「……いよいよ、明日です」
「う、うん」
補習授業部――合宿、七日目。
いつも通り教室に集合し、プリントを前にしたヒフミとコハルは、どこか緊張した面持ちで呟く。教室に先生の姿はなく、今日は個別自習時間――各人が苦手な分野、教科、特に得点率が低い設問を先生がチョイスし、苦手克服の為に特別問題集を作成してくれた。皆はそれを、今日一日かけて消化する予定なのである。
アズサはいつも通り淡々とした様子で、ハナコは笑みを浮べながら口を開く。
「第二次特別学力試験――か」
「ふふっ、何だかあっという間でしたね」
「はい……一週間という短い時間でしたが、私達はきちんと努力を積み上げました、これは必ずや無駄にならないと信じています――模試の結果も良かったですし、今の私達であれば十分に第二次特別学力試験に合格出来る筈です!」
そう云って、拳を握り締めるヒフミ。
一週間前の自分達とは比べ物にならない程、学習を積み重ね努力を為したという自負があった。模擬試験の結果も、直近は全員が合格。それでいて難易度は通常の期末試験等と同等なのだから、特別学力試験の基礎問題程度ならば楽勝の筈である。
「ですが慢心する事無く、最後まで頑張りましょう……! あと一日、最善を尽くすんです……!」
「当然だ、何なら百点を目指して頑張る」
「わ、私も!」
「あら、では私もそういう事で……ふふっ」
「わ、私はちょっと百点は難しそうですが……と、兎に角! 最終日も、張り切って勉強していきましょう!」
「おーっ!」
ヒフミの声に、全員が同調し声を上げる。
運命の第二次特別学力試験――それは、直ぐ傍まで迫っていた。
■
「――ご無沙汰しております、先生」
「やぁ、ナギサ」
麗らかな日差しが差し込む正午。大抵、此処に来る時は夜だったなと、先生はふとそんな事を想った。
ティーパーティーのテラス、目前にはいつも通り、優雅に紅茶を嗜み綺麗な笑顔を浮かべるナギサ。彼女はカップをソーサーに戻すと、柔らかな口調で問いかける。
「あれからお変わりはありませんか? 合宿の方は如何でしょう、何か困った事などあれば遠慮なく仰って下さい」
「お陰様で何とか、今のところ順調だよ」
慣れたもので、何でもない様に頷きながら、先生はナギサの対面に腰掛ける。ナギサは無言で空のティーカップに紅茶を注ぐと、静かに先生へと差し出した。それを自然に受け取り、先生はそっと香りを確かめる。その鼻腔を擽る高貴な香りに、先生は驚いた様に目を見開いた。
「……これ、凄く良い香りだね」
「えぇ、此方はトリニティでも中々手に入らない、トワイライト社の高級茶葉を使用しておりますので」
「それは……私が飲んでも良いのかな?」
「勿論です、先生の為に用意したものですから、香りも味も、素晴らしい一品ですよ――さぁ、どうぞ」
「……ありがとう、頂くよ」
促され、先生は恐る恐る口を付ける。
途端、口の中に広がる紅茶の風味。爽やかなそれはしかし、確かな甘さも内包し、その中にアクセントの様な酸味がある。香り、コク、渋み、三拍子そろったそれには先生も思わず舌を巻いた。
「これは……うん、凄く美味しいね」
「ふふっ、気に入って頂けたのなら何よりです」
ナギサが嬉しそうに微笑み、自身のカップに口を付ける。暫く、そうやって紅茶を嗜んだ先生は、カップの中身が半分ほどに減った辺りで本題を切り出した。
「……それで、今日はどんなご用事かな?」
「ふふっ――この合宿はいうなれば元々、生徒達を良く観察できるようにという配慮でしたので」
告げ、ナギサは笑顔のまま問いかける。そこには何の気負いもなく、ただ世間話の延長線上であるかのような気軽さだけがあった。
「――如何でしたでしょうか? 合宿中、何か判明した事などはありましたか?」
「………」
「あぁ、もっと直接的に云いましょうか、先生――トリニティの裏切者は、どなただと思いました?」
その声に、先生は暫しの間沈黙を守る。そして持っていたカップを静かにソーサーへと戻し、口を開いた。
「……ナギサ、私は云った筈だよ?」
「………」
「私は、私のやり方で対処する――と」
告げる先生の態度は、以前と一貫して変わらない。生徒を疑う事はしない、犯人探しなど最初から考えてもいなかった。補習授業部は、そういう場所ではない。学び、互いに高め合い、飛躍する為の場所――生徒達の
其処に、そんな無粋なモノを持ち込みたくはない。
「……そうでしたね」
聞き届けたナギサは、そっと溜息を一つ。そこに落胆は見えない。いや、見せていないだけか。彼女は背筋を正し、淡々と言葉を紡ぐ。
「ただ、第二次特別学力試験を目の前にして、改めてそこを確認しておきたかったのです、先生に心変わりはないか、気になる点はなかったのか――」
ナギサの伏せ気味だった瞳が、正面から先生を射貫く。
その瞳が一瞬、ぎらりと光った気がした。
「……恐らく、ミカさんも接触して来ましたよね?」
「………」
返答はなかった。しかしその沈黙は、この場合何よりも雄弁に肯定を表していた。ナギサはそっと椅子から腰を浮かせ、身を乗り出す様にして問いかける。その表情は微笑んでいた、しかし――目だけは笑っていない。
猜疑と疑心、そして悪意の渦巻く瞳だった。
「ふふっ、ミカさんと何をお話しになったのか――よろしければ、教えて頂けませんか?」
「……それは、出来ない相談だね」
先生はナギサの言葉に、はっきりと拒絶を返す。生徒個人の秘密を他者に漏らす事はしない、それは先生だから云々ではなく、人としてのルールである。そうでなければ生徒が、先生に相談の一つすら出来なくなってしまうだろう。
だから、この件で先生が出来る事は一つ――たった一つだけ。
「ナギサ、私はね、誰かを疑う事に時間を費やすつもりはないよ……私に出来る事はただ一つ」
先生もまた、視線を上げナギサを見返す。
真っ直ぐに、正面から。
「あの子達の頑張りが報われるように、最善を尽くす事だけだ」
暫くの間、視線が交差する。
ナギサは乗り出した体を戻すと、そっと肩を竦め、云った。
「……一度改めて説明しましょうか、何故彼女達が選ばれたのか、私としても先生と対立する事態は避けたいのです、その為にも先生にご理解頂ければ……と」
「私がそれで、納得すると?」
「何事も話さねば始まりません、私達は理解し合える存在だと信じております」
そう云って、綺麗に笑って見せるナギサ。
どの口が――ナギサは自分自身で口にしたソレに、白々しさを感じずにはいられなかった。しかし、先生が対話を拒否する事はない。その確信があるからこそ、道化の様な台詞でさえも利用する。先生はナギサを見つめながら、そっと紅茶を再び口に運ぶ。
それが、無言の了承であると受け取ったナギサは唇を湿らせ、言葉を綴った。
「先生の方にも情報網はあると思いますが……一先ず、順番にお話ししましょう」
そう云ってナギサは、すっかり馴染み、愛用品となったチェス盤を徐に取り出し手前に設置する。綺麗に並べられた駒、それらを順に指先でなぞり、その一つを摘まんだ。
最初に選ばれたのは、
彼女はそれを盤の中心に置くと――指で弾き、倒した。
カコン、と硬質的な音が鳴り、駒は倒れる。
「……まずコハルさん、彼女はハスミさんを統制するための存在です、ハスミさんはゲヘナの事を酷く憎悪し、いつ何をしでかすか分からない時限爆弾の様な存在ですから、それをある程度コントロールする手段が必要でした、それが彼女です」
告げ、次に選んだのはクイーン。
キングの横に並ぶそれも同じように、盤の中央へと移動させ、弾く。
盤上に、二つの駒が転がった。
「そしてハナコさん、彼女は本来誰よりも優秀な才能を持っていたにも関わらず、今はわざと試験で本気を出していません、その気になればどんな派閥でもトップに立ち、率いる事が出来るでしょう……今は何を企んで、何を考えているのか、全く理解出来ない状態です」
彼女が三番目に選んだ駒はナイトであった。
既に転がった二つの駒を他所に、彼女はナイトをも弾く。倒れたナイトの駒がポーンの駒にぶつかり、半円を描くように駒は回った。
「アズサさんは、そもそも存在自体が色々と怪しいところばかりです、他の生徒達と何度も暴力事件を起こしている統制不能な存在ですし、正直怪しくない箇所を探す方が難しい位で……まぁ、私でなくとも疑念を抱くでしょう」
それぞれを補習授業部に見立て、弾いたナギサ。
そして、最後に彼女が選んだ駒は――。
「ヒフミさん、は――」
「………」
ナギサの指先が触れた駒――
それを、彼女は動かせずにいる。
それは、彼女の心情を表している様に思えた。
「ナギサは、ヒフミと仲が良いんだってね」
「………」
その言葉に数秒、沈黙を守った彼女は、そっとキングから手を放した。
所々駒の欠けた黒の盤面、それらを所在なさげに眺めながら、ナギサは頷いて見せる。
「……はい、そうですね、ヒフミさんへの想いは、かなり特別です」
それは、苦々しい口調だった。痛い所を突かれたと、まるで直視したくない現実を突きつけられたかのように、彼女は目を伏せる。ナギサとヒフミは懇意である、それこそ――
彼女は、ティーパーティーとしてのナギサではなく、一人の友人として会話を交わす事が出来る貴重な人物であった。向こうがどのように思っているのかは分からないが、少なくともナギサにとってはかけがえのない存在である。
桐藤ナギサにとって、阿慈谷ヒフミという少女は――普通で、何て事の無い、大切な友人だった。
「私は一個人として、ヒフミさんの事をとても大切に想っています、私は、彼女の事を好いている――そのことは、間違いありません」
「なら、どうして?」
「――あの子の正体が、実は恐ろしい犯罪集団のリーダーである、という情報がありました」
ナギサの体が、強張ったような気がした。先生は、淡々と語ろうと努めるナギサを見守りながら沈黙を通す。これは、自身にも責任の一端がある話であった。それを自覚しながら、静かに拳を握り締める。
「こういったお話が、かえって一番恐ろしいのです、信じていたからこそ何かが見えなくなっている――盲目な状態になっているのでは、と」
「………」
「どれだけ注意を払って築いた塔も、小さな亀裂から簡単に崩れてしまうもの……私はちゃんとヒフミさんの事を理解出来ているのか、それともやはり私が知らない真実があるのか――今の私には、分からないのです」
視界を塞がれた時、その手を取った者が善人なのか――それを知る術はない。
例えどれだけその手が暖かろうと、優し気であろうと、その手が悪意を持って自身の手を取った訳ではないと、何故分かる? 何故断言できる? 暗中で藻掻き、最善を模索する彼女にとって、全ては疑いの対象である。
それがたとえ、彼女にとって大事な
「……ヒフミは、そんな子じゃないよ、あの子は優しい子だ」
「――何故、そう云い切れるのですか?」
声は、強く響いた。
彼女の指先が、ぐっと握り込まれる。
先生を見る瞳に、熱が入る。けれどそれは、決して前向きなものではない。
「ヒフミさんの感情を、思考を、気持ちを、証明出来るのですか? その本心を、本音を、心を――一体、どうやって証明するというのです? そんな子ではない、誤解だ、事情がある……そんな言葉に、どれだけの意味があるのですか、どれだけの真実性が含まれているのですか」
目に見えないものは怖い。
分からないものは恐ろしい。
誤解がある、事情がある、そんな言葉に意味はない。必要なのは絶対なる証明、自身が邪な意思を持たず、安全であるという物理的な、目に見える形での保障。
それが出来ないのならば――疑うしかない。
傷つけられない様に、大切なモノを守る為に。
大切な人を疑い、排斥する。
それが、ナギサの選んだ『やり方』だ。
「先生、あなたは疑う事を悪しき行為だと、そう考えている節が見られます――しかし、私の考えは異なります、疑う事は決して悪しき行為などではありません」
疑う事は果たして悪か?
否――ナギサはそう、断言する。
「信頼というものは心地良きものでしょう、けれどそれは時に枷となります、人を信じ、盲目となれば、いつかその信じた人が疑って欲しくないものを持ちだした時――あなたはきっと、疑う事すらしないでしょう……信頼を盾に、見過ごすに違いありません、それが
「………」
「――心の中身など、証明出来るものではないのですから」
結局の所――そこに尽きる。
自身の感情の証明、安全性の証明、友愛の証明。
目に見えるものを信じるならば、それは信頼によるものだ。「この人ならば、大丈夫」、「この人ならば、裏切らない」、或いは――「この人にならば、裏切られても良い」という。
個人ならば、それでも良い。
個人の友好は、己の主観のみで判断しても構わないし、そこから生まれるあらゆる好悪は己と相手のみで完結する。
しかし――。
「ヒフミさんは優しい子、えぇ、良く理解していますとも――彼女の優しいところも、礼儀正しいところも、友人想いなところも、それらを痛い程知って尚、その本音を知る事は叶いません、当然です、どう足掻いたって私達は所詮……他人なのですから」
「だから――退学させると?」
「えぇ、エデン条約――その成功の為に」
ナギサは、このトリニティ総合学園の――生徒会長だから。
「大義の前の小事……そう云うんだね、ナギサは」
「はい、それがティーパーティーとしての責務です」
「たとえそれが、何の罪もない生徒だとしても?」
「はい、それが何の罪もない生徒だったとしても、僅かな可能性があるのならば、私は――」
口を結び、ナギサは俯く。数秒、間があった。それが彼女の罪悪感の発露なのか、或いは覚悟を決めるまでの逡巡だったのか、それは分からない。
しかし、再び顔を上げた彼女の瞳には――鋼の如き決意と、絶対なる自負があった。
「私の大切な友人すら、切り捨てましょう」
――この
「………」
「………」
二人の視線がぶつかる。
互いに、鋼と鋼を孕んだ瞳が。
「――分かった、ナギサ」
「っ、先生――」
先生が、ふっと視線から力を抜く。
その動作に、ナギサは僅かな希望を見出した。
ご理解頂けましたか――そう、口にしようとして。
「その考えには、やはり賛同出来ない」
「―――」
先生の手が、静かに紅茶をソーサーに戻した。
ナギサの緩みかけた表情が、凍る。
左右に揺れた視線が、彼女の動揺を表していた。
「――ただ信じるだけではいけない、それに関しては概ね同意しよう、これは単なる私の我儘だからね、私も、他者を疑るという行為全てを否定する訳じゃない」
「では、何故……?」
「私はね、ナギサ――」
先生が、拳を握る。その手を軋ませる。
雰囲気が切り替わった。静寂を秘めた瞳から、憤怒と絶対不変の決意を秘めた瞳に。その瞳が、ナギサを射貫く。
「最初から
誰かの犠牲の上に成り立つ世界。
誰かを喪わなければ救われない世界。
その残酷な真実を、先生は知っている――誰よりも良く、知っている。
けれど、それを受け入れるのかどうかは別なのだ。
何かを喪わなければ何も得られない真実。誰かを犠牲にしなければ救われない現実。それを知りながらも足を止めず、手を伸ばし、「それでも」と叫び続けた
「私は、たとえ這い蹲って汚れ切っても、どれだけ血反吐を吐いて苦しんでも、生徒全員が笑って迎えられる――そんな
だから、先生は告げる。
その在り方は許容できない。
その考え方には賛同できない、と。
たとえその先に、苦しみが待ち受けているとしても。
どれだけ馬鹿げた、綺麗事にしか聞こえなくても。
先生は、己の全てを賭けて、
「……それは、理想論に過ぎません」
「その通りだ」
ナギサは云う、拳を強く握り締め、震えた声で。
所詮は理想だ、到底現実的ではない。
現実を見ろ、リスクとリターンが釣り合わない。
たった四名の犠牲で、トリニティ数千の生徒が救われるのに。
「大人が語る事ですか、それが」
「大人が理想を語らなければ、生徒が理想を語れなくなる」
その背中を見て、生徒は育つ。
現実を説き、個性を殺し、大人になれと諭す。世界にはどうしようもない事があって、それを噛み締め、飲み干し、ただ諾々と従って生きろと――それが教えだと?
それでは、
先生が伝えるべきは、生徒が持つ無限大の可能性と、何者にもなれるその切符と、そして彼女達には世界だって変えられる力があるんだと、そう自覚させる事だ。
だって先生は信じている、心の底から信じている。
生徒を、彼女達の持つ光を――その可能性を。
「まるで、子どもの夢物語ではありませんか」
「理想も夢も、抱かなければ始まらない」
そうだ、そうでなければ、スタートラインにすら立てない。
どんな理想も、夢物語も、語らなければ輪郭すら持てない。人は、意思を持って初めて行動を起こす。理想を知らなければ、理想に向かって走れない。ならば、その手本となるべきは自分だ――大人だ。
大人が理想を語らずして、どうして子どもが理想を語れよう?
世界を作り、救うのは大人だと嘗て彼女は云った。
ならば、その大人こそが――理想を語るべきだ。
語り続けたその先に、望んだ幸福な世界があると信じて。
「そんな事――出来るとでも?」
「その為に
先生と、ナギサは口を一文字に結ぶ。
それ以上の問答は、不毛であった。
先生はナギサの在り方を受け入れられず、ナギサは先生の在り方を認められない。これ以上話し合っても、その決着は永遠に付く事はないだろう。
ナギサは疑う事を説き、先生は信じる事を説いた。
それが、二人の決定的な分水嶺だった。
「……そう、ですか」
ぽつりと、ナギサは呟いた。
その声は低く、感情が抜け落ちた様に感じられた。両手を膝の上に落としたまま、拳を握り締めるナギサは、数度深呼吸を行い、言葉を続ける。
「……えぇ、理解しました、理解しましたとも――つまりは、お話がシンプルになったという事です」
「……そういう事かな」
此処に――
ナギサはティーパーティーとしてシャーレに協力を要請し、先生はそれを
そこに、善悪はない。
ただ、思想の違いがあるだけだ。
二人の視線が、再び交わる。
「――どうあっても、その在り方を曲げられないのですね、
「――あぁ、これだけは譲れない」
――これは、
長い、沈黙があった。二人の視線は微動だにせず、相手のみを捉える。穏やかな昼下がりとは思えぬ程に冷え切った空気。しかし、其処に険悪なものはない。ただ、互いを理解しながらも受け入れられないと、見定める未来への道筋の違いだけが存在していた。
「……承知しました、どうか頑張って下さい、先生」
ナギサは、頭を下げて視線を切る。
その瞳を、そっと陰に隠して。
「私は、私なりに頑張りますので」
「うん――ありがとう」
告げ、先生は席を立つ。
紅茶、御馳走様。その言葉がナギサの耳を打ち、先生はテラスを後にしようとした。ドアノブに手を掛け、捻る。
「――先生」
その背中に、ナギサの声が届いた。振り向き、ナギサに視線を向ける先生。彼女はチェス盤をじっと見下ろしたまま、淡々と――けれど、どこか残念そうな声色で告げた。
「――
「……あぁ」
頷き、先生の姿は扉の向こう側へと消え――両開きの白が、先生とナギサを分け隔てる。その背中を見送り、ナギサは小さく呟いた。
「とても――とても、残念です、先生」
その指先が、チェス盤の縁をなぞる。
「あなたとは、可能ならば敵対などしたくなかった……けれど、物事には優先順位があり、個人的な友好や信頼を優先してはティーパーティーとしての資格を失います、私は、あくまでトリニティの長、このティーパーティーのホスト、そこに、理想が入り込む余地はありません」
理想は、尊いものだ。それを語り、聞かせるのが先生の役目――成程、そういう側面がある事は同意しよう。
しかし、生徒が挫折し、諦める事は考えていないのか? 理想を追い求める余り、現実が見えていない事態を引き起こす可能性だってあるのに。理想の果てに、全てを喪う未来だって――。
理想と現実、その狭間は酷く薄い、硝子一枚で隔てられている。生徒がその世界を知った時、現実の厳しさに膝を突いた時、立ち上がれるよう、打ちのめされない様――その在り方を教えるのも、先生の役目ではないのか。
先生はきっと、才能に溢れた人物なのだろう。あの連邦生徒会長に招致された程の人物だ。現実のままならない様を知りながら、それでも己の才格と人望、熱意で此処までやって来たに違いない。
――先生はきっと、
「あなたの口にする言葉は、余りも綺麗過ぎる――」
生徒を疑わず、信頼する。
誰かの犠牲を厭う、全てを救おうとする。
先生がそう在れば、生徒もそう在ってくれると信じている。
何て――遠い夢物語。
生徒皆が幸せで、笑い合える世界。
認めよう、それが理想だ、そう在る事が出来ればどれ程よかった事か。
けれど、そうはならない。
ナギサという少女は――全知全能には、なれない。
ナギサの視線が、盤上のキングを捉えた。
「……大切な友人ひとりと、学園ひとつ」
その細い指先が、キングの駒を撫でつける。ナギサは暫くの間、沈黙を守った。そして、そっと指を折り畳み、云う。
「――もう、私は選んだ後なのですよ、先生」
――その指先が、静かに
生徒が失敗したときの責任を全部被るつもりで理想を語る先生は人間の鑑。でも敵対する生徒でも平気で庇って死ぬから人間の屑。
今日は投稿日ではありませんが、三日に一度で一万五千字より、二日に一度で一万字の方がバランス良いかなぁって思いまして。毎日投稿は私が死ぬのでやりません。(アビドス編前半)
以降は二日に一回、駄目そうだったら三日に一回投稿します。
三章でプロットに罅が入るかと思いましたが、そんな事ありませんでしたわ。
ヒヤリとしたのはデカルコマニーが不死身という点ですわね。ゴルコンダが不死身だったら、私のプロット、具体的に云うとキヴォトス動乱関連が破滅しておりました。もうアビドス編で散々伏線張りまくった後なので、「実は違いました~ピースピース!」なんて出来ませんの。マジでお願いしますわよネクソンゲームズさん。
それはそれとして、私が最終編でやろうとしていた事、先にやられそうな気配をビンビンに感じてヤッベーイですわ。先生vs闇落ち先生とか最高にエモモモモではありません事? 色彩の嚮導者の台詞「” ”」が付いていましたし。
”このマークが付くのは先生の選択肢だけなんですわよね”
しかも「色彩の嚮導者」ですわよ。「色彩の」、嚮導者。
仮に色彩がクロコを指しているのなら、全ての生徒の先生だった彼、もしくは彼女は文字通りクロコだけの導き人になったという訳です。まぁ、「色彩の」がどちらに掛かっているかによるのですが。
弾痕つきのタブレットも持っていましたし、という事はプロローグで見えた、此方に銃を突き付けているクロコ、彼女が銃を向けていた相手は色彩の嚮導者だったという訳ですわよね~……。
絶対バッドエンドの先生じゃん、キヴォトス救えなかった世界線の先生じゃん。
クロコの「私が色彩を使っている」発言から、最悪先生死体の可能性もありますよね。指紋認証なら死体でも問題ないし。そもそも、あの場所はあらゆる事象が確定していない、あらゆる次元が交わる場所的な説明ありましたし、あぁいう存在自体が確定せず、あやふやな場所なら「先生は死んでいる」状態でもあり、「先生は生きている」状態でもあり……って感じで、活動出来るんですかね? アロナも出現していたし。次元を確定させないという場所でのみ、実体化可能なのか。というかシロコの銃弾って、あの傘で防いでいたのアロナ? もしそうなら凄い強度だねそれ……。ミサイルも防げるし。
兎にも角にも、私のプロットがバイバイキーンするかどうかは、色彩はクロコでなければならないのか? という一点に尽きますわね~。存在理由とか、彼女のモチーフに関わる事象なので、かなり必然性は高そうですが……でも単純にキヴォトス沈めるだけなら彼女でなくとも良い訳ですし。間接的に沈められるのなら色彩も、「ままえやろ」的な感じで妥協してくれたりとか、なさらない? あんまりミラーマッチとかさせたくないんですけれど、わたくし……。
クロコの前で色彩の嚮導者を撃ち殺して~! って思いましたけれど、良く考えたら既にクロコがそれやっているっぽいんですわよね。死体に鞭を打っても、銃を撃っても同じってか、ガハハ! うん? でもそう考えると態々アロナが防ぐ必要もないのか? じゃあ先生まだご存命? まぁ先生じゃない可能性もありますけれど……。
四章~ッ! 早く来てくれぇ~ッ! (プロットが)どうなっても知らんぞ~ッ!?
あと宇宙戦艦飛ばす時に寿命削っている感があって良かったです(小並感)
最終戦でも大人のカード大盤振る舞いだったし、オーパーツの稼働分含めて先生の体はボドボドだ! ってなりそうですわねぇ。うぅ、あんな包帯だらけの細い腕になっちゃって……。
最初クロコとシロコが別に存在しているって分かった時、じゃあシロコ誘拐した意味なくね? って思ったけれど複製の可能性もあるんですよね。ゲマトリアの技術奪ったし。黒服は「過去に戻ってシロコを殺害するべきだった」って云っていますけれど、もしそれを実行して、出来なかった結果がアレならば色彩の嚮導者、ボロボロの恰好のままシロコに手を伸ばしてそのまま絶命しそう。
仮面外れた時に先生と同じ顔、同じ笑みを浮べたまま、嬉しそうに手を伸ばした先生を見たシロコは何を想うのだろうか。先生とは違う存在の筈なのに、確かにその残滓を感じ取った後なら、絶対に無感動ではいられない筈でしてよ。
或いは先生の代償を肩代わりして消滅する? まぁ綺麗な退場の仕方ではありますわよねぇ……。ただ昔から色彩が認識されていたのなら、他次元のキヴォトスか、それに類する世界を幾つか滅ぼしている可能性だってある訳ですし、その状態で先生に自意識が残っているかと云うと……うーん。神秘と恐怖は表裏一体、神秘が裏返ると恐怖になるという話ですが、神秘を持たない先生が反転すると何になるのでしょうか? 或いは、キヴォトスに於ける大人の概念と同じように、神秘とは
まぁ、どうしようもなくなったら「うるせ~~~!! 知らね~~~!!! FINAL FANTASY」で乗り切りますわ~~!
私の