「クリア――周辺一帯の制圧完了」
「……嫌に静かだ」
廊下を進むアリウスの部隊、彼女達は最低限の警備で固められている筈のセーフハウスへと足を踏み入れていた。最低限の光源、そして人気のない室内。廊下を巡回している筈の正義実現委員会の姿すらなく、彼女達は困惑を隠せずにいる。そして二階、三階へと上がり、最上階の屋根裏部屋、そこへと続く扉を前にして、彼女達は互いにサインを送り頷き合う。
予め入手していたセーフハウスの解除キー、ティーパーティーのメンバーのみ支給されるそれをカードリーダーに翳せば、重々しい扉から硬質的な音が響き、ロックが解除された。空かさず、傍に立った生徒が扉を開け放ち、アリウスの生徒達は雪崩れ込む様にして室内に踏み込む。銃を構えたまま、室内をなぞる様にして移動する彼女達は――しかし、目標の姿を捉える事が出来なかった。
大きさはちょっとした民家のリビング程度、室内にはティーテーブルとアンティーク家具が複数。棚には食糧やら紅茶の茶葉やらが瓶詰で保管されている。それらを視界に収めながら、彼女達は口を開いた。
「セーフハウス、クリア……しかし、これは」
「……蛻の空です」
「先客があったか」
「恐らく」
部屋を隅から隅まで観察するアリウスの生徒達は、自分達が出し抜かれたのだと勘付いた。生徒の一人が這い蹲り、棚の下に手を伸ばす。すると、その僅かな隙間から空薬莢を拾い上げた。摘まんだそれを観察した生徒の一人は、拳の中にそれを握り込み、呟く。
「まさか……あの情報が本当だったとはな」
声には、僅かな落胆が混じっていた。
立ち上がり、空薬莢を傍の生徒に手渡した彼女は、指先で扉を指し示しながら告げる。
「――プランを切り替える、周辺の探索に移れ」
「了解」
「合流予定のスパイは?」
「それが、未だ連絡が――」
そう、副官ポジションの生徒が呟けば、不意に耳元のインカムから声が響いた。
『こちらチームⅣ、襲撃を受けた……っ!』
「……ほう」
襲撃、その言葉に生徒達の空気がひりつく。中央に立った生徒はインカムに指を添え、応答する。
「こちらチームⅠ、襲撃とはどういう事だ、正義実現委員会ならば――」
『違う、スパイだッ! スパイが裏切ったッ! クソ、ぐあァッ!?』
悲鳴と共に、インカムの向こう側から爆発音が響いた。そして凄まじいノイズと、硬質的な音。爆発でインカムが吹き飛ばされたか、破損したのか。セーフハウスの此処からでは確認できないが、少なくともチームⅣが大きな損害を被ったのは確かだった。
「た、隊長……」
「――裏切り、か」
呟き、拳を握り締める。
隊長と呼ばれた生徒、その眼光が鋭く絞られた。
『うん、そう』
インカムから、先程とは異なる声が響いた。それが襲撃犯であると、彼女はとっさに理解する。スパイと呼ばれた彼女――白洲アズサは、チームⅣのリーダーを戦闘不能にし、その通信手段を奪取したのだ。
「……何故、裏切った」
『早く終わらせて、試験を受けなきゃいけないから』
「………」
『正義実現委員会には既に報告が向かっている、逃げるなら今の内だ』
その言葉を聞き届け、隊長と呼ばれた生徒はチームⅣからの通信を遮断する。そして全体通信に切り替えると、残りのチームに向けて通達した。
「……全体通達、
返答は無かった、しかしそれで良い。予め決めていた番号を打ち込み、インカムを予備の二番チャンネルへと接続する。ワンタッチやボタン一つで切り替えられるような杜撰な状態にはしていない。
先の会話を聞いていた副官は、どこか不安げな気配を漂わせ呟く。
「正義実現委員会が動くと、確かに今――」
「いや、ブラフだ、正義実現委員会は動かない……彼奴がしくじっていない限りはな」
銃を抱え直し、彼女は答える。もし正義実現委員会が動くのならば、事前に通達がある筈だった。そしてそれがない以上、彼女の言葉は時間稼ぎか、単なるブラフに過ぎない。
「……行くぞ、任務を果たす」
「了解」
隊長に続き、アリウスの生徒達はセーフハウスを後にする。先頭を行く彼女は二番チャンネルで幾つかの部隊に指示を出した後、ポケットの中に仕舞い込んでいた端末を取り出し、通話ボタンを押し込んだ。数コールの後、電話口の向こう側から気だるげな声が響く。
『――なに?』
「状況が変わった」
『……どうすれば良いの』
「私が単独で動く、任務達成後全員の待機を解いてバックアップに回れ、ただし目標物の複製が最優先、万が一の場合は姫だけでも逃がせ」
『わかった』
告げ、一方的に通話を切る。通話相手はこの作戦にて単独行動を行い、支援も約束されていない特殊作戦班。それ故に他部隊との連絡手段は限られ、インカムも装備していない。その為、個人的な端末を持ち出した訳だが――通話の内容を聞いていた副官は、恐る恐る口を開く。
「……隊長」
「――『スクワッド』と合流する、以降、チームⅠの指揮は貴様が執れ」
「りょ、了解」
告げ、隊長と呼ばれた生徒からインカムを受け取る。彼女は二度、三度、鼓舞するように副官の肩を叩くと、真剣な眼差しで以て告げた。
「アリウスから増援が来る、最悪、トリニティとの全面抗争も想定しろ――その前に、ターゲットは何としても確保するんだ」
「はっ!」
達成するべき事は変わらない。それを再確認し、チームⅠはセーフハウスを飛び出し闇夜に紛れる。その背中を見送り、彼女――サオリは頭上に浮かぶ星々を仰いだ。
月は、薄らと雲に身を隠し続ける。
「何故足掻く――白洲アズサ」
■
「ターゲットはこの合宿所の中に逃げ込んだとの報告が――」
「良し」
暗闇の中、アリウス部隊は補習授業部が詰めている筈の合宿所へと足を進めていた。
ターゲットである桐藤ナギサのロスト、これに補習授業部が関わっているという事は確かな情報であった。同時に、先程までアリウスの部隊を単独で攻撃していた白洲アズサ――彼女がこの合宿所に逃げ込んだとの報告がある。何を狙っているのかは分からない、しかし放置する事も出来ない。ナギサ捜索班とは別に、白洲アズサを無力化、拘束する為の部隊を動員させる。
「侵入経路は正面玄関と、食堂の勝手口のみ……内、勝手口の方は溶接され、バリケードも積まれている様です」
「窓は?」
「既にシャッターが降りています、合宿所の防衛システムが作動したのかと」
「絞られたか――バリケードの突破に時間はどれ程掛かる?」
「爆破許可があれば一分、爆薬を用いない突破であれば三分」
「……手で抉じ開けろ、爆薬の使用許可は出さない」
「了解」
部隊が別れ、駆けていく。間違いなく何らかの策は講じられている事だろう。しかし、数も装備も此方が上。スパイの装備は酷く限定的で、弾薬すら限られた状況にある。
たった一人で、何が出来るというのか。
『こちらチームⅢ、チームⅤと合流完了、食堂の勝手口にてバリケード撤去作業に入る、作業完了予定時刻は三分後』
「了解――先に此方から攻勢を仕掛け、注意を引く、可能な限り急げ、アウト」
告げ、隊長はハンドサインを出し、玄関前に待機していた生徒がそっと扉に手を掛ける。予め用意していたマスターキーを翳すと、電子音と共に玄関の鍵が開錠された。現状、トリニティに於いてアリウスに開錠できない扉は存在しない。
そして先頭の生徒が扉を僅かに押し開け、中を覗き込み――。
「――だと思った」
ピン、と何かを引っ張る感覚があった。
扉を押し開けた生徒が見たのは、薄らと闇の中で光る一本のワイヤー。そしてそれが何を意味するかを理解するより早く、爆発が巻き起こり、爆炎と衝撃に呑まれながら扉ごと吹き飛ぶ。扉を開けた生徒、そして階段下で突入を待機していたもう一名が宙を舞い、地面に叩きつけられる。爆風と爆炎に肌を舐められながら、隊長は叫ぶ。
「ッ……な、何だ!?」
「爆破トラップ――!」
重々しい音を立てて転がる扉、立ち上る噴煙。それを見据えながらロビーの柱に身を隠すアズサは、愛銃の安全装置を弾く。
「入り口が限られている上、元は隠密行動……壁を爆破する量の爆薬何て携行していない、なら入り口から馬鹿正直に攻めるしかない筈、違う?」
「ちっ……!」
呟き、アズサは柱から身を乗り出し射撃を敢行する。爆発に気を取られ、遮蔽に身を隠すことも無く混乱するアリウス生徒の顔面を弾く。一名、二名が崩れ落ち、意識を飛ばす。しかし其処は幼少期より訓練されたアリウス生徒、銃声が聞こえた瞬間素早く姿勢を立て直し、各々が射線から身を隠す。そしてアズサの弾切れのタイミングを狙って応射を開始、しかしその頃には既に影もなく、アズサは廊下へと身を翻し合宿所の奥へと撤退を開始していた。
隊長はその姿を険しい表情で見送り、叫ぶ。
「……被害報告!」
「チームⅠ、負傷者四名……! 爆発で二名、射撃で二名、やられました!」
「負傷者を下がらせろ、動ける者は続け、彼奴を追う」
負傷者四名、小隊は一チーム十名で行動する為、チームの約半数が行動不能になった事になる。後続の部隊がまだいるとは云え、人員も無限ではない。そんな事を考えていると、遠くで爆発音が鳴り響いた。音は合宿所の裏手からで、思わずインカムに向かって叫ぶ。
「チームⅢ、チームⅤ、どうした!?」
『チームⅢ、バリケード撤去中にクレイモアが起爆、負傷者三名……っ!』
『チームⅤ、同じく三名負傷……何だこれは、ビニール袋――いや、
更に、重ねて爆発音。今度は、先程よりも二段も、三段も大きな爆発だった。思わず顔を顰め、立ち昇る噴煙を見上げる。インカムからはノイズが走り、それ以降何も耳にする事はなかった。隣に立っていた生徒がおずおずと告げる。
「チームⅤ、連絡途絶……チームⅢも、恐らく全滅です」
「たった一人に、このザマか……!」
インカムから指を離し、吐き捨てる。恐らくバリケードに見せかけた雑多な配置の中に、地雷の如く爆発物を紛れ込ませていたのだろう。敵がバリケードを破壊、乃至爆発物に気付いた時点で連鎖的に起爆させる。
明らかな自身の判断ミスだ、爆薬でバリケード諸共吹き飛ばしていれば被害は少なく済んだかもしれない。爆薬の使用を躊躇い、温存しようとした事が裏目に出た。
しかし、もしもの話をしても仕方がない。今ある戦力、そして策で戦うしかないのだ。
「これは、帰還したら大目玉だな」
「いえ、しかし相手は元スク――」
「関係ない、今は裏切り者だ」
断じ、立ち上がる。
自身の失態は、自身で拭わなければならない。
たとえそれが無意味な事であったとしても。
「前進する、後衛チームを呼び戻せ、所詮はひとり、数はこちらが上だ、このまま圧し潰す」
「……了解」
■
アズサは合宿所の奥、廊下の角で身を屈めてじっと待っていた。
廊下の奥から足音が響く、そしてその反響音に耳を澄ませ、廊下に寝そべる様にして身を乗り出すと、じっとその姿が現れるのを待ち続ける。アリウス生徒は廊下の曲がり角に来ると、壁に背を預け、頭だけを覗かせた。
瞬間、その頭部をアズサの銃撃が捉える。廊下に銃声が鳴り響いた。
すぐ横で廊下を覗き込んだ生徒が頭を弾かれ、地面に転がる。それを見た後続の生徒達は一斉に廊下へと飛び出し、射撃を敢行。それを読んでいたアズサは、即座に顔を引っ込め壁に身を預ける。壁に幾つもの弾痕が刻まれ、くぐもった銃声が間近で木霊した。そんな中でもアズサは冷静に、愛銃の弾倉を目視し残弾を確認する。背嚢に手を這わせ、残りの弾倉を逐一確認しながら銃声が止むのをじっと待つ。視界に弾数や弾倉の残りが表示されていても、腕が勝手に動く。殆ど、習慣の様なものだった。
暫くすると銃声が止み、アリウスの生徒達が前進を再開した。それをアズサは、先生のサポートにより壁越しに確認。二度、三度、息を吐き出すと、懐からスタングレネードを取り出す。レバーを握り締め、安全ピンを引き抜き、レバーを固定したまま時を待つ。視界に表示されるレバーロックの文字、起爆時間まで表示される事の、何と便利な事か。そしてアリウスの生徒達が廊下の半ばに達した瞬間、腕だけを露出させ、床を滑らせるようにしてスタングレネードを投擲した。
「ッ、グレネ――」
暗闇の中、何かが投擲された事に気付いた生徒が叫ぶ。しかし、それが届くよりも早く、スタングレネードは炸裂した。強烈な閃光、そして臓物を揺さぶる様な爆音。室内で反響したそれはアリウスの生徒達の足をその場に縫い付け、ぐらりと意識が一瞬遠のいた。甲高い音が耳で鳴り響き、視界が揺れる。
アズサは顔を背けて耳を塞ぎ、爆発に備えていた為、即座に動く事が出来た。顔を覗かせ、銃を構えたアズサは、足を止め耳を塞ぎながらよろめくアリウスの生徒達を目視する。銃を構える事も、逃げる事も出来ない彼女達に、アズサは淡々とした様子で引き金を絞った。
マズルフラッシュ、そして銃声。
数人の生徒が頭部を弾かれ、前側の生徒は足を狙われた。何発もの弾丸が薙ぎ払う様にアリウス生徒の足を捉え、銃声と悲鳴が廊下に木霊する。
「……これで、残りは二十人」
弾倉を丸々一つ撃ち切ったアズサは素早く起き上がり、逃走を再開する。何とかスタングレネードの衝撃から持ち直したアリウスは、逃走するアズサに銃口を向け、射撃。しかし放たれる弾丸は曲がり角の壁に着弾し、表面を削り取るのみ。
部隊の中程に居た隊長は倒れ伏し、呻き声を上げる隊員を見下ろしながら叫んだ。
「っ、ちょこまかと……被害報告!」
「ろ、六名負傷!」
「後続の部隊に回収させる、動ける者は追撃を続行!」
告げ、前方を指差し廊下を駆ける隊長。逃走しながらトラップや待ち伏せを駆使し、此方を的確に削って来る白洲アズサ。成程、確かにあの部隊出身なだけはある。彼女は、そんな事を考えた。
単独でありながら小規模な戦闘を繰り返し、僅かな物資、劣勢であっても一定の戦果を挙げる。ゲリラ戦の名手、正に、あの女の教えを受け継いでいるではないか。
しかし、それでも尚、抗う事の出来ない戦力差がある。如何に彼奴が優秀な兵士であっても、限界は存在する。既に後続部隊は合流し、増援も確約されている。そして合宿所の地図は既に入手しており、この先には大広間と、体育館しかない事を彼女は知っていた。
自ら袋小路に駆け込んでいるのか、或いはまだ策があるのか。
どちらにせよ、諸共食い破る道しかアリウスにはない。そう考え、廊下を走破した彼女達の前に――堂々と姿を晒すアズサが現れた。
「っ、何……?」
思わず立ち止まり、困惑を見せる隊長。彼女に続き踏み込んだ他の生徒も、唐突なそれに困惑し足を止める。銃を構えながらも、隊長は視線を左右に散し、警戒を見せる。そんな彼女に応じるが如く、大広間の影から姿を現す人物がひとり。
「――成程、大分減りましたね、流石はアズサちゃん、お疲れさまでした」
「うん、それなりに頑張った」
柱の影から姿を現したのは――補習授業部、浦和ハナコ。
不敵な笑みを浮かべながら現れた彼女は、銃を構える事もなくアリウスの姿を視線でなぞり、吐息を零す。
「残りは二十人、と云った所でしょうか?」
「あぁ、他の小隊は全滅させた、後はこの部隊だけだ」
「想定よりもずっと少ない、これ位ならば対処は可能でしょう」
「……おい」
隊長は軽口を叩き合う二人を前に踏み出し、声を上げる。
「スパイ、ターゲットは何処に匿った?」
「ターゲット……桐藤ナギサの事か、云うと思う?」
「早いか遅いかの違いに過ぎない、既にこの建物は包囲されている――全ては無意味だ、増員の到着も、間もなくだろう」
「増員……?」
「あぁ」
その言葉に、アズサの視線が険しさを帯びた。
「――『スクワッド』か」
「……言葉を返すが、云うと思うか?」
告げ、隊長は引き金に指を掛ける。
「口を割らないのならば、割れる様にするまでだ――射撃開始!」
「っ……!」
その合図と共に、二人目掛けて一斉にマズルフラッシュが瞬く。銃声と跳弾音、二人は弾かれた様に身を翻し、物陰に身を隠す。そして牽制程度の応射を交えながら、奥へ奥へと撤退して行った。柱に身を隠し乍らその背中を見た隊長は、腕を二度、三度前方へ傾けながら口を開く。
「最後の悪あがきだ、この先は体育館しかない――そこで仕留めるぞ」
「了解」
敵がひとりからふたりに増えた――ただ、それだけの事。
浦和ハナコ、大まかなデータは既に掴んでいる。大層な経歴を持ってはいるが、ティーパーティーでもなければどこの所属という訳でもない。所詮はお勉強だけのトリニティ生、相手に白洲アズサが組していようと問題など無い。
そう信じ、体育館へと踏み込むアリウス。一歩、二歩進み、暗闇に照らされたその足元が、青で覆われている事に気付く。
「――? ブルーシート……?」
がさりと、音が鳴った。見下ろせば床一面に広がるブルーシート。しかし、それに疑問を抱くよりも早く、視線を奪うものがあった。
正面、体育館中央――そこで待ち受ける、補習授業部。
「……っ!?」
「やぁ――夜分遅くに、随分と物騒だね?」
体育館は、千人以上の生徒を収納出来るだけのスペースがある。その真ん中で、月明かりに照らされながら佇む異様な雰囲気の大人。真新しい白い制服を身に纏い、アリウスを直視する存在。そんな彼を挟むようにして待ち受ける、四人の生徒。
白洲アズサ、浦和ハナコ、阿慈谷ヒフミ、下江コハル――そして、シャーレの先生。
アリウスと補習授業部、その視線が交差する。知らず知らずのうちに、隊長は銃のグリップを強く握り締めていた。
「シャーレの、先生」
「あぁ、初めまして、かな」
「――成程、逃走ではなく、待ち伏せか」
呟き、隊長は耳元のインカムを叩く。視線を体育館に散らせば、ボールボックスに跳び箱、ゴールネットなど、体育用品に鉄板が貼り付けられ、即席の弾避け障害物として配置されていた。
最初から、彼女達は此処でアリウスを迎撃するつもりであったのだ。
その用意周到さに顔を顰めながらも、彼女はそっとインカムに向かって告げる。
「……
『――了解』
素早く端末をポケットの中で操作し、必要な情報を送信。後はハンドサインで部隊を散し、補習授業部の前に広く展開する。第一陣として此処に突入できた人員は二十人、対し相手は戦力外の先生を除き四人。これが単なる不良集団であれば対処も出来たであろう、しかしアリウスは幼少より訓練を積まされた兵士である。アズサの様な才ある者と比較すれば、一歩も二歩も劣るが、そこらの生徒には負けないだけの地力と経験がある。
「たった四人で挑むつもりか、先生、我々アリウスに」
「……君がどこまで知っているかは分からないけれど――逆に云わせて貰おう」
隊長の言葉に、先生は顔色一つ変えず徐にタブレットを叩く。
瞬間、青白い光と共にアズサ以外の補習授業部、そのヘイローが輝きを放った。暗闇の中で放たれたそれは眩く、アリウスは思わず目を細める。
その青い光の中で、先生は胸を張り、真っ直ぐアリウスを見据えたまま――告げる。
「――その程度で私に勝てるつもりか、
「……ッ!?」
それは、絶対なる自負。
自分達が負ける筈がないという自信、確信。それが自身の指揮や能力に対するものではなく、左右に並んだ生徒達に対する信頼であると、彼女は悟った。そして、補習授業部の生徒達もまた、同じ分だけ、同じ量の信頼と自信を先生に向けている。
先生と一緒なら、勝てる。
生徒と一緒なら、勝てる。
互いの信頼が目に見える形で繋がり、放たれる重圧が、十倍にも、二十倍にも増して感じられた。
先生のそれは、アリウスの生徒に対して放たれたものではない。その奥に居る黒幕――アビドスにて対峙した、あの紅き婦人に対してのものだ。しかし、その余波でもアリウスの士気を挫くには十分な代物だった。
向けられる眼光に、強い圧力。けれどアリウスの生徒達はそれに怯みはすれど、退く事はない。寧ろ腹を決め、強く睨み返す。
何故ならば――彼女達にとって、命令は絶対だから。そこに自身の意思は存在しない、上から「やれ」と云われてしまえば、やるしかない。勝てるかどうかなど二の次だ。
アリウスに、「やれなかった」は存在しても、「やらなかった」は存在しないのだから。
「せ、先生、いつでもいけます!」
「うん、お前たちはもう、逃げられない」
「ふふっ、仕上げといきましょうか♡」
「え、エリートの力、見せてやるんだからっ!」
意気込み、愛銃を構えながら告げる補習授業部の面々。
先生は頷き、タブレットを抱えたまま口を開いた。
「ヒフミッ!」
「……はいっ!」
名を呼ばれたヒフミは拳を突き上げ、左右に並ぶ仲間達を一瞥する。
アズサはいつも通り、飄々とした態度で頷き。
ハナコは笑みを浮かべながら、信頼を込めて頷き。
コハルは不安に顔を顰めながらも、勇気を持って頷いた。
そんな彼女達の態度に、ヒフミもまた、強い意思を込めて頷く。
突き上げた拳を見上げ、ヒフミは腹の底から、全力を振り絞って叫んだ。
「――補習授業部、出撃ですッ!」
「おーッ!」
夜空に響く、補習授業部の声。
此処に、トリニティと、仲間を守る為の戦いが始まった。
トリニティ防衛戦、開幕。
ず~っと平和な補習授業部の話を書いていたから、何だか懐かしいこの感覚、アビドスの頃は良く二、三話で戦闘が挟まっていましたわ~、懐かしいですわ~。そして刻一刻と先生の見せ場が迫っておりますの、まじで楽しみ過ぎてキーを叩く指が止まりませんわ。早く、早く書きたい、魅せてくれ、先生のその、一瞬の輝きを……!
んほ~、先生の格好良いところ見たいですわ~ッ! 血塗れで信念を貫く大人は素敵ですわ~ッ! 最高ですわ~ッ! 皆ッ、先生がサイッコーに輝く瞬間を見ていてくれッ……! 人間の、命の輝きを……ッ!
しかし皆さんナギサさんの事好きですわね~、因みに彼女にはまだまだ困難が待ち受けていますし、ぶっちゃけ此処からがスタートラインみたいな所があるので……まぁ、なんですの、がんば!
うぅ、ナギサ……先生にデロデロに甘やかされて好意を示されて信頼を寄せ始めて最終的に依存してから先生がミサイルでぶちころがされる所中継でみてて……。普段中々泣きそうにない子が泣くからこそ、希少価値が高まるんでしてよぉ~!?
それにしてもブルアカのメンテが長いですわ~。
ブルアカのデイリーやってから小説投稿しようと思っていたのに、こんな時間に投稿出来てしまいましたわ~。はやくガチャひきたーい。カヨコぉ~、カヨコォッ、カヨコォォオオッ! 待っていてね、エデン条約編後編ではちゃんと便利屋も出してあげるからね。だから傍で先生が血だまりに沈むとこちゃんとみてて……。