ブルーアーカイブを、もう一度。   作:トクサン

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誤字脱字報告は、決して負けないヒーローなんだ……っ!


信じた明日は、遥か遠く

 

 ――補習授業部、美食研究会との合流から、凡そ二時間後。

 

 ■

 

「うわあああぁぁッ!?」

 

 後方で炸裂した爆発に、ヒフミは思わず悲鳴を上げた。ヘルメットを被り、必死にハンドルを握る彼女はスクーターに乗っており、後ろには同じヘルメットを着用したコハルが愛銃を片手に叫んでいる。その声は、爆炎と炸裂音に遮られ、耳に届かない。

 

「何ですか、何なんですか!? 一体どうしてこんな事にッ!?」

「ひ、ヒフミ、揺らさないでっ! 照準が合わないからッ!」

「わ、私が揺らしているんじゃありません! 地面がさっきから、爆発の振動で……ッ! うわぁっ!?」

 

 云っている傍から、再び至近距離で爆発。続々と撃ち込まれるそれに巻き込まれない様、ヒフミは必死で加速する。前を走る給食部の車両、その後部座席から顔を覗かせる美食研究会の面々から歓声が上がった。

 

「トリニティのあなた、バイクの運転上手だね!」

「良いじゃん良いじゃん、頑張れーっ!」

「い、一杯一杯なんですけれどぉ!?」

 

 イズミとジュンコのそんな声に、ヒフミは泣き言を零す。彼女達の声は呑気なものだった。しかし、状況は決して優しくない。現在補習授業部兼美食研究会は爆撃の雨に晒されており、背後には追跡する車両が見え隠れしていた。どうしてこうなった? 何でこうなった? ヒフミは胸内で繰り返し自問自答するも、明確な回答は得られない。

 そんな中でもハルナは優雅に帽子を押さえ、淡々とした口調で告げる。

 

「アカリさん、八秒後にまた爆撃が来ますわ」

「はい、問題ありません☆」

 

 応え、アカリはハンドルを切る。二人の視界の中には、降り注ぐ爆撃の予測弾道が確りと見えていた。先生の支援によるものだ、爆撃予測地点を縫うように走り、場合によっては着弾前に突っ切る。そんな命綱なしの綱渡り行為を、補習授業部と美食研究会は成している。

 

「は、は、ハルナぁっ! もう車は良いから降ろしてぇーッ!?」

「ふ、フウカ、危ないから立たないでっ!?」

「あら――フウカさんもこうして応援してくれていますし、もう少し派手にやるとしましょうか、アカリさん?」

「えぇ! 声援を力に☆ そして速度に♪」

「いやぁぁああっ! 先生ぇ~~ッ!?」

「フウカ、気を、気を確り持つんだ! 落ち着いて、大丈夫、私は此処に居るよ……!」

 

 余りの事に気が動転し、引っ付いたまま泣き喚くフウカを先生は抱きしめる。因みに、現在ヒフミとコハルが乗車している車両も給食部のものである。

 道中風紀委員会と交戦する温泉開発部の横を突っ切り捕捉され、銃撃戦に発展。先生が弁明、言い逃れの為に声を上げようとするものの、その悉くを銃声やら爆発で遮られ現在に至る。

 この状態で爆発四散すれば、生徒は兎も角先生は無事に済まないだろう。風紀委員会の為にも、補習授業部の為にも、先生は何が何でも負傷する訳にはいかなかった。只でさえアビドスの一件で大変な事になっていると云うのに――恐らく温泉開発部が総出で出撃しているのだろう、エデン条約での諸々もある、ヒナやアコの多忙が目に見える様だった。

 

「――ッ! 爆撃が来る! ヒフミッ!」

「み、見えていますッ!」

 

 先生がタブレットを見下ろし叫べば、ヒフミは初めてバイクに乗ったとは思えない程の切り返しを見せ、爆撃を回避する。爆炎を裂き、甲高いスリップ音を響かせながら走行する彼女。後ろに乗っているコハルはヒフミの腰に抱き着きながら、片腕で愛銃を握り締める。

 

「けほッ! な、何か後ろにショベルカーとブルドーザーまで見えるんだけれど!? 何であんなのが!?」

「げ、ゲヘナ温泉開発部ですよ、それっ!?」

「何でこっち追って来るのよ!?」

「私が知りたいですぅううッ!?」

「って、やば、風紀委員会も来た!?」

 

 背後から続々と迫る車両。何故か高速で爆走するショベルカーとブルドーザー、更に風紀委員会のカラーリングを施した軽装甲車まで。コハルが咄嗟に愛銃を構え射撃を行うも、不安定な体勢に加え鳴り響く爆音、振動で狙いが定まらない。数発装甲に弾かれ、効力射が見込めないと判断したコハルはヒフミの背中を叩き、叫んだ。

 

「ひ、ヒフミ! あの変な鳥の奴使うわよ!?」

「え、あ、ぺ、ペロロ様人形ですか!?」

「良く分かんないけれど、それ!」

「あうぅ……せ、折角手に入れたグッズですが、し、仕方ありません、背に腹は代えられないですよね……ッ!」

 

 そう云ってコハルはヒフミのペロロバッグに手を突っ込む。筆記用具や弾倉、ペットボトル、そう云ったものを手で避けながら奥底から引っ張り出したのは――平べったい、フリスビーにも似た代物。ヒフミが常日頃、バッグの底に仕舞っていた奥の手であった。

 

「……あった! 行くわよ、ヒフミ!」

「は、はい! ――助けて、ペロロ様!」

 

 ヒフミの叫びと共に、コハルは側面のスイッチを押し込み、投擲する。フリスビーに似たそれはふわりと空中で一瞬停滞し、それから音もなく地面に着地した。そして、軽快な音と共に内部から光が差し込み――。

 

「おいッ! 待て、止まれ貴様らッ! とま――」

 

 走行していた風紀委員会の目の前に、突然等身大ペロロ様人形が出現した。

 

「はっ!? え、なッ、あぶなっ――!?」

 

 宛ら幽鬼の如く出現したソレに、運転を担当していた風紀委員はハンドルを大きく切る。瞬間、後続車両がその側面に激突し、盛大な破砕音が鳴り響いた。そこからショベルカーやブルドーザーが続々と突っ込み、玉突き事故の如き様相を呈してしまう。凄まじい衝突音と挟異音が響き、その中に生徒と思わしき悲鳴が次々と木霊した。

 

「や、やったわッ! 一網打尽よ!」

「あうぅ、ご、ごめんなさいペロロ様……! でも、ありがとうございます……!」

 

 その様子を見ていたコハルはガッツポーズを見せ、ヒフミは手放してしまったペロロ様人形(ホログラム投影装置)に涙を呑む。横転し、火まで噴き出した車両の前で軽快に踊るペロロの姿は、その表情も相まって宛らサイコパスであった。

 

「わっ! 凄いね、あの人形! 風紀委員会の車両をやっつけちゃったよ!?」

「何か気持ち悪い人形だけれど、デコイとしては凄い優秀じゃない……!」

「これがペロロ様のご加護か……ほらフウカ、ちーんして、ちーん」

「――ぢーんッ!」

 

 ペロロデコイはジュンコとイズミからの評価も上々。先生はペロロ様の加護に内心で感謝しながら、そっとポケットから取り出したティッシュでフウカの鼻水を拭った。

 辛いよね、大変だよね、良く分かるよ、もうちょっとだからね、頑張ろうね。先生が囁きながら頭を撫でつければ、フウカは先生に引っ付いたまま無言で嗚咽を零す。帰ったら、本当に、マジで何でも買ってあげよう、フウカの喜ぶものを沢山。もう、ユウカに怒られたって構わない、それだけの心労を彼女は抱えているのだ。ほろりと、先生はフウカの苦労を想い、一粒の涙を流した。

 

「ふふっ、順調順調……これなら予定時刻までに辿り着けそうですわね」

「楽勝です☆」

 

 そんな彼女の心労を欠片も気に留めず、ハルナとアカリは超高速ドライブを満喫している。心なしか爆撃の頻度も落ち、衝突事故の影響か追手の姿もない。

 ふと、ヒフミはポケットに入れていた端末が震えている事に気付いた。片手でハンドルを握ったまま端末を取り出した彼女は、通話ボタンをタップする。すると、そこからアズサの声が聞こえて来た。

 

『――こちらチームブラボー、チームアルファ、応答せよ』

「え、あ、アズサちゃんですか!?」

『名前を云われると隠語を使った意味が無いんだが……それはそれとして、こっちの陽動は完了した、今から予定ポイントに向かう』

「あ、わ、分かりました……! ふたりとも無事なんですね!?」

『うん、前方に火炎放射器を持った温泉開発部、後方にはやたらと強いツインテールの風紀委員が居るけれど、多分大丈夫』

「え!? そ、それ、本当に大丈夫なんですか!?」

『先生のサポートもあるし、逃げるだけなら何とかなる筈、ハナコと私は徒歩でポイントに向かうから、後で落ち合おう、幸運を祈る』

「え、あ、ちょ!?」

 

 ヒフミが何かを云うよりも早く、アズサからの電話は切れてしまう。アズサとハナコはヒフミたちがこのスクーターを確保する際、陽動係として別行動を行っていた。今でも追跡されている補習授業部兼美食研究会(それとフウカ)だが、主力と思わしき部隊は全てアズサやハナコの方へと集中しているのだ。

 ヒフミは真っ黒になった端末の画面を凝視しながら、思わず震える。

 

「わ、私達はあくまで、試験を受けに来ただけなのに……な、なんで、なんでこんな……」

「――っ、ひ、ヒフミ! 次、次が来た!」

 

 しかし、現実は泣き言を許してくれない。端末片手に涙を浮かべるヒフミの肩を、コハルが何度も叩いて叫ぶ。背後を見れば、彼方此方傷だらけの状態で走行する風紀委員会の装甲車と、温泉開発部のモノと見られる運搬車が高速で迫っていた。ヒフミはポケットに端末を戻し、弱音を呑み込んで思い切りアクセルを捻る。風がヒフミとコハルの肌を強く撫でつけた。

 

「あら」

「ふふっ、相変わらず執念深いですねぇ――こうなったら、徹底抗戦と参りましょう……アカリさん、進路そのままで」

「了解です☆」

 

 ハルナはそう云って助手席から立ち上がり、愛銃のアイディールを構える。それを見たイズミやジュンコも銃を取り出し、どこか好戦的な笑みを浮かべた。

 

「あれ、もしかして私の出番!?」

「いい加減追いかけ回されるのもムカムカして来た所だし、全部ぶっ壊すのも悪くない考えかもね!」

「えぇ、お相手致しましょう、突き抜ける優雅さで――!」

 

 告げ、聞き慣れた銃声が夜空に鳴り響く。

 美食研究会とのドライブは、未だ終わりが見えなかった。

 

 ■

 

「――あうぅ……つ、着きましたぁ……!」

「うぅ、ひ、酷い目に遭った……」

「……皆、びしょ濡れだね」

 

 高速道路での死闘から、さらに数十分後。

 先生、ヒフミ、コハルの三名は無事と云って良いかは定かではないものの、目的地へと到着する事に成功した。服はずぶ濡れで、所々が爆炎で煤けている。しかし怪我らしい怪我もないし、弾薬は使ったがバッグなどの所持品も無事。

 

「し、試験会場は、ここ……?」

「み、みたいです、ね……」

 

 呟き、顔を上げた先には錆び、罅割れ、ボロボロになった廃屋が一件。周囲も似たような建物が立ち並び、落書きと廃材、塵が散乱している。他の建物と見分けが付かず、試験会場かどうか怪しい所ではあるが――少なくとも、この近辺である事は確かだった。

 ヒフミは水に濡れた前髪を払いながら、先生の方へと視線を向ける。

 

「せ、先生、お怪我はありませんか……?」

「うん、大丈夫、寧ろフウカと美食研究会の皆が心配かな……」

「……給食部の車が川にダイブした時は、もう終わりかと思った」

 

 ――あの後、執拗な風紀委員会の追撃と、何故か分からない温泉開発部の特攻に追い詰められた補習授業部兼美食研究会は、最終的に風紀委員会の爆撃で視界を塞がれた後、横合いから突撃してきた温泉開発部のショベルカーに激突し、宙を舞った。落ちた先が偶然川であったのは本当に助かった。正直、先生は半分死を覚悟した程だ。

 

「ハルナさん、親指を立てながら沈んでいきましたが……」

「逃げる時、アカリって呼ばれていた人がハルナとフウカって人担いで逃げるの見えたから、多分大丈夫だと思う……」

「……流石アカリだ」

 

 正義実現委員会のツルギとタイマンを行って尚、ピンピンしているタフネスは見習いたい、切実に。

 イズミとジュンコは泣き叫びながらアカリの後を追って逃げており、美食研究会はフウカを含めて無事である。ただしフウカのメンタルは考慮しないものとする。

 

「って、そうだ、アズサとハナコは!?」

「まだ到着していない様ですけれど……」

 

 コハルがそう云って周囲を見渡せば、誰かの足音が背後から耳に届いた。咄嗟にコハルが銃を構え、ヒフミが身を強張らせながら先生の前に立てば――。

 

「――ふふっ、お待たせしました♡」

 

 暗がりから、水着姿のハナコが顔を覗かせた。その、予想だにしなかった衣装にヒフミとコハルは声を喪い、更にその奥からガスマスクを装着したアズサが駆けて来る。周囲を見渡し、敵の影が見えない事を確認したアズサは、「シュコー」と音を立てながら一つ頷いた。

 

「うん、二時四十五分……何とか試験開始前に着いたか、流石に疲れた」

「そうですねぇ、まさかこんな真夜中に大勢で鬼ごっこだなんて……体が火照ってしまいました♡」

「えっと……」

「そ、そっちは何があったのよ……」

 

 何でガスマスクしているのとか、何で水着姿なのとか、色々云いたいし聞きたい事が沢山あった。そんなヒフミとコハルの疑問を感じ取ったのか、ハナコは嬉々とした表情で口を開く。

 

「あら、聞きたいですか? それはですね――」

「や、やっぱり良い、聞かないっ!」

 

 何やらピンクのオーラを感じ取ったコハルは、咄嗟に身を引き叫ぶ。どうせ碌な理由ではない筈だ、そうに違いない。そんなハナコに対する絶対的な信頼をコハルは持ち合わせていた。

 

「それより、試験会場は此処で合っているのか?」

「ゲヘナ自治区第十五エリア七十七番街、廃墟一階――うん、座標は此処で合っているね……あとハナコは服を着てね、風邪ひいて欲しくないから」

「あら……」

 

 アズサの問いかけに先生は頷き、ついでにハナコに着衣を促す。時刻は既に深夜二時、夏とは云え夜は冷える。暖の取れないこんな廃墟街で水着一枚というのは流石に寒々しい。

 

「開放的な気分で試験を受ける機会だと思ったのですが、残念です」

「……一応、受験規定に制服の指定があるから」

「あら? ですが先生、全裸で受験すればカンニングシートなどは絶対に持ち込めない訳ですし、それはそれで合理的な――」

「ぜ、ぜ、全裸で試験!? え、エッチなのは駄目ッ! 何考えているの!?」

 

 全く以てその通りだと思います。先生は顔を真っ赤にして叫ぶコハルに深く同意した。試験が試験(意味深)になってしまう、それは大変よろしくない。それに目のやり場に困る。なのでちゃんと着替えて下さい。

 先生がそう云うとハナコは大変残念そうに水着の上に制服を着込んだ。もしかしていつも水着の上に制服を着ているのだろうか。ふと、そんな事を考える。

 

「中は……ほ、本当に廃墟って感じですね?」

「でも、一応机はある」

 

 そうこうしている間にもアズサやヒフミは廃墟の中に踏み込み、内装を検めていた。内部は老朽化で所々剥げており、埃も目立っている。元々塾か講習会として使う用の建物だったのか、机や教卓、ホワイトボードと云ったものは一通り揃っているが、試験を行う場所として適切とは言い難い状態であった。コハルと着替え終わったハナコも二人の後に続き、恐る恐る薄暗い部屋の中に足を踏み入れる。

 

「うぅ、暗くて良く見えないんだけれど……」

「これ、電気も通っていませんね? あら、でも机にライトスタンドが――」

「これで手元を照らせって事でしょうか……あ、試験用紙とかはどうなるんでしょうか? 誰か、先生以外の監督の方が……?」

「いや、人の気配はないが」

 

 ヒフミが周囲に目を配るも、それらしい人影も気配もない。そんな彼女達を尻目に、先生は教卓の裏に屈み込んだ。

 

「確か、此処に――」

 

 シッテムの箱をライト代わりに教卓の中を照らせば、そこには几帳面に立てられた、人が抱えられる大きさの榴弾が設置されていた。教卓をずらし榴弾を皆の前に晒せば、全員の視線がそれに注がれる。

 

「むっ、先生それは――」

「えっと、不発弾……ですか?」

 

 どこか驚いたような表情で問いかけるヒフミ。アズサは駆け寄ると、先生のライトに照らされたそれを見つめ呟いた。

 

「……L118、牽引式榴弾砲の弾頭か?」

「うん、そうみたいだね」

「L118――という事は、ティーパーティー……つまりナギサさんからのメッセージの可能性が高いですね」

 

 ハナコの言葉に頷き、先生が榴弾へと手を伸ばそうとすれば、寸前でアズサが手を翳し制止を口にする。

 

「――先生、トラップがあったらいけない、私が開ける、念の為離れていて」

「……分かった、頼むよ」

 

 アズサの言葉に先生は従い、万が一に備え部屋の外へと退避する。爆発を警戒しヒフミとコハルも距離を取り、ハナコ含めた三名が先生の壁になる形で前に立った。アズサは全員が十分に距離を取った事を確かめ、そっと榴弾に手を掛ける。

 

「――……うん、大丈夫そう、炸薬も雷管も抜かれている、弾殻だけの張りぼてだ」

「そ、そうですか……良かった」

「となると、完全にメッセージボックスの役割、という事でしょうか」

 

 安全を確認した声に、扉越しに中を覗いていた補習授業部はアズサの周りに駆け寄りる。その中を覗き込むと、空洞となった榴弾の中には幾つかの紙がテープで括られ収まっていた。

 

「あ、中に紙が……これが試験用紙という事ですね!」

「その様だが……むっ、こっちは通信機か?」

 

 アズサは紙束をライトで照らしつつ、奥底に何か端末が入っている事に気付いた。榴弾を引っ繰り返し、中身を全て取り出す為に軽く振る。すると用紙と、四角い端末らしきものが床の上に転がった。アズサは転がった端末を隅々まで観察した後、危険はないと判断し電源を入れる。すると、端末は立体映像を補習授業部の前に投影した。

 薄暗い部屋の中で、そのホログラムは良く目立った。

 

『――これを見ているという事は、無事に到着されたようですね』

「な、ナギサ様!?」

「………」

「え、じゃあこの方が、ティーパーティーの……?」

 

 投影されたホログラムはナギサの姿を象り、虚空に向けて口を開く。時折ノイズが走るものの、ティーテーブルに腰掛け優雅に紅茶を嗜むナギサを鮮明に映し出したそれを、補習授業部の面々は様々な感情を孕んだ視線で見つめていた。

 

『ふふっ……恨み辛みの声が聞こえてきそうですね――まぁこれは録画映像なので、リアルタイムでの意思疎通は不可能です、今の私に何を訴えても無意味ですよ?』

 

 そう云って、朗らかに微笑むナギサ。風紀委員会や温泉開発部に追いかけ回され、彼方此方傷やら汚れやらを身に纏う補習授業部と、優雅にティータイムと洒落込んでいるナギサの姿は正に対照的だった。彼女は真っ直ぐ前を見据えたまま一つ息を吐き出し、目前に立っているであろう補習授業部に向け告げる。

 

『――一先ず試験会場に辿り着けた事は認めましょう、しかしあなた方にとってはこれからが本番です、第二次特別学力試験は……今より始まるのですから』

「っ……!」

『約束の時間までに試験を終えて戻って来て下さいね? 一応引き続きモニタリングはさせて頂いておりますので、その事をお忘れなく……幸運を祈ります、補習授業部の皆さん』

 

 ティーカップをソーサーに戻したナギサは、どこか薄ら笑いを浮かべ――告げる。

 

『――どうかお気を付けて』

 

 最後に、彼女は妙に力強い言葉を残し、ホログラムを消失させた。先程まで存在していたナギサのホログラム、その場所を見つめながら補習授業部は険しい表情を浮かべる。

 

「うぅ……」

「何だか、含みのある云い方でしたね――」

「気にならないと云えば嘘になるけれど……兎に角今は時間がない、早く席につこう」

「そ、そうですね……すぐ、第二次特別学力試験の筈ですから……!」

 

 ナギサの言動に疑問と不安を抱いた補習授業部だが、兎にも角にも今は時間がない。時計を見れば既に、第二次特別学力試験は五分後に迫っていた。各々席を決めライトを点灯させた事を確かめると、先生は教卓に立つ。テープで括られていた用紙を広げ、枚数や内容に問題が無い事をさっと確かめる。

 

「問題用紙は……こっちか――良し、皆、筆記用具だけを出して」

 

 告げ、先生は解答用紙と問題用紙を配って歩く。全員の体調、精神状態はお世辞にも万全とは言い難い――それでも、その瞳に諦めの感情は見えなかった。

 出題範囲が三倍、合格点は九十点、正直かなり厳しい条件である。それに加え、直前まで戦闘とマラソンをこなし、身体的にも精神的にも疲弊している。これで合格出来れば奇跡だ――本音を吐露すれば、ヒフミはそう考えている。

 でも、諦めたくない。脳裏に、合宿で過ごした一週間が過った。

 

 先生は教卓の上に置いたシッテムの箱を覗き込み、時計を確認する。

 試験開始――一分前。

 最前列のヒフミが緊張に体を強張らせ、息を呑む。コハルが小さく体を震わせ、歯を食いしばっていた。ハナコとアズサは平然としている様に見えるが、やはりどこか表情が硬い。

 先生はそんな彼女達を見渡し、強く、断言する。

 

「――大丈夫、皆なら乗り越えられると、私はそう信じているから」

「っ……は、はいっ!」

「――えぇ♡」

「――うん」

「とっ……当然っ!」

 

 先生の一言に、補習授業部全員が声を返す。僅かに、ほんの僅かだが――補習授業部全員の強張りが抜けたような気がした。

 

 目の前に聳え立つ壁は高く、困難で、理不尽だ。けれどアズサが云った様に、嘆く事は後でも出来る。兎に角今は、全力で、今まで学んだことを、努力して来た全てをぶつけるのだ。

 この一時間に、全部――!

 

 補習授業部、皆の手がペンを握り締める。

 時計の針が、十二を指した。

 先生が片手を挙げた。

 

「よし、それじゃあ第二次特別学力試験――開始!」

 

 全員の手が、一斉に問題用紙を裏返した。

 

 ■

 

「で、此処が例の場所?」

「うん、住所的には合っているかな、此処から向こうまで全部」

 

 廃墟街――外周。

 幾つものトラックが並び、廃墟街を見渡す生徒、温泉開発部の部員たち。彼女達は端末を片手にじっくりと周囲を観察し、徐にアスファルトを脚で踏み鳴らしたり、確かめる様な素振りを見せる。彼女達の端末には、つい数時間前に匿名で齎された『温泉開発情報』が表示されていた。

 

「へへっ、どこからの情報かは知らないけれど、親切に温泉がありそうな場所を教えてくれるなんて、有難いこった!」

 

 そう云って、早速とばかりに爆薬設置に取り掛かる部員達。何台ものトラックに積み込まれた爆薬を片手に走り回り、建物、地面問わず設置して回る。この情報が誰からのものなのかとか、どれくらい信憑性のある話なのかとか、そんな事はどうでも良い。一%、或いはそれ未満でも構わない。僅かな可能性が存在するのならば、温泉開発部は嬉々として地面を掘り、爆破し、温泉を探し求める。

 例えそこがゲヘナの市街地、そのど真ん中だろうが、或いは犬猿の仲のトリニティ自治区であろうが、はたまた全く関係ない第三者の自治区だろうが関係ない。

 何故なら、其処に温泉があるかもしれないから――!

 温泉! 温泉は全てに於いて優先されるのだ!

 

「――あ、そうだ! どうせなら持ってきた爆薬全部使って発破しないか? 廃墟だし、どうせ旅館を建てるなら風情が無いと駄目だろう? ド派手に火花が散る中で湧き上がる温泉とか……最高じゃん!?」

「何だそれ天才か!? 採用!」

「有りっ丈詰めろ! 持ってきた火薬全部! 火力マシマシだ~ッ!」

 

 布で口元を覆ったとある部員の提案により、持ち込んだ爆薬全てを使い切る方針へと舵を取る温泉開発部。彼女達にとって火力とは浪漫である。盛れば盛る程、炎が噴き出れば噴き出る程よろしい。火薬量は倍の倍、更に倍、ついでに追加でやって来たトラックの火薬まで使い切り、廃墟街は爆薬に埋め尽くされた。最早これは発破ではない――爆撃である。

 しかし、温泉開発部の面々は酷く満足げだ。この量の火薬が爆発し、建物は崩れ、撤去され、その只中に温泉が凄まじい勢いで吹き上がる――そんな景色を夢想し、やる気はうなぎ登り。

 

「よぉし、発破準備完了!」

「退避しろ~! 巻き込まれたら黒焦げになるぞ~っ!」

「しゃあ! 開発だ~~~ッ!」

 

 廃墟街から温泉開発部の部員たちは退避し、その世紀の瞬間を目撃するべく、外周の物陰から様子を伺う。

 瞳を輝かせ、発破器を持った部員は腕を着きあげると、元気良くスイッチに指差を添え、叫んだ。

 

「――発破ッ!」

 

 そして次の瞬間、補習授業部の居る建物は――廃墟街諸共、吹き飛んだのである。

 

 ■

 

 第二次特別学力試験、結果

 

 ハナコ―試験用紙紛失 不合格

 アズサ―試験用紙紛失 不合格

 コハル―試験用紙紛失 不合格

 ヒフミ―試験用紙紛失 不合格

 

 補習授業部、第二次特別学力試験――全員不合格

 


 

 しゃあッ! 先生爆破ですわッ! 百二十七日と一時間三十四分十六秒ぶりの先生の巻き込まれフィーバータイムッ……! これですっ、これを待っていたんですの私は……ッ! このまま瓦礫に圧し潰されてヒフミに腕だけ引っこ抜かれて無様に人生不合格になってくれ先生ッ! 駄目ですわ! こんな所で死ぬなんてッ! い゛の゛ち゛か゛も゛っ゛た゛い゛な゛い゛!!! こんな所であなたが死んだら生徒達はどうなるんですの!? 今まで積み重ねた絆は!? ミカは!? 補習授業部は!? アリウスは!? 対策委員会は!? まだ死んではいけませんわ先生! もっと生徒達を救って、笑顔にして、信頼を勝ち取って、皆が笑って幸せそうにしている目の前で死んであげないと可哀そうでしょうがッ!? 

 まぁでもそれはそれとして血を流して朦朧とする先生に縋りつく生徒はとても可愛いと思いますので、別腹で許可を出しますわ。よろしくってよ~~~! ちょっと位傷増やしても……バレへんか!

 

 最終章の四章が三月八日に実装だそうですね、つまり三話後にプロットが爆散するかどうか決まるという事です。一ヶ月前に爆発したばっかなんだけれどなぁ~! 楽しみと恐怖で頭おかしなるでほんま、でもそんなブルアカが好きなの、そーなの……。三話後の後書きで私が狂って先生の手足捥ぎたいとか云い出したらプロットが死んだんだと思って下さいですわ。

 

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