。

 

「……そうだね、皆には帰ったら云いたい事、謝りたい事が山ほどあるよ――でも、今は」

 

 ――先生? ホシノが呟く。先生は頷き、タブレットを操作した。ヘイローが先生とリンクする、強い繋がりを感じる。この瞬間が、先生と共にある瞬間が、ホシノは存外好きだった。

 ベアトリーチェは合流した二人を見下ろし、鼻を鳴らす。

 警戒する価値すらなかった、よもや先生がこの展開すら予測し更なる増援を寄越したのかと思ったら――現れたのは、件のアビドスと呼ばれる自治区の木っ端生徒が二人。

 

「はっ、高々二人増えた程度で何を粋がっているのです? あなた方は態々私の領域に飛び込んで来た、飛んで火にいる夏の虫――潰す手間が増えたに過ぎないのですから」

「――うへ、それはちょっと違うと思うよ」

「何……?」

 

 ベアトリーチェの言葉に、ホシノは否定を返す。生徒(子ども)に口答えされたという事実に、ベアトリーチェの纏う雰囲気が変わった。ホシノはそんなベアトリーチェの怒気に欠片も注意を払う事無く、目を伏せ呟く。

 

「……やっと分かったんだ、こんなおじさんにも――私にも、一緒に歩いて行ける仲間が居るって事に」

 

 身を擲って、助けてくれる仲間が居る事に。

 

 愛銃を手に、ホシノは踏み出す。左右には頼りになる仲間達、背中には守るべき大切な人。シチュエーションとしては――完璧だ。

 

「私は……アビドス対策委員会」

 

 呟いた言葉を、ゆっくりと噛み締める。そうだ、(ホシノ)はアビドス対策委員会。当たり前の事だった、ずっと前からそうだった事だ。何を今更当然の事をと、そう思うかもしれない――けれど、そうじゃない、そうじゃなかったのだ。

 少なくとも過去の(ホシノ)は、心の底では、本当の意味で一員じゃなかった。

 

 ホシノのヘイローが輝く。

 先生のタブレットが輝く。

 紡がれた絆が、より彼女を強くする。

 

「私達は……アビドス対策委員会!」

 

 そうだ、セリカを救出する時に思った事だった。私は馬鹿だ、ホシノは想う。大馬鹿者だと、そう想う。

 (ホシノ)がセリカを案じた様に、皆がセリカを案じた様に――皆もまた、(ホシノ)を大切に想ってくれているのだ。

 それを知っておきながら、理解しておきながら、想いに蓋をして、感情に顔を背けて、これが一番現実的だから、自分にはどうしようもない事だからって――背を向けて諦めようとした。

 だって――それが一番、楽だから(もう喪いたくないから)

 

 でも、そうじゃないんだ。独りよがりな想いに浸る必要なんて、最初からなかった。

 (ホシノ)ひとりで全てをどうにかする必要なんてなかった。

 (ホシノ)ひとりじゃ救えない、助けられない、手の届かない場所。

 両手一杯に握り締めても取りこぼしてしまいそうな未来、私の小さな手では掴み切れない、大きな大きな奇跡(明日)

 そんな夢物語(ユメ先輩の語った未来)に、そんな明日(共に迎えたかった過ぎ去りし日)に。

 

 ――対策委員会の仲間(アビドスと先生)と一緒なら、届く。

 

 アビドス対策委員会が五人、並び立つ。

 血塗れて、砂に塗れて、不格好だけれど――笑みを浮べて。

 傷だらけでも、どれだけ強大な敵が相手でも、仲間が居て、先生が一緒なら――きっと乗り越えられると(奇跡だって起こせると)信じている。

 

 ――私は、アビドス対策委員会。

 

 ――私達は、アビドス対策委員会。

 

 私は、私達は。

 

「私達は――誰が欠けても駄目(皆でひとつ)なんだッ!」

 

 拳を突き上げ、叫ぶ。

 信頼を込めて、叫ぶ。

 唯一無二の仲間へ。

 大切な先生へ。

 

「先生ッ――!」

「あぁッ……!」

 

 応えるとも、その声に。

 先生は同じようにタブレットを空へと掲げ、宣言した。

 彼女達と共に戦う、その意思表示を。

 だって。

 

「――アビドス対策委員会、出撃ッ!」

「おーッ!」

 

 今なら、星にだって手が届きそうなんだ。

 


 

 ホシノのこの展開は、生徒を信頼し、生徒を愛し、それでも尚、生徒を顧みない先生に対するアンチテーゼなんです。ひとり(先生だけ)じゃ駄目なんです、アビドス(先生と生徒)は皆で一つなんです。これ(アビドス編)は、愛に気付き、共に星へと手を伸ばす話なんですよ。

 でも最後まで一人で、ずっと手を伸ばし続ける姿も素敵だよ先生。そんなあなただから私は手足を捥いであげたいんだ。

 

 やっと此処まで来る事が出来たよ……。長かった、長かったよ先生、レベル二十の新任先生だった私は、もう七十にまで育ってしまった。二ヶ月と十日、長い様で短かった……。

 次回――先生が遂に大人のカードを切ります。そして負傷します。この瞬間とエデン条約を書きたくて、私は今まで突っ走って来たのだからね。

 

 記憶持ちと感情持ちの話は純愛文と感想欄で色々ブッパしたと思うんですけれど、記憶持ちの傍にいると感情持ちが出来るって話したじゃないですか。世界線を越えた影響で、記憶を引き継いだ人間の傍にいると、キヴォトス動乱が近づくにつれ「何となく嫌な予感がする」とか、「先生に対して妙な興味、好意を抱いてしまう」って。それを総じて私は感情持ちと呼称していますが……。

 じゃあ、記憶どころか魂ごと此方に持ち越したクロコと接触した場合、どうなるの? って話ですよね。

 記憶を持ち越しただけで親しい人物に感情が付与されるのなら、魂を持ち込んだ人物と親しい人物はどうなってしまうのか? ましてや同じ存在であるシロコに影響はないのか? 更にシロコと親しいアビドス対策委員会に影響はないのか? ない訳がないんですよ。生徒にも、彼女と契約し、仮初とは云え共に在るゲマトリアにも。

 

 そして残念ながら私の我慢が限界に達しそうなので此処で先生モギモギ値を発散します。

 昨日色々先生を動かして遊んでいたんですけれど、その内に何となく、「キヴォトス動乱で先生が死亡した後の世界に、本編の先生ぶち込みたいな~」って思ったんですよ。過去に跳躍した筈なのに、気付けば飛ばされた場所は未来で、しかも荒廃したキヴォトスに真っ白なシャーレの制服を着てぽつんと一人。「え、あれ……」って戸惑って、何が何だか分からない様子で周囲を見渡し、そこで丁度歩哨に出ていた生徒と出会うんですよ。

 

 ゲヘナでもトリニティでも、アビドスでもミレニアムでも誰でも良いです、絶対皆凄い顔してくれるから。そーだなー、誰にしようかな~。ヒナちゃんにしようかなぁ、ヒナちゃんならメンタルよわよわだから、絶対目の下にデカい隈をこさえて、今にも死んでしまいそうな足取りで銃を引き摺りながらふらふら歩いていると思う。

 

 それともC&Cのネル先輩とかでも良いな。多分、いつも溌剌として強気で、どこか威圧的な風貌をしていた彼女が、意気消沈してどこかやつれた様に俯いていて、けれど先生を見た途端、その伏せていた瞳が見開かれて、両手に垂らした銃をそのままに口を何度か開閉させ、多分徐に自分を全力で殴りつけると思う。

 その事に驚いた先生が、「ちょ、何してるのネル!?」って駆け寄って、真っ赤に腫れた頬に手を当てて。その当てられた手の温もりに、確かに生きた、血の通った先生で、自分の心の弱さが見せる幻でも何でもないと実感して、表情を動かせぬまま涙を一筋流すんだ。その事に戸惑った先生が、「ネル……?」って心配そうに呟くと、「は、はは……」ってネルが引き攣った笑みを零して、先生の袖を強く、強く掴んで、その肩に額を押し付けて、「なん、だよ……やっぱ、生きてんじゃ、ねぇか……ッ!」って腹の底から絞り出したような声で呟くんだ。そのまま強く、絶対に放してやらないって程の力で抱きしめられて、先生は戸惑ったまま何かを問い掛けようとして、けれど鬼気迫る彼女の雰囲気に何も言えず、ただじっと彼女の髪を撫で続けて欲しい。「私は、信じてなんか、いなかったぞ」とか、「おせぇよばか」とか、「何してたんだよ」とか、「寂しかったんだぞ」とか、本音と虚勢の混じった言葉に頷きながら、きっと崩れ落ちた街の一角で、素晴らしい再会を果たしてくれるだろう。

 

 まぁ多分このストーリーだとそれぞれ、どこの学園に拾われるかでガラっとその後の展開は変わるし、何処に拾われてもその学園は先生を死に物狂いで守ろうとするし、拾えなかった学園は文字通り捨て身で先生奪還作戦を敢行するだろうから平和な未来が微塵も見えないゾ。

 自分が死んで暫く、漸く『奇跡的に』表面的な小競り合いにまで落ち着いたキヴォトスに、また先生という火種が放り込まれ戦争が勃発する訳ですね。こいつ戦争しか起こさねぇな。何が何だか分からない内に生徒達に囲い込まれ、気付けば学園同士、生徒同士が自分を巡って殺し合いを始める訳です。先生からすると正に地獄以上の光景でしょう。尚、この世界線は新約を超えてしまっているので、シッテムの箱とアロナは存在しません。この世界線に投入されてしまった時点で先生の持つタブレットは、ただの高性能なタブレットに変質しています。ゲマトリアは恐らく全滅しているので、心置きなく生徒達で戦争が出来ます、うぅ、生徒達が可哀そう……やっぱり先生のせいでは???

 

 目の前で一度先生を喪っている生徒達の前で、もう一回生徒を庇って四肢捥いであげてぇ~ッ! 一度失ったからこそ、もう二度と、絶対に先生を放したくないと、死に物狂いで守ろうとする生徒と。もう二度と会えないと、絶対に手の届かない所まで行ってしまったと思っていた先生にもう一度逢えて、それをこれ見よがしに独占する学園に敵意と憎悪と嫉妬と羨望を抱く生徒の骨肉の争いを先生に見せてあげてぇ~ッ!

 その板挟みにあいながら戦争を止めようと奔走して、けれどアロナもシッテムの箱もない先生には何も出来なくて。言葉で争いを止める事の難しさと、力なき者の無力感に咽び泣きながら、必死に足掻く先生の姿を見てぇ~!

 

 血塗れになりながら撃ち合いをして、ヘイローを破壊する勢いで攻撃する生徒に叫びながら射線に飛び込んで、手足千切れ飛ぶ先生の姿とかもう百点満点中五千兆点。その光景を見た生徒はもれなく全員発狂するぞ。

 絶叫とか、蒼褪めるとか、そういうレベルじゃない、発狂。何せ先生を一度失って、その上で奇跡的に掴んだチャンスをまた失う訳ですからね。先生を喪う痛みを知らずに受けた喪失感と、その痛みを一度知ったからこそ恐怖し、涙し、不安に想いながらも食らう二度目の喪失は、文字通り精神をぐちゃぐちゃのどろどろにするゾ! あ~、愛を感じちゃう……。

 あかん、放っておくと未来へ飛んだ先生を見つけた時の闇落ち寸前生徒全員ver書いちゃいそう……。イズナとかユウカとかホシノとかアコとかサオリとかアルとかムツキとかカヨコとか、もう書きたいキャラ多すぎてヤバいの、下手するとこれだけで十万字とか行きそうなの。私のリビドーが先生で手足が捥げちゃうの……うぅ、先生、こころを落ち着かせるためにちょっと手足捥ぐね……。

 

 うぉぉぉおお、カヨコ、カヨコ~! 目の前で先生を喪った衝撃で、全部が全部嫌になって、けれど大切な便利屋の皆まで失うのは絶対に嫌だって、神経質な位に準備に準備を重ねて、便利屋以外の全てを仮想敵と考えて毎日悪夢に魘されながら、仲間に心配されながら隈をこさえて、「大丈夫だよ」って虚勢を張って生きているカヨコの前に、何も知らない呆然とした先生を出現させてあげてぇ~ッ!

 最初は自分の幻覚だ、夢だって思って、何度も頬を抓ったり、叩いて見たり、目を擦ったりするんだけれど、その内先生の方から近付いて来て、先生の懐かしい香りだとか、もう二度と見る事が無かった先生の表情だとか、その背格好だとか、色んな懐かしい記憶と情報に一杯一杯になって、何かを云おうとするのに、何を云いたいのか自分でも分からなくて、ただ堪え切れない感情が涙となって幾つも幾つも零れ落ちて、赤子みたいに両手を先生に伸ばして、力一杯抱きしめて欲しいよぉ~! それで抱きしめ返されて、自分の夢だ幻だと思い込んでいた先生が本物だって気付いて、「……せんせぇ~ッ!」って彼女らしくもなく、全力で顔を歪めて泣いて欲しい……! ずっと悲しくて泣いていたのに、嬉しくて泣く事があったんだって、思い出せて良かったねカヨコォ!

 それじゃ先生、この後カヨコ庇って死んで貰うから……。あーイイ、すごくイイ、カヨコからの愛を凄く感じちゃう……。一杯涙を流してくれカヨコ、その流した涙の分だけ先生は愛を感じられるから……。

 

 

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