「ただいま」
「おかえり、シロコ先輩――うわっ!? 何!? そのおんぶしているの誰!?」
「わぁ、シロコちゃんが大人を拉致してきました!」
「拉致!? もしかして死体!? シロコ先輩、ついにヤっちゃったんですか……!?」
「皆落ち着いて、バレなきゃ犯罪じゃないわ! 死体を隠す場所を探すわよ、体育倉庫にシャベルがあるから、それで――」
「………」
アビドス高等学校、その一室。先生を背負ったまま校内へと入ったシロコは、いつも通り対策委員会の部室に足を踏み入れ、同時に掛けられた心無い言葉の数々に微妙な表情を浮かべていた。
普段どんな風に見られているのか心配になりつつ、「あぁ、此方でも変わらないのだなぁ」と少しだけ安堵した先生。
如何にも文芸部室と云った部屋の中には、ホワイトボードと長机、スチール棚にぎっしり詰まったファイルが並んでいた。時折、テーブルの上に見える弾薬と銃器が物騒ではあるものの、キヴォトスでは一般的な風景であろう。
部屋の中に居たのは三人、黒髪赤眼鏡の少女と、猫耳にツインテールの少女、そして最後に明るい髪に笑顔を張り付けた、胸部装甲が「デッッッ!」な少女。先生はそれらのメンバーを横目に、小さく手を挙げて見せた。
「い、生きている、生きています……」
「し、死体が喋った!?」
「いや……普通に生きている大人だから、うちの学校に用があるって云われて」
そう云いながらシロコが先生を下ろす。暫くシロコの背中で休んだ為――そしてアロマセラピーによって精神力が回復した為――先生は少しよろけながらも、自分の足で確りと立つ事が出来ていた。
「えっ、死体では、なかったのですか……?」
「拉致じゃなくて、お客さん?」
「そうみたい」
皆が皆、顔を見合わせ、先生を見つめる。その中にはどこか訝しむ目もあった、当然だろう、突然自分たちの学校にやってきた大人の男性。彼女達の状況を考えれば警戒するのは当然と言える。
分かっていた事だが、嘗て共に戦った仲間から送られる心無い視線に、少しだけ胸が痛んだ。
「お客さんなのは分かったけれど、一体誰なの?」
「……えっと、私の汗の匂いが好きな大人のひと」
「……?」
瞬間、全員の頭上に疑問符が浮かんだ。
シロコの汗が好きな――大人の人?
「シロコ、シロコさん、それだと誤解を与えてしまいます、まるで私が汗で興奮する変態みたいに聞こえちゃうでしょう」
「……違うの?」
違わないけれど。
先生はその言葉を全力で飲み込んだ。今、此処でそんな事を口にすれば疑いが深まるのは火を見るよりも明らか。シロコの言に疑問符を浮かべていた生徒も面々ではあるが、突拍子が無く、尚且つ彼女の性格を良く知っているからだろう。冗談か悪ふざけの類だと流し、金髪の温和な生徒――ノノミが一つ、手を叩く事で話を打ち切った。
「まぁ、それは置いておいて、お客様がいらっしゃるなんて、とっても久々ですね!」
「そ、それもそうですね……でも来客の予定ってありましたっけ?」
「んんッ! えぇと、私はキヴォトス連邦捜査部シャーレの顧問です、此方のアビドス高等学校から手紙を頂き、出張して参りました――よろしくね」
先生はここぞとばかりに大人の威厳を発揮し、そう云って自身の腕章と、普段はポケットに入れたままにしているIDカードを差し出した。シャーレの管理を一手に任されている先生だけが持つ、連邦捜査部シャーレ顧問の証明である。
それを覗き込んだ生徒達は、一様に驚き、次いで両手を上げて歓声を上げた。
「……え、ええっ! まさか!?」
「連邦捜査部シャーレの先生!?」
「わぁ、支援要請が受理されたのですね! よかったですね、アヤネちゃん!」
「はい! これで……弾薬や補給品の援助が受けられます!」
手を取り合い、満面の笑みで喜び合うアビドス。それだけ彼女達の戦いが孤独で、辛く、苦しいものだったのだろう。見れば部室の中にあるコンテナや弾薬箱には、もう殆ど内容物が残っていなかった。本当にギリギリの戦いだったのだ、赤縁の眼鏡を掛けた少女――アヤネの目尻には涙すら浮かんでいた。
「あ、早くホシノ先輩にも知らせてあげないと……あれ、ホシノ先輩は?」
「委員長は隣の部屋でお昼寝中、私が起こしてくるから」
「お願いします、セリカちゃん!」
セリカと呼ばれた猫耳を生やした少女が小走りで部室を後にし、アヤネが先生に向き直る。改めてメンバーの紹介と、救援に対するお礼を告げようとした所で――。
「っ、銃声!?」
不意に、校舎の外から甲高い発砲音が鳴り響いた。
咄嗟に傍に居たノノミが先生の頭を抱えて屈み、シロコが愛銃を抜き放って窓に身を寄せる。そっと外を覗き見れば、校門の向こう側から威嚇射撃のつもりか、空に向かって銃撃を行うヘルメットを被った集団の姿が見えた。
窓から頭だけを覗かせていたシロコの表情が露骨に歪む。
「ヒャッハー!」
「今度こそ終わりにしてやるぞ! 奴らは既に弾薬の補給すら受けられていない! 押しまくれ! 数で押し続けろ! 学校の占領までもう少しだッ! あッ! 校舎には余り撃ち込むなよ! 私達の住処になるんだからなッ!」
かなりの人数の不良達が空に向かって銃を乱射しながら、学校の校門に殺到している。銃器を持った者から土嚢、弾薬箱を担ぐ者まで。本気で校舎を攻略するつもりなのだろう、ドローンを扱うアヤネが端末を確認し、悲鳴のような声を上げた。
「わわっ、武装集団が学校に……! あれは、カタカタヘルメット団です!」
「あいつら……性懲りもなく!」
シロコが愛銃のコッキングレバーを引くと同時、セリカが何者かを抱え部室に飛び込んでくる。その肩には彼女の愛銃がぶら下がっており、この短時間に戦闘準備を終えた事が伺えた。
「ホシノ先輩連れて来たよ! ほら先輩っ、寝ぼけていないで、起きて!」
「むにゃ……まだ起きる時間じゃないよぉ」
腕の中で抱えられた小柄なピンク髪の少女――ホシノが呻きながら呟く。その目はしょぼしょぼと萎んでおり、四肢はだらんと脱力していた。アヤネが傍に駆け寄って声を張り、セリカが必死に揺り起こすも一向に自力で立とうとしない。
「ホシノ先輩! 襲撃、襲撃です! ヘルメット団が攻めて来たんですよ!」
「んぐ……そりゃあ、大変だねぇ……」
「先輩、しっかりして! 出動だよ、装備を持って学校を守らないとっ!」
「――私に任せて」
必死に声を掛けるセリカとアヤネを前に先生は静かに庇ってくれたノノミに礼を告げ、一歩踏み出す。一体何をする気だと訝し気に見るセリカと、先生ならば或いは、と身を引くアヤネ。
先生は眠るホシノの傍に屈み込むと、小さく息を吸い込み――囁いた。
「
「――んひぃ!?」
唐突な
「んへッ、誰!? 何、何なの!?」
「やぁ、おはようホシノ、私はシャーレの顧問、
「へ、シャーレ……?」
どこか呆然とするホシノに、また銃声が響き渡る。あいつら弾薬を無限に持っているのか? と訝しむ先生を前に、アヤネはよろよろと立ち上がったホシノに詰め寄った。
「と、兎に角、ヘルメット団が攻めて来たんです! 直ぐ迎撃に出ないと……!」
「すぐに出るよ、先生のお陰で以降弾薬の補給は受けられそうだし、ある分だけ使い切る」
「はーい、皆で出撃です☆」
全員が愛銃を手に取り、部室を後にする。ホシノはそんな彼女達の様子を見て、静かに溜息を吐き出した。
「うへぇ……良く分からないけれど、何となく状況は理解したよ」
「うん、流石ホシノだ」
先生が笑顔でそう云うと、どこか恨めしそうな目でホシノが先生を見た。仕方ないのだ、以前も彼女が眠そうにぐずっていた時、これが一番効果的だったのだから。なので私は悪くない、先生は己に強くそう言い聞かせた。
「私はここからオペレートしますので、先生はサポートをお願いします!」
「分かった、任せて」
「……じゃあ、私も出撃してくるね」
皆の後に続き、ホシノも愛銃のセミオートショットガン、『Eye of Horus』を手に取って部室の扉を開く。しかし、その扉を閉める寸前で彼女は背中越しに声を上げた。
「シャーレ顧問の先生、だっけ――」
「うん?」
先生が振り向き、同じように先生の方へと視線を寄越すホシノ。
その瞳は酷く冷たく――昏い色に輝いていた。
「――アヤネの事、お願いね? 先生なんだから、生徒は守ってよ」
「……あぁ、勿論」
数秒、二人の視線が交差する。
視線を反らさず、真っ直ぐ此方を見つめ返す先生の瞳に、ホシノは鋭かったソレをいつもの眠たげなものに戻した。
それから彼女は部室の扉をそっと締め、遅れて廊下を駆ける音が響く。
『――こちらシロコ、ヘルメット団を目視した』
『ちょ、思ったより多い!? 何でこんなにッ……!』
『わぁ、大人気ですね、私達~』
『ノノミ先輩!? そんな呑気な事云っている場合じゃないでしょう!?』
『うへー、本当に多いねぇ、おじさんも直ぐ合流するよ~』
端末越しに聞こえる生徒達の声。アヤネはテーブルの上に配置した操縦桿と操作盤を忙しなく動かしながら、
「えっと、ドローン偵察による敵性反応は、一、五、十、十五、二十……お、凡そ三十人!」
『そんなに居るの!?』
セリカが悲鳴を上げ、アヤネが厳しい表情を浮かべる。先生は誰にも分からぬよう目を細め、小さく悪態を吐いた。
――以前より、人数が多い。
『ん……この数だと弾薬、ギリギリかも』
『小隊規模かぁ、本気だね、向こうも』
『どうしましょう、このまま迎撃しますか?』
「――皆、聞いて欲しい」
先生は大きく息を吸い込むと、端末越しに声を張り、全員の注目を集め――告げた。
「私が戦術指揮を執る、従ってくれ」
一瞬、隣のアヤネを含めた皆の間に空白が生まれる。
この大人に指揮を任せる――それは、大丈夫なのか? 思考に上るのはその一点。
しかし、同時に連邦捜査部シャーレの評判はSNSや掲示板などで何度も目にした。何ならクロノススクールの報道部が、【Metube】で動画を上げていたのを思い出す。
内容は連邦生徒会長が特別に指名した大人が顧問を務める事、そしてその『先生』が彼のワカモの起こした騒動を見事収拾して見せた事。その評判は大抵良い方向のもので、この辺鄙なアビドスにも聞こえてくる程のもの。
だからこそ、一縷の望みを掛けて手紙を送ったのだ。蜘蛛の糸でも良い、この現状をどうにかしてくれる、誰かの手を求めて。
数千の学園が存在する中で、本当にアビドスに来てくれるなんて、少しも思わなかったけれど――
『――ん、件の騒動については聞いている、先生の指揮、私は信じたい』
『他の選択肢はないんでしょう!? なら、頼るしかないじゃない! 本当に頼んだわよ先生!? 失敗したら承知しないからッ!』
『分かりました、先生を信じます☆』
「せ、先生、お願いします!」
『おじさんも――まぁ、今は信じようかな』
全員が全員、思う所はあれど頷いて見せる。
先生はそれを確認し、深い感謝の念を抱きながら――自身の最大の武器である
「ありがとう――何、大丈夫さ、相手は高々三十人、十倍差ならまだしも、この程度は何でもない」
アヤネも入れてアビドスは五人。十倍には、あと二十人足りない。
その強気な発言に、隣に座っていたアヤネも呆気にとられる。しかし、先生にとっては本当に、何でもない様な戦闘なのだ、これは。
それを証明するように、先生の顔には薄らと笑みが張り付いていた。
だと云うのに、瞳だけは冷たく、鋭い。酷薄、と呼べる表情を浮かべる先生は静かに髪を掻き上げ、目線を落とした。
「――さて」
手に持ったシッテムの箱に、万が一の為に持参していた外部バッテリーを接続する。ボタンを押し込み起動を確認すると、画面上に蒼穹が躍った。
準備は整った、これから始まる――キヴォトスの命運を賭けた、最初の戦い。
「大事な一戦だ、大人の力、此処で証明して見せよう」
■
「アロナ」
『はい、先生! 状況を開始! オペレーティングシステム、戦術指揮モードを起動します!』
あの頃とは違う、溌剌とした声色が先生の脳内に響く。
同時に電子音を鳴らし、シッテムの箱、その液晶にアビドスの地形データが映し出される。更に一拍置いて、周辺に展開する敵性勢力の位置情報がぽつぽつと表示されはじめ、十秒も経過すれば校門周辺に陣取る不良達の配置が丸見えとなった。
この箱がある限り、地形・敵数・配置・
先生は表示されたコンソールに文字列を入力しながら、アビドスの生徒全員とシッテムの箱にリンクを確立させた。
「――今から全員の【ヘイロー】を介して敵の位置情報と詳細な指示を送る、ARやHUDの様なものだから副作用の心配はないよ、最初は驚くかもしれないけれど慣れて欲しい」
『え、ちょ、先生!? ヘイローを介して、って一体……!』
セリカが全員の言葉を代表して声を上げるも、先生の手は淀みなく動き続け、入力を終了した瞬間、アロナが両腕を突き上げデータリンクが完了した。
『データ解析完了、個別パターン承認、回路形成、先生から生徒へ、相互パス構築――完了! 情報転送開始します!』
アロナが勢いよく腕を振り下ろすと同時、先生を中心に蒼い光が周囲に弾ける。途端、アビドス高等学校の面々の頭上に浮かぶ輪――ヘイローが光り輝き、手足に小さな痺れが走った。
『――ッ!?』
全員の視界に走るノイズ、痛みはない。そして数度瞬きを終えればノイズも消え去り、周囲を見渡せば視界に赤い人型の輪郭が表示された。
――敵勢力であるカタカタヘルメット団の潜む場所だ、それが壁越しからでも視界にはっきりと表示されていた。
更に敵の構える銃から発射されるであろう弾丸の予測線、演算から導き出される遮蔽物の安全箇所と危険個所、現在の場所から射撃を行って命中する確率、手に持っている愛銃の残弾、残りの弾倉、立体化した周辺地形の3Dマップ、湿度や風の有無――それらの情報が視界に、直感的に分かり易い形で表示されている。
全員が一瞬、目がおかしくなったのかと擦るものの、表示は一切変化しない。
『せ、先生、これって……』
「私が戦術指揮を執っている間、有効なサポートだと思って欲しい、敵の位置情報はリアルタイムで更新されるから、殆どその場に居るものと思って貰って構わない、でも危険域や射線に関しての演算予測はあくまで予測、過信はしないでくれ」
そう、これが先生の持つ最大の武器であり、嘗てキヴォトスを裏切り、対峙して尚ごく少数の戦力で戦い続ける事が出来た秘策。
キヴォトスの行政制御権すら手中に収める事が出来る超高性能AI、アロナ――その演算機能と情報収集能力を用いたリアルタイム情報共有機能。そこに本来であれば不可能な、「ヘイローへの干渉」という反則染みた行為を【契約】によって行う、完全情報武装。先生の指揮能力も重なって凄まじい相乗効果を生み出すこれは、先生の持つ『大人のカード』によって実現されている。
――先生は嘗て、エデン条約のように、複数の学園が提携しシャーレと敵対した事を思い出した。辛く、苦しい、未来の記憶だ。先生にとっては思い出したくもない、運命の底。しかし、その災禍が無ければ己は、此処までの力も、決意も、手に入れる事は出来なかっただろう。
「――さて、敵の第一陣が突入準備を整えている、これを迎撃して出鼻を挫くよ」
それでも、自分は前に進む。今度こそと、その願いを胸に抱いて。
一瞬、過去に引き戻されそうになった意識を先生は強引に振り切った。
冷徹な思考で以てタブレットを操作しながら指示を出し、全員の視界にルートを表示させる。今、生徒たちの視界には床に浮かび上がる形で進行するべきルートが見えているだろう。
「ホシノ、シロコ、二人は正面玄関で待機、ノノミ、セリカ、二階から窓越しに支援射撃準備、上を抑えてしまえば足は鈍る、アヤネ、ドローンで全体を見て回復と補給をお願い」
「わ、分かりました!」
隣で、「これ、私必要ないんじゃ……」と戦慄していたアヤネは先生の言葉に慌ててドローンの操縦桿を握り、全員のサポートに回る。役割が逆転したが、元よりAI操作のドローンより、人力の方が行える支援の幅は広い。物資の運搬、治療薬の投与、弾薬の補給、万が一の救助――前線に出なくともドローンで行える仕事は山ほどある。
先生は画面に映る不良達の位置、動きを見ながら思考を巡らせた。不良達は威嚇行為をやめ、続々と校門前に集合している。散発的に突撃して来れば楽に対応出来たものを――集合を待って一気に雪崩れ込む腹積もりらしい。
土嚢を敷き詰め、一丁前に陣を構築しつつある敵情を見つめながら先生は口を開いた。
「……ホシノ、ひと当てしたい、行けるか?」
『うへ、何、先生もしかしておじさんに突撃しろって?』
「いや、最初に出て来る相手のヘイトを買ってくれたらそれ以上は望まないよ、ノノミとセリカのキルゾーンに誘い込みたい、纏まって来ると云っても三十人全員で突撃という事はないだろうし、前を止めれば後ろが詰まる……当然の事だけれどね」
『んー……ま、出来るけれどね、しょーがない、皆の為に頑張りますか』
■
中途半端な所で切って申し訳ない。結構迷ったのですが後半も入れると一万後半になってしまうので、自身の無力感に噎び泣きながら二つに分けました。ペロロ様が腹を切ってお詫び致します。
ハルカはね、もう本当ね、カワイイ。先生と朝ご飯を一緒に食べる事になって、不慣れな料理でごめんねって云うと、「わわわ私なんかが先生と一緒の食卓何て、しかも手料理!? わた、私、床で良いです、床が良いです!」、とか云って床に座りそうになるのを無理矢理膝の上にのっけて、手作りの料理を食べさせてあげるんだ。最初の内はあわあわしているのだけれど、動くと先生の邪魔になると思って呼吸と最低限の口を開ける動作以外、全部自重するんだ。勿論、料理の味なんか分からないし、冷汗で額が大変な事になる。その事を後で思い出して、「せ、先生の料理の味の感想も云えないなんて……し、死にます! 死んでお詫びしますッ!」と云って暴れるのを抱きしめて抑え込むんだ。暴れると先生が怪我をするかもしれないから、涙を流しながら過呼吸気味に先生の腕の中で必死に震えるハルカ、可愛いね。
御昼は一緒に観葉植物を育てる、先生はハルカに色々と教えて貰いながら――勿論最初は、「私が先生に、お、教えるなんて、そんな、恐れ多い……!」となっていたが、何度も何度も頼んでいる内に、段々先生に対して申し訳なくなって教えてくれる――植木鉢を揃え、ハルカの秘密基地から少しだけシャーレに雑草を移し、二人で少しずつ育つそれを眺めて一日を過ごすのだ。
シャーレに来て最初の内は何も出来ずオドオドして、せめて誰か悪い奴が来た時に盾にならなきゃとか思って愛銃を片手に扉の横で蹲って、そんな自分を気に掛けてくれる先生の行動に一喜一憂していたのだけれど、シャーレに通う回数が増えるにつれて段々とそんな日常に馴染んで来て、こんなに幸せで良いのだろうか? という気持ちと、これから良くない事が起こるかもしれない、という漠然とした不安に挟まれながら、けれど好きな人と一緒に穏やかな時間を過ごす事が余りにも心地よくて、少しずつ、本当に少しずつ笑えるようになって欲しい。
先生に可愛いって思って欲しくて、いつもは全然気にしていない髪の毛を、ちょっとした硝子越しに手櫛で直したり。先生が好きな紅茶の銘柄を記憶して、事務所に戻ったあとこっそり同じものを購入して飲んで、先生とお揃いだと微笑んだり。先生に美しいものを見せたくて、いつもは雑草ばかり摘んでいたのを、道端に咲く野花を不意に育てたりなんかして。私も頑張れば先生の隣に立っても笑われないような、こんな風に、ちょっとは誰かに気に掛けて貰えるような花になれるのかな、なんてすくすく育つ野花を見て考えたりして。
そして第一話の後書きに戻る。
ハルカにプレゼントする為に、ちょっとだけ値の張る植木鉢を買う為にお金を下ろしに来た先生。
その銀行にハルカが、便利屋68の活動資金と、個人的に「先生、いつもお世話になっています」というメッセージカード付きのお高いプレゼントを買う為に強盗に入り、先行制圧の為に爆弾を投げ入れた後――ぐちゃぐちゃになった先生の連邦制服と、植木鉢を買う為にメモしていたお店の住所、見覚えのある筆跡、焼け焦げたメモを見つけて「――せんせい?」となってほしい。
きっと爆発が起き、確かな結果に手ごたえを感じながら、この仕事が終わったら先生と一緒に少しだけ高い材料を買って、今度は私が料理を作ってあげるんだ――なんて思っていたんだ。そんな未来もう来ないのにね。可愛いねハルカ、素敵だよ。
あー、先生を幸せにして、その幸せを奪って幸せになりてぇ~。