ブルーアーカイブを、もう一度。   作:トクサン

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誤字脱字報告ありがとうございます。
今回一万七千字です、ごめんあそばせ。
後、次話は明々後日くらいになると思います。


捻じれて歪んだ、この先に。

 

 第二次特別学力試験を終え、二日後の夜。

 その日、授業と自習を終え寝床に入った補習授業部。皆が寝息を立て夢の世界に旅立っている中、ふと起き上がる人影があった。

 彼女は音もなく自身のベッドから抜け出すと、予め用意していた制服と愛銃を掴み、部屋の扉へと足を進めた。時刻は既に一時を回っており、少し肌寒い。

 彼女――アズサはベッドで寝入る仲間達の顔を数秒程眺めた後、そっとドアノブを捻り廊下へと姿を消した。

 

「………」

 

 その行動を予測していたハナコは、寝たフリを止め目を開く。遅れて起き上がると、既にアズサのベッドは蛻の殻であり、彼女の姿はどこにもない。暫く周囲の音に耳を傾けていたハナコは、アズサと同じようにベッドを抜け出し、制服とポーチを掴む。未だ寝入るコハルとヒフミに、どこか憂う様な視線を向けた後――彼女もまた薄暗い廊下へと足を進めた。

 

 ■

 

 トリニティ中央区――商店街。

 石畳が綺麗に整えられ、街灯に照らされた夜の商店街。此処に来るのは補習授業部と夜の騒動に巻き込まれて以来だった。

 相変わらず人の姿はまばらだが、開いている店も少なくない。それらの灯に照らされながら、ハナコは足を進める。あの頃と比べれば、状況も随分と変わってしまった。ただ、成績不振から補習授業を受けるだけであった部活動は、今やトリニティ全体に影響する一大事に巻き込まれてしまった。空を見上げると、光の中でも輝きを失わない星々が見える。どれだけ自分達を取り巻く環境が変わっても、この空だけは変わらない。それが少しだけ羨ましく思える。永遠なんてものは存在しない、けれど――。

 端末を片手に暫くそうやって歩いていると、ポツンと立った街灯の下で待っている一人の少女の姿を視界に捉えた。

 桃色の髪に、頭頂部には大きく跳ねたひと房の髪、少しダボついたコートを着込んだ彼女はハナコと同じように端末を見下ろしている。ハナコが小走りになってその少女に駆け寄ると、音で気付いたのか顔を上げた少女――その空と黄金がハナコを見つめた。

 

「ごめんなさい、お待たせしました」

「――いんや、おじさんも今さっき来たばっかりだから」

 

 そう云って彼女――ホシノは端末をポケットに仕舞いこむ。ハナコはホシノの前に足を進めると、近場のカフェを指差し、云った。

 

「……取り敢えず、お茶でも飲みながら話しませんか?」

 

 ■

 

「うへ、何かすっごくお洒落なカフェ……おじさん、これ場違いじゃない~?」

「ふふっ、そんな事はありませんよ♡」

 

 商店街の外れにある、小さなカフェ。店内は古めかしいアンティーク調で纏められており、何ともトリニティらしいとも云える景観をしていた。何処となく格調高い雰囲気を嗅ぎ取ったホシノは肩を竦め、心細そうに頬を掻く。

 

「いらっしゃいませ、二名様ですね?」

「はい、あ、奥の席をお借りしてもよろしいですか?」

「勿論です、御注文がお決まりでしたらお伺いいたしますが……」

「そうですね――えっと、ホシノさんは」

「うへ、良く分からないからお任せで」

「では、紅茶と……このクッキーセットを二つずつお願いします」

「かしこまりました」

 

 ハナコはスーツ姿のロボット店員に注文し、店の奥側にある席へと足を進める。向き合う様にして着席した二人は、そのまま数秒程視線を交わらせ、ハナコは小さく頭を下げた。

 

「改めて……本日はご足労頂いてありがとうございます」

「全然、寧ろアビドス側の交通費全額負担して貰って、悪い位だよ~」

 

 ハナコの言葉に、ホシノはけらけらと笑みを零しながら手を振って見せる。何を隠そう、彼女をこのトリニティに招いたのはハナコ自身であった。

 独自の情報網でアビドス高等学校の住所や電話番号を抑え、現在の生徒会代わりとされるアビドス対策委員会に渡りを付けた彼女は、先生の情報を得るべく対策委員会の代表とされるホシノと言葉を交わす場を設けたのだ。

 最初は代表であるホシノ一人のみトリニティへ向かう手筈であったが――何故かアビドス全員がトリニティ自治区に遠征する事になり、その費用を負担する流れとなった。ホシノが費用は自分一人分で構わないと云っていたが、ハナコは全員の交通費を負担し今に至る。幸いハナコは金銭の類には困っていない、この程度の出費で必要な事への手掛かりを得られるのならば安い位であった。

 

「いやはや、ごめんね? 本当ならおじさんだけで来る予定だったんだけれど……」

「ふふっ、凄い声でしたものね」

「旅行とかじゃないって云ったんだけれどねぇ、アビドスってあんまり他所の自治区とか来る機会が無かったからさ~、まぁいつかトリニティには行ってみたいって思っていたし、丁度良かったかな?」

 

 そう云って恥ずかしそうに頬を掻くホシノ。彼女と電話で交渉中、向こう側から『えっ、ホシノ先輩トリニティに行くの!? 何それ、ズルじゃん!』、『ん、旅行なら私達も連れて行くべき』、『皆で小旅行、楽しそうですね☆』、『えっ、いや、ま、待って下さい! 別にホシノ先輩は遊びに行く訳じゃ――』という声が響いていたのを今でも覚えている。中々に、楽しそうな委員会だった。アビドスそのものが小さな学校だとは聞いているが、恐らくその分結束が固いのだろう。

 暖かで、気兼ねなく、そして互いを思い遣れる場所。

 ハナコの脳裏に、補習授業部の皆――その笑顔が過った。

 

「今はこういう事が出来る位には余裕が生まれたから、全然良いのだけれど」

「確か、以前は色々と大変だったとか」

「あー……そうだね、うん」

「――お待たせしました、こちら御注文の品です」

 

 ホシノが苦笑を零すと同時、オーダーした品物が運ばれて来る。薄らと湯気を立てる紅茶と、小皿に盛られたクッキー。それらを前にして、ホシノは「お~」と歓声を上げる。

 

「御注文は以上で宜しかったでしょうか?」

「はい、ありがとうございます」

「では、ごゆっくり」

 

 一礼し、去って行くウェイターを尻目にホシノはクッキーをしげしげと見つめる。綺麗に折り重なり、様々な種類のクッキーが盛り合わさったそれはとても綺麗で、まるで甘味の宝石箱の様にも見えた。アビドスの部室でもノノミが持ち込んだ高級菓子を口にする機会は何度もあったが、これはこれで、何と云うか、伝統を感じると云うか――。

 

「お店もお洒落だけれど、何だか甘味一つとってもお洒落に見えるなぁ……」

「ふふっ、お気に召して頂けましたか?」

「うん、何だか食べるのが勿体ない位」

「見た目も素敵ですが、此処のクッキーは味も素敵ですよ♡」

「……なら、早速一口頂いちゃお」

 

 告げ、ホシノは手前にあったクッキーを一枚摘み、齧る。途端口の中に広がる甘みと、サクッとした触感。成程、これは美味しい。ホシノが微笑みを漏らし、ハナコは満足げに紅茶を手に取った。

 

「それで、えーっと、浦和さん、だっけ?」

「ハナコで結構ですよ」

「じゃあ、ハナコちゃんで、私もホシノで良いよ」

「では、ホシノさんと」

「うへ、堅苦しいね」

「ふふっ、目上の方ですので……お気に召さなければ他の呼び方でも――」

「いんや、おじさんはそれで良いよ――ハナコちゃん、確かヒフミちゃんと同じ部活なんだよね?」

「えぇ、補習授業部に所属しています、担当は先生が」

「じゃあ、おじさん達と同じだ」

 

 そう云って笑みを浮かべるホシノ。彼女にとって、担当が先生という事は大きな事らしい。クッキーを口に放り込み、紅茶で流し込んだ彼女は、熱かったのか小さく舌を出しながら呟く。

 

「あちちっ……ヒフミちゃんと同じ部活で、先生が担当なら、多分大丈夫かなぁ」

「大丈夫、とは?」

「ん~……」

 

 数秒、ハナコの問いかけにホシノは悩む素振りを見せる。それは何かを考えるというより、ハナコという生徒を観察している様な気配だった。手にしていた紅茶をソーサーに戻したホシノは、先程と同じように笑みを浮かべながら口を開く。

 

「――取り敢えずさ、今日こうして呼び出した理由を聞いても良いかな? それもこんな深夜に、よっぽどの事でしょ?」

「……えぇ、勿論です」

 

 ホシノと同じように、カップを戻したハナコは深く頷く。

 

「時間帯については、申し訳ありません、補習授業部は現在合宿中でして、昼間は殆どが学習時間に割り振られているんです」

「合宿? って事は、ハナコちゃんもしかして……」

「えぇ、此処には抜け出してきています♡」

 

 そう云って悪びれもなく笑うハナコに、ホシノは驚きに目を見開いた。その視線には、若干の呆れと賞賛が混じっている様に感じた。

 

「ありゃりゃ、バレたら大目玉だよ~?」

「ふふっ、大目玉で済んだら良いのですが」

 

 尤も、これがティーパーティーに知られたら事だが、先生に知られる程度ならば問題ないとハナコは確信している。そもそも、事前調査で深夜帯にティーパーティーの監視が無い事は確認済みである。流石に向こうも、補習授業部を付きっ切りで見張る事は出来ないらしい。エデン条約締結日を考えれば、正に猫の手も借りたいという状況。監視の目が緩まるのも当然であった。

 

「お聞きしたいのは他でもありません――先生の事です」

「………」

 

 ハナコがそう口にすると、心なしか、ホシノの気配が変化した様な気がした。陽だまりの中、海を揺蕩う様な穏やかさから、鋭く鋭利な刃物に。ホシノは指先でクッキーを摘まみ、力を籠めると二つに割る。その片方を口の中に放り込み、視線をハナコに向けず問いかけた。

 

「そういう風に切り出すって事は単純な恋愛相談、とかじゃないよねぇ」

「……えぇ、そうであればこんな回りくどい方法は使いません」

「ま、そうだよね、単に話すだけなら態々会う必要なんてない訳だし、電話で事足りるもん」

 

 そう告げる彼女はどこか警戒心を覗かせる。何故、ハナコを警戒する必要があるのか。それは、守るべき情報があるからに他ならない。態度を硬化させたホシノにハナコは佇まいを正した。

 

「やはり、何か知っていらっしゃるんですね」

「……そういう風に云うって事は、ハナコちゃんも何か、先生の秘密を知っちゃったのかな?」

「えぇ、偶発的な事故の様なもので、ですが」

「ふぅん」

 

 偶発的な事故、その言葉にホシノは気のない返事を漏らす。

 

「それは、身体的な事?」

「……えぇ」

 

 答えは明瞭だった。そしてハナコはその言葉に確信する。少なくとも彼女は、自身と同じ秘密を知っている、と。ホシノは、そういう目をしていた。それは同種を見つけた瞳だった。

 

「本人のあずかり知らぬ所でこのような事を話すのは心苦しいのですが――先生をこれ以上問いただしても、きっと教えては頂けないと、そう強く感じましたので」

「それは……そうだろうね、先生はそういう人だから」

「えぇ、私達の負担になると、重荷を背負わせたくないと、そう仰っていました」

「おじさんが云う事ではないかもしれないけれどさ、そういう先生の想い、無視しちゃって良いの?」

 

 どこか、試すような口調でホシノは云った。細く絞られた彼女の視線がハナコを射貫き、それは一切の虚偽を許さないという厳格な色を醸し出す。ハナコは数秒、沈黙を守る。自身の行いが先生の想いに反している事は重々承知している、彼がそれを望まない事も。しかし、それでも尚ハナコは先生の意思に従い、盲目で在る事を善しとしなかった。

 

「例えそれが先生の意に添わぬ事であっても、私が、そう在る事を許せないから……いえ、これは建前ですね」

 

 口にし、ハナコは首を横に振る。感情の輪郭を捉え、言葉にする。それは簡単な事の様に見えて、酷く難しい。自身の根源、渇望を知る事。人のそれは酷く複雑で、面倒なものだった。時に、それは直視し難い苦痛を伴う。それでも尚、ハナコは自身のそれに向き直り、はっきりとした口調で告げた。

 

「これは、私の我儘です、先生の優しさを踏み躙って尚、先生の助けになりたいという――私のエゴ、そのものです」

 

 ホシノは、ハナコの言葉をただ聞いていた。何の表情の変化もなく、淡々と。真摯に、真剣に自身を見つめるハナコを、彼女は見返す。悪意は、感じられなかった。少なくともハナコという生徒にとって、先生という存在がどれだけ大きなものなのかという目安は伝わった。摘まんだクッキーの半分を、ホシノは口に放り込む。口内に広がる甘味を、感情と一緒に飲み下し――彼女はそっと目を逸らした。

 

「……ま、知らん振りも出来ないよねぇ、そんな真剣な顔されちゃったらさ」

「では……」

「うん、そうだね、認めるよ、おじさんは多分、そっちが考えている事……先生の秘密を知っている」

「っ!」

 

 その一言に、ハナコの雰囲気が切り替わる。それは悔しさと嫉妬を孕んだ感情だった。補習授業部とアビドス、過ごした時間の長さは変えられない。それが信頼の差であると云うのなら、ハナコにとってはどうしようもない事実。その明確な差を、彼女は羨んだのだ。

 それを感じ取ったホシノは慌てて手を振り、言葉を紡ぐ。

 

「あー、いや、誤解しないでね? 先生が自発的に明かした訳じゃないんだ、おじさんが~……えっと、暴いちゃったというか、勘付いちゃったというか」

「……勘付いた?」

「うん、まぁ、おじさん達の学校も色々あってさ、先生がアビドスを守る為に色々と手を尽くしてくれたというか、何と云うか――」

 

 どこか説明し辛そうに言葉を並べるホシノ。ハナコはそれに、ただ黙って耳を傾ける。

 

「云っておくけれど、この件に関しては私以外の対策委員会――アビドスのメンバーは誰一人知らない、先生のソレ(罪悪)を知っているのは、私ともう一人だけだよ……少なくともおじさんが把握している範囲ではね」

「……その、もう一人とは」

「それはごめん、云えない」

 

 ホシノは、きっぱりとした口調で断じた。

 

「そして、おじさんから先生の秘密を直接教える事も出来ない――それは、先生の信頼を裏切る行為だから」

「………」

「逆の立場だったら多分、ハナコちゃんもそうしているでしょう?」

「それは――」

 

 その問いかけに、ハナコは言葉を詰まらせた。逆の立場だったら――恐らく、自分も口を噤むだろう。それは間違いない。例え相手がどれだけ真剣であっても、先生の秘密を口にする事はしたくない。それは不義理だ。そして、自身がその不義理な行為を相手に求めている事を自覚し、ハナコは唇を噛んだ。

 

「興味本位じゃない、って云うのは分かるんだけれどさ……多分、ハナコちゃんが思っている何倍も、何十倍も、先生の背負っているものは重いんだ、おじさんは、その重さに耐えきれなかった生徒の末路を……いや、こんな云い方は悪いか――そういうさ、大切に想う気持ちを色々と拗らせちゃって、良くも悪くも突き進んじゃった子を知っているから、正直生半な覚悟で踏み込んで欲しくない、これは先生の為でもあるし、ハナコちゃんの為でもある」

「………」

 

 沈黙が二人の間に流れる。ホシノはどこか、憂う様な視線と共に問いかける。

 

「ハナコちゃんは、さ……何で、先生の秘密が知りたいの?」

 

 何故。

 そう問いかけられ、ハナコは口を開く。

 それは――。

 

「――あの人が、いつも寂しそうに笑うからです」

 

 声は、思ったよりもすんなりと口から出た。

 一度言葉にすると、感情はその輪郭を浮き彫りにし、はっきりと手に取る事が出来た。

 

「先生は私達にとても良くして下さいます、先生とは斯く在れかしと、それを体現している人だと、私はそう思っています――」

 

 先生の善性、先生の在り方。それは、人としての理想と云っても良い。他人を信じ、寄り添い、庇い、大人としての責務を全うする。それは正に、子どもの想う大人の在り方だ。先生の在り方だ。それを好ましく思う、素晴らしい事だと思う。

 けれど。

 

「そんな先生が、日常の中で、ふと……寂しそうに笑うんです」

 

 呟き、目を瞑る。

 ふとした瞬間、或いは皆の目が逸れた隙間。

 その間に差し込まれる、寂寥の色。

 それだけがずっと、ハナコの胸につっかえているのだ。

 

 何故、そんな目をするのか? 何故、そんな表情を浮かべるのか? その先生の瞳を知りながら、理由も知らない自身が、酷く薄情に思えて。補習授業部と同じ教室に居る筈なのに、先生だけがどこか、寂寞とした空間に居る様な感覚。

 その寂しさを憶えている。

 

「私達を見ているのに、私達じゃない、私達を通して別の誰かを見ている――そんな錯覚に陥るんです、直ぐ傍にいる筈なのに何処か遠い、先生が笑顔を向けているのは、此処に居る私達ではない、もっと、別の……」

 

 そこまで口にして、ハナコは唐突に言葉を止めた。

 

「別の――?」

 

 ふと、ハナコは自身の言葉に疑問を覚えた。

 それは本当に、小骨が引っ掛かった程度の、小さな違和感だった。

 先生は私たちを見ている、けれど視界に自分達を捉えていても、その心は別のものを見ている。この言葉に嘘は無い。ハナコは真実、その様に感じた。

 可能性としては、今の補習部に先生が【過去の誰か】を投影し、懐かしんでいるのかもと思った。或いは、今の補習部は先生の代替行為に過ぎないのかもしれない、なんて事も、少しだけ疑った。

 

 ――しかし、先生がそんな風に生徒を見るだろうか? 

 

 その問いかけに直面した時、ハナコは思わず首を振る。自身で先生の行為を寂しいと口にしながら、しかし、『先生がそんな事をする筈がない』という確信に近い何かをハナコは抱えていたのだ。

 過去のソレが先生にそれらの感情を想起させる程の強い想いであったという可能性は否定できない。しかし先生が、他の生徒と今の生徒を比較したり、あまつさえそれを感情として露呈させるなんて事は、ハナコにとって考えられない事であった。

 いや、信じたくないというべきか。

 そしてそれは、ハナコという人物の中で確かな事実として起立している。あの傷を見てしまった夜、先生の本質に僅かでも触れたハナコは、先生にとって生徒と云う存在がどれだけ大切で、重い存在なのかという事を認識した。その抱える罪悪を、重荷を、決して生徒に渡すものかと抱え込み、静かに泣きながら茨の道を行く人だ。

 だからこそそんな彼が、補習授業部の皆に誰とも知れぬ幻影を重ねているという行為が受け入れられなかった。

 

 ――矛盾しているのだ、先生の在り方と、その感情が。

 

 しかし、ハナコはそれを最初、矛盾と捉えていなかった。それは何故か? 

 そこに、鍵がある様な気がした。

 

 自分達に重ね合わせる、『誰か』の幻影。先生は私達を通して、誰を見ているのか? 『誰を見ていれば、先生の感情と行動に矛盾が生じない』のか?

 それは――。

 

「――私達、自身……?」

 

 ハナコの口から、無意識の内に漏れ出た言葉。

 それを自覚した時、彼女は思わず驚き、口を噤んだ。

 あり得ない。そんな言葉が口をつきそうになった。

 

 しかし、先生が今の補習授業部を見て、寂しそうにしたり、懐かしそうな色を見せる理由が他に思いつかなかった。

 これなら確かに、【矛盾】はしないのだ。先生の在り方と、その感情の説明に。

 先生が重ねる幻影はその生徒自身であり、そもそも比較すらしていないのかもしれない。先生は自分(ハナコ)の知らないハナコを見て、寂しそうに笑っている。あの感情は、あの色は、先生の根源を晒すような、そんな、酷く強く、儚げな表情だった。

 仮に。

 先生が感情を、その視線を向けている生徒が『私達ではない、私達』だとして――その対象は何処にある? 何処に居る? 何処で出会った? 何故先生はあんな、寂しげに、悲し気に、慈しむように私達に笑いかけるのだ? まるで十年来の家族の様に、全てを包み込むように、優しく、けれど儚く。

 

 ――ハナコの脳裏に、先生の傷だらけの体が過った。

 

 到底、生き残れるとは思えない致命傷の数々。多種多様な死因――そう、死因だ。

 あれを先生は、『自身の背負うべき(もの)』と口にした。つまりそれは、その傷ひとつひとつに、先生にとっては【意味がある】という事だった。

 

【……内側をやられるとね、もっと酷いんだよ、色々と】

 

 ハナコの心臓が早鐘を打ち始める。額に、冷汗が滲む。それは、自身の思考が何かに迫っているという確信からか。

 発想を変えよう。ただの飛躍した理論に意味はない、そこには確かな道筋が無ければならない。頭を、思考を回す。

 仮に――仮にだが、先生が【そう】だとして。それらしい行動はあったのか? そう断じるだけの理由があるのか?

 例えば、そう。

 

 先生が――未来を知っているかの様な行動を取った、とか。

 

「……ホシノさん」

「ん~?」

「――先生は時折、未来を知っているかの様に動きますよね」

 

 ハナコは、俯いたまま静かに、淡々とした口調で問いかけた。それは、殆ど直感によって放たれた一言だった。

 普通に話せば、「確かに」だとか、「凄いよね」とか、そんな他愛もない雑談の範疇に収まる一言だ。幾らでも流せるし、大層な台詞でもない。

 けれど、ホシノの反応は劇的だった。

 その一言を聞いた瞬間、ホシノの表情と雰囲気が明確に変化した。

 どこか鋭さを孕みながらも飄々としたものから、荒々しく、問い詰める様な眼光に。

 

 ――それが答えだった。

 

「………まさか」

 

 呟きは小さく、弱々しい。

 しかし、その疑念は確かなモノへと変貌した。蒼褪め、小さく唇を震わせるハナコを見たホシノは、その反応に一杯食わされたのかと気付き、思わず息を漏らす。それは、自分自身に対する呆れと怒りであった。

 

「……うへ、もしかして引っ掛けられた?」

「……申し訳ありません、半分賭けでした、此方では完全に断言出来る様な行動は無かったので……全て、予測と云ってしまえば逃れられる範疇です」

「はぁー、そっか……いやぁ、ハナコちゃんは凄いね、自分でそこまで考えちゃうんだもん、いやはや、参っちゃうねぇ、おじさん吃驚だ」

「っ――では!」

 

 身を乗り出すように、ハナコは問いかける。しかしそれをホシノは手で制し、紅茶を啜りながら言葉を紡いだ。

 

「おじさんはさ、最初先生がアビドスにやって来た時から、ずっと疑っていたから気付けたんだ――この大人が何かやらかすんじゃないか、また裏切られるんじゃないか、何か良からぬ事を企んでいるんじゃないか……ってね」

 

 綴り、思い出すのは先生がアビドスへ来たばかりの頃。まだシャーレという組織が設立されて、然程時間が経過していない時期だった。故にアヤネがシャーレに手紙を送ったのも半ば賭けで、藁にも縋りたい気持ちだったのだ。そんな中、どんな大きな学校の要請よりも早く駆けつけてくれたのが先生だった。

 あの頃のホシノは、先生を疑っていた。当然だ、大人に騙されて、騙されて、騙され続けて――ホシノはあそこまで転がり落ちたのだから。

 だからこそ気付けた、だからこそ勘付いた。

 

「でも、ハナコちゃんは違う、先生を最初から信じていたのに気付けた……まぁ、前評判もあるんだろうけれど、やっぱり凄いよ、うん――答えは云えないけれど、多分、考えている事は強ち間違っていないよ」

 

 ホシノの遠回しな言葉に、ハナコは息を飲む。震えた指先が、小さくカップを鳴らした。あり得るのか? ハナコの理性が問いかける。しかし、矛盾しないという点は見過ごせない。現状、そう考える事が自然であった。ホシノは言葉もなく沈黙を守るハナコに、肩を竦めながら問う。

 

「荒唐無稽だと思う?」

「……正直に、云ってしまえば」

「だよね、まぁいきなりそんな事云われても、信じられない生徒の方が多いと思うし」

「……どちらかと云えば、信じたくない、というのが本音でしょうか」

 

 先生が今尚、苦しみ続けている事を――認めたくない。

 ハナコは、思わずそんな言葉を吐いた。

 もしそれが正しいとするのであれば、だって、先生が歩む、その道は――。

 

「……先生は、何故――」

「――何故、そんなに頑張れるのかって?」

 

 ハナコの言葉に被せる様にして、ホシノは云った。俯いていたハナコの顔が上がる。

 

「おじさんも詳しく聞いた訳じゃないんだけれどさ、先生の傷を見たなら、分かるでしょう? あの傷痕、一回二回じゃないよ、文字通り何十、何百って、先生は諦めず、文字通り命懸けで頑張って来たんだ」

「………」

「先生には、そんな地獄の苦しみを味わって尚、諦められないものがある」

 

 それは、どれだけの苦痛を味わおうと、どれだけの苦難に打ちのめされようと、どうしても諦めきれない最後の一線。ハナコはテーブルの上で握り締めた手を軋ませる。彼はそれを、ずっと一人で背負ってきたのか――? これからも、その道を行くのか。たった一人で、最後まで。

 それが叶う確率は、どれだけのものだ?

 その苦しみに釣り合うだけの価値が、果たしてあるのか?

 先生は後――どれだけの時間苦しめば、『ソレ』から解放されるのだ?

 考えれば考える程、ハナコの表情は昏く、淀んだ。

 

 先生は、それを誰かに押し付けようとはしない。

 私達は、その重荷を背負う事が出来ない。

 なら――いっそ。

 

「――楽にしてあげたいって、思った?」

「……ッ!?」

 

 唐突なそれに、肩が跳ねた。思わず、自身の心を覗かれたのかと思ってしまう程に。ハナコがホシノを見れば、真剣な表情で此方を見るホシノの瞳が視界に映った。彼女は優し気に口元を緩ませると、穏やかな口調で以て告げる。

 

「表情、崩れかけているよ、何を考えているのか分かっちゃうくらいに」

「……ホシノさんは」

「――あるよ、考えた事……何度も、沢山」

「………」

「でも、それは先生の望みじゃないから」

 

 答え、そっと目を伏せる。二度や三度ではない、もっともっと、何度も何度も考えた事だ。何で先生なんだろう、何で先生がこんな辛い役目を負わなくちゃならないんだろう。そんな風に考えて、そんな風に想って、幾度も先生の寂しげな表情を眺め続けて来た。

 代われるのなら代わりたい、その重荷を欠片でも分けてくれるのなら、地獄の底まで付き添う心積もりだ。けれど先生は、ホシノがそんな風に考える度、その頭を優しく撫でつけ云うのだ。

 

 これは、大人が背負うべき責任だから、と。

 私は先生だからね、と。

 

「うへ……おじさん、先生の事、大好きだからさ? 意に沿わない事はしたくないんだよね~」

「それは」

 

 自身の感情を飲み下すという事で。

 傷付く先生を横目にしながら、その在り方を見守ると云う事で。

 ハナコは思わず自嘲を零し、呟いた。

 

「――強いのですね、ホシノさんは」

「――信じているだけだよ、先生を」

 

 例えどれだけの苦難があろうとも。

 先生ならば乗り越えてくれるって、信じているんだ。

 

「ま、駄目だった時は大人しく最後まで戦って、その終わりに自分でヘイローを壊すつもりだから、うへ……こういうと何か、おじさん重い女みたいだぁ」

「……ふふっ、みたいではなく、恐らくその通りかと」

 

 お道化た様に笑うホシノに、ハナコはそんな軽口を返す。不思議な事に、こんな話を聞いた後でも、笑ってみれば少しだけ心が軽くなったような気がした。

 

「先生は、これほどの重荷を背負って尚……何を目指しているのですか」

「ん? それはもう知っているんじゃないの?」

 

 そう云って、ホシノは笑みと共に告げる。先生の求める理想、その集大成を。

 

「――生徒全員が、笑い合える世界(夢みたいな未来)だよ」

「……成程」

 

 それは、確かに先生らしい。

 素敵で、儚く、夢みたいな話だ。

 このキヴォトスで思い描くには、余りにも綺麗な絵空事。

 ――けれどきっと、彼は諦めないのだろう。

 その確信がある。

 

「本気なんですね、あの人は」

「うん、先生はその夢を絶対に諦めないと思う、これまでも、これからも」

「……とても、辛いでしょうに――歩いている本人も、それを見る事しか出来ない生徒(私達)も」

「うん、だから……先生と違う道を選ぶ生徒も出て来る」

「まさか、先生の他にも?」

 

 ホシノの言葉に、彼女はふと声を上げた。その言葉の意味するところに気付いたホシノは、思わず目を見開く。これだけの言葉で意図を汲んでくるのかと、思わず苦笑を零し、呟いた。

 

「……ほんと、鋭いねハナコちゃん、もしかしてトリニティの凄い人?」

「いえ、私は落ちこぼれですよ、素行不良で、成績不振の……何せ、補習授業部ですから」

 

 呟き、微笑む。自分で口にしておきながら白々しい事この上ないが、実際問題そうなのだから仕方ない。ホシノは軽く頭を搔きながら、どこか憂う様な表情で続けた。

 

「あー、もしさ、もしもの話だよ? 目の前に未来の、大人になったヒフミちゃんが現れて、『先生を撃ってでも止める』って云ってきたら、ハナコちゃんはどうする?」

「―――!」

 

 その唐突な仮定に、ハナコは息をのんだ。

 それは、可能性の話。けれど決してあり得ないと断言する事は出来ない未来。

 先生が『そう』であるのならば、何故生徒が『そう』出来ないと断じる事が出来よう? 先生がその道を選んだように、生徒自身にも選ぶ権利はある。その未来を予想し、ハナコは険しい表情を浮かべ、沈黙した。

 

「傷だらけで歩く先生を見ているのは辛いから、自分の我儘で足を止めて欲しいって、あなただけは幸せになって欲しいって、もう楽になって欲しいからって、悲しそうに、辛そうに銃口を向けて来たら……ハナコちゃんは、撃てる?」

「………」

 

 もし――補習授業部が自分の前に立ち塞がったら。

 ヒフミが、アズサが、コハルが、或いは『自分自身』が。

 先生を想い、その未来を憂いて、銃口を向けて来た時。

 果たして、自分はどうするのか?

 

 答えは――出ない。

 

 それは理論の話ではない、感情の話であった。大切なものを二つ、目の前に差し出され、どちらを取るのかという問い掛け。そして、その片方だけを選ぶ事が、ハナコには出来ない。その苦悩を感じ取ったホシノは眉を下げ、共感するように呟く。

 

「うへ、難しい問題だよね、分かるよ……でも、先生と一緒の道を歩くって、そういう事なんだよ」

「………」

「そういう、生徒の懇願だとか、願望だとか、善意だとか、思い遣りだとか――そういう尊くて、大切で、温かいものを振り払って……自分から地獄の道を歩くんだ」

 

 生徒の為に。

 夢みたいな未来の為に。

 皆が笑い合える、世界の為に。

 その身を焦がしながら。

 

 先生を助ける事は出来る。その重荷を、『分けて貰った気持ち』になる事だって出来る。けれど本質的に、先生を救う事は出来ない。その道は、先生にしか歩けない道だから。だからもし、本当に先生と道が交わるとすれば――苦難の前に斃れ、共に堕ちる時か。

 或いは、その大願を成した後だけだ。

 ハナコは数秒、その沸き立つ感情を飲み下す為に紅茶を呷った。そしてらしくもなく音を立ててカップを戻したハナコは、そっと席を立つ。

 今は、感情と思考を処理する時間が必要だった。余りにも多くの事を知り過ぎた、そして何食わぬ顔で先生と過ごすには――少し、頭を冷やしたい。

 

「……ありがとうございますホシノさん、とても有意義な時間でした」

「うへ、何もだよ、おじさんとしてはお仲間が増えるのは――色々複雑だけれど、歓迎だからさ」

「えぇ――私としても心強い限りです」

 

 告げ、ハナコはテーブルの上に二人分の金銭(クレジット)を置くと、小さく頭を下げた。

 

「……それでは、ホシノさん、今日はありがとうございました」

「これくらいは全然、帰り道は気を付けてね~」

 

 ひらひらと手を振り、そう告げるホシノ。ハナコは彼女を暫し見つめた後、踵を返し店を後にする。

 その姿が扉の向こう側に消えて行くのを見送り、ホシノは数秒沈黙を守った後、云った。

 

「……で、そっちは先生から何か連絡はあったの?」

「――えぇ」

 

 傍から見れば独り言に聞こえるソレ、しかし返答があった。声は衝立の向こうから、一つ離れた席に座る生徒が発したものだった。この辺りでは珍しい和装をした彼女は、常に被っていた仮面を着用せずに茶を啜る。

 互いの顔は、衝立によって視認出来ない。

 

「どうやら、水面下で動く事をお決めになった御様子です、決行は五日後の夜……私の役目は古聖堂の地下防衛です」 

「うへ……そこまでおじさんに云っちゃって良いの?」

「えぇ、万が一の事を考えれば情報の共有は大事ですし、何だかんだ云って其方も決行日までトリニティに居座る腹積もりでしょう?」

「まぁね、だから今回の話は本当に、渡りに船だったよ」

 

 そう云ってクッキーを齧るホシノ。元々、トリニティには出向くつもりだったのだ。先生がトリニティで教鞭を執っているという話は元々聞き及んでいた。そして、その周辺がきな臭くなっていた事も。

 故に、万が一に備える為にも連絡を待っていたのだが――。

 

「……先生は、何でアビドスに連絡をくれなかったのかな」

「分かっていて、問いかけるのですか」

 

 ホシノの呟きに、彼女――ワカモは淡々とした口調で以て応えた。

 

「巻き込みたくなかったのでしょう、今回の件はかなりデリケートな問題です、トリニティとゲヘナ、下手をすればそこにアビドスが加わってしまう――云っては何ですが、学園の規模としては両校とも最大規模、アビドスでは比較になりません」

「……悲しい位に正論だね」

「事実ですので」

 

 そうきっぱり口にするワカモに、ホシノは苦笑を漏らす。この、先生の事となれば容赦も思い遣りもないワカモが、ホシノは存外嫌いではなかった。少々直截的なきらいがあるが、彼女自身が先生を想う気持ちは本物だと思っている。向こうが自身をどう思っているかは知らないが――今は同じ道を歩む、仲間だった。

 

「反面、私は停学中の身ですし、元より寄る辺のない身――強いていうのならシャーレ、あの方の傍こそ私の居るべき場所ではありますが……」

「そっちは色んな意味で名前が売れているからね、仮に介入しても百鬼夜行に抗議は行かないかぁ」

「えぇ、今まで散々騒動を起こしていて正解でした」

「良く云うよ~」

 

 笑い、ホシノは最後のクッキーを口に放る。素行不良が目隠しとなり、先生の手足となって動く事が出来る。これは正に、守るものを複数持たないが故の行動力だろう。ホシノも、アビドスという大切な居場所が無ければ一も二もなく先生の元へ駆け出したい心地だった。けれど、それは出来ない。先生と同じ位、あの場所が大切だから。

 ――逸る気持ちを抑え、ホシノは紅茶を胃に流し込む。

 あらゆる感情と一緒に。

 

「……先生を、お願いね」

「――えぇ、当然です」

 

 ■

 

 第四次補習授業部模試、結果

 

 ハナコ―百点 合格

 アズサ―八十二点 不合格

 コハル―七十四点 不合格

 ヒフミ―七十九点 不合格

 

 特別学力試験まで――あと五日。

 


 

 本当は長々とシロコについて後書き書いたんだけれど、最終章全部見終わって、何かこう、何も云えねぇ状態になって消しましたわ……。やっぱり先生は先生なんやなって。まぁ先生は闇落ちしても生徒傷つけたりはしないよね、そうだよね。

 というかそもそも何で先生がそんな負傷する事になったんだとか、アビドスの皆は何でバラバラになったんだとか、知りたい事があり過ぎる。つまり、あのバットエンドスチルの数だけ、シロコ・テラーみたいになる生徒が出て来るって……コト?

 ちょっと感情とか思考が飽和し過ぎて、もう上手く云えないんですけれど「ンギヴォァ~!」って感じですわ。強いて云うならアビドス見て号泣するシロコ・テラーの前で先生(色彩)をボコボコにしたらめっちゃ取り乱してくれそうだなぁと思った位です。先生(色彩)の手足捥いだらシロコ・テラー泣いてくれねぇかなぁ……。他の生徒を殺害しても、先生は出来なかったみたいだし。絶対激重感情持ってくれるって信じている。

 そんな死体擬きになってまで最後の生徒であるシロコを別次元の自分に託しに来る先生の覚悟っぷりにはマジで頭が下がります。最後のセリフ、本当に好き。自分自身ならやり遂げられるって信じている、どこまでも光属性な先生に私は思わず目を覆いましたわ。

 そして失敗世界線の先生から現在世界線の先生に対する感情が明らかになった為、私のエンディングプロットが全て破壊されました。南無阿弥陀仏。半壊で済んだぜ、とか思っていたら全壊した私の感情はフルスロットルで大爆発ですわ。ンギィィイイイイ↑

 因みに色彩の嚮導者=先生が確定した四章で消滅したエンディング、その内の一つがこれで御座います。

 

 ・ゲマトリアの合作、先生の複製(ミメシス)による最終決戦エンディング。

 救えなかった世界線の先生、その妄念や執念が輪郭を得たもの。云ってしまえば闇落ち先生が出現するラスト。クロコの話を元にゲマトリアが試験的に先生のレプリカを作り上げ、限りなく崇高に近いそれを解析しようとした所、色彩が到来してレプリカの肉体(ゴルゴンダ作)を乗っ取り覚醒、ビナーとかペロロジラとかホドとか、総力戦のメンバーを軒並み指揮下に置いて暴走、それを現世界線の先生が生徒と一緒に鎮圧する流れ。

 因みにこの結末を考えていた時点(大体一月頃)では最終章で色彩が出て来るとか思ってもいなかったのだ。アーメン。

 闇落ちしても先生は先生で、キヴォトスを滅ぼそうとか、生徒に害を為そうなんて事は欠片も考えていない。この闇落ち先生の目的は単純明快――誰も救えず、何も成せず、生徒ひとり満足に導く事の出来ない『先生モドキ』の排除。つまり、現世界線の先生を殺害する事。

 そしてこの要素も今回(最終章)によって破壊された。先生はこんな事しないッ! 南無阿弥陀仏。

 総力戦のボスを軒並みシバいた後、先生は遥か地下深く、ゲマトリアの総本山の只中で、自分自身の罪悪と対峙する。生徒達が困惑する中、先生は手出し無用を告げ自身のレプリカへと歩み寄る――という感じ。

 このエンディングの最終戦は、生徒達による総力戦ではなく、文字通り先生が単独で戦う形となる。私は基本的に本編の先生に対して『生徒を物理的に傷付けない(緊急時を除く)』、『殺傷武器を持たない(自決除く)』、『命を奪わない』という制約を課している。

 しかし、これらの制約はあくまで『他者』に対する制約なので、先生自身はその限りではない。何なら先生がこの世で最も憎み、忌み嫌い、殺したいと思う程の相手は自分自身なので、どちらも全力で相手を殺しに掛かる。先生VS先生の殺し合いショーで御座います。見ている事しか出来ない生徒にとっては正に地獄です。

 でも別世界線の先生も先生でした。別に先生の事憎く思っていた訳ではないようです、何なら大切な生徒を託しに来ました。素敵ですねこんちくしょう。

 因みにここまで来るのに『エデン条約』、『機械仕掛け』を経ているので先生の手足は義手義足に置き換わっています。シッテムの箱も、大人のカードも使わず、最後は先生が最も忌み嫌い、避けていた暴力で解決するエンドは何とも滑稽ですわねぇ~! でもラストバトルで殴り合う展開結構すきなの、そーなの……。

 

 色彩の嚮導者が先生だと判明してしまったので、この闇落ち先生エンディングは没、没、没シュートですわ~っ! ついでに後三つくらい考えていたエンディングルートも放棄ですわ~~ッ! 先生マジで聖人でヤベェですわ~! 成功した自分に嫉妬とか、なさらないの……? 全ての生徒を救った自分に憎しみとか抱かない? そういう先生の負の側面みたいなのを煮詰めたのが私のキヴォトス動乱に至るルートだったのですけれど……??? そのルートは全て浄化され申した。あんな託され方したらこんなルート書けないじゃん。光属性先生マシマシじゃん。「生徒達を……よろしく、お願いします」なんて、あんな姿になり果てて尚そんな事云われちゃったら、もう万感の想いが籠り過ぎて闇落ちとかさせられないじゃん。無理じゃん、余りにも透き通り過ぎて自分が濁ったどす黒い世界を描いている様な気分になりましたわ……おかしいですわ、不条理ですわ、わたくしのブルーアーカイブはこんなにも透き通っておりますのに……。

 いやでも実際どーすんのこれ、いや最終的な結末はもう決まっているんですの。それだけは第一話の頃から変わらずに、どんなストーリーが実装されてもコレだけは絶対に通すって決めているんですわ。でもそこまでに至るルートが余りにもぼっこぼこのボコで、死に際にすら連邦生徒会長の折り鶴持って逝く先生を、一体どうすれば……。

 

 いや、関係ねぇですわッ! 原作の流れはそのままに、設定も出来得る限り織り込んで、プレ先生の光属性を損なわないルートを構築すれば良いだけの事ですのッ!

 わたくしは高度な柔軟性を保ちつつ、臨機応変にプロットを捏ね繰り回し、捻じれて歪んだ終着点に辿り着いて見せますのッ! プロットなんて粘土細工みてぇなものですし、一回崩れても、もう一回形作れば良いんですわよッ! 何ならプレ先の罪悪を代わりに背負って更に苦しくなる先生を書き綴ってやりますわ! アビドス失敗ルートもわたくしが捏造しますわ! 後からそのシナリオが実装されたら? ………うるせ~~~~~!!! 知らね~~~~~!!! あぁ~~~~賽の河原~~~~!! 何でわたくしこんなに苦しんでまで書き続けているんですの??? 先生の手足を捥ぎたいからですわよッ!!!!! もう半年近くそれだけ考えて書き続けているんですのよッ!? 先生の手足捥ぎ取って這い蹲って血塗れで生徒に手を伸ばす姿を書くまでは死んでも死にきれねぇんですわよッ!!! 待っていらしてね先生ッ、その綺麗なおててを直ぐに引き千切って生徒の前に転がしてあげますからねッ!!!

 覚悟(大人のカード)の準備をしておいて下さい! 近い内に腕を捥ぎます。脚も捥ぎます。ナラム・シンの玉座にも問答無用で来て貰います。シッテムの箱(青い教室)の準備もしておいて下さい! 貴方は先生です! 色彩の嚮導者にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい! いいですねッ!?

 

 色彩の嚮導者ルート(捻じれて歪んだ終着点)と、託された先生ルート(あまねく希望の始発点)、両方書けて二度おいしいね。プレ先生は本編先生よりも酷い事になるから覚悟してね、原作の描写からアビドスルートで全部ミスした場合の先生かな。ホシノは救えないし、セリカはカタカタヘルメット団に拉致されて砂漠に埋められるし、アヤネはカイザーの手でボコられるし、ノノミはアビドスを離れて自殺か何かしそう。先生自体もかなり重症らしいし、手足も臓器も何もかも削ぎ落そうね、生命の最小単位とまでは云わないけれど、生徒の為に限界まで自分を追い込んでから死のうね。その上、助けようとした生徒も助からないよ。自分の為に生徒がどんどん消えて行く様を見続けようね。そして最後に残ったシロコだけは何とかしようって、自分の全部捧げて消えようか。これ下手すると私が書いていた一周目先生よりエグイ結末では??? でも何故かワクワクが止まりませんわ……! 捥げる手足が二倍になったからかしら……?

 先生、プレ先生! お二人共待っていらして! 今、会いにゆきます!!!

 

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