書いていたら17,000字になってしまったので、一日間を置きましたわ~!
「……チームⅣ、現場に到着」
告げ、アリウス生徒は耳元のインカムを軽く指先で叩く。時刻は未明、陽はまだ登らず、周囲は薄暗い闇に覆われている。一見、レインコートにも見えるアリウス制服を身に纏った彼女達は、トリニティ外壁に張り付き作戦開始時刻を待っていた。
背後を見れば、連なる様にして息を潜めるアリウス分校の生徒達。今回の作戦に先駆けトリニティ自治区内に潜伏していた者達である。皆一様に銃器を片手に、薄汚れたガスマスクを着用している。
「
『こちらHQ、チームⅤ、チームⅥ、チームⅧ、配置完了――突入用意』
「突入用意、最終確認」
「確認」
その言葉に、全員が銃の弾倉を検め、着用したプレートキャリアの具合、マガジンポーチに入った予備弾倉を確かめる。背後に居る生徒が前に居る生徒の背嚢に手を伸ばし、脱落や破損がない事を認め、合図を送った。最後に先頭の生徒、その肩を叩き準備は整う。
「最終確認、突入用意完了」
『了解、ターゲットの位置を念入りに確認しておけ、作戦遂行時刻は予定通り、己の役目を果たせ――アウト』
その言葉を最後に、通信は終了する。
先頭の生徒は自身の腕に巻き付けた腕時計を見下ろし、時を待った。
ゆっくりと進む時計の針、そして短針が真上を指した瞬間――作戦遂行時刻となる。
「――チームⅣ、総員前進」
その言葉を受け、アリウスの生徒達は一斉に行動を開始した。
■
「ふぅ……」
ナギサは薄暗い部屋で、備え付けのティーテーブルへと腰掛け紅茶を嗜んでいた。場所は本校舎より僅かに離れた位置にある特別棟。ティーパーティーのみが知る緊急避難用のセーフハウス、その中でも特に秘匿性の高い屋根裏部屋。その位置関係上、万が一露呈した場合の避難行動が難しい場所ではあるが、このセーフハウスを知っている者は本当にごく少数である為、その心配は要らない。それこそ今、警護にあたっている正義実現委員会が裏切りでもしない限りは――。
ナギサは神妙な顔つきのまま紅茶を啜り、窓一つない空間の中で佇む。音はなく、ちょっとした金庫室並みの防弾、防爆、耐火性能を誇る部屋の壁は、無機質な色を放っていた。
「もう、こんな時間ですか……」
テーブルの上に置かれた小さな懐中時計を見つめ、呟く。
今宵、全てが決まる。
エデン条約を前にした最終調整日程、今日の試験を以て補習授業部の面々は退学となり、自身は調印式まで雲隠れ。エデン条約さえ締結してしまえば、それ以降万が一自身に何かあったとしても、ミカがホストを引き継いで運営する事が出来る。自身が相手の立場であったとしたら、狙いは此処から一週間程――その期間さえ凌いでしまえば、ゲヘナとトリニティの小競り合いはティーパーティーの手を離れるだろう。
故の雲隠れ、故の特例措置、異例尽くしの今回ではあるが、概ねナギサの計画通りに事が進んでいると云って良かった。
――果たして、これで正しかったのだろうか。
たったひとり、こうして部屋の中でじっとしていると、不意にそんな事を考える。
もっと穏便な手段があったのではないか、もっと失う事のない選択肢があったのではないか。そんな事を何度も何度も考え、自己嫌悪に陥る。しかし、それは選ばなかったIFに過ぎない。自身の取り得た選択肢の中では、この道が最善に近しいものであったとナギサは信じている。補習授業部含め、先生との対立も――全ては、今後の未来の為に。
そう信じなければ、心が折れてしまいそうだった。
「………」
ナギサの顔には陰があった。
自身の選択が、本当に正しかったのだろうかという疑念。恐らくこれは、一生ついて回る代物だろう。ふと、気を抜けば指先が震えそうになっていた。それは犠牲とした生徒達に対する罪悪感からか、それともこれより到来するかもしれない死の恐怖からだろうか。揺れる紅茶の
「………?」
ふと、部屋にドン――という物音が響く。音の方向はセーフハウスの扉から。ノックというには少々荒っぽいが、頑強な扉には傷一つない。恐らくセーフハウスを警護している正義実現委員会の者だろう。何かあったのかとナギサは椅子を引き、立ち上がる。
「一体何ですか、紅茶ならばまだ――」
『……ナギサ?』
淡々とした口調でそう告げていたナギサは、耳に届いた声に思わず目を見開く。その声は全く予想だにしていなかったもので、自身の耳を疑った。
「その声は……先生? 何故此処に――い、いえ、それよりも」
どうして先生がトリニティに於いて一部の者しか知らないこの場所に? 正義実現委員会の警備は先生を通したのか? あらゆる疑問が瞬時に持ち上がったが、内部カメラで外の様子を伺えば確かに、そこに映っていたのは先生であった。薄暗いが故に鮮明ではないものの、十分にその顔を確認する事は出来る。
ナギサは思わず扉に駆け寄り、セイフティロックを解除すると扉を押し開けた。重々しい音を立てながら開閉される扉。するとナギサの視界に、息を切らせ所々汚れたシャーレ制服を身に纏う先生の姿が映った。その頬には擦過傷も見え、髪は乱れて顔色も酷い。思わず駆け寄った彼女は驚きと共に叫ぶ。
「そ、その恰好は一体、どうしたというのですか? 何があったのです……!?」
「何で、ナギサが此処に……まさか――」
しかし、先生はナギサの言葉に答えを返さない。蒼褪めた表情で、何かを悟ったような口ぶり。そして徐に背後を振り向くと、その顔をくしゃりと歪めた。
「誘い込まれたのか……ッ!?」
「えっ? い、一体何を――」
ナギサがそう戸惑いを口にするより早く、先生は彼女を抱き寄せ、部屋の中へと飛び込んだ。
「ッ、伏せろナギサッ!」
「ぇ――きゃあ!?」
銃声、そして甲高い破壊音。凡そ安全であった筈のセーフハウスに轟くそれ。先生はナギサを抱きかかえたままセーフハウスの床を転がり、身体を走り抜けた衝撃に呻き声を漏らす。ナギサは先生に抱えられたまま、一体何が起こったのだと目を白黒させた。そして床に横たわった状態で扉を見れば、そのすぐ脇に幾つもの弾痕が刻まれているのが確認できた。
そして、開き切った扉に手を掛け、セーフハウスへと踏み入る人影がひとつ。
「――ふふっ、誰も知らないセーフハウス、どれだけ騒いでも外に知られないというのは、大変よろしいですね♡」
ゆったりとした動作で踏み込み、倒れ伏した先生とナギサを見下ろす好戦的な瞳。トリニティ総合学園の制服、それを少しばかり改造した専用の衣服はそれが誰であるかを容易く理解させた。ナギサは倒れ伏したまま、彼女の名を呟く。
「浦和、ハナコ……さん?」
「あら、随分と不安そうなお顔ですが……あぁ、それもそうですよね、正義実現委員会が殆ど傍に居ない現状、不安に思う事は正常です、ナギサさん」
告げ、ハナコはこれ見よがしに愛銃の弾倉を外し、地面に放る。そして新しい弾倉を取り出すと、銃に嵌め込んだ。その動作一つ一つが、彼女の立ち位置を言外に表していた。ナギサは息を呑み、震える指先を握り締める。
「ど、どうして、あなたが此処に……」
「それはこのセーフハウスをどうやって知ったのか、という意味ですか? それとも、私が何故此処に居るのか、という問いかけでしょうか? ふふっ♡」
ハナコは笑みを浮かべ、数歩前進する。ナギサは青ざめた表情で先生の腕を掴むと、座り込んだ姿勢のまま必死に後退り、部屋の奥へと動こうとした。
「前者であれば、簡単な話です、私は全てのセーフハウスを把握しているからですよ、合計八十七個、そのローテーションテーブルさえも、ね?」
「……ッ!」
「変則的な運用も凡そ把握しています、例えば……今の様に警備が少なく、単独及び少数の護衛のみで身を隠す際は、この秘密の屋根裏部屋に隠れるという事も♡」
それは、ティーパーティーとその供回りしか知らない情報である筈だった。
誰かが漏らしたのか、或いは最初から知っていたのか。それを確かめる術が、今のナギサにはない。
「ぐ……っ」
「――ッ、せ、先生!」
ナギサは唐突な展開に思考が鈍り、周囲の状況確認すらままならない状態であった。故に、気付くのが遅れる。先生の腹部、その脇腹が朱く滲んでいる事に。シャーレの純白の制服が、内側から徐々に変色する。
「ま、まさか、撃たれて――!?」
その様子にナギサは思わず取り乱し、先生の体を抱き起そうと手を伸ばした。
「――動くな」
「っ!」
しかし、その手が先生を抱き起すより早く、声が響く。脂汗を浮かべ、腹部を抑える先生。そして血の気の失せたナギサに銃口を向ける小柄な影。トリニティの制服に、ガスマスクを着用した姿。ナギサはその銃口を見つめ叫ぶ。
「白洲、アズサ……っ!」
「………」
返答はなかった。しかし、やはりという感情があった。先生を強く抱きしめ、ナギサは二人を睥睨する。体は恐怖で震えていた、しかし、それ以上の感情がナギサの肉体を突き動かす。アズサに銃口を突き付けられたナギサを見つめ、ハナコは軽い足取りで歩み寄る。
「あぁ、勿論ここまでの間に警備の方々は全て片付けさせて頂きました、だからこうやって正面から堂々と来た訳ですが――」
「何故……何故、先生にまでこのような!?」
どこか飄々とした態度を崩さないハナコに、ナギサは叫ぶ。腹部を抑え酷い顔色を浮かべる先生を見下ろし、必死に。
「私を恨むのならば理解出来ます! 私を憎悪するのは、当然の事でしょう……ッ! しかし、先生はっ、あなた達の味方だった筈ですッ! 私に反発してまでっ……! なのに、どうしてこの様な仕打ちを――!?」
「――……うーん」
返答は、小さく唸る様な声。
どこか思案するように、或いはナギサの感情を観察するように。暫くそうやって小首を傾げていたハナコはふっと口元を緩めると、ナギサを見下ろしながら云った。
「えっと、何故、と云われましても」
その表情に宿るのは呆れか、或いは嘲りか。
数秒程先生を眺めた彼女は、とても良い笑顔で、まるで何でもない事の様に告げる。
「――ナギサさんを排除すると云ったら、『それは駄目だ』と反対されたので、仕方なく♡」
「………は」
思わず、言葉を失う。
もっと何か、決定的な何かがある筈だと――彼女はそう思っていた。
けれど事実は想像以上に簡素で、余りにも淡々としていて。先生を掴む手に、ぎゅっと力が籠る。先生がそれを反対する事は、余りにも見え透いた事実だった。
ナギサは唇を震わせたまま、呟く。
「し、仕方なく、で……撃ったのですか、先生を……?」
「えぇ、だって――」
頷き、両手を広げたハナコは。
いつも通りの温厚で、優し気で、理知的な瞳を以て――笑みさえも浮かべて、宣うのだ。
「これは革命を為すに必要な犠牲、大義の前の小義というものではありませんか♡」
――あなただって、大切なものを守るために、仕方ないと云って切り捨てたではありませんか。
「……そ――」
そんなものは、違う。
そう云い掛けて、ナギサは言葉を呑んだ。
何処までも無垢に、何処までも朗らかに、ハナコはそう宣ったからだ。
その行為に何の痛痒も、罪悪も感じていないという態度であった。余りにも超然としていて、糾弾する意思すらも削がれた。そう感じてしまう程に、今のハナコは恐ろしく、邪悪そのものに見えた。ナギサの顔が蒼褪め、思わず指先が震える。
「それと、ふふっ、私達がトリニティの裏切り者だと思っていらっしゃるナギサさんに、良い事を教えて差し上げます♡ 私もアズサちゃんも、ただの駒に過ぎません、指揮官は別にいるんですよ」
「指揮、官――」
その一言に、止まりかけたナギサの思考が巡り始めた。
最早状況だけ見れば、絶望的。正義実現委員会の警備は倒され、屋根裏部屋の此処からでは逃げ出す事もままならない。ましてや、先生を担いだ状態でなど――。しかし、その人物の正体を突き止め、何らかの形で知らせる事が出来れば、最悪は逃れられる。例え自身が此処で果てる結果となっても、僅かな証拠、メッセージを
そんな思いを噛み締め、ハナコを睨みつける。
「それは、誰ですか……ッ!?」
「……そうですねぇ」
頬に指を添え、考える素振りを見せるハナコは、小首を傾げ呟く。
「別段、教えてしまっても構いませんが……その前に、ナギサさんに聞きたい事があります」
「っ、この期に及んで、何を知りたいと云うのです……!?」
「補習授業部の件ですよ、果たして此処までやる必要はあったかと思いまして」
そのハナコの言葉に、ナギサは分かり易く顔を顰めた。その言葉の意図するところを理解したからだ。
「ナギサさんの立場からすれば色々と思い含む事もあるでしょう、その事自体は否定しません――しかし、シャーレまで動員して、その上ゲヘナ自治区にまで手を伸ばし、少々度が過ぎてはいませんか? まぁ、先生にこのような仕打ちをしておいて、どの口がと思わない事もありませんが、そもそもの話、発端はあなたなのですよ、ナギサさん?」
「………」
「私とアズサちゃんに関しては分かります、普段の行動や言動から訝しむのは当然です……ですが、ヒフミちゃんやコハルちゃんに対しては、あんまりではありませんか」
「それは――」
口を開き、云い淀む。
ナギサの脳裏に、ヒフミとの記憶が過った。ティーパーティーという肩書、問題行動の多いトリニティ内部、異なる派閥に属する以上、利害関係を全く考えずに交流する事は難しい。誰もが、ナギサという一人の生徒ではなく、ティーパーティーのナギサとして接する以上、それは仕方ない事なのかもしれない。友人という名の下心、大権の庇護を求める者達。それを目にした時、ナギサは酷く虚しい心地に襲われる。
だから、ティーパーティーとしてではなく、ひとりの生徒として、何の肩書も、打算もなく、ただ普通の友人として語り合える彼女は貴重だった。相手に敬意を持ち、けれど過度に畏まる事はなく、気安過ぎず、軽すぎず。
そう云った、普通の関係がどれだけ心休まる間柄であったか、本人はきっと理解していないだろう。ナギサ自身、幼い頃より関係のあったミカの様な人物を、この歳になって得られるとは微塵も思っていなかった程。
だから、後悔していないと云えば――嘘になる。
「っ、確かに、お二人には……特に、ヒフミさんには申し訳ない事をしました、そして――先生にも」
俯き、言葉を漏らす。
それは彼女にとっての本音だ。
恨まれて当然の事をした、如何なる罵倒も、嫌悪も、糾弾の声も受け入れよう。それは当然の権利であり、感情だ。
「彼女との間柄だけは守れたらと、そう思っていました……しかし、後悔はしておりません」
けれど、それを表に出す事は出来ない。
後悔していると――そう素直に吐露する事は、許されない。
逆の言葉を口にする事により、少しだけ感情が、心が強固になる。言葉は時折、口にする事で自分を奮い立たせてくれる。それが自分に云い聞かせるものであっても。だから、この感情は飲み下し、腹に込め、閉ざさなければならない。それが、ティーパーティーのホストである己に課せられた責務であり、使命であるから。
その信条を――その信念だけを胸に、ナギサは顔を上げ、断じた。
「
「……そうですか」
その言葉を聞き届けたハナコは、ふっと肩から力を抜いた。それは理解とも、憐憫とも取れる感情だった。
そうして彼女は徐に背後を振り向き――声を上げる。
何処までも広がる、暗闇に向けて。
「――だそうですよ、
「……えっ?」
その言葉に、ナギサは思わず声を漏らした。
それは反射的なものだった。驚きや疑問といった感情から生じたものではない、ただ、ハナコが何を口にしたのか、分からなかったから。
応じる様に扉を潜る、三人目の人影。
軽い足音を立てセーフハウスに踏み入るその人影は、ナギサの見知った姿をした人物で。
彼女はナギサの前に立ち、いつも通り、困ったように笑っていた。
震える唇で、ナギサは彼女の名を紡ぐ。その、余りにも見慣れた顔を見上げながら。
「ひ、ふ……み、さん……?」
「あはは……」
頬を掻き、首を傾げるヒフミ。彼女の纏う雰囲気はいつも通りで、だからこそ余りにも場違いであった。
日常の中の、あの穏やかな空気、それをこの場でも纏っている事が、余りにも不自然で。ナギサの口内が、乾いて行く。鼓動が早鐘を打つ。その音が、余りにも五月蠅い。
まさか、という想いがある。
ありえないと、理性が叫んだ。
疑ったのは自分だ、切り捨てたのも自分だ、それでも――違うかもしれないと、最後まで叫んでいたのもまた自分だった。
けれど、そんなものは所詮幻想に過ぎなくて。
現実は余りにも残酷で、衝撃的で。
ヒフミは苦笑を浮かべながら言葉を紡ぐ。
「まぁ、そうですよね……トリニティという大きな学園と、私ひとりだったら全然釣り合いませんし、えっと、ナギサ様の判断は至極当然だと思いますよ!」
まるでいつもの様に、落ち込んだナギサを、業務で疲れを漏らすナギサを労わり慰める様に。明るくそう口にするヒフミは、徐に担いでいた愛銃を構え、云った。
「それに、ほら、これでお互い様ですし!」
「……え? ――ぇ?」
ヒフミの持った愛銃、その銃口が、そっとナギサに向けられる。
マイ・ネセシティ、彼女がいつも持ち歩く、あのペロロなるバッグと同じ位、彼女が大切にしているもの。それを学園の敵ではなく、自分に向けている。
それを信じられない心地で見つめ、ナギサは座り込んだままヒフミの瞳を見返した。その瞳には、何の色も感じられなかった。
友愛も、親愛も、敬愛も――何もかも。
「あはは……えっと、それなりに楽しかったですよ? ナギサ様との――」
その瞳が引き絞られ、口元が三日月を描き。
「――お友達ごっこ」
「ぁ……――」
そして、自身は判断を誤ったのだと――ナギサは、そう理解した。
「ナギサぁッ!?」
銃声、そして駆け抜ける衝撃。
思わず目を瞑ったナギサは、身を強張らせて両手を握り締める。しかし弾丸がナギサを穿つ事は無かった。その直前に、何か暖かく、大きなものがナギサを覆い、弾丸から身を守る盾となった。ナギサの視界が暗転し、次いで――身を揺らす衝撃。
音と衝撃がナギサの体を揺らし、くぐもった呻き声が至近距離で鼓膜を叩いた。
「ぇ、ぁ…………え?」
銃声は凡そ六発分、トリガーにして二回。ほんの数秒足らずの時間だった。再び目を開けた時、目の前には薄らと汚れた純白があった。それが、先生の制服である事を、ナギサは遅れて認識する。先生に覆われたナギサは、一体何が起こったのか理解出来ずにいた。自身を抱きしめ、背中を晒す先生。首を上げ、肩越しにヒフミを見たナギサ、すぐ傍には硝煙を吹き上げる銃口。その光景から何が起きたのかは一目瞭然で。
ナギサは喘ぐ様に呼吸を繰り返し、抱きしめられたまま、恐る恐る先生の背中に手を回した。その白いシャーレの制服に、軽く、撫でる様に、指先で。
すると、妙なぬめりと、水っぽさを感じた。抱き締めた先生の背中にはどろりと、生暖かい何かが付着していた。掌を、見つめる。自身の手に付着したそれを。
その赤色を、ナギサは揺れる視線で凝視し続ける。
「っ、ぁ……せん、せい……?」
「な、ギサ……っ――」
酷く荒い、息遣い。ナギサを抱えていた腕がするりと解け、床に落ちる。ナギサひとりが先生を抱きしめながら、彼は痛みに呻き、それでも必死に何かを伝えようとした。先生の顔は見えない、その表情は伺えない、けれど彼の指先が、ナギサの背中を最後に、そっと抱き締める。
「な、な……ん――? せんせ、な……――」
「ぅ……」
言葉が、紡げない。上手く舌が回らない。どうして、何故? そんな疑問がぐるぐると脳内を巡り、抱えきれない感情があらゆる形で噴出する。きっと今、自分は酷い顔をしているに違いない。先生を陥れたのは自分で、先生はただの人間で、銃弾一発でも致命傷になり得ると知っているのに。力なくナギサの肩に顔を乗せ、徐々に呼吸が浅くなる先生。
ナギサの脳裏に、いつか先生の云った言葉が過った。
生徒全員が笑って迎えられる――そんな
そう願った先生は、血に塗れ、苦しみに喘ぎながら、ナギサの腕を掴み、懇願するように云った。
「に、げてっ……!」
「――ぁ」
それが、先生の最後の言葉だった。
ゆっくりと傾き、横向きに崩れる肉体。力の抜けたナギサの腕がするりと抜け落ち、先生は水音を立てて床に沈む。その姿をナギサはただ、呆然と見つめる事しか出来なかった。中途半端に伸びた手が、その赤に塗れた手が、鮮明に現実を強調する。
――何が起きた? ナギサの理性が問いかける。
簡単な話だ、先生が
ただ、それだけの話だった。
たったそれだけの、とても残酷な話だった。
「あ、あぁ……」
思わず、口から息が漏れる。
震えながら伸ばした手が、先生の肩に触れた。
「……あぁ、ぁ、そ――ん、な……そん、な……ッ!」
悲壮とも、後悔とも取れる声が響く。手を伸ばし、先生の肩を揺らす。小さく、何度も、けれど彼は反応を返さず、ぴくりともしない。閉じられた瞼は開かない。青を通り越し、白くさえ見える先生の表情だけが、ナギサを見ていた。
「あら、庇われてしまいましたね」
「あぅ……失敗しちゃいました」
「射撃訓練をきちんと積んでいないからそうなる」
ナギサの前に立つ三人は、呑気にもその様な言葉を交わしている。先生を揺すっていたナギサは、そんな彼女達を前に、どうしようもない感情が沸き上がっている事を自覚した。それが自身の云うべき事でも、その資格もない事を理解しておきながら、それを腹に押し込むことが――彼女はどうしても出来なかった。
「な、なんで……どうして……?」
「ん?」
呟き、顔を俯かせる。ナギサは先生を凝視したまま、肩を震わせた。けれどそれは怯えや恐怖から来るものではなかった。先生に伸ばしていた手を、握り締める。
「せ、先生は……――先生はッ……!」
だって、この人は――。
「わ、私と口論してまで、こ、心の底から、あなた達を、ずっと信じていたのに……っ!」
俯いていた顔を上げ、ナギサは目の前の三人を睨みつけた。どこまでも淡々としていて、何の罪悪を感じる素振りを見せない生徒達に。彼女は大粒の涙を流し、トリニティの品位を投げ捨て、訴えた。
「私なんかとは違うッ、心からッ! あなた方、補習授業部の為に、どれだけっ、どれだけこの人が尽力したと……心を砕いたと思っているのですかッ!? どれだけ、あなた方を想っていた事か――ッ!? それを知っておきながら、あなたはァッ!?」
叫び、半ば狂乱しながら、ナギサは自身のショルダーホルスターに収納された
赤く充血し、血走った瞳と共に、ナギサは銃口を直ぐ傍にいたハナコに向ける。ハナコの目が、驚いた様に見開かれた。
「――随分と回る舌だ」
「あぐッ……!?」
しかし、その引き金を絞るより早く、横合いから繰り出されたストックによる打撃がナギサを襲った。硬質的なストックがナギサの腕を払い、強い衝撃と痺れと共に愛銃が床に転がる。次いでナギサの胸元目掛けて蹴りが入れられた。それに対処するだけの余裕も、技術も、ナギサには無かった。強かに胸元を蹴り飛ばされ、ナギサは床に押し倒される。そのまま咳き込むナギサの腹を、アズサは踏み躙り、銃口を向けた。
苦悶の表情でアズサを見上げれば、マスク越しに冷たい視線が此方を見下ろしているのが見えた。ナギサはアズサの足を掴み、叫ぼうとする。
「ぅ、ぐッ……こ、の――ッ!」
「威勢が良いのは結構だが、力も技術も足りていない……それに」
銃口を向けながら、アズサは徐に顔を近付け、告げた。
「先生がこうなったのは、あなたの責任だろう?」
「――なに、を……ッ!」
「あなたが先生を説得出来れば、或いはあなたが『あんな手段』を取らなければ、私達だって穏便に済ませるつもりだったのに――」
声は淡々としていた、抑揚も、感情も込められてはいなかった。
だからそれが嘘であると、ブラフであると、そう断じる事は容易であった。
自身を動揺させる為の、或いは精神的に屈服させるための文言。
けれど、ほんの少しだけ、僅かな隙間から、まるで毒の様にその言葉はナギサの心に沁み込む。自分が先生を説得出来ていれば、もっと早く動けていれば、彼女達を捕縛する事だって叶った筈だ。それは、自分の力が足りなかったから。先生を納得させるだけの材料を、心持を、自分が示す事が出来なかったから。
「そもそも、あなたが先生を巻き込まなければ、こんな事にはならなかったのに」
「……――ぅ」
そうすれば、先生は
それは、単なる責任転嫁だと思った。撃ち殺した相手が、「お前のせいで死んだのだ」と、そう口にする事の何と傲慢か。他者を害した責任は、その引き金を引いた者にこそある。或いは、その意思に賛同した者に。ナギサの理性は、そう考える。
けれど、それでもほんの一握り、或いは責任感の強い者程、その心は悲鳴を上げる。
あらゆる「IF」が思考を過り、その感情を刺激するのだ。
私が――。
私が、間違ったのではないか、と。
私が、先生を呼ばなければ。
トリニティに招致しようなんて、考えなければ。
先生は、私が殺した様なものではないかと――そんな風に。
一度考えてしまえば、その思考がこびり付いて離れない。
先生をトリニティに招いたのは自分だ、ミカに提言されたとはいえ最終判断を下したのはホストである自分なのだ。だから、その責任は自分にある筈で。更に言えば、彼女の云った様に、あんな手段を用いなければ、もっと穏便で先生に寄り添った方法で彼女達と接触を持てたのなら、こんな結末になる事は避けられたのではないのか? 或いは、先生はそれを見越して動いていたのではないか。
ならば、自分のやった事は――それを全てぶち壊す様な事ではないのか。
全ては裏目で、無意味な行為ではなかったのかと。
ナギサの唇が震える、アズサの足を掴む指先から力が抜けた。
視線が左右に散って、その漏れ出る息が荒くなる。
考えれば考える程、心は罅割れ、精神が揺らぐ。
違う、違うと自身を奮い立たせる為に否定する声すら、彼女は徐々に発せられなくなっていた。
その様子に気付いたアズサは、一瞬その呼吸を止め、そっと足をナギサの上から退けた。
抑えを失ったナギサは、勢い良く立ち上がる――事はなく。
その場で蹲り、自身の頭を抱えながら震えだした。
宛ら赤子の如く、全身を震わせ、目を見開き、涙を流しながら。
「ご――」
桐藤ナギサは――失敗したのだ。
「ごめん、なさい……ごめんなさい、ごめんなさい先生! ごめんなさいミカさん! ごめんなさいセイアさんッ! わ、わた、私は、なん、なんて……なんて、過ちを……! わた、私のせいで、あぁ――あ、あぁあぁッ!」
「………っ」
感情が溢れた。心の堤防が決壊した。
心が、折れた。
最後まで彼女自身を守っていた自尊心や狂気、立場や矜持といったものが全て溶け落ち、残ったのは自身の齎した結果を受け入れられず、ただ謝罪と後悔を口にするだけの小さな少女だけだった。
大切なものは守れず、自身を思い遣ってくれた人物を失い、最後にこれだけはと思った学園すらもう、ナギサの手を離れた。
彼女には何も残っていなかった。
その心を支えるものは、本当に、何も。
歯を打ち鳴らし、頭を抱えて震えるティーパーティーのホスト。倒れ伏した先生を凝視し、悲嘆に暮れる彼女を見下ろすアズサは、その表情をマスクの内側で顰め、思わず呟いた。
「――見るに堪えない」
そこからは素早かった。
銃口を彼女の脇腹に向け、引き金を絞る。
フルオートで放たれた弾丸は嵐の如くナギサの脇腹を叩き、マズルフラッシュがアズサの網膜を焼いた。射撃時間は数秒に満たなかったが、彼女の意識を断ち切るには十分な威力を誇っており――。
「ぁ、ぐ――……」
「その、なんだ……ごめん」
弾倉丸々一つ分、それを至近距離で撃ち込まれたナギサの意識は混濁し、撃ち込まれた腹部を手で押さえ、痛みと嘔吐感を堪えながら、喘ぐ様に呼吸を繰り返し必死に先生へと手を伸ばす。
「せ、ん――せ……」
目前に見える、先生の顔。
その頬に指先が触れるより早く――彼女の意識は、闇の中へと沈んだ。
■
「……目標の沈黙を確認」
倒れ伏したナギサを確認し、アズサはそう告げた。被っていたガスマスクを脱ぎ、僅かに滲んだ汗を拭う。弾倉を検めれば、中身は空。凡そマガジン一つ分を至近距離で直撃させた。足元には空薬莢が幾つも転がっている。
ヒフミはアズサとナギサを見比べ、どこか不安そうに声を漏らした。
「あ、あぅ……これで良かったんですかね? ちょっと、というか、かなり、やり過ぎじゃあ――」
「ふふっ、良いんですよヒフミちゃん、私達のされた事を考えれば、この位の過激な仕返しは許される筈です、少しくらい、ショックを受けて貰わないと♡」
「……これ、少しのショックで済むのか?」
「大丈夫ですよ、ナギサさんの心臓は毛が生えているというレベルではなく、最早鋼ですから♡」
そう云って朗らかに笑うハナコは、やや不穏な雰囲気を放っている。アズサはナギサと個人的な繋がりを持っていない為、その生徒のメンタルがどの程度頑強なのかを知らないが、先程の取り乱し方はかなり酷かった様に思う。果たして本当に大丈夫なのかという不安が過ったが、笑みを浮かべながら満足げにするハナコを前にすると何も云えなかった。
「あっ、せ、先生、もう起き上がっても大丈夫ですよ……?」
ヒフミは先生の傍に駆け寄ると、そっとその肩を揺らす。すると先程まで倒れ伏していた先生は、閉じていた瞼を開き、緩慢な動作で上体を起こした。自身の無事を確かめる様に体を動かし、所々赤く滲んだ制服を見て顔を顰める。
「ふぅ……いや、中々にヘヴィだったね」
「先生、身体の方は大丈夫ですか?」
「うん、ちょっと衝撃が走った程度だったし、ペイント弾だからそんなに」
告げ、先生は服の中に手を入れると胴体に巻き付いたハーネスを緩める。すると先生の背中から、するりと薄手の防弾布が抜け落ちた。軽い音を立てて転がったソレは、通常のボディーアーマー等と比べれば非常に軽く、薄く、嵩張らない。しかしその分防御面に限っては9mmを防ぐのが精々であり、それ以上の口径が溢れかえったキヴォトスでは文字通り気休め程度にしかならない代物だった。
それでもペイント弾程度ならば全く問題にならない防御力なので、今回の作戦に採用された訳である。先生がそっと背中に手を回せば、血に良く似た赤黒い液体が付着する。そして隣で意識を失っているナギサを見ると、不安げな表情を浮かべながら呟いた。
「……今更だけれど、これはちょっと、やり過ぎた感じが――」
「ナギサさんは強かですので、問題ありません」
「そう、かな? いや、まぁ、うん……強かというのは同意するけれど、今回のは――」
「先生も一度本気で死にかけたんですから、此方も心臓が飛び出る位のドッキリをしないと、イーブンではありませんよ、先生?」
「うーん……」
目には目を歯には歯を、というのか。
ハナコは存外根に持つタイプだという事が良く分かる、特に自身の中で定める一線を越えた相手に対しては容赦がない。先生は倒れ伏したナギサの髪を払い、その頬を撫でつけると、大変申し訳なさそうな表情で告げた。
「……本当にごめんナギサ、全部終わったら土下座するし、何でもするから、それで許して欲しい」
この騒動が終わった後ならば、幾らでも時間は取れる筈だから。だからどうか今は勘弁して欲しい、そんな感情を込めて頭を下げ、立ち上がる。
「アズサちゃん、ナギサさんはどの位気を失っていますか?」
「えっと、近距離で弾倉一つ分当てたから、一時間位は起きないと思う」
「そうですか、分かりました、それでは――先生?」
「……あぁ、始めよう」
色々思う所はあるが、先生は頷き、タブレットを取り出す。
これは作戦の第一段階に過ぎない、本当の戦いは此処から始まるのだ。
「ふふっ♡ ではアズサちゃん、ここからは敵の誘導をお願い出来ますか?」
「了解、これでまだどこかに居る、本当のトリニティの裏切者に嘘の情報が流れる筈――それに、ハナコの仮説が正しければ、アリウスも動き出す」
「えぇ、私の推測通りならば……はっきりした証拠はありません、しかし、個人的にほぼ確信があります――本当の、裏切り者について」
「………」
ハナコの言葉に、先生はそっと瞼を閉じる。
本当の裏切者――その言葉の、何と虚しい事か。
自然とタブレットを持つ指先に力が籠り、先生は大きく息を吸い、心を落ち着けた。どちらにせよ対決を避ける事は出来ない。此処まで来たら、やれる事をやるだけだ。
「まぁ、ナギサさんの件については全てが終われば誤解は解けますし、今は目の前に集中しましょう」
「……ん、分かった」
「あ、あぅ……ほ、本当に良いのでしょうか……?」
「あ――お、終わったの……?」
そんな事を話していると、扉の向こう側から小柄な影が顔を覗かせた。彼女は愛銃を抱えたまま、恐る恐るセーフハウスの中へと足を踏み入れる。
「あ、コハルちゃん……」
「えぇ、完璧な演技でした♡」
「うぅ……本当に大丈夫かな……?」
「……駄目だった時は、精一杯謝るよ、それはもう、全力で」
倒れ伏すナギサを見下ろしたコハルは、先生と同じようにどこか不安気に呟く。本当にここまでやって良かったのだろうかという葛藤が見られるが、しかしやってしまったものは仕方ない。先生としては怒られて当然の事をしたという認識なので、開口一番土下座も辞さない構えである。心の傷が癒えるまでは、トリニティに出張する事も視野に入れている。ついでに今度、うんと高い紅茶を買って行こう。あとは、菓子折りも。
「――そうだアズサ、アリウスの兵力については分かるかい?」
「兵力?」
「あぁ、具体的に云うと……そうだな、アズサが単独でどれだけ粘れるかが知りたい」
「あぁ、そういう事か」
先生の問いかけに、アズサはフンスと鼻を鳴らして胸を張る。
「見くびってくれるな先生、備えは随分前からしてきた、毎晩周辺にトラップ、塹壕、襲撃スポットを作った、それに先生のサポートもある――ゲリラ戦に持ち込めば、どれ程の相手、兵力だったとしても、絶対に負けはしない」
「ふふっ、頼もしいですね♡」
アズサの返答に、ハナコは満足そうに笑って云った。彼女は自身の愛銃に新しい弾倉を嵌め込み、背嚢を背負い直す。此処からは時間と、そしてタイミングの勝負だった。扉の前まで足を進めたアズサは振り向き、口を開く。
「じゃあ、私は行く――また、合流地点で」
「き、気を付けて下さいね、アズサちゃん!」
「無茶はしないようにね!?」
「アズサちゃん、何かあった時は端末に連絡を、直ぐに駆けつけますので」
「うん、ありがとう」
アズサは皆の声に手を挙げ、真剣な表情でセーフハウスを飛び出して行く。皆はその背中を見送り、先生はナギサの傍に屈み込むと、その体を抱き起しながら云った。
「……よし、私達も動こう」
「えぇ!」
「う、うん!」
「はいっ!」
あ゛ぁ゛~生徒の泣き顔が胸に沁みるぅ゛~。
選ばれたのは
普段澄ました顔をしている生徒が追い詰められて精神が崩れかかった所に「お前のせいだ」と責任を押し付けられ、幾らでも反駁の余地はあるのにその糸口すら掴めず頭を抱えて「ごめんなさい」と口にする様子は心温まるワンシーンですわね……。
ふぅ~、良い事をした後の後書きはサイコォに気持ち良いですわぁ~! これでナギちゃんも一皮むけて、より成長出来た事でしょう!(良い方向にとは云っていない) あぁ、御礼は結構ですことよ、人として当然の事をしたまでの事ですもの!
それにしても補習授業部がナギサ確保に間に合わず、アリウスに射殺されたナギサ世界線を望む先生が一番多いってマジですの? 生徒を助ける事が出来ず、唯々呆然と立ち尽くし自己嫌悪と罪悪感と喪失感に打ちのめされる先生と、セイアに続いてナギサ射殺の報告を聞き、何度も何度もその報告を聞き返して、全てが遅かったのだと理解して、引き攣った笑みを浮かべながら座り込んで、「――……そっかぁ」って今にも擦り切れそうな声を零し、それでも為してしまった現実を前にして立ち止まる事は尚許されず、また一つ大きな罪悪を背負いながらも破滅への道を歩む覚悟をより強固にして先生と対峙するミカ、そして苦悶の表情を浮かべながら必死に手を伸ばすも届かない先生のバッドエンドが見たいとかちょっと正気を疑いますわね。何でそんな事しますの? 良心とか思い遣る心とか、お持ちではない? 何て方々なのかしら? わたくしにはそんな真似、可哀そうでとてもとても……。人としての道を踏み外してはいけません事よ?
ぶっちゃけ「先生が間に合わなかったルート」を考えると、ベアおばがクロコの漏らした未来知識をどこまで知っているかによりますわね~。ミカの事を認識しているのなら、彼女をこのまま地獄に突き落とす事を考えるとナギサ殺害がターニングポイントになっているので、是が非でも殺そうとするでしょうし。
因みにナギサが死ぬと、先生は生徒を失った事により心が大きく罅割れ、ミカに至っては浄化されかけていた心情が一気に汚染されてしまいます。原作ではハナコにセイアの件について触れられ、その振り上げた拳を降ろしましたが、ナギサが死亡している場合は、「なら、ナギちゃんは何の為に死んだの?」となり、その死に殉じる為に止まる事はありません。文字通り、自分のヘイローが破壊されるまで暴れ倒します。まぁ殆どの場合は気絶で済むでしょうが、何ならこの場合、先生がヘイローに直接介入する事も厭いません。下手をするとナギサに続いてミカまで死んでしまう可能性がある訳ですから、個人的な信条は投げ捨ててくれます。
最悪のルートは先生の目の前で暴れ倒すミカのヘイローが破壊されてしまう場合です。先生が危険だからとか、何らかの理由でミカのヘイローが破壊されてしまったら、先生は凄まじい顔を浮かべるでしょう。それはたった一夜にして生徒を二人失ってしまったという事実、そして自身の手の届く範囲でソレが起こってしまった事、自身が選択を誤ったのだという強烈な自己嫌悪が限りなく先生の精神を蝕みます。それでも勿論、先生が折れたり、立ち止まったり、ましてや自決するような事はありません。しかし、これからの物語の中で昏く、深い影を先生の中に落とす事は確実です。
因みにこのルートに突入したら、ゲマおばはエラい目に遭います。そりゃあ、生徒を二人も殺害している訳ですから、「黙れ」程度では済みませんよ。マジで漆黒の意思を抱えた先生がエラい形相でアリウスに乗り込んできます。
というかこのルートで一番良い顔をするのは先生なんですわよね……。私は生徒の泣き顔を見て胸をポカポカさせたいのに、涙を零してくれそうな子がミカしかいないのですわ。ナギサとミカの死という壁を前に必死に足掻き、涙を流し、慟哭し、それでも尚前に進もうとする先生の姿はとても素晴らしいのですが、それはそれとして私は先生の手足を捥いで泣き喚く生徒を見てニッコリしたいのですわ。生徒を失う話は、プレナパテス先生の為に取っておきますの……うぅ、プレナパテス先生かわいそう……元気出して?
でもナギサが死んでしまった事を知ったミカは、割と本気で自分が死ぬまで戦いそうで怖いですわ~。ある意味、ここで自身が死ぬことによって漸く止まれる、そして止めてくれる人物は先生を置いて他に居ないと、そう信頼しているが故の行動だと考えると、皮肉ですわねぇ~。
ある種、キヴォトス動乱で生徒に介錯を頼んだ時の先生と同じ状況ですもの。信頼し、想いを寄せている相手を殺さなくてはいけない、その時の感情を味わう事になる先生はきっと、とても素敵なお顔をしていらっしゃいますわ~! 先生に肉薄して、然も今から先生を害すような素振りを見せて、けれど引き金を引くつもりなんて欠片も無くて、先生を守る為に放たれた無数の弾丸の中で微笑み、ごめんね、先生、なんて云って目の前で死なれたら先生の心がズタボロになるでホンマ。一生忘れられない思い出……ってコト!? でもまぁ本編のミカにはミカ(未来)も付いているので、本当の本当にやばくなったら切り替わって逃走するから安心してね。
生徒に酷い事をするなんて、そんな、非人道的なこと……私にはッ、て゛き゛な゛い゛ッ!
多分その内IFでナギサがズタボロルートを書きますわ~! うぅ、でも可哀そうだから先生代わりにズタボロにするね……?
しっかしナギちゃんこの件で人間(生徒)不信が加速するのでは? そしたら先生が精一杯甘やかして、ドロドロに依存させて、それからまた目の前で死んであげましょうね~。生徒の泣き顔を、次の泣き顔に繋げるのですわ~! 一回嘘でも目の前で死んでしまったから、ナギサは嫌でも意識してしまうのですわ~! あぁ~、先生の傷に過剰に反応してしまうナギサ様概念~~~~。あっ、因みにヒフナギ派の方はご安心下さって! 今回の件でナギサ様のヒフミに対する好感度が大きく下がる事はございませんの! 絆ランク「97」が「95」になった程度ですわ~! でも真実を知った後にナギサはハナコに強烈な苦手意識を抱きますわ~~! まぁこんな事やらかしたらね、主犯に対して色々思っちゃうよね。まぁ元々そんなに仲が良い訳でもないし……ヨシ! ヨシじゃないが? 先生からすると皆仲良くして欲しいのだが? でもナギサの泣き顔を見る為には犠牲が必要なんですわよぉ!! ハナコは先生の秘密を知ってしまった為に過激になってしまったんだ……でもその為に先生射殺するドッキリする必要ある? これはね、ナギサの試験会場爆破は場合によってこんな結末になったんだぞというハナコなりの遠回しな抗議なんですわよ。嘘ですわよ。私が単に見たかっただけですわよ。