「ぅ……ぐ、ぁ――」
燃える世界、崩れ落ちる景色。傷だらけの体に、吹き抜ける血生臭い風。
黒ずんだ銃は灰を被り、頬を流れる血か涙も分からないそれが、足元のアスファルトに落ちて滲んだ。痺れた指先で掴むグリップは軋み、肺は焼ける様に熱い。灼熱に炙られた空気は凄まじい熱を孕み、額には汗が珠のように浮かび上がる。
尤も、それが熱気によるものだけではないと、私は知っている。
これは夢だ――鮮烈で、残酷な夢。
自分なのに、自分ではない、誰かの夢。
「はッ、はぁ……あ、あはは、だい、丈夫だよ、先生――」
呟き、私は顔を上げる。燃え盛る世界の中で、何度斃れそうになっても、震える膝を叩いて、叫んで、歯を食い縛って。
骨が軋んだ、内臓が裏返る心地だった。
それでも、私は声を張る。焼け付いた喉で、必死に。
「私、まだまだ戦えるからッ……!」
擦り切れ、裂けた制服。密かに自慢だった白い羽は見る影もなく、血に染まったそれは元の純白を喪っている。何人倒したかも分からない、もしかしたら
足音がする――私から、大切な人を奪うとする足音が。
目を凝らせば、炎の向こう側から姿を現す白と青。純白を象り、
連邦生徒会――先生を
無感動に、無感情に、或いはそれを押し殺して。
私は大きく息を吸って、拳を握る。傷だらけの体に鞭打って、銃を握りながら地面を踏みしめる。
何十、何百、何千という弾丸を撃ち込まれようと。
何百、何千、何万という生徒と敵対しようと。
私は前を向く、立ち塞がる、彼女達に銃口を向け続ける。
連邦生徒会の狗が、私の前に立つ。
その銃口を此方に向けながら――淀んだ瞳を向けて来る。炎に照らされた彼女達の表情は見えない。強い光は、その分だけ濃い影を生む。けれど、光る眼光だけは隠しようがない。私は足元に転がった白を踏み躙り、口を開く。
「ははっ、何、そんな目で見ちゃって……? まるで、魔女を見る目みたいにさ――」
私の周りには――無数の生徒が転がっていた。
云って、思わず嗤う。
みたいに、などではない。事実、彼女達の敵として立ち、何人もの同胞を地面に打倒した己は魔女なのだろう。彼女達の瞳からは、戦慄と恐怖、そして憎悪が迸っている。それは、嘗て己が忌避した感情そのものだった。
――構うもんか。
吐き捨て、口元の血を拭った。手の甲にへばりついたそれを、乱雑に拭う。頭の中で残弾を数えながら、どうしようもなくなったら相手から奪うなり、素手で戦うなりすれば良い――なんて考えて。
そう、この場所から退くつもりはない。
この命が擦り切れる、その最後の瞬間まで。
「先生の隣に立てるなら、私は――お姫様になんて、なれなくて良い」
――私は、魔女で良い。
踏みしめ、目を細める。例えどれだけの生徒に忌み嫌われようと、例えどれだけの罵詈雑言と弾丸を吐き出されようと。私は、先生の味方で在り続けると決めた。
そう誓った。
約束した。
だから。
「――此処は、絶対に通さないよ」
告げ、手を伸ばす。彼女達を遮る様に。
自身の背後で斃れた――先生を守る為に。
燃え盛る炎が、その勢いを増す。連邦生徒会と私達を囲う様に火の粉を払い、地面を舐めていた。
世界は緋色と白、そして青に染まっている。空を見上げれば天蓋を覆う夜空が、矮小な自分達を見下ろしていた。
勝てる確率は如何程か。この戦いが終わった後に、自分に先生を連れて逃げるだけの力が残っているのか。そんな事は、分からない。ただ、何とかなる筈だと立ち向かう事は、余りにも無邪気だろうか? でも、それで構わないと思った。
この星々が瞬く夜は、私の希望だ。
太陽に寄り添う事の出来ない月にとっての。
愛銃を手に、私は一歩を踏み出す。
確かな想いと、決意を込めて。
対峙する彼女達を、その
「恋する乙女は――最強なんだから」
■
「………ぁ」
目が覚めた時、視界に映ったのは薄暗い天井だった。寝惚けていたのか、被っていたシーツは蹴飛ばされ、天井へと延びる自身の白い腕。それをゆっくりと引き戻し、彼女はか細い息を吐き出す。
以前使用していた邸宅とは別の、冷たくて暗い独房。トリニティ自治区、隔離塔地下にあるこの場所は、ティーパーティー管理下の行政室、及び部活動統括本部の置かれた本校舎裏手に存在し、厳重な警戒と監視下に在る。内装は至ってシンプルで、出入り口の扉には鉄柵が嵌め込まれ生活する上で最低限必要なものしか存在しない。
尤も、ヴァルキューレや矯正局にある様な剥き出しのコンクリートなどではないが、調度品と煌びやかな装飾で彩られた嘗ての家と比較すれば、余りにも窮屈な場所だった。冷たく、少し硬いベッドに横たわった彼女は、ぼうっと天井を見上げたまま呟く。
「……――また、この夢」
この場所に収容されてからというもの、そんな夢を良く見るようになった。場所は同じキヴォトスで、立場も大して変わらない。けれど自分の体験した事のない状況、言葉を発し、結末もまた異なる。夢を見る場面は大抵、辛かったり、苦しかったり、そんなシチュエーションばかりだった。ミカはシーツを握り締めながら蹲り、思わず乾いた笑みを零す。
「……ふふっ、私の、罪悪感でも煽りたいのかな……?」
トリニティを滅茶苦茶にして。
友人を裏切って。
先生に、取り返しのつかない怪我をさせて――。
「こういう時こそ……いつもみたいに、意識が無くなってしまえば良いのに――」
呟き、ミカはシーツに包まった。あの不規則な意識の消失は、大事な時に起こる癖に、自分のなって欲しいタイミングでは一向に起こる気配がない。何とも都合の悪い事だった。彼女はカサカサになった唇を指先で擦りながら、そんな事を思う。
リップクリームなんて気の利いたものは此処にはない。頬や手の肌も、随分と荒れてしまった。ヘアオイルだってないから髪も少しくすんで見える。でもそんな事はどうでも良く思える位に、今のミカの心は荒んでいた。
先生に関する事は、出来る限り情報を集めようと動いていた。食事は日に三度、それに三日に一度程、監査という名目で差し入れがある。それは同じパテル分派の生徒からのものであったり、ナギサからのものであったり――先生からのものも含まれていた。
その時にやって来る監視官や行政官に、先生の様子や容態を聞くのだ。ミカ自身がパテル分派の首長の為、大抵やって来る生徒は別の分派の生徒だが、時折先生の様子を教えてくれる生徒がちらほら居る。それが憐れみなのか、或いは誰かの指示なのかは分からない。でも大抵、そういう情報をくれるのは
目が覚めなかった時期は大変に焦った。更にそこから一時行方不明になったと聞き、慌てて扉をぶち破って脱走紛いの事もした。そのせいで警備が厳重になって、更に鉄柵も追加されてしまったが後悔はしていない。
最近は体調も回復傾向にあると聞いた。少し前に退院すると聞き及んだときは飛び上がって喜んだ。今はトリニティ自治区の客室棟で生活しているらしい。万が一の事を考慮して、救護騎士団の直ぐ出動できる場所に置いているんだとか。それは、ミカとしても幾分か安心出来る要素であった。先生を巻き込んでおいてどの口がとも思うが、先生には安心出来る場所に居て欲しいと思うから。
横たわりながら部屋を眺めていると、テーブルの上に置かれた小さな小箱が目に入った。外装はシンプルだが頑丈で、そこそこ値の張る逸品である。これはミカがパテル分派の生徒に無理を云って用意して貰ったものだった。
そっと手を伸ばし、その小箱を手に取る。
パテル分派の生徒からは、手紙などで現在のトリニティの情勢が送られてくる。偶に先生の事に関して書いてある事もあるが、大抵は派閥間の云々だ。自分が良い首長であったなどと微塵も思っていないけれど、存外に自身を悪く云う生徒が居ない事に驚いた。
ナギサからは、大抵ロールケーキが届く。偶には別のものを贈って欲しいと思うと、次回には味違いが届く。何でロールケーキ何だろうと思ったが、碌に甘味も食べられない環境だと存外にそれも悪くなかった。
先生からは、手紙と様々な物品。御菓子だったり、日用品だったり、色々。最初の差し入れは、手紙と銀色の綺麗なチェーンだった。
「……せんせ」
優しい手つきで以て小箱を開ける。すると、中にはチェーンに通された指輪が顔を覗かせた。先生から貰った、信頼の証。あの時託されたそれを、ミカは今も手放せずに居た。
先生は手紙で
「――逢いたい、なぁ……」
声はか細く、震えていた。
摘まんだ指輪を握りしめ、ミカは再びベッドに横たわる。その両目はじっと手の中のそれを見つめ、ややあって、その瞼はゆっくりと落ちた。
そうして彼女は夢を見る。
自分ではない、ミカの夢を。
■
「ふぅ~……」
ミカの面会申請書を出した帰り道。段々と見慣れて来たトリニティ校舎の廊下を歩きながら、先生は静かに首を回した。時刻は昼を少し過ぎた頃、時期は既に夏休みとなった為生徒達の姿は疎らだ。本校舎に詰めているのは行政官や本部の生徒、それに警備の正義実現委員会。すれ違う生徒もおらず、閑散とした廊下を歩く先生はひとり呟く。
「……流石に、提出して直ぐにって訳にはいかないよね」
ミカとの面会申請書を提出し、受理して貰ったのがつい先程。差し入れは勿論、面会するにも準備や審議が入る。ある程度の特権が約束されているシャーレではあるが、それでも郷に入っては郷に従え。不必要な火種を撒き散らす事は避け、正規の手段を踏めるのであれば踏むに越した事はない。
スムーズに認可が下りれば、面会は一週間以内に実現するらしい。それまでは今まで通り、手紙を送るしかないだろう。
そんな事を考えながら歩いていると、ふと端末が振動した事に気付いた。懐から取り出し画面を覗き込めばモモトークの着信、発信者はハナコ。内容は、『ちゃんと受け取って貰えましたか?』というもの。先生は素早く画面をタップし、『大丈夫だったよ、一週間後には結果が出るって』と返信した。
本当ならばハナコが代理として提出する予定だったが、無理を云って先生自身が提出に出向いたという背景があった。流石にいつまでも動かないのは、それはそれで不健康だと云い包めて一緒に同行するという生徒達を押し留め部屋を出たのだ。
ここ最近、先生の周りには誰かしら生徒が常に控えている状態だった。その為、気分転換という側面もある。
あの爆発以降、何かと近しい生徒達が不安げな視線を向けて来る事が多くなったが――力の入らなくなった左手を握り締めながら、先生は苦笑を零す。
「流石に過保護すぎる気がするけれど……私の失態だな、これは」
自分がもっと上手く立ち回れていれば、彼女達を不安がらせる事もなかっただろう。故に先生は、彼女達の行動の大半を受け入れるつもりであった。流石に、業務や私生活に差し支えるのならば少し考えなくてはならないが。
「……ん?」
ふと、廊下の向こう側から声が響いた。云い争う、というよりはどこか威圧的で、警戒するような声だ。見れば正義実現委員会の黒い制服がちらりと顔を覗かせ、それに囲まれた一般生徒らしき影が二つ。
「此方に入って下さい、抵抗は無駄ですよ」
「きゃっ!」
「くっ……!」
背中を押され、正義実現委員会の本部へと入って行く姿。背後に立つのは正義実現委員会のマシロ、そして今しがた連行されて行ったのは――。
「アズサに……ヒフミ?」
■
「マシロ」
「――お疲れ様です、ハスミ先輩」
正義実現委員会、本部。
デスクの前で待機していたハスミに目を向け、マシロはその場で姿勢を正す。横合いには今しがた拘束された二名の生徒――ヒフミとアズサが控えている。ヒフミはどこか不安げな表情で、アズサは如何にも不満と云った表情を隠さない。
「一先ず、報告を」
「はい、現在把握している限りですと、被害は正義実現委員会のメンバー三十名余りが重軽傷、東側の学園広場が半壊、第十二校舎が全壊、それから――」
「……ありがとうございます、詳細な被害については長くなりそうなので、後ほど紙面で」
言葉に耳を傾けていたハスミは、指先で自身の額を押し込む。余りの被害の大きさに苦悩しているのだ。メンバーの負傷は兎も角――いや、それでも想定外の負傷者数だが――学園広場半壊? 更に校舎が全壊? ハスミは部屋の片隅に押し込まれた二人を一瞥し問いかける。
「因みに、それらはこの二人による被害の規模で間違いないのですよね? 武装集団や大型の何かと戦った訳ではなく?」
「はい、まるで
「そうでしたか……はぁ――」
溜息を零し、ハスミは目を伏せる。びくりと、ヒフミの肩が震えるのが分かった。ハスミは数秒程痛む頭を指先で解し、改めて今回の主犯である二人と向き直る。
「まさか堂々と学園の戦車を盗み出すとは……復興も大方片付いて来たとは云え、未だ警戒態勢を解いていないトリニティでこの様な――お二人共思っていた以上に大胆な所があるのですね」
「い、いえっ、その、ぬ、盗んだ訳ではありません! ちょっとだけ借りて、また元に戻しておこうかなって……」
「世間ではそれを、窃盗と呼ぶのですよ……阿慈谷ヒフミさん、白洲アズサさん」
「……ふん」
「……あぅ」
その言葉にヒフミは意気消沈し、アズサは鼻を鳴らす。
「何故こんな時期にこの様な事を仕出かしたのかは理解しかねますが、予め決められたものは、きちんと守らねばなりません、規則であれ何であれ、それを破れば罰則が科されます」
「そ、その、こんな時期だからこそ、えっと、何か明るい出来事を……と、思いまして――」
「……それで、戦車を盗んで電撃戦ですか?」
「ごっ、誤解なんですぅ……!」
もしトリニティに明るい話題を提供したくてこんな大事を仕出かしたというのであれば、彼女の精神を疑ってしまう。ただでさえ復興作業で様々な部署が忙しく動いているというのに、校舎全壊に広場半壊など、また業務が増える事になるだろう。その事を思い、ハスミはどこか遠い眼をした。
「はぁ……兎角、お二人の処遇について話し合う必要がありますので、そこで大人しく待っていて下さい」
告げ、ハスミはマシロを連れてその場を離れる。二人は他の正義実現委員会のメンバーに連れられ、本部にある一時拘束房へと押し込まれた。蹈鞴を踏み、部屋の床に転がった二人、背後で音を立てて扉が締め切られる。
房の中は薄暗く、頭上に薄らと電灯が幾つか在るだけ。両手を拘束されている為、もぞもぞと蠢きながら上体を起こしたヒフミは、鉄柵と暗闇に覆われた周囲を見渡しながら震えた声を漏らした。
「あ、あう……なんだか物凄く誤解されちゃった気が……」
「でも惜しかったよ、ヒフミ、最後の狙撃手の待ち伏せにさえ気付いていれば、まだまだ立ち回れた筈」
「あ、アズサちゃん……いえ、そうではなくて、そっ、そもそも、どうして正義実現委員会を攻撃したのですか? 大人しく投降した方が――」
「追いかけて来たから反撃しただけ、それにヒフミが戦車を上手く操縦してくれたお陰で、かなりの数を倒す事が出来た――特にあの、急加速後のコーナードリフト、あれは凄かった、誰にでも出来る動きじゃない、履帯ドリフトなんて初めて見た」
「あ、あれは操縦したっていうより、適当にあちこち触っていたら動いちゃったってだけで……あ、あうぅ……」
アズサのどこまでも超然とした姿勢に、ヒフミは戸惑いを隠せない。そもそも、ヒフミとしては戦うつもりなど毛頭なかったのだ。戦車を少しの間拝借する為に倉庫に侵入して、戦車に乗り込み脱出するまでは良かった。
しかし、最後に運悪く正義実現委員会の警邏に見つかり、銃声と共にデッドヒート。気付けば正義実現委員会の大群に追われ、迫る弾丸にアズサがキューポラ部分に腰掛け、応射を開始。ヒフミも訳も分からず戦車を滅多矢鱈に動かし、迫る爆弾と弾頭をドリフト、跳躍、片輪走行で回避し、最後の最後に対物ライフルによる狙撃によって履帯を切断され、敢え無く拘束されるまで暴れに暴れた。
しかし、残念ながらヒフミは夢中になって逃げ惑っていた意識しかないので、自身がどれ程の被害を生んだのかを理解していない。その為ヒフミは、拘束された両手で頭を抱え、蒼褪めた表情で呟く。
「ど、どうしましょう……!? このままだと戦車を勝手に盗んで、校内を爆走した挙句に正義実現委員会のメンバーを何人も戦闘不能にした、ただのトンデモない悪党になっちゃいますよ……!?」
「? それで何も間違っていない」
「間違っているんですよぉ! うぅ、こ、こんな筈じゃなかったのにぃ……ま、また先生に御迷惑を……! まだ体調だって万全じゃないのに……」
「ふむ」
何やら切迫した表情で震えるヒフミに、アズサは首を傾げる。しかし、捕まってしまったのなら仕方がない。アズサは地面に座り込んだまま注意深く周囲を観察する。脱出出来るのならばそれに越したことはないが――残念ながらこの独房に逃げ出せるような箇所、要素は存在しない。流石正義実現委員会と云うべきか、アズサは肩を竦めてこれからの事に想いを馳せる。
「さて、これからどうなるのか……爪でも剥がされるのかな? ヒフミ、拷問に耐える訓練はしてある?」
「そんな訓練はしていませんし、したくもありません……それに正義実現委員会の方々は拷問とかはしないと思います、多分……」
「あの委員長も? あ、いや、あれは拷問というより処刑か――」
「つ、ツルギさんの事は良く分かりませんが、流石に同じ学園の生徒に対して、そんな事は……」
「聞いた噂だと、もう何人も駄目になったらしい」
「あ、あうぅ……確かにその噂は、私も耳にした事が――」
アズサの言葉に、ヒフミの震えが加速する。正義実現委員会の委員長――ツルギ。彼女に関しての噂は、本当に恐ろしいものばかりだった。不良を百人、素手で叩き伏せたとか、トリニティに仇為す生徒を問い詰めて精神崩壊させたとか、海に沈めたとか手足を全部逆に圧し折ってオブジェクトにしたとか――。
まさか自分もその仲間入りを果たすのだろうか……? そう考えた途端、ヒフミは自身の未来が真っ暗な闇に覆われたような気がした。
「こ、こうなったら、全部正直に話して許して貰うしか……!」
なりふり構っている場合ではない。そもそも隠すような事ではないのだ、こうなったら全てを正直に吐露し、許しを請う他ないだろう。そう決断し、顔を上げたヒフミ。
そんな彼女の耳に、鋼鉄製の扉が重々しく開かれる音が届いた。びくりと肩を震わせ恐る恐る振り返る。半ば開いた扉、差し込む光――そして、それに覆われながら中を覗き込む一つの影。
彼は床に座り込むアズサとヒフミを見下ろし、どこか戸惑った様な表情で口を開いた。
「……何しているの、二人共?」
「っ、せ、先生~ッ!」
メグに暖めて貰いたいですわ~……。
あの腕白で考えなしで、けれど自身の好きな事に愚直で快活な笑顔に包まれると何も云えなくなって、仕方ないなって寄り添う先生の姿が見たいですわ~。
一緒に山で温泉を掘りに行って欲しいですわ~……。「こっちから温泉の気配がするよ! こっちこっち! 先生急いでっ!」って先生の腕を引っ張りながらズンズン進む輝く笑顔の彼女が目に浮かびますわ~……。枝とか葉とかガン無視して突き進んで、腕を引っ張られる先生の服とか髪に葉っぱや小枝が絡まって、「着いた~!」って喜ぶメグが万歳して、「先生どうっ!? 絶好の温泉スポット!」って振り向いて、何か凄いボロボロになっている先生に気付いて、「先生どうしたの!?」って悪気なく驚くんですわ~……。メグが引っ張ったからですわ~、でも先生は何も云わずに笑顔で何でもないよって立ち直るんですわ~。大人ですわ~。
メグと一緒の温泉に入って全身傷だらけの体を晒して欲しいけれど、先生はきっと一緒に入ってくれないんですわ。男女の仲がね、生徒と先生がね、とか色々云って回避しようとするんですわ~。それで「そう、なの?」って引き下がっても良いし、「私、難しい事分かんない!」って云って笑顔で先生の衣服を剥ぐ展開でも、どちらでも良いのですわ~! 服を剥ぐ方の展開だったら、衣服の下に刻まれた無数の傷痕に気付いて硬直して、先生がどこか申し訳なさそうに顔を
後、あの頭の全てが温泉で出来ている彼女の炎に包まれて、先生の皮膚がドロドロに溶けていく様を見せてあげたいですわ~……。何かの間違いで火炎放射器の炎が先生に燃え移って欲しいですわ~。先生が炎に塗れて地面を転がる中、何をすれば良いのか、どうすれば良いのか分からなくて、両手を先生に伸ばしながら右往左往するメグの姿が見たいのですわ~……。
ゴリゴリ君のアイスが硬くて食べられないから、火炎放射器で炙る彼女ですが、何かの間違いで水、水かけなきゃ……そ、そうだっ、燃料タンクのこれも水だよね!? とか云ってぶっかけて更に重症にならねぇかなぁ~……。
その事がトラウマになって炎を見る事も、使う事も怯えるようになった彼女に、火傷痕の残る顔を晒しながら先生には莞爾として笑って欲しいですわ~……。炎を見る度にひゅっと喉を引き攣らせて、怯えながら縮こまるメグちゃん可愛いね……生徒にこんなトラウマ残すとか先生って奴最低だな。もう二度と、先生と温泉入れないねぇ。は? 一緒に温泉? エッチなのは駄目だが? 死刑だが? 先生が死刑!? エッチなのは駄目! 死刑ッ!