割と本気でありえない部分誤字ってビビりましたわ~!
報告感謝ですわ~!
補習授業部――割り当て部室。
トリニティ総合学園の本校舎、その片隅に用意された教室の一室。普段使用されない予備教室のその場所で、先生と一人の生徒が向き合っていた。
傍から見れば今にも青い春が始まってしまいそうな状況だが、残念ながらそんな甘酸っぱい空気感では決してない。先生と向き合った生徒はどこか気まずそうに笑みを浮べ、そっと口を開いた。
「あ、あはは……えっと、こんにちは先生」
「ヒフミ――」
補習授業部の教室で待機していたのは、先生の良く知る生徒であるヒフミ、その人だった。
その特徴的なペロロ様バッグを抱きしめたまま、静かに机に座っていた彼女は、先生の入室と共に立ち上がり、愛想笑いを浮べている。先生はヒフミの姿を頭の天辺からつま先まで眺めた後、どこか胡乱な目付きで彼女を見つめた。
補習授業部のメンバー――つまり、成績不振の生徒である。
「ヒフミが補習授業部……ねぇ、へぇ~、ほぉ~ん、ふぅ~ん?」
「あぅ……あ、あの、そんな目で見ないで下さい、これにはその、やむを得ない事情がありまして」
「――聞こう」
告げ、先生は教卓の前に立った。
少なくとも阿慈谷ヒフミという生徒は赤点を取る様な生徒ではないと記憶している。
ヒフミは指先同士を突き合わせながら、俯き気味に補習授業部へ入る事となった経緯を呟く。
「えぇと、こうなったやむを得ない事情というのは、ですね……」
「うん」
「その、ペロロ様のゲリラ公演に参加する為に、テストをサボってしまいまして……」
「………」
「………」
え、それだけ? 恐らく、大体数の人物がそう口にするであろう理由。しかし、待てども待てどもそれ以上の理由が彼女の口から語られる事はなく。先生は小さく溜息を吐いた後、自身の額を指先で押さえつけ、云う。
「やむを得ない理由、だよね?」
「は、はい、やむを得ない理由、です」
「――……それはやむを得ないとは云えないと思うんだ、先生」
「うぅ……!」
ヒフミがペロロ様に命を懸けているレベルのファンなのは良く知っているが、まさか試験をボイコットしてまで参加するとは思っていなかったとばかりに先生は頭を抱える。少なくとも、「やむを得ない理由」と言い張るのは無理があるだろう。本人にも多少なりともそんな自覚があるのか、ヒフミは慌てて弁明を口にした。
「ち、違うんです先生……! ちゃんと試験の日程は確認していた筈なんです、何かの間違いと云いますか、手違いと云いますか……!」
「手違い、手違いとは……? そもそも、ゲリラ公演の為に学校を休むのは駄目でしょう……?」
「あぅ……ご、ごめんなさい……」
「うん、いや、まぁ、私に謝る事ではないんだけれどね」
結局、この手のものは本人の状況次第というか、心もち次第というか、不利益を被るのは生徒本人なので、自身に謝られたところでどうしようもない。勿論先生としては学校をサボるのはいけませんと注意するべきなのだろうが、生徒の自主性というべきか、好きなものを否定したくないというのも本音。
ヒフミは恐る恐る口を開く。
「あの、それで、ナギサ様に先生のサポートを頼まれていまして……」
「サポート?」
「は、はい」
頷き、ヒフミはこの場に立つまでの経緯を説明し始めた。
■
先生がティーパーティーへの招待状を受け取る前夜。
ヒフミはティーパーティーの会場となるテラス、その場所でナギサと二人きりで向き合っていた。手に持っていたカップをそっとソーサーに置き、ナギサはヒフミに向かって微笑む。
この学園のトップ、生徒会長のひとりと向き合うヒフミは酷く緊張していた。そもそも、こんな場所に呼び出されている時点で嫌な予感しかしない。しかし、そんな感情を呑み込んで、ヒフミは辛うじてこの場に立っていた。
そして、やはりと云うか何というか――告げられた内容は、決して喜べる代物ではなく。
「――という訳でヒフミさん、先生をお手伝いすると共に、補習授業部を導いて下さいませんか?」
「はい!? わ、私がですかっ!?」
ナギサの口から出た予想外の提案に、思わず声を荒げる。それは彼女が予想していた一段、いや二段は上の話だった。
「はい、そもそもヒフミさんの様な優等生でないと出来ない事ですから」
「わ、私はそんな、優等生という程でもありませんし、そもそも成績も平均位で……今は落第の危機なのに――」
「ふふ、私はヒフミさんの『愛』を高く評価しておりますから、それに、今度はヒフミさんから私に『愛』をお返しして頂く番――ですよね?」
ナギサはそう云って、穏やかに微笑んで見せる。ヒフミの脳裏にアビドスに加勢した時の事が過った。加勢に当たり、その許可をナギサに求めたのはヒフミ自身だ。そしてその時に貸与された火砲や弾薬、人員はいつか『愛』として返す事を期待していると――確かにナギサはあの時、そう口にしていた。
言質も取られている、何より逆らう気力が湧かない。徐々に萎み、委縮するヒフミを前に、ナギサは愉快そうに告げた。
「あ、あぅ……」
「ふふっ、そういう事ですので、宜しくお願いしますね、補習授業部の部長さん」
■
「――それで、補習授業部の部長に?」
「は、はい、あくまでも臨時の――ですが、補習授業部は特殊な形で限定的に作られた部活ですし、全員が落第を免れたら自然に部はなくなると思うので……」
そう云って上目遣いで先生を見るヒフミ。どこか張りつめた空気を漂わせる彼女は、バッグを抱えたまま深く腰を曲げた。
「なので、えっと、その時まで宜しくお願いします、先生!」
「うん、分かった――こちらこそ、宜しく」
どちらにせよ引き受けた仕事とは云え、元はと云えばヒフミがアビドスに加勢してくれたのは自分達の騒動が原因だ。先生は申し訳なさそうに謝罪を口にする。
「ごめんね、私を助けた事でこんな事になってしまって」
「い、いえいえ! 今回の件は自業自得ですし、何より私がしたくてした事なので! それに、こんな状況ではありますが……担当の方が先生で良かったです」
そう告げ、微笑むヒフミ。その言葉に嘘は無く、先生が居るというだけで心強い。何せ、アビドスでの一件をヒフミは知っているのだから。その件で培った信頼が、ヒフミの精神的な重圧を幾分か和らげていた。
「あ、そういえば、補習授業部のメンバーには、まだ会われていないんですよね?」
「うん、そうだね、ヒフミ以外のメンバーとはまだ会っていないかな」
「名簿を確認したところ、メンバーは私を含めて四人みたいですが……ひとまず会いに行きましょうか、みんなでどうすれば落第せずに済むか計画を立てないと――」
「そうしようか、なら近い順に行こう」
「えっと、そうなると――」
■
「――……此処、みたいですね」
そうして辿り着いた場所は正義実現委員会、本部。
トリニティ総合学園の中でも最大規模を誇る部活の一つである正義実現委員会。その本部ともなれば建物の外装からプレートまで色々と感じ入るものがあるというもの。どことなく建築物全体から威圧感が放たれている様で、入り口の前に立ったヒフミは気圧された様に二の足を踏んでいた。
「あ、あぅ、あんまり来たくはなかったのですが……」
「まぁ、一般生徒からするとね」
正義実現委員会と云えばゲヘナで云う風紀委員会、キヴォトスに於けるヴァルキューレ警察学校のような場所。好き好んで近寄りたい生徒は少数だろう。何も悪い事をしていないのに、何となく委縮してしまうような、そんな心地。
しかし、目的の生徒はこの場所に居るという情報。いつまでも尻込みしていられないと、ヒフミはこれから務める補習授業部の部長として、ぐっと怯懦を呑み込み、正義実現委員会の扉を押し開けた。
「えっと、失礼します……どなたかいらっしゃいますか?」
恐る恐る声を上げ、受付を覗くと――そこには小柄な、ピンク髪の少女が座っていた。
彼女は扉を押し開け、入室してきたヒフミを微動だにせず見つめている。
「あっ、こ、こんにちは」
「……何?」
ヒフミの言葉に、少女――コハルは不愛想に答える。
その酷く冷めた対応にヒフミは面食らい、思わず一歩退いた。
「うぅ、えっと、凄く警戒されているみたいなんですが……私、何かしてしまったのでしょうか……?」
「大丈夫、多分人見知りなだけだと思うよ」
「だ、誰が人見知りよ!?」
先生の言葉にコハルは憤慨し、デスクを叩きながら椅子を蹴飛ばして立ち上がる。
「た、ただ単純に知らない相手だったから、警戒しているだけなんだけれど!?」
「多分、それを人見知りって云うんじゃないかなぁ」
「うぐっ」
図星を突かれたコハルは、何とも云えぬ悔し気な表情で先生を睨みつける。恐らく余り考えて話していないのだろう、ややあって彼女は再び椅子に腰を下ろすと、ヒフミと先生の両名を睥睨しながら問いかけた。
「そ、それで? 正義実現委員会に何の用!?」
「えぇと、実は探している方が居まして――」
「はぁ、何それ!? 正義実現委員会に人探しの依頼をしに来たって事? 私達の事、ボランティア団体か何かだと勘違いしているの!? そんなに暇じゃないんだけれど!?」
「い、いえ、そうではなく、此処に閉じ込められているって聞いて……」
「閉じ込め……はぁ?」
「ですから、えっと、その、良くない事をした方が此処に――」
「え、それって――」
そんなやり取りをしていると、不意にコハルの背後の扉が独りでに開いた。そこから現れたのは――学校指定のスクール水着を身に纏った生徒。
コハルと同じ髪色のそれを靡かせながら、颯爽と現れ、たおやかに微笑む彼女は先生とヒフミを見つめ、穏やかに声を掛けた。
その纏う雰囲気はトリニティの淑女に恥じぬもの――しかし、水着姿である。
「――こんにちは、もしかして、私の事をお探しでしたか?」
「はっ!?」
「えぇっ!?」
「おぉ」
唐突に現れた彼女に対し、三名は三者三様の反応を見せる。ヒフミは、「何故こんな所に水着の生徒が?」という困惑。コハルは、「どうしてコイツが此処に!?」という驚愕。そして先生は単純に素晴らしいスタイルに対する感嘆の声だった。
「え、は、何で!? あ、あんたどうやって牢屋から出たの!? ちゃんと鍵は閉めたのに……!?」
「いえ、鍵は掛かっていませんでしたよ? 私の事を話されている様な声が聞こえたので、こちらに来てみました、何か御用でしたか?」
「うん、ちょっと部活の事でね」
彼女――ハナコの豊満な胸元からくびれまで、一通り堪能し、深く頷いた先生は真面目腐った表情でそう告げる。ハナコは先生の顔を二度、三度注視すると、何かを思い出したように手を打った。
「あら、大人の方、という事は……先生ですね、改めましてこんにちは、部活という事は――もしかして補習授業部の?」
「うん、担当顧問――担任になったんだ、宜しくね」
「あらあら、それは――」
「ま、待って! その恰好で出歩かないでよ! ちょっとぉ!?」
――補習授業部二年、浦和ハナコ。
水着姿で学校を徘徊し、その現場を正義実現委員会に捕らえられる。
現在、正義実現委員会の元で監禁中――だった。
コハルに腕を掴まれたハナコは、心底不思議そうな表情で首を傾げる。
「? 何か問題でもありますか、下江さん」
「問題しかないでしょ!? 何で学校の中を水着で徘徊するの!?」
「ですが、学校の敷地内であるプールでは皆さん普通に水着になられますよね? ここもあくまで学校の敷地内で、これも学校指定の水着です……あ、もしかして下江さんは、プールでは水着を着ないタイプですか?」
「えっ、はァ!?」
「そうでしたか、下江さんは全裸で泳ぐのがお好きなんですね、流石は正義実現委員会、そういった分野まで網羅されているなんて」
「ばっ――」
とんでも理論で全裸族にされかけたコハルは、その瞳を猫の様に縦長にし、顔を真っ赤にして反駁する。その小さな体全てを使って怒りを表現し、ハナコの腕を力一杯引っ張った。
「馬鹿じゃないの!? 着るに決まっているでしょ!? そ、そんな事するわけ……!」
「それにしても裸こそが正義とは……かなり前衛的ですね、あまり考えた事はありませんでしたが、成程、試してみるのもまた一興ですか――」
「や、やめてッ! こんな所で脱ごうとしないで!? 兎に角早く戻って、はやく! もうすぐ先輩達が来ちゃうからぁ!」
「あら、しかし先生たちは私に用事が……」
「うるさいうるさいッ! この公共破廉恥罪! 早く戻れっ!」
「あらら、すみません先生、どうやら色々と混乱している状況のようですので、また後程お会いしましょう」
そう云ってひらひらと手を振るハナコ、そのままコハルに背中を押され、やって来た扉の向こうへと押し戻されて行く。ヒフミと先生の二人は、消えゆくコハルとハナコの背中を見送り、呟いた。
「えっと、な、何だか、凄い方でしたね……」
「うん、中々個性的だね……しかし室内で水着か、改めて見ると大変に興味深い」
「せ、先生……?」
先生の言葉に、ヒフミは困惑した様子を隠せない。
そんな事を口にしている内に、ハナコを押し込み終えたコハルが肩で息をしながら戻って来る。彼女はぎろりと先生とヒフミを睨みつけると、大股で二人の元へと詰め寄った。
「はぁ、はぁ」
「え、えっと……ハナコさんは、この後一体どうなるんですか?」
「そんなの当然死刑よ! エッチなのはダメ! 死罪!」
「出た! コハルの名言ッ!」
「は、はぁ!? なにそれ!?」
「先生、何か今日はテンションが高いですね……?」
それは仕方ない、何故ならコハルの名言を実際に聞く事が出来たのだから。先生ならばこう口にしてしまうのも当然である。それは雪に触れたら冷たいと分かる位に、シンプルで単純な法則なのだ。
「というより、死刑というのは流石にないと思いますけれど……」
「水着で学校を歩き回ったんだよ!? 真昼間から! 生徒が沢山いる、広場のど真ん中で!」
「で、ですが、校内では校則で決められた服を着るものですよね? ですからきちんと学校の水着を……」
「どうしてそこで水着なの!? 制服を着れば良いでしょう!? っていうか話に入って来るなッ!」
「えぇ……」
顔を真っ赤にして叫ぶコハル、その勢いにヒフミは終始押され気味。恐らく何を云っても受け入れられないだろうと予感する程度には、目の前の生徒は気が立っていた。ヒフミは困ったように隣の先生を見上げる。
「せ、先生、どうしましょう、今ちょっとハナコさんとお会いするのは難しそうですが……別の生徒に会いに行きますか?」
「うーん、このコハルを眺めているのも悪くないと思うけれど……」
「眺めるなッ!」
「あぅ――と、兎に角、次のメンバーは……えっと」
先生への怒声に肩を跳ねさせるヒフミ。若干涙目になりながら手にしたファイルから名簿を引っ張り出し、補習授業部の残りのメンバー、その名前欄を指先でなぞった。
「次は、えっと――『白洲アズサ』さん、ですね」
「――ただいま戻りました」
「任務完了です! 現行犯で『白洲アズサ』さんを確保しました!」
ヒフミがそう告げると同時、正義実現委員会の出入り口、その両開きの扉が開け放たれる。そこから顔を覗かせたのはマシロとハスミの二名。そして彼女達が高らかに告げた名前は、今しがたヒフミが口にしたそれと全く同じであった。
「え……白洲アズサさん、って――」
「――あ、ハスミ先輩、マシロ」
「コハルさん、お疲れ様です……って、あれ?」
「先生?」
コハル、ヒフミの視線が今しがた入室して来た二人に向き、また同時に先生もハスミとマシロに顔を向ける。二人はヒフミとコハルの存在を認めた後、先生を見つけると嬉しそうに破顔して見せた。
ハスミは小走りで先生の元へと駆け寄ると、笑顔のまま問いかける。
「先生が此処に居らっしゃるなんて、珍しいですね……何かご用事ですか?」
「うん、ハスミ達の顔が見たくなってね」
「まぁ……!」
先生が真面目腐った顔でそう口にすれば、ハスミの頬に桜が散る。リップサービスなどでは断じてない、それが分かるからだろう、ハスミもマシロも酷く嬉しそうに笑っていた。
先生は可能ならば毎日生徒達の顔を見て回りたいと思っている。しかし悲しいかな、先生の体は一つしかないのだ。
「それと――」
そして、それだけが目的ではないのも事実。先生がそっとハスミとマシロの背後に視線を向ければ――ガスマスクを装着した、如何にも不審者と云った出で立ちの生徒が一人、佇んでいた。
「シュコー、シュコー……」
「………」
その想像の斜め上を往く格好に、ヒフミは思わず絶句する。校内で水着ならば、まぁ、まだ理解出来ない訳でもない、一応制服だし、TPOは兎も角自分も着用するモノだし――しかし、ガスマスクは分からない。何故、ガスマスク? 一体何の為に? 理解できないものは怖い、恐ろしい。ヒフミが件の生徒に抱いた感情は、純粋な困惑と恐怖だった。
当の本人は確保された状態のまま、悔し気にくぐもった声で告げる。
「……惜しかった、弾丸さえ足りていれば、もう少し道連れに出来たのに」
「み、道連れって……」
「――もう良い、好きにして、ただ拷問に耐える訓練は受けているから、私の口を割るのはそう簡単じゃないよ」
そう云って背筋を正し、超然とした態度を崩さない小柄な生徒。
補習授業部二年、白洲アズサ。
校内での暴力行為の疑いで正義実現委員会から追跡されていた所、教材用催涙弾の弾薬庫を占拠。凡そ一トンの催涙弾を爆破させ、三時間に渡る抵抗の末、逮捕。
確保される寸前まで各種ブービートラップ、
「………」
ヒフミは最早、何を云えば良いのか分からなかった。ただ、この生徒を補習授業部の部長として率いて行かなければならないという事実に、とてつもない衝撃と不安を抱いていた。真っ白に燃え尽きそうなヒフミを横目に見た先生は、そっとハスミに声を掛ける。
「ごめんハスミ、ちょっと話せるかな?」
「はい……?」
■
「……成程、お話は理解しました、先生が補習授業部の担任の先生になられると」
それからややあって――。
粗方の事情を話し終え、先生の現状の立場や新しく設立される補習授業部に関しての情報を呑み込んだハスミは、正義実現委員会の副委員長として酷く無念そうに呟いた。
「残念です、出来ればお手伝いをしたかったのですが」
「気持ちだけでも嬉しいよ……という訳で、あの二人を預かっても良いかな?」
「はぁ!? ダメに決まっているでしょ!? 絶対ダメ、凶悪犯なのよ!?」
先生の言葉に食って掛かったのは、隣で話を聞いていたコハル。
彼女は未だに横合いで「シュコー、シュコー」と音を立てるガスマスクウーマン、アズサを指差しながら叫んだ。因みに当の本人は自身の処遇に興味がないのか、微動だにしていない。或いは、先生も拷問を担当する人員の一人に見られているのか。どんな相手だろうと口を割るつもりはないと、彼女は内心で考えているに違いない。何となく、そんな雰囲気を感じる。
「コハル、先生はシャーレとして、ティーパーティーから依頼を受けて此方にいらっしゃったのです、規定上は何の問題もありません、補習授業部の顧問、担任の先生になるのですから」
「え、えぇ、でも――……ま、まぁ、先輩がそう云うなら……」
最初は絶対拒否すると意気込んでいたコハルだが、先輩としても正義実現委員会のメンバーとしても尊敬しているハスミの言葉に、渋々と意見を呑み込む。しかし、彼女は何を想ったのか目の前に立つヒフミとアズサを見下すと、鼻を鳴らして明らかな嘲笑を零した。
「ふ、ふん! でも良い様よ! こっちはこんな凶悪犯たちと一緒にいなくて済むし、そもそも補習授業部だなんて、恥ずかしい! そう、そうよ! あははっ、良いんじゃない、悪党と変態の組み合わせ! そこに馬鹿の称号だなんて、私なら一緒にいるだけで羞恥心で死んじゃいそう!」
「ふぅ……コハル?」
今にも腰に手を当てて高笑いを始めそうな言葉に、ハスミは額を指先で抑えながら彼女の名前を呼ぶ。しかし、そんな彼女に残念なお知らせがあった。ヒフミは手に持った名簿とコハルを交互に見つめながら、おずおずと口を開く。
「えっと、その……非常に口にし辛いのですが」
「うん?」
ヒフミの声に、コハルが未だに嘲笑を貼り付けたまま答える。
そして差し出された名簿――その最後の欄に、『下江コハル』の名前が綴られているのを見た。
「最後の一人は――下江コハルさん、です」
「………………えっ」
補習授業部一年、下江コハル。
既に三回連続で赤点を叩き出し、留年目前。
補足事項、成績が向上するまで、正義実現委員会には復帰出来ないものとする。
補習授業部、結成。
これが今回のエデン条約編、前編に於ける主要メンバーとなります。いやぁ、日常回を書いていると「んほ~、ここで唐突に先生爆発四散しないかしら~?」って思ってしまいますわよねぇ~。作者あるあるだと思いますわ~! 我慢できなくて後編の先生もぎもぎの所だけ書き出したらもう、筆が進むこと進むこと……やっぱり先生はボロ雑巾の様に打ち捨てられた状態で、生徒に発見された瞬間が一番輝いていますわねっ!
いや、でも生徒の目の前でズタボロになるのも趣が深いんですのよ? 凄惨な現場を目にしたショックと、何も出来なかったという無力感、そして響く悲鳴は最高の愛のスパイスです。しかし、既に負傷し、血を流し、血だまりの中で力なく倒れ伏す先生を見つけた時の生徒の表情もまた、目の前で先生が弾けた瞬間を目撃したソレに負けない位の愛が詰まっていると思うのです。うぅ、先生毎秒手足千切れて欲しい……。
本編の方ではクリスマスイベントが終了しましたが、セリナ(クリスマス)台詞が個人的に刺さったので記しておきます。
「知っていますか? サンタさんは泣いている子にはプレゼントは渡せないんです、だから――先生は泣かないで下さいね?」
うちの先生はどんな苦境でも精悍な表情と笑顔で乗り切りますが、「大丈夫、私は先生だからね」、と口ずさみ、どんな負傷も苦難も乗り越え、その果てにもし、セリナに引導を渡される結末があったとしたら、その最後にそっと一粒の涙を流させて、もう「大丈夫」とは口ずさまなくなった先生に、鉛玉のプレゼントをあげたくなる様な台詞だと思いました(小学生並みの感想)。なんて美しい最後だ、感動的だ、でもバッドエンドだ。
セリナは一回先生監禁ハッピーエンドを後書きで書きましたが、実際問題先生に銃を向けられるか? と考えると、多分無理だと思うんですよねぇ。絆ストーリー的にも、サブストーリー的にも回復、治療全振りだし、そもそも誰かを傷つけるという行為に忌避感を覚えていそう……。でも先生の敵には躊躇いなく銃を向けて欲しい(願望)。
セリナエンドは大体全部終わった後に、ひっそりと先生を回収して、捥げた手足を綺麗に処置して先生と小さくても幸せな家庭を築いているんじゃないかなぁ……圧倒的ハッピーエンドですわぁ~! もしくは辛うじて生き残った欠損先生を必死に看病して、キヴォトス動乱に於ける重要参考人としての引き渡し要請を何度も跳ね返しながら、「怪我人なんですよ!? 私の先生を、こんな状態で……ッ! 何処に連れて行こうっていうんですかッ!?」ってやって来た連邦生徒会にブチギレして欲しい。普段の温厚で優し気な彼女の面影が欠片も残っていなかったら尚よろしい。それだけ愛を感じられる……先生、手足吹き飛ばした甲斐があったね、私も嬉しいよ……!
あと「クリスマスのチャリティー募金はこちらです!」って呼びかけているセリナに、お財布から素材を取り出して、「こんなに貴重なものまで……寄付して頂いていいんですか?」って嬉しそうにするセリナを見たい余り、何度も周回して素材貢ぎたい。
最初はポイポイ寄付される素材に喜んでいたセリナが、少しずつ底が見えなくなるにつれて表情が硬くなって、先生が窶れながら大量の素材をサンタクロースの袋に詰めて持ってくる姿に滅茶苦茶心配して欲しい。その後過労でぶっ倒れて死んでくれ先生。やっぱり生きろ、まだ手足が残っている。死ぬなら手足飛ばしてから死んでくれ。こんな死因くっそ無様で嫌ですわ~! やっぱり最後は派手に、生徒全員の目の前で死んであげないとねッ! うぅ、セリナ……先生の放つ生命最後の輝き、人間の魂をみてて……。